説明

合成繊維用処理剤、合成繊維の処理方法及び合成繊維

【課題】合成繊維に過酷な高温での熱処理が行なわれる場合であっても、毛羽やタールの発生を抑え、また発煙を抑えて、操業性の低下を防止できる処理剤、かかる処理剤を用いた処理方法及びかかる処理方法によって得られる合繊繊維を提供する。
【解決手段】合成繊維用処理剤として、2種以上の油脂を混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、2)油脂と、脂肪族モノカルボン酸と、グリセリンとを混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、以上の1)及び2)から選ばれる一つ又は二つ以上を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成繊維処理剤(以下、単に処理剤という)、合成繊維の処理方法(以下、単に処理方法という)及び合成繊維に関する。近年、合成繊維の製造乃至加工工程では、高速化が推進され、これに伴って合成繊維に高温での熱処理が行なわれるようになっている。なかでも、タイヤコード、ベルト、ホース、シートベルト、エアーバッグ等に使用される産業資材用合成繊維の場合には、高速化と同時に高倍率延伸が行なわれるため、より過酷な高温での熱処理が行なわれ、毛羽やタールが発生し易く、また発煙し易く、結果として操業性が低下するので、かかる毛羽やタールの発生を抑え、また発煙を抑えて、操業性の低下を防止することが重要である。このため合成繊維に付着させる処理剤には、該合成繊維が高温で熱処理される場合であっても、前記のような毛羽やタールの発生を抑え、また発煙を抑えて、操業性の低下を防止できるものであることが要求されるようになっている。本発明は、かかる要求に応える処理剤、かかる処理剤を用いた処理方法及びかかる処理方法によって得られる合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高温で熱処理される場合であっても、毛羽やタールの発生等を抑える処理剤として各種が報告されており、なかには油脂を代表とする3価の脂肪酸エステルを用いた例が報告されている。これには例えば、1)水酸基含有化合物のアルキレンオキサイド付加物2種類と、特定のポリエステルと、ベースオイルとを用いたもの(例えば特許文献1参照)、2)ポリオレフィン樹脂と、平滑剤と、乳化剤とを用いたもの(例えば特許文献2参照)、3)芳香族エステル化合物と、有機カルボン酸のアルカリ金属塩と、特定の酸化防止剤とを用いたもの(例えば特許文献3参照)、4)多価エステル化合物と、チオエーテル基を有するエステル化合物と、二級スルホネート化合物と、有機ホスフェート化合物と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とを用いたもの(例えば特許文献4参照)等が知られている。
【0003】
しかし、これら従来の処理剤には、近年のように過酷な高温での熱処理が行なわれると、毛羽やタールの発生を抑え、また発煙を抑えて、操業性の低下を防止する上で著しく不充分という問題がある。
【特許文献1】特開2004−353115号公報
【特許文献2】特開2006−233379号公報
【特許文献3】特開2004−292961号公報
【特許文献4】特開平8−120563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、近年のように過酷な高温での熱処理が行なわれる場合であっても、毛羽やタールの発生を抑え、また発煙を抑えて、操業性の低下を防止できる処理剤、かかる処理剤を用いた処理方法及びかかる処理方法によって得られる合繊繊維を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、処理剤としては油脂類のエステル交換から得られるグリセリンエステル化合物を含有してなるものを用いるのが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、下記のグリセリンエステル化合物を含有することを特徴とする処理剤に係る。
【0007】
グリセリンエステル化合物:1)2種以上の油脂を混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、2)油脂と、脂肪族モノカルボン酸と、グリセリンとを混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、以上の1)及び2)から選ばれる一つ又は二つ以上。
【0008】
また本発明は、前記の本発明に係る処理剤を熱処理工程に供する合成繊維フィラメント糸条に対し0.1〜3質量%となるよう付着させることを特徴とする処理方法に係る。
【0009】
更に本発明は、かかる処理方法によって得られる合成繊維に係る。
【0010】
先ず、本発明に係る処理剤(以下、単に本発明の処理剤という)について説明する。本発明の処理剤に供するグリセリンエステル化合物は、1)2種以上の油脂を混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、2)油脂と、脂肪族モノカルボン酸と、グリセリンとを混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、以上の1)及び2)から選ばれる一つ又は二つ以上である。
【0011】
