説明

合成樹脂製タンク用孔明け装置

【課題】切り屑等の残留を防止するだけでなく、刃の折損やタンクの変形をも防止して合成樹脂製のタンクに対する円形孔の加工を実行する。
【解決手段】タンク孔明け装置1は、刃物ユニット10と、刃物昇降装置20と、刃物回転装置30と、スクラップ処理装置40と、水平移動装置50と、制御装置60とから構成される。刃物ユニット10の回転軸15は中空パイプによって構成され、その上端がスクラップ処理装置50に接続される。刃物ユニット10は、切り裂き刃11の刃先11aが切削刃12の刃先12aよりも飛び出した関係とされ、切り裂き刃11で材料を切り裂くと密閉した内側で切削刃12による切削で切り抜きを進行させ、負圧によって貫通した後のスクラップを吸着回収し、正圧に切り替えて排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンクの孔明け装置に関するものであり、特に、自動車等の燃料タンクとして用いる合成樹脂製タンクに円形の孔を明けるための装置に関するものである。
【0002】
燃料タンクに孔明けする際には、切り抜かれたスクラップがタンク内に落ち込まない様にする必要がある。このため、従来、図11(A)に示す様に、カッタ刃101の回転中心にドリル102を装備し、このドリル102で切り抜かれる部分の中心を螺合して保持しつつカッタ刃101,101を回転させながらタンク103の内部に向かって押し込む方法により円形の切り抜き作業を行う装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−361505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の提案する孔明け装置では、図11(B)に示す様に、切り屑104がタンク103内に残留してしまい、その除去・検査のための作業工程が必要になるという問題がある。また、カッタ刃101の押し込みによるタンク103の変形や、刃101の折損という問題もある。
【0005】
そこで、本発明は、スクラップの残留防止だけでなく、切り屑の残留も防止することができ、かつ、タンクの変形を生じることもなく、刃の折損のおそれもない装置を提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達するためになされた本発明の合成樹脂製タンク用孔明け装置は、合成樹脂製のタンクに対して円形の孔を開口するための孔明け装置であって、以下の構成を備えていることを特徴とする。
【0007】
(1)円筒状で下端に鋭い刃先を形成された切り裂き刃と、この切り裂き刃の内側に配置された下端に樹脂を掬い取る形状の刃先を備えた切削刃とから構成され、前記切り裂き刃の刃先が前記切削刃の刃先よりも飛び出した状態となる様に一体化させた刃物ユニットを備えていること。
【0008】
(2)前記刃物ユニットが装着される回転軸は中空とされていること。
【0009】
(3)前記刃物ユニットを昇降させる刃物昇降装置と、前記刃物ユニットを回転させる刃物回転装置と、前記刃物ユニットの内側に負圧を発生させてスクラップを吸着すると共に正圧を発生させて当該スクラップを排出する処理を実行するスクラップ処理装置と、これら刃物昇降装置、刃物回転装置及びスクラップ処理装置を駆動制御する制御装置を備えていること。
【0010】
(4)前記制御装置は、前記刃物回転装置の回転数を所定回転数に上げた後、前記刃物ユニットと前記タンクとを接触させ、切削を開始する様に、前記刃物昇降装置及び刃物回転装置を駆動制御する処理を実行する様に構成されていること。
【0011】
(5)前記制御装置は、少なくとも前記切り裂き刃の刃先がタンクを貫通するよりも前に刃物ユニットの内部に負圧を発生させ、前記切り裂き刃の刃先がタンクを貫通したら、前記刃物ユニットの下降動作を停止すると共に該刃物ユニットをタンクから抜き出した状態にし、所定の排出位置で刃物ユニットの内部を正圧に切り替える様に、前記刃物昇降装置及びスクラップ処理装置を駆動制御する処理を実行する様に構成されていること。
【0012】
