説明

可逆性感熱記録媒体

【課題】繰り返し記録特性、耐光性に優れた耐久性の高い可逆性感熱記録媒体を提供する。
【解決手段】支持基板1の面方向に、温度変化に応じて、無色・着色の二状態を可逆的に変化する感熱発色性組成物が樹脂中に含有されている可逆性感熱記録層31〜33が形成された構成の可逆性感熱記録媒体10において、感熱発色性組成物中に含有されるロイコ染料の化合物の、化学式についての特定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の画像や各種データを記録する可逆性感熱記録媒体に関わる。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境的な見地から、リライタブル記録技術の必要性が強く認識されている。
コンピューターのネットワーク技術、通信技術、OA機器、記録メディア、記憶メディア等の進歩を背景としてオフィスや家庭でのペーパーレス化が進んでいる。
【0003】
このような現状のもと、印刷物に替わる表示媒体の一例として、熱により情報の記録や消去が可能な記録媒体が、各種プリペイドカード、ポイントカード、クレジットカード、ICカード等の普及に伴い、残額やその他の記録情報等の可視化、可読化の用途において実用化されており、さらには複写機及びプリンター用途においても実用化されつつある。
【0004】
上記のような記録媒体、及びこれを用いた記録方法に関しては、従来においても各種提案がなされている。
例えば、ロイコ染料タイプ、すなわち樹脂母材中に呈色性化合物であるロイコ染料と、顕・減色剤とが分散された記録層を有する記録媒体、及びこれを用いた記録方法についての提案がなされており、これはロイコ染料自体の発色を利用するため、低分子分散タイプに比較してコントラスト、視認性が良好であるという利点を有している。
【0005】
上記の記録媒体を記録する方法としては、サーマルヘッドを用いて、記録媒体と接触させ、加熱することにより発色させる方法がある。
【0006】
また、上記のような発色原理を応用し、ロイコ染料を用いた複数の記録層を分離、独立した状態で積層形成した構成の感熱記録媒体を用いて、レーザー光を照射し光−熱変換により任意の記録層のみを加熱せしめ、発色させる技術に関する開示がなされている(例えば、特許文献1参照。)。
この方法によれば、光−熱変換材料を含有している層の波長選択性の効果により、任意の記録層のみを発色させることができるとされている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−1645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来公知の可逆性感熱記録媒体は、一般的に光に対する耐久性についての検討が不充分であり、特に記録用の発色材料と混合すると、経時的に分解し、徐々に機能が低下してしまい、多数回繰り返して記録と消去とを行うと、発・消色性が著しく劣化するという実用上の課題を有していた。これは感熱発色性組成物が、光を吸収することにより、化学的に分解してしまうという性質を有していることに起因している。
【0009】
また、感熱発色性組成物は、外部から層内に酸素が侵入すると、これと光とにより生成される活性酸素によって化学的に分解されてしまうという問題を有している。
かかる問題点に鑑みて、今後、一層の高密度記録化や小型薄層化が進められていくことからも、外部からの酸素の侵入を意図的に防止した設計を有する可逆性記録媒体の開発が望まれていた。
【0010】
そこで本発明においては、ロイコ染料に関して、耐光性に優れた化学構造に特定し、発色性が良好でコントラストに優れ、色かぶりが無く、実用上問題のない画像安定性を持ち、しかも繰り返して多数回発・消色を行った後においても、実用上充分な発色性を実現可能な可逆性記録媒体を提供することとした。
またさらに、記録層に外部からの酸素侵入を防ぐようにし、長期に亘って優れた発色再現性を維持可能とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明においては、支持基板の面方向に、温度変化に応じて、無色・着色の二状態を可逆的に変化する感熱発色性組成物が、樹脂中に含有されている可逆性感熱記録層が形成されており、感熱発色性組成物中に、下記式(1)、式(2)、式(3)により表されるロイコ染料の化合物のうちの、少なくとも一種が含有されている可逆性感熱記録媒体を提供する。
【0012】
【化4】

【0013】
但し、式中のQは炭素原子又は窒素原子を示す。
、R、R、Rは、直鎖の−Cn2n+1(n:4以下の自然数)を示す。
【0014】
【化5】

【0015】
但し、式中のP、Qは炭素原子又は窒素原子を示す。
、R、R,Rは、直鎖、又は分岐した−Cn2n+1(n:4以下の自然数)、又は環状の−(CH24、−(CH25のいずれかを示す。
【0016】
【化6】

