合成開口探査装置および水中航走体
【課題】沈底物と埋設物とを同時に、かつ、効率的に探査すること。
【解決手段】水中航走体に搭載されるとともに、第1の周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る高周波合成開口ソナー2と、水中航走体に搭載されるとともに、第1の周波数よりも低い第2周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る低周波合成開口ソナー3とを備え、高周波合成開口ソナー2と低周波合成開口ソナー3とを略同期送信させるとともに、高周波合成開口ソナー2のフェーズセンタおよび低周波合成開口ソナー3のフェーズセンタがそれぞれ等間隔になるように、高周波合成開口ソナー2と低周波合成開口ソナー3のチャネル数、物理開口長、及び送信周期並びに水中航走体の速度が調整されている合成開口探査装置1を提供する。
【解決手段】水中航走体に搭載されるとともに、第1の周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る高周波合成開口ソナー2と、水中航走体に搭載されるとともに、第1の周波数よりも低い第2周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る低周波合成開口ソナー3とを備え、高周波合成開口ソナー2と低周波合成開口ソナー3とを略同期送信させるとともに、高周波合成開口ソナー2のフェーズセンタおよび低周波合成開口ソナー3のフェーズセンタがそれぞれ等間隔になるように、高周波合成開口ソナー2と低周波合成開口ソナー3のチャネル数、物理開口長、及び送信周期並びに水中航走体の速度が調整されている合成開口探査装置1を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成開口探査装置および水中航走体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に海や湖などの水中での探査には音響を利用したソナーが用いられている。特に最近では、探査対象をモニタ画像に再生して視覚化する合成開口探査装置(合成開口ソナー)が提案され、水中探査にこの装置の適用が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−9968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記合成開口探査装置は、海底の沈底物や海底地形などの探査に幅広く用いられている。このような合成開口探査装置においては、一般的に、100kHzから500kHz程度の高周波帯域が用いられている。
ところで、近年では、沈底物と埋没(埋設)物を同時に効率的に探査したいとの要望がある。しかしながら、沈底物を探査するのに適した音波の周波数帯域で埋設物までも探査しようとすると、その大部分が海底などで反射されてしまい、海底下に埋没した物体を探知できないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、沈底物と埋設物とを同時に、かつ、効率的に探査することのできる合成開口探査装置および水中航走体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、水中航走体に搭載されるとともに、第1の周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る第1ソナーと、前記水中航走体に搭載されるとともに、前記第1の周波数よりも1桁程度低い第2周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る第2ソナーとを備え、前記第1ソナーと前記第2ソナーとを略同期送信させるとともに、前記第1ソナーのフェーズセンタおよび前記第2ソナーのフェーズセンタがそれぞれ等間隔になるように、前記第1ソナーと前記第2ソナーのチャネル数、物理開口長、及び送信周期並びに前記水中航走体の速度が調整されている合成開口探査装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、周波数の異なるソナーを2つ備えているので、沈底物と埋設物など性質の異なるターゲット探査を同時に実施することができる。
また、これらの音波ビームの送信タイミングを同期させることで、第1ソナーと第2ソナーの相互の誘導ノイズなどによる影響を回避することができ、鮮明な画像を得ることが可能となる。
更に、第1ソナー及び第2ソナーにおけるフェーズセンタの間隔がピング間において等間隔となるように、各種パラメータを設定するので、画像処理を行うときの移動方向における位置の微修正が不要となり、画像信号処理の負担を軽減することができ、また、送受信部位置の誤差による画像処理の劣化も抑制することができる。
【0008】
上記合成開口探査装置において、前記第1ソナーにおけるチャネルをオーバーラップさせることにより前記水中航走体の位置補正を行うとともに、前記第2ソナーにおけるオーバーラップチャネル数をゼロにすることとしてもよい。
【0009】
第1ソナーと第2ソナーとは同一の水中航走体に搭載されているため、いずれか一方のソナーにより位置補正を行えば足りる。そこで、第1ソナーのチャネルのみをオーバーラッピングさせて水中航走体の位置補正に充当し、第2ソナーにおいてはオーバーラッピングさせるチャネルをゼロとすることで、チャネル数を最低限必要な数だけに絞ることができる。これにより、装置の小型化、省スペース化、軽量化を図ることが可能となる。
【0010】
上記合成開口探査装置において、前記第1ソナーにおけるチャネルのオーバーラップによる前記水中航走体における位置補正の精度が所定の精度未満の場合に、前記第1ソナーのフェーズセンタおよび前記第2ソナーのフェーズセンタがそれぞれ等間隔になるとの条件を満たすように、前記水中航走体の速度を低下させることとしてもよい。
【0011】
このように、位置補正の精度が所定の精度未満であることにより速度を低下させる場合においても、第1ソナーのフェーズセンタおよび第2ソナーのフェーズセンタがそれぞれ等間隔になるとの条件を満たすように、水中航走体の速度を低下させるので、画像処理を行うときの移動方向における位置の微修正を不要とすることができる。これにより、画像信号処理の負担を軽減することができ、また、送受信部位置の誤差による画像処理の劣化も抑制することができるとの効果を維持することができる。
【0012】
上記合成開口探査装置において、前記第2ソナーは、ビーム主極の方向がそれぞれ異なる複数の音波ビームを送受信し、該ビーム主極の方向が同じ受信信号同士を用いて画像をそれぞれ作成することとしてもよい。
【0013】
これにより、第2ソナーにおいて、複数の主極方向に音波ビームを振ることにより、円筒形状などの指向性を有するターゲットであっても効率的に探査することが可能となる。
【0014】
上記合成開口探査装置において、前記第2ソナーは、複数の送信素子が配列された送信アレイおよび複数の受信素子が配列された受信アレイを有し、前記送信アレイは、一方向に対して約90度幅の音波ビームを送信し、前記受信アレイのビーム主極を複数の方向に指向させることで、前記ビーム主極の方向がそれぞれ異なる複数の音波ビームを送受信することとしてもよい。