本発明の合成樹脂製タンク用孔明け装置によれば、切削刃を切り裂き刃(カッタ刃)の中に嵌合し、カッタ刃で材料を切り裂くと同時に内部を密閉し、その内側で切削刃による切削を行なって材料を除去する。内側には負圧を与え、貫通した後もスクラップを吸着保持するとともに、切り屑については、これを吸い上げて排出してしまうことができる。スクラップは、刃物ユニット内を正圧に切り替えることによって所定のスクラップ処理位置で排出する。なお、カッタ刃は最初の食い込みと最後の貫通の際を除けば、切削刃の切削の進行に伴って切り裂き動作が自然に進行していくので、刃先の折損を生じにくく、タンクにも大きな押圧負荷は加わらない。
【0013】
ここで、(5)の構成において刃物ユニットをタンクから抜き出した状態にする方法としては、刃物を上昇させる方法、タンクを下降させる方法のいずれを採用してもよい。また、スクラップ排出位置は、孔明け加工を実行する位置から水平方向にずれた位置、孔明け加工を実行した位置のいずれとすることもできる。孔明け加工を実行した位置としてもよいのは、インデックステーブルでタンクを回転させて退避させたり、ローラコンベアでタンクを移動させて退避させることにより、孔加工位置の下方のスペースをあけ、そこにシュートなどを登場させ、スクラップを落として排出するといった構成にすることも可能だからである。
【0014】
本発明の合成樹脂製タンク用孔明け装置は、さらに、以下の構成をも備えるものとするとよい。
【0015】
(3A)前記刃物ユニットを水平方向に移動させる水平移動装置をも備え、前記制御装置は、前記刃物昇降装置、刃物回転装置及びスクラップ処理装置に加えて、該水平移動装置をも駆動制御する様に構成されていること。
【0016】
(5A)前記制御装置は、少なくとも前記切り裂き刃の刃先がタンクを貫通するよりも前に刃物ユニットの内部に負圧を発生させ、前記切り裂き刃の刃先がタンクを貫通したら、前記刃物ユニットの下降動作を停止すると共に該刃物ユニットをタンクから抜き出せる位置まで上昇させて水平方向に移動させ、所定の排出位置で刃物ユニットの内部を正圧に切り替える様に、前記刃物昇降装置、水平移動装置及びスクラップ処理装置を駆動制御する処理を実行する様に構成されていること。
【0017】
前述の様に、スクラップ排出位置を孔加工位置付近とすることも可能であるが、そうなるとタンクの退避動作の後でなければスクラップ排出処理が実行できない。これに対し、(3A),(5A)をも備えるものとすることで、刃物ユニットをタンクから抜き出した後のスクラップ排出処理のための動作は、タンクの退避動作と無関係に実行することができる様になるという利点がある。なお、(5A)の処理の途中で、タンクから刃物ユニットが抜き出されたときに刃物回転装置による刃物の回転を停止する様にしておくとよい。
【0018】
同じく上記目的を達するためになされた本発明のもう一つのタイプの合成樹脂製タンク用孔明け装置は、合成樹脂製のタンクに対して円形の孔を開口するための孔明け装置であって、以下の構成を備えていることを特徴とする。
【0019】
(11)下端に樹脂を掬い取る形状の刃先を備えた切削刃と、該切削刃の周囲を覆い、下端が前記切削刃の刃先よりも飛び出した状態で上下方向スライド可能に装着された円筒状のスライドカバーと、該スライドカバーを下方に付勢する圧縮スプリングとから構成される刃物ユニットを備えていること。
【0020】
(12)前記刃物ユニットが装着される回転軸は中空とされていること。
【0021】
(13)前記刃物ユニットを昇降させる刃物昇降装置と、前記刃物ユニットを回転させる刃物回転装置と、前記刃物ユニットの内側に負圧を発生させてスクラップを吸着すると共に正圧を発生させて当該スクラップを排出する処理を実行するスクラップ処理装置と、これら刃物昇降装置、刃物回転装置及びスクラップ処理装置を駆動制御する制御装置を備えていること。
【0022】
(14)前記制御装置は、前記スライドカバーがタンクに接触して押し戻して前記切削刃と前記タンクとを接触させ、該切削刃による所定の切削速度での切削を開始させる様に、前記刃物昇降装置及び刃物回転装置を駆動制御する処理を実行する様に構成されていること。
【0023】
