説明

可撓性基板の位置制御装置

【課題】簡潔な機構により応答性に優れた位置制御を実現でき、逆方向への搬送を含む往復プロセスにも対応可能な可撓性基板の位置制御装置を提供する。
【解決手段】可撓性基板(1)を案内すべく回転可能に定配置されたガイドロール(3)と、前記ガイドロールに前記可撓性基板を圧接するプレスロール(4)と、前記プレスロールに加圧力を付与する加圧手段(5,5a,5b)と、前記加圧力を制御する制御手段(50)と、前記可撓性基板の幅方向位置を検出する位置センサ(6)と、を備え、前記加圧手段(5a,5b)は、前記プレスロールの幅方向各側で個別に加圧力を調整可能であり、前記制御手段(50)は、前記位置センサによって検出される前記可撓性基板の幅方向変位に応じて、プラス変位側における加圧力が、マイナス変位側における加圧力よりも相対的に大きくなるように、前記プレスロールの幅方向各側に配分される加圧力を制御し、前記可撓性基板を相対的に加圧力が小さいマイナス変位側に誘導するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状の可撓性基板を搬送しその搬送経路にて前記基板に成膜等の処理を行なう装置における可撓性基板の幅方向位置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体薄膜などの薄膜積層体の基板には、通常、剛性基板が用いられる。しかしながら、例えば、太陽電池等に使用される光電変換素子の基板には、軽量で取り扱いが容易であるといった利便性や、大量生産によるコスト低減を目的として、プラスチックフィルムなどの可撓性基板も用いられている。
【0003】
このような可撓性基板を用いて薄膜積層体を製造する装置には、可撓性基板を連続的に搬送しながら(走行させながら)成膜を行う方式(ロールツーロール方式)と、可撓性基板を所定のピッチで間欠的に搬送し、各停止期間中に順次成膜を行う方式(ステップロール方式)とがある。さらに、可撓性基板の搬送形態によって、横姿勢すなわち帯状可撓性基板の幅方向を水平方向にして搬送しつつ成膜を行なうタイプと、縦姿勢すなわち帯状可撓性基板の幅方向を上下方向にして搬送しつつ成膜を行なうタイプがある。後者は、前者に比べて基板表面が汚染されにくい等の利点があるが、成膜室の増加などで搬送スパンが長くなると、自重による垂れ下がりを無視できなくなる。また、何れのタイプにおいても、巻出しロールと巻取りロールとの間で長尺の帯状可撓性基板を搬送することに伴い、基板の幅方向の位置ずれや蛇行現象を生じ易いので、このような位置ずれを補正する手段が不可欠である。
【0004】
そこで、特許文献1,2には、可撓性基板の搬送経路上において、可撓性基板を案内するローラの角度や位置を制御して、可撓性基板の位置ずれや蛇行を修正するようにした位置制御装置(EPC装置)が開示されている。しかし、このような位置制御装置は、EPCローラの角度や位置を制御する機構が大掛かりになり、広い設置スペースが必要になる。さらに、修正結果が反映されるのにある程度の搬送距離(したがって応答時間)を必要とし、制御がオーバーシュートし易い問題があった。また、可撓性基板を逆方向に搬送する場合にはEPCローラの角度を反転させる必要があり、可撓性基板の逆方向への搬送を含む往復プロセスに直ちに適用できない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−124758号公報
【特許文献2】特開平8−301494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡潔な機構により応答性に優れた可撓性基板の位置制御を実現可能であると共に、可撓性基板の逆方向への搬送を含む往復プロセスにも対応可能な可撓性基板の位置制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することを目的として、本発明は、
長手方向に所定の張力を付与されて搬送される帯状可撓性基板の幅方向位置を制御する位置制御装置であって、
前記可撓性基板を案内すべく回転可能に定配置されたガイドロールと、
前記ガイドロールに前記可撓性基板を圧接するプレスロールと、
前記プレスロールに加圧力を付与する加圧手段と、
前記加圧力を制御する制御手段と、
前記可撓性基板の幅方向位置を検出する位置センサと、を備え、
前記加圧手段は、前記プレスロールの幅方向各側で個別に加圧力を調整可能であるかまたは前記プレスロールの幅方向各側に配分される加圧力の比を調整可能であり、
