説明

可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物及びそれを内蔵したボールペン

【課題】 着色剤として可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を適用する剪断減粘性付与剤を用いた水性インキであっても、マイクロカプセル顔料の分散安定性に優れ、良好な筆跡を初期から長期的に形成できる可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物とそれを内蔵したボールペンを提供する。
【解決手段】 (イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする反応媒体とからなる可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させたマイクロカプセル顔料と、水と、多糖類と、ベントナイトを含有する可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物。前記可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物を内蔵したボールペン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物とそれを内蔵したボールペンに関する。更には、マイクロカプセル顔料の凝集や沈降を生じることのない可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物とそれを内蔵したボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キサンタンガムやウェランガム等の剪断減粘性付与剤を含む水性ボールペン用インキ組成物が広く用いられている。
この種のインキは、剪断応力が加わらない静置時には高粘度であり、機構内において安定的に保持されており、筆記時にあっては高速回転するボールによる高剪断力によってボール近傍のインキが低粘度化し、その結果、インキはボールとボール収容部の間隙から吐出して紙面に転写されるものである。前記紙面に転写されたインキは剪断力から解放されるため再び高粘度状態となり、従来の水性インキ組成物の欠点である筆跡の滲みを発生させない利点を有するものである。
しかしながら、前記剪断減粘性付与剤を用いたインキは長期間の経時によってインキの粘度が低下することがあるため、特に着色剤として顔料を適用した場合には、顔料がインキ中で凝集や沈降を生じて筆跡濃度の低下やインキ分離等の不具合が発生することがある。
【0003】
そこで、ノニオン性合成樹脂や非架橋型ポリアクリル酸を添加して、前記顔料の分散安定性を向上させる提案がなされている(例えば、特許文献1、2参照)。
前記樹脂等を添加することで、一般顔料においては凝集や沈降が抑制されるため、分散安定性を維持できるものの、マイクロカプセル顔料のような粒子径が大きな顔料や、カプセル内に可逆熱変色性組成物を内包した比重が大きい可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を用いた場合には、分散安定性を得るために多量の添加を要し、必要以上にインキ粘度を増加させてしまうため、初期的に線割れやカスレ等の筆記不良を生じるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−211052号公報
【特許文献2】特開2004−59877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、着色剤として可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を適用する剪断減粘性付与剤を用いた水性インキであっても、マイクロカプセル顔料の分散安定性に優れ、良好な筆跡を初期から長期的に形成できる可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物とそれを内蔵したボールペンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする反応媒体とからなる可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させたマイクロカプセル顔料と、水と、多糖類と、ベントナイトを含有する可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物を要件とする。
更に、前記ベントナイトの膨潤力が10mL/2g以上であること、前記ベントナイトが交換性陽イオンをナトリウムイオンとするNa型ベントナイトであること、前記マイクロカプセル顔料の比重と、マイクロカプセル顔料と多糖類とベントナイトを含まない組成物の比重との差が±0.08より大きいこと、前記多糖類がキサンタンガムであること、前記多糖類がインキ組成物全量中0.1〜0.5質量%含有されてなり、且つ、多糖類とベントナイトの質量比率が1:0.2〜1:1.5であることを要件とする。
更には、前記いずれかに記載の可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物を内蔵したボールペンを要件とし、前記ボールペンが摩擦部材を備えてなること、前記ボールペンが0.15〜0.5mmのボールを筆記先端部に備えることを要件とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、着色剤として可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料を適用するとともに剪断減粘性付与剤を用いた水性インキであっても、マイクロカプセル顔料の分散性を長期に亘って維持できるため、それに伴うインキ安定性に優れた可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物となる。そのため、前記インキをボールペンに用いた際、良好な筆跡を初期から長期的に安定して形成できる可逆熱変色性水性ボールペンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の変色挙動を示す説明図である。
【図2】色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料の変色挙動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水性インキ組成物は、水媒体中に可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と剪断減粘性付与剤(多糖類)を含むと共に、無機粘土鉱物であるベントナイトを含むものである。
前記ベントナイトは無機粘土鉱物の一種であるモンモリロナイトを主成分とする粘土である。
