説明

合成石英ガラスの製造方法

【解決手段】バーナーから形成される高温火炎ガス域内に石英ガラス形成原料を供給して、この石英ガラス形成原料から石英スートを生成させ、このスートから合成石英ガラスを製造する方法において、バーナー全体及び合成石英ガラスの成長部位を共に囲繞する囲繞管を設けると共に、囲繞管を覆うように、かつ高温火炎ガス域の下流部及び合成石英ガラスの成長部位を共に覆うよう排気用風洞を設け、これら囲繞管及び風洞内に浮遊スートの排出方向に沿って浮遊スート排出用気体を流通させ、この排出用気体と共に浮遊スートを含む高温火炎ガス流を排出する合成石英ガラスの製造方法。
【効果】未固着の浮遊スートがインゴットの溶融成長面へ付着することを防止することができ、成長中の石英ガラス中に発生する泡の生成を防止することができ、バーナーから供給される酸水素流量の低減ができて、エネルギー効率の向上が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無気泡の合成石英ガラスをエネルギー効率良く製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成石英ガラスは、紫外光から赤外光までの広い波長範囲の光に対して優れた光透過性を持つこと、熱膨張係数が極めて低いこと、耐熱性に優れること、耐薬品性に優れること等の特徴を有するため、超LSIの製造プロセスで、ウェハーボート、炉心管、遠紫外光用の硝材、半導体用や液晶用のマスクサブストレートなどには不可欠の材料として使用されている。
【0003】
これらの中で、上記の硝材や、半導体用や液晶用にマスクサブストレートとして使用される合成石英ガラスは、光学的に均質であること、高い紫外光透過性を持つことが要求されるため、特に、化学合成された珪素化合物を高温酸化・加水分解により連続的に合成石英ガラス塊を製造する直接法あるいは間接法で製造された合成石英ガラスが主に使用される。
【0004】
このうち、直接法は、例えば酸素、水素を燃焼させることで高温の酸水素火炎を生成させ、この高温火炎で石英製のインゴットを加熱しながら珪素源原料である珪素化合物をこの火炎中に導入して珪素を酸化珪素とし、同時にインゴット表面に連続堆積・溶融させて合成石英ガラスを成長させて製造するものである。この方法においては、珪素源原料は高温の酸水素火炎中で酸化あるいは加水分解され、非常に微細なサブミクロン乃至はそれ以下の大きさのシリカ微粒子のスートになる。このスートは酸水素炎で発生する高温によってインゴット上に堆積と同時に溶融、ガラス化して固定されることで、インゴットが連続的に成長する。
【0005】
しかし、このスートは、すべてインゴットに接触・堆積するわけではない。インゴットの成長部に接触せずに堆積しない微細なスートは、未固定スートとして成長反応系外に排出され、浮遊スートとなる。未固定のスートは火炎内外で凝集して造粒され、サイズが大きくなるが、この浮遊凝集スートが何らかの原因で再度火炎中に入ったり、インゴット溶融成長部に付着する場合がある。この場合、スートのサイズが大きいために、インゴット溶融部では十分に溶融しきれずに未溶融箇所として残留してしまい、そこを基点としてインゴット中に泡が発生し、インゴットの成長とともに泡が巨大化してしまう。
【0006】
合成石英ガラス製造用チャンバー内は、浮遊凝集スートを反応系外に排出するための清浄空気の他に、バーナーからの高速酸水素火炎ガス流や熱気流による上昇気流などの様々な速度、方向を持った気流が存在しているので、その気流の乱れにより未固着の浮遊凝集スートの一部は反応成長系外に排出されずにチャンバー内壁の成長部近傍に付着する。また、このスートが気流の乱れや堆積量の増加などの原因で再遊離し、インゴット溶融部に達して泡の発生原因となっていた。
【0007】
このような合成石英ガラス製造用チャンバー内の気流の乱れを抑制する方法としては、例えば、特開2000−302459号公報(特許文献1)に、気体の直線流通路を十分長くとって整流する方法、チャンバーダクトの断面積を徐々に広げるテーパー形状とし、そのテーパー角を緩やかにとった気体流通路構造とする方法、整流板を気体ダクト中に配置する構造とする方法等が挙げられている。
【0008】
また、これらのチャンバー内の気流の乱れに起因した未固着の浮遊凝集スートのインゴット溶融部への付着による泡の発生を抑制する方法として、浮遊凝集スートのチャンバー系外への排出効果を上げるために、チャンバーからの排出流量を増量する方法、所謂冷却用気体を多く取り入れる方法が取られていた。
