説明

合成樹脂や金属の製品に対するメッキを用いた塗装法

【課題】樹脂や金属の製品の処理工程で環境汚染なく、排水処理設備なしで堅牢に塗装する方法を提供する。
【解決手段】槽内の製品に対しアルコール類添加の液状の亜臨界二酸化炭素(流体)を噴射して脱脂と粉塵除去をし、液状流体中超音波で粗面を形成し、前処理液を浸漬後、紫外線照射で粗面を固化し、製品を液状流体で洗浄後、製品に界面架橋剤を付着させ、再度洗浄し、槽内の製品に無電解銅メッキをして通電性ある銅メッキ薄膜(A薄膜)であり、さらに槽外でA薄膜に対しガス状流体を噴射圧に利用して無電解銅塗料を静電塗装ガンから噴射して銅メッキ皮膜(B皮膜)であり、最後に、静電塗装ガンで液状とガス状の流体を塗料溶剤と噴射圧に利用してB皮膜にニッケル仕上げのトップコートを噴射したニッケル塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成樹脂や金属の製品に対するのメッキを用いた塗装法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂成形品や金属製品は製品の商品価値を高めるために各種の塗装がなされているが、合成樹脂成形品の場合はそのままでは静電塗装ができず、金属製品の場合は塗面が剥離しやすく問題があり、良質な皮膜を得ることが困難であった。特許文献2によれば、クロム酸溶液やアルカリ溶液などの使用がなく、前処理が簡単で触媒の回収が可能で汚染物質の排出がなく、プラスチックに超臨界流体を接触させることにより、プラスチックのメッキを可能にするという記載がみられ、メッキにフクレがなく、光沢のある均一な厚さのメッキ膜が得られるという記載がみられるが、通常のメッキ仕上げに対比できるものなのか否かは不明であり、とくに塗装との組合せについての工夫などはみられない。なお、特許文献1には超臨界流体による洗浄効果が先駆的に紹介されているのみである。塗装に関しては従来、静電塗装が大幅に普及しているが、高電圧を使用するため溶剤等の引火や爆発事故の問題があり、人身事故や作業環境に特段の注意が欠かせず、万全の注意を払う必要があり、改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4038172号
【特許文献2】特開2001−316832
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車や各種家電産業などで広く使用されている合成樹脂成形品あるいは金属製品の塗装作業で、有害物質や環境汚染物質を用いないプロセスが求められており、本発明は有機溶剤等の環境汚染物質を一切使用せず、排水処理設備無しで塗装をおこなうことを目的にして種々研究をかさねた結果、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、ここにおいて本発明者は、処理槽(以下、槽と略記)内の合成樹脂成形品あるいは金属製品(両者を以下、製品と略記)に対しアルコール類を添加した亜臨界二酸化炭素(以下、流体と略記)の液状物をシャワー状に噴射して脱脂と粉塵除去をし、次に液状流体中で超音波を発振して表面に微細な掘削孔を分散形成し、製品に界面活性剤入りのトリアジンチオールを浸漬後、紫外線を照射し結果的に溶射して掘削孔を固化し、槽内の製品を液状流体で洗浄後、製品に界面架橋剤を浸漬付着させ、液状流体で洗浄後、無電解銅メッキをして固化部分に架橋し接合を強化した「下塗りの銅メッキ薄膜」を得て通電性を付与し、さらにガス状流体を噴射圧に利用して、槽外で無電解塗装ガンにより無電解銅塗料を噴射塗布して「中塗りの銅メッキ皮膜」を得、最後に、「中塗りの銅メッキ皮膜」に対し液状とガス状の流体をそれぞれ塗料溶剤と噴射圧にして静電塗装ガンでニッケル仕上げのトップコートを噴射して「ニッケル塗膜」を得ることからなる合成樹脂成形品あるいは金属製品(略記せず)に対しメッキを用い塗装する方法を見出し、さらに、一般の静電塗装法として、液状とガス状の亜臨界二酸化炭素をそれぞれ塗料溶剤と静電塗装ガンにおける塗料の噴出圧に使用できることを見出すに至った。
【0006】
なお、上記において処理槽で最初に液状の流体に添加するアルコール類としてはメタノールやイソプロパノール等を使用し、界面架橋剤については(株)日本カニゼン製のパラジウム液リガクXps−7000やSE−680を使用する。
【発明の効果】
【0007】
本発明では合成樹脂成形品や金属製品(以下、製品と総称)に対し前処理段階で超音波を照射してこれらの表面を微細に掘削して微小な掘削孔を多数設け、それらに前処理液を浸漬し紫外線を溶射して固化し、固化部分に架橋して界面の接合が強化され塗装面を堅牢にするので、塗膜は剥離を強力に防止する効果がある。なお、本発明における無電解メッキにより得られる薄膜は10ミクロン程度の厚さがあり、通電性がある。本発明ではこれに対し、さらに無電解塗装により30ミクロン程度の厚手皮膜にメッキしてから塗膜を得るようにしてある。なお、無電解メッキや無電解塗装により得られ皮膜製品では艶がなく用途が限定されるので、合成樹脂成形品の静電塗装品を光沢性や装飾性のある電気メッキ品にすることも可能である。とくに、本発明の最大の特徴は、作業の全工程において有機溶剤など環境汚染源となる物質を一切使用せず、工業用水も全く使用しないので、排水処理設備が無く、環境保全の要請に応えていることである。また、本発明の塗装段階において亜臨界二酸化炭素を塗料溶剤ならびに塗料の噴射圧に使用できるので、二酸化炭素を循環使用すれば総じて地球温暖化防止に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の合成樹脂成形品や金属製品を塗膜で被覆する方法を実施するために使用される構成機器類の配置を示す概略図である。
【図2】静電スプレーガンの使用状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明により合成樹脂成形品や金属製品をメッキを経由して塗装する手順の概略を述べれば、処理槽内の製品に亜臨界二酸化炭素(以下、流体と略記)の液状物ををシャワー状に噴射して脱脂洗浄をし、次いで超音波を発振してエッチングをおこない、トリアジンチオールを浸漬して親水基を付与してから紫外線を溶射し、さらに界面架橋剤を浸漬して親水基を固定し導電性を付与して、界面架橋剤で固化部分の接合を補強したあと、無電解メッキをして「下塗りの銅メッキ薄層」を得て通電性を付与し、さらに槽外で無電解塗装ガンにより無電解塗料を噴射塗布して「中塗りの銅メッキ皮膜」を得、最後に、「中塗りの銅メッキ皮膜」に対し液状とガス状の流体をそれぞれ塗料溶剤と噴射圧にして静電塗装ガンでニッケル仕上げのトップコートを噴射して「ニッケル塗膜」を得る。したがって、以上の本発明において無電解メッキがなされる前の超音波や紫外線による前処理工程が極めて重要な役目をは果たしているといえる。
【0010】
以下、本発明によるメッキを経由して塗装に至る手順について詳細に説明する。まず、処理槽1内に「合成樹脂成形品あるいは金属製品」(以下、製品と略記)を収納して密封し、流体として市販のボンベ17から液化二酸化炭素にアルコール類と界面活性剤を添加混合して洗浄力を高め凝縮槽5に送る。凝縮槽5内部が外部チラー15の冷却循環によりCO2 を洗浄用に最適な亜臨界状態にする。ついで、処理槽内の製品にアルコール類を含有した液状の流体をノズルを介しシャワー状に噴射して製品に付着の粉塵の除去と液状流体浸漬による脱脂を図る。
【0011】
処理槽1 内は液状の流体で満たされているが、引き続き、処理槽1 に内蔵されている超音波発生装置23の耐圧封入式超音波振動子に通電して超音波を発振し、製品表面をエッチングして粗面化する。なお、金属の場合は粗面化の程度が弱い。
【0012】
処理槽1 内で汚染された液状流体を下方位置にある蒸発槽4に落下させ、蒸発槽4内部を加熱部12で加熱してガス状流体と油状粉塵に分離し、逆止弁により蒸発槽4内のガス状流体が処理層1に逆流することを防止し、蒸発槽4内のガス状流体を凝縮槽5に通じる管路に介在するフィルター18で濾過して凝縮槽5に入れ、油状粉塵はドレン回収部14に沈殿するので、それを一定量毎に交換して更新する。凝縮槽5ではガス状流体が冷却されて液状流体に戻るので再生利用するが、以上において流体の循環を数回繰り返せば製品の完全な粉塵除去と脱脂洗浄が達せられる。
【0013】
