可溶型CD155タンパク質を用いた癌の検出方法
【課題】癌の検出方法の提供。
【解決手段】生体試料中の可溶型CD155タンパク質又は該タンパク質をコードする遺伝子の発現量を測定し、当該測定結果と癌の可能性とを関連づけることを特徴とする、癌の検出方法。
【解決手段】生体試料中の可溶型CD155タンパク質又は該タンパク質をコードする遺伝子の発現量を測定し、当該測定結果と癌の可能性とを関連づけることを特徴とする、癌の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶型CD155タンパク質を指標として癌を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CD155は、ポリオウイルスのレセプターとして同定された免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分子であり(非特許文献1)、細胞外に免疫グロブリン様ドメインを3個有する分子量70kDaの糖タンパク質である。CD155は、消化管上皮、パイエル板のM細胞と胚中心、血球系ではミエロイド系細胞に発現しており(非特許文献2、3)、この発現パターンから抗原提示細胞における機能が期待されるが、その機能はいまだ明らかにされていない。
【0003】
CD155は、ヒトにおいてはCD155α、CD155β、CD155γ及びCD155δの4つのアイソフォームを持つことが知られている(非特許文献4)。αとδは膜貫通領域を持つ膜結合型(膜型)であり、βとγは膜貫通領域を欠失することにより細胞外に分泌される可溶型である。
可溶型CD155のmRNAは、ヒトの肝、肺、腎などの正常組織において発現している。また、可溶型CD155タンパク質は、健常人の血清中で検出される(非特許文献5)。しかしながら、可溶型CD155のmRNAが種々の癌で発現されるかどうかはほとんど明らかになっておらず、大腸癌において膜型CD155と可溶型CD155のmRNAの発現が認められるという報告が1編あるのみである(非特許文献6)。また、マウスのCD155は膜型のみであり、可溶型のアイソフォームが存在するという報告はない。
【0004】
また、CD155は、DNAM-1(CD226)のリガンドであることが明らかとなっている(非特許文献7〜9)。DNAM-1は、本発明者らにより同定された免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分子である(非特許文献10)。DNAM-1は、細胞傷害性T細胞(CTL)やNK細胞に発現し、癌細胞などに発現している膜型CD155等のDNAM-1リガンドを認識して接着し、CTL及びNK細胞に細胞傷害活性を誘導することが明らかとなっている(非特許文献10、11)。しかしながら、可溶型のCD155の機能は明らかになっておらず、可溶型CD155が腫瘍免疫(癌細胞に対する免疫機構)にどのように関与するかも明らかになっていない。
さらに、可溶型CD155を標的とした癌の検出方法、治療方法等はこれまで報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Mendelsohn, C. L.et al., Cell 56, 855-865 (1989)
【非特許文献2】Iwasaki, A. et al., J. Infect. Dis. 186, 585-592 (2002)
【非特許文献3】Freistadt, M. S. et al., Virology 195, 798-803 (1993)
【非特許文献4】Koike, S. et al., EMBO J. 9, 3217-3224 (1990)
【非特許文献5】Baury, B. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 309, 175-182 (2003)
【非特許文献6】Masson, D. et al., Gut 49, 236-240 (2001)
【非特許文献7】Bottino, C. et al., J. Exp. Med. 198, 557-567 (2003)
【非特許文献8】Tahara-Hanaoka, S. et al., Int. Immunol. 16, 533-8 (2004)
【非特許文献9】Tahara-Hanaoka, S. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 329, 996-1000 (2005)
【非特許文献10】Shibuya, A. et al., Immunity 4, 573-581 (1996)
【非特許文献11】Shibuya, A. et al., J. Immunol. 161, 1671-1676 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、本発明は、可溶型CD155タンパク質を指標とした癌の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、ヒト癌細胞株、癌組織及び癌患者血清を用いて、種々の癌における可溶型CD155の発現を解析し、さらに癌の病態との相関について検討した。その結果、進行癌患者の血清において可溶型CD155タンパク質濃度が高値を示すことを見出した。また、生体内での可溶型CD155の機能を解析した結果、可溶型CD155が癌細胞の腫瘍免疫逃避に関与することを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)採取された生体試料中の可溶型CD155タンパク質量又は可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子の発現量を測定し、当該測定結果と癌の可能性とを関連づけることを特徴とする、癌の検出方法。
(2)可溶型CD155タンパク質量の測定が、可溶型CD155タンパク質に対する抗体を用いて行われるものである、上記(1)に記載の方法。
(3)生体試料が組織又は血液由来のものである、上記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)癌が、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、乳癌、甲状腺癌、頭頸部癌、肺癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、大腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、腎癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、副腎癌、精巣癌、前立腺癌、悪性軟部腫瘍、悪性骨腫瘍、脳腫瘍、皮膚悪性腫瘍、白血病及び悪性リンパ腫からなる群から選択される少なくとも1種の癌である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の治療用医薬組成物。
(6)抗体が、可溶型CD155タンパク質を中和する抗体である、上記(5)に記載の医薬組成物。
(7)可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の検出用試薬。
(8)可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の検出用キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、癌の検出方法を提供することができる。本発明は、被験者から採取された生体試料中の可溶型CD155タンパク質の量又は遺伝子の発現量が高確率で癌と関連するため、可溶型CD155を癌のマーカーとして利用することができる。従って、本発明の方法は癌の検査に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】DNAM-1(CD226)とDNAM-1リガンド(CD155及びCD112)の構造を示す図である。A: DNAM-1を示す。B: DNAM-1リガンド(CD155及びCD112)を示す。
【図2】腫瘍免疫におけるDNAM-1とDNAM-1リガンドの機能を示す模式図である。
【図3】4種類のヒトCD155アイソフォームの構造を示す図である。
【図4】癌細胞株の可溶型CD155 mRNAの発現を解析した結果を示す図である。A: 設計したForwardプライマー及びReverseプライマーの結合位置を示す。B: 癌細胞株からmRNAを抽出してcDNAを合成し、PCRにてCD155の発現解析を行った結果を示す。
【図5】癌細胞株の可溶型CD155タンパク質の発現をsandwitch ELISAにより解析した結果を示す図である。A:ヒトCD155-ヒトIgG Fc融合タンパク質による標準曲線を示す。B: HeLa細胞株の培養上清における可溶型CD155タンパク質濃度を解析した結果を示す。
【図6】癌組織の可溶型CD155 mRNAの発現を解析した結果を示す図である。
【図7】種々の癌患者の血清における可溶型CD155タンパク質濃度をsandwitch ELISAにより解析した結果を示す図である。図中の「Stage」とは、癌の進行度を示す。
【図8】癌患者の血清における可溶型CD155タンパク質の濃度を、手術前と後とで比較した結果を示す図である。
【図9】可溶型CD155産生腫瘍細胞の解析結果を示す図である。A: sandwitch ELISAにより、可溶型CD155タンパク質(CD155-FLAG融合タンパク質)の産生を解析した結果を示す。B: 作製した腫瘍細胞における膜型DNAM-1リガンドの発現をFACSにて解析した結果を示す。C: BrdUを用いて細胞増殖ELISAを行った結果を示す図である。
【図10】生体内における可溶型CD155産生癌細胞の腫瘍免疫逃避を検討した結果を示す図である。
【図11】可溶型CD155による腫瘍免疫逃避に関する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
【0011】
1.概要
本発明は、可溶型CD155タンパク質量又は遺伝子の発現量を測定し、可溶型CD155タンパク質量又は遺伝子発現量を指標として、当該測定結果を癌と関連づけることにより、癌を検出する方法である。また、本発明は、可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の治療用医薬組成物等に関する。
可溶型CD155は、ヒトの正常組織においてそのmRNAの発現が認められ、また、健常人の血清においてそのタンパク質の発現が認められているが、従来、ヒトの種々の癌によって産生されるかどうかは明らかとなっていなかった。従って、生体試料中の可溶型CD155タンパク質を測定したとしても、その測定結果が癌とどのように関係するかについては不明であった。
本発明者らは、種々の癌患者の血清において、可溶型CD155のタンパク質量(濃度)が健常人と比較して増加していることを見出した。また、可溶型CD155のタンパク質濃度は、進行癌の患者において特に高い値を示すことを見出した。
また、本発明者らは、これまで不明であった可溶型CD155タンパク質の機能に着目し、検討を行った結果、癌が腫瘍免疫により排除されることを回避(腫瘍免疫逃避)する上で、可溶型CD155タンパク質が重要な役割を果たすことを見出した。そして、可溶型CD155を抗体などで中和することにより、癌を腫瘍免疫により排除し、癌を治療し得ることを見出した。
【0012】
2.CD155
(1)CD155
CD155は、ポリオウイルスのレセプターとして同定された免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分子であり、細胞外に免疫グロブリン様ドメインを3個有する分子量70kDaの糖タンパク質である(図1B)。
CD155は、DNAM-1(CD226)のリガンドである。DNAM-1(図1A)は、細胞傷害性T細胞(CTL)やNK細胞に発現し、癌細胞などに発現しているDNAM-1リガンド(膜型CD155等)を認識して接着し、CTL及びNK細胞に細胞傷害活性を誘導する(図2)。
CD155は、ヒトにおいてはCD155α、CD155β、CD155γ及びCD155δの4つのアイソフォームが知られており、CD155α(配列番号2)とCD155δ(配列番号8)は膜貫通領域を持つ膜結合型(膜型)であり、CD155β(配列番号4)とCD155γ(配列番号6)は膜貫通領域を欠失することにより細胞外に分泌される可溶型である(図3)。
マウスにおいては、膜型のCD155(配列番号10)のみが知られている。これらのタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列について、GenBankアクセッション番号を以下に示す。
ヒトCD155α:NM006505(配列番号1)
ヒトCD155β:NM001135768(配列番号3)
ヒトCD155γ:NM001135769(配列番号5)
ヒトCD155δ:NM001135770(配列番号7)
マウスCD155(膜型):NM027514(配列番号9)
【0013】
(2)可溶型CD155タンパク質及び遺伝子
本発明において、可溶型CD155タンパク質とは、上記のCD155タンパク質の4つのアイソフォームのうち、膜貫通領域(膜型タンパク質のアミノ酸配列のうち344番目のアミノ酸残基(アラニン)〜367番目のアミノ酸残基(トリプトファン)の領域)を欠失することにより細胞外に分泌されるCD155β及びCD155γを意味し、可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子とは、これらCD155β及びCD155γのタンパク質をコードする遺伝子を意味する。なお、遺伝子にはゲノムDNA、cDNA、mRNAが含まれる。これらのタンパク質及び遺伝子の発現量又は濃度を、本発明において癌のマーカーとして利用する。
【0014】
3.可溶型CD155タンパク質の測定
(1)被験試料
本発明において使用される被験試料は、CD155タンパク質の測定に用いられる生体試料であり、被験者から採取された生体試料であることが好ましい。このような生体試料としては、例えば、被験者から採取された血液、腹水、組織、細胞、該細胞の培養上清等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明において「被験者」としては、例えばヒト、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、ハムスター、ネコ、イヌ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、サルなどの哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。「被験者」がヒトの場合、被験者には癌患者、例えば早期癌の患者、進行癌の患者、及び健常者が含まれる。ここで、早期癌は、例えば胃癌、大腸癌などの場合は癌細胞が粘膜層又は粘膜下層までに留まっていること、進行癌は癌細胞が固有筋層又はそれより深い層に達していることを基準に患者を区別して本発明の検出を行うことも可能である。また、血液試料としては末梢血が好ましく、末梢血由来の血清がより好ましい。さらに、組織には、癌組織及び癌が生じる可能性のある正常組織が含まれ、そのような組織としては、例えば、卵巣、子宮、乳房、甲状腺、脳、食道、舌、肺、膵臓、胃、小腸及び十二指腸、大腸、膀胱、腎臓、肝臓、前立腺、胆嚢、咽頭、筋肉並びに皮膚等が挙げられる。細胞とは、前記被験者から採取された血液又は組織などの生体試料に含まれる細胞及びこれを培養した細胞を意味する。なお、細胞の培養上清とは、前記細胞の培養上清及び遠心上清を意味する。
【0015】
(2)可溶型CD155タンパク質量及び可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子の発現量の測定
生体試料中の可溶型CD155タンパク質量の測定は、当分野において採用される任意のタンパク質測定手法を用いて行うことができる。例えば、酵素免疫測定法(ELISA)、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法、酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫比濁法又はウエスタンブロット法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、生体試料中の可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子の発現量の測定は、例えばRT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)法、定量RT-PCR法、サザンブロット法、ノーザンブロット法などの公知の方法により行うことができる。サザン又はノーザンブロット法により遺伝子の発現量を測定したときは、電気泳動後にデンシトメーターを用いてバンドの濃淡を数値に換算してもよい。
【0016】
可溶型CD155タンパク質量の測定を、酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法又は発光免疫測定法等の標識抗体を用いた免疫測定法により実施する場合には、サンドイッチ法又は競合法により行うこともでき、サンドイッチ法の場合には固相化抗体及び標識抗体のうち少なくとも1種が可溶型CD155タンパク質に対する抗体であればよい。
標識抗体とは、標識物質で標識された抗体を意味し、これらの標識抗体は、生体試料中に含まれる抗原を検出または定量するために用いることができる。
本発明で用いることができる標識物質は、抗体に物理的結合又は化学的結合等により結合させることによりそれらの存在を検出可能にするものであれば特に限定されるものではない。標識物質の具体例としては、酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジンあるいは放射性同位体等が挙げられ、より具体的には、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、カタラーゼ、ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素、フルオレスセインイソチオシアネート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、3H、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体、ビオチン、アビジン、または化学発光物質が挙げられる。標識物質と抗体との結合法は、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法又は過ヨウ素酸法等の公知の方法を用いることができる。
【0017】