前記モンモリロナイトは、薄板状結晶が複数枚積み重なった層状構造を形成しており、各結晶を構成する金属イオン(3価のアルミニウム、2価のマグネシウムや鉄等)の違いによって電荷的な歪みが生じ、各結晶で電荷が不足するため、結晶層面にマイナスの永久層電荷を帯びている。前記電荷を補償するために結晶層間にはアルカリ金属やアルカリ土類金属の陽イオン(交換性陽イオンという)が吸着され、安定な構造を維持している。本発明に適用されるベントナイトでは、前記交換性陽イオンとしてNa、K、Mg2+、Ca2+のいずれを含むものであっても適用できるが、Naイオンが主であるNa型ベントナイトやCa2+イオンが主であるCa型ベントナイトが好適であり、特に水媒体中での膨潤性及び分散性が高く、マイクロカプセル顔料をより安定した状態で分散できることからNa型ベントナイトが好適である。
【0010】
また、前記ベントナイトの膨潤力としては10mL/2g以上のものがより好適である。
前記膨潤力とは、結晶層間に水や有機溶剤を取り込んで膨らむ力を表すものであり、本発明においては10〜100mL/2gの範囲のものが適用される。膨潤力が10mL/2gより小さいと十分な増粘作用が得られ難く、比重の大きなマイクロカプセル顔料を用いた場合には長期的な分散安定性を維持し難いものとなる。
尚、前記膨潤力は、日本ベントナイト工業会標準試験方法〔ベントナイトの膨潤試験方法(JBAS−104−77)〕に準じて測定することで得られる値である。
【0011】
着色剤として用いられるマイクロカプセル顔料は、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が用いられる。
前記マイクロカプセル顔料としては、特公昭51−44706号公報、特公昭51−44707号公報、特公平1−29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1〜7℃)を有する加熱消色型の可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料を適用できる(図1参照)。
【0012】
また、特開2006−137886号公報、特開2006−188660号公報、特開2008−45062号公報、特開2008−280523号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度(t)以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度(t)以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t〜tの間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包させたマイクロカプセル顔料を用いることもできる(図2参照)。
【0013】
前記色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包させたマイクロカプセル顔料の色濃度−温度曲線におけるヒステリシス特性について説明する。
図1において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全消色状態に達する温度t(以下、完全消色温度と称す)における濃度を示す点であり、Bは消色を開始する温度t(以下、消色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Cは発色を開始する温度t(以下、発色開始温度と称す)における濃度を示す点であり、Dは完全発色状態に達する温度t(以下、完全発色温度と称す)における濃度を示す点である。
変色温度域は前記tとt間の温度域であり、着色状態と消色状態の両状態が共存でき、色濃度の差の大きい領域であるtとtの間の温度域が実質変色温度域である。
また、線分EFの長さが変色のコントラストを示す尺度であり、線分EFの中点を通る線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ヒステリシス幅ΔHと記す)であり、このΔH値が小さいと変色前後の両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在しえない。また、前記ΔH値が大きいと変色前後の各状態の保持が容易となる。
【0014】
前記完全消色温度tは、摩擦部材と被筆記面との擦過によって生じる摩擦熱より消色する温度、即ち、50℃〜90℃、好ましくは55〜85℃、より好ましくは60〜80℃の範囲にあり、前記完全発色温度tは冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち0℃以下、好ましくは−50〜−5℃、より好ましくは−50〜−10℃の範囲にあることが好適である。
【0015】
以下に前記(イ)、(ロ)、(ハ)の各成分について化合物を例示する。
本発明の(イ)成分、即ち電子供与性呈色性有機化合物としては、ジフェニルメタンフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリノキノリン類、ジアザローダミンラクトン類等を挙げることができ、以下にこれらの化合物を例示する。
3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、
3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、
3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、
3,3−ビス(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−4−アザフタリド、
3−〔2−エトキシ−4−(N−エチルアニリノ)フェニル〕−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、
3,6−ジフェニルアミノフルオラン、
3,6−ジメトキシフルオラン、
3,6−ジ−n−ブトキシフルオラン、
2−メチル−6−(N−エチル−N−p−トリルアミノ)フルオラン、
3−クロロ−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、
2−メチル−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、
2−(2−クロロアニリノ)−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、
2−(3−トリフルオロメチルアニリノ)−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−(N−メチルアニリノ)−6−(N−エチル−N−p−トリルアミノ)フルオラン、
