説明

可溶化リグニン、糖類原料および単糖類原料の製造方法ならびに可溶化リグニン

【課題】新規なリグニン分解物およびその製造方法ならびに糖類原料および単糖類原料の製造方法を提供する。
【解決手段】リグノセルロース原料を微粉砕し、有機溶剤で脱脂して得られる粉末100質量部に過酸化水素水を過酸化水素換算で20質量部〜400質量部配合し、0.1MPa〜1.5MPaの圧力および80℃〜200℃の温度の各条件下で、マイクロ波を照射しながら5分〜120分加熱し(第一の工程)、ついで、不溶解分を過酸化水素水から分離し(第二の工程)、ついで、不溶解分を溶剤抽出して抽出液を得(第三の工程)、ついで、抽出液から溶剤を留去して可溶化リグニンを残さとして得る(第四の工程)。また、第一の工程で得られる液状部または不溶解分にそれぞれ所定の処理を施し、多糖類を主成分とする糖類原料または単糖類原料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶化リグニン、糖類原料および単糖類原料の製造方法ならびに可溶化リグニンに関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、樹木やイネ科植物等をはじめとする多くの植物に、セルロースおよびセルロース以外の多糖体(ヘミセルロースと総称される。)とともに含まれる。例えば、樹木に含まれるリグニンの量は、樹木の種類によって異なるが、およそ20質量%〜30質量%を占める。ちなみに、樹木中のセルロースは40質量%〜50質量%程度であり、残余成分の大半がヘミセルロースである。
【0003】
これら3成分は、植物中では相互に会合した形で存在し、一般にリグノセルロースと呼ばれる。以下、本明細書では、リグノセルロースをからなるこれら植物等を、そのままリグノセルロースと呼びあるいはリグノセルロース原料と呼ぶことがある。
【0004】
リグノセルロース原料の主要な用途のひとつは紙製品であり、木材等のリグノセルロース原料から、紙製品の原料としての繊維状のパルプが調製される。パルプの調製方法には、機械的破砕による方法と化学分解による方法の2種類がある。前者の方法で得られるパルプにはリグニンが含まれ、後者の方法で得られるパルプはリグニンが除去されたものである。
後者の化学分解によって得られるパルプを用いて製造される紙製品は白色度が高く、高品質の紙製品として取り扱われている。したがって、パルプ調製において、リグニンは望ましくない成分ということができる。
【0005】
また、近年、エネルギ枯渇対策として、化石燃料資源等と違って再生可能な、生物由来の有機性資源であるこれら木材等のバイオマスを活用してバイオエネルギや有用な有機物質を得る技術が種々検討されている。これらの技術は、バイオ技術の目覚しい進展を背景として開発が加速され、既に実用段階に入りつつある。
この場合、リグノセルロースの3成分のうちで利用対象とされるのは、酸および酵素により容易に加水分解しやすいヘミセルロースと、ヘミセルロースに比べて分解しにくいものの、濃硫酸等の特定の溶媒に溶け、あるいはアルカリで膨潤化した後に希酸で処理することで加水分解するセルロースの2種の多糖類原料である。これに対して、リグニンは、例えば水酸化ナトリウムおよび亜硫酸ナトリウムの混合溶液やジオキサン等で可溶化することができるものの、この処理過程で多大な化学変性を受けており、植物中に存在するものをそのままの形で取り出すことが困難である。このため、バイオマス活用の観点で具体的な利用対象を見出すことが難しいとされている。
【0006】
なお、このような取り扱いの難しいリグニンを分解する技術として、最近公開されているなかに、リグノセルロース懸濁液にオゾンを吹き込んで酸化分解し、没食子酸、シュウ酸または酢酸等の水溶性有機酸を得る技術がある(特許文献1参照)。
【0007】
また、リグニンを取り除くことで半漂白パルプを漂白するために、マイクロ波を照射しながら、パルプ100gに対して1.2gの割合で過酸化水素を加えて処理する方法が開示されている(特許文献2参照)。なお、この場合、リグニンそのものについては着目されていないため、リグニンの分解生成物としてどのようなものが得られるかについては不明である。
【特許文献1】特開2006−141244号公報