ここで、放射性同位体及び蛍光物質は単独で検出可能なシグナルをもたらすことができるが、酵素、化学発光物質、ビオチン及びアビジンは、単独では検出可能なシグナルをもたらすことができないため、さらに1種以上の他の物質と反応することにより検出可能なシグナルを生じる。例えば、酵素の場合には少なくとも基質が必要であり、酵素活性を測定する方法(比色法、蛍光法、生物発光法あるいは化学発光法等)に依存して種々の基質が用いられる。また、ビオチンの場合には少なくともアビジンあるいは酵素修飾アビジンを反応させるのが一般的である。必要に応じてさらに該基質に依存する種々の発色物質が用いられる。
【0018】
固定化抗体は、生体試料中に含まれる可溶型CD155タンパク質を検出、定量、分離又は精製するために用いることができる。
抗体を固定化するために使用できる不溶性担体としては、例えば、(i)ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂又はナイロン樹脂等、(ii) ガラス、(iii) セルロース系担体、アガロース系担体、ポリアクリルアミド系担体、デキストラン系担体、ポリスチレン系担体、ポリビニルアルコール系担体、ポリアミノ酸系担体あるいは多孔性シリカ系担体等が挙げられる。これらの担体は、ビーズ、フィルター又はメンブレン等の形態で、あるいはアフィニティークロマトグラフィー用の担体として使用することができる。
【0019】
4.癌の検出方法
(1)癌の種類
本発明において検出の対象となる癌は、特に限定されるものではなく、例えば、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、乳癌、甲状腺癌、頭頸部癌、肺癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、大腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、腎癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、副腎癌、精巣癌、前立腺癌、悪性軟部腫瘍、悪性骨腫瘍、脳腫瘍、皮膚悪性腫瘍、白血病及び悪性リンパ腫が挙げられる。
【0020】
(2)癌の検出方法
可溶型CD155タンパク質は、種々の癌患者、特に進行癌の患者の血清において発現が増加する。また、癌の手術後の可溶型CD155タンパク質量(濃度)は、癌の手術前と比較して有意に低下する。従って、生体試料中の可溶型CD155タンパク質又はこれをコードする遺伝子は、癌を検出するための腫瘍マーカーとして用いることができる。すなわち、本発明は、生体試料中の可溶型CD155タンパク質の量又は可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子の発現量(以下、「可溶型CD155タンパク質量等」とも称する)を測定することを含む、癌の検出方法を提供する。この場合、可溶型CD155タンパク質量等を指標として、測定結果と癌の可能性とを関連づけることが好ましい。
【0021】
可溶型CD155タンパク質量等の測定結果と癌の可能性とを関連づけて癌を検出するためには、血液試料中の可溶型CD155タンパク質量の臨界値(cut-off値)を定めることが望ましい。
可溶型CD155タンパク質量のcut-off値は、例えば、次のようにして求めることができる。まず、癌患者由来の生体試料における可溶型CD155タンパク質量を測定する。このとき対象となる患者の例数は2例以上であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上、100例以上である。また、2例以上の健常者由来の生体試料における可溶型CD155タンパク質量も測定しておくことが好ましく、対象となる健常者の例数は2例以上であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上、100例以上である。そして、癌患者由来の生体試料群と健常者由来の生体試料群の両方を含む全体から、可溶型CD155タンパク質量のcut-off値を、統計処理により求める。統計処理としては、例えば、Kaplan-Meier解析等が挙げられる。統計解析を行うための症例は、癌の種類(例えば、卵巣癌、子宮頸癌、子宮体癌、乳癌、甲状腺癌)、病期、再発の有無、転移の有無、手術前後等により分類することもできる。さらに、統計処理は、健常者の可溶型CD155タンパク質量の測定値と、癌患者において癌の種類、病期、再発の有無、転移の有無、手術前後等により分類したときの可溶型CD155タンパク質量の測定値とを適宜組み合わせて行うこともできる。
【0022】
本発明において、血液試料中の可溶型CD155タンパク質量の臨界値(cut-off値)は、血清中濃度で、例えば、10 ng/ml、11 ng/ml、12 ng/ml、13 ng/ml、14 ng/ml、15 ng/ml、16 ng/ml、17 ng/ml、18 ng/ml、19 ng/ml、20 ng/ml、21 ng/ml、22 ng/ml、23 ng/ml、24 ng/ml、25 ng/ml、26 ng/ml、27 ng/ml、28 ng/ml、29 ng/ml、30 ng/ml、35 ng/ml、40 ng/ml、45 ng/ml、50 ng/ml、55 ng/ml、60 ng/ml、65 ng/mlである。
【0023】
上記条件下で可溶型CD155タンパク質量を測定した場合において、測定した可溶型CD155タンパク質量が上記cut-off値以上であるときに、癌が検出されたと判定できる。本発明においては、前記判定のための血清中濃度の値に上限値を設けてもよく、例えば、上記各cut-off値以上であって、かつ所定上限値以下(例えば、200 ng/ml以下、190 ng/ml以下、180 ng/ml以下、170 ng/ml以下、160 ng/ml以下、150 ng/ml以下、145 ng/ml以下、140 ng/ml以下、135 ng/ml以下、130 ng/ml以下)であるときに、癌を検出することができる。
【0024】
本発明において、癌を検出したときの当該検出結果の確からしさ(確率)は、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、好ましくは99%以上である。
【0025】
ここで、「検出」とは、可溶型CD155タンパク質量又は可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子(例えばmRNA)の発現量を指標として、測定結果と癌とを関連づけることを意味する。そして、このような測定結果は、(a)癌である可能性、(b)再発のリスク、(c)癌の転移、(d)5年生存及び10年生存の可能性などの判断に結びつけるものである。従って、検出の内容は、目的に応じて適宜使い分けることができる。例えば、被験者が健康診断を目的とした場合は、上記(a)項目が主な判断の対象になり、被験者が癌の患者である場合は、その予後を観察するために上記(b)、(c)、(d)項目が主な判断の対象になる。但し、これらの内容は例示であり限定されるものではない。
【0026】
さらに、本発明の別の態様において、一人の患者のサンプルから測定された可溶型CD155タンパク質量を上記cut-off値と比較することで癌との関連性を検出するほかに、複数の患者由来の生体試料を用いて可溶型CD155タンパク質量等を測定する場合がある。従って、上記cut-off値を決定する手法と同様にして、所定数の健常人及び患者を含む集団(1次母集団)において上記可溶型CD155タンパク質量等を測定して統計解析処理し、これらの集団に属する被験者において癌が検出された群と検出されない群に分けることも可能である。さらに、このようにして得られた測定値を基本データとして、この基本データと他の集団(2次母集団)における検出の対象となる個々の被験者由来の試料における可溶型CD155タンパク質量等とを比較することができる。
【0027】
あるいは、それぞれの患者のデータを前記母集団の値に組み込んで可溶型CD155タンパク質量等を再度データ処理し、対象となる患者(母集団)の例数を増やすこともできる。例数を増やすことにより、可溶型CD155タンパク質量等の臨界値の精度を高め、これにより1人又は複数人の被験者における検出又は診断精度を高めることができる。
【0028】
本発明においては、(i)被験者の生体試料における可溶型CD155タンパク質量等と、(ii)健常者の生体試料における可溶型CD155タンパク質量等との比較を行うことも可能である。
そして、前記(i)の場合の可溶型CD155タンパク質量等が、前記(ii)の場合の可溶型CD155タンパク質量等と比較して高い場合、例えば、健常者の生体試料における可溶型CD155タンパク質量等の約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約100%以上高い場合に、癌が検出されたと判断できる。なお、ここで使用する「検出」の用語の意味は、前記と同様である。
【0029】
上記検出結果は、例えば、癌の検査又は治療効果の確定診断を行う場合の主要資料又は補助資料とすることができる。
前述の通り、可溶性CD155タンパク質は各種癌患者において発現するため、健康診断等において可溶性CD155タンパク質が検出されてもどの癌であるのか特定することができない。そこで、集団で行う健康検診等の場では「癌が疑われる」という評価を行い、後に癌種の特定や進行度を決定する(精密検査を行う)ための補助資料として使用することができる。また、癌種がある程度疑われた患者由来の試料を用いて可溶性CD155タンパク質が検出されたときは、癌種の主要資料(確定診断等)に利用することができる。なお、癌種の特定には、他の腫瘍マーカー、画像診断、病理診断等を使用することができる。
【0030】
5.可溶型CD155タンパク質に対する抗体
(1)可溶型CD155タンパク質に対する抗体
本発明の抗体は、可溶型CD155タンパク質と特異的に結合する抗体を意味し、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
本発明の抗体は、より具体的には、以下の(a)又は(b)の可溶型タンパク質に対する抗体である。
(a)配列番号4又は6に示されるアミノ酸配列からなる可溶型タンパク質
(b)配列番号4又は6に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつCD155受容体のタンパク質に結合する活性を有する可溶型タンパク質
【0031】
上記のとおり、本発明の可溶型CD155タンパク質には、配列番号4又は6に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加され、又はそれらの組合せにより変異されたアミノ酸配列からなり、かつ、CD155受容体のタンパク質に結合する活性を有する可溶型タンパク質も含まれる。
配列番号4又は6に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、若しくは付加され、又はそれらの組合せにより変異されたアミノ酸配列としては、例えば、
(i) 配列番号4又は6で示されるアミノ酸配列中の1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
(ii) 配列番号4又は6で示されるアミノ酸配列中の1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、
(iii) 配列番号4又は6で示されるアミノ酸配列に1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、
(iv) 上記(i)〜(iii) の組合せにより変異されたアミノ酸配列
などが挙げられる。
【0032】
本発明において、「CD155受容体のタンパク質に結合する活性」とは、CD155受容体のタンパク質と特異的に結合する活性を意味する。当該結合活性の有無については、公知の方法、例えば免疫沈降法、ウェスタンブロッティング、EIA(enzyme immunoassay)、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)などの免疫学的手法やプルダウンアッセイ等の方法を用いることにより測定することができる。CD155受容体としては、限定されるものではないが、例えばDNAM-1(CD226)などが挙げられる。また、「CD155受容体のタンパク質に結合する活性を有する」とは、配列番号4又は6に示されるアミノ酸配列からなる可溶型タンパク質の活性を100としたときと比較して、少なくとも10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、好ましくは90%以上の活性を有することを意味する。
【0033】
上記の変異を有するタンパク質を調製するためにDNAに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTMSite-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。
【0034】
本明細書においては、CD155タンパク質と特異的に結合する抗体を「抗CD155抗体」とも称する。抗CD155抗体には、膜型CD155タンパク質に結合する抗体及び可溶型CD155タンパク質に結合する抗体の両者が含まれるが、膜型CD155タンパク質には結合せず、可溶型CD155タンパク質に特異的に結合する抗体がより好ましい。
【0035】
また、本発明の抗体には、本発明の抗体が結合する抗原決定基(エピトープ)と結合する抗体も含まれる。抗原決定基はCD155タンパク質の全部又は一部の領域である。
本発明において、「特異的に結合する」とは、CD155タンパク質若しくはCD155ペプチドには結合する(反応する)が、CD155タンパク質若しくはCD155ペプチド以外には結合しない(反応しない)ことを意味する。結合が特異的か否かであることの確認は、免疫学的手法、例えばELISA法、ウエスタンブロット法、又は免疫組織学的染色等によって確認することができる。
【0036】
(2)抗体の製造
以下、抗CD155抗体の調製方法について説明する。
(2−1)抗原の調製
CD155は、本発明の抗体を作製するための免疫原として使用される。
本明細書において、「CD155」には膜型CD155及び可溶型CD155の両者が含まれるが、好ましくは可溶型CD155である。また、免疫原としてCD155を用いる場合、膜型若しくは可溶型CD155の全長配列のうち一部のアミノ酸配列を含むペプチドを使用することもできる。
ここで、抗原又は免疫原として用いられる可溶型CD155タンパク質及びその製造方法、変異の導入方法等の説明については、上記「(1)可溶型CD155タンパク質に対する抗体」に記載した通りである。
【0037】
さらに、上記タンパク質は、マウス、ヒト等の組織や細胞から精製された天然型のCD155でもよいし、遺伝子工学的に生産されたCD155でもよい。例えば、CD155が認められる生体試料を各種界面活性剤、例えばTriton-X、Sarkosylなどを用い、可溶性画分と不溶性画分に分画する。さらに不溶性画分を尿素やグアニジン塩酸などに溶解し、各種カラム、例えばヘパリンカラムあるいは結合樹脂に結合させることによりCD155を得ることができる。また、抗原として用いるCD155は、そのアミノ酸配列を指定することにより、固相法などの公知のタンパク質合成法又は市販のタンパク質合成装置を用いて合成することもできる。合成したペプチドは、Keyhole Limpet Hemocyanin(KLH)又はThyroglobulinなどの担体タンパク質と結合させ、免疫原として用いることができる。
【0038】
(2−2)ポリクローナル抗体の作製
前記のようにして作製したCD155又は部分ペプチドをそれ自体で、あるいは担体、希釈剤と共に温血動物、例えばウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヤギ等に投与することにより免疫する。抗原の動物1匹当たりの投与量は、アジュバントを用いないときは0.1〜10 mgであり、アジュバントを用いるときは0.1〜10 mgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。免疫は、主として静脈内、皮下又は腹腔内等に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは1〜2週間間隔で、2〜10回、好ましくは3〜5回免疫を行う。免疫の間隔は、当業者であれば得られる抗体価を勘案して設定することができる。3回〜4回皮下免疫を行った時点で試採血を行い、抗体価を測定することが好ましい。血清中の抗体価の測定は、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、EIA(enzyme immunoassay)、放射性免疫測定法(RIA; radioimmuno assay)等によって行うことができる。抗体価が十分上昇したことを確認した後、全採血し、通常行われる方法により抗体を分離精製することができる。例えば、目的の抗体を含有する血清を、CD155以外のタンパク質を結合したカラムに通し、素通り画分を採取することにより、CD155、特に可溶型CD155に対する特異性を向上させたポリクローナル抗体を得ることができる。
【0039】
(2−3)モノクローナル抗体の作製
(i) 抗体産生細胞の採取
前記のようにして作製したCD155又は部分ペプチドをそれ自体で、あるいは担体及び希釈剤と共に温血動物に投与することにより免疫する。抗原の動物1匹当たりの投与量は、アジュバントを用いないときは0.1〜10 mgであり、アジュバントを用いるときは0.1〜10 mgである。用いられるアジュバントの種類、免疫方法、免疫の間隔はポリクローナル抗体の作製と同様である。最終の免疫日から1〜30日後、好ましくは2〜5日後に、抗体価の認められた個体を選択し抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞又はリンパ節細胞が好ましい。
【0040】
(ii) 細胞融合
ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。融合操作は既知の方法、例えばKohlerらの方法に従い実施できる。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞としては、例えばPAI、P3U1、NSI/1-Ag4-1、NSO/1などのマウスミエローマ細胞株、YB2/0などのラットミエローマ細胞株などが挙げられる。
【0041】
上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞との細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用培地中で、1×108〜5×108個の抗体産生細胞と2×107〜10×107個のミエローマ細胞とを混合し(抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比10:1〜1:1)、細胞融合促進剤存在のもとで融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1000〜6000ダルトンのポリエチレングリコール又はセンダイウイルス等を使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0042】