【0015】
このように送信アレイについては一方向に対してのみ音波ビームを送信し、受信アレイのビーム主極を複数の方向に指向させるので、送信アレイの位相シフトを不要とすることができ、送信アレイの構成を簡略化することができる。
【0016】
上記合成開口探査装置において、前記第2ソナーは、複数の受信素子が配列された受信アレイを有し、前記受信アレイを構成する受信素子の組み合わせを変更することにより、複数のビーム主極に対応する受信アレイを形成することとしてもよい。
【0017】
このような構成によれば、移動方向の空間サンプリングを一層密にすることができ、画像画質を向上させることができる。
【0018】
本発明は、上記いずれかに記載の合成開口探査装置を搭載した水中航走体を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、沈底物と埋設物とを同時に、かつ、効率的に探査することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係る合成開口探査装置の概略構成を示した図である。
【図2】音波ビームの送信タイミングについて説明するための図である。
【図3】合成開口探査装置が水中航走体に搭載されている状態を示した模式図である。
【図4】水中航走体に搭載されている合成開口探査装置から音波ビームが送信されている状態を示した模式図であり、(a)は水中航走体を図3のz軸方向、すなわち、上方から見た図、(b)は水中航走体を図3のx軸方向、すなわち移動方向から見た図、(c)は水中航走体を図3のy軸方向、すなわち側面から見た図である。
【図5】高周波合成開口ソナーの第1送信部及び第1受信部並びに低周波合成開口ソナーの第2送信部及び第2受信部の配置例を示した図である。
【図6】フェーズセンタを等間隔にするための送受信部の設計について説明するための図である。
【図7】フェーズセンタを等間隔にするための送受信部の設計について説明するための図である。
【図8】オーバーラッピングを考慮した送受信部の設計について説明するための図である。
【図9】オーバーラッピングを考慮した送受信部の設計について説明するための図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体について説明するための図である。
【図11】高周波合成開口ソナーの一般的な航走手法について説明するための図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1実施形態〕
以下に、本発明の第1実施形態に係る合成開口探査装置および水中航走体について、図面を参照して説明する。
図1は、合成開口探査装置1の概略構成を示した図である。図1に示すように、合成開口探査装置1は、第1の周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る高周波合成開口ソナー(第1ソナー)2と、第1の周波数よりも低い第2周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る低周波合成開口ソナー(第2ソナー)3と、高周波合成開口ソナーおよび低周波合成開口ソナーの送受信タイミングを制御する制御部4を備えている。
【0022】
高周波合成開口ソナー2は、例えば、沈底物探査用のソナーであり、高周波の音波ビームを送出する第1送信部HF_Txと、第1送信部HF_Txから送出された音波ビームが探査対象において反射して戻ってきた音波を受信する第1受信部HF_Rxと、第1受信部HF_Rxにより受信された音波信号に基づいて画像を作成する第1画像処理部6を備えている。
【0023】
低周波合成開口ソナー3は、例えば、埋設物探査用のソナーであり、高周波の音波ビームを送出する第1送信部HF_Txよりも低周波の音波ビームを出力する第2送信部LF_Txと、第2送信部LF_Txから送出された音波ビームが探査対象において反射して戻ってきた音波を受信する第2受信部LF_Rxと、第2受信部LF_Rxにより受信された音波信号に基づいて画像を作成する第2画像処理部7を備えている。
例えば、上記高周波合成開口ソナー2により送受信される音波ビームは、100kHzから500kHz程度のいずれかの周波数の音波ビームであり、低周波合成開口ソナー3により送受信される音波ビームは、10kHzから50kHz程度のいずれかの周波数の音波ビームである。
【0024】
制御部3は、上記第1送信部HF_Tx、第2送信部LF_Tx、第1受信部HF_Rx、第2受信部LF_Rxを同期制御する。このように、第1送信部HF_Tx、第2送信部LF_Tx、第1受信部HF_Rx、第2受信部LF_Rxが同期制御されることにより、第1送信部HF_Txから音波ビームが送出されるタイミングと第2送信部LF_Txから音波ビームが送出されるタイミングとを一致させることができる。これにより、例えば、音波ビーム送信時における誘導ノイズや音響ノイズが他方の受信系に混入するおそれを回避することができる。なお、第1送信部HF_Txから音波ビームが送出されるタイミングと第2送信部LF_Txから音波ビームが送出されるタイミングとは完全に一致していなくても良い。
【0025】
例えば、図2に示すように、送信周期Tに比べて十分短い時間ずらすこととしてもよい。例えば、本実施形態に係る合成開口探査装置1は、沈底物と埋設物とを探査するものである。従って、音波が海底等に到達する前の領域、すなわち、水中航走体付近の領域においては探査に当たってそれほど重要ではないため、この領域にノイズが含まれていても探査精度上問題は生じない。従って、図2に示すように、探査精度上問題のない領域に相当する時間分、音響ビームの送信タイミングをずらすこととしても良い。また、例えば、第1送信部HF_Txおよび第2送信部LF_Txを同期して作動させる場合には、2つの送信器分の作動電流が装置内に流れることとなるが、図2に示すように、タイミングをずらすことで、作動電流を分散でき、装置内に使用されている電源機器の容量を小さく設定することが可能となる。
【0026】
図3に示すように、合成開口探査装置1は、水中航走体10の両側面にそれぞれ搭載され、図4に示すように、斜め下方に向けて音波ビームを送出し、その戻り波を受信する。
図5は、高周波合成開口ソナー2の第1送信部HF_Tx及び第1受信部HF_Rx並びに低周波合成開口ソナー3の第2送信部LF_Tx及び第2受信部LF_Rxの配置例を示した図である。図5に示すように、第1受信部HF_Rxと第2受信部LF_Rxが上下方向に並べて設置されており、これらの上方に第1受信部HF_Rxが、これらの下方に第2送信部LF_Txが配置されている。なお、この配置は一例であり、必ずしもこの配置に限定されない。
【0027】
ここで、高周波合成開口ソナー2の送受信部の物理開口長およびチャネル数、低周波合成開口ソナー3の送受信部の物理開口長およびチャネル数、並びに両合成開口ソナーの音波ビームの送信周期、水中航走体10の速度の関係は、以下の関係式(1)を満たすように設定されていることが好ましい。
【0028】
D*(M−N)=d(m−n)=ΔX=2*V*T (1)
【0029】