【特許文献2】特開昭60−088191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のように従来有効な利用法が十分に検討されていないリグニンの有用な用途を開発するためになされたものであり、新規なリグニン分解物とそれを好適に得ることができるリグノセルロースの新規な処理方法を提供するとともに、合わせてリグノセルロースから糖類原料および単糖類原料を得る新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、リグニンの好適な用途について鋭意検討した。リグニンは、バニリン酸(vanillic acid)、プロトカテク酸(protocatechuate)、ガール酸(gallate)、4-ヒドロキシ安息香酸(4-hydroxybenzoate)、シキミ酸(shikimate)等の有用化合物の出発原料となることが知られている。また、リグニンは、生理活性作用を有するポリフェノール類の有効な原料でもある。
ところが、上記の有用成分の原料としてリグニンを用いる場合、リグニンを可溶化したうえで上記の目的成分を得るために必要な適宜の処理を行うことが必須であるが、先に述べたように、従来の技術では、可溶化したリグニンは多大な化学変性を受けており、目的成分を得るための原料としては使いづらい面がある。一方、従来技術のなかで、化学変性を受けることが比較的少ないと思われる軽度の分解処理を行うものは、可溶化されるリグニン量が原料全体のごく一部に留まるものと思われ、目的成分を得るための実用的な処理方法としては適切ではないと思われる。
【0010】
このため、本発明者らは、化学変性を受けることが比較的少なく、かつ、リグノセルロースに賦存するリグニンから高い収率で可溶化リグニンを得ることができる可溶化リグニンの製造方法について検討した結果、マイクロ波を照射しながら、多量の過酸化水素水でリグノセルロースを酸化反応する方法に思い至った。
【0011】
本発明は、リグノセルロース原料(リグノセルロースまたはリグノセルロース材料と言ってもよい。)を微粉砕して得られる粉末100質量部(乾燥基準)に過酸化水素水を過酸化水素換算で20質量部〜400質量部配合し、0.1MPa〜1.5MPaの圧力および80℃〜200℃の温度の各条件下で、マイクロ波を照射しながら5分〜120分加熱すること(第一の工程)を主要な構成要素とする。
これにより、化学変性を受けることが比較的少ない可溶化リグニン、不溶化リグニンおよび一部の多糖類の混合物が、残部の多糖類を含む過酸化水素水中に不溶解分として分離、生成する。
【0012】
本発明に係る可溶化リグニンの製造方法は、上記第一の工程で得られる不溶解分を過酸化水素水から分離し(第二の工程)、さらに、得られる不溶解分を溶剤抽出して抽出液を得(第三の工程)、さらにまた、その抽出液から溶剤を留去して残さを得る(第四の工程)ことを特徴とする。
これにより、不溶化リグニン等と可溶化リグニンの混合物である不溶解分を溶剤抽出することで可溶化リグニンが抽出液側に移行し、不溶化リグニン等と分離され、さらに、抽出液から溶剤を留去することで、残さとして可溶化リグニンが得られる。
【0013】
また、本発明に係る糖類原料の製造方法は、上記第一の工程で得られる不溶解分を分離して液状部を得(第五の工程)、さらに、得られる液状部中の過酸化水素を除去すること(第六の工程)を特徴とする。
これにより、不溶化リグニン等と可溶化リグニンの混合物である不溶解分が好適に取り除かれた、セルロースおよびヘミセルロースに由来する糖類原料が得られる。
可溶化リグニンは、ミルを用いて例えば20−30μmまで微粉化しジオキサンで抽出した通常milled wood lignin(MWL)と称されるリグニンと比較しても、顕著な分子量の差が観測されないことから、マイクロ波(MW)によって可溶化されたリグニンは、微粉砕の過程で受ける程度の弱い化学変成しか受けていないと推察される。これに対し、セルロースは繊維として不溶部に残存するが、一部は分解し水相に溶け出す多糖類となっている。また、ヘミセルロースはほとんど分解され、多糖類もしくは単糖類として水相へ移行していることが確認されている。このように、過酸化水素を多量に用いたMW照射系では、リグニンはほとんど可溶化されるが、化学変成の程度は少ないこと、セルロース、特にヘミセルロースは容易に分解されることが分かっている。
【0014】
また、本発明に係る単糖類原料の製造方法は、上記第二の工程で得られる該不溶解分を溶剤抽出して生成する抽出残さを得(第七の工程)、さらに、得られる抽出残さに過酸化水素を加えてマイクロ波を再照射し、または強酸を加えて加熱し溶解分を得ること(第八の工程)を特徴とする。