(15)前記制御装置は、少なくとも前記切削刃の刃先がタンクを貫通するよりも前に刃物ユニットの内部に負圧を発生させ、前記切削刃の刃先がタンクを貫通したら、前記刃物ユニットの下降動作を停止すると共に該刃物ユニットをタンクから抜き出した状態にし、所定の排出位置で刃物ユニットの内部を正圧に切り替える様に、前記刃物昇降装置及びスクラップ処理装置を駆動制御する処理を実行する様に構成されていること。
【0024】
このタイプの合成樹脂製タンク用孔明け装置によれば、切削刃による切削開始時には外部をスライドカバーで覆って密閉した状態とすることで切り屑の外部への散乱を防止すると共に、負圧によるスクラップ保持を可能にしている。
【0025】
このタイプの合成樹脂製タンク用孔明け装置においても、さらに、以下の構成をも備えるものとするとよい。
【0026】
(13A)前記刃物ユニットを水平方向に移動させる水平移動装置をも備え、前記制御装置は、前記刃物昇降装置、刃物回転装置及びスクラップ処理装置に加えて、該水平移動装置をも駆動制御する様に構成されていること。
【0027】
(15A)前記制御装置は、少なくとも前記切削刃の刃先がタンクを貫通するよりも前に刃物ユニットの内部に負圧を発生させ、前記切削刃の刃先がタンクを貫通したら、前記刃物ユニットの下降動作を停止すると共に該刃物ユニットをタンクから抜き出せる位置まで上昇させて水平方向に移動させ、所定の排出位置で刃物ユニットの内部を正圧に切り替える様に、前記刃物昇降装置、水平移動装置及びスクラップ処理装置を駆動制御する処理を実行する様に構成されていること。
【0028】
(13A),(15A)をも備えるものとすることで、刃物ユニットをタンクから抜き出した後のスクラップ排出処理のための動作は、タンクの退避動作と無関係に実行することができる様になるという利点がある。なお、ここでも、(15A)の処理の途中で、タンクから刃物ユニットが抜き出されたときに刃物回転装置による刃物の回転を停止する様にしておくとよい。
【0029】
ここで、ブロー成形時のエア吹き込み穴を有するタンクに対しては、上記(11)〜(15)の構成に加えて、さらに、以下の構成をも備えるとよい。
【0030】
(21)前記刃物ユニットの円筒状の本体に、中心を通って対面する位置に、上下方向に長くなる様に形成された2個の長孔を備えていること。
【0031】
(22)前記スライドカバーに、前記本体の長孔と重なる様にシャフト取付孔が形成されていること。
【0032】
(23)前記本体の長孔と前記スライドカバーのシャフト取付孔を貫通し両端を前記スライドカバーに対して抜け止め固定されたシャフトの中央に、該スライドカバーの下端とほぼ面一の下端を備える蓋体を取り付けてあること。
【0033】
スライドカバーと一体に上下動する蓋体でエア吹き込み穴を塞ぐことができるので、やはり、切削刃の内側空間を密閉空間として孔明けを実行することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、切り屑等の残留を防止するだけでなく、刃の折損やタンクの変形をも防止して合成樹脂製のタンクに対する円形孔の加工を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1の孔明け装置を示し、(A)は構成の概念図、(B)は作用のイメージ図である。
【図2】実施例1の装置に装着する刃物の分解斜視図である。
【図3】実施例1の装置の制御処理の内容を示すフローチャートである。
【図4】実施例1の装置の動作を示すイメージ図である。
【図5】実施例2の孔明け装置を示し、(A)は構成の概念図、(B)は刃物ユニットの断面図である。
【図6】実施例2の装置における刃物ユニットの脱着機構を示す斜視図である。
【図7】実施例2の装置の制御処理の内容を示すフローチャートである。
【図8】実施例2の装置の動作を示すイメージ図である。
【図9】実施例2の装置の動作を示すイメージ図である。
【図10】実施例2の装置における切削刃の設計概念を示すイメージ図である。
【図11】従来技術及びその問題点を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、合成樹脂製のタンクに対して円形の孔を開口するための孔明け装置であって、上述した(1)〜(5)、(11)〜(15)及び(21)〜(23)の構成を備えた装置について実施例を説明する。
