説明

合成石英粉の製造方法並びにガラス成型体

【課題】高純度かつ高品質な合成石英粉の製造方法、並びに該合成石英粉を溶融してなる、泡が極めて少ないガラス成形体を提供する。
【解決手段】平均粒径10〜500μmのシリカゲルを、1000℃以上で10〜50時間、酸素含有雰囲気中で加熱処理して製造する合成石英粉の製造方法において、該酸素含有雰囲気中での加熱処理後、得られた合成石英粉にヘリウムガスを接触させることを特徴とする合成石英粉の製造方法および該製造方法により製造された合成石英粉を溶融し成型して得られることを特徴とするガラス成型体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高純度かつ高品質な石英粉の製造方法、並びに該粉体を溶融、成型してなる、泡が極めて少ないガラス成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信分野、半導体産業等に使用されるガラス製品については、非常に高い品質が要求されており、その純度に関しては厳しい管理がなされている。このような高純度ガラスは主に、1.天然石英を粉砕して得た砂状の天然石英粉(いわゆるsandと称される。)を原料とする方法が知られている。更に高純度のガラスを望む場合には、2.四塩化珪素を酸水素炎中で分解して発生したヒュームを基材に付着・成長させて得られたヒュームの塊を用いる酸水素炎法や、3.金属アルコキシド等の有機金属化合物を原料として得られるゲルを用いる、いわゆるゾルゲル法による合成石英粉を原料とする方法が挙げられる。
【0003】
しかしながら、これらいずれの方法にも一長一短があった。例えば、1の方法では、天然石英粉を原料とするので、本質的にはアルミニウム、鉄などの金属元素が石英粒子内部に含有されており、酸洗浄等の精製を繰り返しても製品となる石英粉中の金属不純物含有量を100ppb以下とする高純度化は困難である。また、2の方法では、高純度化は計れるものの、工業的に見合う程度に低コストでの生産は困難であり、量産化に到っていない。
【0004】
一方、3のゾルゲル法では、量産化できるものの原料、中間体、製品は製造装置に接触せざるを得ず、装置との接触によって不純物が混入するという不具合があった。特に、原料である有機金属化合物とアルコキシド、及び水との反応により生成する粒子(ゾル、ゲル)やウェットゲルは、装置内壁に接触し、付着、剥離、脱落を繰り返す課程で製品中に異常粒子(スケーリング物)を混入する。スケーリング物の発生する装置としては、反応器、粉砕器、乾燥機、配管部等の、少なくとも反応液やウェットゲル、またはドライゲルに接触する部分を擁する合成石英製造に用いる一連の装置やこれらの個別装置が挙げられる。またこのスケーリング物を製品から分離、除去することは、大変困難であった。
【0005】
そしてゲルを焼成して合成石英粉を製造する際に、このようなスケーリング物はカーボン成分となる。カーボン成分は凝集して黒点異物となって製品中に生成する。また合成石英粉を溶融しガラス成型体とする際に、このカーボン成分が分解してガスとなり、これが気泡としてガラス成型品中に形成されてしまい、ガラス成型品の品質を著しく悪化させることが知られていた。
【0006】
この解決方法としては例えば、ゾルゲル反応により得られる合成石英粉の粉体中の黒点粒子個数を5個/50g以下とすることが知られている(特開平8−188411号公報)。また同公報には、この合成石英粉を溶融して得られるガラス成型体においては、従来のものよりも泡の発生が少ないとの記載もある。
【特許文献1】特開平8−188411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら最近の光通信分野、半導体産業等に使用されるガラス製品への品質要求は更に厳しくなっており、この様な従来の技術で成し得た以上に、更に泡発生を低レベルに抑制する合成石英粉の開発が望まれていた。またゾルゲル法による合成石英粉の高純度化