これにより、不溶解性リグニンが好適に取り除かれた単糖類原料が得られる。
【0015】
また、本発明に係る可溶化リグニンは、上記の可溶化リグニンの製造方法により得られる可溶化リグニンであって、重量平均分子量が1500〜8000であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る可溶化リグニンの製造方法は、リグノセルロース原料を微粉砕して得られる粉末100質量部(乾燥基準)に過酸化水素水を過酸化水素換算で20質量部〜400質量部配合し、0.1MPa〜1.5MPaの圧力および80℃〜200℃の温度の各条件下で、マイクロ波を照射しながら5分〜120分加熱した後(第一の工程)、得られる不溶解分を過酸化水素水から分離し(第二の工程)、さらに、得られる不溶解分を溶剤抽出して抽出液を得(第三の工程)、さらに、その抽出液から溶剤を留去して残さを得る(第四の工程)ため、化学変性を受けることが比較的少ない可溶化リグニンを好適に得ることができる。
また、本発明に係る糖類原料の製造方法は、第一の工程で得られる不溶解分を分離して液状部を得(第五の工程)、さらに、得られる液状部中の過酸化水素を除去し(第六の工程)、また、本発明に係る単糖類原料の製造方法は、第二の工程で得られる不溶解分を溶剤抽出して生成する抽出残さを得(第七の工程)、さらに、得られる抽出残さに過酸化水素を加えてマイクロ波を再照射し、または強酸を加えて加熱し溶解分を得るため(第八の工程)、リグニンが取り除かれた糖類(多糖類)および単糖類を好適に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0018】
本実施の形態に係る可溶化リグニンの製造方法は、リグノセルロース原料(リグノセルロースまたはリグノセルロース材料といってもよい。)を微粉砕して得られる粉末100質量部(乾燥基準)に過酸化水素水を過酸化水素換算で20質量部〜400質量部配合し、0.1MPa〜1.5MPaの圧力および80℃〜200℃の温度の各条件下で、マイクロ波を照射しながら5分〜120分加熱する第一の工程と、第一の工程で得られる不溶解分を過酸化水素水から分離する第二の工程と、第二の工程で得られる不溶解分を溶剤抽出して抽出液を得る第三の工程と、第三の工程で得られる該抽出液から溶剤を留去して残さを得る第四の工程と、を有する。
ここで、可溶化リグニンは、水や極性の高い有機溶剤に対する溶解性を有する程度に低分子量化されたリグニンをいう。
【0019】
リグノセルロース原料は、リグノセルロースを主成分として含む材料であり、例えば、広葉樹、針葉樹等の木本類、バガス(サトウキビの絞りかす Bagasse)、イナワラ(Rice Straw)等の草本類、竹類およびウメ果実の核(Japanese Apricot Kernel)等の農産廃棄物を挙げることができる。リグノセルロース原料は、リグノセルロースを主成分として含む材料である限り、例えばビール仕込み粕等の食品残渣であってもよい。ビール仕込み粕は、麦芽を糖化させたものをろ過して麦芽残さを除去することにより得られる麦汁に、酵母を添加して発酵させることによって製造されるビール製造工程において、ろ過により副生する麦芽残さをいう。
使用するリグノセルロース原料は、好ましくは、例えば10mesh以下程度に予め微粉砕したものを用いる。ただし、これに限らず、適度の寸法に破砕したものを用いてもよい。
リグノセルロース原料を微粉砕し、有機溶剤で脱脂して得られる粉末の質量部数は、乾燥基準、すなわち、70℃で恒量に達するまで乾燥器内で乾燥して得られる乾燥粉末の量をいう。ただし、使用するリグノセルロース原料は、予め乾燥したものを用いてもよいが、これに限らず、水分を含んだものをそのまま用いてもよい。
また、原料として用いるリグノセルロースからリグニンを調製するとき、構造の類似性からリグノセルロース原料に含まれている抽出成分を有機溶剤で脱脂することが好ましい。すなわち、リグノセルロース原料を微粉砕して得られる粉末を脱脂することが好ましい。ただし、脱脂は必須ではない。脱脂するときに用いる有機溶剤は、特に限定するものではなく、例えば、エタノール−ベンゼン混合溶媒、アセトン−メタノール混合溶媒あるいはクロロホルム−メタノール混合溶媒等を用いることができる。
