説明

可撓セグメント

【課題】大きな推力が加わっている状況でも、可撓セグメントから複数の推力受け部材の全てを容易に取り外すことが可能な可撓セグメントを提供すること。
【解決手段】楔部材調整用ボルト36の頭部を操作することで、枠体連結部材29の内面側連結部材29Aの支持板51に形成されたねじ孔53からの突出量を調整することができ、この突出量を調整することで、楔部材28の抜出し量を調整することができる。複数の楔部材28を順に僅かずつ枠体から離すことで、各推力受け部材25に加わる力を、均等に、かつ、徐々に低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、道路、上下水道、共同溝などの管路として用いられるシールドトンネルの途中部に配設される可撓セグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法においては、たとえばその発進位置と到達位置に、あるいは両位置とその中間の位置にそれぞれ立坑を構築し、このうち発進立坑から到達立坑へ向けてシールドマシンで地山を掘削しながら、シールドマシン内で次々にセグメントを組み立てて、推進方向に連結することでトンネルを構築している。この工法では、シールドマシンは、シールドマシンの後ろに構築しつつあるトンネルの覆工(セグメント)をジャッキで後方へ押圧し、その反力として発生する推力によって、地山を掘削しながら前進する。
【0003】
シールドトンネルは、一定断面のトンネルが構築されるのであるが、トンネルの機能や維持管理の必要性から、シールドトンネルの途中部に断面の大きな拡大区間を設ける必要がある場合がある。
この拡大区間の構築は、地上の環境や交通に与える影響を考慮して地中施工が望まれているが、この拡大区間の構築を地中で行う工法として様々なものが知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
この工法の一種として、通常断面(円形)にセグメント(セグメントリング)を組み立てた後、拡大区間に配置されたセグメント内にジャッキ等を設置し、このジャッキを用いてセグメントを拡幅するものがある。
しかしながら、この拡大作業時には、拡大区間のセグメントには、上述のシールドマシンからの大きな残存推力が存在する。この大きな残存推力のために、トンネル軸方向に圧縮応力が発生していて、この圧縮応力に起因する摩擦力のため、ジャッキを用いたセグメントの拡幅作業が困難となっていた。
【0005】
一方で、シールドトンネルにおいては、伸縮や不等沈下などに伴う変位を吸収してトンネルの破損を防止するために、その途中部の数箇所に環状の可撓セグメントが設置されている。この可撓セグメントは、間隔を開けて配置された一対の環状体の間の隙間を、環状体間に架け渡された環状の止水ゴムで止水するものである。一対の環状体の間には、推力受け部材が挿入されている。
【0006】
可撓セグメントは、シールドトンネルの掘進の際、上述したシールドマシンの推力が加わっても、推力受け部材の働きにより、シールドマシンからの推力を一対の環状体間で伝達できるようになっている。また、シールトンネルの掘進の終了後は、可撓セグメントから推力受け部材を取り外すために、一対の環状体間で推力が伝達されることもない。
そこで、本件出願人は、シールドトンネルの拡大区間に加わる残留推力を除去できるように、拡大区間の近傍に可撓セグメントを配置し、トンネル軸方向の圧縮応力を解放した状態で、拡大区間の拡幅を行う方法を考えた。
【特許文献1】特開2000−64769号公報
【特許文献2】特開2002−285786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常の可撓セグメントは、左右の枠体を一体化するためにカバープレートが設けられており、このカバープレートは、一方は全部、他方は部分的に溶接されている。そのため、地震力などの大きな荷重が加わった場合には、この部分の溶接が外れ、可撓性を示すことになる。しかし、常時においては、残存推力はこのカバープレートが負担することになるため、容易に推力受け部材を外すことができる。しかし、今回の新工法においては、完全に残存推力をなくすことを目標としていることから、カバープレートの他方は完全無溶接となっており、残存推力はすべて推力受け部材を介して伝達される。そのため、可撓セグメントに推力受け部材が複数設置されている場合、推力受け部材を順番に1つずつ取り外すとすれば、最後に取り外す推力受け部材に荷重が集中してしまい、この最後に残った推力受け部材の取外しが非常に困難となってしまう。
