説明

合金粉の結晶粒微細化装置

【課題】 粉末の素地を構成する金属の結晶粒および/または素地中に含まれる化合物等の粒子を微細化するための合金粉の結晶粒微細化装置を提供する。
【解決手段】 合金粉の結晶粒微細化装置は、マグネシウム基合金粉末やアルミニウム基合金粉末等の合金原料粉末を所定の方向に送り出す粉末供給部1と、合金粉末供給部1から供給される合金原料粉末に対して塑性加工を施す塑性加工部2と、合金粉末供給部1を加熱する第1加熱手段3と、塑性加工部2を加熱する第2加熱手段4と、第1加熱手段3を制御する第1温度制御手段5と、第2加熱手段4を制御する第2温度制御手段6とを備える。塑性加工部2は、回転体を用いて合金原料粉末に対して塑性加工を施し、合金原料粉末の素地を構成する金属の結晶粒または該素地に含まれる化合物等の粒子を微細化する。第1温度制御手段5は、合金粉末供給部の温度が100〜350℃の範囲となるように、第1加熱手段3を制御する。第2温度制御手段6は、塑性加工部2の温度が100〜350℃の範囲となるように、第2加熱手段4を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な結晶粒を有する合金粉体原料を製造するための装置に関するものである。特に、本発明は、高強度と高靭性とを併せ持つマグネシウム合金やアルミニウム合金を創製するために、原料となるマグネシウム基合金粉体またはアルミニウム基合金粉体の素地を構成する結晶粒および/または素地に含まれる化合物等の粒子を微細化するための合金粉の結晶粒微細化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、低比重による軽量化効果が期待されるので、携帯電話や携帯音響機器の筐体をはじめ、自動車用部品、機械部品、構造用材料等に広く活用されている。更なる軽量化効果の発現には、マグネシウム合金の高強度化と高靭性化が必要である。このような特性向上には、マグネシウム合金の組成・成分の最適化や、素地を構成するマグネシウム結晶粒の微細化が有効である。特に、マグネシウム合金素材の結晶粒微細化に関しては、これまで圧延法、押出加工法、鍛造加工法、引き抜き加工法、ECAE(Equal Channel Angular Extrusion)法など、塑性加工プロセスを基調とした方法が用いられていた。
【0003】
特開2001−294966号公報(特許文献1)は、「マグネシウム合金薄板およびその製造方法ならびにそれを用いた成形品」を開示している。この公報に開示された方法では、溶融したマグネシウム合金を射出成形によって板状素材とし、その板状素材をロール圧延によって圧縮変形し、さらにこの素材に対して熱処理を施すことにより、再結晶化によるマグネシウム結晶粒の微細化を行なっている。
【0004】
特開2000−087199号公報(特許文献2)は、「マグネシウム合金圧延材の製造方法、マグネシウム合金のプレス加工方法、ならびにプレス加工品」を開示している。この公報に開示された方法では、マグネシウム合金板材を所定の圧下率で冷間圧延し、その後この板材に対して所定の温度域で熱処理を施すことにより、再結晶化によるマグネシウム結晶粒の微細化を行なっている。
【0005】
特開2001−294966号公報および特開2000−087199号公報に開示された方法では、いずれも、被加工物は板状素材であり、最終的に得られるものも板材である。そのため、これらの公報に開示された方法によって、パイプ状素材、棒状素材、異形状断面を有する素材などを製作するのは、極めて困難である。また圧延加工の後に熱処理工程が必要であり、経済性の面においても素材のコストアップを招くという問題点がある。
【0006】
特開2003−277899号公報(特許文献3)は、「マグネシウム合金部材とその製造方法」を開示している。この公報に開示された方法では、マグネシウム合金素材を溶体化処理した後、第1次鍛造加工、時効熱処理、第2次鍛造加工を行なうことにより、マグネシウム結晶粒の微細化を行なっている。この方法においても、複数回の鍛造加工と熱処理の繰り返しが必要であり、素材のコストアップを招く。また、第1次鍛造加工において、素材に対して所定の加工予歪を与えることが不可欠であるので、製品形状に制約が生まれる。さらに、この公報に開示された方法は、棒状素材やパイプ状素材といった長尺製品の作製には不適である。
【0007】
国際公開公報WO03/027342A1(特許文献4)は、「マグネシウム基複合材料」を開示している。この公報に開示された方法では、マグネシウム合金粉末あるいはマグネシウム合金チップを出発原料とし、この原料を金型臼内に投入して圧縮成形と押出加工を繰返し行なった後に粉末あるいはチップの固化体ビレットを作り、さらにそのビレットに対して熱間塑性加工を施すことにより、微細なマグネシウム結晶粒を有する高強度マグネシウム合金を得るものである。この公報に開示された方法によれば、大きな固化体ビレットを製造する場合、結晶粒の微細粒化をビレット内部で均一に行ない難くなるといった問題が生じる。また、微細粒化を進行させるには、上記の圧縮・押出の加工回数を著しく増加する必要があるために、素材コストが上昇するといった問題も生じる。
【0008】
特開平5−320715公報(特許文献5)は、「マグネシウム合金製部材の製造方法」を開示している。この公報に開示された方法では、マグネシウム合金製部材の切削加工時に排出される切粉、スクラップ、廃棄物等を圧縮固化し、それを押出加工あるいは鍛造加工することにより、塑性加工歴のあるマグネシウム合金部材を創製している。その際、塑性加工によってマグネシウム結晶粒の微細化を促すことでマグネシウム合金の強度を向上させている。
【0009】
