説明

可変速式乗客コンベアの移動手摺装置

【課題】 手摺の速度変化に対して乗客の手が挟まれたり、転倒をなくし、乗客がより安全に乗降可能とする可変速式乗客コンベアの移動手摺装置を実現する。
【解決手段】 手摺移動方向に進退可能に伸縮連結体11を構成する複数の薄板連結体11a〜11dを重ね合わせ、互いに隣り合う薄板連結体11a〜11dの重なり合う面部に係合摺動部材16を設け、係合摺動可能とする。また、伸縮連結体11の下部に可変速式乗客コンベアの欄干に設けた支持ガイド部材1を転動する滑車12を取り付け、この滑車12に対して可変速式乗客コンベアの速度変化に関連付けてトルクを付加・解除し、或いはコンベアの可変速度に関連付けた回転駆動力を伝達する。そして、係合摺動部材16を介して伸縮連結体11が伸縮する。その結果、伸縮連結体11に覆い被さっている手摺部4が縮小又は伸長し、それに伴って手摺部4が低速又は高速移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速度可変式の動く歩道やエスカレータなど、移動速度が変化する可変速式乗客コンベアに用いる移動手摺装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、乗客コンベアは、乗客の安全を確保するために、乗客コンベアの両側に当該乗客コンベアと同じ速度で移動する移動手摺装置を設置することが義務付けられている。
【0003】
ところで、近年、移動距離の長い乗客コンベアでは、乗客コンベアの始端・終端近傍の移動速度を低速とし、当該コンベアの中間部の移動速度を高速とする可変速式乗客コンベアが開発され、実用に供されている。
【0004】
このような可変速式乗客コンベアに用いる移動手摺装置としては、乗客コンベアの可変速度に同期するように当該手摺装置の移動速度を変更する必要がある。
従来、可変速式乗客コンベアに用いる移動手摺装置が提案されている(特許文献1)。この乗客コンベアの移動手摺装置は、乗客コンベアの欄干に環状に配置される剛体の支持ガイドと、この支持ガイドに沿って環状に連結し移動可能に設けた多数の手摺駒部材と、連結リンク部材と、手摺カバー部材とを備えたものである。連結リンク部材は、互いに隣り合う手摺駒部材同士を伸縮可能に連結する。手摺カバー部材は、連結された多数の手摺駒部材の面部に覆い被せることにより、連結リンク部材の伸縮に伸縮する機能を持っている。
【0005】
なお、手摺カバー部材は伸縮可能なゴム等を用いている。手摺カバー部材は、環状に連結された多数の手摺駒部材の表面を覆うために、一本の環状体で形成されている。
【0006】
この乗客コンベアの移動手摺装置においては、前述した乗客コンベアの低速区間と高速区間とにおける可変速度に合わせて、連結リンク部材を伸縮させている。すなわち、乗客コンベアの移動手摺装置は、コンベアの低速区間では連結リンク部材を折り曲げて手摺カバー部材の低速化を実現し、コンベアの高速区間では連結リンク部材を強制的に伸長させて手摺カバー部材の高速化を実現している。
【特許文献1】特開2004−299883号公報(図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、以上のような可変速式乗客コンベアの移動手摺装置は、乗客コンベアの低速区間から高速区間に入った時に強制的に連結リンク部材を伸長させるので、隣り合う2つの手摺駒部材の間に大きな空洞が出来てしまう。その結果、伸縮可能な手摺カバー部材は、空洞に相当する部分が凹み、手摺駒部材に相当する部分が突出する。その結果、手摺カバー部材の表面は、手摺移動方向に凸凹が繰り返された状態となる。よって、乗客コンベアの乗客は、身体を支えるために手摺カバー部材に手をおいたとき、不安定、かつ乗り心地が悪いものとなる。
【0008】
また、手摺カバー部材は、伸縮可能なゴム等を使用しているので、乗客が空洞に相当する凹み部分に多少大きな力で加えた状態で手をおいたときに大きく凹み、また高速区間から低速区間に入ったときに隣り合う2つの手摺駒部材が急速に接近することから、その凹み部分で乗客の手を挟んでしまう恐れがある。その結果、乗客は手摺カバー部材を持ち替えることが多くなり、十分な注意を払って持ち替えないと、持ち替える際に転倒する問題がある。