【0008】
そこで、この発明の目的は、推力受け部材に大きな残存推力が加わっている状況でも、可撓セグメントから複数の推力受け部材の全てを容易に取り外すことが可能な可撓セグメントを提供することである。
また、この発明の他の目的は、セグメントの拡幅作業時に発生するせん断力によって、一対の環状体間でずれが生じない可撓セグメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、シールドマシンにより掘削されるシールドトンネルの長さ方向の途中に設置される可撓セグメントであって、所定間隔開けて対向するように配置された一対の環状体と、この一対の環状体間に架け渡され、可撓性を有する止水用ゴムと、上記一対の環状体のうち一方にのみ固定され、上記環状体間に形成された隙間をほぼ全周に渡って覆うカバープレートと、上記一対の環状体間に取り外し可能に連結され、上記一対の環状体の間隔を一定に保持する環状体間隔保持部材と、上記一対の環状体間に複数介装され、シールドマシンの掘削時の推力を上記環状体間で伝達するためのものであって、その間に内方に開いた楔形の空間を形成する一対の枠体、この一対の枠体間に挿入される楔部材、および、各楔部材の抜出し量を調整することで一対の枠体の間隔を狭め、トンネル軸方向に介在する圧縮応力を解放する軸力解放手段を有する推力受け部材と、上記一対の枠体間を連結するものであり、この推力受け部材の上記一対の枠体の軸方向への相対的な移動を許容し、かつ、上記一対の枠体の少なくとも径方向への相対的な移動を規制する枠体連結部材と、を含むことを特徴とする可撓セグメントである。
【0010】
請求項1記載の発明の構成によれば、推力受け部材には残存推力が加わっているので、楔部材を少し抜けば(抜出し量を調整すれば)、一対の枠体の間隔が狭まり、一対の環状体の間隔が狭まることになる。一対の環状体の間隔が狭まることで、当該セグメントの周辺にある残存推力が吸収され、残存推力に基づく軸方向の圧縮応力を解放することができる。
【0011】
また、複数の楔部材をそれぞれ僅かずつ抜き出すことで、各推力受け部材に加わる力を徐々に低減させることができる。したがって、1つの楔部材だけに荷重が集中してしまうような事態を防止することができ、可撓セグメントからの楔部材の抜出しを容易におこなえる。
また、一対の枠体間を連結する枠体連結部材が一対の枠体の軸方向への移動を許容しつつ、上記一対の枠体の少なくとも径方向への移動を規制しているので、強い推力が加わって、一対の枠体の間隔が狭まった場合であっても、この一対の枠体が少なくとも径方向にずれてしまうようなことがない。したがって、たとえば、可撓セグメントが拡幅作業に関連して用いられる場合であっても、拡幅作業に伴って発生するせん断方向の力によって、一対の環状体が径方向にずれてしまうことを防止できる。
【0012】
さらに、この発明では、カバープレートでなく、環状体間隔保持部材が、推力受け部材と協働して、可撓セグメントの一体性を保持している。これにより、可撓セグメントの施工を良好に行える。
そして、拡幅作業がおこなわれる前に、環状体間隔保持部材が取り外されれば、その後は、一対の環状体間では残存推力の伝達はほとんどおこなわれない。これにより、施工時には、可撓セグメントの一体性を保持しつつ、拡幅作業前には、一対の環状体間で残存推力の伝達をほぼ完全になくすことができる。
【0013】
請求項2記載の発明は、上記推力受け部材の軸力解放手段は、上記枠体連結部材に支持され、この枠体連結部材から上記楔部材に向かって突出する支柱を有しており、この支柱は、推力が加わって上記一対の枠体間から内方に向けて抜け出そうとする上記楔部材を、上記一対の枠体間に向けて押圧するものであり、上記支柱の枠体連結部材からの突出量を調整することで、楔部材の抜出し量が調整されるものであることを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明の構成によれば、枠体連結部材を用いた楔部材の抜出し量の調整がおこなわれるので、他の大掛かりな部材が必要でなく、部品点数を減らすことができる。