前記制御手段は、前記位置センサによって検出される前記可撓性基板の幅方向変位に応じて、プラス変位側における加圧力が、マイナス変位側における加圧力よりも相対的に大きくなるように、前記プレスロールの幅方向各側に配分される加圧力を制御し、前記可撓性基板を相対的に加圧力が小さいマイナス変位側に誘導するように構成されている、可撓性基板の位置制御装置にある。
【0008】
本発明の好適な態様では、前記ガイドロールで案内される区間における前記可撓性基板の張力調整手段をさらに備えている。この態様においては、前記制御手段は、前記位置センサの検出値が所定の閾値以上となった場合に、前記加圧力の制御と並行して、前記張力調整手段によって前記可撓性基板の張力を一時的に低下させるように構成されていることが好適である。また、前記制御手段は、前記位置センサの検出値が、前記閾値より小さい第2の閾値以上である状態が所定時間以上持続した場合または所定以上の頻度で検出された場合に、前記加圧力の制御と並行して、前記張力調整手段によって前記可撓性基板の張力を一時的に低下させるように構成されていても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る可撓性基板の位置制御装置は、上述したように、プレスロールの幅方向各側の加圧力を制御することで、可撓性基板を相対的に加圧力が小さい側に誘導する構成であるため、構造が簡素で設置スペースが小さくて済み、既存のガイドロールにプレスロールを追加する形態での実施も可能である。また、可動部分が少なく、位置センサを制御部となるプレスロールの近傍に設置可能であるため、応答性に優れた位置制御を実現可能である。さらに、プレスロールによって可撓性基板に付与される幅方向の制御力は、搬送方向に依存しないので、可撓性基板の逆方向への搬送を含む往復プロセスにも直ちに対応可能である。
【0010】
上記のような可撓性基板の幅方向位置の制御は、制御が実施されるガイドロール/プレスロールの挟持部分における可撓性基板の張力に影響を受ける。本発明において、前記ガイドロールで案内される区間における前記可撓性基板の張力調整手段をさらに備えている態様では、張力調整手段により、制御が実施される区間の張力を必要に応じて補償または緩和して一定に維持することができるので、制御を安定化させるうえで有利である。
【0011】
一方、可撓性基板の張力に影響を受ける本発明に係る位置制御の上記特徴を、大きな制御力を必要とする場合に積極的に利用することもできる。
【0012】
すなわち、本発明において、前記制御手段は、前記位置センサの検出値が所定の閾値以上となった場合に、前記加圧力の制御と並行して、前記張力調整手段によって前記可撓性基板の張力を一時的に低下させるように構成されている態様では、可撓性基板の張力を一時的に低下させることで、プレスロールの加圧力制御により、可撓性基板に対して幅方向に大きな制御量を与え、位置制御の即効性を高めることができる。
【0013】
さらに、本発明において、前記制御手段は、前記位置センサの検出値が、前記閾値より小さい第2の閾値以上である状態が所定時間以上持続した場合または所定以上の頻度で検出された場合に、前記加圧力の制御と並行して、前記張力調整手段によって前記可撓性基板の張力を一時的に低下させるように構成されている態様では、可撓性基板の幅方向位置に恒常的な変位が存在するような場合に、可撓性基板の張力を一時的に低下させることで、位置制御の実効性を高め、恒常的な変位を解消することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る基板位置制御装置の概要を示す斜視図であって、基板位置制御装置を実施した第1実施形態の薄膜積層体製造装置(巻取り部付近)を示す概略斜視図である。
【図2】図1の要部概略縦断面図である。
【図3】本発明に係る基板位置制御装置を実施した第2実施形態の薄膜積層体製造装置を示す概略平断面図である。
【図4】本発明に係る基板位置制御装置を実施した第3実施形態の薄膜積層体製造装置を示す概略平断面図である。
【図5】可撓性基板の張力と幅方向変位量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明において、各実施形態に共通または対応する構成には、共通または対応する符号を付すことで説明を省略する場合がある。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る基板位置制御装置の概要を示す斜視図であって、本発明に係る基板位置制御装置100を実施した薄膜積層体製造装置の巻取り部付近のみを示している。この薄膜積層体製造装置は、可撓性基板1を縦姿勢で横方向に搬送し、その搬送経路に設置された図示しない成膜部において、可撓性基板1に薄膜を積層形成し、図1に示されるような巻取りロール12に巻き取る構成を備えている。
