説明

合わせガラス

【課題】水分の接触による熱線反射膜の腐食が抑制され、耐久性に優れる合わせガラスを提供する。
【解決手段】ガラス基板2,6、接着シート3,5、熱線反射膜42を有する熱線反射フィルム4、接着シート3,5、およびガラス基板2,6がこの順に積層された合わせガラスであって、前記熱線反射膜42に積層される前記接着シート3,5は、これを外周領域と内側領域とに分離する連続または不連続な欠落部7からなる環状領域を有し、前記欠落部7の幅が0.5mm以上2.5mm以下、前記接着シート3、5の外縁部から前記欠落部の外縁部までの距離が1mm以上10mm以下、前記環状領域全体の長さに対する前記環状領域における前記欠落部の長さの割合が90%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラスに係り、特に熱線反射膜の腐食が抑制された、耐久性に優れる合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両等のフロントガラスに使用する合わせガラスとして、対向する一対のガラス基板間に太陽光線中の赤外線(熱線)の透過を遮断する熱線反射フィルムを配置し、室内の温度上昇や冷房負荷を低減するものが知られている。熱線反射フィルムとしては、例えば基材となる樹脂フィルム上に熱線反射膜となる酸化物層と金属層とを交互に積層したもの、また樹脂フィルム上に熱線反射膜となる高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層したものが知られており、これらは一対の接着シートによって一対のガラス基板間に接着されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような合わせガラスは、例えばガラス基板、接着シート、熱線反射フィルム、接着シート、およびガラス基板をこの順に重ね合わせ、一対のガラス基板の端部からはみ出した接着シートや熱線反射フィルムを切断等により除去し、全体を加熱加圧して一体化することにより製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−35438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の合わせガラスについては、水分の接触により熱線反射膜が腐食しやすいという問題がある。すなわち、合わせガラスに用いられる接着シートについては、一般に水分を吸収しやすい材料から構成されている。そして、合わせガラスの端面では接着シートが露出していることから、この露出部分から接着シートを通して徐々に水分が侵入し、この水分が接着シートに隣接する熱線反射膜に接触する。熱線反射膜は、もともと水分の接触により腐食しやすい材料から構成されているため、接着シートを通して侵入した水分の接触により腐食する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、接着シートを通した水分の侵入が抑制され、これにより熱線反射膜の腐食が抑制され、耐久性に優れる合わせガラスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の合わせガラスは、ガラス基板、接着シート、熱線反射膜を有する熱線反射フィルム、接着シート、およびガラス基板がこの順に積層された合わせガラスであって、前記熱線反射膜に積層される前記接着シートは、これを外周領域と内側領域とに分離する連続または不連続な欠落部からなる環状領域を有し、前記欠落部の幅が0.5mm以上2.5mm以下、前記接着シートの外縁部から前記欠落部の外縁部までの距離が1mm以上10mm以下、前記環状領域全体の長さに対する前記環状領域における前記欠落部の長さの割合が90%以上であることを特徴とする。
【0008】
前記熱線反射膜に積層される前記接着シートはポリビニルブチラールからなることが好ましい。また、前記欠落部は連続していることが好ましい。さらに、前記欠落部は前記一対の接着シートおよび前記熱線反射フィルムに同一の平面形状となるように設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱線反射膜に積層される接着シートに、これを外周領域と内側領域とに分離する欠落部からなる環状領域を設けることで、接着シートを通した水分の侵入を抑制することができ、これにより接着シートに隣接する熱線反射膜の腐食が抑制され、耐久性に優れる合わせガラスとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の合わせガラスの一例を示す断面図。
【図2】環状領域(欠落部)の一例を示す平面図。
【図3】環状領域(欠落部)の他の例を示す平面図。