上記の方法の場合、押出加工あるいは鍛造加工後のマグネシウム合金の強度特性を支配するマグネシウム素地の結晶粒径は、塑性加工時に原料に与える歪量だけでなく、出発原料として用いる切粉、スクラップ、廃棄物、あるいは鋳造材のマグネシウム素地の結晶粒径との関連性も強い。つまり、出発原料の素地を構成するマグネシウムの結晶粒微細化は、最終製品となるマグネシウム合金素材の高強度化に極めて有効である。しかしながら、ここで用いられる切粉、スクラップ、廃棄物、さらには鋳造材ではマグネシウムの結晶粒径は数百ミクロンを超える粗大なものである。よって、通常のマグネシウム合金の切粉、スクラップ、廃棄物、または鋳造材を出発原料として用いた場合に得られるマグネシウム合金においては、著しい高強度化・高靭性化は望めない。
【0010】
一方、出発原料の一つであるマグネシウム合金粉体粒子におけるマグネシウム結晶粒の微細粒化手法に着目すると、噴霧法や単ロール法などによる急冷凝固プロセスがある。これらの方法では、溶融状態のマグネシウム合金液滴が極めて短い時間で冷却・凝固する過程で結晶粒の成長を抑制し、微細な結晶粒を有するマグネシウム基合金粉末粒子を製造することが可能である。
【0011】
冷却・凝固速度は液滴表面での抜熱量に支配される。つまりマグネシウム合金液滴の比表面積に依存し、微細な液滴であるほど凝固速度は大きく、短時間で凝固できるために微細なマグネシウム結晶粒を有する。よって、急冷凝固法によって微細な結晶粒を有するマグネシウム基合金粉末を作製することができるが、その反面、粉末粒子径は小さくなるため、製造過程において粉体粒子が浮遊し易くなり、粉塵爆発などの危険性が急増する。また金型プレス成形による圧縮固化を考えた場合、細かい粉末粒子では流動性が低いために、金型への充填率の低下や局部的な空隙の形成、さらには粉末間での摩擦力が大きくなるために固まり難くなるといった問題が生じる。
【特許文献1】特開2001−294966号公報
【特許文献2】特開2000−087199号公報
【特許文献3】特開2003−277899号公報
【特許文献4】国際公開公報WO03/027342A1
【特許文献5】特開平5−320715公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の通り、マグネシウム合金の高強靭性化においては、素地のマグネシウム結晶粒の微細化が有効である。そのためには先ず、鋳造法やダイカスト法といった粒成長を伴う溶解・凝固過程を経由しない製造方法が必要である。具体的には、粉体あるいはそれに類似した幾何学的形状を有する原料をその融点以下の温度域で成形・緻密固化する固相プロセスの構築が課題である。
【0013】
次に、その際に原料として用いるマグネシウム基合金粉体の結晶粒の微細化を行う必要がある。同時に、粉塵爆発を引き起こさないような比較的粗大な粉体であり、またプレス成形の観点からも適切な大きさを有することが望まれる。
【0014】
本発明の目的は、粉末の素地(マトリクス)を構成する金属の結晶粒および/または素地中に含まれる化合物等の粒子を微細化するための合金粉の結晶粒微細化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本件発明者らは、上記の課題を精力的に検討し多くの実験を繰り返すことにより、合金原料粉末に対して適正な温度管理および雰囲気管理の下で塑性加工を施すことにより、素地を構成する金属の結晶粒および/または素地中に含まれる化合物等の粒子を微細化できることを見出した。本発明の装置によって製造される合金粉は、例えば、素地を構成する金属の最大結晶粒径が30μm以下と微細であり、しかも粉塵爆発などの危険性を伴わない比較的粗大な粉体サイズを有する。
【0016】
本件発明者らはマグネシウム基合金粉体原料について実験を行なったが、本発明は、他の材料粉末、例えばアルミニウム基合金粉体原料等にも適用可能である。なお、実験では、上記のようなマグネシウム基合金粉体原料を成形・固化して得られるマグネシウム合金が、優れた強度と靭性とを兼ね備えることを確認した。
【0017】
本明細書中において、「金属」および「合金」という用語を使用しているが、両者を厳格に区別して使い分けているのではない。本明細書においては、「金属」または「合金」という用語は、純金属および合金の両者を含むものとして理解すべきである。
【0018】
上記の目的を達成する本発明は、以下の通りである。
【0019】
本発明に従った合金粉の結晶粒微細化装置は、合金原料粉末を送り出す合金粉末供給部と、合金粉末供給部から供給される合金原料粉末に対して、回転体を用いて塑性加工を施し、合金原料粉末の素地を構成する金属の結晶粒または該素地に含まれる粒子を微細化する塑性加工部と、合金粉末供給部を加熱する第1加熱手段と、塑性加工部を加熱する第2加熱手段と、合金粉末供給部の温度が100〜350℃の範囲となるように第1加熱手段を制御する第1温度制御手段と、塑性加工部の温度が100〜350℃の範囲となるように第2加熱手段を制御する第2温度制御手段とを備える。
【0020】
合金粉の結晶粒微細化装置は、好ましくは、少なくとも塑性加工部を囲うケースと、ケース内を非酸化性雰囲気にするための雰囲気制御手段とを備える。この場合、さらに好ましくは、合金粉の結晶粒微細化装置は、ケース内の雰囲気の温度を100〜350℃の範囲となるように制御する第3温度制御手段を備える。
【0021】
一つの実施形態では、結晶粒微細化装置は、塑性加工部を通過した合金粉に対して破砕加工を施し、合金粉のサイズを小さくする破砕部を備える。結晶粒微細化装置は、さらに、破砕部を通過した合金粉を塑性加工部の上流位置にまで戻す循環路を備えるものであってもよい。この場合、好ましくは、結晶粒微細化装置は、循環路の温度を100〜350℃の範囲となるように制御する第4温度制御手段を備える。循環路は、例えば、スパイラル状に延び、振動によって合金粉を搬送する振動フィーダーを含む。
【0022】
一つの実施形態では、塑性加工部は、合金粉末を間に通すようにされた一対の回転ロールを備える。一対の回転ロールの表面硬さは、好ましくは、マイクロビッカース硬度で200〜1000であり、より好ましくは、400〜800である。また、一対の回転ロール間のクリアランスは、好ましくは、2mm以下である。
【0023】
他の実施形態では、一対の回転ロールの周速が互いに異なるようにされる。
【0024】