【0017】
第1実施形態の基板位置制御装置100は、主として巻取りロール12に巻き取られる可撓性基板1の幅方向位置を一定に維持し、巻きずれを防止して良好な巻層形成を行う目的で設置されており、巻取りロール12の直前に回転可能に定配置されたガイドロール3、該ガイドロール3に可撓性基板1を全幅に亘って圧接されるプレスロール4、該プレスロールに加圧力を付与する加圧手段5、可撓性基板1の上下幅方向位置を検出する位置センサ6、可撓性基板1の張力調整手段7などから主に構成されている。
【0018】
ガイドロール3は、可撓性基板1の搬送方向と直交する幅方向に平行な軸を中心として回転自在に支持された円筒ロールであり、その周面に可撓性基板1を巻き掛け全幅に亘って案内可能である。ガイドロール3に可撓性基板1が巻き掛けられる巻き付き角度は、特に限定されるものではないが、本発明に係る位置制御を効果的に実施するためには、適度な巻き付き張力が得られる巻き付き角度に設定されることが好ましい。巻き付き角度が少ないかまたはゼロであると、位置制御に巻き付き張力を利用できず、一方、巻き付き角度が過大であると、ガイドロール3に対して可撓性基板1が幅方向に移動し難くなり、位置制御が働きにくくなる。
【0019】
プレスロール4は、図2に示されるように、中心部を貫通する支軸51にベアリングを介して回動自在に支持されている。支軸51は、プレスロール4の上下両側でガイド部材52,52によって案内され、ガイドロール3に対して接離可能であるとともに、支軸51の上下各側の端部は、加圧手段5を構成するアクチュエータ5a,5bの出力ロッドに回動可能に連結されている。
【0020】
アクチュエータ5a,5bとしては、モータとボールねじ機構などを組み合わせたリニアアクチュエータや、流体圧シリンダなどの流体圧リニアアクチュエータなどを使用可能であり、出力ロッドの回動連結部などに装着された荷重センサ5c,5dにより検出される加圧力Pa,Pbが目標値となるように、加圧力制御部50によってフィードバック制御される。上下各側のアクチュエータ5a,5bは、位置センサ6の検出値に基づいて個別に制御され、プレスロール4の上下各側に付与される加圧力Pa,Pbの配分と総計値を任意に制御可能である。荷重センサ5c,5dとしては、歪みゲージ式、圧電式など周知の形式を使用できる。
【0021】
位置センサ6は、可撓性基板1の上下各側の縁部の位置を検出するものであり、可撓性基板1の縁部を挟むように設置された投光部と受光部とからなる光学式位置センサ(フォトヘッド)や、CCDイメージセンサなど、可撓性基板1の縁部位置を非接触で連続的に検出可能なセンサが好適に使用可能である。なお、可撓性基板1の幅方向の伸びや皺による変位差が想定される場合には、上下各側それぞれに位置センサ6が設置される必要があるが、そうでなければ、上下何れか一方のみに位置センサ6が設置されても良い。位置センサ6の検出値は縁部位置制御部60に取得され、縁部位置制御部60は、可撓性基板1の縁部位置情報に基づく制御信号を加圧力制御部50や張力制御部70に出力する。
【0022】
張力調整手段7は、基本的にガイドロール3に巻き掛けられる可撓性基板1の長手搬送方向の張力を検出・調整するものであるが、本発明では、状況に応じて、可撓性基板1の位置制御手段として積極的に利用される。すなわち、張力制御部70は、巻取り張力(搬送張力)を一定に維持する制御の他に、縁部位置制御部60からの制御信号によって積極的に張力制御を行う場合がある。なお、本実施形態は、可撓性基板1の巻取り位置の制御を目的としているため、張力調整手段7が、巻取りロールコア張力の検出・調整システムによって代用されているが、後述する実施形態のように、別途、テンションロールを設置することもできる。
【0023】
次に、上記実施形態に基づいて、可撓性基板1の幅方向位置制御について説明する。
【0024】
図1に示す巻取り部において、可撓性基板1は、ガイドロール3で案内されて巻取りロール12に巻き取られる。その際、可撓性基板1の上下各側縁部の位置は、位置センサ6によって連続的に検出され、位置のずれが検出されない場合には、ガイドロール3に圧接されるプレスロール4の上下各側に付与される加圧力Pa,Pbは同等に維持される。しかし、位置センサ6に上下何れかの位置ずれが検出された場合には、次のように、加圧力Pa,Pbが補正される。
