説明

可変絞り形静圧軸受

【課題】可動物体32の傾きを防止して、ポケット2aの圧力に対応する所定の絞り比に確実に設定可能な可変絞り形静圧軸受を提供する。
【解決手段】流体の流量を絞って静圧軸受ポケット2aに流入させる可変絞り3を、流体供給室3aと流体排出室3bの間を可動物体32で仕切る。流体排出室3bの端面の中央部にポケット2aに連通する流出口31bを備え、その外周に流体貯留溝31cと第1排出溝31dと第2排出溝31eを配置した構造とする。可動物体32の端面32eの第1排出溝31dと第2排出溝31eの間に対向する部位に窪み32a、32a、32aを備える。流体供給室3aと流体貯留溝31cの間を連通する流路32dと、流体供給室3aと窪み32a、32a、32aを連通し固定絞り32bを持つ流路32cを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動物体を用いた可変絞りを備えた可変絞り形静圧軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体供給室と静圧軸受のポケットへの流入路を固定絞りを備えた可動物体で区分し、流体供給室に可動物体に対向するように配置した開口を備え、ポケット流入路の圧力に対応して可動物体と開口の隙間が変動することで、ポケット流入路の圧力に対応した所定の絞り比を設定する可変絞りを用いた可変絞り形静圧軸受がある。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−286037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載の従来技術では、可動物体の側面にポケットを備えて、可動物体に作用する加重が変化したり、可動物体が移動する際のガイド部との接触を防止しているが、可動物体の傾きを防止することはできない。開口から流出する流量は、ポケット流入路の圧力が同一であっても、開口に対する可動物体の傾きに応じて変動する。このため、ポケット流入路の圧力が同一であっても、可動物体の傾き度合いにより絞り比が変動する。すなわち、ポケット流入路の圧力に対応する所定の絞り比に設定できない恐れがある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、可動物体の傾きを防止して、ポケット流入路の圧力に対応する所定の絞り比に確実に設定可能な可変絞り形静圧軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、部材に対して間隔を隔てて配置される軸受本体と、
前記部材に対向して前記軸受本体に配置されるポケットと、
流体を前記ポケットに供給するための流体供給口と、
前記流体供給口から供給される流体の流量を絞って前記ポケットに流入させる可変絞りを備え、
前記可変絞りは、
可変絞り本体と、
前記可変絞り本体の内部空間に移動可能に収納され、かつ前記可変絞り本体内部を前記流体供給口に連通する第1室と前記ポケットに連通する第2室とに仕切る可動物体を備え
前記可動物体は、
前記第1室に対向する端面である第1端面と、前記第2室に対向し前記可動物体の移動方向に垂直な端面である第2端面を備えると共に、前記第1室と前記第2室を連通する第1流路を備え、かつ前記第2端面の、前記第1端面の図心を前記可動物体の移動方向で前記第2端面に投影した点を中心とする円の周方向に等分な部位に、少なくも3個の窪みと、前記窪みと前記第1室を連通する固定絞りを備え、
前記第2室の前記可動物体の移動方向と垂直な壁面には、
前記点に対向する部位に前記ポケットに連通する第2流路を備え、かつ前記第2流路から所定の半径だけ外周に環状の溝からなる流体貯留溝と、前記流体貯留溝の外周でかつ前記窪みと対向しない部位に排出溝を備え、さらに前記排出溝に連通する排出流路を備え、
前記第1流路の前記第2端面における開口は、前記流体貯留溝に対向する部位に配置され、