(iii) ハイブリドーマの選別及びクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を、例えば10〜20%のウシ胎児血清含有RPMI-1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に限界希釈法で計算上0.3 個/well程度まき、各ウエルにHAT培地などの選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、10日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0043】
次に、生育してきたハイブリドーマをさらにスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマを培養したウエルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法、放射性免疫測定法等によって、スクリーニングすることができる。具体的には、96ウエルプレートに抗原を吸着させた後、仔牛血清でブロッキングする。ハイブリドーマ細胞の培養上清を固相化した抗原に37℃で1時間反応させた後、ペルオキシダーゼ標識した抗マウスIgGを37℃で1時間反応させ、オルトフェニレンジアミンを基質として用いて発色させる。酸で反応を停止させた後、490nmの波長における吸光度を測定することにより、スクリーニングすることができる。上記測定法により陽性を示したモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、限界希釈法等によりクローニングする。そして、最終的に、CD155、好ましくは可溶型CD155に特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する細胞であるハイブリドーマを樹立する。
【0044】
(iv) モノクローナル抗体の採取
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI-1640培地、MEM培地又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃、5% CO2濃度)で7〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物、例えばマウス(BALB/c)の腹腔内にハイブリドーマを約5×106 〜2×107個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水を採取する。上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0045】
なお、ヒト型化抗体は、免疫原(抗原)をヒト抗体産生トランスジェニック非ヒト哺乳動物に免疫し、既存の一般的な抗体産生方法によって取得することができる。ヒト型化抗体産生非ヒト哺乳動物、特にヒト型化抗体産生トランスジェニックマウスの作製方法は公知である(Nature Genetics 7: 13-21(1994); Nature Genetics 15: 146-156(1997)等)。
【0046】
(3)遺伝子組換え抗体の作製
本発明の抗体の好ましい態様の一つとして、遺伝子組換え抗体が挙げられる。遺伝子組換え抗体としては、限定はされないが、例えば、キメラ抗体、ヒト型化抗体 及びヒト化抗体等が挙げられる。
【0047】
キメラ抗体(すなわちヒト型キメラ抗体)は、マウス由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に連結(接合)した抗体であり(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 6851-6855, (1984) 等を参照)、キメラを作製する場合は、そのように連結した抗体が得られるよう、遺伝子組換え技術によって容易に構築できる。
【0048】
ヒト型化抗体を作製する場合は、いわゆるCDRグラフティング(CDR移植)と呼ばれる手法を採用することができる。CDRグラフティングとは、マウス抗体の可変領域から相補性決定領域(CDR)をヒト可変領域に移植して、フレームワーク領域(FR)はヒト由来のものでCDRはマウス由来のものからなる、再構成した可変領域を作製する方法である。次に、これらのヒト型化された再構成ヒト可変領域をヒト定常領域に連結する。このようなヒト型化抗体の作製法は、当分野において周知である(Nature, 321, 522-525 (1986);J. Mol. Biol., 196, 901-917 (1987);Queen C et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86: 10029-10033 (1989);特許第2828340号公報等を参照)。
【0049】
ヒト化抗体(完全ヒト抗体)は、一般にV領域の抗原結合部位である超可変領域(Hyper Variable region)、V領域のその他の部分及び定常領域の構造が、ヒトの抗体と同じ構造を有するものである。但し、超可変部位は他の動物由来であってもよい。ヒト化抗体を作製する技術も公知であり、ヒトに共通の遺伝子配列については遺伝子工学的手法によって作製する方法が確立されている。ヒト化抗体は、例えば、ヒト抗体のH鎖及びL鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いた方法(Tomizuka, K.et al., Nature Genetics, (1977)16, 133-143; Kuroiwa, Y.et.al., Nuc. Acids Res., (1998)26, 3447-3448; Yoshida, H.et.al., Animal Cell Technology: Basic and Applied Aspects,(1999)10, 69-73 (Kitagawa, Y.,Matuda, T. and Iijima, S. eds.), Kluwer Academic Publishers; Tomizuka, K.et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (2000)97, 722-727 等を参照)や、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイ由来のヒト抗体を取得する方法(Wormstone, I. M.et.al, Investigative Ophthalmology & Visual Science., (2002)43 (7), 2301-8; Carmen, S. et.al., Briefings in Functional Genomics and Proteomics,(2002)1 (2), 189-203; Siriwardena, D. et.al., Opthalmology, (2002)109 (3), 427-431 等を参照)により取得することができる。
また、本発明においては、ハイブリドーマ又は当該ハイブリドーマから抽出したDNA若しくはRNAなどを原料として、上述した周知の方法に準じてキメラ抗体、ヒト型化抗体、ヒト化抗体を作製することができる。
【0050】
(2)中和抗体
本発明の抗体の好ましい態様の一つとして、可溶型CD155タンパク質を中和する抗体が挙げられる。ここで、中和とは、可溶型CD155タンパク質がそのレセプター(例えばDNAM-1)に結合するのを阻害することをいう。
【0051】
6.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、本発明の抗体を含有するものであり、癌の治療に有効である。
本発明の抗体は、可溶型CD155タンパク質を標的とする。可溶型CD155は、癌細胞が腫瘍免疫により排除されるのを回避するために重要な役割を果たす。膜型CD155のみ発現する癌細胞は、CTLやNK細胞に発現するDNAM-1と結合し、細胞傷害の標的となって排除される。これに対し、可溶型CD155を発現する癌細胞は、産生した可溶型CD155がCTLやNK細胞に発現するDNAM-1と結合し、膜型CD155とDNAM-1との結合を競合阻害する結果、細胞傷害の標的とならず、排除されない(図11)。
従って、可溶型CD155を中和することができれば、癌細胞をCTLやNK細胞による細胞傷害の標的とすることができるため、癌細胞を傷害することができる。
よって、本発明の癌の治療用医薬組成物に使用される抗体としては、前述の可溶型CD155を中和する抗体がより好ましい。
【0052】
さらに、本発明の医薬組成物に用いられる抗体としては、例えば、ヒトキメラ抗体またはヒト化抗体が挙げられる。
本発明の医薬組成物に用いられる抗体は、単独で、あるいは薬学的に許容される担体または希釈剤等と共に投与することができ、またその投与は1回または数回に分けて行うことができる。
ここで「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の一つ以上を用いることにより、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、注射剤、液剤、カプセル剤、トローチ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口又は非経口的に投与することができる。
【0053】
経口投与の場合、微晶質セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシン等の種々の賦形剤を、崩壊剤、結合剤等とともに使用することができる。崩壊剤としては、澱粉、アルギン酸、ある種のケイ酸複塩などが挙げられ、結合剤としては、例えばポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼラチン、アラビアゴムなどが挙げられる。
【0054】
また、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク等の滑沢剤は錠剤形成に非常に有効である。経口投与用として水性懸濁液又はエリキシルにする場合は、必要により乳化剤、懸濁化剤を併用し、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等、およびそれらを組み合わせた希釈剤と共に使用することができる。
【0055】
非経口投与のためのその他の形態としては、一つまたはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。
注射剤の場合には、例えば生理食塩水あるいは市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に0.1μg抗体/ml担体〜10mg抗体/ml担体の濃度となるように溶解または懸濁することにより製造することができる。このようにして製造された注射剤は、処置を必要とするヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、10μg〜50mgの割合で、好ましくは100μg〜2mgの割合で、1日あたり1回〜数回投与することができる。但し、この範囲に限定されるものではなく、患者の体重および症状や個々の投与経路によって変動し得る。治療する患者の薬物に対する感受性の差異、薬剤の処方の仕方、投与期間および投与間隔によっても投与量に変動が生じてくるので、場合によっては前記範囲の下限より低い投与量が適当なこともある。
【0056】
投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、バクテリア保留フィルターを通す濾過滅菌、殺菌剤の配合または照射により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
【0057】
7.癌の検出用試薬及びキット
本発明は、可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む癌の検出用試薬を提供する。可溶型CD155タンパク質に対する抗体の説明については、上記の通りである。本発明の試薬は、前記抗体を単独で含むものであってもよいし、前記抗体のほか、適宜担体又は希釈剤等を含むものであってもよい。担体及び希釈剤等の説明は上記のとおりである。
【0058】
本発明の癌の検出用キットは、本発明の抗体を含むものである。ここで用いる抗体は、上記した固定化抗体や標識抗体でもよい。例えば、本発明の抗体を一次抗体として使用する場合、本発明のキットには、抗原抗体結合反応により形成された複合体を検出するための二次抗体を含めてもよい。本発明のキットには、該キットを効率的かつ簡便に利用できるようにするために、これら抗体以外に種々の補助剤を含めてもよい。補助剤としては、例えば固体状の二次抗体を溶解させるための溶解剤、不溶化担体を洗浄するために使用される洗浄剤、抗体の標識物質として酵素を使用した場合に酵素活性を測定するための基質、その反応停止剤などの免疫学的測定試薬のキットとして通常使用されるものが挙げられる。
【0059】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
1.材料及び方法
(1)癌組織、血清
癌組織、癌患者血清は、筑波大学大学院人間総合科学研究科医の倫理委員会にて承認された方法に従い、いずれも初発の卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、乳癌、甲状腺癌の患者より同意を得て採取した。組織は手術摘出標本の一部を、血清は手術前と手術後約2週間の血液を解析に用いた。また健常人血清は、健常人ボランティアより同意を得て採取した。
【0061】
(2)細胞
HeLa細胞株(ヒト子宮頚癌由来)、HOS細胞株(ヒト骨肉腫由来)、RD細胞株(ヒト横紋筋肉腫由来)、U87MG細胞株(ヒト神経膠腫由来)はDMEM培地(Sigma-Aldrich)、10%ウシ胎児血清(Biological Industries)、20U/mlペニシリン/0.5mg/mlストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)、37℃、10%CO2環境下にて培養を行った。Jurkat細胞株(ヒト急性T細胞性白血病由来)、Colo205細胞株(ヒト大腸癌由来)はRPMI培地(Sigma-Aldrich)を用い、37℃、5%CO2環境下にて培養を行った。
ヒト可溶型CD155 sandwitch ELISA にて解析を行ったHeLa細胞株の培養上清は、12wellプレートに1wellあたりHeLa細胞株1×106個を1mlの培養液で培養し、24時間後、48時間後の培養上清を採取した。
【0062】
(3)マウス、ウサギ
BALB/cマウスは8〜12週齢の雄を用い、チャールスリバーより購入した。JWウサギは3.0kg、13〜14週齢の雌を用い、北山ラベスより購入した。SPF(specific pathogen free)の環境下にて飼育し、筑波大学生命科学動物資源センターの規約に従った。
【0063】
(4)PCR(polymerase chain reaction)
培養細胞、癌組織よりISOGEN(NIPPON GENE)を用いてプロトコールに従いmRNAを抽出し、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kits(Applied Biosystems)を用いてプロトコールに従いcDNAを合成した。下記条件でPCRを行った。プライマーは
CD155 Forward: TCCTGTGGACAAACCAATCAACAC(配列番号11)
CD155 Reverse: GAGGCGCTGGCATGCTCTGT(配列番号12)
GAPDH Forward: CTTCACCACCATGGAGAAGGC(配列番号13)
GAPDH Reverse: GGCATGGACTGTGGTCATGAG(配列番号14)
(GAPDH: glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)
を用い、PCRサイクル条件は、94℃にて5分変性後、94℃30秒、62℃30秒、72℃1分にて30サイクル行った。
【0064】
(5)ヒト可溶型CD155 sandwitch ELISA、抗体、タンパク質
96well黒色プレート(greiner bio-one)はマウス抗ヒトCD155抗体(TX24)2μg/ml、100 μl/wellを注入し4℃オーバーナイトでコートした。10%ウシ胎児血清200μl/wellを注入し室温1時間でブロッキングした。0.05%Tween20で洗浄ののち、標準用ヒトCD155-ヒトIgG Fc融合タンパク質、測定用細胞培養上清または血清を100μl/wellで3wellずつ注入し、室温1時間で反応させた。0.05%Tween20で洗浄ののち、ウサギ抗ヒトCD155血清5μg/ml、100 μl/wellを注入し室温1時間で反応させた。0.05%Tween20で洗浄ののち、HRP(horseradish peroxidase)標識抗ウサギIgG抗体(GE Healthcare)2000倍希釈、100μl/wellを注入し室温1時間で反応させた。0.05%Tween20で洗浄ののち、QuantaBlu Working Solution(PIERCE)100μl/wellを注入し遮光室温30分で反応させ、Stop Solution 100 μl/wellを注入し反応を停止させ、Spectra Max M2e(Molecular Devices)を用いて励起波長320nm、測定波長430nmで蛍光強度を測定した。
【0065】
マウス抗ヒトCD155抗体(TX24)は、本発明者らにより作製されたTX24ハイブリドーマクローンをヌードマウスの腹腔内に注射し、採取した腹水からカプリル酸を用いた塩析にて精製することにより作製した。
上記TX24産生ハイブリドーマは、ヒトCD155を抗原として用いてBalb/cマウスに免疫した後、10〜30日後に当該マウスから脾臓またはリンパ節を採取し、脾臓細胞またはリンパ節細胞とミエローマ細胞株とをペグチン等により融合し、さらに融合細胞から抗体産生ハイブリドーマをスクリーニングすることにより取得した。
ヒトCD155-ヒトIgG Fc融合タンパク質は、本発明者らにより作製されたヒトCD155-ヒトIgG Fc発現ベクターを293T細胞にDEAE-Dextran法にて遺伝子導入し、培養上清中に産生されたヒトCD155-ヒトIgG Fc融合タンパク質をProtein Aカラムを用いて精製した。