ここで、Dは低周波合成開口ソナー3の物理開口長、Mは低周波合成開口ソナー3のチャネル数、Nは低周波合成開口ソナー3のオーバーラップチャネル数、dは高周波合成開口ソナー2の物理開口長、mは高周波合成開口ソナー2のチャネル数、nは高周波合成開口ソナー2のオーバーラップチャネル数、Vは水中航走体の速度、Tは音波ビームの送信周期(繰り返し周期)である。ここで、チャネル数は、受信部の数に相当する。
【0030】
今、水中航走体10が動揺せずにx軸方向に完全な等速直線運動していると仮定し、この状態において、第2送信部LF_Txから繰り返し周期Tで送出された音波ビームが探査対象において反射して戻ってきた音波ビームを受信する場合、受信される信号は図7のように表わすことができる。ここで、図7に表わされている黒点1〜5は、フェーズセンタである。フェーズセンタとは、送信部から送出された音波ビームが探査対象において反射して戻ってきた音波を受信部にて受信した場合に、実際にその位置で音波ビームが送信されたものとして取り扱うことのできる疑似的な音波ビーム送受信位置を示したものである。このフェーズセンタは、受信部に対応してそれぞれ設定される。図6及び図7では、受信部が5個ある場合を例示しているので、フェーズセンタも5つ存在している。フェーズセンタ間の距離は、D/2とされる。
【0031】
ここで、後続の画像処理部における画像作成の処理を考えると、フェーズセンタは等間隔に並んでいることが好ましい。すなわち、図6及び図7に示すように、ピング間においても、常にフェーズセンタが等間隔に並んでいることが好ましい。フェーズセンタを等間隔とすることで、画像処理を行うときの移動方向における位置の微修正が不要となるので、信号処理の負担が軽減されるからである。
そして、高周波合成開口ソナー2および低周波合成開口ソナー3において、フェーズセンタがそれぞれ等間隔に並ぶためには、以下の(2)式を満たす必要がある。
【0032】
Δx=D/2×(M−N)=d/2×(m−n)=V×T (2)
【0033】
上記(2)式において、Δxは1ピング間の水中航走体の移動距離である。上記(2)式から上述した(1)式が導出される。
つまり、上記(1)式を満たすように、各パラメータが決定されることで、図6及び図7に示すようにフェーズセンタをピング間か否かを問わず、常に等間隔で並べることが可能となる。なお、図6及び図7では、チャネルをオーバーラップさせていないが、図8、図9に示すように、チャネルをオーバーラップさせてもよい。
【0034】
オーバーラップチャネルを作ることで、水中航走体10の動揺推定を行うことができる。なお、図8、図9に示した例では、オーバーラップ率40%としている。このように、5つの受信部を備えている場合にオーバーラップ率を40%とすると、1ピングについて2つの受信チャネル(フェーズセンタ)が動揺推定に使用され、3つの受信チャネル(フェーズセンタ)が探査に使用されることとなる。
【0035】
上記(1)式を満たすための低周波合成開口ソナー3及び高周波合成開口ソナー2の設計については、以下の例が挙げられる。
【0036】
低周波合成開口ソナー:D=240mm、M=5、N=1、LL=D×M=1200mm
高周波合成開口ソナー:d=40mm、m=32、n=8、LH=d×m=1280mm
【0037】
また、上記設計例では、低周波合成開口ソナー3および高周波合成開口ソナー2の双方においてオーバーラップチャネルを設け、動揺推定に用いているが、この動揺推定のオーバーラップチャネルが少ないほど、探査用に使用される受信部(チャネル)が増加するために探査の効率は高いが、動揺推定の精度は低下する。また、低周波合成開口ソナー3と高周波合成開口ソナー2は同一の水中航走体10に搭載されていることから、いずれか一方による動揺推定が実施されれば、他方の合成開口ソナーによる動揺推定は不要となる。
【0038】
そこで、チャネル数の多い高周波合成開口ソナー2におけるオーバーラップチャネルのみを使用して動揺推定を行い、チャネル数が少ない低周波合成開口ソナー3については動揺推定に使用するチャネルをゼロとする、すなわち、オーバーラップさせるチャネル数をゼロとする。オーバーラップ数をゼロとすることで、不要なチャネルを削除してチャネル数を必要最低限にすることができ、省スペース化やコスト低減を図ることが可能となる。
【0039】
この場合には、上記(1)式において、N=0とすればよい。これにより、上記(1)式から以下の(3)式が導出される。
【0040】
M=d(m−n)/D (3)
【0041】
つまり、上記例の場合であれば、M=4とすることができ、チャネル数を1つ低減させることが可能となる。
【0042】
また、上述したように高周波合成開口ソナー2によって動揺推定を行うが、十分な動揺推定精度が得られない場合には、速度Vを落としてオーバーラップしているチャネル数を更に上げる必要がある。このとき、高周波合成開口ソナー3および低周波合成開口ソナー2の双方において、フェーズセンタが等ピッチで並ぶような速度Vに決定する。つまり、速度を落とす場合にも上記(1)式を満たすように速度調整することで、フェーズセンタの間隔を常にD/2に設定することができ、画像生成における処理負担の軽減を図ることができる。
【0043】
十分な動揺推定精度が得られているか否かについては、例えば、オーバーラップしているチャネルの受信信号の相関値をリアルタイムで計算し、この相関値が予め設定した閾値未満であるか否かにより行われる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体によれば、周波数の異なる合成開口ソナーを2つ備えているので、沈底物と埋設物などの同時探査を可能とすることができる。
また、これらの音波ビームの送信タイミングを同期させることで、誘導ノイズなどによる影響を回避することができ、鮮明な画像を得ることが可能となる。
更に、高周波合成開口ソナー2及び低周波合成開口ソナー3におけるフェーズセンタの間隔がピング間において等間隔となるように、各種パラメータを設定するので、画像処理を行うときの移動方向における位置の微修正が不要となり、画像信号処理の負担を軽減することができ、また、送受信部位置の誤差による画像処理の劣化も抑制することができる。
また、高周波合成開口ソナー2のチャネルのみをオーバーラッピングさせて水中航走体の動揺推定に充当し、低周波合成開口ソナー3においてはオーバーラッピングさせるチャネルをゼロとすることで、チャネル数を最低限必要な数だけに絞ることができ、装置の小型化、省スペース化、軽量化を図ることが可能となる。
【0045】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体について説明する。
合成開口ソナーによってターゲットを探査する場合、指向性のないターゲットであれば、合成開口探査装置の通常の分解能が得られるが、ターゲットの反射特性に指向性がある場合には、送受信部が移動方向に移動しながら送受信を繰り返し行ったとしても、有効なエコーが得られるピングが限られることとなる。
【0046】
例えば、合成開口ソナーの音波ビーム幅(ビームの角度範囲)が狭い場合には、ターゲットがビーム幅に入る確率が低くなり、ターゲットを見つけにくくなるとともに、ターゲットを見つけやすい位置であるターゲットの正面に送受信部がきた場合であっても、ターゲットの反射のアスペクト特性のために有意なエコーを得ることができず、結果、見落としてしまう可能性がある。
【0047】
