説明

合成繊維起毛布の加工方法及び表面加工した合成繊維起毛布

【課題】合成繊維起毛布の表面に、抜染又は着色した部分を凸状に残し、その周囲を凹状にエッチングする合成繊維起毛布の加工方法及び表面加工した合成繊維起毛布を提供する。
【解決手段】吸水性無機物質を含有する抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)を合成繊維起毛布上に印捺する第1工程と、次いで吸水性無機物質及びアルカリ性物質を含有するエッチング捺染剤(B)を、前記抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)の印捺部分及びその周囲に印捺する第2工程とを含む合成繊維起毛布の加工方法。
【効果】吸水性無機物質を含有する抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)によって、吸水性無機物質及びアルカリ性物質を含有するエッチング捺染剤(B)によるエッチングから保護することにより形成された抜染又は着色した凸部と、凸部の周囲に前記エッチング捺染剤(B)によって形成された凹部とを有する合成繊維起毛布が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維起毛布の表面を、抜染又は着色した部分を凸状に残し、その周囲を凹状にエッチングする合成繊維起毛布の加工方法及び表面を加工した合成繊維起毛布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維起毛布の表面に、凹部を形成すると同時に凹部を着色する方法として、分散染料とアルカリ性物質を含有する捺染剤を用いる方法が提案されている。(例えば、特許文献1〜3参照。)。しかしながら、近年の趣向の多様化にともない、より新しい意匠を持つ起毛布が求められている。
【特許文献1】特開昭56−123487号公報
【特許文献2】特開2000−96439号公報
【特許文献3】特開2002−69318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、合成繊維起毛布の表面に、抜染又は着色した部分を凸状に残し、その周囲を凹状にエッチングする合成繊維起毛布の加工方法及び表面加工した合成繊維起毛布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、吸水性無機物質を含有する抜染捺染剤又は着色捺染剤を合成繊維起毛布上に印捺した後、吸水性無機物質及びアルカリ性物質を含有するエッチング捺染剤を、抜染捺染剤又は着色捺染剤の印捺部分及びその周囲に印捺することで、合成繊維起毛布の表面に、抜染又は着色した部分を凸状に残し、その周囲を凹状にエッチングできることを見出した。
【0005】
すなわち、本発明は、吸水性無機物質を含有する抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)を合成繊維起毛布上に印捺する第1工程と、次いで吸水性無機物質及びアルカリ性物質を含有するエッチング捺染剤(B)を、前記抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)の印捺部分及びその周囲に印捺する第2工程とを含むことを特徴とする合成繊維起毛布の加工方法及び表面加工した合成繊維起毛布を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の加工方法を用いることで、合成繊維起毛布の表面を、抜染又は着色した部分を凸状に残し、その周囲を凹状にエッチングした加工が可能となり、これまでにない新しい意匠性を持つ合成繊維起毛布が得られる。したがって、本発明の加工方法により加工された合成繊維起毛布は、衣料、家具、車両内装材等の意匠性が求められる用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明で用いる抜染捺染剤(A1)は、抜染性を有する物質を含有する捺染剤で、地染めされた合成繊維起毛布の表面に印捺して、その印捺部分の地染めを抜染するものである。また、着色捺染剤(A2)は、着色剤を含有する捺染剤で、合成繊維起毛布の表面に印捺して、その印捺部分を着色するものである。一方、エッチング捺染剤(B)は、アルカリ性物質を含有するもので、合成繊維起毛布の表面に印捺することにより、その印捺面の起毛繊維を加水分解して凹状にエッチングするものである。
【0008】