また、請求項3に記載のように、上記一対の環状体間に配置され、環状体間で止水を達成する止水部材をさらに含み、止水部材は、ウレタンに、体積率で20%以上の発泡樹脂を混入して形成されているものであってもよい。
【0015】
環状体に配置される止水部材は、環状体に加わる残存推力によって圧縮してしまうことも考えられる。このため、止水部材としてウレタン等の体積弾性率が高い素材を用いると、大きな反力が発生することが予想される。この発明によれば、止水部材に20%以上の発泡スチレンを混入したため、体積圧縮弾性率を低く抑えることができ、残存推力により止水部材が圧縮されたとしても、大きな反力が発生しない。発泡樹脂としては、発泡スチレンが挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の可撓セグメントが適用されるシールドトンネルの概観図である。このシールドトンネルTは、シールドマシン内で次々にセグメントを組み立てて、推進方向に連結することで構築される。このシールドトンネルTの大部分は断面形状が円形の通常区間T1であるが、途中部において、セグメント(セグメントリング)が水平方向に拡幅された、断面形状が楕円形状の拡幅区間T2が設けられる。この拡幅区間T2は、上下方向の径は、通常区間T1の径と同じR1であるが、水平方向の径R2は、通常区間T1の径R1よりも大きく形成されている。この拡幅区間T2は、道路トンネルの非常駐車帯や、共同溝のケーブル接続部などの用途に用いられる。
【0017】
図2および図3は、本発明の可撓セグメントが適用されるシールド工法の構造を示す断面図である。図2は、トンネルを水平方向に切断して、上方から見た断面図、図3は、シールドマシンの掘進方向に直交する面で切断した断面図である。
図2および図3を参照して、シールドマシンは、筒状のシールド本体1を有しており、そのシールド本体1の前面には、地山を掘削するための第1カッタ部2が配設されている。また、シールド本体1の外周面の前端位置には、シールド本体1よりも径方向外方へと突出可能な拡大区間掘削用の第2カッタ部3が配設されている。また、シールド本体1の外周面には、地山を保持するための充填材を機外に注入するための複数の充填材注入口4が、円周方向にほぼ等間隔に配置されている。
【0018】
通常区間T1のシールドトンネルの掘削時は、第2カッタ部3は使用されず、第1部カッタ部2のみを使用して地山の掘削が行われる(図2(a)参照)。このとき掘削されるトンネルの断面は直径がR1の円形のものである。通常区間T1のシールドトンネルの掘削が進み、シールド本体1の先端が予め定められた所定の拡大区間T2の手前に到達したとき(図2(b)参照)、第2カッタ部3が径方向外方に向けて突出する。第2カッタ部3は、シールド本体1の全周に渡って配置された複数の歯3aを有しており(図3(a)参照)、この第2カッタ部3を用いて楕円形のトンネルを掘削できるように、各歯3aの突出量が調整されている。この拡大区間T2においては、第1カッタ部2および第2カッタ部3を使用してトンネルの掘削が行われ、円形のシールドトンネルよりも横幅が拡げられた楕円形のトンネルが掘削される(図3(a)参照)。このトンネルの水平方向の径はR2である。
【0019】
楕円形のトンネルの掘削開始と同時に、充填材注入口4から充填材5が注入される。掘削が進むと、水平方向に余分に掘られたスペースは、充填材5で充填されるようになる(図2(c)、図3(b)参照)。