一方、合成開口ソナーの音波ビーム幅を広げた場合には、ターゲットを見落とす確率は下がるが、広い範囲のノイズも拾ってしまうことから信号対残響比(SN比)が悪くなる。従って、闇雲に音波ビーム幅を広げることはできない。ここで、合成開口処理により、通常であれば、残響レベルは抑圧できるが、十分な抑圧効果を得るためには、ビーム幅に比例して合成開口長を長くする必要がある。しかしながら、必要な合成開口長が長くなると、水中航走体の位置を精度よく特性するのが難しくなり、他の問題が生ずることとなる。
【0048】
通常、沈底物を探査する高周波合成開口ソナーでは、図11に示すように、1回目の探査においては一方向に走査し、2回目の探査においては1回目の探査における走査方向と垂直に交わる方向に走査する90度交差の2航走でターゲット探査を行うことが多い。これは、例えば、ターゲットの反射特性に指向性がある場合であっても高周波合成開口ソナー2では、ターゲットの影に隠れる海底部分から反射波の強度がその周囲の海底部分からの反射波の強度に比べて明確に低下するため、たとえターゲットエコーの強度が十分でなくてもシャドウと呼ばれる影によってターゲットの存在を特定でき、2方向にわたって探査すれば相当な精度を持ってターゲットを見つけることができるからである。これに対して、低周波合成開口ソナー3では、埋没ターゲットの影と対比する周囲部分からの反射波の強度自体も弱く、明確なシャドウが形成されないため、ターゲットエコー強度によってターゲットの存在を特定する必要がある。
【0049】
そこで、本実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体においては、低周波合成開口ソナー3において、ビーム主極の方向がそれぞれ異なる複数の音波ビームを送受信し、ビーム主極の方向が同じ受信信号同士を用いて画像をそれぞれ作成することとした。
例えば、図10に示すように、30度のビーム幅の音波ビームをビーム主極が30度、0度、−30度となるように振り、ビーム主極が30度、0度、−30度のときの受信信号同士でそれぞれ画像を作成する。これにより、ビーム主極が30度の時の画像、0度のときの画像、および−30度のときの画像が作成される。
なお、上記例に限られず、90度以下の一定のビーム幅を持つ音波ビームを複数の主極に振り、そのときに得られた受信信号を用いて主極毎に画像を作成すればよい。
【0050】
このように、高周波合成開口ソナー2と共通の水中航走体10に搭載されている低周波合成開口ソナー3においても、高周波合成開口ソナー2と同様に90度交差の2航走でターゲットを探査できるようにすることで、探索効率を落とすことなく、全体の探査効率を維持することができる。
したがって、上述したように、低周波合成開口ソナー3においては、音波ビームの主極を3つの角度にわたって振ることで、1回の航走で、実際には3つの方向に走査を行ったのと同様の効果を得ることができる。これにより、航走回数を高周波合成開口ソナー2に合わせることができ、効率的にターゲットの探査を行うことができる。
【0051】
以上説明してきたように、本実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体によれば、低周波合成開口ソナー3において、複数の主極方向に音波ビームを振ることにより、指向性を有するターゲットであっても効率的に探査することが可能となる。また、通常行われている高周波合成開口ソナー2の走査方法に合わせて探査を行うことができ、高周波合成開口ソナー2による探査効率を維持することができる。
【0052】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体について説明する。本実施形態では、低周波合成開口ソナー3の受信部を複数の受信素子が配列された受信アレイとして構成し、受信素子の組み合わせを変更することにより、疑似的にフェーズセンタをより一層密にするものである。例えば、図12に示すように、素子1から4、2から5、3から6、5から8、7から10、9から12でそれぞれ受信された信号を1つのデータのまとまりとしてビームを合成して画像を作成する。これにより、演算量は増えるものの、移動方向の空間サンプリングを密にすることができ、画像作成処理で移動方向にサンプリングが粗いときに発生しやすいグレーティングロブの発生を抑制することができ、画像の画質を向上させることが可能となる。なお、受信素子の配置間隔は、λ/2以下とする。ここで、λは音波の波長である。
【0053】
以上説明したように本実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体によれば、移動方向の空間サンプリングを一層密にすることができ、画像画質を向上させることができる。
また、上述した第2実施形態にいおいても本実施形態のように、低周波合成開口ソナー3の送信部及び受信部を複数の素子からなるアレイによって構成し、それぞれの組み合わせを変えて音波ビームを送信するとともに、音波ビームを受信することとすれば、送波アレイの位相シフトを不要にでき、送信部の構成を簡略化することが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1 合成開口探査装置
2 高周波合成開口ソナー
3 低周波合成開口ソナー
4 制御部
6 第1画像処理部
7 第2画像処理部
10 水中航走体
HF_Tx 第1送信部
HF_Rx 第1受信部
LF_Tx 第2送信部
LF_Rx 第2受信部
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成開口探査装置および水中航走体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に海や湖などの水中での探査には音響を利用したソナーが用いられている。特に最近では、探査対象をモニタ画像に再生して視覚化する合成開口探査装置(合成開口ソナー)が提案され、水中探査にこの装置の適用が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−9968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記合成開口探査装置は、海底の沈底物や海底地形などの探査に幅広く用いられている。このような合成開口探査装置においては、一般的に、100kHzから500kHz程度の高周波帯域が用いられている。
ところで、近年では、沈底物と埋没(埋設)物を同時に効率的に探査したいとの要望がある。しかしながら、沈底物を探査するのに適した音波の周波数帯域で埋設物までも探査しようとすると、その大部分が海底などで反射されてしまい、海底下に埋没した物体を探知できないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、沈底物と埋設物とを同時に、かつ、効率的に探査することのできる合成開口探査装置および水中航走体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、水中航走体に搭載されるとともに、第1の周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る第1ソナーと、前記水中航走体に搭載されるとともに、前記第1の周波数よりも1桁程度低い第2周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る第2ソナーとを備え、前記第1ソナーと前記第2ソナーとを略同期送信させるとともに、前記第1ソナーのフェーズセンタおよび前記第2ソナーのフェーズセンタがそれぞれ等間隔になるように、前記第1ソナーと前記第2ソナーのチャネル数、物理開口長、及び送信周期並びに前記水中航走体の速度が調整されている合成開口探査装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、周波数の異なるソナーを2つ備えているので、沈底物と埋設物など性質の異なるターゲット探査を同時に実施することができる。