ウサギ抗ヒトCD155血清は、JWウサギ頸部にヒトCD155-ヒトIgG Fc融合タンパク質1mgをcomplete freund’s adjuvantとまぜてエマルジョンにしたものを7日間おきに計3回皮下注射し、オクタロニー法により抗体力価を確認したのち、全血採血を行い血清を得た。
【0066】
(6)マウス可溶型CD155産生腫瘍細胞の作製
マウスCD155のcDNAからCD155の細胞外領域をPCRにより作製し、C末端3×FLAG融合タンパク質の細胞外産生による安定発現用ベクターであるp3×FLAG-CMV-13 expression vector(Sigma-Aldrich)に組み込み、CD155-3×FLAG発現ベクターを構築し、DMRIE-C(invitrogen)を用いてMethA細胞株に遺伝子導入した。Meth A細胞株はBALB/cマウスの腹腔内にて継代したものを用いた。G418(Sigma-Aldrich)400μg/mlにより、導入遺伝子の安定発現細胞を選択し、再びBALB/cマウスの腹腔内にて継代を行った。細胞の継代を行ったマウス腹水中に、CD155-3×FLAG融合タンパク質が産生されていることをELISAにて確認した。
Mock細胞は、cDNAを組み込んでいないp3×FLAG-CMV-13 expression vectorを、同様にMeth A細胞株に遺伝子導入して作製した。
【0067】
(7)マウス可溶型CD155 sandwitch ELISA、抗体
96well黒色プレート(greiner bio-one)はラット抗マウスCD155抗体(TX56)2μg/ml、100 μl/wellを注入し4℃オーバーナイトでコートした。10%ウシ胎児血清200 μl/wellを注入し室温1時間でブロッキングした。0.05%Tween20で洗浄ののち、測定用マウス腹水を100 μl/wellで3wellずつ注入し、室温1時間で反応させた。0.05%Tween20で洗浄ののち、マウス抗FLAG M2ビオチン化抗体(Sigma-Aldrich)1μg/ml、100μl/wellを注入し室温1時間で反応させた。0.05%Tween20で洗浄ののち、HRP標識ストレプトアビジン(GE Healthcare)2000倍希釈、100μl/wellを注入し室温1時間で反応させた。0.05%Tween20で洗浄ののち、QuantaBlu Working Solution(PIERCE)100μl/wellを注入し遮光室温30分で反応させ、Stop Solution 100μl/wellを注入し反応を停止させ、Spectra Max M2e(Molecular Devices)を用いて励起波長320nm、測定波長430nmで蛍光強度を測定した。
ラット抗マウスCD155抗体(TX56)は本発明者らが作製した。具体的には、マウスCD155を抗原として用いてWisterラットに免疫した後、10〜30日後に当該ラットから脾臓またはリンパ節を採取し、脾臓細胞またはリンパ節細胞とミエローマ細胞株とをペグチン等により融合し、さらに融合細胞から抗体産生ハイブリドーマをスクリーニングすることによりTX56産生ハイブリドーマを取得した。TX56産生ハイブリドーマの培養上清をラット抗マウスCD155抗体(TX56)として用いた。
【0068】
(8)FACS(fluorescence activated cell sorter)、抗体
BALB/cマウスの腹腔内にて継代を行った可溶型CD155産生Meth A細胞(CD155-3×FLAG融合タンパク質産生Meth A細胞)またはMock Meth A細胞を洗浄後、細胞浮遊液を1×106個/サンプルに調整し、一次抗体にて氷上で20分反応させ染色を行った。細胞を洗浄後、二次抗体にて氷上で20分反応させ染色を行った。さらに細胞洗浄後、FACSにて解析を行った。FACSはcalibur (Becton Dickinson) を用いた。サンプルの取り込み、解析は同社のプロトコールに従って行った。一次抗体に使用した、ラット抗マウスCD155抗体(TX56)、ラット抗マウスCD112抗体(TX78)は本発明者らが作製し、ビオチン化を行った。二次抗体はストレプトアビジン-PE(phycoerythrin)(BD pharmingen)を使用した。
【0069】
(9)細胞増殖ELISA
細胞増殖ELISAはCell Proliferation ELISA, BrdU(Roche)を用いて行った。BALB/cマウスの腹腔内にて継代を行った可溶型CD155産生Meth A細胞(CD155-3×FLAG融合タンパク質産生Meth A細胞)またはMock Meth A細胞を、96wellプレートに4×104〜3.1×102個を200μl/wellの培養液で、37℃、5%CO2環境下で培養した。BrdU標識溶液を20μl/well注入し、20時間培養した。培養液を除いてプレートを乾燥させ、FixDenatを200μl/well注入して室温30分で反応させ、細胞の固定とDNAの変性を行った。抗BrdU-POD反応液を100μl/well注入して室温1時間で反応させた。洗浄液で洗浄ののち、基質液100 μl /wellを注入して遮光室温5分で反応させ、0.5M H2SO4を注入して基質反応を停止させ、Spectra Max M2e(Molecular Devices)を用いて波長450nmで吸光度を測定した。
【0070】
(10)腫瘍移植実験
BALB/c雄マウスの背部に、腹腔内継代を行った可溶型CD155産生Meth A細胞(CD155-FLAG融合タンパク質産生Meth A細胞)またはMock Meth A細胞を1匹あたり4×104個または8×104個皮下注射し、腫瘍径とマウスの生存率を観察した。計測は1週間に2回行い、観察は約60日間行った。
【0071】
(11)統計
統計学的解析はunpaired t-testを用いて行った。P<0.05を有意差ありと判定した。
【0072】
2.結果
(1)ヒト癌細胞株の可溶型CD155の発現
ヒト癌細胞株の可溶型CD155のmRNAの発現を解析するため、CD155 Exon5にForwardプライマー(配列番号11)、Exon7にReverseプライマー(配列番号12)を設計しPCRを行った(図4A)。CD155はExon6に膜貫通領域を含み、可溶型CD155はこの膜貫通領域を欠失している。可溶型CD155であるβは一部の細胞外領域を残してExon6を部分的に欠失、γはExon6を全部欠失するため、この条件下でPCRを行うと膜型CD155であるαは273bp、可溶型CD155であるβは138bp、γは114bpのバンドを検出することができる。
検出の結果、Jurkat細胞株(ヒト急性T細胞性白血病由来)、Colo205細胞株(ヒト大腸癌由来)、HeLa細胞株(ヒト子宮頚癌由来)、HOS細胞株(ヒト骨肉腫由来)、RD細胞株(ヒト横紋筋肉腫由来)、U87MG細胞株(ヒト神経膠腫由来)ともCD155α、β、γのバンドを検出し、膜型と可溶型のCD155 mRNAの発現を認めた(図4B)。
この結果から、種々の癌(ヒトの急性T細胞性白血病、大腸癌、子宮頚癌、骨肉腫、横紋筋肉腫、神経膠腫など)が可溶型CD155のmRNAを発現することが示された。また、生体試料中の可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子のmRNA量を測定することにより、癌の検出が可能であることが示された。
さらに、可溶型CD155タンパク質の発現を解析するため、本発明の抗体を用いてヒト可溶型CD155 sandwitch ELISAを行い(図5A)、癌細胞株の可溶型CD155タンパク質の産生をHeLa細胞株の培養上清を用いて解析したところ、可溶型CD155タンパク質の産生を検出した(図5B)。
この結果から、癌細胞が含まれる生体試料には可溶型CD155タンパク質が産生されていることが示された。また、生体試料中の可溶型CD155タンパク質の発現量を測定することにより、癌の検出が可能であることが示された。
【0073】
(2)癌組織、癌患者血清の可溶型CD155の発現
次に、癌組織の可溶型CD155のmRNAの発現と癌患者血清の可溶型CD155タンパク質の発現を、前述と同様にPCRとsandwitch ELISAにて解析した。症例はいずれも初発癌である。
解析の結果、癌組織では、卵巣癌5例、子宮頚癌4例、子宮体癌7例の全ての症例において膜型と可溶型のCD155 mRNAの発現を認めた(図6)。
この結果から、ヒトの癌患者から採取した癌組織において、可溶型CD155のmRNAが発現することが示された。また、ヒトの癌患者から採取した生体試料中の可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子のmRNA量を測定することにより、癌の検出が可能であることが示された。
【0074】
また、癌患者血清の可溶型CD155タンパク質の濃度(発現量)は、卵巣癌15例、子宮頚癌11例、子宮体癌12例、乳癌20例、甲状腺癌5例(計63例)を健常人血清(計22例)と比較すると、卵巣癌と子宮体癌の患者血清については健常人血清より高い傾向がみられた(図7)。また可溶型CD155タンパク質濃度と癌の病期との相関について検討すると、卵巣癌や子宮体癌で認める可溶型CD155タンパク質濃度が非常に高値の症例は、進行癌の患者血清であることが分かった(図7)。さらに、癌患者血清のうち23例について手術前と手術後の可溶型CD155タンパク質濃度を解析すると、手術前と比較し手術後に有意に低下するという結果を得た(図8)。
これらの結果から、ヒトにおける種々の癌患者から採取した血清には可溶型CD155タンパク質が産生されていることが示された。また、進行癌患者の血清において可溶型CD155タンパク質濃度が非常に高い値を示したこと、並びに癌の手術後の血清において可溶型CD155タンパク質濃度が有意に低下したことから、血清中の可溶型CD155タンパク質濃度と癌の病期との間にはある程度の相関関係があることが示された。そして、この結果により、血清等の生体試料中の可溶型CD155タンパク質量を測定し、その測定結果と癌とを関連づけることにより、癌の検出が可能であることが示された。また、可溶型CD155に対する抗体は、癌の検出用試薬又はキットに用いることができることが示された。
【0075】
(3)マウス可溶型CD155産生腫瘍細胞の作製
マウスCD155 cDNAの細胞外領域を、C末端3×FLAG融合タンパク質の細胞外産生による安定発現用ベクター:p3×FLAG-CMV-13 expression vectorに組み込み、CD155-FLAG融合タンパク質発現ベクターを構築し、Meth A細胞株に遺伝子導入して可溶型CD155産生Meth A細胞(CD155-FLAG融合タンパク質産生Meth A細胞)を作製した。Mock Meth A細胞は、cDNAを組み込んでいないp3×FLAG-CMV-13 expression vectorを、同様にMeth A細胞株に遺伝子導入して作製した。
可溶型CD155産生Meth A細胞及びMock Meth A細胞の双方をマウス腹腔内にて継代し、腹水中のCD155-FLAG融合タンパク質をsandwitch ELISAにより測定した結果、可溶型CD155産生Meth A細胞は腹水中にCD155-FLAG融合タンパク質を産生し、Mock Meth A細胞はCD155-FLAG融合タンパク質を産生しないことを確認した(図9A)。
また可溶型CD155タンパク質産生の有無のほかに、可溶型CD155産生Meth A細胞とMock Meth A細胞の性質に相違がないことを確認するため、細胞表面のCD155(膜型CD155)、CD112の発現をFACSにて解析した。
その結果、可溶型CD155産生Meth A細胞とMock Meth A細胞のいずれもCD155は高発現するがCD112は低発現であることを確認した(図9B)。つまり、可溶型CD155と膜型CD155の両方を発現するMeth A細胞と、膜型CD155のみ発現するMeth A細胞を作製することができた。
さらにin vitroにおける細胞増殖を細胞増殖ELISAにて解析し、可溶型CD155産生Meth A細胞とMock Meth A細胞に差がないことを確認した(図9C)。
【0076】
(4)生体内における可溶型CD155による腫瘍免疫逃避
作製した可溶型CD155産生Meth A細胞とMock Meth A細胞を、BALB/cマウスの背部に1匹あたり4×104個または8×104個皮下注射し、腫瘍の大きさとマウス生存率を観察した。
その結果、可溶型CD155産生Meth A細胞の腫瘍は、全てのマウスにおいて増大を認めたのに対し、Mock Meth A細胞は全てのマウスにおいて拒絶された。その結果、可溶型CD155産生Meth A細胞4×104個を移植したマウスにおいては、移植後約50日で生存率0%、8×104個を移植したマウスにおいては移植後約35日で生存率0%となったのに対し、Mock Meth A細胞を移植したマウスの生存率は100%であった(図10)。
上記結果から、可溶型CD155は癌細胞が腫瘍免疫から逃避するために機能していることが示された(図11)。このことは、可溶型CD155を本発明の抗体等で中和し、そのレセプターであるDNAM-1との結合を阻害することにより、癌細胞を腫瘍免疫により殺傷することが可能であり、その結果として癌を治療することができることを示す。より詳細なメカニズムについての検討は、下記の「3.考察」に記載する。
【0077】
3.考察
ヒトCD155は膜型と可溶型のアイソフォームがあるが、癌細胞の可溶型CD155の発現については、大腸癌において膜型と可溶型のCD155 mRNAの発現が認められるという報告が1編あるのみであり、種々の癌における可溶型CD155の発現については未だ明らかではなかった。
本実施例では、種々のヒト癌細胞株、卵巣癌組織、子宮頚癌組織、子宮体癌組織において膜型と可溶型のCD155 mRNAの発現を認め、種々の癌において膜型と可溶型のCD155が発現することを明らかにした。
次に、本実施例では、癌患者血清中の可溶型CD155濃度を健常人血清のものと比較すると、卵巣癌と子宮体癌の患者血清については健常人血清より高い傾向がみられ、また可溶型CD155タンパク質濃度が高値を示す症例は進行癌の患者血清であった。このことから可溶型CD155タンパク質濃度は進行癌で高値を示す傾向が示された。
さらに手術前と比較し手術後に可溶型CD155タンパク質濃度が低下したという結果からは、可溶型CD155タンパク質を産生していた癌を摘出したことにより、血清中の可溶型CD155タンパク質濃度が下がったことが考えられる。
以上より、癌患者、特に進行癌患者においては癌が可溶性CD155タンパク質の主要産生源となることが示された。
【0078】
可溶性CD155の機能をさらに解析するため、マウス可溶型CD155産生腫瘍細胞を作製し、マウスモデルを用いて研究を行った。本実施例では種々のヒトの癌は膜型と可溶型のCD155を発現することを明らかにしたが、作製したマウス可溶型CD155産生腫瘍細胞も、膜型CD155と可溶型CD155の両方を発現する。従って、作製したマウス可溶型CD155産生腫瘍細胞は、これらのヒトの癌細胞の性質を表しているといえる。
またこのマウスモデルの特徴として、(1)生体内における機能解析であること、(2)可溶型CD155タンパク質をマウスに投与するなどではなく、マウスに移植した癌細胞が可溶型CD155タンパク質を直接産生するため、癌の局所つまり微小環境における可溶型CD155の機能を解析できること、が挙げられる。これらのことより、本実施例で得られた結果は腫瘍免疫における可溶型CD155の機能を表しているといえる。
可溶型と膜型のCD155を発現する可溶型CD155産生Meth A細胞は、全てのマウスにおいて増大を認めたのに対し、膜型CD155のみ発現するMock Meth A細胞は全てのマウスにおいて拒絶された。この結果から、次のように考察した。生体内において、膜型CD155のみを発現する癌細胞はCTLやNK細胞に発現するDNAM-1の腫瘍免疫監視を受け、標的となって排除される。一方で膜型CD155と可溶型CD155の両方を発現する腫瘍細胞は、産生した可溶型CD155がCTLやNK細胞のDNAM-1に接着し、DNAM-1と膜型CD155の接着を阻害することにより、腫瘍細胞がDNAM-1の腫瘍免疫監視から逃避し、排除されない。結果、膜型CD155のみ発現する腫瘍細胞は拒絶され、可溶型と膜型のCD155を発現する腫瘍細胞は増殖すると考えられる(図11)。
【0079】
本実施例では、可溶型CD155が免疫逃避に機能することを示した。また本実施例ではヒトの種々の癌に可溶型CD155が発現することを明らかにした。これらの癌が発癌する過程において、癌細胞が産生した可溶型CD155は、免疫逃避に関与し、癌の発症につながっていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の方法により、採取された生体試料中の可溶型CD155タンパク質を測定し、当該測定結果を癌と関連づけることにより、癌を検出することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0081】
配列番号11:合成DNA
配列番号12:合成DNA
配列番号13:合成DNA
配列番号14:合成DNA
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶型CD155タンパク質を指標として癌を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CD155は、ポリオウイルスのレセプターとして同定された免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分子であり(非特許文献1)、細胞外に免疫グロブリン様ドメインを3個有する分子量70kDaの糖タンパク質である。CD155は、消化管上皮、パイエル板のM細胞と胚中心、血球系ではミエロイド系細胞に発現しており(非特許文献2、3)、この発現パターンから抗原提示細胞における機能が期待されるが、その機能はいまだ明らかにされていない。
【0003】
CD155は、ヒトにおいてはCD155α、CD155β、CD155γ及びCD155δの4つのアイソフォームを持つことが知られている(非特許文献4)。αとδは膜貫通領域を持つ膜結合型(膜型)であり、βとγは膜貫通領域を欠失することにより細胞外に分泌される可溶型である。
可溶型CD155のmRNAは、ヒトの肝、肺、腎などの正常組織において発現している。また、可溶型CD155タンパク質は、健常人の血清中で検出される(非特許文献5)。しかしながら、可溶型CD155のmRNAが種々の癌で発現されるかどうかはほとんど明らかになっておらず、大腸癌において膜型CD155と可溶型CD155のmRNAの発現が認められるという報告が1編あるのみである(非特許文献6)。また、マウスのCD155は膜型のみであり、可溶型のアイソフォームが存在するという報告はない。
【0004】