【0025】
例えば、図2に示すように、位置センサ6に、可撓性基板1の基準位置(y=0)に対して、下方の変位(−y)が検出された場合には、縁部位置制御部60から変位(−y)に応じた制御信号が加圧力制御部50に送られ、加圧力制御部50は、変位方向と反対側となる上側のアクチュエータ5aの加圧力Paを変位(−y)に応じて減少させる。
【0026】
すると、プレスロール4の加圧面には、図2に示すように、上下各側でPa〜Pbの圧力勾配を生じ、プレスロール4によってガイドロール3に押し付けられている可撓性基板1は、加圧力の総計値がさらに減少する上方に移動する。この時、プレスロール4の加圧力が緩和された分だけ可撓性基板1が移動し易くなっており、それによって移動が促進される効果もある。
【0027】
上記のような可撓性基板1の上方への移動によって、下方の変位(−y)が減少すれば、それに応じた制御信号が加圧力制御部50に送られ、アクチュエータ5aの加圧力Paは、減少した変位分に応じた値まで回復され、それに伴い、上下各側でPa〜Pbの圧力勾配も緩和され、可撓性基板1の上方への移動速度は減速される。したがって、このようなフィードバック制御により、可撓性基板1は基準位置(y=0)に漸近することになる。
【0028】
可撓性基板1の移動量(移動速度)は上下各側での圧力勾配(Pa〜Pb)が大きいほど大きくなることが実験で確認されている。したがって、予め、可撓性基板1の位置補正に必要な移動量(変位量y)と圧力勾配(Pa〜Pb)とのキャリブレーションを実施して、変位量yに対する加圧力Pa,Pbの補正値を最適化しておけば、可撓性基板1の変位yに対して最適な移動量を与え、可撓性基板1をより短時間で基準位置(y=0)に誘導でき、かつ、制御のオーバーシュートとそれに伴う蛇行を防止できる。
【0029】
可撓性基板1が上方に変位した場合には、上記と逆に下側のアクチュエータ5bの加圧力Pbが減少され、上記同様の制御が実施されることになる。但し、実施形態のように、可撓性基板1を縦姿勢で搬送する場合には、上方と下方では重力の作用が異なる。したがって、搬送スパンが長い場合など、自重の影響を考慮する必要がある場合には、上下各側の変位yに対する制御量を個別に設定しておくこともできる。一方、可撓性基板1を横姿勢(平姿勢)で搬送する場合は、幅方向各側に作用する重力の差はないので、特段の事情がない限り、各側の制御量を個別に設定する必要はない。
【0030】
図2は、理解を容易にするため、可撓性基板1の変位yを誇張して表示したが、実際の変位は僅かであり、制御を安定させるためにも、制御量はあまり大きく設定されるべきではない。その一方で、制御量を小さく抑えると、不可測の事態により、可撓性基板1が大きく変位した場合に回復に時間を要し、また、連続的に発生する変位に対して制御が対応できないような事態も生じかねない。そこで、上述したプレスロール4の加圧力Pa,Pbの制御と並行して、可撓性基板1の張力制御を以下のように実施する。
【0031】
すなわち、位置センサ6によって検出される可撓性基板1の変位yが、所定の閾値以上となった場合には、縁部位置制御部60からの制御信号によって、張力制御部70は、巻取りロールコア張力を低下させる。すると、可撓性基板1のガイドロール3における巻き付き張力が低下し、可撓性基板1が幅方向に移動し易くなり、プレスロール4の加圧力Pa,Pbの制御により、可撓性基板1に対して幅方向に大きな制御量を与え、変位を短時間で回復可能となる。この張力制御は、予め設定された時間後に巻取りロールコア張力を元の設定値に復帰させるようにしても良いし、あるいは、可撓性基板1の変位yが、上記閾値または上記閾値より小さい閾値まで回復し、それが、位置センサ6によって検出された場合に、巻取りロールコア張力を元の設定値に戻すようにしても良い。
【0032】
また、上記閾値(第1の閾値)より小さい第2の閾値を設定しておき、位置センサ6に検出される可撓性基板1の変位yが第2の閾値以上である状態が所定時間以上持続した場合、あるいは、単位時間内における検出頻度が所定以上となった場合には、可撓性基板1の変位yが第1の閾値に達しなくても、張力制御部70は、巻取りロールコア張力を低下させ、可撓性基板1に対して幅方向に大きな制御量を与えるようにすることもできる。
【0033】