【図4】環状領域(欠落部)のさらに他の例を示す平面図。
【図5】環状領域(欠落部)の他の例を示す断面図。
【図6】環状領域(欠落部)のさらに他の例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の合わせガラスの一例を示す断面図である。
本発明の合わせガラス1は、ガラス基板2、接着シート3、熱線反射フィルム4、接着シート5、およびガラス基板6がこの順に積層されて構成されている。また、熱線反射フィルム4は、樹脂フィルム41上に熱線反射膜42が形成されて構成されている。なお、図示しないが、熱線反射膜42には保護層が設けられていてもよいし、他の機能を有する層が設けられていてもよい。
【0012】
本発明の合わせガラス1については、一対の接着シート3、5のうち少なくとも熱線反射膜42に積層される接着シート5に、これを外周領域51と内側領域52とに分離する欠落部7からなる環状領域8が設けられていることを特徴とする。なお、熱線反射膜42に保護層等が設けられる場合には、この保護層等に積層される接着シート5に環状領域8が設けられていればよい。
【0013】
欠落部7は、接着シート5を厚さ方向に貫通するように設けられており、例えば図2に示すように接着シート5の外縁部に沿って環状となるように連続して設けられている。また、欠落部7は、その幅(W)が0.5mm以上2.5mm以下、接着シート5の外縁部から欠落部7の外縁部までの距離(W)が1mm以上10mm以下、環状領域8の全体の長さに対する環状領域8における欠落部7の長さの割合が90%以上となるように設けられる。
【0014】
本発明によれば、少なくとも熱線反射膜42に積層される接着シート5に、これを外周領域51と内側領域52とに分離する欠落部7からなる環状領域8を設けることで、外周領域51から内側領域52への接着シート5を通した水分の侵入を抑制することができる。これにより接着シート5に隣接する熱線反射膜42に水分が接触することを抑制でき、その腐食が抑制され、耐久性に優れる合わせガラスとすることができる。
【0015】
特に、欠落部7の幅(W)、接着シート5の外縁部から欠落部7の外縁部までの距離(W)、および環状領域8の全体の長さに対する環状領域8における欠落部7の長さの割合を所定の範囲内とすることで、水分の侵入を有効に抑制すると共に、欠落部7による弊害の発生も抑制することができ、耐久性および実用性に優れる合わせガラスとすることができる。
【0016】
すなわち、欠落部7の幅(W)が0.5mm未満の場合、その幅が狭すぎるために、接着シート5を通した水分の侵入を有効に抑制できないおそれがある。一方、合わせガラスの製造においては、一般に予備圧着工程において部材間の脱気が行われるが、幅(W)が2.5mmを超えるように過度に広くなると部材間の脱気を有効に行うことができず、最終的に合わせガラスとしたときに欠落部7付近が白濁したように見え、見栄えが低下するおそれがある。幅(W)は、水分の侵入および白濁の発生を効果的に抑制する観点から、0.8mm以上2.2mm以下とすることが好ましい。
【0017】
また、接着シート5の外縁部から欠落部7の外縁部までの距離(W)が1mm未満の場合、外周領域51の幅が狭すぎるために、接着シート5を通した水分の侵入を有効に抑制できないおそれがある。一方、距離(W)が10mmを超える場合、欠落部7が中心部の近くに配置されることとなり、実際に自動車等に使用したときに運転手の視界に欠落部7が入りやすくなるために好ましくない。距離(W)は、水分の侵入を抑制しつつ、実用性も十分なものとする観点から、3mm以上7mm以下とすることが好ましい。
【0018】
欠落部7は、図2に示すような連続するものとすれば内側領域52を完全に囲むことができ、水分の侵入を効果的に抑制できるために好ましいが、例えば図3に示すような破線状等の不連続なものとしてもよい。しかしながら、欠落部7が形成されていない部分が多くなると、水分の侵入を十分に抑制できないおそれがある。このため、欠落部7が不連続なものについては、環状領域8の全体の長さに対する環状領域8における欠落部7の長さの割合が90%以上となるようにする。
【0019】
なお、環状領域8の全体の長さとは、環状領域8を1周する長さであり、具体的には実際に欠落部7が形成されている部分の長さ(a+a+a+…)と形成されていない部分の長さ(b+b+b+……)とを合計したものである。また、欠落部7の長さとは、実際に欠落部7が形成されている部分の長さ(a+a+a+…)である。従って、上記割合は、((a+a+a+…)/(a+a+a+…+b+b+b+……))×100[%]により求めることができる。上記割合は、効果的に水分の侵入を抑制する観点から、95%以上とすることが好ましい。
【0020】