以上により製品の表面が粗面化されたのち、凝縮槽5から処理槽1への管路を閉鎖して処理槽1内の液状流体を蒸発槽4へ落下させれば、処理槽1内はガス状流体となるので、処理槽1と前処理液槽6を往復する2本の管路の弁を開け、処理槽1内のガス状流体を前処理液槽6に送り、メッキ前処理液として界面活性剤入りのトリアジンチオールを処理槽1へ落下させて気液を交換し、製品に前記のメッキ前処理液を浸漬して表面に水酸基やカルボキシル基を生成させ、処理槽1内のメッキ前処理液を前処理液回収槽9へ吐出させて短時間で気液を交換後、処理層1内にある耐圧封入式紫外線照射部3から紫外線溶射して製品粗面に付着したメッキ前処理液を乾燥し官能基を固定する。次に前処理液回収槽9のポンプで回収液をメッキ前処理液槽6へ送り再び利用する。また、メッキ濃度を維持するため適度に前処理液を前処理液回収槽9に補充する。
【0014】
処理槽1と界面架橋剤槽7を往復する2本の管路の弁を開けて処理槽1内のガス状流体を界面架橋剤槽7に送り、界面架橋剤を処理槽1へ落下させて気液を交換し短時間で入替え、製品に界面架橋剤を浸漬付着させ、界面架橋剤槽7と処理槽1間の管路を閉じて処理槽1内の界面架橋剤を界面架橋剤回収槽10へ落下させ、凝縮槽5内の液状流体を処理槽1内の製品にシャワー状に噴射して洗浄した後、界面架橋剤回収槽10のポンプでを回収液を界面架橋剤槽7に送る。また、メッキ濃度を維持するために適度に界面架橋剤を界面架橋剤回収槽10に補充する。
【0015】
処理槽1と無電解液槽8を往復する2本の管路の弁を開けて処理槽1内のガス状流体を無電解液槽8に送り、メッキ無電解液を処理槽1へ落下させて気液を交換し、成形品にメッキ無電解液を浸漬付着させて無電解メッキを図り、薄層の下塗りメ ッキ薄膜を得る。つぎに処理層1内のメッキ無電解液を下部管路開閉弁を開け、無電解液槽8と処理槽1の管路を閉じて無電解液回収槽11へ落下させる。処理槽1の上部管路を開け凝縮槽5内の液状流体をシャワー状に処理槽1内の製品に噴射して再洗浄し、次に無電解液回収槽11のポンプで回収液を無電解液槽8に送り再び利用する。また、メッキ濃度を維持するために適度に無電解液回収槽11に無電解液を補充をする。
【0016】
事前に前処理液槽6と界面架橋剤槽7と無電解液槽8に残留しているガス状流体を逆止弁で逆流を防ぎガス状流体回収槽19に流入させる。ガス状流体回収槽19のガス状流体が静電コントローラー22の指令で高温高電圧ヒーター部のヒーターにより加温されて、たえず一定圧に高温加圧され静電塗料液槽20に圧送され噴霧液ガス圧となる。
【0017】
処理槽1から取り出されたメッキ無電解液で薄層に下塗りメッキをされた製品は、静電コントローラー22から送られたアース線により通電状態となり、静電塗装用ガン21内部の無電解粒子に静電コントローラー22から送られた高温高電圧ヒーター部によりCO2 のドライアイス化防止とコロナ放電によりマイナスイオンが電荷され噴霧液となり、薄膜に下塗りメッキされた製品のプラスイオン表面に無電解静電メッキすることで中塗りの銅メッキ皮膜が得られる。
【0018】
仕上げの塗装は静電コントローラー22から送られた静電塗装用ガン21内の高温高電圧ヒーター部によりCO2 のドライアイス化防止とコロナ放電により静電塗料液粒子にマイナスイオンが電荷され噴霧液となり、中塗りされたメッキ皮膜製品のプラスイオン表面に静電塗装することで堅牢度の優れた上塗りの塗装皮膜が得られる。また、その後に赤外線照射焼付けで皮膜硬化をしてもよい。
【実施例1】
【0019】
ABSやポリプロピレン樹脂使用の試験片について、下記の諸薬品並びに超音波発振装置と紫外線照射装置を使用して前記「発明を実施するための形態」の欄の記載に従い発明内容を実施した。
【0020】

『試験片の洗浄に際し、液状の亜臨界二酸化炭素に対し「アルコール類」としてイソプロパノールやエタノールを合計3%添加した。メッキ前処理液としてアルキル硫酸エステルナトリウムを加えた(有)いおう化学研究所のトリアジンチオールTESを使用し、界面架橋剤に(株)日本カニゼンのパラヂウム液リガクXps−7000やSE−680を、無電解液にカニゼン[S−KPD]Cu液,ニッケル仕上げのトップコートにカニゼン[EPR−3]Niニッケル電解液NiーP−PTFEをそれぞれ使用した。
静電塗装は静電コントローラーから10万ボルトの高電圧をかけてコロナ放電を発生させ、静電ガンより噴出の塗料のマイナス粒子が合成樹脂成形品のプラス極に引き付けられて、被塗装品の裏側にまで廻り込み塗装を可能にする特徴を示す。なお、実施例では二酸化炭素をおよそ25〜28℃、5〜6MPa前後の亜臨界状態で使用した。