【0009】
また、手摺カバー部材は、乗客コンベアの可変速度の繰り返しに伴い、そのカバー部材の表面が頻繁に凸凹状態を繰り返すことから、劣化を速める問題がある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、乗客の手が挟まれたり、手摺の持ち替えを不要にして転倒をなくし、乗客がより安定、かつ安全に乗降できる可変速式乗客コンベアの移動手摺装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1) 上記課題を解決するために、本発明は、低速区間と高速区間とに応じて可変速度で移動する可変速式乗客コンベアの移動手摺装置であって、前記乗客コンベアの可変速度に関連付けて伸縮動作する伸縮構成体と、この伸縮構成体に覆い被さるように配置され、当該伸縮構成体の伸縮動作に応じて伸縮する特性を持った素材で形成された手摺部とを備えた可変速式乗客コンベアの移動手摺装置である。
【0012】
この発明は、伸縮構成部材が乗客コンベアの速度変化に同期して伸縮したとき、この伸縮動作に応じて手摺部が伸縮するので、可変速式乗客コンベアの可変速度に合わせて手摺部の移動速度を変更することが可能である。
【0013】
なお、前記伸縮構成体としては、前記手摺部の移動方向に進退可能に重ね合わされ、互いに重なり合う面部に係合摺動部材を設けた複数の薄板連結体からなる伸縮連結体と、この伸縮連結体の下部に回転可能に取り付けられ、前記可変速式乗客コンベアの欄干に設けた支持ガイド部材を回転する回転体と、前記伸縮連結体の両端部に取り付けた連結部とを設けた構成である。
【0014】
この発明は、以上のような伸縮構成体の構成とすることにより、伸縮連結体が隣り合う複数の薄板連結体の重なり合う面部に設けた係合摺動部材を介して伸縮するが、各薄板連結体自体が薄板で形成され、かつ重ね合わされているので、伸縮連結体に覆い被さる手摺部に凹凸が生じることがない。よって、乗客の手が挟まれたり、手摺の持ち替えを不要にして転倒をなくし、乗客がより安全に乗降することが可能である。
【0015】
また、他の伸縮構成体としては、前記手摺部の移動方向に配列され、互いに向かい合う一方の面部に凸状部を形成し、かつ他方の面部に凹状部を形成し、当該凸状部及び当該凹状部を介して進退可能に嵌合するとともに、前記凸状部と前記凹状部との摺動面部に係合摺動部材を設けた複数の平板状薄板連結体からなる伸縮連結体と、この伸縮連結体の下部に回転可能に取り付けられ、前記可変速式乗客コンベアの欄干に設けた支持ガイド部材を回転する回転体と、前記伸縮連結体の両端部に取り付けた連結部とを設けた構成であってもよい。
【0016】
この発明は、以上のような伸縮構成体の構成とすることにより、伸縮連結体が向かい合う複数の平板状薄板連結体同士に形成される当該凸状部及び当該凹状部を介して進退可能に嵌合し、かつ凸状部と凹状部との摺動面部に設けた係合摺動部材を介して伸縮するが、薄板連結体が平板状に形成され、かつこれら複数の薄板連結体に覆い被さるように手摺部を配置しているので、手摺部が大きく凹むことがない。よって、乗客の手が挟まれたり、手摺の持ち替えを不要にして転倒をなくし、乗客がより安全に乗降することが可能である。
【0017】
さらに、別の伸縮構成体としては、前記手摺部の移動方向に沿って所定距離ずつずらし、かつ垂直方向に接するように配列された複数の長方形状の薄板連結体からなる伸縮連結体と、前記薄板連結体の面部に段差ガイド溝を設け、隣り合う前記薄板連結体の面部に当該段差ガイド溝を貫通し、かつその先頭部が段差ガイド溝の段差内に埋没可能に突設した突起部を設けた係合摺動部材と、この伸縮連結体の下部に回転可能に取り付けられ、前記可変速式乗客コンベアの欄干に設けた支持ガイド部材面を回転する回転体と、前記伸縮連結体の両端部に取り付けられた連結部とを設けた構成であってもよい。
【0018】
この発明においても、前述と同様な作用効果を奏することができる。
【0019】