さらに、他の実施形態では、塑性加工部は、合金粉末を間に通すようにされた固定部材と回転ロールとを備える。この場合、好ましくは、固定部材と回転ロールとの間のクリアランスは2mm以下である。
【0025】
さらに他の実施形態では、塑性加工部は、合金粉末に対して混練加工を施すようにケース内に配置された一対の回転パドルを備える。一対の回転パドルの表面硬さは、好ましくは、マイクロビッカース硬度で200〜1000であり、より好ましくは、400〜800である。また、一対のパドル間のクリアランス、および各パドルとケースとの間のクリアランスは、パドル径の2%以下、または2mm以下である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態および作用効果を説明する。
【0027】
(1)合金粉体
(A)粉体原料の形状
合金粉体原料は、例えば、マグネシウム基合金粉体またはアルミニウム基合金粉体である。これらの合金粉体原料に対して、適切な温度管理および雰囲気管理の下で連続的な塑性加工を施して効率的に合金粉体原料素地の結晶粒の微細化、および/または素地中に含まれる化合物等の粒子の微細化を促進する。このような微細化を促進するために、使用する出発原料粉末は、粒子状、粉末状、塊状、カール状、帯状、切削粉末状、切削カール状、切粉状のいずれかの形状を有することが望ましい。これらの形状を図1に示している。
【0028】
塑性加工として、圧縮加工、せん断加工、粉砕加工、混練加工などが施されるが、加工後に得られる粉体は、出発原料として用いた粉体に類似した粉体またはそれらの集合体であり、必要に応じて破砕加工を施すことにより次工程である圧縮成形・固化が容易となる。
【0029】
具体的には、塑性加工後のマグネシウム基合金粉体やアルミニウム基合金粉体には適切な圧縮成形性や固化性が要求され、また金型臼内で合金粉体を成形固化する場合には、粉体の流動性や金型内での充填性を向上させる必要がある。これらの特性を向上させるためにも、出発原料として粒子状、粉末状、塊状、カール状、帯状、切削粉末状、切削カール状、切粉状のいずれかの形状を有する合金粉体を用いることが望ましい。
【0030】
(B)合金粉の大きさ
本発明の装置によって製造される合金粉は、好ましくは、その粉体の最大サイズが10mm以下である。ここで最大サイズとは、その粉体の最も大きい寸法を示しており、粒子状、粉末状、塊状であれば、最大粒子径に相当する。帯状であれば、幅、長さ、厚さとした場合に最も大きい長さ方向での寸法を意味する。カール状の場合には、それを円と見立てた場合の直径に相当する。
【0031】
合金粉体の最大サイズが10mm以下の場合には、上記の圧縮成形性、固化性、流動性、金型充填性に問題がない。より好ましい最大サイズとしては6mm以下である。粉体の最大サイズが10mmを超えると、これらの特性が低下し、特に圧縮成形性が低下するために、固化体ビレットに亀裂や割れが発生するといった問題が生じる。
【0032】
他方、本発明の装置によって製造される合金粉は、好ましくは、粉体の最小サイズが0.1mm以上である。ここで最小サイズとは、その粉体の最も小さい寸法を示しており、粒子状、粉末状、塊状であれば、最小粒子径に相当する。帯状であれば、幅、長さ、厚さとした場合に最も小さい厚さ方向での寸法を意味する。カール状の場合には、そのカールを構成する素材の幅あるいは厚さの小さい方の寸法とする。
【0033】
合金粉体の最小サイズが0.1mm以上の場合には、上記の圧縮成形性、固化性、流動性、金型充填性に問題がない。より好ましい最小サイズとしては0.5mm以上である。粉体の最小サイズが0.1mmを下回ると、圧縮成形固化に関する粉体特性が低下すると同時に、粉体の浮遊による粉塵爆発を引き起こす確率が増加するといった危険性を伴う。
【0034】
図1に、各粉末形状に対する最大サイズ部分および最小サイズ部分を示している。
【0035】
(C)粉体の素地を構成する金属粒子の最大結晶粒径
本発明の装置によって製造されるマグネシウム基合金粉体またはアルミニウム基合金粉体において、素地を構成する金属粒子の最大結晶粒径は、好ましくは30μm以下である。ここで最大結晶粒径とは、結晶粒の外接円の直径である。具体的には、粉体を砥粒にて湿式研磨した後、化学腐食(エッチング)を行って結晶粒界を明瞭にした状態で、光学顕微鏡等によって観察される結晶粒において最も大きい寸法のものを意味する。
【0036】
粉体の強さや硬さなどの機械的特性の向上には、素地を構成する粒子の平均的な結晶粒径を小さくするだけでなく、最大結晶粒径を小さくすることが求められる。そこで、本発明の装置による加工条件を適切に管理して合金粉体の素地を構成する金属粒子の最大結晶粒径を適正な範囲にすることにより、優れた強度と靭性とを兼ね備えたマグネシウム基合金素材やアルミニウム基合金素材を創製できる。
【0037】
他方、素地を構成する粒子の最大結晶粒径が30μmを超えるような粉体を用いて合金素材を製造する場合、得られるマグネシウム基合金やアルミニウム合金はバランスがとれた強度と靭性を有することはなく、どちらか一方、あるいは両方の機械的特性の低下が生じる。より好ましくは、マグネシウム基合金粉体またはアルミニウム基合金粉体における素地粒子の最大結晶粒径は15μm以下である。
【0038】
上記のような構成のマグネシウム基合金粉体またはアルミニウム基合金粉体は、適正な温度管理および雰囲気管理の下で出発原料粉末に対して塑性加工を施すことによって得られる。具体的には、塑性加工後の粉体は、相対的に大きな結晶粒径を持つ出発原料粉末に対して、塑性加工を施して小さな結晶粒径としたものである。
【0039】
(D)粉体の素地中に含まれる化合物等の粒子の最大粒径
本発明の装置によって製造されるマグネシウム基合金粉体またはアルミニウム基合金粉体において、素地中に含まれる化合物等の粒子の最大粒径は、好ましくは1μm以下である。ここで最大粒径とは、化合物等の粒子の外接円の直径である。
【0040】