前記抜染捺染剤(A1)に用いる吸水性無機物質は、水の存在下で吸水し、水和膨潤するものであれば特に限定されないが、例えば、粘土鉱物が挙げられる。この粘土鉱物としては、例えば、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、パイデライト、アタパルジャイト、セピオライト等が挙げられる。これらの吸水性無機物質の中でも、高い吸水膨潤性を有するベントナイトが好ましい。抜染捺染剤(A1)中の吸水性無機物質の配合量としては、1〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。吸水性無機物質の配合量がこの範囲であれば、抜染捺染剤(A1)を印捺した部分を鮮明に抜染でき、さらに、抜染捺染剤(A1)の印捺面の上に前記エッチング捺染剤(B)を印捺した際に、吸水性無機物質が抜染捺染剤(A1)を印捺した部分へのアルカリ性物質の浸透を防止するので、抜染捺染剤(A1)を印捺した部分を凸状に残すことができる。
【0009】
前記抜染捺染剤(A1)に抜染効果を付与するために、抜染性を有する化合物として活性剤を配合する。この活性剤としては、例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチルジグリコール、ブチルトリグリコール、ヘキシルジグリコール、ベンジルジグリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンフェニルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシアルキレンフェニルエーテルは高い抜染性を有するので好ましい。また、ポリオキシアルキレンフェニルエーテルとポリエチレングリコールとの併用がより好ましい。抜染捺染剤(A1)中の活性剤の配合量としては、10〜40質量%が好ましく、15〜35質量%がより好ましい。さらに、ポリオキシアルキレンフェニルエーテルとポリエチレングリコールとを併用する場合は、ポリオキシアルキレンフェニルエーテル/ポリエチレングリコールとの質量基準の配合比が、5〜30/95〜70が好ましく、10〜20/90〜80がより好ましい。
【0010】
前記抜染捺染剤(A1)の抜染効果は、前記活性剤が合成繊維起毛布の起毛繊維中に浸透することで、その活性剤が水洗時に合成繊維起毛布の起毛繊維を地染めしていた染料とともに洗い流されることで達成されると推測される。この際、抜染捺染剤(A1)中の吸水性無機物質には、抜染捺染剤(A1)を印捺した部分だけに活性剤を保持する作用があるため、抜染捺染剤(A1)を印捺した部分以外への活性剤の浸透、拡散を防止でき、輪郭がはっきりした抜染柄が得られる。また、前記吸水性無機物質の中でもベントナイトを用いると、抜染捺染剤(A1)の印捺した部分だけに活性剤を保持する作用が大きいため、より輪郭がはっきりし、きれいに抜染された抜染柄が得られるので好ましい。さらに、ベントナイトは、上記したエッチング捺染剤(B)中のアルカリ性物質の浸透を防止する効果が大きいので、抜染捺染剤(A1)を印捺した部分を十分に凸状に残すことができるので好ましい。
【0011】
前記着色捺染剤(A2)に配合する着色剤としては、分散染料を用いる。この分散染料は特に限定されるものではないが、中でも高い耐光性と耐アルカリ堅牢性を有するアンスラキノン系染料が好ましい。このアンスラキノン系染料としては、例えば、C.I.ディスパース・イエロー51、C.I.ディスパース・レッド91、C.I.ディスパース・レッド92、C.I.ディスパース・ブルー60、C.I.ディスパース・ブルー158等が挙げられる。これらの分散染料は、単独で用いることも、2種類以上を併用することもできる。また、着色捺染剤(A2)中の分散染料の配合量は、目的とする色によって異なるが、通常は0.05〜7質量%が好ましい。
【0012】
前記着色捺染剤(A2)に配合する吸水性無機物質としては、前記抜染捺染剤(A1)と同様のものを用いることができ、中でも高い吸水膨潤性を有するベントナイトが好ましい。抜染捺染剤(A1)中の吸水性無機物質の配合量としては、1〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましい。この吸水性無機物質には、着色捺染剤(A2)を印捺した部分だけに、前記分散染料を保持する作用があるため、着色捺染剤(A2)を印捺した部分以外への分散染料の浸透、拡散を防止でき、輪郭がはっきりした着色柄が得られる。また、前記吸水性無機物質の中でもベントナイトを用いると、着色捺染剤(A2)の印捺した部分だけに分散染料を保持する作用が大きいため、より輪郭がはっきりし、着色濃度が高い着色柄が得られるので好ましい。さらに、ベントナイトは、上記したエッチング捺染剤(B)中のアルカリ性物質の浸透を防止する効果が大きいので、着色捺染剤(A2)を印捺した部分を十分に凸状に残すことができるので好ましい。