欠落部7は、図2、3に示すような連続または不連続な直線状のものの他、例えば図4に示すような個々の距離(W)が異なる不連続な段違い状のものであってもよい。このような段違い状のものについては、個々の欠落部7が上記距離(W)を満たすように、かつ欠落部7の全体が上記割合を満たすように形成される。段違い状のものについても、直線状のものと同様にして上記割合を求めることができる。
【0021】
なお、欠落部7が連続あるいは不連続、または直線状あるいは段違い状であるかにかわらず、その環状方向における幅(W)および距離(W)は必ずしも一定である必要はなく、上記範囲内であれば環状方向に増減するものであっても構わない。
【0022】
以上、熱線反射膜42に積層される接着シート5のみに欠落部7を設けた場合について説明したが、欠落部7は、例えば図5に示すように熱線反射膜42にも設けてもよいし、また図6に示すように熱線反射フィルム4および他方の接着シート3にも設けてもよい。熱線反射膜42等にも欠落部7を設けることで、より効果的に水分の接触による熱線反射膜42の腐食を抑制することができる。なお、熱線反射膜42に積層される接着シート5以外にも欠落部7を設ける場合、生産性の観点、例えば複数の部材が積層される場合に一括して形成できる観点等から、接着シート5と同一の平面形状とすることが好ましい。
【0023】
合わせガラス1を構成する各部材は、基本的に従来の合わせガラスと同様のものとすることができる。すなわち、熱線反射フィルム4を構成する樹脂フィルム41は、例えばポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ナイロン、シクロオレフィンポリマー等からなるものとすることができる。
【0024】
通常、比較的に高強度であり、合わせガラス1を製造する際の損傷を抑制しやすいことから、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好適に用いられる。樹脂フィルム41の厚さは、必ずしも限定されるものではないものの、一般に5μm以上200μm以下、好ましくは20μm以上100μm以下、さらに好ましくは40μm以上60μm以下である。
【0025】
熱線反射膜42は、例えば樹脂フィルム41側から順に酸化物層と金属層とが交互に合計で(2n+1)層(但し、nは1以上4以下の整数)積層されたものである。
【0026】
酸化物層は、屈折率が1.7以上2.6以下、特に1.8以上2.6以下であるものが好ましい。このような酸化物層としては、例えば酸化ビスマス、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化インジウム等の金属酸化物を主成分とする層、あるいはこれらの混合物からなる層が好適なものとして挙げられる。
【0027】
特に、酸化亜鉛を主成分とする層、または酸化インジウムを主成分とする層が好ましい。酸化亜鉛を主成分とする層としては、酸化亜鉛単独の層の他、スズ、アルミニウム、クロム、チタン、シリコン、ホウ素、マグネシウム、インジウム、およびガリウムから選ばれる1種以上の元素を含有する酸化亜鉛を主成分とする層が挙げられる。また、酸化インジウムを主成分とする層としては、スズを含有する酸化インジウムを主成分とする層が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、金属層を安定的に、かつ高い結晶性を維持しながら形成できる点から、酸化亜鉛単独の層、またはスズ、アルミニウム、クロム、チタン、シリコン、ホウ素、マグネシウム、インジウム、およびガリウムから選ばれる1種以上の元素を含有する酸化亜鉛を主成分とする層、特にアルミニウムおよび/またはチタンを含有する酸化亜鉛を主成分とする層が好適なものとして挙げられる。なお、各酸化物層は、単層であってもよいし、多層であってもよい。
【0029】
金属層は、銀を主成分とするものであり、このようなものとしては銀単独の層の他、銀を主成分とする合金の層が挙げられる。金属層における銀以外の構成成分は、例えばパラジウム、金、銅等であり、これら銀以外の構成成分の含有量は合計で0.3原子%以上10原子%以下であることが好ましい。
【0030】
酸化物層や金属層の厚さは、全体の層数や各層の構成材料によっても異なるが、例えば各酸化物層は5nm以上100nm以下、各金属層は5nm以上20nm以下、全ての酸化物層と金属層とを合わせた全体の層厚は50nm以上400nm以下、より好ましくは150nm以上300nm以下である。
【0031】
熱線反射膜42としては、上記した酸化物層と金属層とからなるものに代えて、高屈折率層と低屈折率層とからなるものとしてもよい。通常、高屈折率層と低屈折率層とを合計した層数は3以上であり、高屈折率層の厚さは70nm以上150nm以下、低屈折率層の厚さは100nm以上200nm以下である。