【0009】
この冷却用気体は、例えば空気としてその流量を増すと、スートを付着、溶融させる合成石英インゴットの成長面の温度が低下して成長面の形状が歪み、連続的な成長が維持できなくなる場合がある。このとき、シリカ形成原料の供給を一時停止し、酸水素火炎だけによる成長面形状の修正が必要となるため、脈理等の光学的不均質な部分が生じてしまう。液晶用の大型のマスクサブストレート用の太径インゴットの製造においては、溶融面温度が低下するとインゴット径のアップも困難になり、このため溶融面の温度低下を抑えるのに酸水素流量を増量していた。
【0010】
このような問題は、直接法に限らず、他の合成石英ガラスの製造方法においても同じように起こっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−302459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、合成石英として固定されなかった浮遊スートを確実に系外に排除し得て、浮遊スートのインゴット成長部への再付着を防止し、かつ、エネルギー効率を上げて加熱源の増量を抑制し、更には減量を可能にするものであり、無気泡の合成石英インゴットを加熱源のエネルギーの効率化を図って製造する合成石英ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、バーナーから形成される高温火炎ガス域内に石英ガラス形成原料を供給して、この石英ガラス形成原料から石英スートを生成させ、このスートから合成石英ガラスを製造する方法において、上記バーナー全体及び上記合成石英ガラスの成長部位を共に囲繞する囲繞管を設けると共に、上記囲繞管を覆うように、かつ上記高温火炎ガス域の下流部及び上記合成石英ガラスの成長部位を共に覆うよう排気用の風洞を設け、これら囲繞管及び風洞内に浮遊スートの排出方向に沿って浮遊スート排出用気体を流通させ、この排出用気体と共に浮遊スートを含む高温火炎ガス流を排出することで、石英として固定されなかった浮遊スートのインゴット成長部への再付着を防止し、無気泡の合成石英ガラスを得ることができ、しかも、加熱源のエネルギー効率の向上が図れる効果があることを見出し、本発明をなすに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記合成石英ガラスの製造方法を提供する。
請求項1:
バーナーから形成される高温火炎ガス域内に石英ガラス形成原料を供給して、この石英ガラス形成原料から石英スートを生成させ、このスートから合成石英ガラスを製造する方法において、上記バーナー全体及び上記合成石英ガラスの成長部位を共に囲繞する囲繞管を設けると共に、上記囲繞管を覆うように、かつ上記高温火炎ガス域の下流部及び上記合成石英ガラスの成長部位を共に覆うよう排気用風洞を設け、これら囲繞管及び風洞内に浮遊スートの排出方向に沿って浮遊スート排出用気体を流通させ、この排出用気体と共に浮遊スートを含む高温火炎ガス流を排出することを特徴とする合成石英ガラスの製造方法。
請求項2:
上記風洞の吸込口及び上記囲繞管の端部が重なった構造であることを特徴とする請求項1記載の合成石英ガラスの製造方法。
請求項3:
上記囲繞管の外面と上記風洞の吸込口内面とのクリアランスが200mm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の合成石英ガラスの製造方法。
請求項4:
上記囲繞管の内面と上記バーナーガイド管の外管とのクリアランスが100mm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。
請求項5:
上記風洞が円筒形状又はテーパー管形状であり、上記囲繞管が円筒形状又はテーパー管形状であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。
請求項6:
上記囲繞管が、多重管からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。
請求項7:
上記風洞及び囲繞管が、スチール製、ステンレススチール製、石英ガラス製又はアルミナ製からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の合成石英ガラスの製造方法によれば、未固着の浮遊スートがインゴットの溶融成長面へ付着することを防止することができ、成長中の石英ガラス中に発生する泡の生成を防止することができ、かつ、バーナーから供給される酸水素流量の低減ができて、エネルギー効率の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施に用いる装置の一例を示す概略図である。
【図2】従来の装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の合成石英ガラスの製造方法においては、円筒状や直方体状等の形状からなる合成石英ガラス製造用チャンバーを用い、このチャンバー内に合成石英ガラスの製造装置となるバーナーと、合成石英ガラスを成長させるための石英ガラス等の耐熱性基体を設置する。
【0018】
このチャンバー内にて、加熱源であるバーナーに水素、酸素等のガスを供給して高温火炎ガスを形成し、この高温火炎ガス域内に石英ガラス形成原料(珪素化合物等)を供給して微細石英スートを生成させ、このスートから合成石英インゴットを製造する。本発明においては、上記バーナー及び上記合成石英ガラスの成長部位を共に囲繞する囲繞管を設けると共に、上記囲繞管を覆うように、かつ上記高温火炎ガス域の下流部及び上記合成石英ガラスの成長部位を共に覆うよう排気用風洞を設け、フィルターを通過させて外気の塵、埃を除去した清浄空気等のスート排出用気体をチャンバー内へ導入し、これを浮遊スートの排出方向に沿って上記囲繞管及び風洞内に流通させることで、合成石英インゴットの成長に関与しなかった浮遊凝集スートを反応系外へ排出し、石英ガラス形成原料から形成されたスートの溶融に使用された高温火炎ガス流を排熱することができる。
【0019】
次に、本発明の製造方法について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施に用いられる合成石英ガラス製造用チャンバーの一例を示すもので、図中1は直方体形状のチャンバーであり、スチール製乃至はステンレススチール製からなる。本チャンバー1の側面下部には、空気を導入する導入口2が設けられ、この導入口2の上流側にフィルター3が取り付けられていると共に、チャンバー1の上部には、ダンパーで吸入空気量を調整する排気管4が設けられている。また、チャンバー1内には、水素導入管5、酸素導入管6及び四塩化珪素等の石英ガラス原料ガス導入管7とそれぞれ接続されたバーナー(加熱源)8が配設され、このバーナー8の配設箇所(高温ガス発生部)の下流に高温火炎ガス域(酸水素火炎)9が形成されるようになっている。そして、この高温火炎ガス域9には、合成石英インゴット10の先端側がチャンバー1の床面に対して垂直に挿入されている。この場合、インゴット10の基端部はシャフト11と連結されており、このインゴット10の基端側及びシャフト11先端側は収容管体12内に気密に保持されていると共に、シャフト11の基端側はこの管体12内を気密に貫通して外側上方向に突出し、この突出基端部は回転及び駆動装置13と接続されて、この回転・駆動装置13の駆動によりシャフト11を介して上記インゴット10が回転し、またインゴット軸方向に前後へ移動し得るようになっている。
【0020】
ここで、上記バーナー8からの高温ガスである酸水素火炎9が、上記インゴット10の軸方向に対して例えば50°傾斜した状態で供給されるようになっている。
【0021】
この図1の装置においては、上記フィルター3を通過することにより微小粒子が除去された空気がチャンバー1内に流通されるようになっている。本発明においては、高温ガス発生部であるバーナー8とインゴット10の先端成長面を囲繞するよう囲繞管14が配設されると共に、高温火炎ガス域9の下流部及び合成石英インゴット10の成長部位を覆うよう排気用風洞15が設けられている。この風洞15の吸込口内に囲繞管14の先端部が差し込まれた状態とし、風洞15の他端は排気管4の吸込口と接続されている。このとき、囲繞管14の大きさは、バーナー8の外管であるバーナーガイド管16と囲繞管14の内径のクリアランスbが100mm以上となるようにすることが好ましく、排気用風洞15の内面と囲繞管14の外面とのクリアランスaは200mm以下とすることが好ましい。
【0022】