前記第1端面の前記可動物体の移動方向と垂直な面への投影面積は、前記第2流路と前記流体貯留溝と前記窪みの前記可動物体の移動方向と垂直な面への投影面積の合計より小さいことである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明によれば、第1室内の流体圧力により第1端面に作用する力と、流体貯留溝および第2流路内の流体圧力により第2端面に作用する力の合力の、第2端面における作用点は第2流路に対向する位置にある。窪みが第2流路に対向する位置を中心とする円の周方向に等分な部位に配置されているので、窪み内の流体圧力による力の第2端面における作用点は合力の作用点を取り囲むように配置されている。窪み内の圧力は第2端面と第2室の壁面との隙間が大きくなれば小さくなり、その隙間が小さくなれば大きくなるため、可動物体の移動方向に対して可動物体が傾斜するのを防止する力が働く。このため、可動物体の第2端面と第2室の壁面は常に並行な状態を保ち、その隙間が第2流路に作用する流体圧力に応じ増減するので、流体貯留溝から第2流路に流出する流体の流量は第2流路に作用する流体圧力に応じた所定の流量となる。すなわち、可動物体に作用する加重が変化したり、可動物体が移動しても可動物体が傾くことが無く、ポケット内の圧力に対応する絞り比の変化の度合いが一定となる可変絞り形静圧軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態のスライドテーブル装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB部の詳細図(図5のE−E断面図)である。
【図4】図3のC−C断面図である。
【図5】図3のD−D断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、本発明をテーブル送り装置に使用した事例で説明する。
図1に示すように、テーブル送り装置1はベース10(部材)のスライド部にテーブル2(軸受本体)を摺動自在に搭載し、テーブル2の両端の下部に1対の裏板5(軸受本体)を取り付けることによりX軸方向のみに移動可能にした構造である。
図2に示すように、テーブル2のベース10に対向する面にポケット2aを下向きに2箇所、横向きに対向する1対のポケット2cを備えている。ポケット2a、2cには可変絞り3が連通しており、可変絞り3には各々給油管路4が連通している。ポケット2aの外周には排出溝2bを備えている。
裏板5にもポケット5aを上向きに備えており、ポケット5aには可変絞り3が連通しており、可変絞り3には各々給油管路4が連通している。ポケット5aの外周には排出溝5bを備えている。
【0010】
図3に可変絞り3の詳細を示す、可変絞り3は、中空円筒を備えた可変絞りベース31(可変絞り本体を構成)と可変絞りベース31より小径の中空円筒を備えたキャップ33(可変絞り本体を構成)を、中空円筒が対向するようにボルト34で結合し、その内部空間に、可動物体32を円筒の軸線方向に移動可能に収納して構成されている。可変絞りベース31の中空円筒の壁面31aには、図4に示すように、その中心にテーブル2のポケット流入路2cに連通する流出口31b(第2流路)を備え、流出口31bの外周に内側から順に円環状の流体貯留溝31c、第1排出溝31d、第2排出溝31eを同心円となるように備えている。さらに、第1排出溝31dと第2排出溝31eからテーブル2の排出流路2dを経由して排出溝2bに連通する排出流路31fと、排出流路31fと連通しキャップ33の取付け面に開口を持つ排出流路31gを備えている。
【0011】
可動物体32は、径の異なる2段の円筒を同心に重ねた形状で、大径円筒部の端面32eと大径円筒部と小径円筒部の段差の端面である端面32fと小径円筒部の端面32gと大径円筒部の外周面32hと小径円筒部の外周面32iから構成され、端面32eが可変絞りベース31の壁面31aと対向するように配置される。第1排出溝31dと第2排出溝31eの間の壁面31aと対向する端面32eの部位には、図5に示すように、窪み32a、32a、32aが円周方向で3等分の位置に配置され、窪み32a、32a、32aと端面32fに連通し固定絞り32bを持つ流路32cを備えている。さらに、端面32eの流体貯留溝31cに対向する部位と外周面32iの端面32fに近い部位に連通する流路32d(第1流路)を備えている。
キャップ33は可変絞りベース31との組合せ面33aと中空円筒の内周面33bを備えると共に、内周面33bと流路31gを連通する排出流路33cと、管路4と組合せ面33aを連通する流路33dを備えている。
【0012】
端面32fの面積は、流出口31bと流体貯留溝31cと窪み32a、32a、32aの面積の合計より小さくなるように設定されている。
可動物体32の移動方向における、可変絞りベース31の中空円筒とキャップ33の中空円筒の深さと、可動物体32の円筒部の厚さ寸法は、可動物体32が円筒の軸方向へ所定の距離だけ移動できる値を備えている。
