説明

合成開口レーダの画像処理装置及び方法

【課題】 物標を捜索する合成開口レーダにおいて、限られた画素サイズのディスプレイで広域を監視するために、低分解能で画像化した場合でも、高分解能時と同じ小物標探知能力を実現する合成開口レーダの画像処理装置及び方法を提供することにある。
【解決手段】 高分解能処理部1で、小物標4に匹敵するか、若しくはさらに小さい領域まで高分解能処理を実施して、小物標がもつ情報を取得する。次に、最大値フィルタ処理部2で、前記高分解能処理で得られた小物標の情報を、低分解能処理上の1ピクセルに最大値で展開する。そして表示部3で、低分解能処理上の最小領域を1ピクセルとして画面表示する。以上のように、小物標が本来もつ情報を損なうことなく表示可能であるため、背景の情報との識別が容易となり、レーダとしての探知能力を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小物標が本来有する情報を損なうことなく表示可能な合成開口レーダの画像処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像処理を行うには、特許文献1に示されるように、低分解能処理部でディジタル変換画像に対して間引き処理を施し、画像の特徴量が低い分解能で表現し、高分解能処理部でディジタル変換画像に対して間引き処理せずに高い分解能のままで画像の特徴量を表現する方法が行われている。
【0003】
また、特許文献2には、レベル抽出フィルタとして、最大値フィルタと、最小値フィルタと、引き算器を有し、前記最大値フィルタにおいて、画像走査軸に沿って着目画素の前後のフィルタ長である所定画素長の各画素の画素レベルの最大値を前記着目画素の値とし、前記最小値フィルタにおいて、前記最大値フィルタの出力画像より、着目画素の左右のフィルタ長の各画素の画素レベルの最小値を前記着目画素の値とし、前記引き算器において、前記最小値フィルタの出力画像より入力画像を引き算することにより、入力画像中より前記所定の画素長以下のレベルのみを抽出している。これらの技術を組み合わせて、海面画像を処理することが考えられる。
【特許文献1】特開2000−249527号公報
【特許文献2】特開平09−081756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の合成開口レーダ画像表示では図8に示すように、広域を監視するために、低分解能処理部20において低分解能で処理し、その低分解能された画像信号を表示部21で表示した場合、画像化した時の1ピクセルサイズよりも小さい物標の信号エネルギーは、1ピクセル内で平均化されてしまい、海面クラッタのエネルギーとの分離が困難であり、探知能力に支障を来すこととなる。
【0005】
すなわち、低分解能処理を実施した場合、ドップラ帯域Bと観測時間Tに関するTBの減少により物標の信号対雑音比(S/N)が低下すると共に、観測時間Tが短いことにより、海面クラッタ抑圧能力も低下してしまう。
【0006】
また図9に示すように、高分解能処理部22において高分解能で処理し、その高分解能された画像信号を表示部23で表示した場合、物標の信号エネルギーと海面クラッタのエネルギーの分離は容易であるが、広域を監視するためには全画素を表示する大型高精細ディスプレイが必要であった。このため、低分解能で広域を表示する際にも、高分解能時と同じ物標探知能力を実現することが課題であった。
【0007】
本発明の目的は、物標を捜索する合成開口レーダにおいて、限られた画素サイズのディスプレイで広域を監視するために、低分解能で画像化した場合でも、高分解能時と同じ小物標探知能力を実現する合成開口レーダの画像処理装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明に係る合成開口レーダの画像処理装置は、小物標に匹敵するか、若しくはさらに小さい領域まで高分解能処理を実施して、小物標がもつ情報を取得する高分解能処理部と、前記高分解能処理で得られた小物標の情報を、低分解能処理上の1ピクセルに最大値で展開する最大値フィルタ処理部と、低分解能処理上の最小領域を1ピクセルとして画面表示する表示部とを有することを特徴とするものである。
【0009】
本発明によれば、高分解能処理部を用いて、小物標に匹敵するか、若しくはさらに小さい領域まで高分解能処理を実施し、小物標がもつ情報を取得する。次に、最大値フィルタを用いて、前記高分解能処理で得られた小物標の情報を、低分解能処理上の1ピクセルに最大値で展開する。そして、表示部を用いて、低分解能処理上の最小領域を1ピクセルとして画面表示する。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本発明によれば、高分解能で処理した物標の信号エネルギーを、最大値フィルタを通して画像サイズを縮小することにより、データ量を低減し、かつ小物標であってもその画素情報を損なうことなく表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る合成開口レーダの画像処理装置は、高分解能処理部1と、最大値フィルタ処理部2と、表示部3を有している。