に於いては、別の方法も知られている。これは、製造装置との接触により混入すると思しきスケーリング物の製品への混入量低減と、混入したスケーリング物による未燃カーボンが残留しないように、焼成過程で空気の供給を充分に行う方法である。これによってガラス成型体中の気泡を低減出来ることが知られていた。しかしこの方法でも近年の高純度化の要求を満足するものではなく、更に高度に泡の発生を抑制する合成石英粉の提供が望まれていた。更には真空下での加熱処理方法も提案されているが、真空条件を工業的に実現するには多大なコストが必要となるなど、工業化が困難であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決すべく本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、石英粉、特にゾルゲル反応により製造される合成石英粉において、石英粉を室温から1700℃まで加熱する間に発生するガスにおいて、COが300ナノリットル/g以下で且つ、COが30ナノリットル/g以下である際に、目的とする高純度の石英粉となることを見出した。さらにこの石英粉を溶融することによって、気泡が極めて少ないガラス成型体が得られることをも見出した。
【0009】
またこの石英粉は、アルコキシシラン類を加水分解して得られた平均粒径10〜500μmのシリカゲルを、400℃〜1300℃の温度条件下でヘリウム及び/又は水素ガスと接触させ、合成石英粉として得られることをも見出し、本発明を完成するに到った。即ち本発明の要旨は、石英粉であって、石英粉を室温から1700℃まで加熱する間に発生するガスにおいて、COが300ナノリットル/g以下で且つ、COが30ナノリットル/g以下である石英粉に存する。
【0010】
また本発明の今ひとつの要旨は、アルコキシシラン類を加水分解して得られた平均粒径10〜500μmのシリカゲルを、400℃〜1300℃の温度条件下でヘリウム及び/又は水素ガスと接触させる合成石英粉の製造方法に存する。さらに本発明の別の要旨は、石英粉を室温から1700℃まで加熱する間に発生するガスにおいて、COが300ナノリットル/g以下で且つ、COが30ナノリットル/g以下である石英粉を溶融し成型して得られるガラス成型体に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、溶融時、泡の発生が少ない高品質な合成石英粉及びガラス成形体を得ることが出来る。本発明の合成石英粉を溶融し得られたガラス成形体は、極めて気泡が少ない、高品質のものとなる。この理由は凡そ次のように考える。
混入したスケーリング(異常粒子)から炭素成分を除去するため、空気の流通を十分に行ったり、酸素濃度を管理したりすることで、燃焼を促進して黒点化を抑制することは従来の技術でもある程度可能であった。しかしながら、完全に炭化して明らかな黒点とはならなくても、部分的に炭素成分が寄せ集まったクラスター状の炭素化合物集合体が、石英粉中に残留する可能性がある。また、炭素成分の濃度が高くなっているこのような異常粒子中の炭素は合成石英中のシリカ骨格のシリコン原子と置換して骨格に組み込まれることも知られており、一度骨格に組み込まれてしまった炭素はなかなか除きにくいことが予想される。石英粉のガラス化には通常1700℃以上高温が必要とされ、その温度よりも低温で製造される合成石英粉に炭素成分があらかじめ残留すると、高温溶融時にCOまたはCO等の形でガラス成形体中に泡を発生するものと考えられる。石英粉粒子から放出されるCOやCO等のガスは製品中のスケーリング物に含まれる炭素成分と強く関係していると考えられ、高温加熱時の合成石英粉から発生するCOやCOが少ないものは、粉体のスケーリング物中の炭素成分が少なく、溶融してガラス成形体を得るときに泡の発生が抑えられるものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の石英粉は、室温から1700℃まで加熱したときに発生する総ガス量のうち、COが300ナノリットル/g以下で且つCOが30ナノリットル/g以下の高純度石英粉である。中でも、室温から1700℃まで加熱したときに発生する総ガス量のうち、Nが50ナノリットル/g以下、且つHが150ナノリットル/g以下あることが好ましい。
【0013】
石英粉を加熱することによって発生するガスを定量する方法は、一般的に知られている任意の方法を用いることが出来る。中でも非常に微量な生成ガスをとらえられ、かつ高温条件で分析可能であることが好ましいく、例えばTPD−MS(Temperature Programmed
Desorption-Mass Spectroscopy)法等が挙げられる。本発明においては、この発生ガス