さらに、伸縮構成体としては、前述する伸縮構成体の構成に新たに、一方の前記連結部に保護部材の一端が固定され、当該一方の連結部から前記伸縮連結体の上部に跨って配置される前記保護部材の他端部を所定の張力で巻き取る巻取り部を設け、前記手摺部と前記伸縮連結体との干渉を回避する構成としてもよい。
【0020】
この発明は、以上のような保護部材巻取り手段を付加することにより、伸縮構成体の伸縮時に自動的に保護部材を巻取ることにより、伸縮構成体の縮小をより確実なものにし、また、保護部材が伸縮連結体の上部と手摺部との間に設けられているので、伸縮連結体と手摺部との間の干渉による劣化を防ぐことが可能である。
【0021】
(2) 本発明は、以上のような伸縮構成体及び手摺部をユニット化とし、これらユニットを前記連結部を介して連結し環状に連なるように構成し、移動手摺を構成することができる。
【0022】
また、前記回転体としては、前記伸縮連結体を構成する複数の薄板連結体の少なくとも1個に取り付け、伸縮連結体の伸縮動作を実現することが可能である。
【0023】
さらに、前記手摺部としては、低反発ウレタン素材を用いた場合、乗客の強弱による手摺把持力に対し、適切にフィットした状態で手摺部を把持することが可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、乗客の手が挟まれたり、手摺の持ち替えを不要にして転倒をなくし、乗客がより安定、かつ安全に乗降できる可変速式乗客コンベアの移動手摺装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1ないし図4は本発明に係る可変速式乗客コンベアの移動手摺装置の実施形態を説明する図である。図1は伸縮構成体の上部から見た斜視図、図2は移動手摺装置の要部を示す一部切り欠き側面図、図3は支持ガイド部材の曲線部を沿って移動する際の伸縮構成体の動きを説明する図、図4は図2のB−B矢視断面図である。
【0026】
これらの図において、1は可変速式乗客コンベアの欄干(図示せず)に取り付けられた支持ガイド部材である。支持ガイド部材1は例えば金属等の剛体によって構成される。この支持ガイド部材1には、当該支持ガイド部材1に沿って一巡するように、複数のユニット化された移動手摺装置2が環状に連ねて移動可能に設けられている。
【0027】
各ユニット化された移動手摺装置2としては、手摺移動方向(図1(イ)参照)に伸縮可能に構成された伸縮構成体3と、手摺部4とで構成される。
【0028】
伸縮構成体3は、伸縮連結体11と、回転体としての滑車12と、ユニット化された各移動手摺装置2同士を連結するための連結部13と、保護部材14と、巻取り部15とを備えている。
【0029】
伸縮連結体11は、例えば4個の薄板連結体11a,11b,11c,11dが連なり、それぞれ手摺幅方向断面(A−A矢視断面)が逆凹状又は方形筒状となっている。これら薄板連結体11a,11b,11c,11dのうち、隣り合う薄板連結体11aと11b同士、薄板連結体11bと11c同士、薄板連結体11cと11d同士は互い進退可能に重なり合っている。よって、図示左端側の薄板連結体11aから図示右端側の薄板連結体11dの順番に当該薄板連結体11a,11b,11c,11dの口径が順次大きく形成されている。逆に、薄板連結体11d,11c,11b,11aの順番に口径が大きくなったものでもよい。
【0030】
これら薄板連結体11a,11b,11c,11dは、互いに重なり合う両側面部に係合摺動部材16が設けられている。係合摺動部材16は、例えば重なり合う関係にある一方の薄板連結体11aの外側両側面部に溝や長孔などのガイド溝16aが設けられ、他方の薄板連結体11bの内側両側面部にピンやねじなどの突起部16bが設けられている。そして、薄板連結体11bの内側両側面部の突起部16bが薄板連結体11aの外側両側面部に設けたガイド溝16aに係合し摺動する構成となっている。隣り合う薄板連結体11bと11cとの重なり合う面部、隣り合う薄板連結体11cと11dとの重なり合う面部にもそれぞれ同様に係合摺動部材16を構成するガイド溝16a、突起部16bが装着されている。
【0031】
よって、伸縮連結体11を構成する薄板連結体11a,11b,11c,11dは係合摺動部材16を介して手摺移動方向に伸縮可能になっている。
【0032】