【0020】
第一の工程で用いる反応容器は、マイクロ波を透過あるいは内部照射でき、かつ、圧力・温度条件に適するものである限り、適宜のものを用いることができる。この反応容器に所定量の過酸化水素水とリグノセルロース原料を入れて、撹拌によりリグノセルロース原料を過酸化水素水中に分散する。過酸化水素水は適宜の濃度のものを用いることができる。
マイクロ波は、所定時間連続的に照射してもよく、あるいはまた、短時間に分けて複数回断続的に繰り返し照射してもよい。また、加熱源として、マイクロ波以外の熱源を併用してもよい。
【0021】
第一の工程で得られる不溶解分を過酸化水素水から分離するには、例えば遠心分離等の適宜の方法を採用することができる。このとき、不溶解分を過酸化水素水からより確実に分離するために、不溶解分に水を加えて遠心分離を繰り返す等の処理を適宜行ってもよい。
得られる不溶解分は、化学変性を受けることが比較的少ない可溶化リグニン、不溶化リグニンン、セルロースおよび一部のヘミセルロースの混合物であり、残部(液状部)の糖類を含む過酸化水素水と分離、分別する。
【0022】
第二の工程で得られる不溶解分を溶剤抽出して抽出液を得るときに用いる溶剤は、特に限定するものではなく、例えば、含水メタノールや含水ジオキサン等を用いてもよいが、アセトン−水混合溶剤をより好適に用いることができる。
得られる抽出液は、上記不溶解分から抽出される可溶化リグニンを含み、不溶化リグニン、セルロース等を含む上記不溶解分の残さと分離される。
そして、さらに、例えば上記抽出液を乾燥する等の適宜の方法により抽出液から溶剤を留去することで、可溶化リグニンが残さとして得られる。
以上説明した本実施の形態に係る可溶化リグニンの製造方法により得られる可溶化リグニンは、低分子化されて、重量平均分子量が1500〜8000である。
【0023】
得られる可溶性リグニンは、高い抗菌、抗黴性を有しており、安価な天然物由来の抗菌剤、抗黴剤として農薬等に使用することができる。
また、得られる可溶性リグニンは、先に説明したように、バニリン酸、プロトカテク酸、ガール酸、4-ヒドロキシ安息香酸、シキミ酸等や、生理活性作用を有するポリフェノール類の原料として好適に用いることができる。さらにまた、得られる可溶性リグニンは、石炭よりコークスを製造する際の石炭の粘結材としても使用できる。またさらに、可溶性リグニンを紡糸したのち、炭化さらに黒鉛化することにより炭素繊維を生じさせることもでき、すなわち、炭素繊維の原料としても使用することができる。
【0024】
つぎに、本実施の形態に係る糖類原料の製造方法は、上記第一の工程で得られる不溶解分を分離して液状部を得(第五の工程)、さらに、得られる液状部中の過酸化水素を除去すること(第六の工程)を特徴とする。液状部中に残存する過酸化水素を除去するには、例えば、液状部を凍結乾燥処理する方法を用いてもよく、また、二酸化マンガンやカタラーゼを使用して過酸化水素を分解する方法を用いてもよい。
ここで、不溶解分を分離して得る液状部は、例えば遠心分離よって不溶解分を沈降した後の上澄み液であると好適であるが、これに限らず、不溶解分を除く液体(過酸化水素水)全体であってもよい。
これにより、不溶化リグニン等と可溶化リグニンの混合物である不溶解分が好適に取り除かれた糖類原料が得られる。なお、糖類原料は、多糖類とともに反応条件に応じて適宜生成する単糖類やオリゴ糖類を含む。
【0025】
本実施の形態に係る糖類原料の製造方法によって得られる糖類原料は、グルコース、キシロース、マンノース等の有用な多糖類を含む。
【0026】
また、本実施の形態に係る単糖類原料の製造方法は、上記第二の工程で得られる不溶解分を溶剤抽出して生成する抽出残さを得(第七の工程)、さらに、得られる抽出残さに過酸化水素を加えてマイクロ波を再照射し、または強酸を加えて加熱し溶解分を得る(第八の工程)。
ここで、第七の工程は、上記第三の工程と対応するものであり、抽出液を回収することに代えて、抽出残さを回収するものである。不溶解分を溶剤抽出するために用いる溶剤は、特に限定するものではなく、例えば、アセトン−水混合溶剤、含水メタノール、含水ジオキサン等を用いることができる。
抽出残さを酸処理することにより、不溶解性リグニンが好適に取り除かれた単糖類原料が得られる。ここで、単糖類原料とは、この原料をさらに処理することで実用的、あるいは効率的に単糖類を得るのに十分な量、および濃度の単糖類を含む原料の意である。