を定量するの際、測定対象の石英粉(サンプル)を真空ガラスアンプルに封入し、このアンプルを室温から1700℃まで加熱した際に発生するガスを定量する。具体的には、石英粉サンプルをガラス製アンプルに入れ、一旦、アンプル内部圧力を1.3×10−3〜1.3×10−4Paとする。次いで水分など吸着成分を加速的に除去するため、200℃、10分間加熱し、その後約1時間放置する。アンプル内の真空度が1.3×10−3〜1.3×10−4Paで安定しているのを確認し、端部を溶融し、封をして真空アンプルを作成する。
【0014】
本発明の石英粉は、石英粉を室温から1700℃まで加熱した際に発生する総ガス量において、COが300ナノリットル/g以下でかつ、COが30ナノリットル/g以下であることが特徴である。この温度条件は石英粉の粉体が焼結せず、最大限のガス発生量が得られる点で好ましい。
また本発明に於いては、石英粉が室温から加熱到達温度となる迄に要する時間(昇温速度)が短い程良い。具体的には10分以内、好ましくは5分以内に加熱到達温度となることが好ましい。この様に急速に加熱し、合成石英粉から発生するガスを定量することで、安定した結果が得られるので好ましい。昇温速度が長すぎると、測定結果が振れることがある。更に本発明の石英粉は、充填嵩密度が1.3〜1.7g/cmで且つ金属不純物含有量が500ppb以下であることが、ガラス成型体とした際に泡の含有量が一層抑制されるので好ましい。充填嵩密度は1.3g/cm以上であることが好ましく、この値が低すぎると石英粉を溶融成型する際の体積収縮が大きくなり、寸法安定性が低下する場合がある。また充填嵩密度が1.7g/cmを超える様な石英粉は製造が困難な場合がある。また本発明の石英粉における金属不純物含有量は、アルカリ金属、アルカリ土類金属や、アルミニウム、鉄、銅等、全金属不純物の含有量を意味し、その測定方法は任意である。本発明の石英粉における金属不純物含有量は、中でも200ppb以下、特に100ppb以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の石英粉、例えば合成石英粉の製造方法は任意であるが、中でもゾルゲル法によって製造することが好ましい。特に、アルコキシシラン類の加水分解で得られた平均粒径10〜500μmのシリカゲルを、400℃〜1300℃の温度でヘリウム及び/又は水素ガスと接触させる製造方法により、製造することが好ましい。ヘリウム及び/又は水素ガスと接触させるシリカゲルの平均粒径は10〜500μm、中でも100〜500μmであることが好ましい。平均粒径が小さすぎると粒子の表面積が大きくなるためにガスの吸着等が生じやすくなり、ガラス成型体とした際の気泡の原因となる場合がある。逆に、平均粒径が大きすぎても、粒子中の不純物除去効率が低下し、ガラス成型体とした際の気泡の原因となる場合がある。ヘリウム及び/又は水素ガスと接触させる温度は、好ましくは600℃〜1300℃、特に800℃〜1300℃であることが好ましい。
【0016】
また接触させるガスであるヘリウム及び/又は水素ガスにおいては、中でも4%以下の
水素を含むヘリウム・水素の混合ガスが好ましく、特に純ヘリウムガスと接触させることが好ましい。ヘリウム及び/又は水素ガスとの接触方法は任意であり、例えば合成石英粉体中に通気させたり、容器中に粉体とヘリウム及び/又は水素ガスとを閉じこめて、ヘリウム及び/又は水素ガス雰囲気下として、常圧もしくは加圧で保持する方法等が挙げられる。
【0017】
またゾルゲル法による合成石英粉の製造工程においては、平均粒径10〜500μmのシリカゲルへの、ヘリウム及び/又は水素ガスとの接触タイミングは任意である。例えば一度室温まで冷却されたシリカゲルを再加熱し、400℃〜1300℃の温度でヘリウム及び/又は水素ガスとの接触を行ってもよいし、シリカゲルの焼成工程において、その一部又は全部をヘリウム及び/又は水素ガス雰囲気下にて行ってもよい。また焼成して製品となった合成石英粉を、再加熱処理するときに、これをヘリウム及び/又は水素ガスと接触させてもよい。
【0018】
中でもシリカゲルをヘリウム及び/又は水素ガスと接触させる前又は後に、1000℃以上で10〜50時間、酸素含有雰囲気中で加熱処理することが好ましい。この際の加熱温度は、好ましくはガラス化温度以上であって、中でも1200℃以上であることが好ましい。またこの温度下での加熱処理時間は、好ましくは20〜40時間、特に好ましくは25〜35時間である。
【0019】