1,3−ジメチル−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−クロロ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−アニリノ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、
2−アニリノ−3−メチル−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン、
2−キシリジノ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、
1,2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン、
1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソブチルアミノ)フルオラン、
1,2−ベンツ−6−(N−エチル−N−イソアミルアミノ)フルオラン、
2−(3−メトキシ−4−ドデコキシスチリル)キノリン、
スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−d)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3′−オン、
2−(ジエチルアミノ)−8−(ジエチルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、
2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジ−n−ブチルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、
2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(ジエチルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、
2−(ジ−n−ブチルアミノ)−8−(N−エチル−N−i−アミルアミノ)−4−メチル−スピロ〔5H−(1)ベンゾピラノ(2,3−g)ピリミジン−5,1′(3′H)イソベンゾフラン〕−3−オン、
3−(2−メトキシ−4−ジメチルアミノフェニル)−3−(1−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、
3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、
3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−ペンチル−2−メチルインドール−3−イル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド、
3´,6´−ビス〔フェニル(2−メチルフェニル)アミノ〕−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9´−〔9H〕キサンテン]−3−オン、
3´,6´−ビス〔フェニル(3−メチルフェニル)アミノ〕−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9´−〔9H〕キサンテン]−3−オン、
3´,6´−ビス〔フェニル(3−エチルフェニル)アミノ〕−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9´−〔9H〕キサンテン]−3−オン等を挙げることができる。
更には、蛍光性の黄色乃至赤色の発色を発現させるのに有効な、ピリジン系、キナゾリン系、ビスキナゾリン系化合物等を挙げることができる。
【0016】
(ロ)成分の電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群、偽酸性化合物群〔酸ではないが、組成物中で酸として作用して成分(イ)を発色させる化合物群〕、電子空孔を有する化合物群等がある。
活性プロトンを有する化合物を例示すると、フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、さらにその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール−アルデヒド縮合樹脂等を挙げることができる。又、前記フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩であってもよい。
【0017】
以下に具体例を挙げる。
フェノール、o−クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ドデシルフェノール、n−ステアリルフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、o−フェニルフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸n−オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ノナン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ドデカン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ノナン等がある。
前記フェノール性水酸基を有する化合物が最も有効な熱変色特性を発現させることができるが、芳香族カルボン酸及び炭素数2〜5の脂肪族カルボン酸、カルボン酸金属塩、酸性リン酸エステル及びそれらの金属塩、1、2、3−トリアゾール及びその誘導体から選ばれる化合物等であってもよい。
【0018】
前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体の(ハ)成分について説明する。
前記(ハ)成分としては下記一般式(1)で示される化合物を用いることができる。
【化1】

〔式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、mは0〜2の整数を示し、X、Xのいずれか一方は−(CHOCOR又は−(CHCOOR、他方は水素原子を示し、nは0〜2の整数を示し、Rは炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を示し、Y及びYは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、又は、ハロゲンを示し、r及びpは1〜3の整数を示す。〕
前記式(1)で示される化合物のうち、Rが水素原子の場合、より広いヒステリシス幅を有する可逆熱変色性組成物が得られるため好適であり、更にRが水素原子であり、且つ、mが0の場合がより好適である。
尚、式(1)で示される化合物のうち、より好ましくは下記一般式(2)で示される化合物が用いられる。
【化2】

式中のRは炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基を示すが、好ましくは炭素数10〜24のアルキル基、更に好ましくは炭素数12〜22のアルキル基である。