【0013】
さらに、合成繊維起毛布の地染めされた色を抜染して、より鮮明な色を着色する場合、前記着色捺染剤(A2)に活性剤を配合することが好ましい。この活性剤としては、前記抜染捺染剤(A1)と同様のものを用いることができるが、中でも、ポリエチレングリコール、ブチルジグリコール、ポリオキシアルキレンフェニルエーテルが好ましい。着色捺染剤(A2)に活性剤を配合する場合、着色捺染剤(A2)中の活性剤の配合量としては、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0014】
また、前記抜染捺染剤(A1)及び着色捺染剤(A2)は、pHが7未満であると、合成繊維起毛布をより凸部の角が鋭い凸状に加工することができるため好ましく、pHが4〜6であるとより好ましい。
【0015】
前記エッチング捺染剤(B)に用いるアルカリ性物質としては、強アルカリ性のものが好ましく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の無機アルカリ物質;アンモニア水、炭酸グアニジン等の有機アルカリ物質などが挙げられる。これらの中でも、エッチング捺染剤(B)の印捺後に行う熱蒸気処理に耐えられる耐熱性を有する無機アルカリ物質が好ましい。また、無機アルカリ物質の中でも、水酸化ナトリウムはエッチング効果が高いので特に好ましい。エッチング捺染剤(B)中のアルカリ性物質の配合量としては、5〜30質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。アルカリ性物質の配合量がこの範囲であれば、合成繊維起毛布の表面を良好な凹状にエッチングできる。
【0016】
前記アルカリ性物質として水酸化ナトリウムを用いる場合、水溶液で用いることが好ましい。その濃度は、特に限定されるものではないが、通常は30〜50質量%で用いるのが好ましい。
【0017】
前記エッチング捺染剤(B)に配合する吸水性無機物質としては、前記抜染捺染剤(A1)と同様のものを用いることができ、中でも高い吸水膨潤性を有するベントナイトが好ましい。抜染捺染剤(A1)中の吸水性無機物質の配合量としては、1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。この吸水性無機物質には、エッチング捺染剤(B)を印捺した部分だけに、前記アルカリ性物質を保持する作用があるため、エッチング捺染剤(B)を印捺した合成繊維起毛布の表面にアルカリ性物質を留めることができ、起毛繊維の下部へのアルカリ性物質の浸透を適度に抑制できるため、起毛繊維をすべて加水分解して基布が露出することがなく、起毛繊維を適度に残して、輪郭がはっきりした凹状にエッチングすることができる。また、前記吸水性無機物質の中でもベントナイトを用いると、より良好に凹状にエッチングできるため好ましい。
【0018】
また、合成繊維起毛布の表面を凹状にエッチングすると同時に、そのエッチングした部分を着色する場合、前記エッチング捺染剤(B)に着色剤として着色捺染剤(A2)と同様の分散染料を配合すると良い。また、エッチング捺染剤(B)に分散染料を配合する場合、エッチング捺染剤(B)中の分散染料の配合量は、目的とする色によって異なるが、通常は0.05〜7質量%が好ましい。
【0019】
前記エッチング捺染剤(B)に分散染料を配合した場合には、エッチング捺染剤(B)中の吸水性無機物質は、前記着色捺染剤(A2)に配合された吸水性無機物質と同様の作用を奏し、エッチング捺染剤(B)の印捺した部分だけに吸水性無機物質が分散染料を保持する作用があるため、エッチング捺染剤(B)を印捺した部分以外への分散染料の浸透、拡散を防止でき、凹状にエッチングされた底面のみを高濃度に着色ができる。
【0020】
さらに、前記エッチング捺染剤(B)に活性剤を配合すると、起毛繊維の下部に分散染料をスムーズに浸透させることができるため、凹部の底面をより高濃度の着色を可能となるので好ましい。この活性剤としては、前記抜染捺染剤(A1)と同様のものを用いることができるが、中でも、ポリエチレングリコール、ブチルジグリコールが好ましい。エッチング捺染剤(B)に活性剤を配合する場合、エッチング捺染剤(B)中の活性剤の配合量としては、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0021】
上記のように、前記エッチング捺染剤(B)に着色剤を配合した場合、前記着色捺染剤(A2)に配合した着色剤と異なる色の着色剤を用いると、合成繊維起毛布上の凸部と凹部がそれぞれ色の異なるものとなるため、より意匠性に優れた加工が可能となり好ましい。