【実施例1】
【0037】
実施例1のタンク孔明け装置1は、図1(A)に示す様に、刃物ユニット10と、この刃物ユニット10の全体を昇降させる刃物昇降装置20と、刃物ユニット10の全体を回転させる刃物回転装置30と、装置全体を水平方向に移動させる水平移動装置40と、切り取られるスクラップの吸着並びに排出の処理をするためのスクラップ処理装置50と、これら刃物昇降装置20、刃物回転装置30、水平移動装置40及びスクラップ処理装置50を駆動制御する制御装置60とから構成されている。
【0038】
刃物ユニット10の回転軸15は、中空パイプによって構成され、その上端がスクラップ処理装置50に接続されている。また、この中空パイプ製の回転軸15は、その外周面に対して刃物回転装置30からの回転力が伝達される構造(例えば、リングギヤで噛み合う、あるいはスプロケットが嵌合されてチェーン駆動されるなど)とされている。刃物昇降装置20は、刃物回転装置30ごと回転軸15を昇降させる構造等にしておく。スクラップ処理装置50は、回転軸15を構成する中空パイプの上端と接続されるジャバラ式チューブの先にブロワーを設置したもので、ブロワーを正転・逆転切り換えることによって、中空パイプ内を負圧状態にしてスクラップを吸着し、正圧状態にしてスクラップを排出することができる構造となっている。
【0039】
刃物ユニット10は、図1(B)に示す様に、円筒状で下端に鋭い刃先を形成された切り裂き刃11と、この切り裂き刃11の内側に嵌合する外面形状の切削刃12とから構成される。そして、切り裂き刃11の刃先11aが切削刃12の刃先12aよりも飛び出した関係となっている。従って、刃物昇降装置20によって下降されたとき、切り裂き刃11の刃先11aが樹脂タンクTに接触し、食い込む。
【0040】
なお、本実施例では、切り裂き刃11には、刃先11aには円弧状に下方2mm突出する突出部11bが円周方向に2箇所備えられている。また、この突出部11bが切り裂き刃として作用する部分であり、切り裂き刃11と切削刃12は、刃先11bの先端が切削刃12の刃先12aよりも2mm飛び出した関係に嵌合してある。これは、本実施例が肉厚6mmの樹脂タンクTに対する孔明け用として設計されているからである。この切り裂き刃11の刃先11bの突出量は、2mmに限定されるものではない。但し、樹脂タンクTに対する押圧変形を来さない範囲となる様に、樹脂タンクTの肉厚の1/2以下の突出量とすることが望ましい。また、切り裂き刃11と切削刃12の結合は、焼き嵌め等の嵌合方式だけではなく、ネジ止めやロウ付けなどの結合方式としても構わない。
【0041】
切削刃12には、円筒状本体の下端に樹脂を掬い取る形状の刃先12aが、円周方向に180度ずらした位置関係で2箇所形成されている。
【0042】
こうして切り裂き刃11の刃先11aが樹脂タンクTに食い込むと、刃物ユニット10の内側に密閉空間が形成された状態となる。この結果、スクラップ処理装置50を作動させることによって、これから切断されようとしているタンク上面は負圧によって切削刃12の刃先12aに接する様に吸い付けられた状態となる。
【0043】
次に、制御装置60の実行する制御処理の内容について説明する。制御装置60は、孔明け作業開始が指令されると、図3のフローチャートに示す様に、まず、刃物回転装置30を駆動して刃物ユニット10を定常速度で回転させると共に(S10)、刃物昇降装置20を駆動制御して刃物ユニット10を下降させる(S20)。また、スクラップ処理装置50を駆動して中空パイプ内に負圧を発生させる(S30)。刃物ユニット10が下降して切り裂き刃11の刃先11aが樹脂タンクTの表面に接近したら(S40:YES)、下降速度を高速から低速へと切り替える(S50)。
【0044】