前記化合物として具体的には、オクタン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ノナン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、デカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ウンデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ドデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、トリデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、テトラデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ペンタデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ヘキサデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、ヘプタデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル、オクタデカン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチルを例示できる。
【0019】
更に、前記(ハ)成分として、下記一般式(3)で示される化合物を用いることもできる。
【化3】

(式中、Rは炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基を示し、m及びnはそれぞれ1〜3の整数を示し、X及びYはそれぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲンを示す。)
前記化合物として具体的には、オクタン酸1,1−ジフェニルメチル、ノナン酸1,1−ジフェニルメチル、デカン酸1,1−ジフェニルメチル、ウンデカン酸1,1−ジフェニルメチル、ドデカン酸1,1−ジフェニルメチル、トリデカン酸1,1−ジフェニルメチル、テトラデカン酸1,1−ジフェニルメチル、ペンタデカン酸1,1−ジフェニルメチル、ヘキサデカン酸1,1−ジフェニルメチル、ヘプタデカン酸1,1−ジフェニルメチル、オクタデカン酸1,1−ジフェニルメチルを例示できる。
【0020】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(4)で示される化合物を用いることもできる。
【化4】

(式中、Xは水素原子、炭素数1乃至4のアルキル基、メトキシ基、ハロゲン原子のいずれかを示し、mは1乃至3の整数を示し、nは1乃至20の整数を示す。)
前記化合物としては、マロン酸と2−〔4−(4−クロロベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステル、こはく酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、こはく酸と2−〔4−(3−メチルベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステル、グルタル酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、グルタル酸と2−〔4−(4−クロロベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステル、アジピン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、ピメリン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、スベリン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、スベリン酸と2−〔4−(3−メチルベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステル、スベリン酸と2−〔4−(4−クロロベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステル、スベリン酸と2−〔4−(2,4−ジクロロベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステル、アゼライン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、セバシン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、1,10−デカンジカルボン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、1,18−オクタデカンジカルボン酸と2−(4−ベンジルオキシフェニル)エタノールとのジエステル、1,18−オクタデカンジカルボン酸と2−〔4−(2−メチルベンジルオキシ)フェニル)〕エタノールとのジエステルを例示できる。
【0021】
更に、前記(ハ)成分として下記一般式(5)で示される化合物を用いることもできる。
【化5】

(式中、Rは炭素数1乃至21のアルキル基又はアルケニル基を示し、nは1乃至3の整数を示す。)
前記化合物としては、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとカプリン酸とのジエステル、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとウンデカン酸とのジエステル、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとラウリン酸とのジエステル、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとミリスチン酸とのジエステル、1,4−ビス(ヒドロキシメトキシ)ベンゼンと酪酸とのジエステル、1,4−ビス(ヒドロキシメトキシ)ベンゼンとイソ吉草酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンと酢酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとプロピオン酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンと吉草酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとカプロン酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとカプリル酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとカプリン酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとラウリン酸とのジエステル、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンとミリスチン酸とのジエステルを例示できる。