エステル交換に用いる油脂としては全ての動植物油脂を用いることができる。例えば、1)ヤシ油、パーム核油等、ラウリン酸を主成分とする炭素数6〜20の脂肪酸のトリグリセライドからなる植物油脂、2)あまに油、オリ−ブ油、米ヌカ油、ゴマ油、サフラワー油、大豆油、トール油、ナタネ油、パーム油、ひまわり油、綿実油、落花生油等、オレイン酸を主成分とする炭素数10〜24の脂肪酸のトリグリセライドからなる植物油脂、3)ヒマシ油、硬化ヒマシ油等、ヒドロキシ脂肪酸を含む炭素数14〜20の脂肪酸のトリグリセライドからなる植物油脂、4)アオイ科種子油、カポック油等、環状酸を含む炭素数12〜20の脂肪酸のトリグリセライドからなる植物油脂、5)魚油、鯨油、牛脂等、炭素数4〜24の脂肪酸のトリグリセライドからなる動物油脂等を挙げられる。なかでも、油脂を形成する脂肪酸の主成分が炭素数8〜18であるヤシ油、パーム核油、パーム油、オリーブ油、ナタネ油、米ヌカ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、牛脂が好ましい。
【0012】
本発明の処理剤に供するグリセリンエステル化合物としては、ラウリン酸を主成分とする炭素数6〜20の脂肪酸のトリグリセライドからなる植物油脂と、オレイン酸を主成分とする炭素数10〜24の脂肪酸のトリグリセライドからなる植物油脂とをエステル交換した化合物、またラウリン酸を主成分とする炭素数6〜20の脂肪酸のトリグリセライドからなる植物油脂と、ヒドロキシ脂肪酸を含む炭素数14〜20の脂肪酸のトリグリセライドからなる植物油脂とをエステル交換した化合物のように、エステル交換に用いる油脂を構成する脂肪酸の主成分である脂肪酸の炭素数が4以上離れているものが好ましい。
【0013】
具体的には、下記のA群から選ばれる油脂と下記のB群から選ばれる油脂とを、A群から選ばれる油脂/B群から選ばれる油脂=70/30〜30/70(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物から選ばれるものが好ましい。
A群:ヤシ油及びパーム核油
B群:パーム油、オリーブ油、ナタネ油及び米ヌカ油
【0014】
より具体的には、1)ヤシ油/パーム油=50/50(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、2)ヤシ油/ナタネ油=50/50(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、3)パーム核油/パーム油=40/60(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、4)パーム核油/ナタネ油=60/40(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、5)ヤシ油/パーム核油/ナタネ油/米ヌカ油=25/25/25/25(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物等が挙げられる。
【0015】
本発明の処理剤に供するグリセリンエステル化合物には、油脂と、脂肪族モノカルボン酸と、グリセリンとを混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物から選ばれるものも含まれる。ここでエステル交換に用いる脂肪族モノカルボン酸には特に制限はない。これには例えば、ヘキサン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘニン酸、エルカ酸、12−ヒドロキシオクタデセン酸、12−ヒドロキシオクタデカン酸等が挙げられる。なかでもオクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、デカン酸、ラウリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、12−ヒドロキシオクタデセン酸が好ましい。
【0016】
具体的には、1)ヤシ油/オレイン酸/グリセリン=50/150/50(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、2)ヤシ油/オレイン酸/イソステアリン酸/グリセリン=50/75/75/50(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、3)パーム核油/オレイン酸/イソステアリン酸/グリセリン=50/75/75/50(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、4)ナタネ油/ラウリン酸/グリセリン=50/150/50(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、5)ナタネ油/オクタン酸/デカン産/ラウリン酸/グリセリン=50/50/50/50/50(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、6)パーム油/オクタン酸/ラウリン酸/グリセリン=50/75/75/50(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、7)オリーブ油/デカン酸/ラウリン酸/グリセリン=50/75/75/50(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物等が挙げられる。
【0017】