粉体の強さや硬さなどの機械的特性の向上には、素地を構成する金属の結晶粒を微細化するだけでなく、素地中に含まれる化合物等の粒子を微細化することも有効である。そこで、本発明の装置による加工条件を適切に管理して合金粉体の素地中に含まれる化合物粒子の最大粒径を適正な範囲にすることにより、優れた強度と靭性とを兼ね備えたマグネシウム基合金素材やアルミニウム基合金素材を創製できる。
【0041】
(2)合金粉の結晶粒微細化装置の基本構成
図2は、合金粉の結晶粒微細化装置を示す図である。結晶粒微細化装置は、マグネシウム基合金粉末やアルミニウム基合金粉末等の合金原料粉末を所定の方向に送り出す粉末供給部1と、合金粉末供給部1から供給される合金原料粉末に対して塑性加工を施す塑性加工部2と、合金粉末供給部1を加熱する第1加熱手段3と、塑性加工部2を加熱する第2加熱手段4と、第1加熱手段3を制御する第1温度制御手段5と、第2加熱手段4を制御する第2温度制御手段6とを備える。
【0042】
塑性加工部2は、回転体を用いて合金原料粉末に対して塑性加工を施し、合金原料粉末の素地を構成する金属の結晶粒または該素地に含まれる化合物等の粒子を微細化する。具体的には、塑性加工部2は、素地結晶粒および化合物粒子のいずれか一方または両者を微細化する。
【0043】
第1温度制御手段5は、合金粉末供給部の温度が100〜350℃の範囲となるように、第1加熱手段3を制御する。第2温度制御手段6は、塑性加工部2の温度が100〜350℃の範囲となるように、第2加熱手段4を制御する。
【0044】
合金粉の結晶粒微細化装置は、好ましくは、少なくとも塑性加工部2を囲うケース7と、ケース7内を非酸化性雰囲気にするための雰囲気制御手段8とを備える。より好ましくは、結晶粒微細化装置は、ケース7内の雰囲気の温度を100〜350℃の範囲となるように制御する第3温度制御手段9とを備える。
【0045】
(3)合金原料粉末の加熱
合金原料粉末の連続式塑性加工において、加工時の原料粉末の温度は合金粉末素地の結晶粒の微細化および素地中に含まれる粒子の微細粒化と密接な関係があるので、適正な温度範囲で管理する必要がある。そのため、塑性加工部1の上流に位置する合金粉末供給部1(例えば、ホッパー)を所定の温度に加熱保持することは重要である。後述するような理由により、第1温度制御手段5は、第1加熱手段3を制御して合金粉末供給部1の温度を100〜350℃の範囲となるようにする。第1温度制御手段5が、合金粉末供給部1の温度を検出するセンサを備えていても良い。なお、合金粉末供給部1の温度とは、合金粉末供給部1から送り出される合金粉末の温度であると理解すべきである。
【0046】
上記のような温度範囲で投入原料粉末に対して適正な温度管理および雰囲気管理の下で塑性加工を施すことにより、結晶粒の微細粒化の駆動源である強ひずみ加工による結晶粒の分断および再結晶が顕著に進行する。常温においても連続的塑性加工は可能であるが、強ひずみ加工によって原料に導入される転位などの欠陥が増大し、原料粉体が脆くなって加工過程で粉砕・微粉化するため、粉塵爆発を引き起こす確率が高くなる。
【0047】
例えばマグネシウム合金からなる出発原料粉末に対して100〜350℃の温度範囲で塑性加工を施せば、加工後の粉体原料に延性を与えた状態で粉砕・微粉化を抑制し、同時にマグネシウム結晶粒の微細化を進行させることができる。マグネシウムの融点は650℃であり、また発火点は400℃程度であることと、350℃を超えると回転体あるいはケース表面にマグネシウム合金粉体が極端に付着する為、安全面および品質安定性を考慮して上限温度を350℃としている。
【0048】
合金原料粉末の加熱過程において、粉体表面の酸化を阻止する観点から、合金粉末供給部1内の合金原料粉末を、非酸化性雰囲気にすることが望ましい。なお、非酸化性雰囲気は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気や、真空雰囲気を含むものである。例えば大気中で合金原料粉末を加熱した場合には、粉末表面の酸化により後工程である熱間押出加工や鍛造加工後のマグネシウム基合金中に酸化物が存在し、それによって疲労強度などの特性低下を招くといった問題を生じる。
【0049】
(4)合金原料粉末に対する塑性加工
塑性加工部2は、適正な温度範囲にある合金原料粉末に対して回転体を用いて塑性加工を施す。具体的には、一対の回転体の間、または回転体と固定部材との間に供給される合金原料粉末に対して、圧縮加工、せん断加工、粉砕加工などの塑性加工を与え、その際に強ひずみ加工による素地の結晶粒の微細化および/または素地中に含まれる粒子の微細化を促進する。
【0050】
前述したように、塑性加工時の合金原料粉末の温度管理が重要であるので、第2温度制御手段6によって制御される第2加熱手段4は、合金原料粉末と接触する塑性加工部2の回転体および/または固定部材の表面の温度を100〜350℃の範囲に維持する。
【0051】
より好ましくは、塑性加工部2をケース7で取り囲み、ケース7内を雰囲気制御手段8によって非酸化性雰囲気に保つとともに、第3温度制御手段9によってケース7内の温度またはケース7の内壁面の温度を100〜350℃の範囲に保つ。ケース7は、塑性加工部2とともに合金粉末供給部1を取り囲むものであってもよい。
【0052】
塑性加工部2およびケース7内の温度を100〜350℃の範囲に保つ理由は、前述したのと同じである。
【0053】
少なくとも塑性加工部2を取り囲むケース7内を非酸化性雰囲気にするのは、合金原料粉末に対する塑性加工時における粉塵爆発を防止するためである。以下の表1に示すように、マグネシウムやアルミニウムからなる粉体は、食品用の粉末等に比べて、圧倒的に爆発指数(Kst指数)が高いため、非酸化性雰囲気下で塑性加工することが重要である。
【0054】
【表1】

【0055】
本件発明者らが確認したところでは、ケース7内の酸素濃度が8%以下であれば、ケース内の合金原料粉末の量に関係なく粉塵爆発は起こらない。従って、粉塵爆発を抑えるためには、非酸化性雰囲気での塑性加工が重要である。
【0056】