【0032】
高屈折率層としては、屈折率(波長550nmでの屈折率、以下同様)が1.9以上、好ましくは1.9以上2.5以下の誘電体からなるものが挙げられ、例えば酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム等の高屈折率材料の中から選ばれる少なくとも1種からなるものが挙げられる。
【0033】
また、低屈折率層としては、屈折率が1.5以下、好ましくは1.2以上1.5以下の誘電体からなるものが挙げられ、例えば酸化シリコン、フッ化マグネシウム等の低屈折率材料の中から選ばれる少なくとも1種からなるものが挙げられる。
【0034】
このような熱線反射膜42は公知の成膜方法を適用して樹脂フィルム41上に形成することができ、例えばマグネトロンスパッタリング法、電子線蒸着法、真空蒸着法、化学蒸着法等を適用して形成することができる。
【0035】
接着シート3、5は、ガラス基板2、6と、熱線反射フィルム4とを有効に接着することができ、また合わせガラス1としたときに十分な視認性を確保できるものが好ましく、例えば熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物をシート状に成形したものが挙げられる。接着シート3、5の厚みは、0.1mm以上1mm以下であることが好ましく、0.2mm以上0.5mm以下であることがより好ましい。
【0036】
熱可塑性樹脂としては、例えば可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体系樹脂等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、および遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適なものとして挙げられる。
【0038】
ポリビニルアセタール系樹脂としては、特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコール(以下、必要に応じて「PVA」と言うこともある)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール樹脂、PVAとn−ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、必要に応じて「PVB」と言うこともある)等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、および遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適なものとして挙げられる。
【0039】
ポリビニルアセタール系樹脂の合成に用いられるPVAは、特に限定されるものではないが、平均重合度が200以上5000以下のものが好ましく、より好ましくは500以上3000以下のものである。ポリビニルアセタール系樹脂は、必ずしも限定されるものではないものの、アセタール化度が40モル%以上85モル%以下であることが好ましく、50モル%以上75モル%以下であることがより好ましい。また、ポリビニルアセタール系樹脂は、残存アセチル基量が30モル% 以下であることが好ましく、0.5モル%以上24モル%以下であることがより好ましい。
【0040】
熱可塑性樹脂の可塑化に用いられる可塑剤としては、必ずしも限定されるものではないものの、例えば一塩基性有機酸エステル系、多塩基性有機酸エステル系等の有機酸エステル系可塑剤、有機リン酸系、有機亜リン酸系等のリン酸系可塑剤等が挙げられる。
【0041】
熱可塑性樹脂に対する可塑剤の添加量は、熱可塑性樹脂の平均重合度等によっても異なるが、例えば熱可塑性樹脂100質量部に対して、可塑剤10質量部以上80質量部以下とすることが好ましい。可塑剤の添加量が10質量部未満であると、例えば熱可塑性樹脂の可塑化が不十分となり、成形が困難となることがある。一方、可塑剤の添加量が80質量部を超えると、得られる接着シートの強度が不十分となることがある。
【0042】
熱可塑性樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂の他、例えば接着性調整剤、カップリング剤、界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光剤、脱水剤、消泡剤、帯電防止剤、難燃剤等の各種添加剤の1種もしくは2種以上を含有していてもよい。
【0043】