上記装置を用いて合成石英インゴットを製造する場合は、バーナー8に水素、酸素を供給して高温火炎ガス域9を形成すると共に、四塩化珪素等の合成石英ガラス原料ガスをバーナー8から高温火炎ガス域である酸水素火炎9中に供給して微細石英スートを生成させ、このスートをインゴット10に付着させるものであるが、本発明においては、上記風洞及び囲繞管を配設し、バーナー8の配設箇所(高温ガス発生部)から高温火炎ガス域9に上記のように空気を流通させることにより、インゴット10に付着されなかった浮遊スートがこの空気の流れによって確実にチャンバー1から外部に排出され、高温火炎ガス域9周辺及びインゴット10先端の成長面周辺において渦流等の不規則なガス流が生じ難いので、浮遊スートがインゴット10の周囲に付着することもなく、気泡のない合成石英ガラスが得られるものであると同時に、インゴット先端部の溶融面の表面温度を上昇させることで酸水素流量が低減でき、所謂エネルギー効率を向上させることが可能となる。また、あわせてインゴットの径を大きくすることも可能になる。
【0023】
本発明の合成石英ガラスの製造方法は、直接法又は間接法のいかんに拘らず適用される。例えば、直接法によって合成石英インゴットを製造する場合には、酸水素炎、プラズマ炎などの高温火炎ガス中で、四塩化珪素などのクロロシランや、テトラメトキシシランなどのアルコキシシラン等の珪素化合物を高温酸化あるいは加水分解して極微細な二酸化珪素を発生させる。その後、高温ガスによって極微細な二酸化珪素をガラス化し、これを石英インゴットに堆積と同時に溶融し、成長させるものである。
【0024】
原料の珪素化合物は、蒸留により高純度化したものを使用することが好ましく、これにより高純度な合成石英ガラスを製造することができる。原料の珪素化合物としては、有機ケイ素化合物を用い、好ましくは下記一般式(1)又は(2)で示されるシラン化合物、下記式(3)又は(4)で示されるシロキサン化合物が好適に用いられる。
nSiX4-n (1)
(式中、Rは水素原子又は脂肪族一価炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子又はアルコキシ基、nは0〜4の整数である。)
(R1kSi(OR24-k (2)
(式中、R1,R2は同一又は異種の脂肪族一価炭化水素基を示し、kは0〜3の整数である。)
【0025】
【化1】

(式中、R3は水素原子又は脂肪族一価炭化水素基を示し、mは1以上の整数、特に1又は2である。また、pは3〜5の整数である。)
【0026】
ここで、R,R1,R2、R3の脂肪族一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜6のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等の炭素数2〜4のアルケニル基等が挙げられる。またXの加水分解性基としては、塩素基等のハロゲン基、−OCH3、−OCH2CH3等のアルコキシ基等が挙げられる。
【0027】
具体的に、上記一般式(1)又は(2)で示されるシラン化合物としては、SiCl4、CH3SiCl3、Si(OCH34、Si(OCH2CH34、CH3Si(OCH33等が挙げられ、一般式(3)、(4)で示されるシロキサン化合物としては、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0028】
高温火炎ガスのうち、酸水素炎用のガスとしては、水素、一酸化炭素、メタン、プロパン等の可燃性ガス、またプラズマ用のアルゴンガスなどが挙げられ、酸素等の支燃性ガス等を通常の方法で高純度化して使用することができる。
【0029】
高温火炎ガスとして合成石英インゴットを高温に保持する熱源の一つである酸水素火炎は、その理論燃焼火炎温度が2800℃という非常に高温であるが、火炎自体の熱容量が小さいことやインゴットの熱輻射放散量が多いため、インゴットの成長に必要な表面温度を維持するには相当量の水素と酸素の供給が必要とされる。合成石英インゴットの成長表面温度を連続成長が可能な温度に維持するため、バーナーからの燃焼ガスの流速は通常5〜20Nm/sec、好ましくは8〜15Nm/secの高速な気流であることが好ましい。
【0030】
なお、本発明で用いるバーナーとしては、合成石英ガラスを製造する際に通常使用されるものであれば特に制限されず、中心部が二重乃至五重管の多重管構造のものが好ましい。
【0031】