各薄板連結体11a,11b,11c,11dの底部幅方向にはそれぞれ支持アーム17を介して滑車12が2個ずつ取り付けられている。2個ずつ滑車12を設けた理由は各薄板連結体11a,11b,11c,11d、ひいては伸縮連結体11の横揺を回避する為である。これら滑車12は、乗客コンベアの移動とともに支持ガイド部材1に沿って転動し、かつ伸縮連結体11を介して手摺部4を移動させる役割を持っている。
【0033】
なお、滑車12としては、伸縮連結体11の幅方向に長目とし、かつ各薄板連結体11a,11b,11c,11d底部の中央部分に支持アーム17を介して配置すれば、各薄板連結体11a,11b,11c,11dごとに1個ずつ設けてもよい。
【0034】
前記連結部13は、例えば断面T字形状に形成され、その幅広面となる頂上面部が伸縮連結体11の両端面部に取り付けている。各連結部13としては、伸縮連結体11の両端側に配置される薄板連結体11a,11dの上部から所要長さ分だけ突出させ、望ましくはほぼ同じ高さ位置となるように薄板連結体11a,11dに取り付ける。
【0035】
さらに、薄板連結体11aに取り付けた連結部13の上部には帯状の保護部材14の一端部が固定される。この保護部材14の他端部は、他端側に配置される薄板連結体11dと連結部13との間に介在させた巻取り部15で巻き取る構成である。この保護部材14は、手摺部4と各薄板連結体11a,11b,11c,11dとの間に配置し、手摺部4と各薄板連結体11a,11b,11c,11dとの干渉による劣化を防止する役割を持っている。
【0036】
巻取り部15は、巻取り機構が内蔵され、常時は所定の張力をもって保護部材14を巻き取る機能を有している。
【0037】
前記手摺部4は、乗客が握り持つ部分を構成するものであって、滑車12、支持アーム17及び連結部13の一部を除き、ユニット化された伸縮構成体3全体を覆うように設けられている。手摺部4は、伸縮構成体3全体を覆うことから、伸縮構成体3の伸縮動作に合わせて伸縮する機能を有する。
【0038】
なお、手摺部4は、伸縮可能な素材であれば、どのような素材を用いてよい。しかし、乗客の手が直接触れる部分であるので、安全性の高い素材を用いることが望ましい。乗客の手で握り持っても十分に安全性を確保可能な素材としては、例えば低反発ウレタンを使用することが望ましい。低反発ウレタンは、衝撃力や強い力を受けた際に凹みが少なく、緩慢な力を受けたときに柔軟性を有する性質を持っている。よって、手摺部4として低反発ウレタンを用いることにより、老若男女を問わず、また乗客の強弱の力に対して急激に変形することがなく、比較的乗客の手に馴染み易く、安全性に優れていると言える。
【0039】
次に、以上のような可変速式乗客コンベアの移動手摺装置の動作について説明する。
先ず、ユニット化された伸縮構成体3及び手摺部4から成る移動手摺装置2を連結し、可変速式乗客コンベアの欄干(図示せず)に取り付けた支持ガイド部材1に沿って取付け、環状体の移動手摺装置2を構築していく。
【0040】
ところで、可変速式乗客コンベアの移動手摺装置2は、前述したように乗客コンベアが高速区間と低速区間とで速度を可変することから、その可変速度に合わせて当該乗客コンベアと同じ速度に移動させる必要がある。
そこで、乗客コンベアにおける高速区間と低速区間との可変速度に関連付けてユニット化された移動手摺装置2を構成する伸縮構成体3を伸縮させなければならない。乗客コンベアと伸縮構成体3との関連付けは、予め定められている高速区間から低速区間に入る際に、例えば支持ガイド部材1の該当区間に対応する面部に一定間隔ごとに突起部を設けて滑車12にトルクを与えて伸縮構成体3を縮小させる。また、低速区間から高速区間に入る際には支持ガイド部材1の面部に突起部を設けない構成とし、滑車12に対するトルクを解除し、伸縮構成体3を伸長させる。その他、乗客コンベアと伸縮構成体3との関連付けは、乗客コンベアを回転駆動する駆動源から適宜なギアを介して滑車12に伝達する構成であってもよく、各種の関連付けが考えられる。
【0041】