また、マイクロ波の照射時間を長くすることにより、セミセルロース、セルロースが単糖類化することも考えられ、過酸化水素存在下に所定の温度条件下でマイクロ波を長時間照射することにより、単糖類の得量を上昇することができ。このため、木材バイオマスからエタノールを容易に製造する方法となりえる。
【実施例】
【0027】
実施例を挙げて、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
広葉樹であるブナの木質部を十分に乾燥し、ミルによって粉砕した。粉砕した粉末は60〜80メッシュの篩を用いて篩下を集めた。この粉末10gにエタノール−ベンゼン(1:2)の混合溶媒50mlを加え、撹拌、ろ過しさらに乾燥したものの2.0gをマイルストーンゼネラル社製TFM(<1%の過フルオロプロピルビニールエーテルを含むポリテトラフルオロエチレン)分解容器(容量50ml、耐温度300℃、耐圧10MPa)に取り、10質量%過酸化水素水30mlを加えるとともに、磁石式攪拌子をセットした後、モノブロックの高圧セグメントセットに装着して密詮した。容器内容物を攪拌しながら、マイクロ波の動作条件を、出力500W、反応温度160℃に制御プログラムをセットし、マイクロ波を照射した。2分程度で設定温度に達した後その温度を5分間さらに保持し、マイクロ波照射を停止した。マイクロ波加熱装置としては、マイルストーンゼネラル社製MicroSYNTH(1000W、2.45GHz)を用いた。
加熱終了後、氷水中で冷却し、反応容器を開放し、容器内の懸濁溶液を遠心管に移し、8,000×gで10分間遠心分離し、底部に生成するペレットを残して上澄み液を取り除いた。遠心管に残ったペレットに純水10mlを加え、ボルテックスを用いて十分懸濁した後、再び8,000×gで、10分間遠心分離し、ペレットを洗浄した。
洗浄操作を3回繰り返して得られたペレットを90%アセトン−10%水混合溶剤で抽出処理し、可溶化リグニンを含む抽出液を得た。この抽出液から減圧下で溶媒を除き、得られた残さを室温、真空乾燥機で24時間乾燥してペースト状の可溶化リグニン1.0gを得た。
【0029】
一方、90%アセトン−10%水混合溶剤でペレットに含まれる可溶化リグニンを抽出した後に残る白色繊維状物質(抽出残さ)0.75gに72%硫酸を7.5ml加え、2時間室温で攪拌後、蒸留水で3〜4%の濃度になるように希釈し、密閉できる容器に移して121℃、30分間加熱し、ろ過により溶液部分と不溶部分とに分離し、単糖類を含む溶液(A)約300mlを得た。
また、先の、遠心管から取り除いた上澄み液とペレットの洗浄液に二酸化マンガンを加えて残留過酸化水素を分解した後、二酸化マンガンをろ過で除き、ろ液として、糖類を含む溶液(B)約50mlを得た。このとき、上澄み液とペレットの洗浄液を凍結乾燥することにより吸水性の固形物として糖類を得る方法を用いてもよい。
【0030】
得られた可溶化リグニンを昭和電工社製の示差屈折計と日本分光社製HPLC装置で分子量を測定した。結果を表1に示す。
可溶性リグニンを抽出した後のペレットは、白色の粉末で、出発原料のブナ粉末全質量中、37.7質量%であった。このペレットを72%硫酸で処理後、水で3〜4%に希釈してさらに加水分解し、不溶部分を取り除いて得た単糖類を含む溶液(A)を糖分析用カラム(Dionex社製DX-500、カラムCarbopacPA-1)を用いてHPLCにて分析した。また、溶液(B)についても溶液(A)と同様に加水分解したものを、HPLC分析した。また、溶液(B)に含まれる糖類原料(加水分解前)の主成分の分子量をサイズ排除クロマトグラフィー(YMC−Pack
Diol-200)を用いてHPLC分析した。検出された糖の組成等をそれぞれ表1にまとめた。
【0031】
(実施例2)
針葉樹の代表例としてアカマツを選び、実施例1と同じ処理ならびに分析を行った。結果を表1に示す。
【0032】
(実施例3)
タケ(モウソウチクの成竹)を粉砕して実施例1と同じ処理ならびに分析を行った。結果を表1に示す。
【0033】
(実施例4)
バガスを粉砕して60〜80メッシュの篩を通過させ、脱脂したものの1.0gに対して、10質量%過酸化水素水30mlを加えたほかは、実施例1と同じ処理ならびに分析を行った。結果を表2に示す。
【0034】
(実施例5)
イナワラを粉砕して実施例4と同じ処理ならびに分析を行った。結果を表2に示す。