上記張力制御の効果を検証するために、可撓性基板1として幅300mmのプラスチックフィルムを用い、縦姿勢で水平方向に搬送する搬送実験装置により、可撓性基板の上下幅方向の位置制御を実施した。ガイドロール3は、図4に示す第3実施形態と同様に、直線区間の終端部(巻取りロール12の上流側1mの地点)に設置し、位置センサ6は巻取り部に設置した。この実験では、可撓性基板1の搬送張力を160Nとし、プレスロール4の加圧力Pa,Pbを、それぞれ6N,10N(加圧力比Pa/Pb=3/5)に設定して、巻取りロールコア張力T=30N,70N,110N,160Nの各場合について、可撓性基板1のステップ搬送を1.0mのピッチで5回実施して幅方向の変位を観測した。また、比較のために、加圧力Pa,Pbを上下ともに10Nとして同条件でステップ搬送を実施して幅方向の変位を観測した。
【0034】
その結果を図5に示す。グラフにおいて、記号「○」と「×」で示されたロールコア張力T=160Nの場合は、可撓性基板1の搬送張力160Nと等しい場合、すなわち、張力制御を行わない場合を示している。このうち、記号「×」で示された加圧力比Pa/Pb=1(Pa=Pb)の場合には、ステップ搬送が5回実施された5m地点で上方に1mmの自然変位すなわち位置ずれが確認されたのみであったのに対し、記号「○」で示された加圧力比Pa/Pb=3/5の場合には、ステップ搬送が4回実施された4m地点で上方に1mmの変位が確認され、さらに、ステップ搬送が5回実施された5m地点で上方に4mmの変位が確認されており、プレスロール4に加圧力比Pa/Pbが設定される場合に、加圧力を減少させる方向に有意な変位が得られることが確認できた。但し、ステップ搬送が3回実施された3m地点までは顕著な変位は見られず、張力制御を併用しない場合には、加圧力制御による結果が反映されるのに、多少の空走距離を要することが分かる。
【0035】
一方、巻取りロールコア張力T=30N,70N,110Nの各場合、すなわち、加圧力制御と張力制御を併用した場合には、加圧力制御による結果が比較的早期に反映されており、加圧力制御にと張力制御を併用することで、可撓性基板1に対して幅方向に大きな制御量を与え、位置制御の即効性が高まることが確認できた。但し、プレスロール4の加圧力比Pa/Pbが比較的大きく設定されたことに伴い、巻取りロールコア張力T=30N,70Nのケースでは、変位量が過大となっている。高精度かつ安定的な制御を行うためには、プレスロール4の加圧力比Pa/Pb、可撓性基板1の搬送張力に対する制御張力T(巻取りロールコア張力)は充分に考慮して設定される必要がある。
【0036】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、張力制御手段7が巻取りロールコア張力の制御によって実施される場合について述べたが、図3に示す第2実施形態では、基板位置制御装置200の張力制御が、テンションロール207によって実施されるように構成されている。この第2実施形態に係る薄膜積層体製造装置201は、基本的に、巻出しロール11から巻出された可撓性基板1に対して成膜部220で成膜処理を行い巻取りロール12に巻き取る構成であるが、巻出し部210が巻取り部230と同構成で対象に配置され、それぞれに基板位置制御装置200が設置されることで、可撓性基板1の正逆双方向の搬送に対して同様かつ連続的に位置制御を実施可能である。また、この第2実施形態の薄膜積層体製造装置201では、成膜部220の両側にフィードロール202,202が設置され、基板位置制御装置200における張力制御が、成膜部220に及ばないように構成されている。
【0037】
(第3実施形態)
また、図4に示す第3実施形態では、成膜部320の両側に基板位置制御装置300を構成するガイドロール303,303およびプレスロール304,304が設置されており、成膜部320における可撓性基板1の上下幅方向位置の制御を主目的とした構成となっている。可撓性基板1の正逆双方向の搬送に対して同様かつ連続的に位置制御を実施可能である点、および、テンションロール307によって張力制御が実施される点は、第2実施形態と同様である。
【0038】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記以外にも本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【0039】
例えば、上記各実施形態では、上下各側に設置したアクチュエータ5a,5bによって加圧力Pa,Pbが付与されかつ個別に制御される場合を示したが、プレスロール4に上下幅方向の各側で一様な加圧力を付与する主加圧手段を設置し、上下各側のアクチュエータ5a,5bを付加的な副加圧手段として、加圧力比Pa/Pbの制御にのみ用いるようにすることもできる。