すなわち、本発明に係る移動手摺装置2は、乗客コンベアの高速区間から低速区間に差し掛かった時、例えば伸縮構成体3を構成する滑車12に適宜な手段にてトルクを加え、又は乗客コンベアの回転駆動力を伝達し、ユニット化された移動手摺装置2を構成する伸縮構成体3を縮小させる。つまり、高速区間から低速区間に差し掛かった時、隣り合う薄板連結体11a,11b,11c,11d同士が係合摺動可能に重なり合っているので、係合摺動部材16を通して伸縮構成体3全体を縮小する。このとき、巻取り部15は、伸縮構成体3の縮小動作に合わせて保護部材14を巻取る。これにより、伸縮構成体3を覆っている手摺部4が徐々に縮小しながら移動の速度を遅らすので、当該手摺部4は低速状態となる。
【0042】
一方、乗客コンベアの低速区間から高速区間に差し掛かった時、例えば伸縮構成体3を構成する滑車12からトルクを解除し、又は乗客コンベアの高速回転駆動力を伝達し、ユニット化された移動手摺装置2を構成する伸縮構成体3を伸長させることができる。つまり、低速区間から高速区間に差し掛かった時、係合摺動部材16を通して隣り合う薄板連結体11a,11b,11c,11d同士の重なりを徐々に減らすように退出させる。その結果、伸縮構成体3全体が伸長する。このとき、巻取り部15は、伸縮構成体3の伸長動作に合わせて保護部材14を一定の張力のもとに繰り出す。これにより、伸縮構成体3を覆っている手摺部4が伸長するので、結果として手摺部4は高速状態となる。
【0043】
図3はユニットされた伸縮構成体3が支持ガイド部材1の曲線部に差し掛かったときの変化状態を示している。伸縮構成体3が支持ガイド部材1の曲線部に差し掛かった場合、伸縮構成体3は、当該曲線部の曲率に合わせて、隣り合う薄板連結体11a,11b,11c,11d同士が係合摺動部材16の突起部16bを支点として回動し、滑車12が転動しながら曲線部に沿って移動する。
【0044】
従って、以上のような実施の形態によれば、伸縮連結体11を構成する薄板連結体11a,11b,11c,11dは係合摺動部材16が係合摺動可能な程度の厚さを有する薄板で形成しているので、手摺部4と伸縮構成体3との間には殆ど空洞部分が生じない。また、手摺部4と伸縮連結体11との間には互いに干渉を避けるために保護部材14が介在されている。よって、手摺部4の表面に凸凹が生じ難くなり、乗客に対して安定した乗り心地を提供できる。さらに、手摺部4と伸縮連結体11との間に保護部材14を介在することにより、手摺部4と伸縮連結体11との干渉による劣化を防止できる。
【0045】
また、手摺部4の底部に殆ど空洞がなくなり、かつ手摺部4が低反発ウレタンを用いれば、大きな力を加えた場合でも凹むことがなく、乗客の手が挟まれるといった問題もなくなる。これにより、乗客による手摺の持ち替えが減り、乗客の転倒を防ぐことができる。
【0046】
(第2の実施の形態)
図5及び図6は本発明に係る可変速式乗客コンベアの移動手摺装置の他の実施形態を説明する図である。図5は伸縮可能部材の斜視図、図6は隣り合う2つの薄板連結体の概略透視図である。なお、同図において、図1及び図2と同一部分には同一符号を付し、詳しい説明は省略する。
【0047】
この実施の形態は、伸縮構成体3を構成する構成要素11〜15のうち、特に伸縮連結体11の他の形態例である。
【0048】
伸縮連結体11は、図2と同様に移動手摺装置2の移動方向に例えば4個の薄板連結体21a,21b,21c,21dを連ねた構成である。各薄板連結体21a,21b,21c,21dは、それぞれ所定の厚さを有する平板が用いられ、互いに向かい合う面部には凸状部22及び凹状部23が設けられている。つまり、薄板連結体21aの対峙面中央部分には凸状部22が形成され、隣り合う薄板連結体21bにおける薄板連結体21aとの対峙面中央部分には凹状部23が形成される。隣り合う薄板連結体21aと薄板連結体21bは凸状部22及び凹状部23を介して進退可能に嵌合される。なお、薄板連結体21a側に凹状部23を設け、隣り合う薄板連結体21b側に凸状部22を設けてもよい。隣り合う薄板連結体21bと21c、21cと21dとの対峙面側にも同様に凸状部22及び凹状部23が形成され、同様に進退可能に嵌合する構成となっている。
【0049】