シールド本体1のテール部が拡大区間T2を通過した後は、第2カッタ部3は退避位置に収納され、その後は、再び第1カッタ部2のみでトンネルが掘削される。このとき、掘削されるトンネルは断面が直径R1の円形である。シールドマシンの推進により次々にセグメントが組み立てられて行き、拡大区間T2には、セグメントSG1、SG2、SG3が順に組み立てられて行く。このセグメントSG1、SG2、SG3の断面形状は、他のセグメントと同じ円形である。この拡大区間のセグメントSG1の2つ後方に設置されたセグメントが、本発明にかかる可撓セグメント10である。シールドマシンが通過して、拡大区間T2のセグメントSG1、SG2、SG3にシールドマシンからの推力が加わらなくなった状態で、拡大区間T2のセグメントSG1、SG2、SG3の拡幅作業が行われる。
【0020】
具体的には、この拡大区間T2のセグメントSG1、SG2、SG3の上内周面と下内周面との間の複数の位置には、一対の補強材6が鉛直方向に設置される(図2(d)、図3(c)参照)。そして、この一対の補強柱6の間に、複数のジャッキ7が設置される。このジャッキ7を駆動させることにより、一対の補強柱6間に互いに離反する方向に大きな力が加わり、拡大区間T2のセグメントSG1、SG2、SG3は水平方向に拡大する。このようにして、拡大区間T2のセグメントSG1、SG2、SG3は、断面楕円形を有するようになる(図3(d)参照)。また、ジャッキ7の駆動と同時に、充填材5が充填材注入口4から回収され始める。その後、セグメントSG1、SG2、SG3からジャッキ7や補強柱6が取り外され、シールドトンネルTの拡大区間の構築が完成する(図2(e)、図3(e)参照)。
【0021】
このように、この拡幅作業は、一旦断面円形に構築されたセグメントSG1、SG2、SG3を径方向外方に押し拡げることで、トンネル断面を拡幅するものである。
しかしながら、この拡大区間T2のセグメントSG1、SG2、SG3には、シールドマシンからの大きな残存推力が存在している。この大きな残存推力のために、トンネル軸方向に圧縮応力が発生していて、この圧縮応力に基づく摩擦力のため、ジャッキ7を用いたセグメントSG1、SG2、SG3の拡幅作業が困難となっていた。
【0022】
この実施形態では、摩擦力を生じ難くするために、拡大区間T2の後端のセグメントSG1の2つ後方に可撓セグメント10を配置している。可撓セグメント10は、シールドマシンの推進時には、その前後のセグメントにシールドの推力を伝達するものである。そして、シールドマシンの推力がかからなくなった時点で、後述する可撓セグメントの推力受け部材の楔部材を少しだけ抜けば、可撓セグメント10が軸方向に少しだけ圧縮され、これにより、その周辺に存在するセグメントにおいて残留応力が除去される。可撓セグメント10を拡大区間T2のセグメントSG1、SG2、SG3の近傍に設置し、拡幅作業の前に楔部材を少しだけ抜くことで、拡大区間T2のセグメントSG1、SG2、SG3に加わる残留応力を除去でき、軸方向の圧縮応力が解放される。その後、セグメントSG1、SG2、SG3の拡幅作業を行うことで、この拡幅作業を容易に行える。
【0023】
図4は、本発明に係る可撓セグメントの連結部分における縦断面図である。
可撓セグメント10は、図4に示すような環状体11として、一対のセグメント間に配置される。この環状体11は、シールドトンネルTの周方向に複数(6個)に分割された分割片11A、11B、11C、11Dをその端面板12同士で連結し、ボルト13等によって互いに固定することによって、環状に組み立てられている。この図では、後述する推力受け部材25、一次止水部材17、二次止水ゴム18等の部材は省略している。
【0024】
図5は、図4に示す可撓セグメントをA−A矢視方向に見た断面図である。本発明にかかる可撓セグメント10は、一対の環状体11、11を所定間隔開けつつ、互いに整合する位置に隣接配置させたものである。
図5を参照して、各環状体11は、周方向に延びる外主桁14および内主桁15と、環状体11の外周をなすスキンプレート16とを備えている。一対のスキンプレート16、16は、隙間Sを開けて配置されていて、一対のスキンプレート16、16間(隙間S)には一次止水部材17(止水部材)が介在させられている。さらに、一対のスキンプレート16、16間には、可撓性を有する二次止水ゴム18(止水用ゴム)が架け渡されている。
【0025】