以上の構成から、図3に示すように、可変絞りベース31の中空円筒部とキャップ33の中空円筒部からなる内部空間は、可動物体32の端面32fと外周面32iで区分される流体供給室3a(第1室)と、端面32eで区分される流体排出室3b(第2室)と、端面32gで区分される流体排出室3cに分割される。
【0013】
可変絞り形軸受の作動について、図3に基づき説明する。
管路4に流体が供給されると流体供給室3aに流体が充満し、可動物体32の流路32dを経由して円環状の流体貯留溝31cに流体が流入すると共に、流路32cと固定絞り32bを経由して減圧された流体が窪み32a、32a、32aに流入する。流体貯留溝31c内の流体は可変絞りベース31の壁面31aと可動物体32の端面32eの隙間により絞られて、一部は流出口31bを経由してポケット2aに流入すると共に、残りの流体は第1排出溝31dに流入し、排出流路31fとテーブル2の排出流路2dを経由して排出溝2bに排出される。
窪み32a、32a、32a内の流体は、窪み32a、32a、32aの外周の端面32eと可変絞りベース31の壁面31aとの隙間を経由して、第1排出溝31dと第2排出溝31eに流入し、排出流路31fとテーブル2の排出流路2dを経由して排出溝2bに排出される。可動物体32の大径円筒部の外周面32hと可変絞りベース31の中空円筒部の対向する隙間から漏洩する流体は第2排出溝31eに排出され、可動物体32の小径円筒部の外周面32iとキャップ33の内周面33bの対向する隙間から漏洩する流体は流体排出室3c、排出流路33c、排出流路31g、排出流路2dを経由して排出溝2bに排出される。
【0014】
ここで、流体供給室3aに供給される流体の圧力をPとすると、円環状の流体貯留溝31c内の圧力はPとなる。固定絞り32bと窪み32a、32a、32aと壁面31aは静圧軸受を構成しており、窪み32a、32a、32a内部の圧力Pは端面32eと壁面31aの隙間tの間隔に応じてPを超えない範囲で変動する。流出口31bとポケット2a内の圧力は端面32eと壁面31aの隙間により絞られるため圧力が低下しPとなる。流出口31bとポケット2a内の圧力Pはポケット2aとベース10の隙間tの間隔に応じてPを超えない範囲で変動する。流体排出室3bと流体排出室3cの圧力は大気圧である。
これにより、ポケット2aとベース10は、この両者間に働く負荷に釣り合うポケット2a内の圧力Pを発生させる間隔tを保って保持される。以上のことが、テーブル2の水平方向に設置されたポケット2eと裏板5のポケット5a部においても同様に起きる。この結果として、ベース10とテーブル2はポケット2a部で間隔tを備えた状態で保持される。
【0015】
この状態でテーブル2に下向きの負荷が加わると、テーブル2が下方に移動するためポケット2aの間隔tが狭くなり、隙間tからの流体の流出量が減少し、ポケット2a内の圧力が上昇するため、ポケット2aに連通する流出口31bの圧力も上昇する。そうすると、端面32eの流出口31bに対向する面の受ける上向きの力が大きくなり、可動物体32は流体供給室3a方向へ並行に移動し、端面32eと壁面31aの間の隙間tが大きくなる。結果として、隙間tと流出口31bを経由してポケット2aに流入する流量が増加する。これにより、ポケット2aとベース10の間隔tから流出する流量を増加させる必要があるため、ポケット2aとベース10の間隔tの減少を防止する作用が働く。つまり、負荷に対する間隔tの変動を少なくする(剛性を大きくする)作用が働く。
【0016】
ここで可動物体32に作用する力の釣り合いは以下のようになる。
圧力Pにより可動物体32の流体供給室3a側の端面32fに作用する力Fと、圧力Pにより可動物体32の流体貯留溝31cに対向する面に作用する力Fと、圧力Pにより流出口31bに対向する面に作用する力Fと、圧力Pにより窪み32a、32a、32aに作用する力F41、F42、F43と、可動物体32の自重(圧力に比較し可動物体32の自重は小さいので無視することが可能、以下の説明では可動物体32の自重は無視する)が釣り合っている。すなわち、F=F+F+F41+F42+F43となる。
【0017】