超音波発振装置:(株)サン電子社製(特注製)
超耐圧20Mp/28KHz,1800W
紫外線照射装置:Heraeus社製(特注製)低圧水銀燈
超耐圧20Mp/対流冷却式オゾンランプ
発光長438mm 125WX2本
皮膜測定装置:(株)キーエンス社製
カラー3Dレザー顕微鏡VK−9700』
【0021】
実施例1における超音波処理の効果が確認されたので、その結果を表1、表2に示す。表2は超音波未処理の試験片(No.1、2、3、10、11、12、13、14)の測定と5分間の超音波処理試験片(No.1、2、3、10)の測定と10分間の超音波処理試験片(No.11、12、13、14)の測定結果を比較したデータである。これをみると、試験片No.1、2、3、10の超音波未処理の測定値は合計2.459で試験片No.11、12、13、14の超音波未処理の測定値は合計2.741であった。また、5分間の超音波処理の測定値は合計3.058、10分間の超音波処理の測定値は合計4.15であり、10分間の超音波処理の測定値が最も良い結果であった。実施例1における樹脂の塗装面の剥離テストの結果を表3でみると、剥離強度が自動車産業における塗装皮膜の基準値0.8kN/mを上回って1.1と1.2kN/mであり効果が確認された。なお、銅の試験片についても実施例1の場合と同様、塗装に至る一連の工程を経て得られた塗装面について塗膜の剥離強度を測定し、同等の剥離強度が得られており、金属面に対する塗装の効果も確認されている。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明により合成樹脂成形品や金属製品に対し無公害で堅牢な塗膜が得られるので、本発明による塗装品が各分野で広く生産されるものと期待される。
【符号の説明】
【0026】
1 処理槽
2 超音波振動子
3 紫外線照射部
4 蒸発槽
5 凝縮槽
6 前処理液槽
7 界面架橋剤槽
8 無電解液槽
9 前処理液回収槽
10 界面架橋剤回収槽
11 無電解液回収槽
12 加熱部
13 冷却部
14 ドレン回収部
15 チラー
16 二酸化炭素ポンプ
17 二酸化炭素ボンベ
18 フィルター
19 亜臨界二酸化炭素回収槽
20 静電塗料液槽
21 静電塗装用ガン
22 静電コントローラー
23 超音波発振装置
24 アルコール系界面活性剤槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽(以下、槽と略記する)内の合成樹脂成形品あるいは金属製品(以下、両者を製品と略記する)に対しアルコール類を添加した亜臨界二酸化炭素(以下、流体と略記する)の液状物をシャワー状に噴射して脱脂と粉塵除去をし、次に液状流体中で超音波を発振して表面に微細な掘削孔を分散形成し、製品に界面活性剤入りのトリアジンチオールを浸漬後、紫外線を照射して掘削孔を固化し、槽内の製品を液状流体で洗浄後、製品に界面架橋剤を浸漬付着させ、液状流体で洗浄後、無電解銅メッキをして固化部分に架橋し接合を強化した「下塗りの銅メッキ薄膜」を得て通電性を付与し、さらにガス状流体を噴射圧に利用して、槽外で無電解塗装ガンにより無電解銅塗料を噴射塗布して「中塗りの銅メッキ皮膜」を得、最後に、「中塗りの銅メッキ皮膜」に対し液状とガス状の流体をそれぞれ塗料溶剤と噴射圧にして静電塗装ガンでニッケル仕上げのトップコートを噴射して「ニッケル塗膜」を得ることからなる合成樹脂成形品あるいは金属製品に対しメッキを用い塗装する方法。
【請求項2】
液状とガス状の亜臨界二酸化炭素をそれぞれ塗料溶剤と静電塗装ガンにおける塗料の噴出圧に使用することを特徴とする静電塗装法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−245456(P2011−245456A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123998(P2010−123998)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(597038080)株式会社SR開発 (1)
【Fターム(参考)】