本発明の処理剤に供するグリセリンエステル化合物を得るためのエステル交換それ自体は、公知のエステル交換法を適用できる。例えば、2種以上の油脂を混合し、その混合物にリン酸等の酸性化合物を加え、加温しながら脱水してエステル交換させる反応や、1種以上の油脂に脂肪酸及びグリセリンを混合し、その混合物にリン酸等の酸性化合物を加え、加温しながら脱水してエステル交換させる反応を適用できる。2種以上の油脂の混合比率は任意であるが、1種以上の油脂に脂肪酸及びグリセリンを混合する場合は、油脂1モルに対して脂肪酸3モル及びグリセリン1モルの割合となるように混合するのが好ましい。
【0018】
本発明の処理剤において、以上説明したグリセリンエステル化合物は、平滑剤として用いられるものである。本発明の処理剤は、グリセリンエステル化合物単独でも充分な平滑性を発揮するが、グリセリンエステル化合物以外の平滑剤を含有することもできる。
【0019】
グリセリンエステル化合物以外の平滑剤を含有する場合、グリセリンエステル化合物を平滑剤全体の65質量%以上となるようにするのが好ましく、70質量%以上となるようにするのがより好ましい。グリセリンエステル化合物以外の平滑剤の量が相対的に多くなると、そのような平滑剤の影響が出易くなるからである。
【0020】
本発明の処理剤に供するグリセリンエステル化合物以外の平滑剤としては、有機エステル化合物、鉱物油、ポリエーテル、シリコーン化合物等が挙げられるが、有機エステル化合物が好ましい。かかる有機エステル化合物としては、1)オクチルステアレート、オレイルラウレート、オレイルオレート、1,6−ヘキサンジオールジデカノエート、トリメチロールプロパンモノオレートジラウレート、ジラウリルアジペート、ジオレイルチオジプロピオネート、ジオレイルアゼレート、ペンタエリスリトールテトラオクタノエート等の脂肪族エステル化合物、2)ベンジルステアレート、ベンジルラウレート、ビスフェノールAジラウレート、ジイソステアリルイソフタレート、トリオクチルトリメリテート等の芳香族エステル化合物、3)ヤシ油、パーム油、ナタネ油、ヒマワリ油、ゴマ油、大豆油、あまに油、ヒマシ油、魚油、牛脂等の動植物油脂類等が挙げられる。
【0021】
また本発明の処理剤は乳化剤を含有することができる。かかる乳化剤としては、各種の非イオン界面活性剤が挙げられる。これには例えば、1)ポリオキシアルキレンオクチルエーテル、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル、ポリオキシアルキレンオクチルエーテルラウリン酸エステル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイン酸エステル、ポリオキシアルキレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシアルキレンラウリルアミドエーテル等の分子中にポリオキシアルキレン基を有するエーテル型非イオン界面活性剤、2)ソルビタンモノラウラート、ソルビタントリオレアート、ソルビトールテトラオレアート、グリセリンモノオレアート、グリセリンモノラウラート、ジグリセリンジラウラート等の多価アルコール部分エステル型非イオン界面活性剤、3)ポリオキシアルキレンソルビタンモノオレアート、ポリオキシアルキレンソルビタントリオレアート、ポリオキシアルキレングリセリンモノラウラート、ポリオキシアルキレンビスフェノールAジラウラート、ポリオキシアルキレンヒマシ油、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油ジラウラート、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油トリオクタノアート等のポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤、4)ジエタノールアミンモノラウロアミド、ジエタノールアミンモノオレオアミド、ジエチレントリアミンジオクチルアミド等のアミド型非イオン界面活性剤、5)ポリオキシエチレンジエタノールアミンモノオレイルアミド、ポリオキシエチレンジエチレントリアミンジラウリルアミド等のポリオキシアルキレン脂肪酸アミド型非イオン界面活性剤等が挙げられる。なかでも、エーテル型非イオン界面活性剤、多価アルコール部分エステル型非イオン界面活性剤、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤が好ましく、多価アルコール部分エステル型非イオン界面活性剤、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤がより好ましい。
【0022】
更に本発明の処理剤は、静電気防止剤を含有することができる。かかる静電気防止剤としては、各種のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。これらのなかではアニオン界面活性剤が好ましく、かかるアニオン界面活性剤としては、1)トリデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の有機スルホン酸塩、2)ポリオキシエチレンラウリル硫酸エステルナトリウム等の有機硫酸エステル塩、3)オクチルリン酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルリン酸エステルカリウム、オレイルリン酸エステル=トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルリン酸エステル=ポリオキシエチレンラウリルアミン等の有機リン酸エステル塩、4)オクタン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸カリウム等の有機脂肪酸塩等が挙げられるが、なかでも有機スルホン酸塩、有機リン酸エステル塩、有機脂肪酸塩が好ましく、有機リン酸エステル塩がより好ましい。