そして、切り裂き刃11の刃先11aがタンクTを貫通したら(S70:YES)、刃物昇降装置20を高速上昇制御の状態に切り換える(S80)。次に、刃物回転装置30による刃物の回転を停止させる(S100)。そして、回転軸15が所定位置まで上昇したら(S110:YES)、上昇動作を停止すると共に(S120)、水平移動装置40を駆動して回転軸15を所定位置(スクラップ排出位置)まで水平移動させて停止し(S130〜S150)、スクラップ処理装置50のブロワーを一旦停止して負圧状態を解消し(S160)、ついでブロワーを逆転して正圧状態にした後にブロワーを停止する(S165)。これにより、切削刃12の内側に吸着されていたスクラップを排出する。そして、水平移動装置40を逆方向に駆動して回転軸15を元の位置まで復帰させる(S170,S180)。回転軸15が元の位置まで復帰したら(S180:YES)、水平移動装置40を停止し(S190)、作業完了が指令されているか否かを判定し(S200)、作業完了が指令されていない場合は(S200:NO)、次のタンクがセットされているか否かを判定し(S210)、次のタンクがセットされていたら(S210:YES)、S10以下の動作を繰り返し実行する。
【0045】
そして、切り裂き刃11の刃先11aが樹脂タンクTを貫通したら(S60:YES)、刃物昇降装置20を高速上昇制御の状態に切り換える(S70)。次に、刃物回転装置30による刃物の回転を停止させる(S80)。そして、複合刃10が所定位置まで上昇したら(S100:YES)、上昇動作を停止すると共に(S110)、水平移動装置40を駆動して複合刃10を所定位置(スクラップ排出位置)まで水平移動させて停止し(S120〜S140)、スクラップ排出用エアシリンダ51に突出指令を出力して切り抜いたスクラップを排出する(S150)。その後、スクラップ排出用用エアシリンダ51に復帰指令を出力してロッド52を元の没入状態に復帰させる(S160)。そして、水平移動装置40を逆方向に駆動して複合刃10を元の位置まで復帰させる(S170,S180)。複合刃10が元の位置まで復帰したら(S180:YES)、水平移動装置40を停止し(S190)、作業完了が指令されているか否かを判定し(S200)、作業完了が指令されていない場合は(S200:NO)、次のタンクがセットされているか否かを判定し(S210)、次のタンクがセットされていたら(S210:YES)、S10以下の動作を繰り返し実行する。
【0046】
ここで、S30の処理では、下降開始後の経過時間や、下降距離の計測など適宜の方法により、接近したか否かの判定をすることができる。S70の判定は、回転軸15に加わる反力が所定以下になったことを応力センサ等によって検出する方法、回転軸15の下降位置で判定する方法、降下速度から判定する方法などを採用することができる。S110,S140,S180の判定は、リミットスイッチ等によって検出したり、移動距離によって判定したりすることができる。S200は指令信号の設定状態により判定すればよく、S210は光センサ等によって判定する方法などを採用することができる。
【0047】
以上の制御処理により、図4(A)〜(E)に示す様に、切り屑Lは上方へ吸引された状態で切削を主体とする切り抜き動作が実行され、貫通後はスクラップを吸着したままで上昇し、スクラップ及び切り屑Lをタンク内に落とすことなく排出することができる。
【0048】
本実施例によれば、切削刃12を切り裂き刃11の中に嵌合し、切り裂き刃11で材料を切り裂くと同時に内部を密閉し、その内側で切削刃12による切削を行なって材料を除去する。内側には負圧を与え、貫通した後もスクラップを吸着保持し続ける。なお、切削中の負圧により、切り屑Lは中空パイプで構成された回転軸15内を吸い上げられて外部へ排出される。また、切り裂き刃11は最初の食い込みと最後の貫通の際を除けば、切削刃12の切削の進行に伴って切り裂き動作が自然に進行していくので、刃先11aの折損を生じにくく、タンク40にも大きな押圧負荷は加わらない。従って、本実施例によれば、切り屑やスクラップの残留を防止するだけでなく、刃の折損やタンクの変形をも防止することができる。
【実施例2】
【0049】
