説明

可溶性金属酸化物および金属酸化物溶液

本発明は可溶性金属酸化物および混合金属酸化物に関し、また、金属酸化物および混合金属酸化物を含む溶液に関する。さらに、本発明は、可溶性金属酸化物および可溶性混合金属酸化物を調製する方法に関し、加えて、可溶性金属酸化物の溶解性を改変する方法に関する。この金属酸化物、混合金属酸化物およびそれらの溶液は、多くの分野に応用でき、触媒および金属膜を形成するための前駆物質として使用することに特に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶性金属酸化物および可溶性混合金属酸化物に関する。また、本発明は、金属酸化物を含む溶液および混合金属酸化物を含む溶液に関する。さらに、本発明は、可溶性金属酸化物を調製する方法および可溶性混合金属酸化物を調製する方法に関し、さらには、可溶性金属酸化物の溶解性を改変する方法に関する。
【0002】
本明細書においては、用語「金属酸化物」は、酸素が金属に結合している化合物を指す。本明細書においては、用語「粒子」は、100Å以下の平均寸法を有する結晶構造を指す。
【背景技術】
【0003】
金属酸化物、特に、スズ酸化物は、多くのコーティング用途で重要な役割を有している。
【0004】
(a)家庭用のガラス食器および瓶は、耐衝撃性を著しく向上させるために、スズ酸化物の薄い被膜が施されている。被膜をより厚くすると、ガラス製品に魅力的な仕上げを与える虹色の外観になる。
【0005】
(b)窓ガラス上のスズ酸化物の薄い被膜は、冬季には屋内の熱を内側に反射し、夏季には太陽による加熱を低減するのに役立つ。
【0006】
(c)導電性のスズ酸化物膜は、集光性の太陽電池、エレクトロクロミックセル及び液晶表示装置を含む多くの重要な装置を構築する中で透明電極として重大な役割を有している。また、導電性のスズ酸化物膜を車両および航空機のフロントガラスに適用することもできる。
【0007】
(d)スズ酸化物の薄い被膜は、表面の接着特性を改良するために使用される。アルミナ上のスズ酸化物の被膜は、高アルミナ質の歯科用セラミックの接着を向上させるために使用することができる。
【0008】
(e)スズ酸化物膜は、ガスセンサーとして多くの用途および産業で使用することができる。
【0009】
(f)金属酸化物被膜は表面摩擦を低減し、そのため、エンジン、人工股関節置換およびステント中の可動部分に応用されている。
【0010】
(g)金属酸化物被膜はまた、工業用触媒の生産での使用などの他の用途で重要な役割を有している。そのような用途では、触媒の製造過程および製造以前の状態が、触媒の性能にとって極めて重要である。
【0011】
金属酸化物および他の金属化合物からの金属酸化物膜および被膜を調製する現在の方法には、次のものがある。
【0012】
a)化学蒸着法(CVD)、電子ビーム蒸着および反応性スパッタリングなどの真空技術。化学蒸着では、熱化学的気相反応の結果として固体薄膜が成長する。しかしながら、この技術は、真空チャンバーのような特殊装置や、適切な揮発性の金属前駆物質の使用を必要とする。被覆する物の大きさは、真空チャンバーの大きさに制限される。さらに、必要とされる高真空を維持する費用が高額であり、前駆物質材料を気化するのに精密に加熱制御しなければならない。
【0013】
b)高温の基板表面上での適切な金属化合物蒸気の熱分解/加水分解。ボトルの大規模で工業的なスズ酸化物被膜の場合、この技術が採用され、前駆物質として四塩化スズおよび三塩化ブチルスズの使用を必要とする。四塩化スズは、有毒で環境上危険である高腐食性の腐食性液体である。加水分解の間、いずれの化合物も腐食性の塩化水素ガスを発生し、その後にスズ酸化物膜が形成される。
【0014】
c)基板の表面からの前駆物質溶液、ゾルまたは溶媒分散液の蒸発。前駆物質溶液、ゾルおよび分散液は2種類に大きく分類される。
【0015】
(i)金属化合物(通常アルコキシド)を含む溶液は、基板に塗布することができ、その後、加水分解して金属酸化物を生成することができる。基板表面上で金属アルコキシドを完全に加水分解して水酸化物または水和酸化物を生成させ、その後、約500℃の非常に高温にまで加熱することで酸化物を生成させてのみ、所望の酸化物が得られる。これは時間がかかる方法であり、前駆物質溶液の精密な化学的制御を必要とする。加えて、膜形成のような後の工程を変更しても、金属酸化物は得られない。金属化合物を含む溶液が何れの段階でも金属酸化物を含まず、単に金属酸化物の前駆物質を含む時、酸化物を生成するためには、この方法が必要であると分かるであろう。
【0016】
(ii)分散コロイドまたはゾルの形で、分散金属酸化物を含んでいる溶媒。ゾルは、適当な分散媒と、分散媒中にわたって分散しているコロイド物質とから成るコロイド溶液と定義される。酸化物の分散性を改善するために、必ず分散剤が添加される。
【0017】
溶液、ゾル、コロイドおよび分散液の塗布は、スピンコーティング、カーテンフローコーティング、メニスカスコーティング、ディップコーティング、ロールオンコーティングまたはエアロゾルコーティングを含む広範囲な技術によって行なうことができる。塗布方法は、溶液、ゾル、コロイドおよび分散液の物理的性質および安定性や、塗布される表面の大きさ及び形状の両方を含む多くの要因に依存する。スピンコーティングのような塗布方法は小規模な塗布に適するのに対して、カーテンフローコーティング及びエアロゾルコーティングのような方法は大規模な塗布に適する。エアロゾルコーティングは、不規則な形状の物の塗布に特に適している。
【0018】
塗布方法(c)は、かなり安価であり、塗布が容易であるという点で、(a)及び(b)に記載される方法より好ましい。さらに、大規模で不規則な形状の物体の塗布に、より適している。(c)で概説される方法は、膜に製造される材料が溶液中にある場合、最も良好に働く。したがって、溶液中の金属酸化物は、これらの方法で特に有利であることが分かるであろう。さらに、広範囲の溶媒に可溶な金属酸化物によって、これらの塗布の中での用途が広げられるであろう。
【0019】
PCT公報WO03/027191号には、金属酸化物、有機化合物、分子中に2つ以上の重合可能な不飽和基を有する化合物、特定のアルキレングリコール有機溶媒および重合開始剤を含む硬化性液状樹脂組成物が開示されている。金属酸化物は液状樹脂組成物中に分散している。
【0020】
欧州特許公報第1,243,631号には、スズ酸化物粒子の表面が有機金属カップリング剤で被覆された導電性のスズ酸化物粒子と、分散性を達成するための塩の形の分散剤とを含む、導電性の粉末および導電性の被覆材料の有機溶媒系の分散液が開示されている。
【0021】
米国特許第6,399,688号には、金属酸化物、親水性の結合剤、コロイダルシリカおよび溶媒を含む被覆剤組成物が開示されている。
【0022】
上記の組成物の欠点は、膜製造の間、除去することが難しいか不可能である分散剤が必要であるということである。実際、多くの場合において望ましくないものにしているのは分散剤のこの特徴である。所望の膜を製造する間、分散剤を除去できないという点で、分散剤は一般に好ましくない。さらに、分散液中のスズ酸化物粒子を改変しようとする場合、分散剤があると困難となることがある。例えば、金属ドーパントまたは所望の表面基をスズ酸化物粒子に付与することが分散剤によって妨げられる場合がある。
【0023】
欧州特許公報第1,152,040号には、透明な導電性の膜を形成するための水性コーティング溶液、透明な導電性のスズ酸化物膜の製造方法、および透明な導電性のスズ酸化物膜が開示されている。このコーティング溶液はスズ酸化物から調製でき、蒸留水に水和スズ酸化物を加え、pHを少なくとも10の値にすることによって調製される。この種の溶液の欠点は、必要とされるpHが高いため腐食性であり、したがって、一定の用途には適さない場合があることである。加えて、この溶液は殆どが水溶液であるため、有機溶媒を必要とする何れの用途でも使用できないと考えられる。さらに、この溶液から可溶性金属酸化物を抽出し、この状態で保存することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
そこで、多くの用途での使用に適した金属酸化物溶液が必要とされている。さらに、広範囲の溶媒に溶解できる可溶性金属酸化物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明によれば、
各結晶粒子が複数の金属および酸素成分を含む、1つ以上の金属酸化物結晶粒子と;
少なくとも1つの金属成分に結合された内部有機結合基と;
少なくとも1つの内部有機結合基に結合された外部有機結合基と
を含む可溶性金属酸化物が提供される。
【0026】
可溶性金属酸化物を提供する利点は、溶媒に溶解して溶液を提供することができ、あるいは、粉末の形で保存し、適当な溶媒に再溶解して溶液を形成することができることである。このように、任意の用途に適合させることができる多くの溶液を提供するために使用できるので、可溶性金属酸化物は非常に適応性がある。加えて、分散剤のような好ましくない添加剤を必要としないため、可溶性金属酸化物は真の溶液を形成する。
【0027】
溶液中の金属酸化物微結晶は著しく化学的に活性であるため、溶解性を損なうことなく、特定の機能上の要求に応じるため、溶液中の微結晶のかなりの改変を容易に達成することができる。さらに、分散液あるいは樹脂中またはゲルの形で金属酸化物が分散されている時に比べ、溶液中に溶解している時に金属酸化物の表面はより化学的に活性である。加えて、溶液中の金属酸化物の表面活性および化学的反応性が高められているため、それらは、電子産業のためのドープされた導電性金属酸化物膜および広範囲の用途のためのガスセンサー装置を製造するために有用に使用することができる。
【0028】
好ましくは、各結晶粒子は少なくとも1つの水酸基をさらに含む。
【0029】
さらに好ましくは、各内部有機結合基は共有結合によって各金属成分に結合されており;各外部有機結合基は水素結合によって各内部有機結合基に結合されている。
【0030】
内部および外部有機結合基を有する利点は、それによって有機溶媒中の金属酸化物粒子の溶解性が増加することである。金属酸化物に直接結合している内部有機結合基は、一般的に、溶解性を上昇させはしない。しかしながら、外部有機結合基が金属酸化物に十分な量で結合するためには内部有機結合基の存在が絶対に必要不可欠であるため、内部有機結合基が必要とされる。外部有機結合基は、金属酸化物の溶解性を制御する。
【0031】
しかしながら、有機基の種類に依存して、幾つかの場合には、内部有機結合基のみが存在すれば、金属酸化物は可溶であることが見出された。有機結合基がフルオロ酢酸基の場合について特にそうであることが見出されており、これは露出したフッ素原子の存在のためである。フッ素は特殊な溶解特性を有しているため、フッ素を含み、フッ素原子を与える能力を有する化合物は何れも同じ効果を有するであろうことが期待される。加えて、特殊な溶解特性を示す他の化合物すべて、同様に働くことが期待されるであろう。
【0032】
本発明の一実施形態では、可溶性金属酸化物は、
一般式:[{[MO(OH)}X/Y]/(HO)
である。
【0033】
式中、
Mは、金属成分を表し、
Oは、酸素成分を表し、
mは、金属成分(M)の酸化状態に依存する変数で、1から3までの範囲内であり、
nは、該結晶粒子中の金属酸化物の数を表し、
OHは、水酸基を表し、
Xは、内部有機結合基を表し、
Yは、外部有機結合基を表し、
Oは、水素結合した水を表し、
p、q、r及びsは、特に該結晶粒子中の金属酸化物の数(n)及び反応条件に依存する変数を表す。
【0034】
好ましくは、Xは、次の一般式の内部有機結合基を表わす。
【0035】
【化1】