【0017】
但し、式中のR、R10、R11は、直鎖、又は分岐した−Cn2n+1(n:5以下の自然数)、又は環状の−(CH24、−(CH25のいずれかを示す。
【0018】
また、上記可逆性感熱記録層の、上層側と下層側に前記酸素ガスバリア層が設け、この酸素ガスバリア層により、可逆性感熱記録層が挟み込まれた構成の可逆性感熱記録媒体を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ロイコ染料に関して、耐光性に優れた化学構造に特定し、これを感熱記録層中に含有させたことにより、光による分解が抑制され、発色性が良好でコントラストに優れ、色かぶりが無く、実用上問題のない画像安定性を持ち、しかも繰り返して多数回発・消色を行った後においても、実用上充分な発色性を実現可能な、経時的な安定性に優れた可逆性感熱記録媒体が得られた。
また、可逆性感熱記録層への酸素の侵入を抑制する酸素ガスバリア層を設けたことにより、層中における活性酸素の発生が防止でき、感熱発色性組成物の化学変化や経時的な機能の劣化が回避され、繰り返して発・消色の変換を行った場合においても、長期に亘って初期と同等の記録画質が維持できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の可逆性感熱記録媒体に関しての具体的な実施の形態を、図面を参照して説明するが、本発明は、以下に示す例に限定されるものではない。
なお以下においては、三層の可逆性感熱記録層が形成されている構成の可逆性感熱記録媒体を例に挙げて説明するが、本発明はこの例に限定されるものではなく、例えば単色や二色のみ、発色可能な構成のものでもよく、一以上の可逆性感熱記録層が形成されている構成のものであれば、いずれも本発明の範囲である。
【0021】
図1に本発明の一例としての可逆性感熱記録媒体の概略断面図を示す。
可逆性感熱記録媒体10は、支持基板1の面方向に、第1〜第3の光−熱変換層11〜13が中間層14〜16を介して第1〜第3の記録層17〜19と積層された構成の第1〜第3の可逆性感熱記録層31〜33が、酸素ガスバリア層21、21によって挟まれている構成を有している。
また、第1〜第3の可逆性感熱記録層31〜33の、それぞれの層間には、断熱層23、24が介在されてなり、最上層に保護層25が形成されている。
以下、各層について詳細に説明する。
【0022】
支持基板1は、耐熱性に優れ、かつ平面方向の寸法安定性の高い材料であれば従来公知の材料を適宜使用することができる。例えばポリエステル、硬質塩化ビニル等の高分子材料の他、ガラス材料、ステンレス等の金属材料、あるいは紙等の材料から適宜選択できる。
なお、支持基板1に、酸素ガス透過性の低い材料を選定することにより、支持基板1側からの酸素ガスの侵入を効果的に抑制できるようになる。
また、オーバーヘッドプロジェクター等の透過用途以外では、支持基板1は最終的に得られる可逆性記録媒体10に対して記録を行った際の視認性の向上を図るため、白色、あるいは金属色等の可視光に対する反射率の高い材料によって形成することが好ましい。
【0023】
第1〜第3の光−熱変換層11〜13は、それぞれ異なる波長域の光を吸収して発熱する光−熱変換材料、樹脂ポリマー、及び各種添加剤とからなる光−熱変換組成物により構成されている。レーザーにより記録を行う場合には、この光−熱変換層11〜13の波長選択機能を利用して、所望の発色を行うようにする。
【0024】
光−熱変換材料は、消去状態における発色を回避し、かつ色かぶりを防止して記録感度を向上させるため、可視波長域にほとんど吸収がなく、吸収帯の幅が狭い色素を主成分として適用するものとし、また、所定の溶剤を用いて樹脂バインダーに均一に溶解させた状態で適用するものとする。
【0025】
上記のような光−熱変換材料としては、可視波長域に吸収がない赤外線吸収色素として一般的に用いられる、フタロシアニン系染料やシアニン系染料、金属錯体染料、ジインモニウム系染料等を使用でき、中でもシアニン系色素が好適である。
シアニン色素は、可視域の吸収が少なく、近赤外域に鋭い吸収を持っている。構造により吸収極大波長が変化するので、記録に用いるレーザー波長に適したものを選択することができる。
【0026】
上記光−熱変換材料は、樹脂バインダー中に分散されているものとする。