【0040】
その場合、主加圧手段の加圧力に対して、副加圧手段の加圧力を逆方向に作用させ、何れかの側の加圧力を減少させる制御を実施しても良いし、副加圧手段の加圧力を同方向に作用させ、何れかの側の加圧力を増加させる制御を実施しすることもできる。また、1つのアクチュエータの加圧位置を機構的に上下にシフトすることによって、加圧力比Pa/Pbを制御するように基板位置制御装置を構成することもできる。
【0041】
また、上記各実施形態では、本発明に係る基板位置制御装置100,200,300を、可撓性基板1を縦姿勢で横方向に搬送しつつ成膜処理を行なう薄膜積層体製造装置201,301に実施する場合について述べたが、本発明に係る基板位置制御装置は、可撓性基板を横姿勢(平姿勢)で水平方向や上下方向あるいは斜方向に搬送しつつ成膜等の処理を行なう各種処理装置あるいは製造装置に実施することもできる。
【0042】
さらに、上記各実施形態では、本発明を薄膜積層体製造装置(成膜装置)に実施する場合について述べたが、本発明に係る基板位置制御装置は、塗装、洗浄、乾燥、熱処理、表面加工など、成膜以外にも、可撓性基板の位置制御が求められる各種処理装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 可撓性基板
2,202,302 フィードロール
3,203,303 ガイドロール
4,204,304 プレスロール
5,205,305 加圧手段
5a,5b アクチュエータ
6,206,306 位置センサ
7 張力調整手段
11 巻出しロール
12 巻取りロール
50 加圧力制御部
60 縁部位置制御部
70 張力制御部
100,200,300 基板位置制御装置
207,307 テンションロール(張力調整手段)
210,310 巻出し部
220,320 成膜部
230,330 巻取り部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に所定の張力を付与されて搬送される帯状可撓性基板の幅方向位置を制御する位置制御装置であって、
前記可撓性基板を案内すべく回転可能に定配置されたガイドロールと、
前記ガイドロールに前記可撓性基板を圧接するプレスロールと、
前記プレスロールに加圧力を付与する加圧手段と、
前記加圧力を制御する制御手段と、
前記可撓性基板の幅方向位置を検出する位置センサと、を備え、
前記加圧手段は、前記プレスロールの幅方向各側で個別に加圧力を調整可能であるかまたは前記プレスロールの幅方向各側に配分される加圧力の比を調整可能であり、
前記制御手段は、前記位置センサによって検出される前記可撓性基板の幅方向変位に応じて、プラス変位側における加圧力が、マイナス変位側における加圧力よりも相対的に大きくなるように、前記プレスロールの幅方向各側に配分される加圧力を制御し、前記可撓性基板を相対的に加圧力が小さいマイナス変位側に誘導するように構成されている、可撓性基板の位置制御装置。
【請求項2】
前記ガイドロールで案内される区間における前記可撓性基板の張力調整手段をさらに備えている、請求項1に記載の可撓性基板の位置制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記位置センサの検出値が所定の閾値以上となった場合に、前記加圧力の制御と並行して、前記張力調整手段によって前記可撓性基板の張力を一時的に低下させるように構成されている、請求項2に記載の可撓性基板の位置制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記位置センサの検出値が、前記閾値より小さい第2の閾値以上である状態が所定時間以上持続した場合または所定以上の頻度で検出された場合に、前記加圧力の制御と並行して、前記張力調整手段によって前記可撓性基板の張力を一時的に低下させるように構成されている、請求項3に記載の可撓性基板の位置制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−173679(P2011−173679A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38533(P2010−38533)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】