塑性加工部2によって素地の結晶粒および/または素地中の粒子が微細化された合金粉体は、ケース7外に排出される。結晶粒の微細化および/または素地中の粒子の微細化を十分に進行させるために、塑性加工を繰返し行なうようにしても良い。一つの実施形態では、結晶粒微細化装置は、塑性加工部2を通過した合金粉に対して破砕加工を施し、合金粉のサイズを小さくする破砕部と、破砕部を通過した合金粉を塑性加工部2の上流位置にまで戻す循環路とを備える。この場合、結晶粒微細化装置は、好ましくは、循環路の温度を100〜350℃の範囲となるように制御する第4温度制御手段を備える。
【0057】
出発合金原料粉末に対して上記のような塑性加工を施すことにより、加工後の合金粉体原料は、次のような特徴を有するものとなる。すなわち、合金粉体原料は、粉体の素地を構成する合金粒子の最大結晶粒径が30μm以下である。あるいは、出発原料粉末の素地を構成する合金粒子の最大結晶粒径を100%としたとき、塑性加工は、加工後の粉体の素地を構成する合金粒子の最大結晶粒径が20%以下となるまで行なう。あるいは、素地中に含まれる化合物等の粒子の最大粒径が、1μm以下となるまで塑性加工を行なう。このような結晶粒微細化および/または粒子の微細化を実現できなければ、得られた粉体を成形固化して作製するマグネシウム基合金素材において、優れた強度と靭性の両立は困難である。
【0058】
(5)ローラコンパクタ型合金粉結晶粒微細化装置
図3〜図10は、ローラコンパクタ型合金粉結晶粒微細化装置を示している。
【0059】
図3に示す合金粉結晶粒微細化装置は、ケース11と、このケース11内に配置された多段式ロール回転体12と、破砕装置13と、粉末温度・供給量制御システム14と、受台15とを備える。多段式ロール回転体12は、出発原料粉末に対して塑性加工を施す塑性加工部を構成するものであり、圧延加工を施す3組のロール対12a,12b,12cを有する。出発原料粉末は、対となったロール間を通過する際に、圧縮変形する。
【0060】
出発原料粉末は、粉末温度・供給量制御システム14で所定の温度および所定の量に調整されてケース11内に投入される。ここで、所定の温度は、100〜350℃の範囲である。ケース11の内部は、粉末表面の酸化防止の観点から、不活性ガス雰囲気、非酸化性ガス雰囲気、または真空雰囲気に保たれる。また、多段式ロール回転体12の表面温度およびケース11内の雰囲気温度は、100〜350℃の範囲に保たれる。
【0061】
図4は、3段目のロール対12cと破砕装置13とを示している。ロール対12cから送り出された粉体は、引き続いて破砕装置13によって破砕されて顆粒状粉体となる。この顆粒状粉体を再度粉末温度・供給量制御システム14に戻して、多段式ロール回転体12による塑性加工を繰り返してもよい。加工後の顆粒状粉体は、受台15に収容される。
【0062】
合金原料粉末に対して塑性加工を施す各ロール12a,12b,12cの表面硬さを、好ましくはマイクロビッカース硬度で200〜1000、より好ましくは400〜800にする。もしくは、図5に示すように、ロールの周りにライナー101を取り付け、その材質を超硬、ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素、ホウ化チタン、アルミナなどの硬度の高い物質を選ぶ。もしくは、ロールの表面を窒化することにより硬度を上げ、かつロール表面のすべりを良くする。その理由は、次の通りである。
【0063】
塑性加工を行なう1対のロールにとってクリアランスの設定は、十分な強ひずみを加える上で重要である。しかしながら、ロールの表面に十分な硬度がない場合、摩耗によりクリアランスが保てなくなる。言い換えれば、十分な硬度があればロールの摩耗が少なくなり、クリアランスを一定に保つことができ、均質な強ひずみ品を得ることができる。同時に、ロール表面を上記の金属間化合物やセラミックスなどで被覆することで、金属であるマグネシウム合金粉体との凝着性・焼付き性を低下でき、ロールへの材料の付着現象を抑制・解消できる。被覆の方法としては、上述のようなライナーを取り付ける方法や、ロール表面に上記の材質からなるコーティングや溶射などによる成膜方法が有効である。また、ロール表面のすべりを良くすることによっても、ロール表面への付着が軽減されクリアランスが一定になり、やはり均質な強ひずみ品を得ることができる。
【0064】
また、塑性加工を行なう一対の回転ロール間のクリアランスは2mm以下にすることが好ましい。一対の回転ロールの隙間部分に原料粉体が連続的に供給されて塑性加工が施されるが、クリアランスの大きさが上記のような好ましい値を超える場合には、十分な強ひずみ加工を付与することができず、その結果、例えば30μm以下のマグネシウム結晶粒が得られなくなる。投入する原料粉体の大きさや形状によって加工度が異なるが、上記のクリアランスを原料粉体の最大サイズの1/5以下に設定することで安定したマグネシウム結晶粒の連続式微細化が可能となる。
【0065】
図6は、ローラコンパクタ型結晶粒微細化装置の他の例を示している。図示する結晶粒微細化装置は、合金粉末供給部として機能するホッパー21と、塑性加工部として機能する回転ロール対24と、回転ロール対24によって圧縮変形した粉体を破砕するグラニュレータ25と、破砕された粉体を受入れる受台26とを備える。少なくとも塑性加工部24は、図示を省略したケースによって囲まれ、このケース内は非酸化性雰囲気に保たれる。ホッパー21には、制御盤23によって制御される加熱コイル22が巻かれている。制御盤23は、ホッパー21内の合金原料粉末の温度を監視しながら加熱コイル22の動作を制御する。従って、ホッパー21内の合金原料粉末は、100〜350℃の適正温度範囲に保たれる。
【0066】
回転ロール対24は、熱媒体循環ユニット27から供給される熱媒体によってその表面が適正な温度範囲に維持される。熱媒体循環ユニット27は、回転ロール対24の表面温度を放射温度計28によって監視しながら送り出す熱媒体の温度を制御する。従って、回転ロール対24の表面温度は、100〜350℃の適正温度範囲に保たれる。