【0023】
本発明の処理剤としては、以上説明したような平滑剤、乳化剤及び静電気防止剤から成り、平滑剤を30〜85質量%、乳化剤を10〜69質量%及び静電気防止剤を0.1〜10質量%(合計100質量%)含有していて、且つ平滑剤の少なくとも一部としてグリセリンエステル化合物を平滑剤全体の65質量%以上となるよう含有するものが好ましく、平滑剤を40〜70質量%、乳化剤を24〜59質量%及び静電気防止剤を1〜8質量%(合計100質量%)含有していて、且つ平滑剤の少なくとも一部としてグリセリンエステル化合物を平滑剤全体の70質量%以上となるよう含有するものがより好ましい。
【0024】
本発明の処理剤を合成繊維に付着させるに際しては、本発明に係る処理剤と共に、合目的的に他の成分、例えば外観調整剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤等を併用することができるが、その併用量は可及的に少量とする。
【0025】
次に、本発明に係る処理方法(以下、単に本発明の処理方法という)について説明する。本発明の処理方法は、以上説明したような本発明の処理剤を熱処理工程に供する合成繊維フィラメント糸条に対し0.1〜3質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%となるよう付着させる方法である。本発明の処理剤を合成繊維に付着させる工程としては、紡糸工程、延伸工程、紡糸と延伸とを同時に行うような工程等が挙げられる。また本発明に係る処理剤を合成繊維に付着させる方法としては、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等が挙げられる。更に本発明の処理剤を合成繊維に付着させる形態としては、水性液、有機溶剤溶液、ニート等が挙げられるが、水性液が好ましく、本発明に係る処理剤の5〜30質量%水性液とするのがより好ましい。
【0026】
本発明の処理方法の適用対象となる合成繊維としては、1)ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、5)ポリウレタン系繊維等が挙げられ、その種類や用途は制限されないが、製糸工程において高温且つ高接圧の過酷な条件下にさらされる産業資材用合成繊維に適用する場合に効果の発現が高く、なかでもポリエステル系繊維又はポリアミド系繊維に適用する場合に効果の発現が高い。
【0027】
最後に、本発明に係る合成繊維(以下、単に本発明の合成繊維という)について説明する。本発明の合成繊維は本発明の処理方法によって得られるものである。本発明の合成繊維はタイヤコード、ベルト、ホース、シートベルト、エアーバッグ等に使用される産業資材用合成繊維として有用である。
【発明の効果】
【0028】
以上説明した本発明には、産業資材用合成繊維のように、高温且つ高接圧の過酷な条件下にさらされる場合であっても、毛羽やタールの発生を抑え、また発煙を抑えて、操業性の低下を防止できるという効果がある。
【0029】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【実施例】
【0030】
試験区分1(処理剤の調製)
・実施例1{処理剤(P−1)の調製}
下記のグリセリンエステル化合物(K−1)を50部、下記の乳化剤(E−1)を15部、下記の乳化剤(E−2)を20部、下記の乳化剤(E−3)を10部、下記の静電気防止剤(S−1)を1部、下記の静電気防止剤(S−2)を2部及び下記の静電気防止剤(S−3)を1部の割合で均一混合して実施例1の処理剤(P−1)を調製した。この処理剤(P−1)には、下記の併用成分(T−1)を1部併用した。
グリセリンエステル化合物(K−1):ヤシ油とパーム油を等モルで混合し、リン酸を加え、加熱してランダムにエステル交換した化合物。
乳化剤(E−1):ラウリルアルコール1モルに対してエチレンオキサイド(以下、単にEOという)7モルを付加したエーテル型非イオン界面活性剤
乳化剤(E−2):硬化ヒマシ油1モルに対してEO20モルを付加した多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤。
乳化剤(E−3):ソルビタンモノオレート1モルに対してEO14モルを付加した多価アルコール部分エステル型非イオン界面活性剤。
静電気防止剤(S−1):ドデシルスルホン酸ナトリウム
静電気防止剤(S−2):オレイルリン酸エステルトリエタノールアミン塩
静電気防止剤(S−3):オレイン酸カリウム
併用成分(T−1):1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン
【0031】
・実施例2〜42及び比較例1〜12{処理剤(P−2)〜(P−42)及び処理剤(R−1)〜(R−12)の調製}
処理剤(P−1)と同様にして、処理剤(P−2)〜(P−42)及び処理剤(R−1)〜(R−12)を調製した。以上の各例の処理剤の調製に用いた成分の内容を表1〜表5に、また以上の各例で調製した処理剤の内容を表6〜表9にまとめて示した。


