【0022】
前記抜染捺染剤(A1)、着色捺染剤(A2)及びエッチング捺染剤(B)には、塗工適性を付与するために、適度な粘度を維持し、かつ水洗の際に余剰のこれらの捺染剤を容易に起毛繊維から取り除けるようにするため、糊剤を配合することが好ましい。このような糊剤としては、例えば、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、プロピオキシセルロース、アルギン酸エステル、グアガムエチレンオキサイド付加物、エチルセルロース、メチルセルロース、ブリティッシュガム等の加工糊剤;ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸誘導体、ポリ酢酸ビニル、アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、ポリマレイン酸共重合体塩、非イオン界面活性剤等の合成糊剤などの各種糊剤が挙げられる。これらの糊剤は、単独で用いることも、2種類以上を併用することもできる。これらの糊剤の配合量は、抜染捺染剤(A1)、着色捺染剤(A2)又はエッチング捺染剤(B)中に0.5〜10質量%とするのが好ましく、1〜5質量%がより好ましい。
【0023】
また、上記の糊剤の中でも、カルボキシルメチルセルロースナトリウムは、抜染捺染剤(A1)、着色捺染剤(A2)又はエッチング捺染剤(B)を合成繊維起毛布に印捺した後、水洗の際に余剰のこれらの捺染剤を容易に起毛繊維から取り除けるので好ましい。さらに、エッチング捺染剤(B)に配合する糊剤としてカルボキシルメチルセルロースナトリウムを用いた場合、水酸化ナトリウム等のアルカリ性物質の水溶液を添加してもエッチング捺染剤(B)の粘度低下が小さいので好ましい。
【0024】
着色剤として分散染料を配合した着色捺染剤(A2)及びエッチング捺染剤(B)に水性アクリル系樹脂を配合すると、アルカリ性物質による分散染料の分解を防止する効果があるため好ましい。また、分散染料を配合しないエッチング捺染剤(B)においても、水性アクリル系樹脂を配合すると、アルカリ性物質の配合による粘度低下を抑制できるため好ましい。この水性アクリル系樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体等が挙げられる。これらの水性アクリル系樹脂は、通常、乳化重合により合成され、水中に樹脂を分散させたエマルジョンの形態で用いる。
【0025】
前記水性アクリル系樹脂の原料として用いる(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いることも、2種類以上を併用することもできる。
【0026】
前記水性アクリル系樹脂の分子量としては、重量平均分子量が1000〜50万の範囲のものが好ましく、1万〜20万の範囲のものがさらに好ましく、5万〜10万の範囲にあるものが特に好ましい。また、酸価は5〜500の範囲のものが好ましい。
【0027】
また、分散染料を含有する着色捺染剤(A2)及びエッチング捺染剤(B)に、前記水性アクリル系樹脂を配合する場合の水性アクリル系樹脂の配合量は、分散染料100質量部に対して、5〜300質量部の範囲が好ましい。水性アクリル系樹脂の配合量がこの範囲であれば、分散染料を十分に保護できるため高い着色濃度が得られる。さらに、分散染料を配合しないエッチング捺染剤(B)に、前記水性アクリル系樹脂を配合する場合の水性アクリル系樹脂の配合量は、エッチング捺染剤(B)中に1〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。水性アクリル系樹脂の配合量がこの範囲であれば、アルカリ性物質の配合による粘度低下を抑制できるため好ましい。
【0028】
本発明の捺染剤には、必要に応じて、界面活性剤、還元防止剤、金属イオン封鎖剤、蛍光増白剤、防腐剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤などを配合することもできる。
【0029】
本発明で用いる前記抜染捺染剤(A1)、着色捺染剤(A2)及びエッチング捺染剤(B)の調製方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0030】
(1)抜染捺染剤(A1)の調製方法
糊剤を水に溶解又は分散し、その溶液又は分散液に吸水性無機物質、活性剤等を添加して均一に混合して元糊として調整する。次いで、必要に応じて水を加えてpH及び粘度を調整して抜染捺染剤(A1)を得る。
【0031】
(2)着色捺染剤(A2)の調製方法