【0022】
前記(イ)、(ロ)、(ハ)成分の配合割合は、濃度、変色温度、変色形態や各成分の種類に左右されるが、一般的に所望の変色特性が得られる成分比は、(イ)成分1に対して、(ロ)成分0.1〜50、好ましくは0.5〜20、(ハ)成分1〜800、好ましくは5〜200の範囲である(前記割合はいずれも質量部である)。
【0023】
前記可逆熱変色性組成物のマイクロカプセル化は、界面重合法、界面重縮合法、in Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、用途に応じて適宜選択される。更にマイクロカプセル顔料の表面には、目的に応じて更に二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与したり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
前記マイクロカプセル顔料は、平均粒子径が0.01〜5.0μm、好ましくは0.1〜4.0μm、より好ましくは0.5〜3.0μmの範囲のものが実用性を満たす。
平均粒子径が5.0μmを越えると、ボールペンに収容して実用に供する際、ボールとボール抱持部の空隙をマイクロカプセル顔料が塞いで目詰まりを生じ、インキ吐出性を損ない易くなる。一方、0.01μm未満の系では、高濃度の発色性を示し難い。
尚、粒子径の測定はレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置〔(株)堀場製作所製;LA−300〕を用いて測定し、その数値を基に平均粒子径(メジアン径)を算出する。
【0024】
前記マイクロカプセル顔料の形態は円形断面の形態の他、非円形断面の形態であってもよい。
ここで、可逆熱変色性組成物:壁膜=7:1〜1:1(質量比)、好ましくは6:1〜1:1の範囲を満たすことが好ましい。
可逆熱変色性組成物の壁膜に対する比率が前記範囲より大になると、壁膜の厚みが肉薄となり過ぎ、圧力や熱に対する耐性の低下を生じ易く、壁膜の可逆熱変色性組成物に対する比率が前記範囲より大になると発色時の色濃度及び鮮明性の低下を生じ易くなる。
前記マイクロカプセル顔料は一種又は二種以上を適宜混合して使用することができ、インキ組成中10乃至50質量%、好ましくは15乃至45質量%、より好ましくは20乃至45質量%の範囲で用いられる。
【0025】
前記マイクロカプセル顔料の比重としては0.8〜1.8の範囲のものが好適であるが、特に、本発明の構成においては、マイクロカプセル顔料の浮遊や沈降に伴う凝集を生じ易い、ビヒクル成分(インキ成分からマイクロカプセル顔料と多糖類とベントナイトを除いた組成物)との比重差が±0.08より大きいものであっても高い分散安定性を長期間維持できる。
前記マイクロカプセル顔料の比重は、内包する可逆熱変色性組成物の各成分の分子量やカプセル壁膜の膜厚や材質等に応じて変化するものであり、特に、先に説明したヒステリシス幅ΔHを設定する(ハ)成分や、色を決める(イ)成分の種類によって大きく変化する。
【0026】
前記多糖類は剪断減粘性付与剤として添加され、筆跡の滲みを抑制することができると共に、ベントナイトと併用することにより、比重の大きいマイクロカプセル顔料であっても凝集や沈降を長期的に抑制することが可能となる。
更に、前記インキ組成物をボールペンに充填した際、不使用時のボールとチップの間隙からのインキ漏れを防止したり、筆記先端部を上向き(正立状態)で放置した場合のインキの逆流を防止することができる。
前記多糖類としては、キサンタンガム、ウェランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100乃至800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ダイユータンガム等が適用でき、特にキサンタンガムが好適に用いられる。
【0027】
前記多糖類はインキ組成物全量中0.1〜0.5質量%含有され、該多糖類の添加量に応じてベントナイトの配合量が調整される。具体的には、多糖類に対してベントナイトの質量比率が1:0.2〜1:1.5で添加される。前記範囲とすることで、インキ粘度を上げ過ぎることなくマイクロカプセル顔料の凝集、沈降をより効果的に抑制できる。そのため、経時後も良好な筆記性能を示すボールペンを得ることができる。
前記多糖類としてキサンタンガムを単独で用いた場合、特に加温時にマイクロカプセル顔料の沈降を生じ易いため、抑制するには添加量が必要となる。この場合、高粘度化して筆跡の線割れや追従性の低下といった副作用をもたらすこととなる。そのため、前記比率でベントナイトを添加することにより、ボールペン用インキとして適した粘度で凝集や沈降を抑制できるものとなる。
前記多糖類がインキ組成物全量中0.1質量%未満では、インキ粘度が低すぎてマイクロカプセル顔料の凝集、沈降を抑制する効果に乏しく、一方、多糖類がインキ組成物全量中0.5質量%を越えると、インキ粘度が高すぎて筆跡がかすれ易くなる。
更に、前記多糖類の質量に対しベントナイトの質量比率が0.2を下回ると、前記多糖類との相乗効果に乏しく、前記多糖類を単独で用いた場合と同様の効果が得られるのみである。一方、前記多糖類の質量に対し、ベントナイトの質量比率が1.5を超えると、粘度が高くなりすぎて筆跡のかすれを生じ易くなる。
尚、前記多糖類はインキ組成物全量中0.2〜0.3質量%含有されることがより好ましく、且つ、多糖類とベントナイトの質量比率は、1:0.4〜1:1.0であることがより好ましい。
【0028】
また、必要により紙面への固着性や粘性付与のためにアルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等を添加することもできる。
更に、必要により各種添加剤を加えることができる。
前記添加剤として、オレイン酸等の高級脂肪酸、長鎖アルキル基を有するノニオン性界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、チオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルメチルエステル)やチオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルエチルエステル)等のチオ亜燐酸トリエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、或いは、それらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカノールアミン塩等の潤滑剤を添加してボール受け座の摩耗を防止することが好ましい。