さらに、各薄板連結体21a,21b,21cの凸状部22と隣り合う各薄板連結体21b,21c,21dの凹状部23との摺動面部には係合摺動部材16が装着されている。すなわち、薄板連結体21a,21b,21cの摺動面となる両側面部に各ピンやねじなどの突起部16bが設けられ、他方の薄板連結体21b,21c,21dの凹状部23の摺動面となる内側面部にガイド溝16aが設けられている。
【0050】
そして、薄板連結体21a,21b,21cの凸状部22に形成された各ガイド溝16aに他方の薄板連結体21b,21c,21dの凹状部23から突設された突起部16bを係合し、隣り合う薄板連結体21a,21b,21c,21d同士を摺動することにより、伸縮連結体11を伸縮させるものである。
【0051】
さらに、手摺部4としては、図示されていないが、滑車12、支持アーム7及び連結部13の一部を除き、ユニット化された伸縮構成体3全体を覆うように設けられていることは言うまでもない。
【0052】
この実施の形態では、乗客コンベアの高速区間から低速区間に差し掛かった時、例えば伸縮構成体3を構成する滑車12に対して、適宜な手段によってトルクを加え又は回転駆動力を伝達することにより、隣り合う薄板連結体21a,21b,21c,21d同士が係合摺動部材16を通して接近させる方向に摺動すれば、伸縮連結体11,ひいては伸縮構成体3を縮小させることができる。
【0053】
また、乗客コンベアの低速区間から高速区間に差し掛かった時、滑車12に対して、適宜な手段によってトルクを解除し又は回転駆動力を伝達すれば、隣り合う薄板連結体21a,21b,21c,21d同士が係合摺動部材16を通して離反する方向に摺動するので、伸縮連結体11,ひいては伸縮構成体3を伸長させることができる。
【0054】
従って、この実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に伸縮構成体3を伸縮でき、また伸縮構成体3を構成する伸縮連結体11の上面が平坦面であり、かつ当該平坦面上部には例えば低反発ウレタンなどの手摺部4を配置するので、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0055】
なお、上記実施の形態では、隣り合う薄板連結体21a,21b,21c,21dの対峙面(摺動面ではない)を垂直面となるように形成したものである。しかし、隣り合う薄板連結体21a,21b,21c,21dの対峙面を、例えば図7(a)に示すように同一方向に傾斜させた傾斜面24としてもよく、或いは図7(b)に示すように互いに反対方向に傾斜させた傾斜面25としてもよい。特に、隣り合う薄板連結体21a,21b,21c,21dの対峙接触面を傾斜面とすれば、伸縮構成体3が支持ガイド部材1の曲線部に差し掛かったとき、隣り合う薄板連結体21a,21b,21c,21dが係合摺動部材16の突起部16bを支点として回動可能となり、曲線部に沿って移動させることが可能となる。これにより、伸縮構成体3は、伸縮動作と回転動作とを実現することができる。
【0056】
(第3の実施の形態)
図8及び図9は本発明に係る可変速式乗客コンベアの移動手摺装置の他の実施形態を説明する図である。図8は伸縮構成体の上部から見た斜視図、図9は伸縮構成体の上面図である。
【0057】
この実施の形態は、伸縮連結体11の構成変更に伴い、他の構成要素も同時に変更を加えた例である。
【0058】
この伸縮連結体11は、例えば4個の薄板連結体31a,31b,31c,31dからなる。各薄板連結体31a,31b,31c,31dは、それぞれ所定厚さを有する長方形板体に形成され、当該長方形板体の長手部が移動手摺装置2の移動方向に設定され、かつ長方形板体の幅広面部が垂直方向に接するごとく配置される。つまり、隣り合う薄板連結体31a,31b,31c,31dは、互いに幅広面部が所定長さ分ずつ重なり合いつつ、移動手摺の移動方向にずらし、伸縮連結体11として所定の長さに形成する。
【0059】
隣り合う薄板連結体31a,31bのうち、一側端側に配置される薄板連結体31aの幅広面部には移動手摺の移動方向に延びる段差ガイド溝32aが形成され、隣り合う薄板連結体31bには突起部32bが形成される。突起部32bは、薄板連結体31aの段差ガイド溝32aを貫通し、その先頭部が段差内に埋没する程度の長さとなっている。