また、これらの音波ビームの送信タイミングを同期させることで、第1ソナーと第2ソナーの相互の誘導ノイズなどによる影響を回避することができ、鮮明な画像を得ることが可能となる。
更に、第1ソナー及び第2ソナーにおけるフェーズセンタの間隔がピング間において等間隔となるように、各種パラメータを設定するので、画像処理を行うときの移動方向における位置の微修正が不要となり、画像信号処理の負担を軽減することができ、また、送受信部位置の誤差による画像処理の劣化も抑制することができる。
【0008】
上記合成開口探査装置において、前記第1ソナーにおけるチャネルをオーバーラップさせることにより前記水中航走体の位置補正を行うとともに、前記第2ソナーにおけるオーバーラップチャネル数をゼロにすることとしてもよい。
【0009】
第1ソナーと第2ソナーとは同一の水中航走体に搭載されているため、いずれか一方のソナーにより位置補正を行えば足りる。そこで、第1ソナーのチャネルのみをオーバーラッピングさせて水中航走体の位置補正に充当し、第2ソナーにおいてはオーバーラッピングさせるチャネルをゼロとすることで、チャネル数を最低限必要な数だけに絞ることができる。これにより、装置の小型化、省スペース化、軽量化を図ることが可能となる。
【0010】
上記合成開口探査装置において、前記第1ソナーにおけるチャネルのオーバーラップによる前記水中航走体における位置補正の精度が所定の精度未満の場合に、前記第1ソナーのフェーズセンタおよび前記第2ソナーのフェーズセンタがそれぞれ等間隔になるとの条件を満たすように、前記水中航走体の速度を低下させることとしてもよい。
【0011】
このように、位置補正の精度が所定の精度未満であることにより速度を低下させる場合においても、第1ソナーのフェーズセンタおよび第2ソナーのフェーズセンタがそれぞれ等間隔になるとの条件を満たすように、水中航走体の速度を低下させるので、画像処理を行うときの移動方向における位置の微修正を不要とすることができる。これにより、画像信号処理の負担を軽減することができ、また、送受信部位置の誤差による画像処理の劣化も抑制することができるとの効果を維持することができる。
【0012】
上記合成開口探査装置において、前記第2ソナーは、ビーム主極の方向がそれぞれ異なる複数の音波ビームを送受信し、該ビーム主極の方向が同じ受信信号同士を用いて画像をそれぞれ作成することとしてもよい。
【0013】
これにより、第2ソナーにおいて、複数の主極方向に音波ビームを振ることにより、円筒形状などの指向性を有するターゲットであっても効率的に探査することが可能となる。
【0014】
上記合成開口探査装置において、前記第2ソナーは、複数の送信素子が配列された送信アレイおよび複数の受信素子が配列された受信アレイを有し、前記送信アレイは、一方向に対して約90度幅の音波ビームを送信し、前記受信アレイのビーム主極を複数の方向に指向させることで、前記ビーム主極の方向がそれぞれ異なる複数の音波ビームを送受信することとしてもよい。
【0015】
このように送信アレイについては一方向に対してのみ音波ビームを送信し、受信アレイのビーム主極を複数の方向に指向させるので、送信アレイの位相シフトを不要とすることができ、送信アレイの構成を簡略化することができる。
【0016】
上記合成開口探査装置において、前記第2ソナーは、複数の受信素子が配列された受信アレイを有し、前記受信アレイを構成する受信素子の組み合わせを変更することにより、複数のビーム主極に対応する受信アレイを形成することとしてもよい。
【0017】
このような構成によれば、移動方向の空間サンプリングを一層密にすることができ、画像画質を向上させることができる。
【0018】
本発明は、上記いずれかに記載の合成開口探査装置を搭載した水中航走体を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、沈底物と埋設物とを同時に、かつ、効率的に探査することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係る合成開口探査装置の概略構成を示した図である。
【図2】音波ビームの送信タイミングについて説明するための図である。
【図3】合成開口探査装置が水中航走体に搭載されている状態を示した模式図である。
【図4】水中航走体に搭載されている合成開口探査装置から音波ビームが送信されている状態を示した模式図であり、(a)は水中航走体を図3のz軸方向、すなわち、上方から見た図、(b)は水中航走体を図3のx軸方向、すなわち移動方向から見た図、(c)は水中航走体を図3のy軸方向、すなわち側面から見た図である。
【図5】高周波合成開口ソナーの第1送信部及び第1受信部並びに低周波合成開口ソナーの第2送信部及び第2受信部の配置例を示した図である。
【図6】フェーズセンタを等間隔にするための送受信部の設計について説明するための図である。
【図7】フェーズセンタを等間隔にするための送受信部の設計について説明するための図である。
【図8】オーバーラッピングを考慮した送受信部の設計について説明するための図である。
【図9】オーバーラッピングを考慮した送受信部の設計について説明するための図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体について説明するための図である。
【図11】高周波合成開口ソナーの一般的な航走手法について説明するための図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1実施形態〕
以下に、本発明の第1実施形態に係る合成開口探査装置および水中航走体について、図面を参照して説明する。
図1は、合成開口探査装置1の概略構成を示した図である。図1に示すように、合成開口探査装置1は、第1の周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る高周波合成開口ソナー(第1ソナー)2と、第1の周波数よりも低い第2周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る低周波合成開口ソナー(第2ソナー)3と、高周波合成開口ソナーおよび低周波合成開口ソナーの送受信タイミングを制御する制御部4を備えている。
【0022】
高周波合成開口ソナー2は、例えば、沈底物探査用のソナーであり、高周波の音波ビームを送出する第1送信部HF_Txと、第1送信部HF_Txから送出された音波ビームが探査対象において反射して戻ってきた音波を受信する第1受信部HF_Rxと、第1受信部HF_Rxにより受信された音波信号に基づいて画像を作成する第1画像処理部6を備えている。