【0013】
前記高分解能処理部は図2に示すように、小物標4に匹敵するかもしくはさらに小さい領域(1ピクセル)まで高分解能処理を実施して、小物標4がもつ情報を取得する機能を有している。
【0014】
前記最大値フィルタ処理部2は図3に示すように、前記高分解能処理部1での高分解能処理で得られた小物標4の情報を、低分解能処理上の1ピクセルに最大値で展開する機能を有している。また前記最大値フィルタ処理部2は、小物標4が存在しない領域に背景の情報5の最大値を適用する機能を有している。
【0015】
前記表示部3は図4に示すように、前記最大値フィルタ処理部2からの出力を受けて、低分解能処理上の最小領域を1ピクセルとして画面表示する機能を有している。
【0016】
次に、本発明の実施形態に係る合成開口レーダの画像処理装置を海上の小物標4をレーダ探知する場合に適用した例を詳細に説明する。海上の小物標4をレーダ探知する場合、背景の情報5は海面クラッタに相当する。
【0017】
前記高分解能処理部2は図2に示すように、アジマス圧縮処理を行ない、アジマス方向を高分解能化する。
【0018】
図2に示す高分解能処理部2に入力する信号のドップラ帯域Bは、高分解能化のために十分大きいとする。ドップラ帯域Bが大きい場合、長時間レーダ電波が物標に照射されるため、物標の観測時間Tも長くなる。
【0019】
前記高分解能処理部2のアジマス圧縮により、物標4の信号対雑音比(S/N)は、T*Bだけ改善される。これに対して、海面クラッタ5は、観測時間Tの間に変化するため、物標4に比べて圧縮効果が低減される。このため、高分解能処理部2による高分解能処理を実施すれば、図2に示すように小物標4でも容易に識別することができる。
【0020】
本発明の実施形態とは異なり、仮に高分解能処理に代えて、低分解能処理を実施した場合は、前記T*Bの減少により、物標4のS/Nが低下するとともに、観測時間Tが短いことにより、海面クラッタ5の抑圧能力も低下し、さらに小物標4の場合には、信号エネルギーが拡散するため、小物標4の識別は困難になる。
【0021】
したがって、本発明の実施形態では、高分解能処理を実施して、小物標4の識別を容易な状態にしておくことが前提である。
【0022】
前記高分解能処理部1による高分解能処理時の1ピクセルサイズは図5に示すように、レンジ方向及びアジマス方向ともに1mに設定する。
【0023】
海上の小物標4のサイズが1m以上であれば、高分解能処理部1にて、小物標4の信号エネルギーを損なうことなく圧縮し、小物標4の情報は、1ピクセルサイズ内に集約される。
【0024】
本発明の実施形態では、アジマス圧縮処理を行ない、アジマス方向を高分解能化するため、海面クラッタ5の信号エネルギーは、アジマス方向にさほど圧縮されず、小物標4と海面クラッタ5の相対的なエネルギーの差E1は図5に示すように大きくなる。すなわち、レーダとしての探知能力は優れた状態である。
【0025】
図5において、1ピクセル分のデータ量を1とすると、アジマス方向に8ピクセル分(8m)、レンジ方向に4ピクセル分(4m)の面積32mを有する領域を処理する場合、データ量は32となる。なお、高分解能処理時の1ピクセルの面積は上述したものに限られるものではない。
【0026】
前記高分解能処理部1は図1に示すように、アジマス圧縮処理を行ない、アジマス方向を高分解能化したデータを最大値フィルタ処理部2に出力する。
【0027】
前記最大値フィルタ処理部2は図3及び図6に示すように、前記高分解能処理部1で処理された高分解能処理後データを受け取ると、その高分解能処理後データの最大値Maxを検出し、そのデータを含む低分解能処理上の1ピクセルに展開する。前記最大値Maxを示すデータは、レーダ探索された海上の小物標4に相当するデータである。
【0028】
図3に示す前記最大値フィルタ処理部2における低分解能処理上の1ピクセルは、図6に示す例では、アジマス方向に4ピクセル分(4m)、レンジ方向に4ピクセル分(4m)の面積16mを有する領域を低分解能処理上の1ピクセルに設定している。なお、低分解能処理時の1ピクセルの面積は上述したものに限られるものではない。
【0029】
前記最大値フィルタ処理部2は図6に示すように、前記低分解能処理時の1ピクセル中に、前記高分解能処理部1で圧縮処理された小物標4の信号エネルギーが存在し、かつそのエネルギーが1ピクセル内で最大の場合、そのエネルギー値を1ピクセル全体に適用する。このエネルギー値E3は図6に点線で示している。
【0030】
前記最大値フィルタ処理部2は図6に示すように、前記低分解能処理時の1ピクセル中に、前記高分解能処理部1で圧縮処理された小物標4の信号エネルギーE3が存在しない場合は、海面クラッタ5の信号エネルギーE4の最大値を1ピクセル全体に適用する。このエネルギーE4は図6に点線で示している。
【0031】