式中、
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。
【0036】
さらに好ましくは、
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。
【0037】
好ましくは、Yは、次の一般式の外部有機結合基を表わす。
【0038】
【化2】

式中、
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。
【0039】
さらに好ましくは、
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。
【0040】
理想的には、各金属酸化物結晶粒子は、平均粒径が5から100Åのナノ結晶粒子である。この場合、金属酸化物粒子の粒径が非常に小さいため、表面積が非常に大きく、その結果として、有機結合基との反応性が高くなるという点で、有利である。
【0041】
好ましくは、前記金属成分は、スズとチタンのうちの1つを含む群から選ばれる。
【0042】
本発明によれば、
可溶性金属酸化物を含み、
各結晶粒子は、各結晶粒子に結合された少なくとも1つの金属イオンをさらに含む可溶性混合金属酸化物がさらに提供される。
【0043】
結合し、結晶粒子の一部となっている金属イオンの量は大きく変化させることができ、混合金属酸化物を調製する間の溶液中の溶媒、金属イオンの種類、金属イオンと溶媒間の相溶性または金属成分同士の相溶性、および反応条件を含む多くの要因に依存している。これらの各要因を変化させることで、各金属イオンを最適量にすることができることが分かるであろう。
【0044】
好ましくは、
各内部有機結合基は、金属成分に、または金属成分および金属イオンの両方に結合されており;
各外部有機結合基は、金属イオンに、または内部有機結合基に、または金属イオンおよび内部有機結合基の両方に結合されており;
金属イオンは、酸素成分、水酸基、内部有機結合基および外部有機結合基の任意の組み合わせに結合されている。
【0045】
さらに好ましくは、
各内部有機結合基は、共有結合によって各金属成分に、共有結合または供与結合のいずれかによって各金属イオンに結合されており;
各外部有機結合基は、水素結合によって各内部有機結合基に、共有結合または供与結合のいずれかによって各金属イオンに結合されており;
各金属イオンは、共有結合によって各酸素成分に、供与結合または共有結合のいずれかによって各水酸基に、共有結合または供与結合のいずれかによって各内部有機結合基に、および共有結合または供与結合のいずれかによって各外部有機結合基に結合されている。
【0046】
本発明の他の実施形態では、可溶性混合金属酸化物は、
一般式:[{[MO(OH)}M’]/(HO)
である。
【0047】
式中、
Mは、金属成分を表し、
Oは、酸素成分を表し、
mは、金属成分(M)の酸化状態に依存する変数で、1から3までの範囲内であり、
nは、該結晶粒子中の金属酸化物の数を表し、
OHは、水酸基を表し、
M’は、金属イオンを表し、
Xは、内部有機結合基を表し、
Yは、外部有機結合基を表し、
Oは、水素結合した水を表し、
p、q、r及びsは、特に該結晶粒子中の金属酸化物の数(n)及び反応条件に依存する変数を表す。
【0048】
理想的には、金属イオン(M’)は、四価スズ、二価スズ、インジウム、アンチモン、亜鉛、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、モリブデン、パラジウム、イリジウム及びマグネシウムを含む群から選ばれる。
【0049】
合成される混合金属酸化物は、スズ/四価のスズ酸化物、スズ/二価のスズ酸化物、スズ/インジウム酸化物、スズ/アンチモン酸化物、スズ/亜鉛酸化物、スズ/チタン酸化物、スズ/バナジウム酸化物、スズ/クロム酸化物、スズ/マンガン酸化物、スズ/鉄酸化物、スズ/コバルト酸化物、スズ/ニッケル酸化物、スズ/ジルコニウム酸化物、スズ/モリブデン酸化物、スズ/パラジウム酸化物、スズ/イリジウム酸化物、スズ/マグネシウム酸化物、チタン/四価のチタン酸化物、チタン/二価のチタン酸化物、チタン/インジウム酸化物、チタン/アンチモン酸化物、チタン/亜鉛酸化物、チタン/スズ酸化物、チタン/バナジウム酸化物、チタン/クロム酸化物、チタン/マンガン酸化物、チタン/鉄酸化物、チタン/コバルト酸化物、チタン/ニッケル酸化物、チタン/ジルコニウム酸化物、チタン/モリブデン酸化物、チタン/パラジウム酸化物、チタン/イリジウム酸化物、チタン/マグネシウム酸化物の何れでもよい。
【0050】
好ましくは、Xは、次の一般式の内部有機結合基を表わす。
【0051】
【化3】

式中、
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。
【0052】
さらに好ましくは、
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。
【0053】
好ましくは、Yは、次の一般式の外部有機結合基を表わす。
【0054】
【化4】

式中、
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。
【0055】
さらに好ましくは、
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。
【0056】
理想的には、各結晶粒子は、平均粒径が5から100Åのナノ結晶粒子である。
【0057】
好ましくは、前記金属成分は、スズとチタンのうちの1つを含む群から選ばれる。
【0058】
本発明によれば、
任意量の不溶性水和金属酸化物を任意量の有機酸に添加して、金属酸化物懸濁液を提供する工程と;
懸濁液が溶液になるまで、この懸濁液を加熱する工程と
を有し;
加熱中に、溶液になるのに十分な量の有機酸に不溶性水和金属酸化物を添加する
金属酸化物溶液の調製方法がさらに提供される。
【0059】
本発明によれば、
金属酸化物溶液を調製する工程と;
この溶液から有機酸を除去して、可溶性金属酸化物を提供する工程と
を有する可溶性金属酸化物の調製方法がさらに提供される。
【0060】
金属酸化物溶液および可溶性金属酸化物を調製するこの方法は、時間のかからない、安価で、環境に優しい方法である。
【0061】
金属酸化物が水和していることの利点は、金属酸化物粒子を取囲む水および水酸分子が存在し、これらは有機結合基によって容易に置換され、その後、有機結合基が金属酸化物粒子に結合することができることである。
【0062】
他の種類の酸は同様には金属酸化物と相互作用しないことが見出されているので、使用する酸は有機酸でなければならない。例えば、酸化物が破壊され、酸化物溶液が形成されないため、硝酸のような無機酸は適切でない。加えて、有機酸を使用する利点は、金属酸化物膜の形成中に高温で有機酸を除去することで、金属酸化物中に望ましくない不純物を導入する基が残存しないことである。
【0063】
懸濁液を加熱する利点は、水和金属酸化物の水酸基と酸の有機結合基との間の高速交換反応が促進され、十分な割合の有機結合基が金属酸化物粒子に結合することである。
【0064】
一般に、溶液からの有機酸の除去は、減圧すると、有機結合基を著しく失うことなく急速に酸を除去することが容易になるという点から、減圧下、好ましくは25mmHg未満の減圧下で行なわれる。
【0065】
好ましくは、前記酸は、ギ酸または次の一般式のものである。
【0066】
【化5】

式中、
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。
【0067】
さらに好ましくは、
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。
【0068】
本発明の一実施形態では、
金属酸化物溶液を調製する工程と;
この溶液に金属を添加する工程と;
この溶液を濾過する工程と
を有する混合金属酸化物溶液の調製方法が提供される。
【0069】
本発明の他の実施形態では、
混合金属酸化物溶液を調製する工程と;
有機酸を除去して、可溶性混合金属酸化物を提供する工程と
を有する可溶性混合金属酸化物の調製方法が提供される。
【0070】
本発明のさらなる実施形態では、
可溶性金属酸化物を調製する工程と;
この金属酸化物を溶媒に溶解して、溶液を提供する工程と;
この溶液に金属を添加する工程と;
この溶液を濾過する工程と
を有する混合金属酸化物溶液の調製方法が提供される。
【0071】
好ましくは、前記溶媒が、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、酢酸アミル、ピリジン、水、次の一般式を有するアルコール
【0072】
【化6】

(式中、R、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=R=H、
=R=H;R=(CH)CH(n=0、1、2、3、4、5)、
=H;R=R=CH
=H;R=CH;R=CHCH
=R=R=CH)、
一般式R−O−Rを有するエーテル
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=CHCH
=CH;R=CHCH
=R=(CHCH)、
一般式RCORを有するケトン
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=(CHCH(n=0、1、2、3、4、5)、
=CH;R=CHCH
の1つを含む群から選ばれる。
【0073】
本発明のさらなる実施形態では、
混合金属酸化物溶液を調製する工程と;
溶媒を除去して、可溶性混合金属酸化物を提供する工程と
を有する可溶性混合金属酸化物の調製方法が提供される。
【0074】
可溶性金属酸化物および可溶性混合金属酸化物の両方を、溶解性を損なうことなく、溶液から回収することができる。回収された酸化物は粉末状で、優れた長期安定性を有しており、従って、将来の使用に備えて利便性よく保存することができる。可溶性混合金属酸化物および混合金属酸化物溶液は、特に電子産業用のドープされた金属膜、モノリス、鋳造および触媒の製造のための非常に価値のある前駆物質である。
【0075】
得られる酸化物粉末は、任意の適当な溶媒に溶解することができる。この場合、有機溶媒中での溶解度は著しく高く、溶液は透明で、無色である。
【0076】
好ましくは、前記溶液を濾過する前に、この溶液を加熱する。
【0077】
さらに好ましくは、前記金属は粉末の状態で添加される。
【0078】
本発明によれば、
対象とする有機溶媒を選択する工程と;
不溶性金属酸化物に結合した時に、その金属酸化物が対象とする溶媒に溶解できるようになる有機結合基を決定する工程と;
この有機結合基を提供するのに適した有機酸を選択する工程と;
この選択された有機酸を用いて、可溶性金属酸化物を調製する工程と
を有する、対象とする有機溶媒に溶解するのに適した可溶性金属酸化物の調製方法がさらに提供される。
【0079】
本発明によれば、
任意量の不溶性水和金属酸化物を任意量の有機酸に添加して、金属酸化物懸濁液を提供する工程と;
懸濁液が溶液になるまで、この懸濁液を加熱する、その中で、加熱中に、溶液になるのに十分な量の有機酸に不溶性水和金属酸化物を添加する工程と
により調製される金属酸化物溶液がさらに提供される。
【0080】
本発明によれば、
可溶性金属酸化物と、
テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、酢酸アミル、ピリジン、水、次の一般式を有するアルコール
【0081】
【化7】