外主桁14は、扇形形状の鋼板であって、この可撓セグメント10に隣接して配置されるセグメントSG10、SG11の端面に、ボルト19(図7参照)により固定されるものである。内主桁15は、外主桁14の軸方向内方に、外主桁14に対向して配置された扇形形状の鋼板である。20は、可撓セグメント10の外主桁14とセグメントSG10、SG11との間に配置されて、漏水を防止するパッキンである。
【0026】
スキンプレート16は、外主桁14および内主桁15に連接してなる鋼製の円弧状部材である。シールドマシンの推進時に十分な強度を付与できるように一定の肉厚に設計されている。
また、スキンプレート16の外周には、環状のカバープレート21が取り付けられている。このカバープレート21は、一対の環状体11、11間の隙間Sを全周にわたって覆うものである。つまり、カバープレート21は、前側のスキンプレート16Aと後側のスキンプレート16Bとを跨いで覆うものであり、スキンプレート16と、環状体11の外周面をなしている。
【0027】
カバープレート21は、後側のスキンプレート16Bにはタック溶接にて固定されているが、前側のスキンプレート16Aには固定されていない。カバープレート21が一対のスキンプレート16A、16Bの双方に固定されていないので、楔部材28を僅かだけ抜いた状態で、カバープレート21および一対のスキンプレート16A、16Bを介して、環状体11間に残存推力が伝達されることを防止できる。
【0028】
特に、カバープレート21は環状であるので、仮にカバープレート21が一対のスキンプレート16A、16Bの両方に固定されているとすれば、ある程度残存推力が伝達されることが予想されるが、このカバープレート21による推力の伝達をなくすことで、環状体11間の残存推力の伝達をより最低限に抑えることができる。
一次止水部材17は、一対のスキンプレート16A、16B間(隙間S)で止水作用を示すものである。この実施形態では、一次止水部材17は、ウレタンに、体積比率で20パーセント以上の発泡スチレンを混入して形成されている。
【0029】
一次止水部材17は、一対のスキンプレート16A、16B間(隙間S)、カバープレート21の内面に挟まれた狭い空間に配置されており、環状体11に加わる残留推力によって一次止水部材17が圧縮されてしまうことも考えられる。特に、カバープレート21が一対のスキンプレート16A、16Bの双方に固定されていないこの実施形態では、一次止水部材17に加わる応力は非常に大きい。かかる場合に、一次止水部材17としてウレタンを使用するとすれば、ウレタンは体積弾性率が高いため、大きな反力が発生することが予想される。発泡スチレンが混入されたウレタンを一次止水部材17に使用することで、体積圧縮弾性率を低く抑えることができ、これにより、大きな反力が発生してしまうことを防止できる。
【0030】
二次止水ゴム18は、可撓性を有する止水部材であって、大きな変位にも対応して変形をなし得る部材である。二次止水ゴム18は、押さえ板22およびボルト23により、スキンプレート16A、16Bの内周面に直接固定されている。
内主桁15、15間には、推力受け部材25が配置されている。推力受け部材25は、内主桁15間にボルト26で固定された一対の枠体27、27と、この一対の枠体27、27の間に介装される楔部材28とを有している。推力受け部材25は、トンネルの掘削時には、一対の枠体27、27と楔部材28との両方でジャッキ推力を受け、一対の環状体11、11間で推力が伝達される。シールドからの推力がかからなくなった時点で、楔部材28を一対の枠体27、27間から少しだけ抜けば、残存推力により一対の枠体27、27の間隔が狭まり、一対の環状体11、11の間隔が狭まる。これにより、可撓セグメント10の周辺で、加わる残留応力を除去でき、軸方向の圧縮応力が解放される。この推力受け部材25の一対の枠体27、27は、枠体連結部材29によって連結されている。
【0031】
図6は、推力受け部材および枠体連結部材の構造を示す斜視図である。各枠体27は、各内主桁15の端面に当接する取付け板33と、この取付け板33に対向するように配置され、楔部材28の傾斜面が当接する当接板34と、取付け板33および当接板34の両端同士を繋ぐ一対の連結板35A、35Bとを有している。取付け板33、当接板34および連結板35A、35Bは、鋼板を用いて形成されている。当接板34は、楔部材38に形状に合致するように内向きに傾斜していて、両枠体27、27の当接板34、34により、内側に向いてハの字状に開いた空間が形成されている。