糊剤を水に溶解又は分散し、その溶液又は分散液に吸水性無機物質、活性剤、水性アクリル系樹脂等を添加して均一に混合して元糊として調整する。この元糊に分散染料を水に分散した液を加え、分散混合する。次いで、必要に応じて水を加えてpH及び粘度を調整して着色捺染剤(A2)を得る。
【0032】
(3)エッチング捺染剤(B)の調製方法
糊剤を水に溶解又は分散し、その溶液又は分散液に吸水性無機物質、活性剤、水性アクリル系樹脂等を添加して均一に混合して元糊として調整する。次いで、この元糊にアルカリ性物質の水溶液と、必要に応じて分散染料を水に分散した液を加え、分散混合してエッチング捺染剤(B)を得る。
【0033】
また、本発明の合成繊維起毛布の加工方法としては、例えば、下記の1〜5の工程による方法が挙げられる。
【0034】
(第1工程)
抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)を合成繊維起毛布上に、ローラー捺染、オート捺染、手捺染等の方法で印捺する。
【0035】
(第2工程)
次いで、第1工程で印捺した抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)の湿潤状態の印捺面及びその周囲にエッチング捺染剤(B)をローラー捺染、オート捺染、手捺染等の方法で印捺する。
【0036】
上記の第1工程及び第2工程で、抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)と、エッチング捺染剤(B)とを合成繊維起毛布上に印捺した後、下記の第3工程による後処理を行う。
【0037】
(第3工程)
3−1.乾燥工程
上記で抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)、及びエッチング捺染剤(B)を印捺した合成繊維起毛布を、室温で乾燥後、100℃〜130℃で2〜3分間乾燥する。
【0038】
3−2.熱蒸気処理工程
上記で乾燥した合成繊維起毛布を、HTスチーマーを用いて、温度140℃〜180℃、蒸気量50〜100%の条件で5〜10分間の熱蒸気処理を行い、染料を発色させる。
【0039】
3−3.還元洗浄工程
上記で熱蒸気処理を行った合成繊維起毛布を、ハイドロサルファイトナトリウム、合成洗剤及び水酸化ナトリウムの水溶液を用いて、80〜90℃に保ちながら洗浄する。
【0040】
3−4.洗浄乾燥工程
上記で還元洗浄した合成繊維起毛布を、水で洗浄後、室温で風乾させるか、合成繊維起毛布を構成する繊維が溶解しない程度の温度で加熱乾燥する。
【0041】
上記の第1工程から第3工程を経て、合成繊維布帛の表面に、抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)の塗布面を着色又は抜染した状態で凸状に残し、その周囲が凹状にエッチングすることができる。
【0042】
本発明で用いる合成繊維起毛布としては、アルカリ性物質を含有するエッチング捺染剤(B)により、エッチングされる必要があるため、アルカリ性物質により加水分解を受けやすい合成繊維製のものが好ましい。このような合成繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、カチオンダイアブルポリエステル繊維等が挙げられる。このポリエステル繊維の中でも、ポリエチレンテレフタレート繊維はエッチング捺染剤(B)により、エッチングされ易いので好適である。また、本発明で用いる合成繊維起毛布は、トリコット生地、モケット生地が好ましく、その起毛繊維の長さ(毛足の長さ)は、表面を加工し易いことから、0.5〜2mmが好ましく、1〜1.5mmがより好ましい。
【0043】
本発明の合成繊維起毛布は、図1のように、合成繊維起毛布1の表面に、抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)によって、吸水性無機物質及びアルカリ性物質を含有するエッチング捺染剤(B)によるエッチングから保護することにより形成された凸部3と、凸部3の周囲に前記エッチング捺染剤(B)によって形成された凹部4とを有する合成繊維起毛布である。合成繊維起毛布1の表面に抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)を文字、図形等の任意の図柄で印捺することで、任意の図柄の凸部3を形成することができる。また、合成繊維起毛布1の表面にエッチング捺染剤(B)を文字、図形等の任意の図柄で印捺することで、任意の図柄の凹部4を形成することができる。また、凹部4に残す合成繊維起毛布の起毛繊維の長さ(毛足の長さ)は、元の起毛繊維の長さの30〜70%が好ましく、40〜60%がより好ましい。