ガラス基板2、6は、車輌用等として使用されているものであれば必ずしも限定されるものではなく、一般的なクリアガラス板、グリーンガラス板、UVグリーンガラス板等の無機透明ガラス板の他、ポリカーボネート板やポリメチルメタクリレート板等の有機透明板を用いることができ、通常はフロート法で成形されるフロートガラス板が好適に用いられる。ガラス基板2、6の厚みは適宜選択することができるが、通常は1.0mm以上4.0mm以下、より好ましくは1.8mm以上2.5mm以下である。なお、ガラス基板2、6には、撥水機能、親水機能、防曇機能等を付与するコーティングが施されていてもよい。
【0044】
本発明の合わせガラス1は、欠落部7を形成することを除き、従来の合わせガラスと同様にして製造することができる。すなわち、本発明の合わせガラス1は、ガラス基板2、接着シート3、熱線反射フィルム4、接着シート5、およびガラス基板6をこの順に重ね合わせて積層体とした後、この積層体に対して予備圧着、本圧着を行うことにより製造することができる。
【0045】
また、本発明の合わせガラス1は、接着シート3、熱線反射フィルム4、および接着シート5をこの順に重ね合わせて、例えば温度40℃以上80℃以下、圧力0.1MPa以上1.0MPa以下の加熱加圧により中間体とした後、この中間体の両主面にガラス基板2、6を重ね合わせて積層体とし、この積層体に対して予備圧着、本圧着を行うことにより製造してもよい。
【0046】
欠落部7の形成は、積層体を完成させる前に行うことが好ましく、例えば積層前の部材に対して行ってもよいし、中間体を製造する場合には、この中間体に対して行ってもよい。また、例えば積層体とする途中、すなわちガラス基板2、6の一方に各部材または中間体を重ね合わせて積層体とする際、このガラス基板2、6の一方に各部材または中間体を載置した状態で欠落部7を形成してもよい。なお、複数の部材を貫通するように欠落部7を形成する場合、個々の部材に欠落部7を形成しておき、これを積層するようにしてもよいし、積層された複数の部材、例えば中間体に一括して欠落部7を形成してもよい。
【0047】
欠落部7の形成方法は、部材から欠落部7となる部分を選択的に除去できるものであれ必ずしも限定されるものではなく、例えばレーザー光の照射、高温加熱体の接触、機械的あるいは化学的除去等の各種方法により行うことができる。
【0048】
レーザー光の照射については、部材の吸収波長に応じたレーザー光を照射することによって、欠落部7となる部分を選択的に除去することができる。例えば、接着シート5等に好適に用いられるポリビニルブチラール樹脂は400nm付近に高い吸収を示すことから、400nm程度の波長を有するレーザー光を照射することによって、欠落部7となる部分を選択的に除去することができる。
【0049】
また、熱線反射フィルム4の樹脂フィルム41に好適に用いられるポリエチレンテレフタレートは300nm付近に高い吸収を示すことから、300nm程度の波長を有するレーザー光を照射することによって、欠落部7となる部分を選択的に除去することができる。このような部材毎の吸収波長の違いを利用することにより、複数の部材が積層されたもの、例えば中間体において、一部の部材、例えば接着シート5のみに選択的に欠落部7を形成することができる。
【0050】
レーザー装置としては、例えばYAGレーザー、色素レーザー等が挙げられ、これらは部材の吸収波長に応じて適宜選択して使用することができる。環状領域8の幅(W)は、例えばレーザー出力、レーザー発振周波数等を適宜調整することにより調整することができる。
【0051】
高温加熱体の接触については、高温加熱体を接触させることにより、欠落部7となる部分を熱分解により選択的に除去することができる。高温加熱体としては、例えば通電により加熱されたニクロム線フィラメント等を用いることができる。欠落部7の幅(W)は、このようなニクロム線フィラメント等の太さや接触時間等を適宜変更することにより調整することができる。
【0052】
機械的除去は、例えば欠落部7となる部分を切断等により選択的に除去するものである。機械的除去に用いる機器は、欠落部7となる部分を選択的に除去できるものであればよく、例えば先端部が鋭利な刃物等の他、打ち抜き装置等を用いることができる。また、化学的除去は、例えば欠落部7となる部分に化学薬品を接触させて、この部分を溶解等によって選択的に除去するものである。
【0053】
欠落部7が形成された積層体については、上記したように予備圧着、本圧着を行うことにより合わせガラス1とすることができる。
【0054】
予備圧着は、主として部材間の脱気を目的とするものであり、例えば積層体をゴムバッグのような真空バッグ中に入れ、100kPa以下となるように脱気しつつ、70℃以上130℃以下の温度で10分以上90分以下保持することにより行うことができる。
【0055】
保持温度が70℃未満であると予備圧着が十分でないおそれがあり、130℃を超えると熱収縮により熱線反射フィルム4にクラックが発生するおそれがある。効果的に予備圧着を行う観点から、保持温度は90℃以上とすることが好ましく、110℃以上とすることがより好ましい。