【0032】
【表1】










【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
【表5】





【0037】
【表6】













【0038】
【表7】














【0039】
【表8】













【0040】
【表9】

【0041】
表6〜表9において、
使用量:単位は部
【0042】
・試験区分2(合成繊維への各処理剤の付着及び評価)
・合成繊維への各処理剤の付着(条件1)
試験区分1で調製した各処理剤を希釈する場合はイオン交換水又は有機溶剤で均一に希釈して10%溶液とした。固有粘度1.10、カルボキシル末端基量15当量/10gのポリエチレンテレフタレートのチップを常法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて295℃で紡糸し、口金から吐出して冷却固化した後の走行糸条に、表10、表11及び表13に記載した付与形態の処理剤又はその10%溶液を、計量ポンプを用いたガイド給油法にて付着させた後、ガイドで集束させて、表面速度2500m/分、150℃の引取りロールで引取り、引き続き245℃の延伸ロール、弛緩ロールを介して全延伸倍率2.16倍となるように延伸し、5400m/分のワインダーで巻き取り、1670デシテックス360フィラメントの延伸糸を10kg捲きケークとして得た。
【0043】
・合成繊維への各処理剤の付着(条件2)
試験区分1で調製した各処理剤を希釈する場合はイオン交換水又は有機溶剤で均一に希釈して10%溶液とした。固有粘度1.10、カルボキシル末端基量15当量/10gのポリエチレンテレフタレートのチップを常法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて295℃で紡糸し、口金から吐出して冷却固化した後の走行糸条に、表12及び表13に記載した付与形態の処理剤又はその10%溶液を、計量ポンプを用いたガイド給油法にて付着させた後、ガイドで集束させて、表面速度550m/分、80℃の引取りロールで引取り、引き続き200℃の延伸ロール、弛緩ロールを介して全延伸倍率5.82倍となるように延伸し、3200m/分のワインダーで巻き取り、1400デシテックス108フィラメントの延伸糸を10kg捲きケークとして得た。
【0044】
・合成繊維への各処理剤の付着(条件3)
試験区分1で調製した各処理剤を希釈する場合はイオン交換水又は有機溶剤で均一に希釈して10%溶液とした。硫酸相対粘度3.7のナイロン6のチップを常法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて280℃で紡糸し、口金から吐出して冷却固化した後の走行糸条に、表12及び表13に記載した付与形態の処理剤又はその10%溶液をローラー給油法にて付着させた後、ガイドで集束させて、表面速度600m/分、室温の引取りロールで引取り、引き続き220℃の延伸ロール、弛緩ロールを介して全延伸倍率5.25倍となるように延伸し、3150m/分のワインダーで巻き取り、1400デシテックス208フィラメントの延伸糸を10kg捲きケークとして得た。
【0045】
・処理剤の付着量の測定
JIS−L1073(合成繊維フィラメント糸試験方法)に準拠し、抽出溶剤としてノルマルヘキサン/エタノール(50/50容量比)の混合溶剤を用いて、合成繊維に対する処理剤の付着量を測定した。結果を表10〜表13にまとめて示した。
【0046】
・操業性の評価
前記の条件1〜条件3の紡糸工程において、糸1トン当たりの断糸回数を10回測定し、測定値の平均値を次の基準で評価した。結果を表10〜表13にまとめて示した。
AAA:断糸回数が0.5回未満
AA:断糸回数が0.5回以上〜1.0回未満
A:断糸回数が1.0回以上〜1.5回未満
B:断糸回数が1.5回以上〜2.0回未満
C:断糸回数が2.0回以上
【0047】
・毛羽の評価
前記の条件1〜条件3の紡糸工程において、糸をケークとして巻き取る前に、毛羽計数装置(東レエンジニアリング社製のDT−105)にて1時間当たりの毛羽数を測定し、次の基準で評価した。結果を表10〜表13にまとめて示した。
AAA:測定された毛羽数が0個
AA:測定された毛羽数が1個未満(但し、0を含まない)
A:測定された毛羽数が1〜2個
B:測定された毛羽数が3〜9個
C:測定された毛羽数が10個以上
【0048】
・タールの評価
前記の条件1〜条件3で得たケークから採取した試験糸を、初期張力1kg、糸速度500m/分で、表面温度245℃(条件1の場合)、200℃(条件2の場合)又は220℃(条件3の場合)のホットローラーに巻き付けて走行させ、ホットローラーに発生する12時間後のタールの量を肉眼で観察し、次の基準で評価した。結果を表10〜表13にまとめて示した。
AAA:タールが認められない
AA:タールが僅かに認められる
A:タールが少し認められる
B:タールが明らかに認められる
C:タールがかなりの量認められる
【0049】
・発煙の評価
前記の条件1〜条件3で得たケークから採取した試験糸を、初期張力1kg、糸速度500m/分で、表面温度245℃(条件1の場合)、200℃(条件2の場合)又は220℃(条件3の場合)のホットローラーに巻き付けて走行させ、ホットローラー上から発生する煙の量を肉眼で観察し、次の基準で評価した。結果を表10〜表13にまとめて示した。
AAA:発煙が認められない
AA:発煙が僅かに認められる
A:タ発煙が少し認められる
B:発煙が明らかに認められる
C:発煙がかなりの量認められる
【0050】
【表10】