【0044】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の例において、「部」及び「%」は、質量基準である。
【0045】
まず、下記のように、抜染捺染剤、着色捺染剤及びエッチング捺染剤に用いる元糊を調製した。
【0046】
(調製例1)
糊剤(カルボキシルメチルセルロースナトリウム、第一工業製薬株式会社製「ファインガムHE−SS」)5部をイオン交換水36部に溶解した水溶液41部に、ベントナイト(水澤化学株式会社製「ベンクレイMK−101」)16部、活性剤(ポリオキシプロピレンビスフェノールエーテル、三洋化成工業株式会社製「ニューポールBP−5P」)5部、及びポリエチレングリコール(日本油脂株式会社製「PEG300」)35部を加え、均一に混合して元糊(1)を得た。
【0047】
(調製例2)
カルボキシルメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬株式会社製「ファインガムHE−SS」)4部をイオン交換水52部に溶解した水溶液56部に、ベントナイト(水澤化学株式会社製「ベンクレイMK−101」)6部、ポリエチレングリコール(日本油脂株式会社製「PEG300」)11部、ブチルジグリコール(日本乳化剤株式会社製)7部、及びアクリル系樹脂のエマルジョン溶液(大日本インキ化学工業株式会社製「PA−4」、固形分25%)17部を加え、均一に混合して元糊(2)を得た。
【0048】
(調製例3)
カルボキシルメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬株式会社製「ファインガムHE−SS」)5部をイオン交換水36部に溶解した水溶液41部に、活性剤(ポリオキシプロピレンビスフェノールエーテル(三洋化成工業株式会社製「ニューポールBP−5P」)5部、及びポリエチレングリコール(日本油脂株式会社製「PEG300」)35部を加え、均一に混合して元糊(3)を得た。
【0049】
(調製例4)
カルボキシルメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬株式会社製「HE−SS」)5部をイオン交換水36部に溶解した水溶液41部に、ポリエチレングリコール(日本油脂株式会社製「PEG300」)35部を加え、均一に混合して元糊(4)を得た。
【0050】
(調製例5)
カルボキシルメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬株式会社製「ファインガムHE−SS」4部をイオン交換水52部に溶解した水溶液56部に、ポリエチレングリコール(日本油脂株式会社製「PEG300」)11部、ブチルジグリコール(日本乳化剤株式会社製)7部、及びアクリル系樹脂のエマルジョン溶液(大日本インキ化学工業株式会社製「PA−4」、固形分25%)17部を加え、均一に混合して元糊(5)を得た。
【0051】
上記で得られた元糊(1)〜(5)の組成表を表1に示す。
【0052】
(実施例1)
[抜染捺染剤]
上記で得られた元糊(1)70部に、イオン交換水30部を加え、均一に混合して抜染捺染剤(1)を得た。
[エッチング捺染剤]
上記で得られた元糊(2)50部に、38%水酸化ナトリウム水溶液30部、及びイオン交換水20部を加え、均一に混合してエッチング捺染剤(1)を得た。
【0053】
(実施例2)
[着色捺染剤]
上記で得られた元糊(1)70部に、C.I.ディスパース・ブルー60(日本化薬株式会社製「TURQ.BLUE GLS−200」)0.1部をイオン交換水29.9部に分散したものを加え、均一に混合し青色の着色捺染剤(1)を得た。
[エッチング捺染剤]
実施例1で得られたエッチング捺染剤(1)を用いた。
【0054】
(実施例3)
[着色捺染剤]
上記で得られた元糊(2)50部に、C.I.ディスパース・ブルー60(日本化薬株式会社製「TURQ.BLUE GLS−200」)0.1部をイオン交換水47.9部に分散したもの、及び38%水酸化ナトリウム水溶液2部を加え、均一に混合し青色の着色捺染剤(2)を得た。
[エッチング捺染剤]
実施例1で得られたエッチング捺染剤(1)を用いた。
【0055】
(実施例4)
[着色捺染剤]
上記で得られた元糊(2)50部に、C.I.ディスパース・ブルー60(日本化薬株式会社製「TURQ.BLUE GLS−200」)0.1部をイオン交換水46.4部に分散したもの、及び38%水酸化ナトリウム水溶液3.5部を加え、均一に混合し青色の着色捺染剤(3)を得た。
[エッチング捺染剤]
実施例1で得られたエッチング捺染剤(1)を用いた。