酸素を含む雰囲気中での加熱処理方法としては例えば、乾燥空気を流通させながら加熱処理を行う方法が挙げられる。加熱処理温度に到達するまでの時間(昇温速度)は任意だが、一般的には50〜200℃/hr、好ましくは70〜150℃/hrである。上述したシリカゲルに対する酸素含有雰囲気中での加熱処理と、400℃〜1300℃でのヘリウム及び/又は水素ガスとの接触処理の順番は任意であるが、酸素含有雰囲気中での加熱処理を行った後に、ヘリウム及び/又は水素ガスとの接触処理を行うのが好ましい。
【0020】
またこの二つの処理(酸素含有雰囲気中での加熱処理と、ヘリウム及び/又は水素ガスとの接触処理)を、複数回に分けて交互に行ってもよい。例えば、ゾルゲル法によって得られたシリカゲルを乾燥空気流通下で800℃前後まで加熱し、次いで乾燥空気に代えてヘリウム及び/又は水素ガスの流通下で1700℃まで加熱する。そして到達温度条件下での全加熱処理時間のうち前半の10〜50%経過した後に再び乾燥空気に切り替えて到達温度条件下での全加熱処理を行う。そして加熱終了またはその直前に再度ヘリウム及び/又は水素ガスに切り替える。尚、その後にもう一度乾燥空気に切り替えてもよい。
【0021】
本発明の石英粉、例えば上述の様にして得られた合成石英粉において、室温から1700℃まで加熱する間に発生するガス量におけるCOやCO、H及びN発生が抑制されている理由は不明であるが、ヘリウムや水素などのサイズの小さい分子は、石英粒子中に十分溶解しかつ拡散速度も大きく、特に粒子内の拡散が不利なCOやCO、N等の分子サイズが大きいガスを、粒子から追い出すことによる為と考えられる。又、COやCOが減ることによって、合成石英粉中の水(石英粉中でのシラノール基(≡SiOH)とシリカ(SiO)との平衡反応において生ずる水)と、これらの平衡反応(CO+HO⇔CO+H)で生ずるHが、同時に減ることと考えられる。
【0022】
本発明の合成石英粉をゾルゲル法で製造する際には、上述の通り、アルコキシシラン類の加水分解で得られる、平均粒径10〜500μmのシリカゲルを400℃〜1300℃の温度でヘリウム及び/又は水素ガスと接触させれば、その他の製造条件は適宜選択すればよい。例えば具体的には、反応器にアルコキシシランと高純水とを仕込み、アルコキシシランに対する純水の量を当量から10倍当量仕込み、ゾルゲル反応を行う。その後、反応生成物(ウエットゲル)を平均粒径10〜500μmに粉砕、乾燥してシリカ前駆体で
あるシリカゲル(ドライゲル)を得る。アルコキシシラン類としてはテトラメトキシシランやテトラエトキシシラン等、加水分解縮重合反応によりアルコキシシランオリゴマーが得られるものであればよく、任意のアルコキシシランを用いることが出来る。中でもテトラアルコキシシラン類が好ましく、特にテトラメトキシシランが好ましい。
【0023】
またこの加水分解縮合反応の際、溶媒として水と相溶性のあるアルコール類やエーテル類などの有機溶媒を混合してもよい。また更に、この反応を促進する方法として、酸やアルカリ等の触媒を用いてもよく、中でも金属を含まない触媒が好ましく、一般には有機酸やアンモニア水などが好ましい。加水分解生成物のゲル化を制御するために、反応容器を加熱若しくは冷却してもよい。この反応によって得られるウェットゲルは、粉砕により粒度を調整される。ここでの粉砕の粒度分布が、最終製品である合成石英粉の粒度分布を支配する。目的とする製品の粒度分布から、乾燥、焼成による粒子の収縮分を考慮して、ウェットゲルの最適粒度を決めることが重要である。乾燥後のシリカゲル(ドライゲル)の平均粒径は10〜500μm、中でも90〜500μm、特に100〜500μmとすることが好ましい。ゲルの乾燥の程度は、水含有量で、通常1〜30重量%であり、通常減圧下あるいは不活性ガス雰囲気中で100〜200℃に加熱することによって行われる。
【0024】
このように製造したドライゲルは400℃〜1300℃の温度でヘリウム及び/又は水素ガスと接触させ、高純度合成石英粉とする。通常、更に400℃〜1250℃の領域で温度変化させ、通常10〜100時間焼成を行い、無孔化させて高純度合成石英粉とする。また本発明においては、ガラス成型体の気泡発生状況を確認するため、溶融試験を行った。石英粉の溶融は、酸水素炎による溶融法、すなわちベルヌーイ法によって行われ、作成されたインゴット中の泡の数を数えて、泡発生傾向を比較することができる。
【実施例】