図6に示すように、小物標4が存在して、そのエネルギーE3が最大であって、そのエネルギー値E3を1ピクセル全体に適用した場合と、小物標4が存在せず、海面クラッタ5の信号エネルギーE4を1ピクセル全体に適用した場合とにおいて、小物標4と海面クラッタ5の相対的な信号エネルギーの差E2(E3−E4)は保たれたままである。すなわち、最大値フィルタ処理後も、レーダとしての探知能力は優れた状態に保たれている。
【0032】
これに対して、1ピクセル分のデータ量を1としたため、図6から明らかなように、前記高分解能処理部1から入力されたデータのデータ量は2となり、16分の1に縮小されている。
【0033】
前記最大値フィルタ処理部2は、前記最大値フィルタ処理後データを図1に示す表示部3に出力する。
【0034】
前記表示部3は図4及び図7に示すように、最大値フィルタ処理後の処理上の1ピクセルを、表示上の1ピクセルとして表示する。
【0035】
前記表示部3が受け取るデータは図4に示すように、小物標4が存在するエリアA1の信号エネルギーE3は大きく、小物標4が存在しないエリアA2の信号エネルギーE4は小さいため、前記表示部3は、その画面表示上に、信号エネルギーE3,E4の差に基づいて、輝度レベルの差として画像を表示する。
【0036】
すなわち、前記表示部3は図4に示すように、小物標4の存在するピクセルを明るく、海面クラッタ5しか存在しないピクセルを暗くして、小物標4と海面クラッタ5をはっきりと識別して表示する。
【0037】
前記表示部3が画面表示する際、仮に高分解能処理後データをそのまま画面表示した場合には、データ量32で面積32mの領域が表示されるが、本発明の実施形態のように、最大値フィルタ処理後のデータを画面表示する場合には図7に示すように、同じデータ量32で16m×32=512mの領域を表示することができる。
【0038】
したがって、最大値フィルタ処理を追加することにより、限られた画素サイズのディスプレイで広域を監視するために、低分解能で画像化した場合でも、高分解能時と同じ小物標探知能力を実現することができる。
【0039】
以上の実施形態では、本発明の実施形態に係る合成開口レーダの画像処理装置を海上の小物標4をレーダ探知する場合に適用したが、これに限られるものではなく、合成開口レーダによるレーダ探索の画像を処理する場合に広く適用することができるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上説明したように本発明によれば、小物標が本来もつ情報を損なうことなく表示可能であるため、背景の情報(例えば海面クラッタ)との識別が容易となり、レーダとしての探知能力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態に係る合成開口レーダの画像処理装置の構成を示す構成図である。
【図2】高分解能処理部の動作を説明する図である。
【図3】最大値フィルタ処理部の動作を説明する図である。
【図4】表示部の動作を説明する図である。
【図5】高分解能処理部の動作を詳細に説明する図である。
【図6】最大値フィルタ処理部の動作を詳細に説明する図である。
【図7】表示部の動作を詳細に説明する図である。
【図8】従来において、低分解能処理してデータを表示する構成を示す構成図である。
【図9】従来において、高分解能処理してデータを表示する構成を示す構成図である。
【符号の説明】
【0042】
1 高分解能処理部
2 最大値フィルタ処理部
3 表示部
4 小物標
5 海面クラッタ(背景の情報)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小物標に匹敵するか、若しくはさらに小さい領域まで高分解能処理を実施して、小物標がもつ情報を取得する高分解能処理部と、
前記高分解能処理で得られた小物標の情報を、低分解能処理上の1ピクセルに最大値で展開する最大値フィルタ処理部と、
低分解能処理上の最小領域を1ピクセルとして画面表示する表示部とを有することを特徴とする合成開口レーダの画像処理装置。
【請求項2】
前記高分解能処理部は、アジマス圧縮処理を行い、アジマス方向を高分解能化する機能を有することを特徴とする請求項1に記載の合成開口レーダの画像処理装置。
【請求項3】
前記最大値フィルタ処理部は、小物標が存在しない領域に背景の情報の最大値を適用する機能を有することを特徴とする請求項1に記載の合成開口レーダの画像処理装置。
【請求項4】
小物標に匹敵するか、若しくはさらに小さい領域まで高分解能処理を実施して、小物標がもつ情報を取得する高分解能処理と、
前記高分解能処理で得られた小物標の情報を、低分解能処理上の1ピクセルに最大値で展開する最大値フィルタ処理と、
低分解能処理上の最小領域を1ピクセルとして画面表示する表示処理とを実行することを特徴とする合成開口レーダの画像処理方法。
【請求項5】
前記高分解能処理において、アジマス圧縮処理を行い、アジマス方向を高分解能化することを特徴とする請求項4に記載の合成開口レーダの画像処理方法。
【請求項6】
前記最大値フィルタ処理において、小物標が存在しない領域に背景の情報の最大値を適用することを特徴とする請求項4に記載の合成開口レーダの画像処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate