説明

合成樹脂組成物およびそれを用いた合成樹脂製床材

【課題】合成樹脂組成物において、可塑剤として各種酸のエステルが用いられている場合に、各種酸のエステルが分解して発生する2−エチルヘキサノールなどのアルコールに起因する臭気の発生を防止した新規な合成樹脂組成物およびそれを用いた合成樹脂製床材の提供。
【解決手段】(A)イソシアネート基と反応性を有する基をもつ不飽和脂肪酸モノグリセリド、イソシアネート基と反応性を有する基をもつ不飽和脂肪酸ジグリセリドおよびイソシアネート基と反応性を有する基をもつ不飽和脂肪酸トリグリセリドよりなる群から選ばれた不飽和脂肪酸グリセリドに、ジイソシアネートおよびトリイソシアネートよりなる群から選ばれたイソシアネート化合物を反応させて得られた、未反応のイソシアネート基含有不飽和脂肪酸グリセリドのイソシアネート変性体と (B)可塑剤とを含有することを特徴とする合成樹脂組成物およびそれを用いた合成樹脂製床材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−エチルヘキサノールの発生を大幅に押さえた合成樹脂組成物およびそれを用いた合成樹脂製床材とくに塩化ビニル系樹脂製床材に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂製床材とくに塩化ビニル系樹脂製床材には、フタル酸エステル系可塑剤が大量に用いられているが、このフタル酸エステル系可塑剤が下地湿気あるいはそれによるコンクリート中からのアルカリ性物質などの影響により臭気発生の原因になっていることは知られている。
例えば、2002年4月に発行された日衛誌第57巻第1号第290ページ(非特許文献1)に開示されているように、建材中のフタル酸エステル系可塑剤に起因する2−エチルヘキサノールがシックハウス症侯群の原因となっていることが報告されている。
【0003】
その対応策の1つとしてフタル酸エステル系可塑剤の使用を回避することが考えられ、その1つとして塩素化パラフィンの使用が提案されているが、どうしても充分な可塑化効果が得られないという問題点がある。
【0004】
【非特許文献1】日本衛生学雑誌第57巻第1号第290ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、合成樹脂組成物、とくに塩化ビニル系樹脂組成物において、可塑剤として各種酸のエステルが用いられている場合に、各種酸のエステルが分解して発生する2−エチルヘキサノールなどのアルコールに起因する臭気の発生を防止した新規な合成樹脂組成物およびそれを用いた合成樹脂製床材を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、(A)イソシアネート基と反応性を有する基をもつ不飽和脂肪酸モノグリセリド、イソシアネート基と反応性を有する基をもつ不飽和脂肪酸ジグリセリドおよびイソシアネート基と反応性を有する基をもつ不飽和脂肪酸トリグリセリドよりなる群から選ばれた不飽和脂肪酸グリセリドに、ジイソシアネートおよびトリイソシアネートよりなる群から選ばれたイソシアネート化合物を反応させて得られた、未反応のイソシアネート基含有不飽和脂肪酸グリセリドのイソシアネート変性体と
(B)(イ)フタル酸エステル系可塑剤
(ロ)トリメリット酸エステル系可塑剤
(ハ)脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤
(ニ)リン酸エステル系可塑剤
よりなる群から選ばれた少なくとも1種の可塑剤
とを含有することを特徴とする合成樹脂組成物に関する。
本発明の第2は、(A)の未反応のイソシアネート基含有不飽和脂肪酸グリセリドのイソシアネート変性体を(B)の可塑剤に対し、0.1〜10重量%用いるものである請求項1記載の合成樹脂組成物に関する。
本発明の第3は、合成樹脂が少なくとも塩化ビニル系樹脂を含むものである請求項1または2記載の合成樹脂組成物に関する。
本発明の第4は、請求項1〜3いずれか記載の合成樹脂組成物よりなる合成樹脂製床材に関する。
【0007】
本発明でいう(B)の可塑剤である(イ)のフタル酸エステル系可塑剤は、通常下記一般式
【化1】