本発明においては、上記の合成石英ガラスが成長する高温火炎域周辺から浮遊するスートを含む高温火炎ガス流をスート排出用気体と共に排出するために、高温火炎ガス域の下流部及び合成石英ガラスの成長部位を覆うよう排気用風洞を設けると共に、バーナー全体及び合成石英ガラスの成長部位を囲繞する囲繞管を配設する。この場合、風洞は円筒形状又はテーパー管形状であることが好ましく、囲繞管も円筒形状又はテーパー管形状であることが好ましい。更に、上記の囲繞管が、二重乃至三重の多重管としてもよく、よりバーナー周囲からの気流の流速の調整が可能になる。また、上記の風洞及び囲繞管は、スチール製、ステンレススチール製、石英ガラス製、アルミナ製等の耐熱性の材料からなることが好ましい。
【0032】
スート排出用の気体をチャンバー内に流通させる際に、この排出用気体を高温火炎ガス発生部上流部より通気し、更に高温火炎ガス発生部より上流の部分でこの排出用気体を後述するように整流することにより高温火炎ガス発生部から高温火炎ガス域までは順流とすることができる。これによって、高温火炎ガス域、つまり高温反応部やガラス成長部付近の気流の乱れを最小限にし、浮遊スートがたとえ付着するようなことがあっても、火炎の下流のみに付着するもので、泡を発生させることなく、インゴット成長を達成することができる。
【0033】
本発明において、スート排出用気体を高温ガス発生部より上流で整流し、順流とする方法としては、例えば気体の直線流通路を十分長くとって整流する方法、チャンバーダクトの断面積を徐々に広げるテーパー形状とし、そのテーパー角を緩やかにとった気体流通路構造とする方法、整流板を気体ダクト中に配置して整流する方法等が挙げられる。本発明は上記の方法に制限されるものではなく、気体を順流とするあらゆる方法が有効であるが、いずれの方法もチャンバーの寸法や構造に応じて決定されるべきものである。
【0034】
ここで、本発明におけるスート排出用の気体は、例えば空気、アルゴン、窒素などの珪素化合物が二酸化珪素となる反応を直接的には阻害しない気体が挙げられるが、経済性を考慮すると空気が好ましい。
【0035】
スート排出用気体は、上流(チャンバー内の空気吸引口)から高温火炎ガス発生部まで通気され、これによって高温火炎ガス域(高温反応部やガラス成長部)周辺に整流気体が流通することとなる。この場合、高温火炎ガス発生部からは、高温火炎ガスに近い位置を通過する整流気体は高速の高温火炎ガスに引き寄せられるように流路が曲がる場合もあるが、高温火炎ガス部から離れた位置を流通する整流気体は流路の曲がりがなく高温火炎ガス部を通過する。
【0036】
高温火炎ガス発生部付近の気体の流れに、渦やうねりなどが発生している非整流状態が存在すると、気体の流れの乱れは高温火炎ガス流によって更に増し、未固着の浮遊スートがある確率でこの乱れに運ばれてチャンバー内壁部に付着する。この付着量がたとえ微量であるとしても、合成石英ガラスの製造においては、長時間の連続運転のため次第に付着量が増し、気体の流れによって遊離し、インゴットに達して泡の発生源となるものであるが、本発明においては、上述したように排気用風洞及び囲繞管を配設し、これらにスート排出用気体を流通させることで、かかる不利は回避されるものである。
【0037】
ここで、本発明において整流した気体の流れとは、気体の流れをマクロな視点で見た場合における気体の流れの渦やうねりがない流れのことをいい、レイノルズ数で代表されるようなミクロな流れの変化を問題とするものではない。
【0038】
具体的には、気体の流れ中に流れのマーカーとなるような微粒子、例えば数ミクロンの粒径を持った酸化チタンあるいは線香の煙などを気体の流れに同伴させた場合に、目視上気体の流れの渦や急激な流線の変化を伴わず、気体の流れの主流方向のベクトルとは90゜以上の角度差を持つ対向流とならない流れのことをいう。従って、スート排出用の気体の流れが本発明の気体の流れの状態であるか否かは、上記の方法で確認することができる。
【0039】
本発明においては、浮遊スートの排出効果を高めるために、風洞の吸込口の内側に、囲繞管端部(バーナーからのガス噴出口方向の端部)が重なった構造とすることが好ましい。この重なる部分の幅wは、0〜200mmが好ましく、より好ましくは50〜150mmである。風洞と囲繞管との重なりが多すぎると高温火炎ガス部に囲繞管が接近するため、インゴットの成長部及びバーナー火炎からの熱輻射放散量が多くなり、囲繞管の劣化が生じやすくなる場合がある。
【0040】