また、CD155は、DNAM-1(CD226)のリガンドであることが明らかとなっている(非特許文献7〜9)。DNAM-1は、本発明者らにより同定された免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分子である(非特許文献10)。DNAM-1は、細胞傷害性T細胞(CTL)やNK細胞に発現し、癌細胞などに発現している膜型CD155等のDNAM-1リガンドを認識して接着し、CTL及びNK細胞に細胞傷害活性を誘導することが明らかとなっている(非特許文献10、11)。しかしながら、可溶型のCD155の機能は明らかになっておらず、可溶型CD155が腫瘍免疫(癌細胞に対する免疫機構)にどのように関与するかも明らかになっていない。
さらに、可溶型CD155を標的とした癌の検出方法、治療方法等はこれまで報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Mendelsohn, C. L.et al., Cell 56, 855-865 (1989)
【非特許文献2】Iwasaki, A. et al., J. Infect. Dis. 186, 585-592 (2002)
【非特許文献3】Freistadt, M. S. et al., Virology 195, 798-803 (1993)
【非特許文献4】Koike, S. et al., EMBO J. 9, 3217-3224 (1990)
【非特許文献5】Baury, B. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 309, 175-182 (2003)
【非特許文献6】Masson, D. et al., Gut 49, 236-240 (2001)
【非特許文献7】Bottino, C. et al., J. Exp. Med. 198, 557-567 (2003)
【非特許文献8】Tahara-Hanaoka, S. et al., Int. Immunol. 16, 533-8 (2004)
【非特許文献9】Tahara-Hanaoka, S. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 329, 996-1000 (2005)
【非特許文献10】Shibuya, A. et al., Immunity 4, 573-581 (1996)
【非特許文献11】Shibuya, A. et al., J. Immunol. 161, 1671-1676 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、本発明は、可溶型CD155タンパク質を指標とした癌の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、ヒト癌細胞株、癌組織及び癌患者血清を用いて、種々の癌における可溶型CD155の発現を解析し、さらに癌の病態との相関について検討した。その結果、進行癌患者の血清において可溶型CD155タンパク質濃度が高値を示すことを見出した。また、生体内での可溶型CD155の機能を解析した結果、可溶型CD155が癌細胞の腫瘍免疫逃避に関与することを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)採取された生体試料中の可溶型CD155タンパク質量又は可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子の発現量を測定し、当該測定結果と癌の可能性とを関連づけることを特徴とする、癌の検出方法。
(2)可溶型CD155タンパク質量の測定が、可溶型CD155タンパク質に対する抗体を用いて行われるものである、上記(1)に記載の方法。
(3)生体試料が組織又は血液由来のものである、上記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)癌が、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、乳癌、甲状腺癌、頭頸部癌、肺癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、大腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、腎癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、副腎癌、精巣癌、前立腺癌、悪性軟部腫瘍、悪性骨腫瘍、脳腫瘍、皮膚悪性腫瘍、白血病及び悪性リンパ腫からなる群から選択される少なくとも1種の癌である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の治療用医薬組成物。
(6)抗体が、可溶型CD155タンパク質を中和する抗体である、上記(5)に記載の医薬組成物。
(7)可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の検出用試薬。
(8)可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の検出用キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、癌の検出方法を提供することができる。本発明は、被験者から採取された生体試料中の可溶型CD155タンパク質の量又は遺伝子の発現量が高確率で癌と関連するため、可溶型CD155を癌のマーカーとして利用することができる。従って、本発明の方法は癌の検査に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】DNAM-1(CD226)とDNAM-1リガンド(CD155及びCD112)の構造を示す図である。A: DNAM-1を示す。B: DNAM-1リガンド(CD155及びCD112)を示す。
【図2】腫瘍免疫におけるDNAM-1とDNAM-1リガンドの機能を示す模式図である。
【図3】4種類のヒトCD155アイソフォームの構造を示す図である。
【図4】癌細胞株の可溶型CD155 mRNAの発現を解析した結果を示す図である。A: 設計したForwardプライマー及びReverseプライマーの結合位置を示す。B: 癌細胞株からmRNAを抽出してcDNAを合成し、PCRにてCD155の発現解析を行った結果を示す。
【図5】癌細胞株の可溶型CD155タンパク質の発現をsandwitch ELISAにより解析した結果を示す図である。A:ヒトCD155-ヒトIgG Fc融合タンパク質による標準曲線を示す。B: HeLa細胞株の培養上清における可溶型CD155タンパク質濃度を解析した結果を示す。
【図6】癌組織の可溶型CD155 mRNAの発現を解析した結果を示す図である。
【図7】種々の癌患者の血清における可溶型CD155タンパク質濃度をsandwitch ELISAにより解析した結果を示す図である。図中の「Stage」とは、癌の進行度を示す。
【図8】癌患者の血清における可溶型CD155タンパク質の濃度を、手術前と後とで比較した結果を示す図である。
【図9】可溶型CD155産生腫瘍細胞の解析結果を示す図である。A: sandwitch ELISAにより、可溶型CD155タンパク質(CD155-FLAG融合タンパク質)の産生を解析した結果を示す。B: 作製した腫瘍細胞における膜型DNAM-1リガンドの発現をFACSにて解析した結果を示す。C: BrdUを用いて細胞増殖ELISAを行った結果を示す図である。
【図10】生体内における可溶型CD155産生癌細胞の腫瘍免疫逃避を検討した結果を示す図である。
【図11】可溶型CD155による腫瘍免疫逃避に関する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
【0011】
1.概要
本発明は、可溶型CD155タンパク質量又は遺伝子の発現量を測定し、可溶型CD155タンパク質量又は遺伝子発現量を指標として、当該測定結果を癌と関連づけることにより、癌を検出する方法である。また、本発明は、可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の治療用医薬組成物等に関する。
可溶型CD155は、ヒトの正常組織においてそのmRNAの発現が認められ、また、健常人の血清においてそのタンパク質の発現が認められているが、従来、ヒトの種々の癌によって産生されるかどうかは明らかとなっていなかった。従って、生体試料中の可溶型CD155タンパク質を測定したとしても、その測定結果が癌とどのように関係するかについては不明であった。
本発明者らは、種々の癌患者の血清において、可溶型CD155のタンパク質量(濃度)が健常人と比較して増加していることを見出した。また、可溶型CD155のタンパク質濃度は、進行癌の患者において特に高い値を示すことを見出した。
また、本発明者らは、これまで不明であった可溶型CD155タンパク質の機能に着目し、検討を行った結果、癌が腫瘍免疫により排除されることを回避(腫瘍免疫逃避)する上で、可溶型CD155タンパク質が重要な役割を果たすことを見出した。そして、可溶型CD155を抗体などで中和することにより、癌を腫瘍免疫により排除し、癌を治療し得ることを見出した。
【0012】
2.CD155
(1)CD155
CD155は、ポリオウイルスのレセプターとして同定された免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分子であり、細胞外に免疫グロブリン様ドメインを3個有する分子量70kDaの糖タンパク質である(図1B)。
CD155は、DNAM-1(CD226)のリガンドである。DNAM-1(図1A)は、細胞傷害性T細胞(CTL)やNK細胞に発現し、癌細胞などに発現しているDNAM-1リガンド(膜型CD155等)を認識して接着し、CTL及びNK細胞に細胞傷害活性を誘導する(図2)。
CD155は、ヒトにおいてはCD155α、CD155β、CD155γ及びCD155δの4つのアイソフォームが知られており、CD155α(配列番号2)とCD155δ(配列番号8)は膜貫通領域を持つ膜結合型(膜型)であり、CD155β(配列番号4)とCD155γ(配列番号6)は膜貫通領域を欠失することにより細胞外に分泌される可溶型である(図3)。
マウスにおいては、膜型のCD155(配列番号10)のみが知られている。これらのタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列について、GenBankアクセッション番号を以下に示す。
ヒトCD155α:NM006505(配列番号1)
ヒトCD155β:NM001135768(配列番号3)
ヒトCD155γ:NM001135769(配列番号5)
ヒトCD155δ:NM001135770(配列番号7)
マウスCD155(膜型):NM027514(配列番号9)
【0013】
(2)可溶型CD155タンパク質及び遺伝子
本発明において、可溶型CD155タンパク質とは、上記のCD155タンパク質の4つのアイソフォームのうち、膜貫通領域(膜型タンパク質のアミノ酸配列のうち344番目のアミノ酸残基(アラニン)〜367番目のアミノ酸残基(トリプトファン)の領域)を欠失することにより細胞外に分泌されるCD155β及びCD155γを意味し、可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子とは、これらCD155β及びCD155γのタンパク質をコードする遺伝子を意味する。なお、遺伝子にはゲノムDNA、cDNA、mRNAが含まれる。これらのタンパク質及び遺伝子の発現量又は濃度を、本発明において癌のマーカーとして利用する。
【0014】
3.可溶型CD155タンパク質の測定
(1)被験試料
本発明において使用される被験試料は、CD155タンパク質の測定に用いられる生体試料であり、被験者から採取された生体試料であることが好ましい。このような生体試料としては、例えば、被験者から採取された血液、腹水、組織、細胞、該細胞の培養上清等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明において「被験者」としては、例えばヒト、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、ハムスター、ネコ、イヌ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、サルなどの哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。「被験者」がヒトの場合、被験者には癌患者、例えば早期癌の患者、進行癌の患者、及び健常者が含まれる。ここで、早期癌は、例えば胃癌、大腸癌などの場合は癌細胞が粘膜層又は粘膜下層までに留まっていること、進行癌は癌細胞が固有筋層又はそれより深い層に達していることを基準に患者を区別して本発明の検出を行うことも可能である。また、血液試料としては末梢血が好ましく、末梢血由来の血清がより好ましい。さらに、組織には、癌組織及び癌が生じる可能性のある正常組織が含まれ、そのような組織としては、例えば、卵巣、子宮、乳房、甲状腺、脳、食道、舌、肺、膵臓、胃、小腸及び十二指腸、大腸、膀胱、腎臓、肝臓、前立腺、胆嚢、咽頭、筋肉並びに皮膚等が挙げられる。細胞とは、前記被験者から採取された血液又は組織などの生体試料に含まれる細胞及びこれを培養した細胞を意味する。なお、細胞の培養上清とは、前記細胞の培養上清及び遠心上清を意味する。
【0015】
(2)可溶型CD155タンパク質量及び可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子の発現量の測定
生体試料中の可溶型CD155タンパク質量の測定は、当分野において採用される任意のタンパク質測定手法を用いて行うことができる。例えば、酵素免疫測定法(ELISA)、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法、酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫比濁法又はウエスタンブロット法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、生体試料中の可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子の発現量の測定は、例えばRT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)法、定量RT-PCR法、サザンブロット法、ノーザンブロット法などの公知の方法により行うことができる。サザン又はノーザンブロット法により遺伝子の発現量を測定したときは、電気泳動後にデンシトメーターを用いてバンドの濃淡を数値に換算してもよい。
【0016】
可溶型CD155タンパク質量の測定を、酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法又は発光免疫測定法等の標識抗体を用いた免疫測定法により実施する場合には、サンドイッチ法又は競合法により行うこともでき、サンドイッチ法の場合には固相化抗体及び標識抗体のうち少なくとも1種が可溶型CD155タンパク質に対する抗体であればよい。
標識抗体とは、標識物質で標識された抗体を意味し、これらの標識抗体は、生体試料中に含まれる抗原を検出または定量するために用いることができる。
本発明で用いることができる標識物質は、抗体に物理的結合又は化学的結合等により結合させることによりそれらの存在を検出可能にするものであれば特に限定されるものではない。標識物質の具体例としては、酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジンあるいは放射性同位体等が挙げられ、より具体的には、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、カタラーゼ、ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素、フルオレスセインイソチオシアネート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、3H、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体、ビオチン、アビジン、または化学発光物質が挙げられる。標識物質と抗体との結合法は、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法又は過ヨウ素酸法等の公知の方法を用いることができる。
【0017】
ここで、放射性同位体及び蛍光物質は単独で検出可能なシグナルをもたらすことができるが、酵素、化学発光物質、ビオチン及びアビジンは、単独では検出可能なシグナルをもたらすことができないため、さらに1種以上の他の物質と反応することにより検出可能なシグナルを生じる。例えば、酵素の場合には少なくとも基質が必要であり、酵素活性を測定する方法(比色法、蛍光法、生物発光法あるいは化学発光法等)に依存して種々の基質が用いられる。また、ビオチンの場合には少なくともアビジンあるいは酵素修飾アビジンを反応させるのが一般的である。必要に応じてさらに該基質に依存する種々の発色物質が用いられる。
【0018】
固定化抗体は、生体試料中に含まれる可溶型CD155タンパク質を検出、定量、分離又は精製するために用いることができる。
抗体を固定化するために使用できる不溶性担体としては、例えば、(i)ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂又はナイロン樹脂等、(ii) ガラス、(iii) セルロース系担体、アガロース系担体、ポリアクリルアミド系担体、デキストラン系担体、ポリスチレン系担体、ポリビニルアルコール系担体、ポリアミノ酸系担体あるいは多孔性シリカ系担体等が挙げられる。これらの担体は、ビーズ、フィルター又はメンブレン等の形態で、あるいはアフィニティークロマトグラフィー用の担体として使用することができる。
【0019】
4.癌の検出方法
(1)癌の種類
本発明において検出の対象となる癌は、特に限定されるものではなく、例えば、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、乳癌、甲状腺癌、頭頸部癌、肺癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、大腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、腎癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、副腎癌、精巣癌、前立腺癌、悪性軟部腫瘍、悪性骨腫瘍、脳腫瘍、皮膚悪性腫瘍、白血病及び悪性リンパ腫が挙げられる。
【0020】
(2)癌の検出方法