【0067】
図7は、ローラコンパクタ型結晶粒微細化装置のさらに他の例を示している。この図においても、塑性加工部を非酸化性雰囲気にして取り囲むためのケースの図示を省略している。図示する結晶粒微細化装置は、塑性加工部として機能する1段目回転ロール対34と、2段目回転ロール対35と、3段目回転ロール対36と、2段目回転ロール対35の下流に位置する破砕装置37と、3段目ロール対36の下流に位置する破砕装置38と、破砕装置38から送り出された合金粉体を1段目ロール対34の上流の位置にまで戻す循環路31とを備える。図示した実施形態では、循環路31は、スパイラル状に上下方向に延び、モータ32の駆動によって振動する振動フィーダである。循環路31の上端部分には合金粉末供給部30が形成され、下端部分には破砕された合金粉体を受入れる受台33が形成されている。受台33に入った合金粉体は、振動する循環路31を通って合金粉末供給部30にまで導かれ、再度ロール対34、35、36によって塑性加工される。
【0068】
ローラコンパクタ型結晶粒微細化装置において、一対の回転ロールの周速度を互いに異ならせるようにしても良い。周速度を異ならせる方法の一例を図8に示す。一方の回転ロール40と他方の回転ロール41とは直径が異なっているが、同じ回転数で回転するように制御されている。従って、周速度は互いに異なるようになる。
【0069】
図9は、周速度を異ならせる方法の他の例を示している。この例では、一方の回転ロール42と他方の回転ロール43とは同じ直径を有しているが、回転数が互いに異なるようにされている。従って、周速度は互いに異なるようになる。
【0070】
一対の回転ロール間で周速度を異ならすようにすれば、合金原料粉末に対して、圧縮変形力に加えてせん断作用を効率的に付与できる。
【0071】
図3〜図9に示したローラコンパクタ型結晶粒微細化装置では、塑性加工部として一対の回転ロールを用いている。他の実施形態として、図10に示すように、1個の回転ロール44と、それに対向する固定部材45とによって塑性加工部を構成するようにしてもよい。この実施形態では、合金原料粉末は、回転ロール44と固定部材45との間を通過するときに、圧縮変形およびせん断作用を受ける。好ましくは、回転ロール44と固定部材45との間のクリアランスを2mm以下とする。
【0072】
ローラコンパクタ型合金粉結晶粒微細化装置において、原料粉体と接触する1対のロール回転体の表面性状に改良を加えるようにしてもよい。具体的には、ロール回転体の表面に、凹部を形成する。凹部として、1つまたは複数の凹状の溝や、凹状のスリットが考えられるが、それらを回転方向に対して垂直な方向、または平行な方向、または斜めに角度をもって交差する方向に延在するように設けることにより、楔効果によって原料粉体を効率的にロール回転体間に引き込むことができると同時に、強制的に強ひずみ加工を施すことができるようになる。しかしながら、凹部を設けることは必須ではなく、このような凹状溝あるいは凹状スリットを付与しない表面を有するロール回転体であっても塑性加工による結晶粒の微細化は可能である。
【0073】
(6)ニーダ型合金粉結晶粒微細化装置
図11に示すニーダ型合金粉結晶粒微細化装置は、合金粉末供給部として機能する粉末温度・供給量制御システム50と、このシステム50から供給される合金原料粉末を受入れるケース51とを備える。ケース51は、不活性ガス雰囲気、非酸化性ガス雰囲気、または真空雰囲気に保たれる混練室52と、混練加工後の粉体を送り出す排出口53とを有する。ケース11の混練室52内には、塑性加工部として機能する少なくとも一対のパドル54を備える。図示した実施形態では、回転軸方向に複数対の回転パドル54が設けられている。
【0074】
回転パドル54を支持する回転軸には、ケース51内に投入された出発合金原料粉末を前方に送り込むスクリューも固定されている。一対の回転パドル54は、合金原料粉末に対して混練加工を施すことにより、合金原料粉末の素地を構成する金属結晶粒の微細化および/または素地中に含まれる粒子の微細化を行なう。具体的には、合金原料粉末は、1対の回転パドル54間の隙間、および各パドル54とケース51の内壁面との間の隙間を通過する際に、混練加工される。この混練加工は、合金原料粉末に対して、圧縮力、せん断力、分散力、衝撃力、変形力、粉砕力等を与えるものである。
【0075】
図11に示す実施形態では、ケース51の排出口53から排出された合金粉体は、循環路55を経由して、粉体温度・供給量制御システム50に送られ、繰り返して混練加工を行なうようになっている。この実施形態においても、合金原料粉末の温度、一対の回転パドルの表面温度、ケース51内の雰囲気温度を100〜350℃の範囲に保つように加熱手段を制御する。
【0076】
図12は、ニーダ型合金粉結晶粒微細化装置をより具体的に示している。図示する合金粉結晶粒微細化装置は、粉末温度・供給量制御システム60と、ケース61とを備える。ケース61は、不活性ガス雰囲気、非酸化性ガス雰囲気、または真空雰囲気に保たれる混練室62と、出発原料粉末を受入れる供給口63と、混練加工後の粉体を送り出す排出口64とを有する。ケース61内には、軸受66によって回転自在に支持され、駆動部69によって回転駆動される2本の回転軸65が配置されている。各回転軸65には、ケース61内に投入された出発原料粉末を前方に送り込むスクリュー67と、出発原料粉末に対して混練加工を施すためのパドル68が固定されている。ケース61を加熱できるようにするために、ケース61に対して、ヒータまたは加熱媒体を供給することのできるジャケットを設けてもよい。また、回転軸65を加熱できるようにするために、回転軸65に対して、ヒータまたは加熱媒体を供給できる装置を設けてもよい。
【0077】