【0056】
また、保持時間が10分未満であると、予備圧着が十分でないおそれがあり、一方、保持時間が90分を超えると、生産性が低下するだけでなく、熱収縮により熱線反射フィルム4にクラックが発生するおそれがある。保持時間は、効果的かつ効率的に予備圧着を行う観点から、20分以上60分以下とすることが好ましい。
【0057】
本圧着は、ガラス基板2、6と熱線反射フィルム4とを接着シート3、5により十分に接着するために行われるものであり、例えば予備圧着が行われた積層体(予備圧着体)をオートクレーブに入れ、温度120℃以上150℃以下、圧力0.98MPa以上1.47MPa以下で30分以上120分以下保持することにより行うことができる。
【0058】
本圧着の保持温度、保持圧力、または保持時間が上記した下限値未満の場合、十分な接着を行うことができないおそれがあり、一方、保持温度、保持圧力、または保持時間が上記した上限値を超える場合、熱収縮により熱線反射フィルム4にクラックが発生するおそれがあり、また生産性等も低下するおそれがある。
【0059】
本発明の合わせガラス1は、自動車、鉄道、船舶等に使用することができ、特に自動車に好適に使用することができる。本発明の合わせガラス1は、欠落部7を有するために熱線反射膜42の腐食が抑制されて耐久性に優れると共に、欠落部7による弊害の発生も抑制されて実用性にも優れることから、自動車、鉄道、船舶等、特に自動車に好適に使用することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の合わせガラスについて、実施例を参照してより詳細に説明する。
【0061】
(実施例1)
樹脂フィルムとして、片面のみに易接着処理が施されたPETフィルム(東洋紡績株式会社製、商品名:コスモシャイン A4100、厚さ50μm)を用意した。このPETフィルムを真空チャンバーに投入し、その易接着処理が施されていない主面上に、マグネトロンスパッタリング法により高屈折率層となるNb層と低屈折率層となるSiO層とを交互に合わせて9層積層することにより熱線反射膜を形成して熱線反射フィルムとした。
【0062】
なお、各Nb層は、NBOターゲット(AGCセラミック社製、商品名:NBO)を用いて、アルゴンガスに5体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しつつ、0.1Paの圧力で周波数20kHz、電力密度5.1W/cm、反転パルス幅5μsecのパルススパッタを行って形成した。
【0063】
また、各SiO層は、Siターゲットを用いてアルゴンガスに27体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しつつ、0.3Paの圧力で周波数20kHz、電力密度3.8W/cm、反転パルス幅5μsecのパルススパッタを行って形成した。
【0064】
各Nb層、SiO層の厚さは、成膜時間を変更することにより調整し、PETフィルム側から順にNb層(95nm)/SiO層(153nm)/Nb層(95nm)/SiO層(153nm)/Nb層(95nm)/SiO層(153nm)/Nb層(95nm)/SiO層(250nm)/Nb層(100nm)とした。
【0065】
次いで、この熱線反射フィルムを挟持するように一対の接着シート(厚さ0.38mmのPVBシート)を重ね合わせた後、これらのものから欠落部となる部分を切断により一括して除去した。なお、欠落部の形状は、図6に示すように熱線反射フィルムおよび一対の接着シートを貫通し、かつ図2に示すように連続する環状のもの(つまり、環状領域全体の長さに対するこの環状領域における欠落部の長さの割合が100%)とした。
【0066】
また、欠落部(切断時)は、予備圧着、本圧着における収縮を考慮して、最終的に合わせガラスとしたときの欠落部の幅(W)が1mm、また接着シートの外縁部から欠落部の外縁部までの距離(W)が5mmとなるようにした。
【0067】
このようにして欠落部が形成されたものを一対のガラス基板(厚さ2mmのクリアガラス)で挟持して積層体とした後、予備圧着、本圧着を行って合わせガラスとした。予備圧着は、積層体を真空バッグに入れ、内部の圧力が約100kPa以下となるように脱気しつつ、120℃で30分間加熱することにより行った。また、本圧着は、予備圧着により得られた予備圧着体をオートクレーブに入れ、温度135℃、圧力1.3MPaで60分間加熱加圧することにより行った。
【0068】
(実施例2)
最終的に合わせガラスとしたときの欠落部の幅(W)が2mmとなるように欠落部を形成したこと以外は実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。