【0051】
【表11】

【0052】
【表12】












【0053】
【表13】

【0054】
表10〜表13において、
付与形態の欄の有機溶剤液:有機溶剤として40℃の粘度が2.0×10−6/sのノルマルパラフィンを用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のグリセリンエステル化合物を含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
グリセリンエステル化合物:1)2種以上の油脂を混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、2)油脂と、脂肪族モノカルボン酸と、グリセリンとを混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物、以上の1)及び2)から選ばれる一つ又は二つ以上。
【請求項2】
平滑剤、乳化剤及び静電気防止剤から成り、平滑剤を30〜85質量%、乳化剤を10〜69質量%及び静電気防止剤を0.1〜10質量%(合計100質量%)含有していて、且つ平滑剤の少なくとも一部としてグリセリンエステル化合物を平滑剤全体の65質量%以上となるよう含有する請求項1記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
平滑剤を40〜70質量%、乳化剤を24〜59質量%及び静電気防止剤を1〜8質量%(合計100質量%)含有していて、且つ平滑剤の少なくとも一部としてグリセリンエステル化合物を平滑剤全体の70質量%以上となるよう含有する請求項1記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
グリセリンエステル化合物が、ヤシ油、パーム核油、パーム油、オリーブ油、ナタネ油、米ヌカ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油及び牛脂から選ばれる2種以上の油脂を混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物から選ばれるものである請求項1〜3のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
グリセリンエステル化合物が、下記のA群から選ばれる油脂と下記のB群から選ばれる油脂とを、A群から選ばれる油脂/B群から選ばれる油脂=70/30〜30/70(モル比)の割合となるよう混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物から選ばれるものである請求項1〜3のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤。
A群:ヤシ油及びパーム核油
B群:パーム油、オリーブ油、ナタネ油及び米ヌカ油
【請求項6】
グリセリンエステル化合物が、油脂と、脂肪族モノカルボン酸と、グリセリンとを混合し、酸性化合物の存在下で加熱することによりランダムにエステル交換した化合物から選ばれるものである請求項1〜3のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
脂肪族モノカルボン酸が、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、デカン酸、ラウリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸及び12−ヒドロキシオクタデセン酸から選ばれるものである請求項6記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
グリセリンエステル化合物以外の平滑剤が、脂肪族エステル化合物、芳香族エステル化合物及び動植物油脂から選ばれるものである請求項2〜7のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
乳化剤が、分子中にポリオキシアルキレン基を有するエーテル型非イオン界面活性剤、多価アルコール部分エステル型非イオン界面活性剤及びポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤から選ばれるものである請求項2〜8のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤。
【請求項10】
静電気防止剤が、有機スルホン酸塩、有機リン酸エステル塩及び有機脂肪酸塩から選ばれるものである請求項2〜9のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一つの項記載の合成繊維用処理剤を熱処理工程に供する合成繊維フィラメント糸条に対し0.1〜3質量%となるよう付着させることを特徴とする合成繊維の処理方法。
【請求項12】
合成繊維用処理剤を5〜30質量%の水性液となし、該水性液を熱処理工程に供する合成繊維フィラメント糸条に対し合成繊維用処理剤として0.1〜3質量%となるよう付着させる請求項11記載の合成繊維の処理方法。
【請求項13】
合成繊維が産業資材用合成繊維である請求項11又は12記載の合成繊維の処理方法。
【請求項14】
産業資材用合成繊維がポリエステル系繊維又はポリアミド系繊維である請求項13記載の合成繊維の処理方法。
【請求項15】
請求項11〜14記載の合成繊維の処理方法によって得られる合成繊維。

【公開番号】特開2009−155762(P2009−155762A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335936(P2007−335936)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】