【0060】
薄板連結体31bの突起部32bが付設された面部には突起部32bから位置をずらして移動手摺の移動方向に段差ガイド溝32aが形成される。そして、薄板連結体31bと隣り合う薄板連結体31cには同様に突起部32bが形成され、当該突起部32bが前述同様に薄板連結体31bの段差ガイド溝32aを通って段差内に埋没するように係合する。薄板連結体31cと薄板連結体31dとの関係も同様である。これら段差ガイド溝32a及び突起部32bは係合摺動部材16を構成する。
【0061】
また、薄板連結体31aと31dの端部,つまり伸縮構成体11の両端部にはユニット化された移動手摺装置2と連結するために連結部33が取り付けられている。
【0062】
また、伸縮構成体11両端部に配置される薄板連結体31aと31dの下端部には支持アーム34を介して滑車35が設けられている。
【0063】
さらに、手摺部4については、図示されていないが、滑車35、支持アーム34及び連結部33の一部を除き、ユニット化された伸縮構成体3全体を覆い被せるように配置される。
【0064】
この実施の形態においても、乗客コンベアの高速区間から低速区間に差し掛かった時、例えば伸縮構成体3を構成する滑車35に対して、適宜な手段にてトルクを加え、又は乗客コンベアの回転駆動力を伝達し、ユニット化された移動手摺装置2を構成する伸縮構成体3を縮小させる。つまり、高速区間から低速区間に差し掛かった時、隣り合う薄板連結体31a,31b,31c,31d同士が移動手摺装置2の移動方向に互いに進退可能に重なり合っているので、係合摺動部材16を通して伸縮連結体11,ひいては伸縮構成体3の全長が縮小する。このとき、伸縮構成体3を覆っている手摺部4が徐々に縮小しながら移動の速度を遅らすので、当該手摺部4は低速状態となる。
【0065】
一方、乗客コンベアの低速区間から高速区間に差し掛かった時、例えば伸縮構成体3を構成する滑車35に対して、適宜な手段にてトルクを解除し、又は乗客コンベアの回転駆動力を伝達し、ユニット化された伸縮連結体11を伸長させることができる。つまり、低速区間から高速区間に差し掛かった時、係合摺動部材16を通して隣り合う薄板連結体31a,31b,31c,31d同士の重なりを徐々に減する方向に退出させる。その結果、伸縮連結体11,ひいては伸縮構成体3の全長が伸長する。これにより、伸縮構成体3を覆っている手摺部4が伸長するので、結果として手摺部4は高速状態となる。
【0066】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。上記第1及び第2の実施の形態では、薄板連結体11a〜11d、21a〜21dにそれぞれ個別に滑車12を取り付けたが、何れか1つの薄板連結体例えば11c,21cに取り付けてもよい。
【0067】
また、第2及び第3の実施の形態では、保護部材14及び巻取り部15を設けていないが、第1の実施の形態と同様に保護部材14及び巻取り部15を設ければ、手摺部4と伸縮連結体11との干渉による劣化を防ぐことができる。
【0068】
さらに、第1及び第2の実施の形態では、薄板連結体11a〜11d、21a〜21dの両側部に係合摺動部材16を装着したが、薄板連結体11a〜11d、21a〜21dの片面側或いは交互に異なる片面側に係合摺動部材16を装着した構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る可変速式乗客コンベアの移動手摺装置の第1の実施形態を説明する伸縮構成体の斜視図。
【図2】本発明に係る可変速式乗客コンベアの移動手摺装置の一部を切り欠いた側断面図。
【図3】図1に示す伸縮構成体が支持ガイド部材の曲線部に差し掛かった際の状態変化図。
【図4】図2のB−B線矢視断面図。
【図5】本発明に係る可変速式乗客コンベアの移動手摺装置の第2の実施形態を説明する伸縮構成体の斜視図。
【図6】隣り合う2つの薄板連結体の概略透視図。
【図7】隣り合う2つの薄板連結体の対峙面の他の形態例を説明する図。
【図8】本発明に係る可変速式乗客コンベアの移動手摺装置の第3の実施形態を説明する伸縮構成体の斜視図。