(式中、R、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=R=H、
=R=H;R=(CH)CH(n=0、1、2、3、4、5)、
=H;R=R=CH
=H;R=CH;R=CHCH
=R=R=CH)、
一般式R−O−Rを有するエーテル
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=CHCH
=CH;R=CHCH
=R=(CHCH)、
一般式RCORを有するケトン
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=(CHCH(n=0、1、2、3、4、5)、
=CH;R=CHCH
の1つ以上を含む溶媒と
を含む金属酸化物溶液がさらに提供される。
【0082】
本発明によれば、
金属酸化物溶液を調製する工程と;
この溶液に金属を添加する工程と;
この溶液を濾過する工程と
により調製される混合金属酸化物溶液がさらに提供される。
【0083】
本発明によれば、
可溶性混合金属酸化物と、
テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、酢酸アミル、ピリジン、水、次の一般式を有するアルコール
【0084】
【化8】

(式中、R、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=R=H、
=R=H;R=(CH)CH(n=0、1、2、3、4、5)、
=H;R=R=CH
=H;R=CH;R=CHCH
=R=R=CH)、
一般式R−O−Rを有するエーテル
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=CHCH
=CH;R=CHCH
=R=(CHCH)、
一般式RCORを有するケトン
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=(CHCH(n=0、1、2、3、4、5)、
=CH;R=CHCH
の1つ以上を含む溶媒と
を含む混合金属酸化物溶液がさらに提供される。
【0085】
空気に曝露されている状態であってさえも、これらの可溶性金属酸化物および混合金属酸化物は、溶液中で優れた長期安定性を有しており、このことは、保存上、重要な意味がある。溶液は、処理中に金属酸化物を阻害する可能性のある材料を少しも含んでいない。
【0086】
ゲルを形成するまでの任意の時点まで、必要に応じて、所望の粘度を得るために、溶液を改変することができる。この状態でさえ、全体の透明性は維持される。溶液は高濃度に濃縮することも、あるいは非常に希釈することもできるので、スピンコーティング、エアロゾル−スプレーコーティング、ディップコーティング、ロールオンコーティング、メニスカスコーティング、バーコーティング、カーテンフローコーティング、あるいは他の適当なコーティング方法いずれかを使用して、高品質の薄い及び厚い酸化物膜を基板に適用することができる。
【0087】
溶液中の金属酸化物はまた、容易に繊維に塗布でき、この繊維を難燃剤および染色用途用のモルデントの両方として機能させることができる。金属酸化物溶液および混合金属酸化物溶液はまた、セラミック着色顔料を形成するための前駆物質として働く。
【0088】
本発明によれば、金属酸化物溶液から形成された金属酸化物膜が提供される。
【0089】
本発明によれば、混合金属酸化物溶液から形成された混合金属酸化物膜がさらに提供される。
【0090】
これらの膜は、電子産業用の透明な導電膜を形成すること、薬剤保持および放出特性を有する生体適合性膜を形成することなど多数の応用法を有している。さらなる応用例として、例えば、エンジン部品および人工股関節置換中の可動部分の摩擦係数を低減するための膜の使用が挙げられる。これらの膜はまた、例えば眩しさを低減するために、モニターに適用することができるだろう。
【0091】
さらに、これらの膜は、例えば、耐衝撃性を向上するための家庭用ガラス製品の被覆および熱的特性を向上するための窓ガラスの被覆など、ガラス工業の分野にも応用される。
【0092】
加えて、膜の形成に先立って、例えば、特定の用途のために表面基を結合するなどして、これらの溶液を改変することもできる。この1つの例として、生体適合性を向上するために、リン酸基を付与することがある。
【0093】
さらに、本発明は
可溶性金属酸化物の触媒としての使用、
金属酸化物溶液の触媒としての使用、
可溶性混合金属酸化物の触媒としての使用、および
混合金属酸化物溶液の触媒としての使用
に関する。
【0094】
この金属酸化物溶液はまた、金属酸化物触媒および固定化触媒、すなわち酸化物表面に結合した触媒の開発に多くの新しい可能性をもたらす。溶液中の金属酸化物は、有機スタノキサン類、有機酢酸スズ類および他の有機金属系触媒の触媒活性および触媒的役割であるものに似る、あるいは実際により性能が優れている可能性があり、従って、これら、および後者の使用の不利な点であるものを不要にする可能性がある。スズ酸化物の場合、スズ酸化物溶液を利用できることは、スズ酸化物系触媒の開発に予想できないほどの可能性を与える。これらは、製薬産業において極めて価値があるキラル酸化触媒など、混合金属酸化物型(例えば、スズ/バナジウムまたはスズ/銅酸化物)あるいは表面結合触媒であってもよく、酸化物が溶液中にある場合、高濃度で比較的容易にスズ酸化物の表面に固定できる。表面に結合させる他の所望の基を有していても、有していなくても、均一系および不均一系の金属酸化物および混合金属酸化物触媒を形成するための前駆物質として、金属酸化物溶液および混合金属酸化物溶液は働くことができる。
【0095】
主にそれらの調製の仕方のために、可溶性金属酸化物および混合金属酸化物は、触媒として特に有用である。可溶性金属酸化物および混合金属酸化物の調製方法は、触媒としてのそれらの使用を妨げる望ましくない不純物どれもの原因とならない。加えて、多くの反応が溶液中で行なわれるので、触媒も溶液中にあることができれば有利である。この理由から、金属酸化物および混合金属酸化物溶液は好適である。
【0096】
本発明によれば、
300℃以下の温度まで可溶性金属酸化物を加熱して、不溶性金属酸化物を提供する工程と;
任意量の不溶性金属酸化物を任意量の有機酸に添加して、金属酸化物懸濁液を提供する工程と;
懸濁液が溶液になるまで、この金属酸化物懸濁液を加熱する工程と;
酸を除去して、改変された溶解性を有する可溶性金属酸化物を提供する工程と
を有し;
加熱中に、溶液になるのに十分な量の有機酸に不溶性水和金属酸化物を添加する
可溶性金属酸化物の溶解性を改変する方法がさらに提供される。
【0097】
本発明によれば、
任意量の可溶性金属酸化物を過剰量の有機溶媒に添加して、金属酸化物溶液を生成する工程と;
この溶液に酸を滴下する工程と;
有機溶媒を除去して、改変された溶解性を有する可溶性金属酸化物を提供する工程と
を有する可溶性金属酸化物の溶解性を改変する方法がさらに提供される。
【0098】
本発明の一実施形態では、前記酸は、オルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、有機ホスホン酸類、有機ホスフィン酸類、有機アルソン酸類、有機アルシン酸類およびスルホン酸類の1つを含む群から選ばれる。
【0099】
本発明の他の実施形態では、前記酸が、8−ヒドロキシキノリン、ポリエチレングリコールまたは水素結合を形成することができる任意の非酸類の1つを含む群から選ばれる非酸類で置換されている。
【0100】
好ましくは、前記有機溶媒が、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、酢酸アミル、ピリジン、水、次の一般式を有するアルコール
【0101】
【化9】