【0032】
楔部材28は、両側に傾斜面を有していて、台形形状の側面形状を有しており、全体が楔形に形成されている。楔部材28は、一対の枠体27、27により形成された内側に開いた空間内に挿入されている。なお、傾斜面同士の傾斜角度θは、15°から35°の範囲であることが望ましい。傾斜角度θがこの範囲内であれば、人力であっても、後述する楔部材調整用ボルト36を良好に回転させることができる。
【0033】
枠体連結部材29は、一対の枠体27、27間を跨るように連結するものである。枠体連結部材29は、一対の枠体27、27の内側の連結板35Bに取り付けられる内側連結部材29Aと、この内側連結部材29Aを挟むように配置されていて、一対の枠体27、27に周方向の双方から取り付けられる一対の側方連結部材29B、29Cとを備えている。内面側連結部材29Aと一対の側方連結部材29B、29Cとは、溶接によって一体に固定されている。
【0034】
内面側連結部材29Aは、所定幅を有したアーチ状の鋼材であって、各枠体27に取り付けられる一対の取付け板50と、この取付け板50と平行で、枠体27への取付け状態で取付け板50の内側に配置される支持板51とを有している。各取付け板50には、軸方向に長い長孔52が2個形成されている(図6では、一方の取付け板50の長孔52のみ図示)。枠体連結部材29の推力受け部材25への取付けの際は、連結部材取付用ボルト30を、枠体連結部材29の内面側連結部材29Aの長孔52を通じて、枠体27の連結板35Bに形成されたねじ孔(図示しない)にねじ止めする。支持板51には、後述する楔部材調整用ボルト36とねじ係合するねじ孔53が形成されている。
【0035】
一対の側方連結部材29B、29Cは、同形状のものである。各側方連結部材29B、29Cは、中央に開口を有する略正方形状を有した鋼板であり、図で示す上辺近傍には、軸方向に長い長孔54が2個形成されている。枠体連結部材29の推力受け部材25への取付けの際は、連結部材取付用ボルト31を、枠体連結部材29の内面側連結部材29B、29Cの長孔54を通じて、枠体27内の板材(図示しない)に形成されたねじ孔(図示しない)にねじ止めする。
【0036】
一対の枠体27、27には、内方は内面側連結部材29Aが、また、両側方は一対の側方連結部材29B、29Cがあてがわれている。したがって、枠体連結部材29の推力受け部材25への取付け後は、一対の枠体27、27について、径方向や周方向の相対的な移動が規制されている。一方で、枠体連結部材29を一対の枠体27、27に取り付ける連結部材取付用ボルト30、31がすべて、軸方向に長い長孔52、54を通っているため、枠体連結部材29の推力受け部材25への取付け状態では、一対の枠体27、27の軸方向への相対的な移動が許容されている。つまり、一対の枠体27、27は、径方向や周方向に対しては相対的に移動できないが、軸方向には相対的に移動することが可能となる。したがって、可撓セグメント10が拡幅作業に関連して用いられる場合であっても、拡幅作業に伴って発生するせん断方向の力によって、一対の環状体11、11が径方向にずれてしまうことを防止できる。
【0037】
楔部材調整用ボルト36は、内面側連結部材29Aの支持板51のねじ孔53にねじ込み、その状態で、先端にナット37を溶接固定したものである。ナット37は、楔部材28の内面28aを押圧するためのものである。楔部材調整用ボルト36のねじ込み量を増やすと、ナット37が楔部材28を押圧するようになる。
楔部28は、楔部材調整用ボルト36と一体的に取り扱われる。具体的には、枠体連結部材29の推力受け部材25への取付け後に、楔部材調整用ボルト36のねじ込み量を増やし、ナット37が楔部材28に当接するようになった時点で、固定ピース38(図8(a),(b)参照)により、楔部材調整用ボルト36のナット37を、楔部材28にボルト固定する。
【0038】