また、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等のpH調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、サポニン等の防錆剤、石炭酸、1、2−ベンズチアゾリン3−オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン等の防腐剤或いは防黴剤、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、天然又は合成ポリフェノール類、N−ビニルピロリドンオリゴマー、コウジ酸、ヒドロキシルアミン類、オキシム誘導体、α−グルコシルルチン、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩、亜硫酸塩、スルホキシル酸塩、亜ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、二酸化チオ尿素、ホルムアミジンスルフィン酸、グルタチオン、n−ブチルアルデヒドとアニリンの反応物等の酸素吸収剤、消泡剤、分散剤等を添加してもよい。
【0029】
更に必要に応じて、水に相溶性のある従来汎用の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、スルフォラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
尚、前記水溶性有機溶剤は一種又は二種以上を併用して用いることができ、2〜60重量%、好ましくは5〜35重量%の範囲で用いられる。
【0030】
前記可逆熱変色性水性インキ組成物は、ボールペンチップを筆記先端部に装着したボールペンに充填される。
ボールペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、従来から汎用のものが適用でき、例えば、軸筒内にインキ組成物を充填したインキ収容管を有し、該インキ収容管はボールを先端部に装着したチップに連通しており、更にインキの端面には逆流防止用のインキ逆流防止体が密接しているボールペンが例示できる。
【0031】
前記ボールペンチップは、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させて形成したボール抱持部にボールを抱持したチップ、金属材料のドリル等による切削加工して形成したボール抱持部にボールを抱持したチップ、金属又はプラスチック成形体内部に樹脂製のボール受け座を設け、ボールを抱持したチップ等が挙げられる。
また、前記チップはバネ体によりボールを前方に付勢させる構成であってもよい。
前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック、樹脂、ゴム等の0.1〜2.0mm径程度のものが適用できるが、好ましくは0.15〜1.0mmのものが適用できる。特に、顔料凝集時の筆記に不利なインキ吐出部が狭い0.15〜0.5mmのものを用いた場合、吐出性を妨げることなく長期的に筆記できるため、本発明のインキの効果がより明瞭なものとなる。
【0032】
インキ組成物を収容するインキ収容管は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体が用いられる。
前記ボールペンチップとインキ収容管は、直接又は接続部材を介して嵌合され、インキ組成物と、必要によりインキ逆流防止体組成物を充填してボールペンレフィルや直詰式ボールペンを形成する。
【0033】
前記インキ逆流防止体組成物は不揮発性液体又は難揮発性液体からなる。
具体的には、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α−オレフィン、α−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等があげられ、一種又は二種以上を併用することもできる。
前記不揮発性液体及び/又は難揮発性液体には、ゲル化剤を添加して好適な粘度まで増粘させることが好ましく、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイトなどの粘土系増粘剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物、セルロース系化合物を例示できる。
更に、前記液状のインキ逆流防止体組成物と、固体の逆流防止体を併用することもできる。
【0034】
前記ボールペンは、キャップ式、出没式のいずれの形態であってもよく、キャップ式ボールペンとしては、前述のボールペンレフィルを軸筒内に収容してキャップを嵌着したものや、キャップを嵌着した直詰式ボールペンが適用できる。
出没式ボールペンとしては、ボールペンレフィルに設けられた筆記先端部が外気に晒された状態で軸筒(外軸)内に収納されており、出没機構の作動によって軸筒開口部から筆記先端部が突出する構造であれば全て用いることができる。
出没機構の操作方法としては、ノック式、回転式、スライド式等が挙げられる。
前記ノック式は、軸筒後端部や軸筒側面にノック部を有し、該ノック部の押圧により、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成、或いは、軸筒に設けたクリップ部を押圧することにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記回転式は、軸筒後部に回転部を有し、該回転部を回すことによりボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記スライド式は、軸筒側面にスライド部を有し、該スライドを操作することによりボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成、或いは、軸筒に設けたクリップ部をスライドさせることにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記出没式ボールペンは軸筒内に複数のボールペンレフィルを収容してなる複合タイプの出没式ボールペン(レフィル交換式)であってもよい。
【0035】
更に、前記ボールペンとともに、摩擦熱によって筆跡を変色又は消色させるための摩擦部材を用いることができる。
前記摩擦部材としては、弾性感に富み、摩擦時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることのできるエラストマー、プラスチック発泡体等の弾性体が好適である。尚、消しゴムを使用して筆跡を摩擦することもできるが、摩擦時に消しカスが発生するため、前述の摩擦部材が好適に用いられる。