スクリュー67によって混練室62に送り込まれた出発原料粉末は、1対の回転パドル68間の隙間、および各パドル68とケース61の内壁面との間の隙間を通過する際に、混練加工される。この混練加工は、出発原料粉末に対して、圧縮力、せん断力、分散力、衝撃力、変形力、粉砕力等を与えるものである。なお、対となった回転パドル68は、複数組設けられている。合金素地の結晶粒の微細化および素地中の粒子の微細化をより促進するために、排出口63から排出された合金粉体を循環路70を経由して粉末温度・供給量制御システム60に戻すようにしても良い。
【0078】
図12に示す実施形態では、1対のパドル68は同じ方向に回転する。また、各パドル68は、3個の尖った頂点を有する形状を有している。図13および図14は、図12のパドル68とは異なった形状のパドル対を示している。図13に示す1対のパドル56,57は共に、2個の尖った頂点を有する形状を有しており、同じ方向に回転する。図14に示す1対のパドル58,59は互いに異なった形状を有するものであり、回転方向も逆向きである。このように種々のパドルがあるが、どのようなパドルを用いて混練加工を行なってもよい。
【0079】
ニーダ型合金粉結晶粒微細化装置の場合、好ましくは、1対のパドル間のクリアランスを、パドル径の2%以下、または出発原料粉末のサイズの20%以下、または2mm以下にすることが好ましい。さらに、パドルとケースとの間のクリアランスも、パドル径の2%以下、または出発原料粉末の最大サイズの20%以下、または2mm以下にすることが好ましい。
【0080】
合金原料粉末に対して混練加工を施す各パドルの表面硬さを、好ましくはマイクロビッカース硬度で200〜1000、より好ましくは400〜800にする。もしくは、図15および図16に示すように、パドルの先端にチップ102,103を張り付け、その材質を超硬、ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素、ホウ化チタン、アルミナなどの硬度の高い物質を選ぶ。あるいは、パドル表面もしくはケース内面を窒化することにより硬度を上げ、かつパドル表面のすべりを良くする。その理由は、次の通りである。
【0081】
塑性加工を行なう1対のパドルにとってクリアランスの設定は十分な強ひずみを加える上で重要である。しかしながら、パドルの表面やケース内面に十分な硬度がない場合、摩耗によりクリアランスが保てなくなる。言い換えれば、十分な硬度があればパドルやケースの摩耗が少なくなり、クリアランスを一定に保つことができ、均質な強ひずみ品を得ることができる。同時に、パドル先端表面を上記の金属間化合物やセラミックスなどで被覆することで、金属であるマグネシウム合金粉体との凝着性・焼付き性を低下でき、パドル先端への材料の付着現象を抑制・解消できる。被覆の方法としては、上述のようなチップを取り付ける方法や、パドル先端部表面に上記の材質からなるコーティングや溶射などによる成膜方法が有効である。また、パドル表面やケース内面のすべりを良くすることによっても、パドル表面とケース内面への付着が軽減され、クリアランスが一定になり、やはり均質な強ひずみ品を得ることができる。
【0082】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変更を加えることが可能である。
【実施例1】
【0083】
ロール径66mmの1対のロールを備えたローラコンパクタ型合金粉結晶粒微細化装置を用いて、マグネシウム基合金原料粉体に対して塑性加工を施した。この際、粉体原料およびロールの温度を種々に変更した。温度条件を変えて最終的に得られた合金粉を圧粉固化し、押出し後の試験片について、引張強度、耐力、伸びを測定した。その結果を表2〜4および図17〜図19に示す。なお、図17〜図19のグラフの横軸は、1対のロール間を通過するパス回数を示している。具体的には、1対のロール間に1回通したものを破砕機にかけて細かくし、さらに1対のロール間に通した回数を示す。なお、この実験は、マグネシウム基合金粉体原料に対する塑性加工時の原料およびロールの温度と、成形固化体の強度および靭性との関係を調べるために行なったものであり、ケース内の雰囲気は大気雰囲気とした。
【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【0087】
表2〜表4、および図17〜図19から明らかなように、合金粉体原料およびロールの温度を100〜350℃の範囲で塑性加工したものは、引張強度、耐力、伸びに優れた特性が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
この発明は、高強度と高靭性とを併せ持つ合金を得るための合金粉体原料を製造するのに有利に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】粉体原料の種々の形状を示す図である。
【図2】合金粉の結晶粒微細化装置の基本構成を示す図である。
【図3】ローラコンパクタ型合金粉結晶粒微細化装置の一例を示す図解図である。
【図4】図3に示した合金粉結晶粒微細化装置における3段目のロール対と破砕装置とを示す図である。
【図5】周りにライナーを取り付けたロールを示す図である。
【図6】ローラコンパクタ型合金粉結晶粒微細化装置の他の例を示す図解図である。
【図7】ローラコンパクタ型合金粉結晶粒微細化装置のさらに他の例を示す図解図である。
【図8】異なる直径を有する一対の回転ロールを示す図である。
【図9】回転数の異なる一対の回転ロールを示す図である。
【図10】回転ロールと固定部材とからなる塑性加工部の一例を示す図である。
【図11】ニーダ型合金粉結晶粒微細化装置の一例を示す図解図である。
【図12】ニーダ型合金粉結晶粒微細化装置の具体的構造を示す図である。
【図13】ニーダ型合金粉結晶粒微細化装置における1対のパドルの他の例を示す図である。
【図14】ニーダ型合金粉結晶粒微細化装置における1対のパドルのさらに他の例を示す図である。
【図15】先端にチップを張り付けたパドルの一例を示す図である。
【図16】先端にチップを張り付けたパドルの他の例を示す図である。
【図17】成形固化品の引張強度を比較して示すグラフである。
【図18】成形固化品の耐力を比較して示すグラフである。