【図9】図8に示す伸縮構成体の上面図。
【符号の説明】
【0070】
1…支持ガイド部材、2…移動手摺装置、3…伸縮構成体、4手摺部、11…伸縮連結体、11a〜11d、21a〜21d、31a〜31d…薄板連結体、12,35…滑車、13,33…連結部、14…保護部材、15…巻取り部、16…係合摺動部材、16a…
ガイド溝、16b…突起部、17,34…支持アーム、32a…段差ガイド溝、32b…突起部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低速区間と高速区間とに応じて可変速度で移動する可変速式乗客コンベアの移動手摺装置において、
前記乗客コンベアの可変速度に関連付けて伸縮動作する伸縮構成体と、
この伸縮構成体に覆い被さるように配置され、当該伸縮構成体の伸縮動作に応じて伸縮する特性を持った素材で形成された手摺部とを備えたことを特徴とする可変速式乗客コンベアの移動手摺装置。
【請求項2】
前記伸縮構成体は、前記手摺部の移動方向に進退可能に重ね合わされ、互いに重なり合う面部に係合摺動部材を設けた複数の薄板連結体からなる伸縮連結体と、この伸縮連結体の下部に回転可能に取り付けられ、前記可変速式乗客コンベアの欄干に設けた支持ガイド部材を回転する回転体と、前記伸縮連結体の両端部に取り付けた連結部とを設けたことを特徴とする請求項1に記載の可変速式乗客コンベアの移動手摺装置。
【請求項3】
前記伸縮構成体は、前記手摺部の移動方向に配列され、互いに向かい合う一方の面部に凸状部を形成し、かつ他方の面部に凹状部を形成し、当該凸状部及び当該凹状部を介して進退可能に嵌合するとともに、前記凸状部と前記凹状部との摺動面部に係合摺動部材を設けた複数の平板状薄板連結体からなる伸縮連結体と、この伸縮連結体の下部に回転可能に取り付けられ、前記可変速式乗客コンベアの欄干に設けた支持ガイド部材を回転する回転体と、前記伸縮連結体の両端部に取り付けた連結部とを設けたことを特徴とする請求項1に記載の可変速式乗客コンベアの移動手摺装置。
【請求項4】
前記伸縮構成体は、前記手摺部の移動方向に沿って所定距離ずつずらし、かつ垂直方向に接するように配列された複数の長方形状の薄板連結体からなる伸縮連結体と、前記薄板連結体の面部に段差ガイド溝を設け、隣り合う前記薄板連結体の面部に当該段差ガイド溝を貫通し、かつその先頭部が段差ガイド溝の段差内に埋没可能に突設した突起部を設けた係合摺動部材と、この伸縮連結体の下部に回転可能に取り付けられ、前記可変速式乗客コンベアの欄干に設けた支持ガイド部材面を回転する回転体と、前記伸縮連結体の両端部に取り付けられた連結部とを設けたことを特徴とする請求項1に記載の可変速式乗客コンベアの移動手摺装置。
【請求項5】
前記伸縮構成体は、一方の前記連結部に保護部材の一端が固定され、当該一方の連結部から前記伸縮連結体の上部に跨って配置される前記保護部材の他端部を所定の張力で巻き取る巻取り部をさらに設けたことを特徴とする請求項2ないし4の何れか一項に記載の可変速式乗客コンベアの移動手摺装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか一項に記載される前記伸縮構成体及び手摺部を1ユニットとし、これらユニットが前記連結部を介して連結し環状に連なるように構成したことを特徴とする可変速式乗客コンベアの移動手摺装置。
【請求項7】
前記回転体は、前記伸縮連結体を構成する複数の薄板連結体の少なくとも1個に取り付けることを特徴とする請求項1ないし請求項6の何れか一項に記載の可変速式乗客コンベアの移動手摺装置。
【請求項8】
前記手摺部は、低反発ウレタン素材を使用したことを特徴とする請求項1又は請求項6に記載の可変速式乗客コンベアの移動手摺装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−84231(P2007−84231A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273974(P2005−273974)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】