前記摩擦部材の材質としては、シリコーン樹脂やSEBS樹脂(スチレンエチレンブタジエンスチレンブロック共重合体)、SBS樹脂(スチレンブチレンスチレン共重合体)、ポリエステル系樹脂等が用いられる。
前記摩擦部材はボールペンと別体の任意形状の部材(摩擦体)とを組み合わせてボールペンセットを得ることもできるが、ボールペンに摩擦部材を固着させることにより、携帯性に優れる。
キャップ式ボールペンの場合、摩擦部材を設ける箇所は特に限定されるものではないが、例えば、キャップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、クリップを設ける場合はクリップ自体を摩擦部材により形成したり、キャップ先端部(頂部)或いは軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)に摩擦部材を設けることができる。
出没式ボールペンの場合、摩擦部材を設ける箇所は特に限定されるものではないが、例えば、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、クリップを設ける場合はクリップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒開口部近傍、軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)或いはノック部に摩擦部材を設けることができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、数値は質量部を表わす。
マイクロカプセル顔料Aの調製
(イ)成分として4,5,6,7−テトラクロロ−3−[4−(ジエチルアミノ)−2−メチルフェニル]−3−(1−エチル−2−メチル−1H−インドール−3−イル)−1(3H)−イソベンゾフラノン、(ロ)成分として4,4′−(2−エチルヘキサン−1、1−ジイル)ジフェノール、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチルからなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料懸濁液を得た。その後、前記懸濁液を遠心分離してマイクロカプセル顔料Aを単離した。
前記マイクロカプセル顔料の平均粒子径は1.0μm、完全消色温度は55℃、完全発色温度は−20℃であり、温度変化により青色から無色に変色する。
前記マイクロカプセル顔料(予め−20℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料を青色に発色させたもの)を着色剤として用いた。
【0037】
マイクロカプセル顔料Bの調製
(イ)成分として2−(ジブチルアミノ)−8−(ジペンチルアミノ)−4−メチル−スピロ[5H−[1]ベンゾピラノ[2,3−g]ピリミジン−5,1′(3′H)−イソベンゾフラン]−3−オン、(ロ)成分として4,4′−(2−エチルヘキサン−1、1−ジイル)ジフェノール、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチルからなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料懸濁液を得た。その後、前記懸濁液を遠心分離してマイクロカプセル顔料Bを単離した。
前記マイクロカプセル顔料の平均粒子径は1.8μm、完全消色温度は58℃であり、完全発色温度は−20℃であり、温度変化によりピンク色から無色に変色する。
前記マイクロカプセル顔料(予め−20℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料をピンク色に発色させたもの)を着色剤として用いた。
【0038】
マイクロカプセル顔料Cの調製
(イ)成分として2−(2−クロロアミノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、(ロ)成分として4,4′−(2−エチルヘキサン−1、1−ジイル)ジフェノール、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチルからなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料懸濁液を得た。その後、前記懸濁液を遠心分離して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Cを単離した。
前記マイクロカプセル顔料の平均粒子径は2.2μm、完全消色温度は56℃であり、完全発色温度は−20℃であり、温度変化により黒色から無色に変色する。
前記マイクロカプセル顔料(予め−20℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料を黒色に発色させたもの)を着色剤として用いた。
【0039】
マイクロカプセル顔料Dの調製
(イ)成分として1,3−ジメチル−6−ジエチルアミノフルオラン、(ロ)成分として2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)n−デカン、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチルからなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料懸濁液を得た。その後、前記懸濁液を遠心分離して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Dを単離した。
前記マイクロカプセル顔料の平均粒子径は0.5μm、完全消色温度は64℃であり、完全発色温度は−30℃であり、温度変化により橙色から無色に変色する。
前記マイクロカプセル顔料(予め−30℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料を橙色に発色させたもの)を着色剤として用いた。
【0040】
マイクロカプセル顔料Eの調製
(イ)成分として4,5,6,7−テトラクロロ−3−[4−(ジエチルアミノ)−2−メチルフェニル]−3−(1−エチル−2−メチル−1H−インドール−3−イル)−1(3H)−イソベンゾフラノン、(ロ)成分として1、1−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)プロパン、(ハ)成分としてカプリン酸セチルからなる可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料懸濁液を得た。その後、前記懸濁液を遠心分離してマイクロカプセル顔料Eを単離した。
前記マイクロカプセル顔料の平均粒子径は2.2μm、完全消色温度は38℃、完全発色温度は28℃であり、温度変化により青色から無色に変色する。
前記マイクロカプセル顔料(予め28℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料を青色に発色させたもの)を着色剤として用いた。