(式中、RおよびRはアルキル基、とくに好ましくはC数4〜12のアルキル基であり、アルキル基は直鎖でも分岐でもよい)
で示されるフタル酸ジアルキルエステルである。
具体的化合物としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソヘプチル(DHP)、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジ(n−デシル)(DnDP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、などを挙げることができる。また、フタル酸と反応させる原料アルコールとしてnC6〜10の混合アルコールやnC7〜11の混合アルコールを用いて得られたフタル酸ジアルキルエステルであってもよい。
【0008】
本発明でいう(B)の可塑剤である(ロ)のトリメリット酸エステル系可塑剤は、芳香族環を有する三塩基酸のエステルであり、フタル酸エステルに近い相溶性を示す。三塩基酸に反応させるアルコールとしては、通常、C4〜11のアルコールが、単独または混合物の形で用いられる。もっとも代表的なトリメリット酸エステルとしては、トリメリット酸−トリ−2−エチルヘキシル(TOTM)、トリメリット酸−トリイソノニル(TNTM)、トリメリット酸トリイソデシル(TIDTM)、トリメリット酸のC〜C10混合アルコールなどがある。
【0009】
本発明でいう(B)の可塑剤である(ハ)の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤としては、アジピン酸エステル、アゼライン酸エステル、セバシン酸エステルなどがあり、いずれも脂肪族二塩基酸に炭素数4〜12の脂肪族アルコールを単独または混合物の形で反応させて得られたものである。具体的にはアジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸とC〜C脂肪族アルコール混合物とのエステル、アジピン酸とC6〜10脂肪族アルコール混合物とのエステル、アゼライン酸ジオクチル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシルなどがある。
【0010】
本発明でいう(B)の可塑剤である(ニ)のリン酸エステル系可塑剤としては、リン酸トリブチル、リン酸トリ−2−エチルヘキシル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸トリキシリルなどを挙げることができる
【0011】
本発明に用いる(A)の未反応のイソシアネート基含有不飽和脂肪酸グリセリドのイソシアネート変性体は、イソシアネート基と反応性を有する基をもつ不飽和脂肪酸モノグリセリド、イソシアネート基と反応性を有する基をもつ不飽和脂肪酸ジグリセリドおよびイソシアネート基と反応性を有する基をもつ不飽和脂肪酸トリグリセリドよりなる群から選ばれた不飽和脂肪酸グリセリドに、ジイソシアネート化合物およびトリイソシアネート化合物よりなる群から選ばれたイソシアネート化合物を反応させて得られる。本発明に用いる(A)の未反応のイソシアネート基含有不飽和脂肪酸グリセリドのイソシアネート変性体におけるイソシアネート基含有量は、10〜40%、好ましくは10〜35%である。
【0012】
前記イソシアネート基と反応性を有する基としては、OH基、NH基、SO基、COOH基、CONH基などを挙げることができる。このようなイソシアネート基と反応性を有する基をもつ不飽和脂肪酸グリセリドとしては、たとえばリシノール酸(ricinoleic acid)グリセリド、レスケロール酸(lesquerolic acid)グリセリド、トランス−10−ヒドロキシ−2−デセン酸グリセリドなどを挙げることができる。
リシノール酸グリセリドとしては、リシノール酸モノグリセリド、リシノール酸ジグリセリドおよびリシノール酸トリグリセリドがあり、リシノール酸グリセリドを多く含む油脂としての代表的なものとしてはヒマシ油を挙げることができる。
【0013】
前記不飽和脂肪酸グリセリドとの反応に用いるイソシアネート化合物としては、p−フェニレンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3,6−フェニレントリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0014】
本発明に用いる(A)の未反応のイソシアネート基含有不飽和脂肪酸グリセリドの代表的なものとしては、ヒマシ油にジイソシアネートを反応させて得られた末端にイソシアネート基を有する液状高分子を挙げることができる。
ヒマシ油の代表的成分であるリシノール酸のトリグリセリドの構造をモデル的に示すと下記のとおりであり、このOH基がイソシアネート化合物と反応するものである。このように、本発明における未反応のイソシアネート基含有不飽和脂肪酸グリセリドのイソシアネート変性体(A)は、イソシアネート化合物中のイソシアネート基のすべてが、不飽和脂肪酸グリセリドに含まれるイソシアネート基と反応性を有する基と反応するのではなく、反応生成物中には未反応のイソシアネート基が残留する条件で反応させたものである。
【化2】