実施例2のタンク孔明け装置は、図5に示す様に、刃物ユニット70と、この刃物ユニット70を昇降させる刃物昇降装置20と、刃物ユニット70を回転させる刃物回転装置30と、装置全体を水平方向に移動させる水平移動装置40と、切り取られるスクラップの吸着並びに排出の処理をするためのスクラップ処理装置50と、これら刃物昇降装置20、刃物回転装置30、水平移動装置40及びスクラップ処理装置50を駆動制御する制御装置60とから構成されている。
【0050】
刃物ユニット70は、円筒蓋状の本体71と、この本体71の外側に上下方向スライド可能に取り付けられる円筒状のスライドカバー72と、本体71の上端に一体化された円盤状のアタッチメント73とから構成されている。
【0051】
本体71の円状部分の中央には円形の開口71aが設けられている。アタッチメント73にもこの開口71aと連通する開口73aが設けられている。また、本体71の下端には、樹脂を掬い取る形状の切削用の刃先71bが、円周方向に180度ずらした位置関係で2箇所形成されている。また、本体71は、中心を通って対面する位置に、上下方向に長くなる様に形成された2個の長孔71cも備えている。
【0052】
スライドカバー72には、本体71の長孔71cと重なる様にシャフト取付孔72aが形成されている。そして、本体71の長孔71cとスライドカバー72のシャフト取付孔72aを貫通する様に、シャフト75が挿入されている。このシャフト75は、Eリング75aを用いてスライドカバー72に対して両端を抜け止め固定されている。
【0053】
シャフト75の中央には蓋体76が取り付けられている。蓋体76の垂直軸76aは、シャフト75に装着された左右の筒状スペーサ75b,75bによって水平方向への移動が規制されている。また、蓋体76の底面には、円形の窪み76bが形成されている。なお、蓋体76の底面とスライドカバー72の底面は、面一とされている。
【0054】
刃物ユニット70が装着される回転軸15は、中空パイプによって構成され、その上端がスクラップ処理装置50に接続されている。また、この中空パイプ製の回転軸15は、その外周面に対して刃物回転装置30からの回転力が伝達される構造(例えば、リングギヤで噛み合う、あるいはスプロケットが嵌合されてチェーン駆動されるなど)とされている。刃物昇降装置20は、刃物回転装置30ごと回転軸15を昇降させる構造等にしておく。スクラップ処理装置50は、回転軸15を構成する中空パイプの上端と接続されるジャバラ式チューブの先にブロワーを設置したもので、ブロワーを正転・逆転切り換えることによって、中空パイプ内を負圧状態にしてスクラップを吸着し、正圧状態にしてスクラップを排出することができる構造となっている。
【0055】
刃物ユニット70は、アタッチメント73を介して回転軸15の下端に着脱可能に取り付けられる。図6に示す様に、アタッチメント73には、3箇所に円弧状の窪み73cが備えられている。この窪み73cの一端には窪み幅一杯の直径を有する円孔73dが貫通されると共に、この円孔73dと連続して、窪み幅よりも細い幅の円弧状溝孔73eが貫通されている。
【0056】
刃物ユニット70は、リング状プレート81から下方に突設された引っ掛け部材82の引っ掛け頭部82aを円孔73dから挿入した後、このリング状プレート81を図示において時計周りに回転させることにより、窪み73cの円弧状溝孔73eの部分に引っ掛け頭部82aを移動させて装着される(図6(A)参照)。そして、リング状プレート81を図示において反時計周りに回転させると、引っ掛け頭部82aが円孔73dと一致させてアタッチメント73を取り外す(図6(B),(C)参照)。
【0057】
実施例2において制御装置60の実行する制御処理の内容は、図7に示す通り、実施例1と同様であるが、機器動作は、若干異なったものとなり、回転軸15が下降してスライドカバー72の底面が樹脂タンクTに接触し、圧縮スプリング74が縮み始め、このとき、蓋体76の底面も樹脂タンクTに接触するといった状態になる。従って、この蓋体76を樹脂タンクTのブロー成形時のエア吹き込み穴BHを覆うことができる。
【0058】