【0069】
(実施例3)
図1に示すように熱線反射膜に積層される接着シートのみに欠落部を形成したこと以外は実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。
【0070】
(比較例1)
欠落部を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。
【0071】
(比較例2)
最終的に合わせガラスとしたときの欠落部の幅(W)が3mmとなるように欠落部を形成したこと以外は実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。
【0072】
(比較例3)
最終的に合わせガラスとしたときの欠落部の幅(W)が4mmとなるように欠落部を形成したこと以外は実施例1と同様にして合わせガラスを製造した。
【0073】
このようにして得られた実施例および比較例の合わせガラスについて、目視により白濁(ヘイズ)の有無を観察した。また、実施例および比較例の合わせガラスについて、恒温恒湿槽(Espec社製、商品名:PR−3KP)により温度80℃、相対湿度95%、1000時間の耐久試験を行い、耐久試験後の熱線反射膜における腐食によるクラックの有無を観察した。なお、クラックの有無は、光学顕微鏡(株式会社キーエンス製、商品名:VH−S30)を用いて任意の2mm×2mmの範囲を観察することにより行った。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1から明らかなように、欠落部の幅(W)を1〜2mm、接着シートの外縁部から欠落部の外縁部までの距離(W)を5mmとした実施例1〜3の合わせガラスについては、接着シートを通した水分の侵入が抑制され、熱線反射膜におけるクラックの発生が抑制されることが認められた。また、脱気も良好に行われ、白濁の発生も抑制されることが認められた。
【0076】
一方、欠落部を形成しなかった比較例1の合わせガラスについては、接着シートを通して水分が侵入することにより、熱線反射膜にクラックが発生することが認められた。また、欠落部を形成したものの、その幅(W)を3mm、4mmとした比較例2、3の合わせガラスについては、接着シートを通した水分の侵入が抑制され、熱線反射膜におけるクラックの発生は抑制されるものの、欠落部の幅(W)が広すぎるために、十分な脱気が行われず、白濁が発生することが認められた。
【0077】
なお、欠落部(W)の幅が0.4mmである場合は、幅が狭すぎるためクラックの発生を十分に抑制することができない。また、欠落部の外縁部からの距離(W)が0.5mmである場合は、外縁部に近すぎるためにクラックの発生を十分に抑制することができず、12mmである場合は、合わせガラスを通しての視界の範囲が十分ではない。
【符号の説明】
【0078】
1…合わせガラス、2…ガラス基板、3…接着シート、4…熱線反射フィルム、5…接着シート、6…ガラス基板、7…欠落部、8…環状領域、41…樹脂フィルム、42…熱線反射膜、W…環状領域の幅、W…接着シートの外縁部から欠落部の外縁部までの距離、a,a,a…欠落部の長さ、b,b,b…欠落部間の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板、接着シート、熱線反射膜を有する熱線反射フィルム、接着シート、およびガラス基板がこの順に積層された合わせガラスであって、
前記熱線反射膜に積層される前記接着シートは、これを外周領域と内側領域とに分離する連続または不連続な欠落部からなる環状領域を有し、前記欠落部の幅が0.5mm以上2.5mm以下、前記接着シートの外縁部から前記欠落部の外縁部までの距離が1mm以上10mm以下、前記環状領域全体の長さに対する前記環状領域における前記欠落部の長さの割合が90%以上であることを特徴とする合わせガラス。
【請求項2】
前記接着シートがポリビニルブチラールからなることを特徴とする請求項1記載の合わせガラス。
【請求項3】
前記欠落部が連続することを特徴とする請求項1または2記載の合わせガラス。
【請求項4】
前記欠落部が前記一対の接着シートおよび前記熱線反射フィルムに同一の平面形状となるように設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の合わせガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−144061(P2011−144061A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5133(P2010−5133)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】