【0023】
低周波合成開口ソナー3は、例えば、埋設物探査用のソナーであり、高周波の音波ビームを送出する第1送信部HF_Txよりも低周波の音波ビームを出力する第2送信部LF_Txと、第2送信部LF_Txから送出された音波ビームが探査対象において反射して戻ってきた音波を受信する第2受信部LF_Rxと、第2受信部LF_Rxにより受信された音波信号に基づいて画像を作成する第2画像処理部7を備えている。
例えば、上記高周波合成開口ソナー2により送受信される音波ビームは、100kHzから500kHz程度のいずれかの周波数の音波ビームであり、低周波合成開口ソナー3により送受信される音波ビームは、10kHzから50kHz程度のいずれかの周波数の音波ビームである。
【0024】
制御部3は、上記第1送信部HF_Tx、第2送信部LF_Tx、第1受信部HF_Rx、第2受信部LF_Rxを同期制御する。このように、第1送信部HF_Tx、第2送信部LF_Tx、第1受信部HF_Rx、第2受信部LF_Rxが同期制御されることにより、第1送信部HF_Txから音波ビームが送出されるタイミングと第2送信部LF_Txから音波ビームが送出されるタイミングとを一致させることができる。これにより、例えば、音波ビーム送信時における誘導ノイズや音響ノイズが他方の受信系に混入するおそれを回避することができる。なお、第1送信部HF_Txから音波ビームが送出されるタイミングと第2送信部LF_Txから音波ビームが送出されるタイミングとは完全に一致していなくても良い。
【0025】
例えば、図2に示すように、送信周期Tに比べて十分短い時間ずらすこととしてもよい。例えば、本実施形態に係る合成開口探査装置1は、沈底物と埋設物とを探査するものである。従って、音波が海底等に到達する前の領域、すなわち、水中航走体付近の領域においては探査に当たってそれほど重要ではないため、この領域にノイズが含まれていても探査精度上問題は生じない。従って、図2に示すように、探査精度上問題のない領域に相当する時間分、音響ビームの送信タイミングをずらすこととしても良い。また、例えば、第1送信部HF_Txおよび第2送信部LF_Txを同期して作動させる場合には、2つの送信器分の作動電流が装置内に流れることとなるが、図2に示すように、タイミングをずらすことで、作動電流を分散でき、装置内に使用されている電源機器の容量を小さく設定することが可能となる。
【0026】
図3に示すように、合成開口探査装置1は、水中航走体10の両側面にそれぞれ搭載され、図4に示すように、斜め下方に向けて音波ビームを送出し、その戻り波を受信する。
図5は、高周波合成開口ソナー2の第1送信部HF_Tx及び第1受信部HF_Rx並びに低周波合成開口ソナー3の第2送信部LF_Tx及び第2受信部LF_Rxの配置例を示した図である。図5に示すように、第1受信部HF_Rxと第2受信部LF_Rxが上下方向に並べて設置されており、これらの上方に第1受信部HF_Rxが、これらの下方に第2送信部LF_Txが配置されている。なお、この配置は一例であり、必ずしもこの配置に限定されない。
【0027】
ここで、高周波合成開口ソナー2の送受信部の物理開口長およびチャネル数、低周波合成開口ソナー3の送受信部の物理開口長およびチャネル数、並びに両合成開口ソナーの音波ビームの送信周期、水中航走体10の速度の関係は、以下の関係式(1)を満たすように設定されていることが好ましい。
【0028】
D*(M−N)=d(m−n)=ΔX=2*V*T (1)
【0029】
ここで、Dは低周波合成開口ソナー3の物理開口長、Mは低周波合成開口ソナー3のチャネル数、Nは低周波合成開口ソナー3のオーバーラップチャネル数、dは高周波合成開口ソナー2の物理開口長、mは高周波合成開口ソナー2のチャネル数、nは高周波合成開口ソナー2のオーバーラップチャネル数、Vは水中航走体の速度、Tは音波ビームの送信周期(繰り返し周期)である。ここで、チャネル数は、受信部の数に相当する。
【0030】
今、水中航走体10が動揺せずにx軸方向に完全な等速直線運動していると仮定し、この状態において、第2送信部LF_Txから繰り返し周期Tで送出された音波ビームが探査対象において反射して戻ってきた音波ビームを受信する場合、受信される信号は図7のように表わすことができる。ここで、図7に表わされている黒点1〜5は、フェーズセンタである。フェーズセンタとは、送信部から送出された音波ビームが探査対象において反射して戻ってきた音波を受信部にて受信した場合に、実際にその位置で音波ビームが送信されたものとして取り扱うことのできる疑似的な音波ビーム送受信位置を示したものである。このフェーズセンタは、受信部に対応してそれぞれ設定される。図6及び図7では、受信部が5個ある場合を例示しているので、フェーズセンタも5つ存在している。フェーズセンタ間の距離は、D/2とされる。
【0031】
ここで、後続の画像処理部における画像作成の処理を考えると、フェーズセンタは等間隔に並んでいることが好ましい。すなわち、図6及び図7に示すように、ピング間においても、常にフェーズセンタが等間隔に並んでいることが好ましい。フェーズセンタを等間隔とすることで、画像処理を行うときの移動方向における位置の微修正が不要となるので、信号処理の負担が軽減されるからである。
そして、高周波合成開口ソナー2および低周波合成開口ソナー3において、フェーズセンタがそれぞれ等間隔に並ぶためには、以下の(2)式を満たす必要がある。
【0032】
Δx=D/2×(M−N)=d/2×(m−n)=V×T (2)
【0033】
上記(2)式において、Δxは1ピング間の水中航走体の移動距離である。上記(2)式から上述した(1)式が導出される。
つまり、上記(1)式を満たすように、各パラメータが決定されることで、図6及び図7に示すようにフェーズセンタをピング間か否かを問わず、常に等間隔で並べることが可能となる。なお、図6及び図7では、チャネルをオーバーラップさせていないが、図8、図9に示すように、チャネルをオーバーラップさせてもよい。
【0034】
オーバーラップチャネルを作ることで、水中航走体10の動揺推定を行うことができる。なお、図8、図9に示した例では、オーバーラップ率40%としている。このように、5つの受信部を備えている場合にオーバーラップ率を40%とすると、1ピングについて2つの受信チャネル(フェーズセンタ)が動揺推定に使用され、3つの受信チャネル(フェーズセンタ)が探査に使用されることとなる。
【0035】
上記(1)式を満たすための低周波合成開口ソナー3及び高周波合成開口ソナー2の設計については、以下の例が挙げられる。
【0036】
低周波合成開口ソナー:D=240mm、M=5、N=1、LL=D×M=1200mm
高周波合成開口ソナー:d=40mm、m=32、n=8、LH=d×m=1280mm
【0037】
また、上記設計例では、低周波合成開口ソナー3および高周波合成開口ソナー2の双方においてオーバーラップチャネルを設け、動揺推定に用いているが、この動揺推定のオーバーラップチャネルが少ないほど、探査用に使用される受信部(チャネル)が増加するために探査の効率は高いが、動揺推定の精度は低下する。また、低周波合成開口ソナー3と高周波合成開口ソナー2は同一の水中航走体10に搭載されていることから、いずれか一方による動揺推定が実施されれば、他方の合成開口ソナーによる動揺推定は不要となる。
【0038】
そこで、チャネル数の多い高周波合成開口ソナー2におけるオーバーラップチャネルのみを使用して動揺推定を行い、チャネル数が少ない低周波合成開口ソナー3については動揺推定に使用するチャネルをゼロとする、すなわち、オーバーラップさせるチャネル数をゼロとする。オーバーラップ数をゼロとすることで、不要なチャネルを削除してチャネル数を必要最低限にすることができ、省スペース化やコスト低減を図ることが可能となる。
【0039】
この場合には、上記(1)式において、N=0とすればよい。これにより、上記(1)式から以下の(3)式が導出される。
【0040】
M=d(m−n)/D (3)
【0041】
つまり、上記例の場合であれば、M=4とすることができ、チャネル数を1つ低減させることが可能となる。
【0042】
また、上述したように高周波合成開口ソナー2によって動揺推定を行うが、十分な動揺推定精度が得られない場合には、速度Vを落としてオーバーラップしているチャネル数を更に上げる必要がある。このとき、高周波合成開口ソナー3および低周波合成開口ソナー2の双方において、フェーズセンタが等ピッチで並ぶような速度Vに決定する。つまり、速度を落とす場合にも上記(1)式を満たすように速度調整することで、フェーズセンタの間隔を常にD/2に設定することができ、画像生成における処理負担の軽減を図ることができる。
【0043】
十分な動揺推定精度が得られているか否かについては、例えば、オーバーラップしているチャネルの受信信号の相関値をリアルタイムで計算し、この相関値が予め設定した閾値未満であるか否かにより行われる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体によれば、周波数の異なる合成開口ソナーを2つ備えているので、沈底物と埋設物などの同時探査を可能とすることができる。
また、これらの音波ビームの送信タイミングを同期させることで、誘導ノイズなどによる影響を回避することができ、鮮明な画像を得ることが可能となる。
更に、高周波合成開口ソナー2及び低周波合成開口ソナー3におけるフェーズセンタの間隔がピング間において等間隔となるように、各種パラメータを設定するので、画像処理を行うときの移動方向における位置の微修正が不要となり、画像信号処理の負担を軽減することができ、また、送受信部位置の誤差による画像処理の劣化も抑制することができる。
また、高周波合成開口ソナー2のチャネルのみをオーバーラッピングさせて水中航走体の動揺推定に充当し、低周波合成開口ソナー3においてはオーバーラッピングさせるチャネルをゼロとすることで、チャネル数を最低限必要な数だけに絞ることができ、装置の小型化、省スペース化、軽量化を図ることが可能となる。
【0045】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体について説明する。
合成開口ソナーによってターゲットを探査する場合、指向性のないターゲットであれば、合成開口探査装置の通常の分解能が得られるが、ターゲットの反射特性に指向性がある場合には、送受信部が移動方向に移動しながら送受信を繰り返し行ったとしても、有効なエコーが得られるピングが限られることとなる。
【0046】
例えば、合成開口ソナーの音波ビーム幅(ビームの角度範囲)が狭い場合には、ターゲットがビーム幅に入る確率が低くなり、ターゲットを見つけにくくなるとともに、ターゲットを見つけやすい位置であるターゲットの正面に送受信部がきた場合であっても、ターゲットの反射のアスペクト特性のために有意なエコーを得ることができず、結果、見落としてしまう可能性がある。
【0047】
一方、合成開口ソナーの音波ビーム幅を広げた場合には、ターゲットを見落とす確率は下がるが、広い範囲のノイズも拾ってしまうことから信号対残響比(SN比)が悪くなる。従って、闇雲に音波ビーム幅を広げることはできない。ここで、合成開口処理により、通常であれば、残響レベルは抑圧できるが、十分な抑圧効果を得るためには、ビーム幅に比例して合成開口長を長くする必要がある。しかしながら、必要な合成開口長が長くなると、水中航走体の位置を精度よく特性するのが難しくなり、他の問題が生ずることとなる。
【0048】
通常、沈底物を探査する高周波合成開口ソナーでは、図11に示すように、1回目の探査においては一方向に走査し、2回目の探査においては1回目の探査における走査方向と垂直に交わる方向に走査する90度交差の2航走でターゲット探査を行うことが多い。これは、例えば、ターゲットの反射特性に指向性がある場合であっても高周波合成開口ソナー2では、ターゲットの影に隠れる海底部分から反射波の強度がその周囲の海底部分からの反射波の強度に比べて明確に低下するため、たとえターゲットエコーの強度が十分でなくてもシャドウと呼ばれる影によってターゲットの存在を特定でき、2方向にわたって探査すれば相当な精度を持ってターゲットを見つけることができるからである。これに対して、低周波合成開口ソナー3では、埋没ターゲットの影と対比する周囲部分からの反射波の強度自体も弱く、明確なシャドウが形成されないため、ターゲットエコー強度によってターゲットの存在を特定する必要がある。
【0049】
そこで、本実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体においては、低周波合成開口ソナー3において、ビーム主極の方向がそれぞれ異なる複数の音波ビームを送受信し、ビーム主極の方向が同じ受信信号同士を用いて画像をそれぞれ作成することとした。
例えば、図10に示すように、30度のビーム幅の音波ビームをビーム主極が30度、0度、−30度となるように振り、ビーム主極が30度、0度、−30度のときの受信信号同士でそれぞれ画像を作成する。これにより、ビーム主極が30度の時の画像、0度のときの画像、および−30度のときの画像が作成される。
なお、上記例に限られず、90度以下の一定のビーム幅を持つ音波ビームを複数の主極に振り、そのときに得られた受信信号を用いて主極毎に画像を作成すればよい。
【0050】
このように、高周波合成開口ソナー2と共通の水中航走体10に搭載されている低周波合成開口ソナー3においても、高周波合成開口ソナー2と同様に90度交差の2航走でターゲットを探査できるようにすることで、探索効率を落とすことなく、全体の探査効率を維持することができる。
したがって、上述したように、低周波合成開口ソナー3においては、音波ビームの主極を3つの角度にわたって振ることで、1回の航走で、実際には3つの方向に走査を行ったのと同様の効果を得ることができる。これにより、航走回数を高周波合成開口ソナー2に合わせることができ、効率的にターゲットの探査を行うことができる。
【0051】
以上説明してきたように、本実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体によれば、低周波合成開口ソナー3において、複数の主極方向に音波ビームを振ることにより、指向性を有するターゲットであっても効率的に探査することが可能となる。また、通常行われている高周波合成開口ソナー2の走査方法に合わせて探査を行うことができ、高周波合成開口ソナー2による探査効率を維持することができる。
【0052】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体について説明する。本実施形態では、低周波合成開口ソナー3の受信部を複数の受信素子が配列された受信アレイとして構成し、受信素子の組み合わせを変更することにより、疑似的にフェーズセンタをより一層密にするものである。例えば、図12に示すように、素子1から4、2から5、3から6、5から8、7から10、9から12でそれぞれ受信された信号を1つのデータのまとまりとしてビームを合成して画像を作成する。これにより、演算量は増えるものの、移動方向の空間サンプリングを密にすることができ、画像作成処理で移動方向にサンプリングが粗いときに発生しやすいグレーティングロブの発生を抑制することができ、画像の画質を向上させることが可能となる。なお、受信素子の配置間隔は、λ/2以下とする。ここで、λは音波の波長である。
【0053】
以上説明したように本実施形態に係る合成開口探査装置及び水中航走体によれば、移動方向の空間サンプリングを一層密にすることができ、画像画質を向上させることができる。
また、上述した第2実施形態にいおいても本実施形態のように、低周波合成開口ソナー3の送信部及び受信部を複数の素子からなるアレイによって構成し、それぞれの組み合わせを変えて音波ビームを送信するとともに、音波ビームを受信することとすれば、送波アレイの位相シフトを不要にでき、送信部の構成を簡略化することが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1 合成開口探査装置
2 高周波合成開口ソナー
3 低周波合成開口ソナー
4 制御部
6 第1画像処理部
7 第2画像処理部
10 水中航走体
HF_Tx 第1送信部
HF_Rx 第1受信部
LF_Tx 第2送信部
LF_Rx 第2受信部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中航走体に搭載されるとともに、第1の周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る第1ソナーと、
前記水中航走体に搭載されるとともに、前記第1の周波数よりも低い第2周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る第2ソナーと
を備え、
前記第1ソナーと前記第2ソナーとを略同期送信させるとともに、前記第1ソナーのフェーズセンタおよび前記第2ソナーのフェーズセンタがそれぞれ等間隔になるように、前記第1ソナーと前記第2ソナーのチャネル数、物理開口長、及び送信周期並びに前記水中航走体の速度が調整されている合成開口探査装置。
【請求項2】
前記第1ソナーにおけるチャネルをオーバーラップさせることにより前記水中航走体の位置補正を行うとともに、前記第2ソナーにおけるオーバーラップチャネル数をゼロにする請求項1に記載の合成開口探査装置。
【請求項3】
前記第1ソナーにおけるチャネルのオーバーラップによる前記水中航走体における位置補正の精度が所定の精度未満の場合に、前記第1ソナーのフェーズセンタおよび前記第2ソナーのフェーズセンタがそれぞれ等間隔になるとの条件を満たすように、前記水中航走体の速度を低下させる請求項1または請求項2に記載の合成開口探査装置。
【請求項4】
前記第2ソナーは、ビーム主極の方向がそれぞれ異なる複数の音波ビームを送受信し、該ビーム主極の方向が同じ受信信号同士を用いて画像をそれぞれ作成する請求項1から請求項3のいずれかに記載の合成開口探査装置。
【請求項5】
前記第2ソナーは、複数の送信素子が配列された送信アレイおよび複数の受信素子が配列された受信アレイを有し、
前記送信アレイは、一方向に対して約90度幅の音波ビームを送信し、前記受信アレイのビーム主極を複数の方向に指向させることで、前記ビーム主極の方向がそれぞれ異なる複数の音波ビームを送受信する請求項4に記載の合成開口探査装置。
【請求項6】
前記第2ソナーは、複数の受信素子が配列された受信アレイを有し、
前記受信アレイを構成する受信素子の組み合わせを変更することにより、複数のビーム主極に対応する受信アレイを形成する請求項4または請求項5に記載の合成開口探査装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の合成開口探査装置を搭載した水中航走体。
【請求項1】
水中航走体に搭載されるとともに、第1の周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る第1ソナーと、
前記水中航走体に搭載されるとともに、前記第1の周波数よりも低い第2周波数の音波ビームを送受信して画像信号を得る第2ソナーと
を備え、
前記第1ソナーと前記第2ソナーとを略同期送信させるとともに、前記第1ソナーのフェーズセンタおよび前記第2ソナーのフェーズセンタがそれぞれ等間隔になるように、前記第1ソナーと前記第2ソナーのチャネル数、物理開口長、及び送信周期並びに前記水中航走体の速度が調整されている合成開口探査装置。
【請求項2】
前記第1ソナーにおけるチャネルをオーバーラップさせることにより前記水中航走体の位置補正を行うとともに、前記第2ソナーにおけるオーバーラップチャネル数をゼロにする請求項1に記載の合成開口探査装置。
【請求項3】
前記第1ソナーにおけるチャネルのオーバーラップによる前記水中航走体における位置補正の精度が所定の精度未満の場合に、前記第1ソナーのフェーズセンタおよび前記第2ソナーのフェーズセンタがそれぞれ等間隔になるとの条件を満たすように、前記水中航走体の速度を低下させる請求項1または請求項2に記載の合成開口探査装置。
【請求項4】
前記第2ソナーは、ビーム主極の方向がそれぞれ異なる複数の音波ビームを送受信し、該ビーム主極の方向が同じ受信信号同士を用いて画像をそれぞれ作成する請求項1から請求項3のいずれかに記載の合成開口探査装置。
【請求項5】
前記第2ソナーは、複数の送信素子が配列された送信アレイおよび複数の受信素子が配列された受信アレイを有し、
前記送信アレイは、一方向に対して約90度幅の音波ビームを送信し、前記受信アレイのビーム主極を複数の方向に指向させることで、前記ビーム主極の方向がそれぞれ異なる複数の音波ビームを送受信する請求項4に記載の合成開口探査装置。
【請求項6】
前記第2ソナーは、複数の受信素子が配列された受信アレイを有し、
前記受信アレイを構成する受信素子の組み合わせを変更することにより、複数のビーム主極に対応する受信アレイを形成する請求項4または請求項5に記載の合成開口探査装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の合成開口探査装置を搭載した水中航走体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−137305(P2012−137305A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287867(P2010−287867)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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