以上の制御処理により、図8、図9に示す様に、切り屑Lはエア吹き込み穴BHが塞がれた状態の刃物ユニット70の内側に閉じこめられ、吸い上げられて中空パイプでできた回転軸を通って外部へ排出され、スクラップSは負圧によって吸着されて保持されながら切削を主体とする切り抜き動作が実行され、貫通後はスクラップSを本体71の内側に保持したままで上昇し、スクラップSをタンク内に落とすことなく排出することができる。
【0059】
なお、図10に示す様に、切削刃72bの先端のすくい角を大きくすることにより、貫通時の出口すき間を小さくすることが望ましい。
【0060】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は実施例に限らず、その要旨を逸脱しない範囲内での種々なる変形実施が可能であることはいうまでもない。
【0061】
例えば、実施例1において、刃物ユニットの切削刃は円筒状の本体を有さない切削刃を切り裂き刃の内面にネジ止めやロウ付けで一体化したものを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
合成樹脂製の自動車用燃料タンクに対して円形孔を加工する装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1・・・タンク孔明け装置
10・・・刃物ユニット
11・・・切り裂き刃
11a・・・切り裂き刃の刃先
11b・・・突出部
12・・・切削刃
12a・・・切削刃刃先
15・・・回転軸
20・・・刃物昇降装置
30・・・刃物回転装置
40・・・スクラップ処理装置
50・・・水平移動装置
60・・・制御装置
70・・・刃物ユニット
71・・・本体
71a・・・開口
71b・・・切削刃の刃先
71c・・・長孔
72・・・スライドカバー
72a・・・シャフト取付孔
73・・・アタッチメント
73a・・・開口
73c・・・円弧状の窪み
73d・・・円孔
73e・・・円弧状溝孔
74・・・圧縮スプリング
75・・・シャフト
75a・・・Eリング
75b・・・筒状スペーサ
76・・・蓋体
76a・・・垂直軸
76b・・・円形の窪み
L・・・切り屑
S・・・スクラップ
T・・・樹脂タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製のタンクに対して円形の孔を開口するための孔明け装置であって、以下の構成を備えていることを特徴とする合成樹脂製タンク用孔明け装置。
(1)円筒状で下端に鋭い刃先を形成された切り裂き刃と、この切り裂き刃の内側に配置された下端に樹脂を掬い取る形状の刃先を備えた切削刃とから構成され、前記切り裂き刃の刃先が前記切削刃の刃先よりも飛び出した状態となる様に一体化させた刃物ユニットを備えていること。
(2)前記刃物ユニットが装着される回転軸は中空とされていること。
(3)前記刃物ユニットを昇降させる刃物昇降装置と、前記刃物ユニットを回転させる刃物回転装置と、前記刃物ユニットの内側に負圧を発生させてスクラップを吸着すると共に正圧を発生させて当該スクラップを排出する処理を実行するスクラップ処理装置と、これら刃物昇降装置、刃物回転装置及びスクラップ処理装置を駆動制御する制御装置を備えていること。
(4)前記制御装置は、前記刃物回転装置の回転数を所定回転数に上げた後、前記刃物ユニットと前記タンクとを接触させ、切削を開始する様に、前記刃物昇降装置及び刃物回転装置を駆動制御する処理を実行する様に構成されていること。
(5)前記制御装置は、少なくとも前記切り裂き刃の刃先がタンクを貫通するよりも前に刃物ユニットの内部に負圧を発生させ、前記切り裂き刃の刃先がタンクを貫通したら、前記刃物ユニットの下降動作を停止すると共に該刃物ユニットをタンクから抜き出した状態にし、所定の排出位置で刃物ユニットの内部を正圧に切り替える様に、前記刃物昇降装置及びスクラップ処理装置を駆動制御する処理を実行する様に構成されていること。
【請求項2】
さらに、以下の構成をも備えていることを特徴とする請求項1記載の合成樹脂製タンク用孔明け装置。
(3A)前記刃物ユニットを水平方向に移動させる水平移動装置をも備え、前記制御装置は、前記刃物昇降装置、刃物回転装置及びスクラップ処理装置に加えて、該水平移動装置をも駆動制御する様に構成されていること。