【0035】
(実施例6)
ウメの核(ウメの果実の中の殻部)を粉砕して60〜80メッシュの篩を通過させたものの3gに対して、10質量%過酸化水素水20mlを加えたほかは、実施例1と同じ処理ならびに分析を行った。結果を表2に示す。
【0036】
(参考例1)
ブナの木質部を十分に乾燥し、ミルによって粉砕した。粉砕した粉末は60〜80メッシュの篩を用いて篩下を集めた。この粉末の2.5gを密栓可能な耐圧容器に取り、磁石式攪拌子を加え密詮した。攪拌をしながら油浴で温度160℃に昇温し、その後5分間維持した。懸濁溶液を遠心分離用の遠心管に移し、8,000×gで10分間遠心分離し、底部のペレットを残して上澄み液を廃棄した。残ったペレットに純水10mlを加え、ボルテックスを用いて十分懸濁した後、再び遠心分離(8,000×g、10分)し、ペレットを洗浄した。この操作を3回繰り返した後、90%アセトン−10%水混合溶剤でペレットに含まれる可溶化リグニンを液抽出したが、ほとんど抽出物は得られなかった。
このペレットに72%硫酸を加え、2時間室温で攪拌後、蒸留水で40倍程度に希釈、密閉できる容器に移して121℃、30分間加熱し、遠心分離により溶液部分と不溶部分とに分離した。溶液部分を水で10倍に希釈し、糖分析用カラム(Dionex社製DX-500、カラムCarbopacPA-1)を用いてHPLCにて分析した。検出された糖の組成を表1に示す。
【0037】
(参考例2)
針葉樹の代表例としてアカマツを選び、参考例1と同じ処理ならびに分析を行った。結果を表1に示す。
【0038】
(参考例3)
タケ(モウソウチクの成竹)を粉砕して参考例1と同じ処理ならびに分析を行った。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース原料を微粉砕して得られる粉末100質量部(乾燥基準)に過酸化水素水を過酸化水素換算で20質量部〜400質量部配合し、0.1MPa〜1.5MPaの圧力および80℃〜200℃の温度の各条件下で、マイクロ波を照射しながら5分〜120分加熱する第一の工程と、
該第一の工程で得られる不溶解分を過酸化水素水から分離する第二の工程と、
該第二の工程で得られる該不溶解分を溶剤抽出して抽出液を得る第三の工程と、
該第三の工程で得られる該抽出液から溶剤を留去して残さを得る第四の工程と、
を有することを特徴とする可溶化リグニンの製造方法。
【請求項2】
前記第三の工程で用いる溶剤がアセトン−水混合溶剤であることを特徴とする請求項1記載の可溶化リグニンの製造方法。
【請求項3】
リグノセルロース原料を微粉砕して得られる粉末100質量部(乾燥基準)に過酸化水素水を過酸化水素換算で20質量部〜400質量部配合し、0.1MPa〜1.5MPaの圧力および80℃〜200℃の温度の各条件下で、マイクロ波を照射しながら5分〜120分加熱する第一の工程と、
該第一の工程で得られる不溶解分を分離して液状部を得る第五の工程と、
該第五の工程で得られる液状部中の過酸化水素を除去する第六の工程と、
を有することを特徴とする糖類原料の製造方法。
【請求項4】
リグノセルロース原料を微粉砕して得られる粉末100質量部(乾燥基準)に過酸化水素水を過酸化水素換算で20質量部〜400質量部配合し、0.1MPa〜1.5MPaの圧力および80℃〜200℃の温度の各条件下で、マイクロ波を照射しながら5分〜120分加熱する第一の工程と、
該第一の工程で得られる不溶解分を過酸化水素水から分離する第二の工程と、
該第二の工程で得られる該不溶解分を溶剤抽出して生成する抽出残さを得る第七の工程と、
該第七の工程で得られる抽出残さに過酸化水素を加えてマイクロ波を再照射し、または強酸を加えて加熱し溶解分を得る第八の工程と、
を有することを特徴とする単糖類原料の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の可溶化リグニンの製造方法により得られる可溶化リグニンであって、
重量平均分子量が1500〜8000であることを特徴とする可溶化リグニン。

【公開番号】特開2009−114181(P2009−114181A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265887(P2008−265887)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】