可溶型CD155タンパク質は、種々の癌患者、特に進行癌の患者の血清において発現が増加する。また、癌の手術後の可溶型CD155タンパク質量(濃度)は、癌の手術前と比較して有意に低下する。従って、生体試料中の可溶型CD155タンパク質又はこれをコードする遺伝子は、癌を検出するための腫瘍マーカーとして用いることができる。すなわち、本発明は、生体試料中の可溶型CD155タンパク質の量又は可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子の発現量(以下、「可溶型CD155タンパク質量等」とも称する)を測定することを含む、癌の検出方法を提供する。この場合、可溶型CD155タンパク質量等を指標として、測定結果と癌の可能性とを関連づけることが好ましい。
【0021】
可溶型CD155タンパク質量等の測定結果と癌の可能性とを関連づけて癌を検出するためには、血液試料中の可溶型CD155タンパク質量の臨界値(cut-off値)を定めることが望ましい。
可溶型CD155タンパク質量のcut-off値は、例えば、次のようにして求めることができる。まず、癌患者由来の生体試料における可溶型CD155タンパク質量を測定する。このとき対象となる患者の例数は2例以上であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上、100例以上である。また、2例以上の健常者由来の生体試料における可溶型CD155タンパク質量も測定しておくことが好ましく、対象となる健常者の例数は2例以上であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上、100例以上である。そして、癌患者由来の生体試料群と健常者由来の生体試料群の両方を含む全体から、可溶型CD155タンパク質量のcut-off値を、統計処理により求める。統計処理としては、例えば、Kaplan-Meier解析等が挙げられる。統計解析を行うための症例は、癌の種類(例えば、卵巣癌、子宮頸癌、子宮体癌、乳癌、甲状腺癌)、病期、再発の有無、転移の有無、手術前後等により分類することもできる。さらに、統計処理は、健常者の可溶型CD155タンパク質量の測定値と、癌患者において癌の種類、病期、再発の有無、転移の有無、手術前後等により分類したときの可溶型CD155タンパク質量の測定値とを適宜組み合わせて行うこともできる。
【0022】
本発明において、血液試料中の可溶型CD155タンパク質量の臨界値(cut-off値)は、血清中濃度で、例えば、10 ng/ml、11 ng/ml、12 ng/ml、13 ng/ml、14 ng/ml、15 ng/ml、16 ng/ml、17 ng/ml、18 ng/ml、19 ng/ml、20 ng/ml、21 ng/ml、22 ng/ml、23 ng/ml、24 ng/ml、25 ng/ml、26 ng/ml、27 ng/ml、28 ng/ml、29 ng/ml、30 ng/ml、35 ng/ml、40 ng/ml、45 ng/ml、50 ng/ml、55 ng/ml、60 ng/ml、65 ng/mlである。
【0023】
上記条件下で可溶型CD155タンパク質量を測定した場合において、測定した可溶型CD155タンパク質量が上記cut-off値以上であるときに、癌が検出されたと判定できる。本発明においては、前記判定のための血清中濃度の値に上限値を設けてもよく、例えば、上記各cut-off値以上であって、かつ所定上限値以下(例えば、200 ng/ml以下、190 ng/ml以下、180 ng/ml以下、170 ng/ml以下、160 ng/ml以下、150 ng/ml以下、145 ng/ml以下、140 ng/ml以下、135 ng/ml以下、130 ng/ml以下)であるときに、癌を検出することができる。
【0024】
本発明において、癌を検出したときの当該検出結果の確からしさ(確率)は、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、好ましくは99%以上である。
【0025】
ここで、「検出」とは、可溶型CD155タンパク質量又は可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子(例えばmRNA)の発現量を指標として、測定結果と癌とを関連づけることを意味する。そして、このような測定結果は、(a)癌である可能性、(b)再発のリスク、(c)癌の転移、(d)5年生存及び10年生存の可能性などの判断に結びつけるものである。従って、検出の内容は、目的に応じて適宜使い分けることができる。例えば、被験者が健康診断を目的とした場合は、上記(a)項目が主な判断の対象になり、被験者が癌の患者である場合は、その予後を観察するために上記(b)、(c)、(d)項目が主な判断の対象になる。但し、これらの内容は例示であり限定されるものではない。
【0026】
さらに、本発明の別の態様において、一人の患者のサンプルから測定された可溶型CD155タンパク質量を上記cut-off値と比較することで癌との関連性を検出するほかに、複数の患者由来の生体試料を用いて可溶型CD155タンパク質量等を測定する場合がある。従って、上記cut-off値を決定する手法と同様にして、所定数の健常人及び患者を含む集団(1次母集団)において上記可溶型CD155タンパク質量等を測定して統計解析処理し、これらの集団に属する被験者において癌が検出された群と検出されない群に分けることも可能である。さらに、このようにして得られた測定値を基本データとして、この基本データと他の集団(2次母集団)における検出の対象となる個々の被験者由来の試料における可溶型CD155タンパク質量等とを比較することができる。
【0027】
あるいは、それぞれの患者のデータを前記母集団の値に組み込んで可溶型CD155タンパク質量等を再度データ処理し、対象となる患者(母集団)の例数を増やすこともできる。例数を増やすことにより、可溶型CD155タンパク質量等の臨界値の精度を高め、これにより1人又は複数人の被験者における検出又は診断精度を高めることができる。
【0028】
本発明においては、(i)被験者の生体試料における可溶型CD155タンパク質量等と、(ii)健常者の生体試料における可溶型CD155タンパク質量等との比較を行うことも可能である。
そして、前記(i)の場合の可溶型CD155タンパク質量等が、前記(ii)の場合の可溶型CD155タンパク質量等と比較して高い場合、例えば、健常者の生体試料における可溶型CD155タンパク質量等の約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約100%以上高い場合に、癌が検出されたと判断できる。なお、ここで使用する「検出」の用語の意味は、前記と同様である。
【0029】
上記検出結果は、例えば、癌の検査又は治療効果の確定診断を行う場合の主要資料又は補助資料とすることができる。
前述の通り、可溶性CD155タンパク質は各種癌患者において発現するため、健康診断等において可溶性CD155タンパク質が検出されてもどの癌であるのか特定することができない。そこで、集団で行う健康検診等の場では「癌が疑われる」という評価を行い、後に癌種の特定や進行度を決定する(精密検査を行う)ための補助資料として使用することができる。また、癌種がある程度疑われた患者由来の試料を用いて可溶性CD155タンパク質が検出されたときは、癌種の主要資料(確定診断等)に利用することができる。なお、癌種の特定には、他の腫瘍マーカー、画像診断、病理診断等を使用することができる。
【0030】
5.可溶型CD155タンパク質に対する抗体
(1)可溶型CD155タンパク質に対する抗体
本発明の抗体は、可溶型CD155タンパク質と特異的に結合する抗体を意味し、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
本発明の抗体は、より具体的には、以下の(a)又は(b)の可溶型タンパク質に対する抗体である。
(a)配列番号4又は6に示されるアミノ酸配列からなる可溶型タンパク質
(b)配列番号4又は6に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつCD155受容体のタンパク質に結合する活性を有する可溶型タンパク質
【0031】
上記のとおり、本発明の可溶型CD155タンパク質には、配列番号4又は6に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加され、又はそれらの組合せにより変異されたアミノ酸配列からなり、かつ、CD155受容体のタンパク質に結合する活性を有する可溶型タンパク質も含まれる。
配列番号4又は6に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、若しくは付加され、又はそれらの組合せにより変異されたアミノ酸配列としては、例えば、
(i) 配列番号4又は6で示されるアミノ酸配列中の1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
(ii) 配列番号4又は6で示されるアミノ酸配列中の1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、
(iii) 配列番号4又は6で示されるアミノ酸配列に1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、
(iv) 上記(i)〜(iii) の組合せにより変異されたアミノ酸配列
などが挙げられる。
【0032】
本発明において、「CD155受容体のタンパク質に結合する活性」とは、CD155受容体のタンパク質と特異的に結合する活性を意味する。当該結合活性の有無については、公知の方法、例えば免疫沈降法、ウェスタンブロッティング、EIA(enzyme immunoassay)、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)などの免疫学的手法やプルダウンアッセイ等の方法を用いることにより測定することができる。CD155受容体としては、限定されるものではないが、例えばDNAM-1(CD226)などが挙げられる。また、「CD155受容体のタンパク質に結合する活性を有する」とは、配列番号4又は6に示されるアミノ酸配列からなる可溶型タンパク質の活性を100としたときと比較して、少なくとも10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、好ましくは90%以上の活性を有することを意味する。
【0033】
上記の変異を有するタンパク質を調製するためにDNAに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTMSite-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。
【0034】
本明細書においては、CD155タンパク質と特異的に結合する抗体を「抗CD155抗体」とも称する。抗CD155抗体には、膜型CD155タンパク質に結合する抗体及び可溶型CD155タンパク質に結合する抗体の両者が含まれるが、膜型CD155タンパク質には結合せず、可溶型CD155タンパク質に特異的に結合する抗体がより好ましい。
【0035】
また、本発明の抗体には、本発明の抗体が結合する抗原決定基(エピトープ)と結合する抗体も含まれる。抗原決定基はCD155タンパク質の全部又は一部の領域である。
本発明において、「特異的に結合する」とは、CD155タンパク質若しくはCD155ペプチドには結合する(反応する)が、CD155タンパク質若しくはCD155ペプチド以外には結合しない(反応しない)ことを意味する。結合が特異的か否かであることの確認は、免疫学的手法、例えばELISA法、ウエスタンブロット法、又は免疫組織学的染色等によって確認することができる。
【0036】
(2)抗体の製造
以下、抗CD155抗体の調製方法について説明する。
(2−1)抗原の調製
CD155は、本発明の抗体を作製するための免疫原として使用される。
本明細書において、「CD155」には膜型CD155及び可溶型CD155の両者が含まれるが、好ましくは可溶型CD155である。また、免疫原としてCD155を用いる場合、膜型若しくは可溶型CD155の全長配列のうち一部のアミノ酸配列を含むペプチドを使用することもできる。
ここで、抗原又は免疫原として用いられる可溶型CD155タンパク質及びその製造方法、変異の導入方法等の説明については、上記「(1)可溶型CD155タンパク質に対する抗体」に記載した通りである。
【0037】
さらに、上記タンパク質は、マウス、ヒト等の組織や細胞から精製された天然型のCD155でもよいし、遺伝子工学的に生産されたCD155でもよい。例えば、CD155が認められる生体試料を各種界面活性剤、例えばTriton-X、Sarkosylなどを用い、可溶性画分と不溶性画分に分画する。さらに不溶性画分を尿素やグアニジン塩酸などに溶解し、各種カラム、例えばヘパリンカラムあるいは結合樹脂に結合させることによりCD155を得ることができる。また、抗原として用いるCD155は、そのアミノ酸配列を指定することにより、固相法などの公知のタンパク質合成法又は市販のタンパク質合成装置を用いて合成することもできる。合成したペプチドは、Keyhole Limpet Hemocyanin(KLH)又はThyroglobulinなどの担体タンパク質と結合させ、免疫原として用いることができる。
【0038】
(2−2)ポリクローナル抗体の作製
前記のようにして作製したCD155又は部分ペプチドをそれ自体で、あるいは担体、希釈剤と共に温血動物、例えばウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヤギ等に投与することにより免疫する。抗原の動物1匹当たりの投与量は、アジュバントを用いないときは0.1〜10 mgであり、アジュバントを用いるときは0.1〜10 mgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。免疫は、主として静脈内、皮下又は腹腔内等に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは1〜2週間間隔で、2〜10回、好ましくは3〜5回免疫を行う。免疫の間隔は、当業者であれば得られる抗体価を勘案して設定することができる。3回〜4回皮下免疫を行った時点で試採血を行い、抗体価を測定することが好ましい。血清中の抗体価の測定は、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、EIA(enzyme immunoassay)、放射性免疫測定法(RIA; radioimmuno assay)等によって行うことができる。抗体価が十分上昇したことを確認した後、全採血し、通常行われる方法により抗体を分離精製することができる。例えば、目的の抗体を含有する血清を、CD155以外のタンパク質を結合したカラムに通し、素通り画分を採取することにより、CD155、特に可溶型CD155に対する特異性を向上させたポリクローナル抗体を得ることができる。
【0039】
(2−3)モノクローナル抗体の作製
(i) 抗体産生細胞の採取
前記のようにして作製したCD155又は部分ペプチドをそれ自体で、あるいは担体及び希釈剤と共に温血動物に投与することにより免疫する。抗原の動物1匹当たりの投与量は、アジュバントを用いないときは0.1〜10 mgであり、アジュバントを用いるときは0.1〜10 mgである。用いられるアジュバントの種類、免疫方法、免疫の間隔はポリクローナル抗体の作製と同様である。最終の免疫日から1〜30日後、好ましくは2〜5日後に、抗体価の認められた個体を選択し抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞又はリンパ節細胞が好ましい。
【0040】
(ii) 細胞融合
ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。融合操作は既知の方法、例えばKohlerらの方法に従い実施できる。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞としては、例えばPAI、P3U1、NSI/1-Ag4-1、NSO/1などのマウスミエローマ細胞株、YB2/0などのラットミエローマ細胞株などが挙げられる。
【0041】
上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞との細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用培地中で、1×108〜5×108個の抗体産生細胞と2×107〜10×107個のミエローマ細胞とを混合し(抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比10:1〜1:1)、細胞融合促進剤存在のもとで融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1000〜6000ダルトンのポリエチレングリコール又はセンダイウイルス等を使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0042】
(iii) ハイブリドーマの選別及びクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を、例えば10〜20%のウシ胎児血清含有RPMI-1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に限界希釈法で計算上0.3 個/well程度まき、各ウエルにHAT培地などの選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、10日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0043】
次に、生育してきたハイブリドーマをさらにスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマを培養したウエルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法、放射性免疫測定法等によって、スクリーニングすることができる。具体的には、96ウエルプレートに抗原を吸着させた後、仔牛血清でブロッキングする。ハイブリドーマ細胞の培養上清を固相化した抗原に37℃で1時間反応させた後、ペルオキシダーゼ標識した抗マウスIgGを37℃で1時間反応させ、オルトフェニレンジアミンを基質として用いて発色させる。酸で反応を停止させた後、490nmの波長における吸光度を測定することにより、スクリーニングすることができる。上記測定法により陽性を示したモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、限界希釈法等によりクローニングする。そして、最終的に、CD155、好ましくは可溶型CD155に特異的に結合するモノクローナル抗体を産生する細胞であるハイブリドーマを樹立する。
【0044】
(iv) モノクローナル抗体の採取
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI-1640培地、MEM培地又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃、5% CO2濃度)で7〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物、例えばマウス(BALB/c)の腹腔内にハイブリドーマを約5×106 〜2×107個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水を採取する。上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0045】
なお、ヒト型化抗体は、免疫原(抗原)をヒト抗体産生トランスジェニック非ヒト哺乳動物に免疫し、既存の一般的な抗体産生方法によって取得することができる。ヒト型化抗体産生非ヒト哺乳動物、特にヒト型化抗体産生トランスジェニックマウスの作製方法は公知である(Nature Genetics 7: 13-21(1994); Nature Genetics 15: 146-156(1997)等)。
【0046】
(3)遺伝子組換え抗体の作製
本発明の抗体の好ましい態様の一つとして、遺伝子組換え抗体が挙げられる。遺伝子組換え抗体としては、限定はされないが、例えば、キメラ抗体、ヒト型化抗体 及びヒト化抗体等が挙げられる。
【0047】
キメラ抗体(すなわちヒト型キメラ抗体)は、マウス由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に連結(接合)した抗体であり(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 6851-6855, (1984) 等を参照)、キメラを作製する場合は、そのように連結した抗体が得られるよう、遺伝子組換え技術によって容易に構築できる。
【0048】
ヒト型化抗体を作製する場合は、いわゆるCDRグラフティング(CDR移植)と呼ばれる手法を採用することができる。CDRグラフティングとは、マウス抗体の可変領域から相補性決定領域(CDR)をヒト可変領域に移植して、フレームワーク領域(FR)はヒト由来のものでCDRはマウス由来のものからなる、再構成した可変領域を作製する方法である。次に、これらのヒト型化された再構成ヒト可変領域をヒト定常領域に連結する。このようなヒト型化抗体の作製法は、当分野において周知である(Nature, 321, 522-525 (1986);J. Mol. Biol., 196, 901-917 (1987);Queen C et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86: 10029-10033 (1989);特許第2828340号公報等を参照)。
【0049】
ヒト化抗体(完全ヒト抗体)は、一般にV領域の抗原結合部位である超可変領域(Hyper Variable region)、V領域のその他の部分及び定常領域の構造が、ヒトの抗体と同じ構造を有するものである。但し、超可変部位は他の動物由来であってもよい。ヒト化抗体を作製する技術も公知であり、ヒトに共通の遺伝子配列については遺伝子工学的手法によって作製する方法が確立されている。ヒト化抗体は、例えば、ヒト抗体のH鎖及びL鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いた方法(Tomizuka, K.et al., Nature Genetics, (1977)16, 133-143; Kuroiwa, Y.et.al., Nuc. Acids Res., (1998)26, 3447-3448; Yoshida, H.et.al., Animal Cell Technology: Basic and Applied Aspects,(1999)10, 69-73 (Kitagawa, Y.,Matuda, T. and Iijima, S. eds.), Kluwer Academic Publishers; Tomizuka, K.et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (2000)97, 722-727 等を参照)や、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイ由来のヒト抗体を取得する方法(Wormstone, I. M.et.al, Investigative Ophthalmology & Visual Science., (2002)43 (7), 2301-8; Carmen, S. et.al., Briefings in Functional Genomics and Proteomics,(2002)1 (2), 189-203; Siriwardena, D. et.al., Opthalmology, (2002)109 (3), 427-431 等を参照)により取得することができる。
また、本発明においては、ハイブリドーマ又は当該ハイブリドーマから抽出したDNA若しくはRNAなどを原料として、上述した周知の方法に準じてキメラ抗体、ヒト型化抗体、ヒト化抗体を作製することができる。
【0050】
(2)中和抗体
本発明の抗体の好ましい態様の一つとして、可溶型CD155タンパク質を中和する抗体が挙げられる。ここで、中和とは、可溶型CD155タンパク質がそのレセプター(例えばDNAM-1)に結合するのを阻害することをいう。
【0051】
6.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、本発明の抗体を含有するものであり、癌の治療に有効である。
本発明の抗体は、可溶型CD155タンパク質を標的とする。可溶型CD155は、癌細胞が腫瘍免疫により排除されるのを回避するために重要な役割を果たす。膜型CD155のみ発現する癌細胞は、CTLやNK細胞に発現するDNAM-1と結合し、細胞傷害の標的となって排除される。これに対し、可溶型CD155を発現する癌細胞は、産生した可溶型CD155がCTLやNK細胞に発現するDNAM-1と結合し、膜型CD155とDNAM-1との結合を競合阻害する結果、細胞傷害の標的とならず、排除されない(図11)。
従って、可溶型CD155を中和することができれば、癌細胞をCTLやNK細胞による細胞傷害の標的とすることができるため、癌細胞を傷害することができる。
よって、本発明の癌の治療用医薬組成物に使用される抗体としては、前述の可溶型CD155を中和する抗体がより好ましい。
【0052】
さらに、本発明の医薬組成物に用いられる抗体としては、例えば、ヒトキメラ抗体またはヒト化抗体が挙げられる。
本発明の医薬組成物に用いられる抗体は、単独で、あるいは薬学的に許容される担体または希釈剤等と共に投与することができ、またその投与は1回または数回に分けて行うことができる。
ここで「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の一つ以上を用いることにより、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、注射剤、液剤、カプセル剤、トローチ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口又は非経口的に投与することができる。
【0053】
経口投与の場合、微晶質セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシン等の種々の賦形剤を、崩壊剤、結合剤等とともに使用することができる。崩壊剤としては、澱粉、アルギン酸、ある種のケイ酸複塩などが挙げられ、結合剤としては、例えばポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼラチン、アラビアゴムなどが挙げられる。
【0054】
また、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク等の滑沢剤は錠剤形成に非常に有効である。経口投与用として水性懸濁液又はエリキシルにする場合は、必要により乳化剤、懸濁化剤を併用し、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等、およびそれらを組み合わせた希釈剤と共に使用することができる。
【0055】
非経口投与のためのその他の形態としては、一つまたはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。
注射剤の場合には、例えば生理食塩水あるいは市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に0.1μg抗体/ml担体〜10mg抗体/ml担体の濃度となるように溶解または懸濁することにより製造することができる。このようにして製造された注射剤は、処置を必要とするヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、10μg〜50mgの割合で、好ましくは100μg〜2mgの割合で、1日あたり1回〜数回投与することができる。但し、この範囲に限定されるものではなく、患者の体重および症状や個々の投与経路によって変動し得る。治療する患者の薬物に対する感受性の差異、薬剤の処方の仕方、投与期間および投与間隔によっても投与量に変動が生じてくるので、場合によっては前記範囲の下限より低い投与量が適当なこともある。
【0056】
投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、バクテリア保留フィルターを通す濾過滅菌、殺菌剤の配合または照射により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
【0057】
7.癌の検出用試薬及びキット
本発明は、可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む癌の検出用試薬を提供する。可溶型CD155タンパク質に対する抗体の説明については、上記の通りである。本発明の試薬は、前記抗体を単独で含むものであってもよいし、前記抗体のほか、適宜担体又は希釈剤等を含むものであってもよい。担体及び希釈剤等の説明は上記のとおりである。
【0058】
本発明の癌の検出用キットは、本発明の抗体を含むものである。ここで用いる抗体は、上記した固定化抗体や標識抗体でもよい。例えば、本発明の抗体を一次抗体として使用する場合、本発明のキットには、抗原抗体結合反応により形成された複合体を検出するための二次抗体を含めてもよい。本発明のキットには、該キットを効率的かつ簡便に利用できるようにするために、これら抗体以外に種々の補助剤を含めてもよい。補助剤としては、例えば固体状の二次抗体を溶解させるための溶解剤、不溶化担体を洗浄するために使用される洗浄剤、抗体の標識物質として酵素を使用した場合に酵素活性を測定するための基質、その反応停止剤などの免疫学的測定試薬のキットとして通常使用されるものが挙げられる。
【0059】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
1.材料及び方法
(1)癌組織、血清
癌組織、癌患者血清は、筑波大学大学院人間総合科学研究科医の倫理委員会にて承認された方法に従い、いずれも初発の卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、乳癌、甲状腺癌の患者より同意を得て採取した。組織は手術摘出標本の一部を、血清は手術前と手術後約2週間の血液を解析に用いた。また健常人血清は、健常人ボランティアより同意を得て採取した。
【0061】
(2)細胞
HeLa細胞株(ヒト子宮頚癌由来)、HOS細胞株(ヒト骨肉腫由来)、RD細胞株(ヒト横紋筋肉腫由来)、U87MG細胞株(ヒト神経膠腫由来)はDMEM培地(Sigma-Aldrich)、10%ウシ胎児血清(Biological Industries)、20U/mlペニシリン/0.5mg/mlストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)、37℃、10%CO2環境下にて培養を行った。Jurkat細胞株(ヒト急性T細胞性白血病由来)、Colo205細胞株(ヒト大腸癌由来)はRPMI培地(Sigma-Aldrich)を用い、37℃、5%CO2環境下にて培養を行った。
ヒト可溶型CD155 sandwitch ELISA にて解析を行ったHeLa細胞株の培養上清は、12wellプレートに1wellあたりHeLa細胞株1×106個を1mlの培養液で培養し、24時間後、48時間後の培養上清を採取した。
【0062】
(3)マウス、ウサギ
BALB/cマウスは8〜12週齢の雄を用い、チャールスリバーより購入した。JWウサギは3.0kg、13〜14週齢の雌を用い、北山ラベスより購入した。SPF(specific pathogen free)の環境下にて飼育し、筑波大学生命科学動物資源センターの規約に従った。
【0063】
(4)PCR(polymerase chain reaction)
培養細胞、癌組織よりISOGEN(NIPPON GENE)を用いてプロトコールに従いmRNAを抽出し、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kits(Applied Biosystems)を用いてプロトコールに従いcDNAを合成した。下記条件でPCRを行った。プライマーは
CD155 Forward: TCCTGTGGACAAACCAATCAACAC(配列番号11)
CD155 Reverse: GAGGCGCTGGCATGCTCTGT(配列番号12)
GAPDH Forward: CTTCACCACCATGGAGAAGGC(配列番号13)
GAPDH Reverse: GGCATGGACTGTGGTCATGAG(配列番号14)
(GAPDH: glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)
を用い、PCRサイクル条件は、94℃にて5分変性後、94℃30秒、62℃30秒、72℃1分にて30サイクル行った。
【0064】
(5)ヒト可溶型CD155 sandwitch ELISA、抗体、タンパク質
96well黒色プレート(greiner bio-one)はマウス抗ヒトCD155抗体(TX24)2μg/ml、100 μl/wellを注入し4℃オーバーナイトでコートした。10%ウシ胎児血清200μl/wellを注入し室温1時間でブロッキングした。0.05%Tween20で洗浄ののち、標準用ヒトCD155-ヒトIgG Fc融合タンパク質、測定用細胞培養上清または血清を100μl/wellで3wellずつ注入し、室温1時間で反応させた。0.05%Tween20で洗浄ののち、ウサギ抗ヒトCD155血清5μg/ml、100 μl/wellを注入し室温1時間で反応させた。0.05%Tween20で洗浄ののち、HRP(horseradish peroxidase)標識抗ウサギIgG抗体(GE Healthcare)2000倍希釈、100μl/wellを注入し室温1時間で反応させた。0.05%Tween20で洗浄ののち、QuantaBlu Working Solution(PIERCE)100μl/wellを注入し遮光室温30分で反応させ、Stop Solution 100 μl/wellを注入し反応を停止させ、Spectra Max M2e(Molecular Devices)を用いて励起波長320nm、測定波長430nmで蛍光強度を測定した。
【0065】
マウス抗ヒトCD155抗体(TX24)は、本発明者らにより作製されたTX24ハイブリドーマクローンをヌードマウスの腹腔内に注射し、採取した腹水からカプリル酸を用いた塩析にて精製することにより作製した。
上記TX24産生ハイブリドーマは、ヒトCD155を抗原として用いてBalb/cマウスに免疫した後、10〜30日後に当該マウスから脾臓またはリンパ節を採取し、脾臓細胞またはリンパ節細胞とミエローマ細胞株とをペグチン等により融合し、さらに融合細胞から抗体産生ハイブリドーマをスクリーニングすることにより取得した。
ヒトCD155-ヒトIgG Fc融合タンパク質は、本発明者らにより作製されたヒトCD155-ヒトIgG Fc発現ベクターを293T細胞にDEAE-Dextran法にて遺伝子導入し、培養上清中に産生されたヒトCD155-ヒトIgG Fc融合タンパク質をProtein Aカラムを用いて精製した。
ウサギ抗ヒトCD155血清は、JWウサギ頸部にヒトCD155-ヒトIgG Fc融合タンパク質1mgをcomplete freund’s adjuvantとまぜてエマルジョンにしたものを7日間おきに計3回皮下注射し、オクタロニー法により抗体力価を確認したのち、全血採血を行い血清を得た。
【0066】
(6)マウス可溶型CD155産生腫瘍細胞の作製
マウスCD155のcDNAからCD155の細胞外領域をPCRにより作製し、C末端3×FLAG融合タンパク質の細胞外産生による安定発現用ベクターであるp3×FLAG-CMV-13 expression vector(Sigma-Aldrich)に組み込み、CD155-3×FLAG発現ベクターを構築し、DMRIE-C(invitrogen)を用いてMethA細胞株に遺伝子導入した。Meth A細胞株はBALB/cマウスの腹腔内にて継代したものを用いた。G418(Sigma-Aldrich)400μg/mlにより、導入遺伝子の安定発現細胞を選択し、再びBALB/cマウスの腹腔内にて継代を行った。細胞の継代を行ったマウス腹水中に、CD155-3×FLAG融合タンパク質が産生されていることをELISAにて確認した。
Mock細胞は、cDNAを組み込んでいないp3×FLAG-CMV-13 expression vectorを、同様にMeth A細胞株に遺伝子導入して作製した。
【0067】
(7)マウス可溶型CD155 sandwitch ELISA、抗体
96well黒色プレート(greiner bio-one)はラット抗マウスCD155抗体(TX56)2μg/ml、100 μl/wellを注入し4℃オーバーナイトでコートした。10%ウシ胎児血清200 μl/wellを注入し室温1時間でブロッキングした。0.05%Tween20で洗浄ののち、測定用マウス腹水を100 μl/wellで3wellずつ注入し、室温1時間で反応させた。0.05%Tween20で洗浄ののち、マウス抗FLAG M2ビオチン化抗体(Sigma-Aldrich)1μg/ml、100μl/wellを注入し室温1時間で反応させた。0.05%Tween20で洗浄ののち、HRP標識ストレプトアビジン(GE Healthcare)2000倍希釈、100μl/wellを注入し室温1時間で反応させた。0.05%Tween20で洗浄ののち、QuantaBlu Working Solution(PIERCE)100μl/wellを注入し遮光室温30分で反応させ、Stop Solution 100μl/wellを注入し反応を停止させ、Spectra Max M2e(Molecular Devices)を用いて励起波長320nm、測定波長430nmで蛍光強度を測定した。