【0041】
ボールペン用水性インキ組成物の調製
以下の表にインキ組成を示す。表中の組成の数値は質量部を表す。
【表1】

【0042】
表中の原料の内容を注番号に従って以下に説明する。尚、各ベントナイトの膨潤力は、試料2.0gを水100mLの入ったメスシリンダー内に試料を10回に分けて加える(先に加えた試料がほとんど沈着した後に次の試料を加える)ことで測定する値であり、これを24時間放置したときに生じる器底の塊の見かけ容積を読み取ったものである。
(1)剪断減粘性付与剤、商品名:ケルザン、三晶(株)製
(2)剪断減粘性付与剤、商品名:レオザン、三晶(株)製
(3)Na型ベントナイト:膨潤力46mL/2g
(4)Ca型ベントナイト:膨潤力20mL/2g
(5)Na型ベントナイト:膨潤力8mL/2g
(6)商品名:ジュリマーAC−10P、日本純薬(株)製
(7)商品名:ビストップD−2029、三栄源(株)製
(8)商品名:プライサーフAL、第一工業製薬(株)製、リン酸エステル系界面活性剤
【0043】
ボールペンレフィルAの作製
前記各インキ組成物をポリプロピレン樹脂からなるインキ収容管に吸引充填し、樹脂製接続部材(ホルダー)を介して金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させて形成したボール抱持部に直径0.4mmの超硬合金ボール3を抱持したボールペンチップ2と連結させた。
次いで、前記ポリプロピレン製パイプの後端よりインキ逆流防止体(液栓)を充填し、更に尾栓をパイプの後部に嵌合させてボールペンレフィルを得た。
【0044】
ボールペンレフィルBの作製
前記各インキ組成物をポリプロピレン樹脂からなるインキ収容管に吸引充填し、樹脂製接続部材(ホルダー)を介して金属材料を切削加工して形成したボール抱持部に直径0.7mmのステンレス鋼ボールを抱持したボールペンチップと連結させた。
次いで、前記ポリプロピレン製パイプの後端よりインキ逆流防止体(液栓)を充填し、更に尾栓をパイプの後部に嵌合させてボールペンレフィルを得た。
【0045】
ボールペンの作製
前記ボールペンレフィルA,Bを、それぞれ軸筒内に組み込み、出没式ボールペンを得た。
前記出没式ボールペンは、ボールペンレフィルに設けられた筆記先端部が外気に晒された状態で軸筒内に収納されており、軸筒側面に設けられたクリップ形状の出没機構(スライド機構)の作動によって軸筒前端開口部から筆記先端部が突出する構造である。尚、前記筆跡は、軸筒後端部に設けたSEBS樹脂製の摩擦部材を用いて摩擦することにより消色させることができる。
出没機構の作動により軸筒前端開口部からボールペンチップを出没させた状態で筆記して得られる初期の筆跡はいずれも着色状態を呈していた。
前記ボールペンレフィルとボールペンを用いて、以下の試験を行なった。
【0046】
インキ安定性試験
前記ボールペンレフィルをチップ下向き状態で静置し、50℃の環境下に60日間放置した。その後、室温にてレフィル内のインキの状態を目視により確認した。
【0047】
筆記試験
筆記可能であることを確認した各試料ボールペンを、室温にて旧JIS P3201筆記用紙Aに手書きで1行に12個の螺旋状の丸を3行連続筆記した。その際の筆跡状態を目視により確認した。
前記試験の結果を以下の表に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
尚、試験結果の評価は以下の通りである。
インキ安定性試験
○:顔料の凝集や沈降はみられず、初期と同様の状態を示す。
△:初期と比較すると若干の顔料凝集が認められるものの、実用レベルにある。
×:インキが相分離する。
筆記試験
○:良好な筆跡を示した。
△:筆跡に若干のカスレが見られた。
×:筆跡に複数のカスレや線割れが見られた。又は筆記不能となった。
【符号の説明】
【0050】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の完全発色温度
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の発色開始温度
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の消色開始温度
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の完全消色温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする反応媒体とからなる可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させたマイクロカプセル顔料と、水と、多糖類と、ベントナイトを含有する可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記ベントナイトの膨潤力が10mL/2g以上である請求項1記載の可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物。
【請求項3】
前記ベントナイトが交換性陽イオンをナトリウムイオンとするNa型ベントナイトである請求項1又は2記載の可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物。
【請求項4】
前記マイクロカプセル顔料の比重と、マイクロカプセル顔料と多糖類とベントナイトを含まない組成物の比重との差が±0.08より大きい請求項1乃至3のいずれかに記載の可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物。
【請求項5】
前記多糖類がキサンタンガムである請求項1乃至4のいずれかに記載の可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物。
【請求項6】
前記多糖類がインキ組成物全量中0.1〜0.5質量%含有されてなり、且つ、多糖類とベントナイトの質量比率が1:0.2〜1:1.5である請求項1乃至5のいずれかに記載の可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物。
【請求項7】
前記請求項1乃至6のいずれかに記載の可逆熱変色性ボールペン用水性インキ組成物を内蔵したボールペン。
【請求項8】
摩擦部材を備えてなる請求項7記載のボールペン。
【請求項9】
前記ボールペンが0.15〜0.5mmのボールを筆記先端部に備える請求項7又は8に記載のボールペン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−97168(P2012−97168A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244903(P2010−244903)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】