この分散用樹脂バインダーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチルセルロース、ポリスチレン、スチレン系共重合体、フェノキシ樹脂、ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸エステル、アクリル酸系共重合体、マレイン酸系共重合体、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、デンプン等や、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等が挙げられる。
特に、酸素ガスの透過率が低い材料を選定することにより、光−熱変換材料の活性酸素による劣化を効果的に回避することができる。
【0027】
また、光−熱変換層11〜13には、必要に応じて紫外線吸収剤、一重項酸素失活剤等の各種添加剤を添加することが望ましい。
一重項酸素失活剤は、共役ポリエン、遷移金属錯体、ヒンダードアミン、アミン類、アミニウム塩、及びイミニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有するものとする。
これらの一重項酸素失活剤の添加量は、光−熱変換層を構成する光−熱変換材料に対して、重量比で0.05倍〜4倍程度とすることが好ましく、さらに0.1倍〜2倍とすることがより好ましい。
【0028】
第1〜第3の光−熱変換層11〜13の膜厚は、0.05〜10μm程度が好ましく、更に好ましくは0.1〜5μm程度とする。これらの膜厚が厚すぎると充分な発色濃度が得られず、逆に薄過ぎると光−熱変換材料である色素が充分に溶解しきれなくなるためである。
【0029】
第1〜第3の中間層14〜16は、従来公知の光透過性のポリマーを用いて形成する。
例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチルセルロース、ポリスチレン、スチレン系共重合体、フェノキシ樹脂、ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸エステル、アクリル酸系共重合体、マレイン酸系共重合体、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、デンプン等を適用でき、また、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂を用いて形成してもよい。
なお、第1〜第3の中間層14〜16形成用材料としては、酸素ガス透過率の低い材料を選定することが好ましく、例えば、ポリビニルアルコールを適用すると、酸素ガスの透過性を極めて低く抑制することができ、活性酸素の発生による光−熱変換材料の劣化を効果的に回避することができる。
また、第1〜第3の中間層14〜16には、必要に応じて紫外線吸収剤等の各種添加剤を含有させてもよい。
【0030】
中間層14〜16は、透光性の無機膜により形成してもよい。例えば、多孔質のシリカ、アルミナ、チタニア、カーボン、またはこれらの複合体等を適用すると熱伝導率の低減化が図られ好ましい。これらは、液層から膜形成できるゾル−ゲル法によって形成することができる。
【0031】
なお、中間層14〜16を構成する樹脂は、隣接する光−熱変換層11〜13や記録層17〜19を構成する樹脂と、互いに相溶しない材料を選定するものとし、これにより、互いに分離・独立した状態で存在させるようにすることが望ましい。
中間層14〜16は、膜厚0.05〜30μm程度とすることが好ましく、更に好ましくは0.1〜10μm程度とする。中間層14〜16が薄すぎると光−熱変換材料の劣化が著しくなり、逆に厚過ぎると熱伝導性が劣化するため充分な発色濃度が得られないためである。
【0032】
次に、第1〜第3の記録層17〜19について説明する。
第1〜第3の記録層17〜19は、熱状態を制御することによって安定した発・消色状態(着色状態と透明状態)とを形成し得る材料により形成するものとし、これにより繰り返して記録と消去を可能としたものである。
【0033】
第1〜第3の記録層17〜19は、少なくとも、電子供与性を有する呈色性化合物、すなわちロイコ染料と、所定の電子受容性を有する顕・減色剤よりなる感熱発色性組成物とが、所定の溶剤を用いて樹脂バインダーに均一に溶解された状態で形成されているものとする。
【0034】
呈色性化合物(ロイコ染料)は、それぞれの記録層において発色させる所望の色に応じた材料を適用するものとし、例えば第1〜第3の記録層17〜19において、三原色を発するようにすれば、この可逆性感熱記録媒体10全体としてフルカラー画像の形成が可能になる。
【0035】
本発明に用いるロイコ染料は、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物の少なくとも一種を含有しているものとする。
【0036】
【化7】

【0037】
但し、式中のQは炭素原子又は窒素原子を示す。
、R、R、Rは、直鎖の−Cn2n+1(n:4以下の自然数)を示す。
【0038】
【化8】

【0039】
但し、式中のP、Qは炭素原子又は窒素原子を示す。
、R、R、Rは直鎖、又は分岐した−Cn2n+1(n:4以下の自然数)、又は環状の−(CH24、−(CH25を示す。
【0040】
【化9】

【0041】
但し、式中のR、R10、R11は、直鎖、又は分岐した−Cn2n+1(n:5以下の自然数)、又は環状の−(CH24、−(CH25を示す。
【0042】
ロイコ染料は、光を吸収すると劣化が起こり、長鎖アルキル基や、アミノ基と結合した長鎖アルキル基が脱離してしまう。このような問題を回避するためには、ロイコ染料を構成する化合物の、すなわち上記式(1)、(2)中のアルキル基の炭素数を4以下とし、上記式(3)中のアルキル基の炭素数を5以下に特定し、脱離を抑制することが必要であることを見出した。
本発明において特定するロイコ染料の好適な例としては、下記の式(4)〜(12)により表されるものが挙げられる。
【0043】
【化10】

【0044】
【化11】

【0045】
【化12】

【0046】
【化13】

【0047】
【化14】

【0048】
【化15】

【0049】
【化16】

【0050】
【化17】

【0051】
【化18】

【0052】
第1〜第3の記録層17〜19を構成する顕・減色剤については、従来これらに用いられている長鎖アルキル基を有する有機酸(特開平5−124360号公報、特開平7−108761号公報、特開平7−188294号公報、特開2001−105733号公報、特開2001−113829号公報等に記載)を適用することができる。
【0053】
第1〜第3の記録層17〜19を形成する樹脂バインダーとしては、例えばポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、セルロース変性体、アセタール樹脂、ブチラール樹脂、ポリスチレン、スチレン系共重合体、フェノキシ樹脂、ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、アクリル酸系共重合体、マレイン酸系重合体、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン等が挙げられる。
なお、第1〜第3の記録層17〜19形成用樹脂バインダーとしては、酸素ガスの透過性が極めて低い材料を選定することが好ましい。これにより、層中における活性酸素の発生が抑制され、呈色性化合物の劣化を効果的に防止することができる。
【0054】
第1〜第3の記録層17〜19は、上記ロイコ染料、顕・減色剤、及び各種添加剤を、溶媒を用いて上記樹脂バインダー中に溶解あるいは分散させて塗料を調製し、これを所定の形成面に塗布することによって成膜することができる。
第1〜第3の記録層17〜19は、膜厚1〜50μm程度に形成することが望ましく、さらには2〜20μm程度の膜厚とすることが好ましい。記録層17〜19の膜厚が薄すぎると充分な発色濃度が得られず、一方において厚過ぎると層の熱容量が大きくなりすぎ、発色性や消色性が劣化したり、あるいは熱伝導性が劣化したり、透光性が低下したりするためである。
【0055】
次に、酸素ガスバリア層21、22について説明する。
酸素ガスバリア層21、22は、外部からの、可逆性感熱記録層31〜33への酸素侵入を防ぐ機能を有している。
本発明の可逆性感熱記録媒体10においては、少なくとも一層以上の酸素ガスバリア層を有していることが好ましく、特に、光−熱変換層11〜13に外部から酸素が侵入することを効果的に防止するように、図1に示すように、可逆性感熱記録層31〜33の支持基板1側と保護層25側の双方から、すなわち上層と下層の双方から挟み込む構成とすることが好ましい。
【0056】
酸素ガスバリア層21、22の酸素ガスバリア機能については、例えば膜厚20μmのサンプルを用いて、20℃、60%RHの条件下で測定したとき、酸素ガス透過度が、20ml/m2.24Hrs・atm以下となるように選定することが望ましい。
上記のような酸素ガスバリア機能を有する樹脂としては、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体(0.2ml/m2.24Hrs・atm)、ポリビニルアルコール(0.2ml/m2.24Hrs・atm)、変性ポリビニルアルコール(0.2ml/m2.24Hrs・atm)、ポリ塩化ビニリデン(3ml/m2.24Hrs・atm)、ポリアクリロニトリル(15ml/m2.24Hrs・atm)等が挙げられる。
また、ポリエステル、ポリアミドについては、薄膜にすると酸素ガス透過率が上記数値よりも高くなるが、支持基板1として適用し、充分な機械的強度を確保できる膜厚とすれば、充分な酸素ガスバリア機能も発揮し得る。
【0057】
酸素ガスバリア層21、22は、多孔質のシリカ、アルミナ、チタニア、カーボン、マイカ、クレイ、カオリン、炭酸カルシウム等の、無機物を配合した樹脂フィルムを用いてもよい。
また、酸素ガスバリア層21、22は、透光性の無機材料を蒸着により成膜したものとしてもよい。透光性の無機材料としては、例えば、シリカ、アルミナ等が挙げられる。蒸着する方法としては、PVD法やCVD法が好適である。
なお、酸素ガスバリア層21、22には、必要に応じて一重項酸素失活剤や紫外線吸収剤等の各種添加剤を併用してもよい。
【0058】
酸素ガスバリア層21、22は、膜厚0.01〜50μm程度に形成することが望ましく、さらには0.1〜20μm程度の膜厚とすることが好ましい。これらの膜厚が薄すぎると充分な酸素ガスバリア性が得られず、逆に厚過ぎると熱伝導性が劣化するためである。
【0059】
第1の可逆性感熱記録層31と、第2の可逆性感熱記録層32との間、及び第2の可逆性感熱記録層32と第3の可逆性感熱記録層33との間には、照射する近赤外光に対して透光性の断熱層23、24を形成することが望ましい。