(式中、R、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=R=H、
=R=H;R=(CH)CH(n=0、1、2、3、4、5)、
=H;R=R=CH
=H;R=CH;R=CHCH
=R=R=CH)、
一般式R−O−Rを有するエーテル
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=CHCH
=CH;R=CHCH
=R=(CHCH)、
一般式RCORを有するケトン
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=(CHCH(n=0、1、2、3、4、5)、
=CH;R=CHCH
を含む群から選ばれる。
【0102】
本発明によれば、スズ、アンチモン及び鉄の混合鉱石からスズを抽出する方法であって、
鉱石を無機酸に溶解して、スズ、アンチモン及び鉄の水溶性種を含む無機酸溶液を生成する工程と;
この溶液のpHを上昇させて、スズ、アンチモン及び鉄の水和酸化物を溶液中に生成させ、スズ、アンチモン及び鉄の水和酸化物を溶液から沈殿させる工程と;
この水和酸化物に過剰量の有機酸を添加して、有機酸懸濁液を生成する工程と;
この懸濁液を加熱する工程と;
この懸濁液を濾過する工程と;
有機酸を除去して、鉄残分と共に可溶性スズ酸化物を提供する工程と
を有する方法が提供される。
【0103】
好ましくは、この方法は、
鉄残分と共に可溶性スズ酸化物を有機溶媒に溶解して、溶液を提供する工程と;
この可溶性スズ酸化物を溶液中に少なくとも24時間保持する工程と;
この溶液を濾過して、鉄残分を除去する工程と;
有機溶媒を除去して、可溶性スズ酸化物を提供する工程と
をさらに有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0104】
本発明は、添付図面を参照し、例としてのみ与える幾つかのそれの実施形態についての以下の記載から、より明瞭に理解されるであろう。
【0105】
図1には、可溶性金属酸化物を製造する方法の概略が示されている。
【0106】
工程101では水和不溶性金属酸化物が得られ、工程102で砕けて粉末になるまで、室温で乾燥される。工程103では、所定量の乾燥した水和金属酸化物を所定量の有機酸に添加し、金属酸化物懸濁液を形成する。工程104では、懸濁液が溶液になるまで、金属酸化物懸濁液を加熱する。工程105では、溶液が濾過され、溶解していない物質が全て除去される。工程106で有機酸を除去し、工程107で可溶性金属酸化物が得られる。
【0107】
加熱中に溶液になるのに十分な量の酸が存在している限り、任意量の水和不溶性金属酸化物を有機酸に添加することができる。明らかに、濾過は、必要に応じて行なわれるにすぎない任意の工程である。酸を除去する工程は省略でき、得られる溶液をそのままの形で使用できることは分かるであろう。
【0108】
水和金属酸化物は商業的に入手でき、また、金属四塩化物あるいは金属アルコキシドの加水分解によって、または他の全ての調製方法によって調製することができる。四塩化スズの加水分解による水和スズの調製の典型的な方法は、以下の通りである。20cmの四塩化スズを200cmの水に加え、強酸性の溶液を得た。この溶液のpHをゆっくりと6まで上昇させた後、溶液を遠心分離して水和スズ酸化物を除去した。非常に微細な白色の固形物を蒸留水で8回洗浄し、塩化物を全て除去した。最後にアセトンで洗浄した後、乾燥工程を速めるために、固形物を室温の開放系に放置し乾燥させた。この方法によって、およそ10.5gの乾燥した水和スズ酸化物が得られた。この水和酸化物は、全ての有機溶媒および水に不溶である。
【0109】
図2には、可溶性金属酸化物の溶解性を改変する方法の概略が示されている。
【0110】
工程202で不溶性になるまで、工程201で、可溶性金属酸化物を300℃以下の温度にまで加熱する。工程203で、所定量の不溶性金属酸化物を所定量の有機酸に添加し、工程204で金属酸化物懸濁液を形成する。工程205で懸濁液が溶液になるまで、金属酸化物懸濁液を加熱する。工程206で酸を除去し、工程207で溶解性が改変された可溶性金属酸化物が得られる。不溶性金属酸化物および酸の必要量は、上述の通り決められる。
【0111】
図3には、可溶性金属酸化物の溶解性を改変する他の方法の概略が示されている。
【0112】
工程301で、所定量の可溶性金属酸化物を工程302の所定量の有機溶媒に添加し、工程303で溶液を形成する。工程304で酸を溶液に滴下し、工程305で溶液から溶媒を除去し、工程306で可溶性金属酸化物が得られる。
【0113】
酸を金属酸化物懸濁液に添加する代わりに、代替として、水素結合可能な非酸を添加できることは注目すべきである。例えば、酸を8−ヒドロキシキノリンに置換することができ、この場合、得られる可溶性金属酸化物はメタノールに可溶となる。
【0114】
図4には、可溶性混合金属酸化物を調製する方法の概略が示されている。
【0115】
工程401では、図1で概説される方法によって、可溶性金属酸化物が得られる。工程402で金属酸化物を溶媒に溶解し、工程403で溶液が得られる。工程404では、追加の金属が溶液に添加される。工程405では、溶液が濾過される。工程406で溶液から溶媒を除去し、工程407で可溶性混合金属酸化物が得られる。
【0116】
溶液を得るために溶媒に金属酸化物を溶解する代わりに、図1で得られた溶液を使用することがさらに可能であることが分かるであろう。任意に、濾過する前に、溶液を加熱することもできる。
【0117】
図5には、スズ、アンチモン及び鉄の混合鉱石からスズを抽出する方法の概略が示されている。
【0118】
工程501では混合鉱石が得られ、工程502で無機酸に溶解し、工程503で無機酸溶液が得られる。工程504では溶液のpHを上昇させ、スズ、アンチモン及び鉄の水和酸化物を溶液から沈殿させる。工程505では所定量の有機酸を水和酸化物に添加し、工程506で有機酸懸濁液を形成する。工程507で懸濁液を加熱する。工程508で懸濁液を濾過する。工程509で有機酸を除去し、工程510で鉄残分と共に可溶性スズ酸化物が得られる。可溶性スズ酸化物および鉄残分を有機溶媒に溶解して溶液を得、少なくとも1日間溶液中に保持し、この溶液を濾過して鉄残分を除去し、可溶性スズ酸化物を除去することによって、後の工程で鉄残分を除去することができる。
【0119】
添加される有機酸の量は、加熱中に溶液になるのに十分な量でなければならない。
【実施例】
【0120】
例1:酢酸を使用する可溶性スズ酸化物の調製
調製
不溶性水和スズ酸化物が得られ、スズ酸化物が砕けて粉末になるまで室温で乾燥した。乾燥させた不溶性水和スズ酸化物10.5gを氷酢酸100cmに加え、スズ酸化物懸濁液を得た。懸濁液を室温で1時間攪拌した。不溶性スズ酸化物の明らかな溶解は確認されなかった。スズ酸化物懸濁液を約85℃の温度に加熱し、この温度で酸化物をゆっくりと溶液へ溶解した。温度が100℃に近づくと、固形物は完全に消失し、澄んだ溶液が得られた。加熱を止め、溶液を濾過した。Rotavap(商標)のような適切な蒸発装置を使用し、水流ポンプで減圧した17mmHgの圧力下で、酢酸を除去した。残った白色固形物は可溶性スズ酸化物であった。
【0121】
分析
可溶性スズ酸化物を分析したところ、炭素含有量はおよそ9%〜10%、酢酸体含有量は22%〜24%の範囲内であった。炭素、窒素、水素分析器を用いて、炭素含有量を測定した。炭素の量は、酢酸体の存在量と相関関係がある。
【0122】
可溶性スズ酸化物は、冷氷酢酸および冷メタノールに溶解することが分かった。およそ1000gの可溶性スズ酸化物を室温で1リットルのメタノールに溶解でき、濁りのない透明な溶液が得られることが分かった。また、エタノール及び水に対しても、可溶性スズ酸化物はある程度溶解することが分かった。
【0123】
粉末X線回折による研究
水和不溶性スズ酸化物および可溶性スズ酸化物の粉末回折パターンを図6に示す。2つのパターンは本質的には同一である。不溶性スズ酸化物および可溶性スズ酸化物の平均粒径は19Åであると計算された。
【0124】
不溶性スズ酸化物および可溶性スズ酸化物の両方の試料は、200℃、400℃、600℃、800℃及び900℃の温度にまで加熱した。これらの各温度で、粉末回折パターン及び赤外スペクトルを記録した。回折パターンを図7に示す。温度を上げるにつれて焼結し(すなわち、温度の上昇とともに粒径が増加)、大きな結晶子が生じた。このことは、回折線が狭くなることによって示されている。また、焼結すると水分子が失われることになり、これは次式によって示される反応のためである:
2(−Sn−OH) → −Sn−O−Sn− + HO。
【0125】
加熱に対する酸化物の反応は、400℃の場合以外は本質的に同一であることが分かった。400℃においては、可溶性スズ酸化物の回折線の幅が不溶性スズ酸化物のものよりも広いことが見出され、このことは、従って、酢酸基の存在の結果、この温度で、焼結の進行が僅かに遅れることを示している。
【0126】
熱重量分析
上述のようにして、多くの可溶性スズ酸化物試料を調製し、各試料についてサーモグラムを記録した。これらのサーモグラムは、測定温度範囲に渡って、サーモグラムの形状および重量減少量の何れに関しても一貫していることを示した。不溶性スズ酸化物および可溶性スズ酸化物の両方の典型的なサーモグラムを図8に示す。不溶性スズ酸化物のサーモグラムは、多くの著者によって記録されたものによくある典型的なもので、およそ120℃の温度までで最大の重量減少が生じ、この点を越えて温度を上昇させると次第に小さくなっていく。これとは対照的に、可溶性スズ酸化物のサーモグラムは、3つの明確な重量減少領域を示し、それぞれの領域で、重量減少と温度との間に直線関係がある。25〜120℃の範囲では、温度の上昇に伴って重量が急激に減少し、これに続いて約300℃までの第2領域へとテーリングした。この領域でのラインの傾斜は、より低温の領域での傾斜より非常に小さい。最後に、約300〜450℃の領域では、温度の上昇に伴い、重量減少のさらに著しい増加が起こった。この点を越えては、さらなる著しい重量減少は記録されなかった。
【0127】
300℃までの重量減少は主に水素結合した酢酸が失われることに関連しており、一方、300〜400℃の領域での重量減少は結晶子表面のスズ原子に結合している酢酸体が失われることに関連している。酢酸体がスズに配位結合している酢酸スズは、この領域で酢酸体の重量減少を示す。従って、可溶性スズ酸化物についても、これはスズに結合している酢酸体による重量減少であると推定することができ、この推定は赤外データによって支持されている。
【0128】
赤外スペクトル
可溶性スズ酸化物の赤外スペクトルを図9に示す。室温での可溶性スズ酸化物の赤外スペクトルは、1,450〜1,650cm−1の範囲で非常に広い吸収を示す。これは、酢酸体のν(C−O)asymが観察される一般的な範囲である。広く強い吸収が約1265cm−1で起こり、1371cm−1でさらに鋭い吸収が起こる。この吸収は両方とも、振動に関する酢酸体のν(C−O)symに帰属する。1713cm−1には、鋭いバンドが観察される。このバンドは、スズに結合した酢酸体への水素結合を形成する酢酸に起因することが分かった。特に、このバンドは温度が上昇するにつれて減少し、300℃まで加熱した試料は最早このバンドを示さなかった。このことは、300℃までの重量減少は、スズに直接は結合していない酢酸体に関連していることを示す熱重量分析研究と一致する。300℃まで加熱した試料のスペクトルの1450〜1650cm−1の範囲での吸収は、スズに結合した酢酸体に起因しているはずである。この吸収が幅広いことは、スズに結合した酢酸体が一種類より多く存在することを示し、さらに、このことは、およそ1265cm−1と1371cm−1にバンドが存在することによっても支持される。
【0129】
例えば、K[Sn(acetate)]中のように、酢酸体が、その酸素原子の一つを介してスズに結合している(すなわち、単座配位子の酢酸体)場合、ν(C−O)asymは約1630〜1675cm−1の範囲で観察され、ν(C−O)symは1300〜1340cm−1の範囲以上で観察される。一方、酢酸体が両方の酸素原子を介して結合している(すなわち、二座配位子の酢酸体)場合、ν(C−O)asymは1560cm−1付近で観察され、ν(C−O)symは1400cm−1付近の周波数で観察される。従って、300℃まで加熱した可溶性スズ酸化物のスペクトルは、スズに結合した酢酸体に単座配位子と二座配位子の両方が存在していることを示している。
【0130】
さらに、上記のプロセスにおける成分の反応は、次の反応スキームによって説明することができる。
【0131】
【化10】

上記の反応機構から示されるように、不溶性水和金属酸化物は多くの水酸基および表面に結合した水を含む。水和金属酸化物を有機酸に添加し、得られた懸濁液を加熱すると、可溶性金属酸化物が得られる。多くの内部および外部有機結合基が金属酸化物に結合し、金属酸化物に溶解性を与えているという点を除いては、本質的に、可溶性金属酸化物は不溶性金属酸化物と同じコアを有している。
【0132】
可溶化されたスズ酸化物結晶子の理論モデル
熱的データ、回折データおよび分光データからのデータを組み合わせることで、可溶性スズ酸化物結晶子の優れたモデルが得られる。スズ酸化物は、単位格子パラメータa=4.737Å、b=3.186Åの正方晶系に結晶化しており、一方、可溶性スズ酸化物の場合、X線回折データは平均粒径およそ19Åを示し、一致していた。これらの事実を心に留め、3つのモデル結晶子を構築した。それぞれの場合において、モデル結晶子の好ましい境界面を有するような構造単位および構成単位を選択して構築を行った。1つの構成単位は従来のルチル正方晶系単位格子(スズ酸化物はルチル構造をとる)であったのに対し、他の2つは代わりに単斜晶系格子および三斜晶系格子であった。およそ19Åの所望の平均結晶子径が得られるように、構成単位を三次元的に組み立てて、モデル結晶子を構築した。このモデルから得られた重要なデータを表1に示す。
【0133】
【表1】

サーモグラムの最終の重量減少は、表面スズに共有結合している酢酸体が失われることにほぼ完全に起因しているという事実に基づいて、最後の列のデータを計算した。実際には、何れのモデルも結晶子の完全なモデルとは考えられない。しかしながら、既に知られているスズ酸化物結晶子のモルホロジーに基づき、酢酸体が共有結合している表面のスズのパーセンテージは68%より幾分大きいはずであるが、75%ほどは大きくなさそうであると説得力をもって議論することができる。さらに、水素結合している水の総量は、600℃まで加熱した際の総重量減少の5%未満を占めると確信して推定することができる。
【0134】
例2:酢酸を使用する可溶性スズ酸化物の調製 −変更した水和スズ酸化物および酸の添加の比較
調製
55gの水和酸化物および200cmの酢酸を使用するように変更して、例1で概説した方法を繰返した。その他の点では、手順は、例1で記載したものと同一であった。
【0135】
分析
炭素含有量および酢酸体含有量は、例1で得られた結果と同じ範囲であることが分かった。さらに分析したところ、加熱中に溶液が形成されるのに十分な酢酸が存在していさえすれば、水和スズ酸化物の量が多くても少なくても、実質的に同じ結果が得られることが示された。粉末X線回折による研究、熱重量分析および赤外スペクトルも、例1で得られたものと同様の結果を示した。
【0136】
例3:酢酸/水混合溶媒を使用する可溶性スズ酸化物の調製
調製
前述のように、不溶性水和スズ酸化物を得て室温で乾燥した。10.5gの乾燥させた不溶性水和スズ酸化物を100cmの90容量%/10容量%の氷酢酸/水混合溶媒(90cm氷酢酸/10cm水)に加え、スズ酸化物懸濁液を得た。懸濁液を室温で1時間攪拌し、前に概説したように約85℃に加熱した。溶液を濾過し、溶液から酢酸/水混合溶媒を蒸発除去し、白色固形物の形で可溶性スズ酸化物を得た。
【0137】
分析
この可溶性スズ酸化物を分析したところ、例1の可溶性スズ酸化物より炭素含有量は低く、7.5%〜8.5%の範囲内であった。
【0138】
可溶性スズ酸化物はまた、冷氷酢酸および冷メタノールに可溶であることが分かったが、メタノールに対する溶解性は例1の可溶性スズ酸化物より低いことも分かった。
【0139】
85容量%の氷酢酸および15容量%の水を含む混合溶媒を調製し、上記の手順を繰返すことにより、溶媒に水を加える更なる効果を確認した。可溶性スズ酸化物は得られなかった。
【0140】
例4:トリフルオロ酢酸を使用する可溶性スズ酸化物の調製
調製
前述のように、不溶性水和スズ酸化物を得て室温で乾燥した。5gの乾燥させた不溶性水和スズ酸化物を10cmのトリフルオロ酢酸に加え、スズ酸化物懸濁液を得た。懸濁液を70℃に加熱したところ、水和スズ酸化物が完全に溶解し、澄んだ溶液が得られた。Rotovap(商標)でトリフルオロ酢酸を除去すると、可溶性スズ酸化物の白色粉末が残った。
【0141】
分析
可溶性スズ酸化物の炭素含有量は6%〜6.5%の範囲内であることが分かり、また、可溶性スズ酸化物は、フルオロ酢酸体の含有量が28.26%〜30.61%の範囲内であることが分かった。
【0142】
溶解性
可溶性スズ酸化物は、メタノール、アセトン及びテトラヒドロフランに可溶であることが分かった。例えば、アセトン及びテトラヒドロフランの両者に対する溶解性は、溶媒1リットル当たり1000g以上であることが分かった。アセトン及びテトラヒドロフランの両者に対する溶解性は、可溶性酸化物を250℃まで加熱した後も保持される。
【0143】
粉末X線回折
室温における粉末回折パターンは例1の可溶性スズ酸化物のものと同一であり、線幅の分析から測定される粒径は、およそ19Åの平均粒径を示した。換言すれば、平均粒径は、酢酸を使用して調製された可溶性スズ酸化物についてのものと同様である。900℃までの様々な温度に加熱した試料についての回折データを研究したところ、温度が上がるにつれて粒径が増加するが(焼結プロセス)、この増加は、酢酸を用いた方法で調製した可溶性スズ酸化物ほどは大きくないことが示された。
【0144】
赤外分光法
ν(C−O)asymに関連するバンドが1600〜1750cm−1の範囲で起こり、可溶性スズ酸化物のスペクトルは、1696cm−1を中心とする広い吸収を示す。しかしながら、このバンドは、より高い及びより低い周波数への非常に明確なショルダーを多く有しており、従って、トリフルオロ酢酸基の異なる役割が示唆される。試料を300℃にまで加熱すると、あれらのスズに結合しているトリフルオロ酢酸基以外は全てなくなり、この加熱した試料の赤外スペクトルは1600〜1750cm−1の範囲により単純なスペクトル;1640cm−1及び1672cm−1を中心とする2つの重なる幅広のピークを示す。ν(C−O)symに関連するバンドが起こる1400cm−1の範囲では、幅広い弱い吸収が起こる。このバンドが幅広いことは、1つ以上のバンドが存在することを示唆している。同様に、CFの揺れに関連する2つの強いバンドが1199cm−1及び1152cm−1に起こる。したがって、赤外のデータは、酢酸を用いた方法で得られた可溶性スズ酸化物中の酢酸体についての場合と同様に、2種類のトリフルオロ酢酸体がスズに直接結合していることを示している。
【0145】
更なる分析
トリフルオロ酢酸/水混合溶媒を得るため、トリフルオロ酢酸に水を加える効果を確認した。混合溶媒は50容量%のトリフルオロ酢酸および50容量%の水(それぞれ5cm)を含み、上記で概説したように手順を行なった。沈殿したスズ酸化物は不溶性と分かった。
【0146】
また、更なる分析により、トリフルオロ酢酸を使用したこの例の場合、外部のフルオロ酢酸基を取り除くと、スズ酸化物の溶解性が保持されることが示された。これは、金属酸化物を可溶とする金属酸化物の表面上の露出したフッ素原子の存在のためである。
【0147】
例5:プロパン酸を使用する可溶性スズ酸化物の調製
調製
可溶性スズ酸化物の調製法は、酢酸をプロパン酸に置換えた以外、酢酸を使用した調製法(例1)にまったく類似している。
【0148】
分析
可溶性スズ酸化物の分析により、プロパン酸基の存在が確認された。炭素含有量は12〜13%の範囲内であることが分かり、可溶性スズ酸化物は、プロピオン酸体含有量が24.35%〜26.38%の範囲内であることが分かった。この形態の可溶性スズ酸化物を真空下、100℃で1時間加熱すると、炭素含有量は約10.5%まで減少し、プロピオン酸体含有量は21.3%まで減少した。
【0149】
溶解性
この方法で調製された可溶性スズ酸化物は、テトラヒドロフラン、メタノール及びジメチルホルムアミドに可溶であることが分かった。また、ピリジンにもある程度、溶解することが分かった。真空下で100℃まで加熱した試料も、溶解性を保持していた。
【0150】
熱重量データ
この形態の可溶性スズ酸化物のサーモグラムは、酢酸を使用して調製された可溶性スズ酸化物のものの特性を全て有している。
【0151】
粉末回折
この形態の可溶性スズ酸化物の粉末回折パターンは酢酸を使用して調製された可溶性スズ酸化物のものと同一であり、粒径は約19Åであることが明らかになった。焼結プロセスにおいても、粉末回折パターンから、この形態の可溶性スズ酸化物は、酢酸を使用して調製された可溶性スズ酸化物と本質的に同一にふるまうことが明らかである。
【0152】
赤外スペクトル
重要な範囲である1500〜1750cm−1と1300〜1450cm−1において、酢酸を使用して調製された可溶性スズ酸化物についてのものよりも良好にスペクトルが決定される。1564cm−1及び1623cm−1の2つのバンドはν(C−O)asymに帰属され、一方、1376cm−1と、明確なショルダーとして現われる約1420cm−1のバンドはν(C−O)symに帰属される。これらのバンドは、スズに結合している単座および二座のプロピオン酸体の存在と整合性が取れている。1716cm−1に現われる鋭いバンドは、水素結合したプロパン酸分子に帰属できる。したがって、熱重量のデータおよび赤外のデータの両方に基づいて、プロピオン酸体の役割は、酢酸を使用して調製された可溶性スズ酸化物中の酢酸体のものと同様であるようである。
【0153】
例6:酢酸を使用する可溶性チタン酸化物の調製
調製
不溶性水和チタン酸化物が得られ、チタン酸化物が砕けて粉末になるまで室温で乾燥した。乾燥させた不溶性水和チタン酸化物6gを氷酢酸200cmに加え、チタン酸化物懸濁液を得た。懸濁液を約119℃の温度で氷酢酸の沸点にまで加熱し、3時間その温度で維持した。チタン酸化物は溶解せず、続いて濾過によって除去され、空気中で乾燥した。残存した酢酸濾液はRotovap(商標)を使用して除去し、少量の白色固体が残った。この白色固形物の粉末X線回折パターンは、それがチタン酸化物ではないことを示した。この不溶性チタン酸化物/酢酸塩物質を氷酢酸に加え、懸濁液を3時間、還流温度で維持した。不溶性チタン酸化物を濾過して分離し、空気中で乾燥した。この場合、酢酸濾液は、溶解した物質いずれも含まないことが分かった。
【0154】
上記の方法で得られた不溶性チタン酸化物を200cmのメタノールに加え、大過剰の8−ヒドロキシキノリンを加えた。直ちに溶液中に黄色が観察され、不溶の固形物は黄色であると考えられた。4時間の還流後、溶液は深い黄色で、不溶の物質があると考えられた。溶液を濾過し、濾液のメタノールをRotovapで除去して、黄色の粉末が残った。この粉末をジエチルエーテルで繰り返し洗浄し、最後に室温で乾燥した。この黄色の物質の赤外スペクトルより、結合した8−ヒドロキシキノリンが存在すること、および未反応の8−ヒドロキシキノリンが存在しないことを確認した。この物質の粉末X線回折パターンより、それがチタン酸化物であることを確認した。この形態のチタン酸化物は、メタノールに対する溶解性が高いことが分かった。300℃まで加熱された試料では、低下はするが、溶解性が保持された。可溶性酸化物の焼結プロセスを、X線回折によって観察した。それは水和チタン酸化物の挙動と同様であり、焼結プロセス中に黄色が赤色に変化し、最後には、この物質は800℃で無色になった。
【0155】
分析
可溶性チタン酸化物を分析したところ、炭素含有量が約8%であることが示された。
【0156】
例7:トリフルオロ酢酸を使用する可溶性チタン酸化物の調製
不溶性水和チタン酸化物が得られ、チタン酸化物が砕けて粉末になるまで室温で乾燥した。不溶性水和チタン酸化物1gをトリフルオロ酢酸15cmに加えた。得られた懸濁液を70℃に加熱したところ、チタン酸化物は完全に溶解し、澄んだ無色の溶液が得られた。前に記載したようにトリフルオロ酢酸を除去し、白色粉末として可溶性チタン酸化物を得た。
【0157】
分析
可溶性チタン酸化物の炭素含有量は10%であり、フルオロ酢酸体の含有量は47%と示された。
【0158】
溶解性
可溶性チタン酸化物は、アセトン及びテトラヒドロフランに対する優れた溶解性を有していた(各溶媒1リットル当たり1500g以上)。この溶解性は、酸化物を250℃まで加熱した後も保持される。また、メタノールに対する溶解性も良好であるが、24時間(時には、それよりも短時間で)後には、沈殿が生じる傾向がある。
【0159】
粉末X線回折
可溶性チタン酸化物の粉末回折パターンは、トリフルオロ酢酸中の反応の後、最初の水和酸化物のコア構造が保持されている(アナターゼ相及びブルッカイト相の存在を示している)ことを明白に示した。300℃まで加熱された可溶性チタン酸化物の試料の粉末回折パターンからは、ブルッカイト相よりもアナターゼ相が増加していることが示され、400℃まで加熱された試料は、全体がアナターゼ相に転移したことを示す粉末回折パターンを与えた。粉末回折パターンからは、温度を700℃まで上昇させるにつれて、アナターゼ粒径が成長することが示された。しかしながら、この温度では、ルチル相が明瞭に確認された。温度を900℃まで上昇させるにつれて、ルチル相が増加して支配的となり、この温度では、アナターゼ相は小さな成分だった。全体として、加熱プロセスの結果、可溶性チタン酸化物は不溶性水和チタン酸化物と同様の挙動を示した。
【0160】
熱重量分析
可溶性チタン酸化物のサーモグラムは、可溶性スズ酸化物について見られたものと同じ全般的な特徴を示した。これらのサーモグラム間の最も重要な差異は、(酢酸から得られた)可溶性スズ酸化物の場合、約300℃で始まった最後の激しい重量減少が、可溶性チタン酸化物の場合、約250℃で始まったことである。
【0161】
赤外分光法
室温で保持された試料と、400℃までの温度に加熱した試料について記録された、可溶性チタン酸化物の試料の赤外スペクトルを分析したところ、酢酸から得られた可溶性スズ酸化物の場合の水素結合した酢酸および共有結合した酢酸体についての役割と同様に、水素結合したトリフルオロ酢酸およびチタンに共有結合したトリフルオロ酢酸体についての多面的役割が立証された。
【0162】
他の有機結合基と同様に、フルオロ酢酸基の外部の層が除去された時の金属酸化物、この場合、チタン酸化物の溶解性を検討するために、更なる分析を行なった。外部有機結合基が取り除かれた時のフルオロ酢酸基の場合、他の種類の有機結合基について示された結果とは対照的に、得られた内部のフルオロ酢酸基が結合している金属酸化物は、その溶解性を保持することが示された。これは、スズ酸化物およびチタン酸化物の両方についてそうであることが分かった。更なる分析から、外部のフルオロ酢酸基が取り除かれた場合でも、内部のフルオロ酢酸基はチタン酸化物に共有結合によって結合し続けることが示された。外部のフルオロ酢酸基が取り除かれた後でさえ溶解性が保持されることは、普通でない溶解性を与えることが知られている、露出したフッ素原子の存在に関連していると考えられる。このことは、原子および結合されている分子の種類に溶解性が依存することを意味しており、普通でない溶解性を有する原子および分子は何れも同じ効果を有するであろうと考えられる。加えて、フルオロ酢酸基を与えるためにトリフルオロ酢酸を使用する代わりに、モノフルオロ酢酸などの酸を与える他のフルオロ酢酸エステルを使用することができる。この場合、得られる可溶性チタン酸化物は、より少ないフルオロ酢酸基が結合していると予想されるが、依然として可溶性であると考えられる。
【0163】
したがって、酸がフッ素を含むカルボン酸(例えば、トリフルオロ酢酸)である場合、可溶性酸化物は金属に直接結合したカルボン酸基を有する。表面の金属原子に結合されたカルボン酸基が十分な数ある場合には、露出したフッ素原子の存在の結果、その酸化物は可溶性となり得る。このレベルのカルボン酸体の表面への結合が達成される場合、水素結合された層がさらに付加されることができ、表面カルボン酸基のみの存在で達成されたタイプの溶解性が保持されることになることもある。しかしながら、これらの水素結合された層は、溶解性の性質を変えてしまう可能性がある。
【0164】
一方、酸がフッ素を含まない酸(例えば、酢酸またはプロピオン酸)である場合、可溶性酸化物は表面金属原子に直接結合したカルボン酸基を有しており、さらに水素結合された酸の層が、生成されたカルボン酸/ヒドロキシ表面上に構築される。内部のカルボン酸/ヒドロキシ層は溶解性に関しては十分な状態ではない。外部の水素結合された層が溶解性を与え、溶解性のタイプ及び程度の両方は、これらの水素結合された層に存在する分子の性質によって決定される。これらの水素結合された層の分子は、必ずしも酸性分子ではない。しかしながら、必要な外部の水素結合された層を有するためには(溶解性を付与するため)、適当な数のカルボン酸基が表面金属原子に直接結合していなければならない。
【0165】
例8:表面基の除去および置換による金属酸化物の溶解性の制御
上記で概説したように、使用される酸は有機結合基を決定する。したがって、酢酸が使用される場合、外部有機結合基は酢酸基であり、トリフルオロ酢酸が使用される場合、外部有機結合基はフルオロ酢酸基であり、プロパン酸が使用される場合、外部有機結合基はプロピオン酸基である。前の例で議論したように、異なる有機結合基は、異なる溶媒で異なるレベルの溶解性を金属酸化物に付与する。
【0166】
さらに、各可溶性金属酸化物の溶解性のタイプを改変することが可能である。
【0167】
(a)酢酸体が結合している可溶性スズ酸化物を改変して、フルオロ酢酸体が結合している可溶性スズ酸化物を得る
例1のようにして、有機結合基として酢酸基を有している可溶性スズ酸化物を調製した。2gの可溶性スズ酸化物を300℃まで加熱すると、その温度で不溶性になった。不溶性スズ酸化物を10cmのトリフルオロ酢酸に添加し、懸濁液を100℃まで加熱した。この温度で10分後、先の懸濁した物質は完全に溶解し、透明な溶液が得られた。Rotovap(商標)によりトリフルオロ酢酸を除去して、可溶性スズ酸化物を得た。これは、この時点で、メタノール、テトラヒドロフラン及びアセトンに対して溶解性を有していた。換言すれば、得られた可溶性スズ酸化物は、この時点で、トリフルオロ酢酸を使用して調製された可溶性スズ酸化物のように挙動した。
【0168】
(b)フルオロ酢酸体が結合している可溶性スズ酸化物を改変して、酢酸体が結合している可溶性スズ酸化物を得る
例4のようにして、有機結合基としてフルオロ酢酸基を有している可溶性スズ酸化物2gを調製し、300℃まで加熱すると、その温度で不溶性になった。不溶性スズ酸化物を50cmの酢酸に添加し、懸濁液を100℃まで加熱した。この温度で10分後、物質は完全に溶解し、透明な溶液が得られた。Rotovap(商標)により酢酸を除去して、可溶性スズ酸化物を得た。これは、メタノールに溶解したが、テトラヒドロフラン及びアセトンには溶解しなかった。換言すれば、得られた可溶性スズ酸化物は、酢酸を使用して調製された可溶性スズ酸化物の溶解特性を有していた。この物質の赤外スペクトルは、フルオロ酢酸基がスズに結合し続けていることを示した。
【0169】
(c)酢酸体が結合している可溶性スズ酸化物を改変して、プロピオン酸体が結合している可溶性スズ酸化物を得る
例1のようにして、有機結合基として酢酸基を有している可溶性スズ酸化物2gを調製し、300℃まで加熱すると、その温度で不溶性になった。不溶性スズ酸化物を50cmのプロピオン酸に添加し、懸濁液を120℃まで加熱した。この温度で10分後、物質は完全に溶解し、透明な溶液が得られた。Rotovap(商標)を使用してプロピオン酸を除去して、可溶性スズ酸化物を得た。これは、メタノール、テトラヒドロフラン及びアセトンに対して溶解性を有していた。換言すれば、得られた可溶性スズ酸化物は、この時点で、プロピオン酸を使用して調製された可溶性スズ酸化物の溶解特性を有していた。
【0170】
(d)酢酸体が結合している可溶性スズ酸化物を改変して、リン酸体が結合している可溶性スズ酸化物を得る
例1のようにして、有機結合基として酢酸基を有している可溶性スズ酸化物2gを調製し、30cmのメタノールに溶解した。濃リン酸を室温でゆっくり添加し、得られた溶液を室温で10分間攪拌した。リン酸のモル量は、存在するスズのモル量の約100倍となるようにした。Rotovap(商標)によりメタノールを除去すると、無色の物質が残った。この物質の赤外スペクトルから、酢酸体およびリン酸体の両方の存在が確認されたが、遊離リン酸は確認されなかった。この物質の粉末X線回折からは、スズ酸化物のルチル構造が保持されていることが確認された。この物質は、メタノールに対して優れた溶解性(酢酸を使用して調製された可溶性スズ酸化物の溶解性と同等)を有しているが、さらに、水に対しても優れた溶解性を有していた。リン酸によって改変された物質を用いて、完全に安定な水溶液が得られた。
【0171】
(e)酢酸体が結合している可溶性スズ酸化物を改変して、フェニルホスホン酸体が結合している可溶性スズ酸化物を得る
例1のようにして、有機結合基として酢酸基を有している可溶性スズ酸化物2gを調製し、40cmのメタノールに溶解した。フェニルホスホン酸を10cmのメタノールに溶解し、これを可溶性スズ酸化物−メタノール溶液に10分間で滴下した(スズ:フェニルホスホン酸のモル比は10:1だった)。室温で30分間攪拌した後、Rotovap(商標)によりメタノールを除去した。残存した白色の固形物をアセトンで繰返し洗浄し、未反応のフェニルホスホン酸を除去した。洗浄した白色の物質の赤外スペクトルから、フェニルホスホン酸体および酢酸体の両方の存在が示され、未反応のフェニルホスホン酸は存在していないこともさらに確認された。粉末回折パターンからは、スズ酸化物のルチル構造が保持されていることが確認された。この形態の可溶性スズ酸化物は、メタノールに対して非常に優れた溶解性を有している。
【0172】
(f)酢酸体が結合している可溶性スズ酸化物を改変して、8−ヒドロキシキノリンが結合している可溶性スズ酸化物を得る
例1のようにして、有機結合基として酢酸基を有している可溶性スズ酸化物2gを調製し、100cmのメタノールに溶解した。固体の8−ヒドロキシキノリンを大過剰で添加し、明るい黄色の溶液を得た。室温で30分間攪拌した後、Rotovap(商標)によりメタノールを除去した。残存した黄色の固形物をジエチルエーテルで繰返し洗浄し、未反応の8−ヒドロキシキノリンを除去した。ジエチルエーテルは、未反応の8−ヒドロキシキノリンを含んでいた。洗浄した黄色の物質の赤外スペクトルから、結合された8−ヒドロキシキノリン及び酢酸体の両方の存在が示され、未反応の8−ヒドロキシキノリンは存在していないこともさらに確認された。粉末回折パターンからは、スズ酸化物のルチル構造が保持されていることが確認された。この形態の黄色の可溶性スズ酸化物は、メタノールに対して非常に優れた溶解性を有している。
【0173】
(g)酢酸体が結合している可溶性スズ酸化物を改変して、ポリエチレングリコール4000が結合している可溶性スズ酸化物を得る
例1のようにして、外部有機結合基として酢酸基を有している可溶性スズ酸化物0.75gを調製し、25cmのメタノールに溶解して、溶液を得た。可溶性スズ酸化物のメタノール溶液に、スズ/ポリエチレングリコールのモル比が1/1となるように、適当量の固体のポリエチレングリコールを加えた。溶液を2時間還流し、その後、溶媒をRotovapで除去した。油状の物質が得られ、この物質はメタノールに可溶であるのみならず、テトラヒドロフランに対しても優れた溶解性を有することが分かった。油状物質の赤外スペクトルから、ポリエチレングリコールがスズ酸化物の結晶子に結合されていることが確認された。少し驚くべきことに、テトラヒドロフラン中で可溶性スズ酸化物とポリエチレングリコールを反応させようとしても、テトラヒドロフランに可溶のスズ酸化物は生成しなかった。
【0174】
例9:可溶性混合金属(ドープされた)酸化物の形成
溶液中にある場合、可溶性のスズおよびチタンの酸化物は酸化還元反応において容易に金属粉末と反応し、酸化物の金属部分の酸化状態が還元され、酸化された金属からの金属イオンが取り込まれる。これは、溶解性を損なうことなく、容易に起こる。酸化還元反応に使用される金属粉末は、金属酸化物の金属と同一でもよく、異なる金属でもよい。
【0175】
a)0.7gのトリフルオロ酢酸処理後の可溶性チタン酸化物(すなわち、例7の方法により調製された)を、水素結合されたトリフルオロ酢酸の量を減らすために、200℃で2時間加熱した。続いて、酸化物を50cmのアセトンに溶解した。約1.0gのインジウム金属粉末を添加し、およそ2時間アセトンを還流した。この間、無色のチタン酸化物の溶液は、黄色、青緑色および最後に深い空色に変色した。この段階で、残存しているインジウムは、固体の光沢を有する塊となって、除去された。この溶液を空気に曝すと、青い色が急速に薄れていき、薄い黄色となった(ある程度、チタン酸化物表面に化学的に結合されたインジウムイオンが存在する結果である)。窒素雰囲気下で実験を行なった場合、溶液の青色は保持され、蒸留によって溶媒を除去した後、青みを帯びた緑色の固形物が単離された。この有色の酸化物は優れた溶解性を保持し、粉末回折パターンからは、チタン酸化物の構造が保持されていることが確認された。
【0176】
b)インジウムの代わりにスズ及び亜鉛の粉末を使用して(a)と同じ実験を行い、青みを帯びた緑色の溶液を形成した。これらの酸化還元反応から回収した有色の酸化物は溶解性を保持しており、チタン酸化物の構造も保持していた。
【0177】
c)0.75gの酢酸処理で得られた可溶性スズ酸化物の試料(例1の方法により調製された)を120℃で2時間加熱し、その後、それを60cmのメタノールに溶解した。約1.0gのインジウム金属粉末を添加し、2時間メタノールを還流温度にした。この間、無色のスズ酸化物の溶液は深い黄色となり、酸化物の格子中にインジウムイオンが存在していることが示された。過剰のインジウムを除去した後、rotovapでメタノールを除去すると、黄色の固形物が残った。この固形物は、溶解性および元のスズ酸化物のルチル構造を保持していた。
【0178】
d)スズ、アンチモン及び亜鉛の粉末を使用した(c)と同じ実験からも、黄色(スズ酸化物を金属スズと反応させて得られた生成物の場合は橙黄色)の固形物が得られた。この黄色のドープされたスズ酸化物は、溶解性および元のスズ酸化物のルチル構造を保持していた。
【0179】
e)マンガン及びコバルトの金属を使用した(c)と同じ実験からも、それぞれ、金茶色および深い紫色の溶液が得られ、これらからそれぞれ、深い褐色および紫色のスズ酸化物生成物を回収した。これらのドープされた混合金属酸化物の試料も、溶解性および元のスズ酸化物のルチル構造を保持していた。
【0180】
f)0.75gのトリフルオロ酢酸処理で得られた可溶性スズ酸化物を、50cmのテトラヒドロフランに溶解した。約1.0gのマンガン粉末を添加した後、2時間テトラヒドロフラン溶液を還流温度にした。還流温度に達する以前ですら、無色の溶液は茶橙色になり、2時間の還流後、色はかなり強まって濃い赤褐色の固形物を生じた。未反応のマンガンを除去するために濃い赤褐色の溶液を濾過した後、減圧下での固体の除去を行い、褐色の固形物を得た。褐色の固形物の粉末X線回折パターンから、それがスズ酸化物のルチル構造を有していることが確認された。ドープされた酸化物は、アセトン、テトラヒドロフラン及びメタノールに対する元の溶解性を保持しており、さらに、非常に良好な溶解性はジエチルエーテル及び酢酸エチルにまで広がった。
【0181】
例10:スズ、アンチモン及び鉄の混合鉱石からのスズの抽出
鉱石を無機酸に溶解して、スズ、アンチモン及び鉄の水溶性種を含む無機酸溶液を形成することによって、スズ、アンチモン及び鉄の水和酸化物の混合物を得た。溶液のpHを上昇させて、スズ、アンチモン及び鉄の水和酸化物を溶液中に形成し、スズ、アンチモン及び鉄の水和酸化物を溶液から沈殿させた。スズ、アンチモン及び鉄の水和酸化物の混合物を過剰の酢酸に添加し、混合物を3時間還流温度にした。その後、溶液を室温にまで冷却し、濾過した。これで、大部分の鉄酸化物と共に、水和アンチモン酸化物が完全に除去された。濾液を乾燥するまで濃縮して固形物を得、これをメタノールに溶解した。溶液は24時間以上放置した。この時点で赤色沈殿が生じ、溶液は無色であった。赤色の固形物を濾過により除去し、溶媒を除去して可溶性スズ酸化物を得た。
【0182】
例11:均一系触媒として作用する可溶性スズ酸化物:スズ酸化物はウレタン合成に触媒作用を及ぼした
フェニルイソシアネートとブタノールを反応させた後、フェニルイソシアネートの赤外スペクトルの2261cm−1のイソシアン酸体のvncoバンドの強度の減少を測定した(R.P.Houghton及びA.W.Mulvaney著、J.Organometal.Chem.誌、1996年刊、518巻、21頁を参照)。3つの個別のテトラヒドロフラン溶液A、B及びCを調製した。AとBは、等モル量のフェニルイソシアネート及びメタノールを含んでいた。加えて、Aは、例4のように調製された可溶性スズ酸化物を触媒量含んでいた。溶液Cは、イソシアネートと、例4のように調製された可溶性スズ酸化物を含んでいた。3つの溶液全てを1時間、40℃で加熱した。加熱の終了時点で、溶液B及びCでは、2261cm−1のvncoバンドの強度は減少しなかった。これに対して、溶液Aのスペクトルからは、このバンドは完全に消失しており(フラスコは、3つの成分を全て含んでいる)、従って、触媒作用によるウレタンの形成が実証された。
【0183】
明細書中において、語句「含む、含んだ、及び含んでいる」またはこの語句の全ての派生語、および語句「含有する、含有した、及び含有している」またはこの語句の全ての派生語は完全に交換できると考えられ、可能な限り広く解釈され、またその逆もある。
【0184】
本発明は、ここまでで記述した実施形態に限定されるものではなく、請求項の範囲内で、構成および詳細を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】図1は、可溶性金属酸化物を調製する方法の概略である。
【図2】図2は、可溶性金属酸化物の溶解性を改変する方法の概略である。
【図3】図3は、可溶性金属酸化物の溶解性を改変する他の方法の概略である。
【図4】図4は、可溶性混合金属酸化物を調製する方法の概略である。
【図5】図5は、スズ、アンチモン及び鉄の混合鉱石からスズを抽出する方法の概略である。
【図6】図6は、水和不溶性スズ酸化物(下段)および可溶性スズ酸化物(上段)の粉末回折パターンである。
【図7】図7は、200℃、400℃、600℃、800℃及び900℃の温度(下から上へ温度が高くなる)における、水和不溶性スズ酸化物(a)および可溶性スズ酸化物(b)の粉末回折パターンである。
【図8】図8は、水和不溶性スズ酸化物(b)および可溶性スズ酸化物(a)のサーモグラムである。
【図9】図9は、可溶性スズ酸化物の赤外スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各結晶粒子が複数の金属および酸素成分を含む、1つ以上の金属酸化物結晶粒子と;
少なくとも1つの金属成分に結合された内部有機結合基と;
少なくとも1つの内部有機結合基に結合された外部有機結合基と
を含む可溶性金属酸化物。
【請求項2】
各結晶粒子は少なくとも1つの水酸基をさらに含む請求項1記載の可溶性金属酸化物。
【請求項3】
各内部有機結合基は共有結合によって各金属成分に結合されており;
各外部有機結合基は水素結合によって各内部有機結合基に結合されている
請求項1または2記載の可溶性金属酸化物。
【請求項4】
一般式:[{[MO(OH)}X/Y]/(HO)
(式中、
Mは、金属成分を表し、
Oは、酸素成分を表し、
mは、金属成分(M)の酸化状態に依存する変数で、1から3までの範囲内であり、
nは、該結晶粒子中の金属酸化物の数を表し、
OHは、水酸基を表し、
Xは、内部有機結合基を表し、
Yは、外部有機結合基を表し、
Oは、水素結合した水を表し、
p、q、r及びsは、特に該結晶粒子中の金属酸化物の数(n)及び反応条件に依存する変数を表す。)
である請求項1〜3のいずれかに記載の可溶性金属酸化物。
【請求項5】
Xは、次の一般式
【化1】

(式中、
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。)
の内部有機結合基を表わす請求項4記載の可溶性金属酸化物。
【請求項6】
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである
請求項5記載の可溶性金属酸化物。
【請求項7】
Yは、次の一般式
【化2】

(式中、
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。)
の外部有機結合基を表わす請求項4〜6のいずれかに記載の可溶性金属酸化物。
【請求項8】
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである
請求項7記載の可溶性金属酸化物。
【請求項9】
各金属酸化物結晶粒子は、平均粒径が5から100Åのナノ結晶粒子である前記請求項のいずれかに記載の可溶性金属酸化物。
【請求項10】
前記金属成分は、スズとチタンのうちの1つを含む群から選ばれる前記請求項のいずれかに記載の可溶性金属酸化物。
【請求項11】
請求項1または2記載の可溶性金属酸化物を含み、
各結晶粒子は、各結晶粒子に結合された少なくとも1つの金属イオンをさらに含む可溶性混合金属酸化物。
【請求項12】
各内部有機結合基は、金属成分に、または金属成分および金属イオンの両方に結合されており;
各外部有機結合基は、金属イオンに、または内部有機結合基に、または金属イオンおよび内部有機結合基の両方に結合されており;
金属イオンは、酸素成分、水酸基、内部有機結合基および外部有機結合基の任意の組み合わせに結合されている
請求項11記載の可溶性混合金属酸化物。
【請求項13】
各内部有機結合基は、共有結合によって各金属成分に、共有結合または供与結合のいずれかによって各金属イオンに結合されており;
各外部有機結合基は、水素結合によって各内部有機結合基に、共有結合または供与結合のいずれかによって各金属イオンに結合されており;
各金属イオンは、共有結合によって各酸素成分に、供与結合または共有結合のいずれかによって各水酸基に、共有結合または供与結合のいずれかによって各内部有機結合基に、および共有結合または供与結合のいずれかによって各外部有機結合基に結合されている
請求項12記載の可溶性混合金属酸化物。
【請求項14】
一般式:[{[MO(OH)}M’]/(HO)
(式中、
Mは、金属成分を表し、
Oは、酸素成分を表し、
mは、金属成分(M)の酸化状態に依存する変数で、1から3までの範囲内であり、
nは、該結晶粒子中の金属酸化物の数を表し、
OHは、水酸基を表し、
M’は、金属イオンを表し、
Xは、内部有機結合基を表し、
Yは、外部有機結合基を表し、
Oは、水素結合した水を表し、
p、q、r及びsは、特に該結晶粒子中の金属酸化物の数(n)及び反応条件に依存する変数を表す。)
である請求項11〜13のいずれかに記載の可溶性混合金属酸化物。
【請求項15】
金属イオン(M’)は、四価スズ、二価スズ、四価チタン、二価チタン、インジウム、アンチモン、亜鉛、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、モリブデン、パラジウム、イリジウム及びマグネシウムを含む群から選ばれる請求項14記載の可溶性混合金属酸化物。
【請求項16】
Xは、次の一般式
【化3】

(式中、
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。)
の内部有機結合基を表わす請求項14または15記載の可溶性混合金属酸化物。
【請求項17】
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数40までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数40までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数40までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである
請求項16記載の可溶性混合金属酸化物。
【請求項18】
Yは、次の一般式
【化4】

(式中、
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。)
の外部有機結合基を表わす請求項14〜17のいずれかに記載の可溶性混合金属酸化物。
【請求項19】
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである
請求項18記載の可溶性混合金属酸化物。
【請求項20】
各結晶粒子は、平均粒径が5から100Åのナノ結晶粒子である請求項11〜19のいずれかに記載の可溶性混合金属酸化物。
【請求項21】
前記金属成分は、スズとチタンのうちの1つを含む群から選ばれる請求項11〜20のいずれかに記載の可溶性混合金属酸化物。
【請求項22】
任意量の不溶性水和金属酸化物を任意量の有機酸に添加して、金属酸化物懸濁液を提供する工程と;
懸濁液が溶液になるまで、この懸濁液を加熱する工程と
を有し;
加熱中に、溶液になるのに十分な量の有機酸に不溶性水和金属酸化物を添加する
金属酸化物溶液の調製方法。
【請求項23】
請求項22記載の方法により金属酸化物溶液を調製する工程と;
この溶液から有機酸を除去して、可溶性金属酸化物を提供する工程と
を有する可溶性金属酸化物の調製方法。
【請求項24】
前記酸は、ギ酸または次の一般式
【化5】

(式中、
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、有機基、含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである。)
である請求項22または23記載の方法。
【請求項25】
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンであり;
は、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20までの有機基、直鎖、枝分れ鎖または環状で炭素数20まで、ハロゲン原子数41までの含ハロゲン有機基、水素またはハロゲンである
請求項24記載の方法。
【請求項26】
請求項22記載の方法により金属酸化物溶液を調製する工程と;
この溶液に金属を添加する工程と;
この溶液を濾過する工程と
を有する混合金属酸化物溶液の調製方法。
【請求項27】
請求項26記載の方法により混合金属酸化物溶液を調製する工程と;
有機酸を除去して、可溶性混合金属酸化物を提供する工程と
を有する可溶性混合金属酸化物の調製方法。
【請求項28】
請求項23〜25のいずれかに記載の方法により可溶性金属酸化物を調製する工程と;
この金属酸化物を溶媒に溶解して、溶液を提供する工程と;
この溶液に金属を添加する工程と;
この溶液を濾過する工程と
を有する混合金属酸化物溶液の調製方法。
【請求項29】
請求項28記載の方法により混合金属酸化物溶液を調製する工程と;
溶媒を除去して、可溶性混合金属酸化物を提供する工程と
を有する可溶性混合金属酸化物の調製方法。
【請求項30】
前記溶液を濾過する前に;
この溶液を加熱する
請求項26〜29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記金属は粉末の状態で添加される
請求項26〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
対象とする有機溶媒を選択する工程と;
不溶性金属酸化物に結合した時に、その金属酸化物が対象とする溶媒に溶解できるようになる有機結合基を決定する工程と;
この有機結合基を提供するのに適した有機酸を選択する工程と;
この選択された有機酸を用いて、可溶性金属酸化物を調製する工程と
を有する、対象とする有機溶媒に溶解するのに適した可溶性金属酸化物の調製方法。
【請求項33】
請求項22記載の方法により調製される金属酸化物溶液。
【請求項34】
請求項1〜10のいずれかに記載の可溶性金属酸化物と、
テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、酢酸アミル、ピリジン、水、次の一般式を有するアルコール
【化6】

(式中、R、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=R=H、
=R=H;R=(CH)CH(n=0、1、2、3、4、5)、
=H;R=R=CH
=H;R=CH;R=CHCH
=R=R=CH)、
一般式R−O−Rを有するエーテル
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=CHCH
=CH;R=CHCH
=R=(CHCH)、
一般式RCORを有するケトン
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=(CHCH(n=0、1、2、3、4、5)、
=CH;R=CHCH
の1つ以上を含む溶媒と
を含む金属酸化物溶液。
【請求項35】
請求項26または28記載の方法により調製される混合金属酸化物溶液。
【請求項36】
請求項11〜21のいずれかに記載の可溶性混合金属酸化物と、
テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、酢酸アミル、ピリジン、水、次の一般式を有するアルコール
【化7】

(式中、R、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=R=H、
=R=H;R=(CH)CH(n=0、1、2、3、4、5)、
=H;R=R=CH
=H;R=CH;R=CHCH
=R=R=CH)、
一般式R−O−Rを有するエーテル
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=CHCH
=CH;R=CHCH
=R=(CHCH)、
一般式RCORを有するケトン
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=(CHCH(n=0、1、2、3、4、5)、
=CH;R=CHCH
の1つ以上を含む溶媒と
を含む混合金属酸化物溶液。
【請求項37】
請求項33または34記載の溶液から形成された金属酸化物膜。
【請求項38】
請求項35または36記載の溶液から形成された混合金属酸化物膜。
【請求項39】
請求項1〜10のいずれかに記載の可溶性金属酸化物の触媒としての使用。
【請求項40】
請求項33または34記載の金属酸化物溶液の触媒としての使用。
【請求項41】
請求項11〜21のいずれかに記載の可溶性混合金属酸化物の触媒としての使用。
【請求項42】
請求項35または36記載の混合金属酸化物溶液の触媒としての使用。
【請求項43】
300℃以下の温度まで可溶性金属酸化物を加熱して、不溶性金属酸化物を提供する工程と;
任意量の不溶性金属酸化物を任意量の有機酸に添加して、金属酸化物懸濁液を提供する工程と;
懸濁液が溶液になるまで、この金属酸化物懸濁液を加熱する工程と;
酸を除去して、改変された溶解性を有する可溶性金属酸化物を提供する工程と
を有し;
加熱中に、溶液になるのに十分な量の有機酸に不溶性水和金属酸化物を添加する
可溶性金属酸化物の溶解性を改変する方法。
【請求項44】
任意量の可溶性金属酸化物を過剰量の有機溶媒に添加して、金属酸化物溶液を生成する工程と;
この溶液に酸を滴下する工程と;
有機溶媒を除去して、改変された溶解性を有する可溶性金属酸化物を提供する工程と
を有する可溶性金属酸化物の溶解性を改変する方法。
【請求項45】
前記酸は、オルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、有機ホスホン酸類、有機ホスフィン酸類、有機アルソン酸類、有機アルシン酸類およびスルホン酸類の1つを含む群から選ばれる請求項44記載の可溶性金属酸化物の溶解性を改変する方法。
【請求項46】
前記酸が、8−ヒドロキシキノリン、ポリエチレングリコールまたは水素結合を形成することができる任意の非酸類の1つを含む群から選ばれる非酸類で置換されている請求項44記載の可溶性金属酸化物の溶解性を改変する方法。
【請求項47】
前記有機溶媒が、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、酢酸アミル、ピリジン、水、次の一般式を有するアルコール
【化8】

(式中、R、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=R=H、
=R=H;R=(CH)CH(n=0、1、2、3、4、5)、
=H;R=R=CH
=H;R=CH;R=CHCH
=R=R=CH)、
一般式R−O−Rを有するエーテル
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=CHCH
=CH;R=CHCH
=R=(CHCH)、
一般式RCORを有するケトン
(式中、R及びRは次のものの内の1つを表わす:
=R=(CHCH(n=0、1、2、3、4、5)、
=CH;R=CHCH
を含む群から選ばれる請求項44〜46のいずれかに記載の可溶性金属酸化物の溶解性を改変する方法。
【請求項48】
スズ、アンチモン及び鉄の混合鉱石からスズを抽出する方法であって、
鉱石を無機酸に溶解して、スズ、アンチモン及び鉄の水溶性種を含む無機酸溶液を生成する工程と;
この溶液のpHを上昇させて、スズ、アンチモン及び鉄の水和酸化物を溶液中に生成させ、スズ、アンチモン及び鉄の水和酸化物を溶液から沈殿させる工程と;
この水和酸化物に過剰量の有機酸を添加して、有機酸懸濁液を生成する工程と;
この懸濁液を加熱する工程と;
この懸濁液を濾過する工程と;
有機酸を除去して、鉄残分と共に可溶性スズ酸化物を提供する工程と
を有する方法。
【請求項49】
鉄残分と共に可溶性スズ酸化物を有機溶媒に溶解して、溶液を提供する工程と;
この可溶性スズ酸化物を溶液中に少なくとも24時間保持する工程と;
この溶液を濾過して、鉄残分を除去する工程と;
有機溶媒を除去して、可溶性スズ酸化物を提供する工程と
をさらに有する請求項48記載のスズ、アンチモン及び鉄の混合鉱石からスズを抽出する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−514632(P2007−514632A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540766(P2006−540766)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【国際出願番号】PCT/IE2004/000163
【国際公開番号】WO2005/049520
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(506170605)ナショナル ユニバーシティ オブ アイルランド、 ゴールウエイ (1)
【Fターム(参考)】