【0025】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
実施例1−1、1−2
攪拌槽にテトラメトキシシランとこれに対して5倍当量の水を仕込み、30℃の温度で1時間攪拌して、加水分解反応によって均一なゾル溶液を得た。さらにこれを塩化ビニル製のバットに移し、5時間放置してゲル化させた。このゲルを140℃の真空乾燥機を用いて12時間乾燥した後、平均粒径320μmの粒径に粒度調整を行った。
【0026】
このようにして得られたドライゲル粉末1kgを石英ガラス製の蓋付き容器に仕込み、電気炉内にセットし、蓋にあけた穴からガス吹き込みノズルを挿入して乾燥空気を流通しながら、100℃/hrの昇温速度で1200℃へ昇温し、1200℃で30時間保持することによって焼成し、乾燥空気は粉体が十分に冷却するまで流通を続け、合成石英粉を得た。
【0027】
得られた高純度合成石英粉500gを石英ガラス製の蓋付き容器に仕込み、電気炉内にセットし、蓋にあけた穴からガス吹き込みノズルを挿入してヘリウムガスを流通しながら、400℃/hrの昇温速度で1200℃へ昇温し、1200℃で10時間保持することによって焼成を行った。ヘリウムガスは粉体が十分に冷却するまで流通を続けた。
この様にして得られた、ヘリウムガス処理合成石英粉のうち、100gを100mlのガラス製メスシリンダーにいれ、充填嵩密度(タップ密度)を測定したところ、1.34g/cmであった。またこの合成石英粉における総金属不純物含有量を測定した。測定方法はまず、合成石英粉を高純度フッ酸に溶解し、得られた溶解液を加熱乾固させた。ついでこの乾固物を、高純度希硝酸及び高純度希硫酸の10:1(容積比)液に溶解させた。こうして得られた溶液を、ICP−MASSを用いて金属不純物含有量を測定したところ、金属不純物含有量は約57ppbであった。金属毎の含有量の詳細は表1に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
次に、このヘリウムガス処理合成石英粉の一部を、以下の方法によって真空アンプルに封入し、これを20℃/分の昇温速度で1700℃まで加熱し、その間に発生するガス量を定量した。
アンプル作成
試験管形封入管(試験管形8本:石英製、内径約8mm、厚さ約1mm、長さ約130mm)を中性洗剤及び蒸留水で洗浄後、アセトン置換して窒素送気にて乾燥した。封入管に上述の方法により得られた合成石英粉サンプルを1.02g秤取った。封入管は底部から約5cmの所をバーナーで加熱し、絞って細くした後、真空装置(TOKUDA製 MODEL EH-2A)のa〜dのガラスポートに溶接接続し、真空引きを行った。真空装置の概略図
を図1に示す(アンプル管は図示せず)。尚、電離真空計はTOKUDA製 MODEL HFT−4を
用いた。4個のアンプルのうち、図1のガラスポートa、bに接続されたアンプル管には合成石英粉を入れ、ガラスポートc、dに接続されたアンプル管には何も入れず、ブランクとした。
【0030】
回転ポンプ8を駆動させて系内圧力を低下させ、ガイスラー管10が殆ど発光してないことを確認した後、背圧弁3を開いた。そして背圧弁3を開いてから約15分後、拡散ポンプ7を駆動させ、更に系内の真空度を上げるべく、高真空度化を開始した。高真空化開始から約10分後、電離真空計9(TOKUDA MODEL HFT−4)による真空度は5.3×1
−3Paであった。次いで、水分など吸着成分を加速的に除去するため、200℃、10分間加熱した。開始約60分後、真空度は2.7×10−3Paで安定していた。接続弁1を閉めて真空装置系のみによる真空度を確認したが、変化は認められなかった。接続弁1を開け、アンプル開口部分をバーナーで加熱して封止して、ガラスポートから切り離し、真空ガラスアンプルを作成した。この際、系内の真空計は2.7×10−3Paで安定しており、変化は認められなかった。
【0031】
発生ガス量・種類の測定
富士電波工業(株)製の小型真空加圧炉(型式:FVPHP−R−5、FRET−35)及びカーボン製るつぼを用い、このるつぼに、上記方法で作成した石英ガラスアンプルを入れて真空度40Pa、20℃/分で1700℃まで昇温し、20分加熱した。冷却後、常圧にしてからガラスアンプルを取り出した。
【0032】
アンプル内のガス定量分析