これによって、記録時における隣接する可逆性感熱記録層への熱伝導を回避でき、いわゆる色かぶりを防止できる。
【0060】
断熱層23、24は、従来公知の透光性の樹脂材料を用いて形成することができる。例えばポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチルセルロース、ポリスチレン、スチレン系共重合体、フェノキシ樹脂、ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、アクリル酸系共重合体、マレイン酸系重合体、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン等が挙げられる。
また、断熱層は、酸素ガスの透過性を極めて低い材料により形成することが好ましい。これにより、活性酸素の発生を回避でき、隣接層中の呈色性化合物の劣化を効果的に防止することができる。
断熱層23、24には、必要に応じて紫外線吸収剤等の各種添加剤を含有させることが好ましい。
また、断熱層23、24は、透光性の無機膜により形成してもよい。例えば、多孔質のシリカ、アルミナ、チタニア、カーボン、またはこれらの複合体等を適用すると熱伝導率の低減化が図られる。これらは液層から膜形成するゾル−ゲル法によって成膜することができる。
【0061】
断熱層23、24は、膜厚2〜100μm程度に形成することが望ましく、さらには40〜50μm程度とすることが好ましい。断熱層が薄すぎると充分な断熱効果が得られず、膜厚が厚すぎると、後述する記録方法において記録媒体全体を均一加熱する際に熱伝導性が劣化したり、透光性が低下したりするためである。
【0062】
次に、保護層25について説明する。
保護層25は、従来公知の紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂を用いて形成することができる。また、酸素ガスの透過性を極めて低い材料を適用すると、いわゆる酸素ガスバリア性が発揮され、活性酸素の発生による、光−熱変換材料の劣化を効果的に回避することができる。膜厚は0.5〜50μm程度とすることが望ましい。
保護層25の膜厚が薄すぎると充分な保護効果が得られず、厚すぎると後述する記録媒体全体を均一加熱する際に熱伝導性が劣化したり、透光性が低下したりする。
【0063】
次に、本発明の可逆性感熱記録媒体に対し、レーザーを用いて記録を行う方法について説明する。
なお、以下においては、図1に示した三層の可逆性感熱記録層31〜33が形成されている構成の可逆性感熱記録媒体10を用いて記録、及びその消去を行う方法について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、一層以上の可逆性感熱記録層が形成されている、単色や二色のみ発色可能な構成の可逆性記録媒体も同様に適用できる。
【0064】
先ず、各記録層17〜19が消色する程度の温度、例えば120℃程度の温度で全面加熱し、記録層17〜19を予め消色状態にしておく。すなわちこの状態においては、支持基板1の色が露出している状態となっている。次に、所望の部分に、波長及び出力を任意に選択した赤外線を半導体レーザー等により照射する。
【0065】
例えば第1の記録層17を発色させる場合には、第1の光−熱変換層11に含有されている光−熱変換材料の吸収ピーク波長(λmax1)付近の赤外線を、第1の記録層17が発色温度に達する程度のエネルギーで第1の光−熱変換層11に照射して発熱させ、電子供与性呈色化合物と電子受容性顕・減色剤との間の発色反応を起こさせ、照射部分を発色させる。
【0066】
同様に、第2の記録層18及び第3の記録層19についても、それぞれ、第2、及び第3の光−熱変換層12、13に含有されている光−熱変換材料の吸収ピーク波長(波長λmax2、λmax3)付近のレーザー光を、対応する記録層が発色温度に達する程度のエネルギーで第2、第3の光−熱変換層に照射して発熱させ、照射部分を発色させる。
このようにして可逆性感熱記録媒体10の任意の部分を、所望の色相に発色させることができる。このとき、発振波長帯が異なるレーザー光源を、光−熱変換材料を含む記録層の数と同数使用することにより、すべての色相の記録が可能となる。
【0067】
またさらに、可逆性感熱記録媒体10の同位置に、複数の波長のレーザー光を照射することにより、対応する発色色相の混合色が得られる。このとき、照射するレーザー光のエネルギーを調整することにより、混合色の色調についても表示可能となる。すなわち各記録層において、それぞれイエロー、シアン、マゼンダに発色するように設定すれば、上記の方法を採ることにより、可逆性感熱記録媒体10の任意の部分にフルカラーの画像や種々の情報を記録することができる。
【0068】
また、上記のようにして発色させた記録層において、第1〜第3の記録層17〜19が消色する程度の温度、例えば120℃に一様に加熱することにより、記録情報や画像を消去することができ、繰り返し記録を行うことができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明について、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明する。
先ず、下記表1中に示す樹脂、溶媒、及び光−熱変換材料を組み合わせて塗料1、2を調製した。
また、下記表2中に示すロイコ染料、顕・減色剤、樹脂、溶媒を適宜組み合わせて混合し、ペイントコンディショナーで0.3μm以下となるまで粉砕し、塗料3〜8を調製した。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
上記表2中に示した、式(13)〜(15)のロイコ染料に対応する化学式を下記に示す。
【0073】
【化19】

【0074】
【化20】

【0075】
【化21】

【0076】
上記表2中に示した、式(16)の顕・減色剤に対応する化学式を下記に示す。
【0077】
【化22】

【0078】
上記表1中に示した、式(17)の光−熱変換材料(近赤外吸収色素)に対応する化学式を下記に示す。
なお、式中のMeはメチル基を表す。
【0079】
【化23】

【0080】
次に、下記表3に示すように、上記表1、表2に示した各塗料のうち、所定のものを選定して、厚さ500μmの白色ポリエチレンテレフタレート支持基板上に塗布して成膜し、実施例1〜4、比較例1〜4の可逆性感熱記録媒体を作製した。
各層は、塗料をワイヤーバーによって塗布し、乾燥させることにより成膜した。
【0081】
【表3】

【0082】
続いて、上述のようにして作製した表3の実施例1〜4、及び比較例1〜4のサンプルについて、それぞれの光学特性を評価した。
【0083】
〔光学特性の評価方法〕
先ず、上述のようにして作製した各サンプルにおける、地肌の反射濃度(O.D.)を、マクベス濃度計によって測定した。
続いて、サンプルを構成する各記録層に対し、記録に用いるレーザー光の波長における記録層単独の吸光度を測定し、また分光光度計で吸収曲線を測定した。その結果、すべての記録層の、記録用レーザー光波長における記録層単独での吸光度は、1.0〜1.1程度であることが確かめられた。
【0084】
〔酸素ガス透過度に対する光−熱変換材料の保存性評価〕
実施例1、2、及び比較例1、2のサンプルについて、酸素透過度を測定した。
(酸素ガス透過度の測定)
酸素透過度は、差圧式ガス透過率計で測定した。測定結果を下記表4に示す。
なお、この酸素ガス透過度の測定においては、支持基板として厚さ60μmのPEフィルム(酸素透過度2000ml/m2.24Hrs・atm.20℃.60%RH)を用い、この支持基板の上に、膜形成したものを測定用試料として適用した。
【0085】
【表4】

【0086】
上記表4に示すように、酸素ガスバリア層を有している実施例2、及び比較例2においては、酸素ガスバリア層を有していない実施例1、及び比較例1に比べ、酸素ガス透過度が極めて低いことが確かめられた。
【0087】
〔レーザー記録評価〕
上述したようにして作製した実施例1〜4、及び比較例1〜4のサンプルを用いて、以下の条件で半導体レーザーの照射を行い、記録線幅、及びベタ画像記録の反射濃度についての評価を行った。
(検証1)
先ず、初期状態においての地肌の反射濃度(O.D.)を測定し、さらにレーザー光を照射して記録を行ったときの反射濃度を測定した。
なお、この場合、所定の発振中心波長を有する半導体レーザー光を、スポット形状30μm×200μm、出力450mWの条件で、照射しながら走査させた。走査の条件は、スポット形状200μmの軸の方向に、速度5.4m/s、走査間隔15μmとし、記録されたベタ画像の反射濃度をマクベス濃度計により評価した。
(検証2)
耐光性試験機を用いて、光源を白色蛍光灯とし、強度を500000lxとし、8時間の条件で光照射を行い、保存試験を行った後に、地肌の反射濃度(O.D.)を測定し、さらにその後レーザー光を照射して記録を行い、この反射濃度を測定した。記録条件は上記と同様とする。
(検証3)
次に、上記検証1の記録後のサンプルを用いて、120℃のホットスタンプを1秒押し当て画像を消去した。
上記記録及び消去の作業を100回繰り返し、100回目の記録を行ったときのベタ画像と、100回目に消去を行ったときの反射濃度をマクベス濃度計により評価した。
【0088】
〔評価結果〕
下記表5に、実施例1〜4、及び比較例1〜4のサンプルの、上記(検証1)に示した初期のレーザー記録の評価結果(地肌の反射濃度、及び記録画像の反射濃度)を示す。
下記表6に、実施例1〜4、及び比較例1〜4のサンプルの、上記(検証2)に示した光照射保存試験後の、レーザー記録の評価結果(地肌の反射濃度、及び記録画像の反射濃度)を示す。
下記表7に、実施例1〜4、及び比較例1〜4のサンプルの、上記(検証3)に示した記録と消去の作業を100回繰り返し、100回目の記録を行ったときのベタ画像と、100回目に消去を行ったときの反射濃度の測定結果を示す。
【0089】
【表5】

【0090】
【表6】

【0091】
【表7】

【0092】
上記表5に示すように、実施例1〜4においては、発振中心波長が800nmのレーザー光を用いて記録を行ったとき、良好な発色が得られ、色かぶりも生じなかった。
また、レーザー光で記録を行った後、120℃のホットスタンプを1秒間接触させることにより、すべての画像を消去することができ、消去後の透明性が良好であった。
【0093】
上記表6に示すように、実施例1〜4においては、光照射試験(保存試験)後においても、実用上充分な発色が得られ、色かぶりも生じなかった。
特に、実施例2〜4においては、可逆性感熱記録層の上層側と下層側に酸素ガスバリア層を形成して、これによって挟み込んだ構成としたため、外部からの酸素ガスの侵入と活性酸素の生成を効果的に防止できたので、酸素ガスバリア層を形成しなかった実施例1よりも、光照射試験(保存試験)後における発色状態が明瞭であることが確かめられた。
【0094】
また、上記表7に示すように、実施例1〜4においては、100回記録と消去とを繰り返した後も、良好な発色が得られ、色かぶりも生じなかった。また、120℃のホットスタンプを1秒間接触させたときの消え残り反射濃度が非常に小さく、ほぼすべての画像を消去することができた。
【0095】
一方、比較例1〜4においては、上記表5と上記表6の結果を比較すると明らかなように、光照射試験(保存試験)後において、発色性及びコントラストが著しく劣化した。
これは、比較例1〜4のサンプルにおいては、ロイコ染料として、本発明において特定した化学構造のものを適用しなかったため、長時間光照射を行ったことによりロイコ染料が分解してしまったためである。
特に、比較例1においては、可逆性感熱記録層の上層側と下層側から、酸素ガスバリア層によって遮蔽しなかったため、外部から酸素ガスが侵入し、活性酸素が生成してしまい、ロイコ染料が分解し、発色性が著しく劣化した。また、地肌の反射濃度も大きくなり、コントラストが低下した。
【0096】
また、上記表7に示すように、比較例1〜4においては、100回記録と消去とを繰り返した後においても、実用上充分な発色、及びコントラストが得られなかった。さらには、120℃のホットスタンプで1秒間接触させて消去を行った場合においては、消え残りがあり、全ての画像を充分に消去することができなかった。
これは、ロイコ染料として、本発明において特定した化学構造のものを適用しなかったため、記録と消去とを繰り返し行うと、光によりロイコ染料が分解してしまい、機能が著しく低下したためである。
特に、比較例1においては、可逆性感熱記録層の上層側と下層側から、酸素ガスバリア層によって遮蔽しなかったため、外部から酸素ガスが侵入し、活性酸素が生成してしまい、ロイコ染料の分解が進み、発色性が著しく劣化した。また、地肌の反射濃度も大きくなり、コントラストが低下した。
【0097】
上述した結果から明らかなように、本発明によれば、感熱発色性組成物を構成するロイコ染料の化学式を具体的に特定したことにより、従来にない耐光性の高いロイコ染料が得られ、これにより、長時間光照射を行ったり、繰り返して発・消色の変換を行ったりした場合においても、初期と同等の記録画質を実現することができた。
【0098】
さらに、可逆性感熱記録層の、上層側と下層側に酸素ガスバリア層が設けたことにより、層中への酸素ガスの侵入、及び活性酸素の生成を効果的に抑制することができ、繰り返して発・消色の変換を行った場合においても、初期と同等の記録画質が維持できた。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の可逆性感熱記録媒体の一例の概略断面図を示す。
【符号の説明】
【0100】
1……支持基板、10……可逆性感熱記録媒体、11……第1の光−熱変換層、12……第2の光−熱変換層、13……第3の光−熱変換層、14,15,16……中間層、17……第1の記録層、18……第2の記録層、19……第3の記録層、31……第1の可逆性感熱記録層、32……第2の可逆性感熱記録層、33……第3の可逆性感熱記録層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板の面方向に、
温度変化に応じて、無色・着色の二状態を可逆的に変化する感熱発色性組成物が、樹脂中に含有されている可逆性感熱記録層が形成されており、
前記感熱発色性組成物中に、下記式(1)、式(2)、式(3)により表されるロイコ染料の化合物のうちの、少なくとも一種が含有されていることを特徴とする可逆性感熱記録媒体。
【化1】


但し、式中のQは炭素原子又は窒素原子を示す。
、R、R,Rは、直鎖の−Cn2n+1(n:4以下の自然数)を示す。
【化2】


但し、式中のP、Qは炭素原子又は窒素原子を示す。
、R、R,Rは、直鎖、又は分岐した−Cn2n+1(n:4以下の自然数)、又は環状の−(CH24、−(CH25のいずれかを示す。
【化3】


但し、式中のR、R10、R11は、直鎖、又は分岐した−Cn2n+1(n:5以下の自然数)、又は環状の−(CH24、−(CH25のいずれかを示す。
【請求項2】
前記可逆性感熱記録層の、上層側と下層側に、酸素ガスの侵入を防ぐ機能を有する酸素ガスバリア層が設けられており、
前記酸素ガスバリア層により、前記可逆性感熱記録層が挟み込まれてなる構成を有していることを特徴とする請求項1に記載の可逆性感熱記録媒体。
【請求項3】
前記酸素ガスバリア層は、膜厚20μm、20℃、相対湿度60%RHの条件下において、酸素透過度が、20ml/m2.24Hrs・atm以下であることを特徴とする請求項2に記載の可逆性感熱記録媒体。
【請求項4】
支持基板の面方向に、二以上の前記可逆性感熱記録層が、それぞれ分離・積層形成されてなり、
前記二以上の可逆性感熱記録層は、それぞれ異なる色調に発色する感熱発色性組成物が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の可逆性感熱記録媒体。
【請求項5】
支持基板の面方向に、二以上の前記可逆性感熱記録層が、それぞれ分離・積層形成されてなり、
前記二以上の可逆性感熱記録層の、それぞれの層間に、前記酸素ガスバリア層を備えていることを特徴とする請求項2に記載の可逆性感熱記録媒体。





【図1】
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【公開番号】特開2006−88645(P2006−88645A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279714(P2004−279714)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】