【0056】
(実施例5)
[着色捺染剤]
実施例2で得られた青色の着色捺染剤(1)を用いた。
[エッチング捺染剤]
上記で得られた元糊(2)50部に、C.I.ディスパース・レッド91(日本化薬株式会社製「PINK RCL−E」)0.1部をイオン交換水19.9部に分散したもの、及び38%水酸化ナトリウム水溶液30部を加え、均一に混合し赤色のエッチング捺染剤(2)を得た。
【0057】
(比較例1)
[抜染捺染剤]
上記で得られた元糊(3)70部に、イオン交換水30部を加え、均一に混合して抜染捺染剤(2)を得た。
[エッチング捺染剤]
実施例1で得られたエッチング捺染剤(1)を用いた。
【0058】
(比較例2)
[着色捺染剤]
上記で得られた元糊(4)70部に、C.I.ディスパース・ブルー60(日本化薬株式会社製「TURQ.BLUE GLS−200」)0.1部をイオン交換水29.9部に分散したものを加え、均一に混合し青色の着色捺染剤(4)を得た。
[エッチング捺染剤]
実施例1で得られたエッチング捺染剤(1)を用いた。
【0059】
(比較例3)
[着色捺染剤]
実施例3で得られた青色の着色捺染剤(2)を用いた。
[エッチング捺染剤]
上記で得られた元糊(5)50部に、38%水酸化ナトリウム水溶液30部、及びイオン交換水20部を加え、均一に混合してエッチング捺染剤(3)を得た。
【0060】
(比較例4)
[抜染捺染剤]
比較例1で得られた抜染捺染剤(2)を用いた。
[エッチング捺染剤]
比較例3で得られたエッチング捺染剤(3)を用いた。
【0061】
(比較例5)
[着色捺染剤]
比較例2で得られた青色の着色捺染剤(4)を用いた。
[エッチング捺染剤]
比較例3で得られたエッチング捺染剤(3)を用いた。
【0062】
(評価用起毛布の作製)
ベージュ色に地染めされたポリエチレンテレフタレート繊維からなる起毛布の表面に、上記の実施例及び比較例で得られた抜染捺染剤又は着色捺染剤を、オートスクリーン捺染機(辻井染機工業株式会社製「SP−300SR」)を用いて印捺した。次いで、抜染捺染剤又は着色捺染剤の湿潤状態の印捺面及びその周囲に、エッチング捺染剤を、同様にオートスクリーン捺染機を用いて印捺した。抜染捺染剤又は着色捺染剤、及びエッチング捺染剤を印捺した起毛布を室温で乾燥させた後、さらに100℃で2分間乾燥した。
【0063】
次いで、乾燥した起毛布を、HTスチーマー(昭和機械工業株式会社製「HTS−71」)を用いて、温度175℃、蒸気量90%以上の条件で8分間の熱蒸気処理を行った。この熱蒸気処理した起毛布を、イオン交換水1リットルにハイドロサルファイトナトリウム2g、合成洗剤2g、及び水酸化ナトリウム2gを加えた溶液を用いて80℃で還元洗浄し、水洗した後、乾燥させて、評価用起毛布を得た。
【0064】
(凸部の残存性評価)
抜染捺染剤又は着色捺染剤を印捺した部分の状態を目視で観察し、形成された凸部の状態を以下の基準によって判定して、凸部の残存性を評価した。
◎:十分に凸状に残っており、凸部の角が鋭い。
○:十分に凸状に残っているが、凸部の角が丸い。
×:凸状に残らない。
【0065】
(エッチング性評価)
エッチング捺染剤を印捺した部分(抜染捺染剤又は着色捺染剤を印捺した部分を除く。)の状態を目視で観察し、形成された凹部の状態を以下の基準によって判定して、エッチング性を評価した。
○:凹部が十分に形成され、凹部の底面に起毛繊維が十分残っている。
×:起毛繊維がすべてエッチングされ、合成繊維起毛布の基布が露出している。
【0066】
(凸部の抜染・着色性評価)
抜染捺染剤又は着色捺染剤を印捺した部分が、抜染又は着色されているかを目視で観察し、以下の基準によって凸部の抜染・着色性を評価した。なお、上記の凸部の残存性評価で「×」の評価となったものは、未評価とした。
○:十分に抜染又は着色されている。
×:抜染又は着色されていない。
【0067】
(凹部の着色性評価)
エッチング捺染剤に着色剤を配合した実施例5のみ、エッチング捺染剤により形成された凹部の着色状態を目視で観察し、以下の基準によって凹部の着色性を評価した。
○:十分に着色されている。
×:着色されていない。
【0068】
上記の評価結果を表2及び3に示す。また、表中の「吸水性無機物質の有無」は、各捺染剤中に吸水性無機物質が配合されている場合を「○」、配合されていない場合を「×」と表記した。さらに、各捺染剤のpHの値を併せて記載した。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