【0015】
本発明における未反応のイソシアネート基含有不飽和脂肪酸グリセリドのイソシアネート変性体(A)は、PPG、ポリエステルポリオールに比べて、耐水性、耐加水分解性、電気絶縁性に優れ、またポリブタジエンポリオール、ポリエステルポリオールに比べて低粘度である。
本発明における未反応のイソシアネート基含有不飽和脂肪酸グリセリドのイソシアネート変性体(A)は、(B)の可塑剤に対して有効量を使用すればよい。前記未反応のイソシアネート基含有不飽和脂肪酸グリセリドのイソシアネート変性体(A)は、通常(B)可塑剤100重量部に対し、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部使用する。
【0016】
前記合成樹脂としては、塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンなどを挙げることができる。
【0017】
これらの合成樹脂100重量部に対して可塑剤は10ないし150重量部が使用される。さらに本発明の合成樹脂組成物には充てん材、安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤などの従来より知られている各種添加剤を使用してもよい。充てん材の使用量は合成樹脂100重量部に対して通常0〜400重量部である。安定剤についても合成樹脂100重量部に対して通常1〜5重量部である。これらの配合割合は用途によっても異なる。床材についての使用例を示すと、合成樹脂100重量部に対して、可塑剤20ないし100重量部、充てん材は0〜300重量部、安定剤1〜5重量部、からなる合成樹脂組成物が一般的である。
ただしこれらの数値は本発明を何ら限定するものでは決してない。
【0018】
本発明の組成物を床材に使用する場合は、アルカリ水が下地のコンクリートに起因することが多いので、床材の下層部ないし裏面層に適用するのが好ましい。この場合は表面層として透明耐摩耗層、その下に印刷などの意匠層、本発明の組成物よりなる裏面層のように多層構造とすることにより意匠性、耐久性などの諸性能を満足させ且つ臭気の発生も防止できるので好ましい。もちろん全層に本発明の樹脂組成物を使用してもよいし、単一層の床材に適用してもよい。さらにはカーペットタイルの合成樹脂製裏打ち材や、壁紙などにも適用できる。
【0019】
次に一般的な床材の構成について説明する。まず、全厚は1.5〜15mmが一般的である。最上層の合成樹脂製透明耐摩耗層の厚みは0.2〜1.0mmである。この合成樹脂製透明耐摩耗層の下に通常印刷などの意匠層が設けられる。印刷層は合成樹脂製透明耐摩耗層の裏面に形成してもよいし、その下の層に印刷してもよい。さらには、意匠層として合成樹脂シートの上にチップ等を散布したり、チップ同士を固めて形成したシートなども使用できる。これらの意匠層の厚さは0.3〜2.0mmである。この意匠層の下にさらに中間層、裏打ち層などが形成される。これらの層の厚さも0.5〜5.0mmが一般的である。さらにこれらの層の間の所望位置にガラス繊維不織布などの繊維製補強材を介挿してもよい。これらの補強材は機械的な強度や寸法安定性の向上に効果がある。ただしこれらの数値は本発明を限定するものでは決してない。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、(B)の可塑剤を含有する合成樹脂組成物において、可塑剤の分解により発生するアルコール、とくにフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、トリメリット酸−トリ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸トリ−2−エチルヘキシルなどの可塑剤を含有する合成樹脂組成物、とくに塩化ビニル系樹脂組成物において、フタル酸エステルの分解により発生する2−エチルヘキサノールなどのアルコール成分を、前記(A)の未反応のイソシアネート基含有不飽和脂肪酸グリセリドのイソシアネート変性体におけるイソシアネート基により捕捉し、これにより悪臭の発生を防止することができる。
【実施例】
【0021】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0022】
実施例1、2、比較例1、2
添加剤として、イソシアネート基含有量15〜17重量%、粘度1800〜3200mPa・s(25℃)、官能基数2のヒマシ油変性ポリイソシアネート(表1中ではヒマシ油変性NCOと表示)〔伊藤製油(株)製 商品名N−2023〕(可塑剤に対し4重量%使用)を用い、下記表の組成をもつ塩化ビニル樹脂製床材を作成した。比較として、下記表の組成をもつ「未反応イソシアネート基を含まない塩化ビニル樹脂製床材」も同時に作成した。
【0023】
【表1】

【0024】
作成した床材を、そのままの状態と、下地湿気を想定し2wt%のNaOH水溶液に24時間浸漬したものについて、アルコール類の発生量をJIS A 1901(小形チャンバー法)によって測定し、効果を確認した。その結果を図1に示す。
図1から明らかなように、可塑剤としてDOPを使用した場合、2−エチルヘキサノールが、またDINPを用いた場合、イソノニルアルコールが放散されるが、本実施例は、NaOH浸漬後においても、それらの放散が小さいことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1〜2および比較例1〜2のアルコール類の放散速度の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イソシアネート基と反応性を有する基をもつ不飽和脂肪酸モノグリセリド、イソシアネート基と反応性を有する基をもつ不飽和脂肪酸ジグリセリドおよびイソシアネート基と反応性を有する基をもつ不飽和脂肪酸トリグリセリドよりなる群から選ばれた不飽和脂肪酸グリセリドに、ジイソシアネートおよびトリイソシアネートよりなる群から選ばれたイソシアネート化合物を反応させて得られた、未反応のイソシアネート基含有不飽和脂肪酸グリセリドのイソシアネート変性体と
(B)(イ)フタル酸エステル系可塑剤
(ロ)トリメリット酸エステル系可塑剤
(ハ)脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤
(ニ)リン酸エステル系可塑剤
よりなる群から選ばれた少なくとも1種の可塑剤
とを含有することを特徴とする合成樹脂組成物。
【請求項2】
(A)の未反応のイソシアネート基含有不飽和脂肪酸グリセリドのイソシアネート変性体を(B)の可塑剤に対し、0.1〜10重量%用いるものである請求項1記載の合成樹脂組成物。
【請求項3】
合成樹脂が少なくとも塩化ビニル系樹脂を含むものである請求項1または2記載の合成樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の合成樹脂組成物よりなる合成樹脂製床材。

【図1】
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【公開番号】特開2007−106972(P2007−106972A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314332(P2005−314332)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000133076)株式会社タジマ (34)
【Fターム(参考)】