シールドマシンによる推進時や、上述した可撓セグメント10の圧縮時には、推力受け部材25の一対の枠体27、27に非常に大きな力が加わり、これにより、楔部材28には、内方に抜け出ようとする力が働いている。楔部材調整用ボルト36は、楔部材28を外方に押圧して、楔部材28が一対の枠体27、27間に挿入されている状態を支持するものである。
【0039】
また、楔部材調整用ボルト36の頭部を操作することで、枠体連結部材29の内面側連結部材29Aの支持板51に形成されたねじ孔53からの突出量を調整することができるようになっている。このため、この突出量を調整することで、楔部材28の抜出し量を調整することができる。楔部材調整用ボルト36、ナット37および枠体連結部材29のねじ孔53により、トンネル軸方向に介在する圧縮応力を解放する軸力解放手段をなしている。
【0040】
図7は、図4に示す可撓セグメントをB−B矢視方向に見た断面図である。
一対の内主桁15、15間には、推力受け部材25だけでなく、内主桁15間を連結する内主桁連結部材(環状体間隔保持部材)40が配置されている。この内主桁連結部材40は、長手の鋼材であり、断面L字状を有している。内主桁連結部材40の端部は、ボルト41によって双方の内主桁15に固定されている。この内主桁連結部材40は、可撓セグメント10の施工時に、推力受け部材25と協働して可撓セグメント10の一体性を保持するものである。この実施形態では、カバープレート21が後側のスキンプレート16Bにしか固定されていないので、カバープレート21によって可撓セグメント10の一体性は達成されないが、内主桁連結部材40を設けることで、可撓セグメント10の一体性を達成することができる。内主桁連結部材40は、拡幅作業がおこなわれる前に取り外される。取外し後は、一対の環状体11、11間においては、残存推力の伝達はほとんどおこなわれない。
【0041】
次に、セグメントSG10、SG11、SG12の拡幅作業前に行われる可撓セグメント10の圧縮について説明する。
図8(a)は、シールドの推進時における推力受け部材および枠体連結部材を示す図であり、図8(b)は、図8(a)の状態から、楔部材調整用ボルト36を緩めた状態を示す図である。図8(a)では、推力受け部材25全体に加わる推力により、一対の枠体27、27間には大きな力が働き、楔部材28にも一対の枠体27、27間から抜け出ようとする力が働いている。
【0042】
この状態で、楔部材調整用ボルト36が緩められると(楔部材28と支持板51(ねじ孔53)とが近接する方向に回転されると)、楔部材28が一対の枠体27、27間から抜け出る。上述のように、一対の枠体27、27は、上述のように径方向や周方向に対しては相対的に移動できないが、軸方向には相対的に移動することが許容されているので、楔部材28の抜出し動作に伴って、相互に近づくように移動する。これにより、一対の枠体27、27の間隔が狭まり、これにより、セグメント10の幅が狭まる。
【0043】
分割体11Aには7つの推力受け部材25が、分割体11B、11Cには6つの推力受け部材25が、分割体Dには2個の推力受け材25が設置されている。図9を参照して、複数ある推力受け部材25について、楔部材28を、僅かずつ、推力受け部材25の枠体27から抜き出していく。全ての分割体11A〜11Dに対し楔部材28の調整を一通り行った後は、再度、同じ順番で、楔部材28を僅かずつ枠体27から抜き出す。この作業は、一対の環状体11、11の間隔が予め定める程度に狭まるまで繰り返す。
【0044】
この実施形態によれば、各楔部材28を、順に、僅かずつ枠体27から離すことで、各推力受け部材25に加わる力を、均等に、かつ、徐々に低減させることができる。したがって、1つの楔部材28だけに大きくの推力が加わって荷重が集中してしまうような事態を防止でき、可撓セグメント10からの楔部材28の抜き出しが容易に行える。
そして、可糖セグメント10の縮小後は、拡大区間T2に加わるトンネル軸方向の圧縮応力を除去でき、摩擦力が低減された状態でセグメントSG10、SG11、SG12の拡幅作業を行うことができる。これにより、拡幅作業がより容易に行える。
【0045】
なお、この発明は、上述の実施の形態に限定されない。