表2に示した結果から、本発明の合成繊維起毛布の加工方法を用いた実施例1〜5の合成繊維起毛布は、抜染捺染剤又は着色捺染剤を印捺した部分が凸状に明確に残り、その周囲が十分に凹状にエッチングされていることが分かった。また、抜染捺染剤又は着色捺染剤を印捺した部分は、十分に抜染又は着色されていることが分かった。また、着色捺染剤とエッチング捺染剤に、それぞれ異なる色の着色剤を配合した実施例5では、合成繊維起毛布上の凸状に加工された部分と凹状に加工された部分とを、それぞれ異なる色で着色することができ、より意匠性に優れた加工が可能であることが分かった。
【0073】
表3に示した比較例1〜5の結果から、以下のことが分かった。
【0074】
比較例1は、抜染捺染剤に吸水性無機物質を配合しなかった例である。この例では、抜染捺染剤を印捺した部分は抜染されたが、凸状に残らず、エッチング捺染剤を印捺した部分全体が凹状にエッチングされてしまうことが分かった。
【0075】
比較例2は、着色捺染剤に吸水性無機物質を配合しなかった例である。この例では、着色捺染剤を印捺した部分は、青く着色されたが比較例1と同様に凸状に残らず、エッチング捺染剤を印捺した部分全体が凹状にエッチングされてしまうことが分かった。
【0076】
比較例3は、エッチング捺染剤に吸水性無機物質を配合しなかった例である。この例では、着色捺染剤を印捺した部分は、青く着色されたが凸状に残らず、着色捺染剤を印捺した部分以外のエッチング捺染剤を印捺した部分で起毛繊維がすべてエッチングされ、合成繊維起毛布の基布が露出してしまうことが分かった。
【0077】
比較例4は、抜染捺染剤及びエッチング捺染剤に吸水性無機物質を配合しなかった例である。この例では、抜染捺染剤を印捺した部分とその周辺の部分が抜染され、抜染部分の輪郭が不明確になった。さらに、抜染捺染剤を印捺した部分は凸状に残らず、エッチング捺染剤を印捺した部分全体で起毛繊維がすべてエッチングされ、合成繊維起毛布の基布が露出してしまうことが分かった。
【0078】
比較例5は、着色捺染剤及びエッチング捺染剤に吸水性無機物質を配合しなかった例である。この例では、着色捺染剤を印捺した部分とその周辺の部分が青く着色され、着色部分の輪郭が不明確になった。さらに、着色捺染剤を印捺した部分は凸状に残らず、エッチング捺染剤を印捺した部分全体で起毛繊維がすべてエッチングされ、合成繊維起毛布の基布が露出してしまうことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の表面加工した合成繊維起毛布の斜視図である。
【符号の説明】
【0080】
1 合成繊維起毛布
2 基布
3 凸部
4 凹部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性無機物質を含有する抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)を合成繊維起毛布上に印捺する第1工程と、次いで吸水性無機物質及びアルカリ性物質を含有するエッチング捺染剤(B)を、前記抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)の印捺部分及びその周囲に印捺する第2工程とを含むことを特徴とする合成繊維起毛布の加工方法。
【請求項2】
前記吸水性無機物質が粘土鉱物である請求項1記載の合成繊維起毛布の加工方法。
【請求項3】
前記粘土鉱物がベントナイトである請求項2記載の合成繊維起毛布の加工方法。
【請求項4】
前記抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)のpHが7未満である請求項1〜3のいずれか1項記載の合成繊維起毛布の加工方法。
【請求項5】
前記第1工程で用いる着色捺染剤(A2)と、前記第2工程で用いるエッチング捺染剤(B)とが、互いに異なる色の着色剤を含有する請求項1〜4のいずれか1項記載の合成繊維起毛布の加工方法。
【請求項6】
吸水性無機物質を含有する抜染捺染剤(A1)又は着色捺染剤(A2)によって、吸水性無機物質及びアルカリ性物質を含有するエッチング捺染剤(B)によるエッチングから保護することにより形成された凸部と、凸部の周囲に前記エッチング捺染剤(B)によって形成された凹部とを有することを特徴とする合成繊維起毛布。



【図1】
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【公開番号】特開2007−154354(P2007−154354A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350483(P2005−350483)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】