【図19】成形固化品の伸びを比較して示す図である。
【符号の説明】
【0090】
1 合金粉末供給部、2 塑性加工部、3 第1加熱手段、4 第2加熱手段、5 第1温度制御手段、6 第2温度制御手段、7 ケース、8 雰囲気制御手段、9 第3温度制御手段、11 ケース、12 多段式ロール回転体、12a,12b,12c ロール対、13 破砕装置、14 粉末温度・供給量制御システム、15 受台、21 ホッパー、22 加熱コイル、23 制御盤、24 回転ロール対、25 グラニュレータ、26 受台、27 熱媒体循環ユニット、28 放射温度計、30 合金粉末供給部、31 循環路、32 モータ、33 受台、34,35,36 回転ロール対、37,38 破砕装置、40,41,42,43,44 回転ロール、45 固定部材、50 粉末温度・供給量制御システム、51 ケース、52 混練室、53 排出口、54 パドルユニット、55 循環路、56,57,58,59 パドル、60 粉末温度・供給量制御システム、61 ケース、62 混練室、63 供給口、64 排出口、65 回転軸、66 軸受、67 スクリュー、68 パドル、69 駆動部、70 循環路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金原料粉末を送り出す合金粉末供給部と、
前記合金粉末供給部から供給される合金原料粉末に対して、回転体を用いて塑性加工を施し、合金原料粉末の素地を構成する金属の結晶粒または該素地に含まれる粒子を微細化する塑性加工部と、
前記合金粉末供給部を加熱する第1加熱手段と、
前記塑性加工部を加熱する第2加熱手段と、
前記合金粉末供給部の温度が100〜350℃の範囲となるように前記第1加熱手段を制御する第1温度制御手段と、
前記塑性加工部の温度が100〜350℃の範囲となるように前記第2加熱手段を制御する第2温度制御手段とを備える、合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項2】
少なくとも前記塑性加工部を囲うケースと、
前記ケース内を非酸化性雰囲気にするための雰囲気制御手段とを備える、請求項1に記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項3】
前記ケース内の雰囲気の温度を100〜350℃の範囲となるように制御する第3温度制御手段を備える、請求項2に記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項4】
前記塑性加工部を通過した合金粉に対して破砕加工を施し、合金粉のサイズを小さくする破砕部を備える、請求項1〜3のいずれかに記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項5】
前記破砕部を通過した合金粉を前記塑性加工部の上流位置にまで戻す循環路を備える、請求項3に記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項6】
前記循環路の温度を100〜350℃の範囲となるように制御する第4温度制御手段を備える、請求項5に記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項7】
前記循環路は、スパイラル状に延び、振動によって合金粉を搬送する振動フィーダーを含む、請求項5または6に記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項8】
前記塑性加工部は、合金粉末を間に通すようにされた一対の回転ロールを備える、請求項1〜7のいずれかに記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項9】
前記一対の回転ロールの表面硬さは、マイクロビッカース硬度で200〜1000である、請求項8に記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項10】
前記一対の回転ロール間のクリアランスは2mm以下である、請求項8または9に記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項11】
前記一対の回転ロールの周速を互いに異ならせる手段を備える、請求項8〜10のいずれかに記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項12】
前記塑性加工部は、合金粉末を間に通すようにされた固定部材と回転ロールとを備える、請求項1〜7のいずれかに記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項13】
前記固定部材と前記回転ロールとの間のクリアランスは2mm以下である、請求項12に記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項14】
前記塑性加工部は、合金粉末に対して混練加工を施すようにケース内に配置された一対の回転パドルを備える、請求項1〜7のいずれかに記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項15】
前記一対の回転パドルの表面硬さは、マイクロビッカース硬度で200〜1000である、請求項14に記載の合金粉の結晶粒微細化装置。
【請求項16】
前記一対のパドル間のクリアランスおよび前記各パドルとケースとの間のクリアランスは、パドル径の2%以下、または2mm以下である、請求項14または15に記載の合金粉の結晶粒微細化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−63411(P2006−63411A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248684(P2004−248684)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】