排気ポンプ、及び質量分析装置への開口部を有し、系内を密閉可能な破壊容器の内部にアンプルをセットした。排気ポンプによって容器内部を排気後、破壊容器に付属の、質量分析装置(アネルバ株式会社製、AGS7000)へのゲートバルブを開けて、更に容器内部を高真空(1.3×10−3Pa)とし、これを1時間以上持続させた。次に、質量分析装置を検出器電圧2600Vで用い、m/z=2(水素)、4(He)、18(水)、28(窒素とCO)、30(NO)、32(酸素)、及び44(二酸化炭素)をモニターしながら、アンプルを破壊した。尚、窒素とCOとの区別は、m/zが12及び14の比率を利用して区別した。アンプルからガスが放出され、ピークが得られる。標準物質または標準ガスピークとの相対感度比との相対感度比を用いて、得られたピーク面積から発生ガスの定量を行った。この様な発生ガス量の定量を、実施例1−1、及び1−2として2回行った。結果を表2に示した。表2より明らかなとおり、加熱後のアンプル管の体積膨張も少なく、ガス発生量が抑制されていた。また2度に亘る測定結果を比べても数値差は小さく、分析精度が優れていることが判る。
【0033】
【表2】

【0034】
更にこれら先述の方法で得られた、ヘリウムガス処理合成石英粉末を用いて、酸水素炎によるベルヌーイ法溶融装置を用いて直径12mm高さ60mmのインゴットを作成した。このインゴットに対して、暗室内にて懐中電灯を照射し、ルーペを通して気泡の数を目視で観察した。その結果、気泡の数は、僅か3個であり、優れたものであった。
比較例1
ヘリウムガス処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法にて合成石英粉を得た。そして実施例1と同様の方法でCO、CO等の発生量を定量した。結果を表2に記した。表2より明らかなとおり、加熱後のアンプル管の体積膨張は大きく、多くのガスが発生した。
【0035】
更にこの合成石英粉を用いて実施例1と同様にインゴットを作成し、暗室内で懐中電灯を照射し気泡の数を観察した。その結果、気泡の数は42個と多く、るつぼ等のガラス成型体とした際に問題があることは、明らかであった。
比較例2
ヘリウムガス処理に替えて、1150℃、真空度30〜100Paでの加熱処理を8時間行った以外は、実施例1と同様にして合成石英粉を得た。そして実施例1と同様にCO、CO等の発生量を定量した。結果を表2に示した。表2から明らかなとおり、ヘリウムガス処理合成石英粉と同様にガス発生量は抑えられたが、処理時間が長いばかりでなく、加熱処理装置内部を真空条件とする必要があるなど、工業的には不向きであった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】真空ガラスアンプル管の作成装置の概略図である。
【符号の説明】
【0037】
1:接続弁
2:本引弁
3:背圧弁
4:リーク弁
5:粗引弁
6:リーク弁
7:拡散ポンプ
8:回転ポンプ
9:電離真空計
10:ガイスラー管
a〜d:ガラスアンプル接続ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径10〜500μmのシリカゲルを、1000℃以上で10〜50時間、酸素含有雰囲気中で加熱処理して製造する合成石英粉の製造方法において、
該酸素含有雰囲気中での加熱処理後、得られた合成石英粉にヘリウムガスを接触させることを特徴とする、合成石英粉の製造方法。
【請求項2】
得られた合成石英粉に、800〜1300℃でヘリウムガスを接触させることを特徴とする、請求項1に記載の合成石英粉の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により製造された合成石英粉を溶融し成型して得られることを特徴とするガラス成型体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−114058(P2009−114058A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331742(P2008−331742)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【分割の表示】特願2002−211362(P2002−211362)の分割
【原出願日】平成14年7月19日(2002.7.19)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】