囲繞管の外面と風洞の吸込口内面とのクリアランスaは、200mm以下が好ましく、より好ましくは100mm以下とする。これは、風洞の内壁面を流通する気流の流速がこのクリアランスで決まるため、このクリアランスが広すぎると風洞内壁面を通過する空気の流速が低下し、浮遊スートの排出効果の低下が生じる場合があるからである。下限値は、囲繞管と風洞とのクリアランスを均一に調整するためには30mm以上、特に50mm以上であることが好ましい。
【0041】
また、囲繞管の中心軸とバーナーの中心軸との角度差は±10°の範囲内であることが好ましく、より好ましくは±5°の範囲とする。角度差が上記範囲外であるとバーナー火炎と囲繞管とが接近するため、囲繞管が火炎からの熱輻射によって劣化する場合がある。また、囲繞管のバーナーより上流側の端面が、中央部に空孔がある円板で塞がれており、囲繞管内に空気を流通できる構造とすることが好ましい。この空孔の大きさにより囲繞管内、バーナー周囲を流通する空気量の調整が可能になる。
【0042】
囲繞管の内面とバーナー(バーナーガイド管を含む)の外管とのクリアランスbは、100mm以上が好ましく、より好ましくは200mm以上とする。この場合、クリアランスが狭いとバーナーから形成される火炎からの輻射熱及びインゴット溶融面からの輻射熱により、囲繞管の形状変化が生じたり、劣化を起してしまう場合がある。上限は、バーナーの周囲を流通する気流の流路の曲がりがなく、高温火炎ガス部を通過させる点から350mm以下、特に300mm以下であることが好ましい。
【0043】
スート排出用気体の流れ方向は、高温火炎ガス排ガス下流に含まれる未固着の浮遊スートをスムーズに排出するために、高温火炎ガス流の照射角度と同一であることが望ましいが、排気用風洞の中心軸とバーナーの照射角度との角度差を±15°以内とすることが好ましく、より好ましくは±10°以内、更に好ましくは±5°以内の範囲とすればよい。この角度差が上記範囲を外れると、高温火炎ガス流付近の流れの乱れを抑えることができず、スート排出用気体を順流方向で通気することができなくなるため、合成石英ガラスの成長中に泡が発生してしまうおそれがある。
【0044】
なお、バーナーからの高温火炎ガスの照射角度は、インゴットの軸方向に対して0〜70°が好ましく、より好ましくは0〜60°の範囲で行うことが望ましく、バーナーをセットする際の角度調整で実施すればよい。
【0045】
また、スート排出用気体の流速は、これまでの設備においては、吸引空気流量を適宜調節することで、好ましくは0.3〜5Nm/sec、より好ましくは0.3〜2Nm/secの範囲とされていた。
【0046】
本発明では、上述の排気用風洞と、バーナー及びインゴット成長面周囲を囲繞する囲繞管とを装備することで、スート排出用気体の排気口断面での流速分布を細かく調整でき、排気管の流速を0.3〜1Nm/sec程度に抑制することが可能になり、インゴット成長部の流速を下げて空気による冷却を抑え、酸水素流量の減量を可能にし、また、酸水素流量の増量をせずにインゴット径を大きくすることを可能にして、エネルギーの効率化が実現できる。
【0047】
具体的には、囲繞管内から流通するスート排気用気体の流速範囲は、0.1〜1Nm/secが好ましく、より好ましくは0.1〜0.8Nm/secであり、更に好ましくは0.1〜0.5Nm/secの範囲とする。更に、排気風洞と囲繞管との隙間の流速は、囲繞管内の流速よりも大きくし、0.5Nm/sec以上が好ましい。これにより高温火炎ガス部からの浮遊スートが囲繞管と風洞との隙間から漏れ出さず、排出効果の向上が得られる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0049】
[実施例1]
図1に示す装置を用いて合成石英ガラスの製造を行った。即ち、2m角の直方体状のチャンバーを設置し、チャンバーの側面下部にフィルターを具備した空気導入口を取り付け、上部にはダンパーを介してブロアーによる強制排気が可能なラインを接続した。バーナーはフィルターから1m以上離れた位置に設置し、バーナーの取り付け角度はインゴット成長軸に対して50゜とした。インゴットはその一端を回転可能なシャフトに固定し、シャフト部分はチャンバー内と外気が遮断できるような構造とした。チャンバー内にはバーナーから形成される火炎による高温ガス流とフィルターを通ってチャンバー内に導入される空気とを排出する排気口とが設置され、高温ガス流先端とインゴット先端成長面を覆うよう上記排気口に接続した風洞と、更に、バーナー及びインゴット先端成長面を囲繞する囲繞管が設置されている。風洞と囲繞管との重なりwは120mmであった。また、風洞の吸込口内壁と囲繞管の外面とのクリアランスaは80mmであり、囲繞管の内面とバーナーの外管とのクリアランスbは300mmであった。
【0050】
バーナーに10m3/hrの酸素と20m3/hrの水素を流して火炎を形成し、インゴットを加熱した。この状態でバーナーに四塩化珪素を2000g/hrで供給して合成石英ガラスの成長を試みた。190時間の合成石英ガラス成長中には石英ガラス中の泡の発生はみられなかった。
【0051】
[比較例1]
図2に示すように、実施例1と同様のバーナーを備えた直方体状のチャンバーを使用した。但し、囲繞管は配設せずに、排気管に接続してインゴット先端溶融面上部に位置するよう風洞17のみ設けた。実施例1と同様の条件でバーナーに酸素、水素及び四塩化珪素を導入し、実施例1と同じ量の空気を流通して合成石英ガラスの成長を試みた。190時間の合成石英ガラス成長中に3個の泡の発生を確認した。
【0052】
実施例1及び比較例1のチャンバーを用いて製造した合成石英インゴットの製造成績を表1に示した。表1中、エネルギー効率比は、合成石英ガラス1kgを作製するのに必要な量の比率を示す。
【0053】
【表1】

【符号の説明】
【0054】
1 チャンバー
2 空気導入口
3 フィルター
4 排気管
5 水素導入管
6 酸素導入管
7 石英ガラス原料ガス導入管
8 バーナー(加熱源)
9 高温ガス域(酸水素火炎)
10 合成石英インゴット
11 シャフト
12 収容管体
13 駆動装置
14 囲繞管
15 風洞
16 バーナーガイド管
a 風洞の内面と囲繞管の外面とのクリアランス
b 囲繞管の内面とバーナーの外面とのクリアランス
w 風洞吸込口と囲繞管端部が重なる部分の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナーから形成される高温火炎ガス域内に石英ガラス形成原料を供給して、この石英ガラス形成原料から石英スートを生成させ、このスートから合成石英ガラスを製造する方法において、上記バーナー全体及び上記合成石英ガラスの成長部位を共に囲繞する囲繞管を設けると共に、上記囲繞管を覆うように、かつ上記高温火炎ガス域の下流部及び上記合成石英ガラスの成長部位を共に覆うよう排気用風洞を設け、これら囲繞管及び風洞内に浮遊スートの排出方向に沿って浮遊スート排出用気体を流通させ、この排出用気体と共に浮遊スートを含む高温火炎ガス流を排出することを特徴とする合成石英ガラスの製造方法。
【請求項2】
上記風洞の吸込口及び上記囲繞管の端部が重なった構造であることを特徴とする請求項1記載の合成石英ガラスの製造方法。
【請求項3】
上記囲繞管の外面と上記風洞の吸込口内面とのクリアランスが200mm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の合成石英ガラスの製造方法。
【請求項4】
上記囲繞管の内面と上記バーナーガイド管の外管とのクリアランスが100mm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。
【請求項5】
上記風洞が円筒形状又はテーパー管形状であり、上記囲繞管が円筒形状又はテーパー管形状であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。
【請求項6】
上記囲繞管が、多重管からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。
【請求項7】
上記風洞及び囲繞管が、スチール製、ステンレススチール製、石英ガラス製又はアルミナ製からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の合成石英ガラスの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−20895(P2011−20895A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167780(P2009−167780)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】