上述の説明では、可撓セグメント10を拡大区間T2の後方に配置するものについて説明したが、拡大区間T2の前方に配置してもよいし、拡大区間T2の前方と後方の双方に配置するものであってもよい。
その他、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の設計変更を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の可撓セグメントが適用されるシールドトンネルの概観図である。
【図2】本発明の可撓セグメントが適用されるシールド工法の構造を示す、トンネルを水平方向に切断して、上方から見た断面図である。
【図3】本発明の可撓セグメントが適用されるシールド工法の構造を示す、シールドマシンの掘進方向に直交する面で切断した断面図である。
【図4】本発明に係る可撓セグメントの連結部分における縦断面図である。
【図5】図4に示す可撓セグメントをA−A矢視方向に見た断面図である。
【図6】推力受け部材および枠体連結部材の構造を示す斜視図である。
【図7】図4に示す可撓セグメントをB−B矢視方向に見た断面図である。
【図8】セグメントの拡幅作業前に行われる可撓セグメントの圧縮を説明する図である。(a)は、シールドの推進時における推力受け部材および枠体連結部材を示す図であり、(b)は、(a)の状態から、楔部材調整用ボルトを緩めた状態を示す図である。
【図9】楔部材を抜き出す工程を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
T シールドトンネル
11 環状体
16 第一止水部材(止水部材)
17 第二止水ゴム(止水用ゴム)
21 カバープレート
25 推力受け部材
27 枠体
28 楔部材
29 枠体連結部材
36 楔部材位置調整用ボルト(軸力解放手段、支柱)
37 ナット(軸力解放手段)
40 内主桁連結部材(環状体間隔保持部材)
53 ねじ孔(軸力解放手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールドマシンにより掘削されるシールドトンネルの長さ方向の途中に設置される可撓セグメントであって、
所定間隔開けて対向するように配置された一対の環状体と、
この一対の環状体間に架け渡され、可撓性を有する止水用ゴムと、
上記一対の環状体のうち一方にのみ固定され、上記環状体間に形成された隙間をほぼ全周に渡って覆うカバープレートと、
上記一対の環状体間に取り外し可能に連結され、上記一対の環状体の間隔を一定に保持する環状体間隔保持部材と、
上記一対の環状体間に複数介装され、シールドマシンの掘削時の推力を上記環状体間で伝達するためのものであって、その間に内方に開いた楔形の空間を形成する一対の枠体、この一対の枠体間に挿入される楔部材、および、各楔部材の抜出し量を調整することで一対の枠体の間隔を狭め、トンネル軸方向に介在する圧縮応力を解放する軸力解放手段を有する推力受け部材と、
上記一対の枠体間を連結するものであり、この推力受け部材の上記一対の枠体の軸方向への相対的な移動を許容し、かつ、上記一対の枠体の少なくとも径方向への相対的な移動を規制する枠体連結部材と、
を含むことを特徴とする可撓セグメント。
【請求項2】
上記推力受け部材の軸力解放手段は、上記枠体連結部材に支持され、この枠体連結部材から上記楔部材に向かって突出する支柱を有しており、
この支柱は、推力が加わって上記一対の枠体間から内方に向けて抜け出そうとする上記楔部材を、上記一対の枠体間に向けて押圧するものであり、
上記支柱の枠体連結部材からの突出量を調整することで、楔部材の抜出し量が調整されるものであることを特徴とする請求項1記載の可撓セグメント。
【請求項3】
上記一対の環状体間に配置され、環状体間で止水を達成する止水部材をさらに含み、 止水部材は、ウレタンに、体積率で20%以上の発泡樹脂を混入して形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の可撓セグメント。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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