(5A)前記制御装置は、少なくとも前記切り裂き刃の刃先がタンクを貫通するよりも前に刃物ユニットの内部に負圧を発生させ、前記切り裂き刃の刃先がタンクを貫通したら、前記刃物ユニットの下降動作を停止すると共に該刃物ユニットをタンクから抜き出せる位置まで上昇させて水平方向に移動させ、所定の排出位置で刃物ユニットの内部を正圧に切り替える様に、前記刃物昇降装置、水平移動装置及びスクラップ処理装置を駆動制御する処理を実行する様に構成されていること。
【請求項3】
合成樹脂製のタンクに対して円形の孔を開口するための孔明け装置であって、以下の構成を備えていることを特徴とする合成樹脂製タンク用孔明け装置。
(11)下端に樹脂を掬い取る形状の刃先を備えた切削刃と、該切削刃の周囲を覆い、下端が前記切削刃の刃先よりも飛び出した状態で上下方向スライド可能に装着された円筒状のスライドカバーと、該スライドカバーを下方に付勢する圧縮スプリングとから構成される刃物ユニットを備えていること。
(12)前記刃物ユニットが装着される回転軸は中空とされていること。
(13)前記刃物ユニットを昇降させる刃物昇降装置と、前記刃物ユニットを回転させる刃物回転装置と、前記刃物ユニットの内側に負圧を発生させてスクラップを吸着すると共に正圧を発生させて当該スクラップを排出する処理を実行するスクラップ処理装置と、これら刃物昇降装置、刃物回転装置及びスクラップ処理装置を駆動制御する制御装置を備えていること。
(14)前記制御装置は、前記スライドカバーがタンクに接触して押し戻して前記切削刃と前記タンクとを接触させ、該切削刃による所定の切削速度での切削を開始させる様に、前記刃物昇降装置及び刃物回転装置を駆動制御する処理を実行する様に構成されていること。
(15)前記制御装置は、少なくとも前記切削刃の刃先がタンクを貫通するよりも前に刃物ユニットの内部に負圧を発生させ、前記切削刃の刃先がタンクを貫通したら、前記刃物ユニットの下降動作を停止すると共に該刃物ユニットをタンクから抜き出した状態にし、所定の排出位置で刃物ユニットの内部を正圧に切り替える様に、前記刃物昇降装置及びスクラップ処理装置を駆動制御する処理を実行する様に構成されていること。
【請求項4】
さらに、以下の構成をも備えていることを特徴とする請求項3記載の合成樹脂製タンク用孔明け装置。
(13A)前記刃物ユニットを水平方向に移動させる水平移動装置をも備え、前記制御装置は、前記刃物昇降装置、刃物回転装置及びスクラップ処理装置に加えて、該水平移動装置をも駆動制御する様に構成されていること。
(15A)前記制御装置は、少なくとも前記切削刃の刃先がタンクを貫通するよりも前に刃物ユニットの内部に負圧を発生させ、前記切削刃の刃先がタンクを貫通したら、前記刃物ユニットの下降動作を停止すると共に該刃物ユニットをタンクから抜き出せる位置まで上昇させて水平方向に移動させ、所定の排出位置で刃物ユニットの内部を正圧に切り替える様に、前記刃物昇降装置、水平移動装置及びスクラップ処理装置を駆動制御する処理を実行する様に構成されていること。
【請求項5】
さらに、以下の構成をも備えていることを特徴とする請求項3又は4記載の合成樹脂製タンク用孔明け装置。
(21)前記刃物ユニットの円筒状の本体に、中心を通って対面する位置に、上下方向に長くなる様に形成された2個の長孔を備えていること。
(22)前記スライドカバーに、前記本体の長孔と重なる様にシャフト取付孔が形成されていること。
(23)前記本体の長孔と前記スライドカバーのシャフト取付孔を貫通し両端を前記スライドカバーに対して抜け止め固定されたシャフトの中央に、該スライドカバーの下端とほぼ面一の下端を備える蓋体を取り付けてあること。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−167809(P2011−167809A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33846(P2010−33846)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(309018869)株式会社サン電材社 (2)
【出願人】(398052210)西島株式会社 (20)
【Fターム(参考)】