ラット抗マウスCD155抗体(TX56)は本発明者らが作製した。具体的には、マウスCD155を抗原として用いてWisterラットに免疫した後、10〜30日後に当該ラットから脾臓またはリンパ節を採取し、脾臓細胞またはリンパ節細胞とミエローマ細胞株とをペグチン等により融合し、さらに融合細胞から抗体産生ハイブリドーマをスクリーニングすることによりTX56産生ハイブリドーマを取得した。TX56産生ハイブリドーマの培養上清をラット抗マウスCD155抗体(TX56)として用いた。
【0068】
(8)FACS(fluorescence activated cell sorter)、抗体
BALB/cマウスの腹腔内にて継代を行った可溶型CD155産生Meth A細胞(CD155-3×FLAG融合タンパク質産生Meth A細胞)またはMock Meth A細胞を洗浄後、細胞浮遊液を1×106個/サンプルに調整し、一次抗体にて氷上で20分反応させ染色を行った。細胞を洗浄後、二次抗体にて氷上で20分反応させ染色を行った。さらに細胞洗浄後、FACSにて解析を行った。FACSはcalibur (Becton Dickinson) を用いた。サンプルの取り込み、解析は同社のプロトコールに従って行った。一次抗体に使用した、ラット抗マウスCD155抗体(TX56)、ラット抗マウスCD112抗体(TX78)は本発明者らが作製し、ビオチン化を行った。二次抗体はストレプトアビジン-PE(phycoerythrin)(BD pharmingen)を使用した。
【0069】
(9)細胞増殖ELISA
細胞増殖ELISAはCell Proliferation ELISA, BrdU(Roche)を用いて行った。BALB/cマウスの腹腔内にて継代を行った可溶型CD155産生Meth A細胞(CD155-3×FLAG融合タンパク質産生Meth A細胞)またはMock Meth A細胞を、96wellプレートに4×104〜3.1×102個を200μl/wellの培養液で、37℃、5%CO2環境下で培養した。BrdU標識溶液を20μl/well注入し、20時間培養した。培養液を除いてプレートを乾燥させ、FixDenatを200μl/well注入して室温30分で反応させ、細胞の固定とDNAの変性を行った。抗BrdU-POD反応液を100μl/well注入して室温1時間で反応させた。洗浄液で洗浄ののち、基質液100 μl /wellを注入して遮光室温5分で反応させ、0.5M H2SO4を注入して基質反応を停止させ、Spectra Max M2e(Molecular Devices)を用いて波長450nmで吸光度を測定した。
【0070】
(10)腫瘍移植実験
BALB/c雄マウスの背部に、腹腔内継代を行った可溶型CD155産生Meth A細胞(CD155-FLAG融合タンパク質産生Meth A細胞)またはMock Meth A細胞を1匹あたり4×104個または8×104個皮下注射し、腫瘍径とマウスの生存率を観察した。計測は1週間に2回行い、観察は約60日間行った。
【0071】
(11)統計
統計学的解析はunpaired t-testを用いて行った。P<0.05を有意差ありと判定した。
【0072】
2.結果
(1)ヒト癌細胞株の可溶型CD155の発現
ヒト癌細胞株の可溶型CD155のmRNAの発現を解析するため、CD155 Exon5にForwardプライマー(配列番号11)、Exon7にReverseプライマー(配列番号12)を設計しPCRを行った(図4A)。CD155はExon6に膜貫通領域を含み、可溶型CD155はこの膜貫通領域を欠失している。可溶型CD155であるβは一部の細胞外領域を残してExon6を部分的に欠失、γはExon6を全部欠失するため、この条件下でPCRを行うと膜型CD155であるαは273bp、可溶型CD155であるβは138bp、γは114bpのバンドを検出することができる。
検出の結果、Jurkat細胞株(ヒト急性T細胞性白血病由来)、Colo205細胞株(ヒト大腸癌由来)、HeLa細胞株(ヒト子宮頚癌由来)、HOS細胞株(ヒト骨肉腫由来)、RD細胞株(ヒト横紋筋肉腫由来)、U87MG細胞株(ヒト神経膠腫由来)ともCD155α、β、γのバンドを検出し、膜型と可溶型のCD155 mRNAの発現を認めた(図4B)。
この結果から、種々の癌(ヒトの急性T細胞性白血病、大腸癌、子宮頚癌、骨肉腫、横紋筋肉腫、神経膠腫など)が可溶型CD155のmRNAを発現することが示された。また、生体試料中の可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子のmRNA量を測定することにより、癌の検出が可能であることが示された。
さらに、可溶型CD155タンパク質の発現を解析するため、本発明の抗体を用いてヒト可溶型CD155 sandwitch ELISAを行い(図5A)、癌細胞株の可溶型CD155タンパク質の産生をHeLa細胞株の培養上清を用いて解析したところ、可溶型CD155タンパク質の産生を検出した(図5B)。
この結果から、癌細胞が含まれる生体試料には可溶型CD155タンパク質が産生されていることが示された。また、生体試料中の可溶型CD155タンパク質の発現量を測定することにより、癌の検出が可能であることが示された。
【0073】
(2)癌組織、癌患者血清の可溶型CD155の発現
次に、癌組織の可溶型CD155のmRNAの発現と癌患者血清の可溶型CD155タンパク質の発現を、前述と同様にPCRとsandwitch ELISAにて解析した。症例はいずれも初発癌である。
解析の結果、癌組織では、卵巣癌5例、子宮頚癌4例、子宮体癌7例の全ての症例において膜型と可溶型のCD155 mRNAの発現を認めた(図6)。
この結果から、ヒトの癌患者から採取した癌組織において、可溶型CD155のmRNAが発現することが示された。また、ヒトの癌患者から採取した生体試料中の可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子のmRNA量を測定することにより、癌の検出が可能であることが示された。
【0074】
また、癌患者血清の可溶型CD155タンパク質の濃度(発現量)は、卵巣癌15例、子宮頚癌11例、子宮体癌12例、乳癌20例、甲状腺癌5例(計63例)を健常人血清(計22例)と比較すると、卵巣癌と子宮体癌の患者血清については健常人血清より高い傾向がみられた(図7)。また可溶型CD155タンパク質濃度と癌の病期との相関について検討すると、卵巣癌や子宮体癌で認める可溶型CD155タンパク質濃度が非常に高値の症例は、進行癌の患者血清であることが分かった(図7)。さらに、癌患者血清のうち23例について手術前と手術後の可溶型CD155タンパク質濃度を解析すると、手術前と比較し手術後に有意に低下するという結果を得た(図8)。
これらの結果から、ヒトにおける種々の癌患者から採取した血清には可溶型CD155タンパク質が産生されていることが示された。また、進行癌患者の血清において可溶型CD155タンパク質濃度が非常に高い値を示したこと、並びに癌の手術後の血清において可溶型CD155タンパク質濃度が有意に低下したことから、血清中の可溶型CD155タンパク質濃度と癌の病期との間にはある程度の相関関係があることが示された。そして、この結果により、血清等の生体試料中の可溶型CD155タンパク質量を測定し、その測定結果と癌とを関連づけることにより、癌の検出が可能であることが示された。また、可溶型CD155に対する抗体は、癌の検出用試薬又はキットに用いることができることが示された。
【0075】
(3)マウス可溶型CD155産生腫瘍細胞の作製
マウスCD155 cDNAの細胞外領域を、C末端3×FLAG融合タンパク質の細胞外産生による安定発現用ベクター:p3×FLAG-CMV-13 expression vectorに組み込み、CD155-FLAG融合タンパク質発現ベクターを構築し、Meth A細胞株に遺伝子導入して可溶型CD155産生Meth A細胞(CD155-FLAG融合タンパク質産生Meth A細胞)を作製した。Mock Meth A細胞は、cDNAを組み込んでいないp3×FLAG-CMV-13 expression vectorを、同様にMeth A細胞株に遺伝子導入して作製した。
可溶型CD155産生Meth A細胞及びMock Meth A細胞の双方をマウス腹腔内にて継代し、腹水中のCD155-FLAG融合タンパク質をsandwitch ELISAにより測定した結果、可溶型CD155産生Meth A細胞は腹水中にCD155-FLAG融合タンパク質を産生し、Mock Meth A細胞はCD155-FLAG融合タンパク質を産生しないことを確認した(図9A)。
また可溶型CD155タンパク質産生の有無のほかに、可溶型CD155産生Meth A細胞とMock Meth A細胞の性質に相違がないことを確認するため、細胞表面のCD155(膜型CD155)、CD112の発現をFACSにて解析した。
その結果、可溶型CD155産生Meth A細胞とMock Meth A細胞のいずれもCD155は高発現するがCD112は低発現であることを確認した(図9B)。つまり、可溶型CD155と膜型CD155の両方を発現するMeth A細胞と、膜型CD155のみ発現するMeth A細胞を作製することができた。
さらにin vitroにおける細胞増殖を細胞増殖ELISAにて解析し、可溶型CD155産生Meth A細胞とMock Meth A細胞に差がないことを確認した(図9C)。
【0076】
(4)生体内における可溶型CD155による腫瘍免疫逃避
作製した可溶型CD155産生Meth A細胞とMock Meth A細胞を、BALB/cマウスの背部に1匹あたり4×104個または8×104個皮下注射し、腫瘍の大きさとマウス生存率を観察した。
その結果、可溶型CD155産生Meth A細胞の腫瘍は、全てのマウスにおいて増大を認めたのに対し、Mock Meth A細胞は全てのマウスにおいて拒絶された。その結果、可溶型CD155産生Meth A細胞4×104個を移植したマウスにおいては、移植後約50日で生存率0%、8×104個を移植したマウスにおいては移植後約35日で生存率0%となったのに対し、Mock Meth A細胞を移植したマウスの生存率は100%であった(図10)。
上記結果から、可溶型CD155は癌細胞が腫瘍免疫から逃避するために機能していることが示された(図11)。このことは、可溶型CD155を本発明の抗体等で中和し、そのレセプターであるDNAM-1との結合を阻害することにより、癌細胞を腫瘍免疫により殺傷することが可能であり、その結果として癌を治療することができることを示す。より詳細なメカニズムについての検討は、下記の「3.考察」に記載する。
【0077】
3.考察
ヒトCD155は膜型と可溶型のアイソフォームがあるが、癌細胞の可溶型CD155の発現については、大腸癌において膜型と可溶型のCD155 mRNAの発現が認められるという報告が1編あるのみであり、種々の癌における可溶型CD155の発現については未だ明らかではなかった。
本実施例では、種々のヒト癌細胞株、卵巣癌組織、子宮頚癌組織、子宮体癌組織において膜型と可溶型のCD155 mRNAの発現を認め、種々の癌において膜型と可溶型のCD155が発現することを明らかにした。
次に、本実施例では、癌患者血清中の可溶型CD155濃度を健常人血清のものと比較すると、卵巣癌と子宮体癌の患者血清については健常人血清より高い傾向がみられ、また可溶型CD155タンパク質濃度が高値を示す症例は進行癌の患者血清であった。このことから可溶型CD155タンパク質濃度は進行癌で高値を示す傾向が示された。
さらに手術前と比較し手術後に可溶型CD155タンパク質濃度が低下したという結果からは、可溶型CD155タンパク質を産生していた癌を摘出したことにより、血清中の可溶型CD155タンパク質濃度が下がったことが考えられる。
以上より、癌患者、特に進行癌患者においては癌が可溶性CD155タンパク質の主要産生源となることが示された。
【0078】
可溶性CD155の機能をさらに解析するため、マウス可溶型CD155産生腫瘍細胞を作製し、マウスモデルを用いて研究を行った。本実施例では種々のヒトの癌は膜型と可溶型のCD155を発現することを明らかにしたが、作製したマウス可溶型CD155産生腫瘍細胞も、膜型CD155と可溶型CD155の両方を発現する。従って、作製したマウス可溶型CD155産生腫瘍細胞は、これらのヒトの癌細胞の性質を表しているといえる。
またこのマウスモデルの特徴として、(1)生体内における機能解析であること、(2)可溶型CD155タンパク質をマウスに投与するなどではなく、マウスに移植した癌細胞が可溶型CD155タンパク質を直接産生するため、癌の局所つまり微小環境における可溶型CD155の機能を解析できること、が挙げられる。これらのことより、本実施例で得られた結果は腫瘍免疫における可溶型CD155の機能を表しているといえる。
可溶型と膜型のCD155を発現する可溶型CD155産生Meth A細胞は、全てのマウスにおいて増大を認めたのに対し、膜型CD155のみ発現するMock Meth A細胞は全てのマウスにおいて拒絶された。この結果から、次のように考察した。生体内において、膜型CD155のみを発現する癌細胞はCTLやNK細胞に発現するDNAM-1の腫瘍免疫監視を受け、標的となって排除される。一方で膜型CD155と可溶型CD155の両方を発現する腫瘍細胞は、産生した可溶型CD155がCTLやNK細胞のDNAM-1に接着し、DNAM-1と膜型CD155の接着を阻害することにより、腫瘍細胞がDNAM-1の腫瘍免疫監視から逃避し、排除されない。結果、膜型CD155のみ発現する腫瘍細胞は拒絶され、可溶型と膜型のCD155を発現する腫瘍細胞は増殖すると考えられる(図11)。
【0079】
本実施例では、可溶型CD155が免疫逃避に機能することを示した。また本実施例ではヒトの種々の癌に可溶型CD155が発現することを明らかにした。これらの癌が発癌する過程において、癌細胞が産生した可溶型CD155は、免疫逃避に関与し、癌の発症につながっていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の方法により、採取された生体試料中の可溶型CD155タンパク質を測定し、当該測定結果を癌と関連づけることにより、癌を検出することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0081】
配列番号11:合成DNA
配列番号12:合成DNA
配列番号13:合成DNA
配列番号14:合成DNA
【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取された生体試料中の可溶型CD155タンパク質量又は可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子の発現量を測定し、当該測定結果と癌の可能性とを関連づけることを特徴とする、癌の検出方法。
【請求項2】
可溶型CD155タンパク質量の測定が、可溶型CD155タンパク質に対する抗体を用いて行われるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生体試料が組織又は血液由来のものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
癌が、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、乳癌、甲状腺癌、頭頸部癌、肺癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、大腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、腎癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、副腎癌、精巣癌、前立腺癌、悪性軟部腫瘍、悪性骨腫瘍、脳腫瘍、皮膚悪性腫瘍、白血病及び悪性リンパ腫からなる群から選択される少なくとも1種の癌である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の治療用医薬組成物。
【請求項6】
抗体が、可溶型CD155タンパク質を中和する抗体である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の検出用試薬。
【請求項8】
可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の検出用キット。
【請求項1】
採取された生体試料中の可溶型CD155タンパク質量又は可溶型CD155タンパク質をコードする遺伝子の発現量を測定し、当該測定結果と癌の可能性とを関連づけることを特徴とする、癌の検出方法。
【請求項2】
可溶型CD155タンパク質量の測定が、可溶型CD155タンパク質に対する抗体を用いて行われるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生体試料が組織又は血液由来のものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
癌が、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、乳癌、甲状腺癌、頭頸部癌、肺癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、大腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、腎癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、副腎癌、精巣癌、前立腺癌、悪性軟部腫瘍、悪性骨腫瘍、脳腫瘍、皮膚悪性腫瘍、白血病及び悪性リンパ腫からなる群から選択される少なくとも1種の癌である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の治療用医薬組成物。
【請求項6】
抗体が、可溶型CD155タンパク質を中和する抗体である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の検出用試薬。
【請求項8】
可溶型CD155タンパク質に対する抗体を含む、癌の検出用キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−153992(P2011−153992A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17134(P2010−17134)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
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