、F、Fの合力を集中荷重とすると、端面32e上での作用点は端面32eの円筒の中心である点P(端面32fの図心の端面32eへの投影点と、流体貯留溝31cに対向する端面32eの図心と、流出口31bに対向する端面32eの図心と一致する)となり、壁面31aの方向に作用する力FはF=F−F−Fである。窪み32a、32a、32aは力Fの作用点を取り囲む位置に配置されており、窪み32a、32a、32a内の圧力Pは端面32eと壁面31aの隙間が大きければ低下し、狭ければ上昇する。このため、窪み32a、32a、32aと壁面31aの隙間の広さをt21、t21、t21とし、端面32eと壁面31aが傾斜して、t21<t21<t21となる場合、各々の窪みに作用する力はF41>F42>F43となり傾斜を防止する力が作用し、端面32eと壁面31aが平行な時はF41=F42=F43となり安定する。
以上より、可動物体32の移動方向の軸線に対して可動物体32を傾斜させる力が作用してもその力を打ち消し、可動物体32の端面32eを壁面31aに対して常に並行に保持する作用を備えている。
【0018】
本発明によれば、可動物体32の端面32eと壁面31aを並行に保つ力を常に受けるので、可動物体32に作用する加重が変化したり、可動物体32が移動しても傾斜することがない。このため、その絞り比は端面32eと壁面31aの隙間tの大きさに対応した所定の値となる。すなわち、ポケット2a内の圧力に対応する所定の絞り比に設定する可変絞り形静圧軸受を提供できる。
【0019】
以上の説明では、直線運動のテーブル送りについて述べたが、回転軸に対して用いてもよい、この場合の部材は回転軸となる。
また、流路32dと第1排出溝31dからの排出流路に絞りを設けてもよい。
可動物体32の移動軸に対する回転を拘束しないで窪32a、32a、32aみに対向する壁面31aを円環状とした例を示したが、可動物体32の移動軸に対する回転を拘束して、窪み32a、32a、32aに対向する壁面を円周方向で非連続としてもよい。
可動物体32を円筒形状とした例を示したが、他の形状でもよい。
【符号の説明】
【0020】
2:テーブル 2a:ポケット 3:可変絞り 3a:流体供給室 3b、3c:流体排出室 4:管路 31:可変絞りベース 31a:壁面 31b:流出口 31c:流体貯留溝 31d:第1排出溝 31e:第2排出溝 31f,31g:排出流路 32:可動物体 32a、32a、32a:窪み 32b:固定絞り 32d:流路 33:キャップ t:隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材に対して間隔を隔てて配置される軸受本体と、
前記部材に対向して前記軸受本体に配置されるポケットと、
流体を前記ポケットに供給するための流体供給口と、
前記流体供給口から供給される流体の流量を絞って前記ポケットに流入させる可変絞りを備え、
前記可変絞りは、
可変絞り本体と、
前記可変絞り本体の内部空間に移動可能に収納され、かつ前記可変絞り本体内部を前記流体供給口に連通する第1室と前記ポケットに連通する第2室とに仕切る可動物体を備え
前記可動物体は、
前記第1室に対向する端面である第1端面と、前記第2室に対向し前記可動物体の移動方向に垂直な端面である第2端面を備えると共に、前記第1室と前記第2室を連通する第1流路を備え、かつ前記第2端面の、前記第1端面の図心を前記可動物体の移動方向で前記第2端面に投影した点を中心とする円の周方向に等分な部位に、少なくも3個の窪みと、前記窪みと前記第1室を連通する固定絞りを備え、
前記第2室の前記可動物体の移動方向と垂直な壁面には、
前記点に対向する部位に前記ポケットに連通する第2流路を備え、かつ前記第2流路から所定の半径だけ外周に環状の溝からなる流体貯留溝と、前記流体貯留溝の外周でかつ前記窪みと対向しない部位に排出溝を備え、さらに前記排出溝に連通する排出流路を備え、
前記第1流路の前記第2端面における開口は、前記流体貯留溝に対向する部位に配置され、
前記第1端面の前記可動物体の移動方向と垂直な面への投影面積は、前記第2流路と前記流体貯留溝と前記窪みの前記可動物体の移動方向と垂直な面への投影面積の合計より小さい
可変絞り形静圧軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113358(P2013−113358A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259120(P2011−259120)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】