説明

吊り治具

【課題】例えば外壁パネル等の吊り対象物に対する脱着をワンサイドアクセスにより極めて容易に行え、しかも、取付け状態において抜出不能のしっかりとした引掛け状態を形成することができる吊り治具を提供する。
【解決手段】吊り対象物2の孔4に差し込み可能な軸体5が備えられ、軸体5の長さ方向の中間部の一側に切欠き部8が設けられると共に、切欠き部8によって引掛け段部9が形成され、吊り対象物2の孔4の向こう側の開口周縁部に引掛け段部9を引っ掛けた軸体5が孔4から抜けるのを阻止する抜止め材6が備えられ、抜止め材6の抜止め本体部6aが、軸体5の外周部の切欠き部8の側とは反対の側において軸体5の長さ方向に移動可能に備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁パネルの建方などに用いられる吊り治具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば外壁パネルの建方において、外壁パネルのパネルフレームの上枠の上面部の左右に備えられているネジ孔にアイボルトを螺合し、吊りワイヤーを該アイボルトに連結し、クレーン等で外壁パネルを吊り上げることは、従来より行われている。
【特許文献1】特開平10−140718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、アイボルトでは、ワンサイドアクセスによる脱着は可能であるものの、脱着のためにアイボルトを回さなければならず、脱着作業が厄介で、手間を要するという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題点に鑑み、例えば外壁パネル等の吊り対象物に対する脱着をワンサイドアクセスにより極めて容易に行え、しかも、取付け状態において抜出不能のしっかりとした引掛け状態を形成することができる吊り治具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題は、吊り対象物に備えられた孔を利用して該吊り対象物を吊るのに用いられる吊り治具であって、
前記孔に差し込み可能で、基端側に、吊り手段に連結される吊り連結部が設けられた軸体が備えられ、
該軸体の長さ方向の中間部の一側に、切欠き部が、所定の長さ範囲にわたって設けられると共に、該切欠き部によって、吊り対象物の孔の向こう側の開口周縁部に引っ掛けられる引掛け段部が形成され、
該開口周縁部に引掛け段部を引っ掛けた軸体が孔から抜けるのを阻止する抜止め材が備えられ、
該抜止め材は、軸体の外周部の切欠き部側とは反対の側において軸体の長さ方向に移動可能で、切欠き部対応領域から軸体の基端側に後退することにより吊り対象物の孔への軸体の進出が許容され、該基端側から切欠き部対応領域側に進出することにより吊り対象物の孔からの軸体の抜けが阻止されるようになされていることを特徴とする吊り治具によって解決される(第1発明)。
【0006】
この吊り治具では、吊り対象物への取付けは、軸体を吊り対象物の孔に差し込み、軸体の引掛け段部を孔の向こう側の開口周縁部に引っ掛け、そして、抜止め材を軸体の基端側から切欠き部対応領域側に進出させた状態にするだけでよく、また、吊り対象物からの取外しは、抜止め材を切欠き部対応領域から軸体の基端側に後退させ、引掛け段部を側方に変位させて孔の向こう側の開口周縁部に対する引掛け状態を解除し、そして、軸体を孔から引き抜けばよく、吊り対象物に対する脱着をワンサイドアクセスにより極めて容易に行うことができる。
【0007】
しかも、吊り対象物に取り付けられた状態では、抜止め材が切欠き部対応領域側に進出した状態となっていることにより、該抜止め材の抜止め作用により、引掛け段部が引掛け位置にしっかりと保持されて抜出不能のしっかりとした引掛け状態を形成することができ、軸体が吊り対象物の孔から不本意に抜けてしまうのを確実に防ぐことができる。
【0008】
第1発明において、抜止め材は、軸体に保持され、軸体の外周部の切欠き部の側とは反対の側で軸体の長さ方向に移動可能に案内されており、
抜止め材を切欠き部対応領域側に進出させる付勢手段と、
抜止め材が切欠き部対応領域側に進出した状態でそれ以上の進出を阻止するストッパー機構と、
抜止め材に備えられ、抜止め材を切欠き部対応領域側から基端側に後退操作する操作部と
が備えられているとよい(第2発明)。
【0009】
この構造では、抜止め材が、軸体に保持され、軸体の外周部の切欠き部の側とは反対の側で軸体の長さ方向に移動可能に案内されているので、吊り対象物に対する吊り治具の脱着時の抜止め材に対する操作を容易に行うことができる。
【0010】
しかも、付勢手段により、吊り対象物への吊り治具の取付けの際に、抜止め材を容易に切欠き部対応領域側に進出させることができると共に、ストッパー機構により、抜止め材が付勢手段による付勢力で軸体の先端部から外れてしまうのを防ぐことができ、また、操作部が備えられていることにより、吊り対象物からの吊り治具の取外しの際に、抜止め材を付勢手段の付勢力に抗して軸体の基端側に容易に移動させることができる。
【0011】
第2発明において、抜止め材の先端部が、基端側に向けて外方に傾斜する斜面に形成されているとよい(第3発明)。
【0012】
この場合は、吊り対象物に対する吊り治具の取付けを、吊り対象物の孔に軸体を差し込むだけの簡単な操作で行うことができる。即ち、軸体を吊り対象物の孔に差し込んでいくと、抜止め材の先端部が孔の周囲に当接し、抜止め材は付勢手段の付勢力に抗して軸体の基端側に移動していくが、この移動過程で、軸体の引掛け段部が孔の向こう側の開口から出ると、抜止め材は、先端部の斜面の作用と付勢手段による付勢力とによって先端側、即ち孔の内方に向けて進出していき、それによって、引掛け段部が孔の向こう側の開口周縁部の側に突出して、抜止め状態が形成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の吊り対象物は、以上のとおりのものであるから、例えば外壁パネル等の吊り対象物に対する脱着をワンサイドアクセスにより極めて容易に行え、しかも、取付け状態において抜出不能のしっかりとした引掛け状態を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施最良形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1及び図2に示す実施形態の吊り治具1は、図1(イ)に示すように、外壁パネル2を吊り対象物とするもので、外壁パネル2には、外壁面材2aの背面側に備えられたパネルフレームの上枠2bの天面部に孔2cが明けられると共に、同上枠2bの下面側に、該孔2cと同心状態にナット3が溶接等で取り付けられ、上枠2bの孔2cとナット3のネジ孔3aとで「吊り対象物に備えられた孔4」が構成されている。なお、ナット3は、外壁パネル2の建方において、外壁パネル2を建物の躯体、例えば軒桁などにボルト接合するのに用いられるものである。
【0016】
吊り治具1において、5は軸体、6は抜止め材であり、軸体5は、上記の孔4に差し込み可能で、該軸体5の基端部には、リング状の吊り連結部7が設けられると共に、軸体5の長さ方向の中間部の一側には、切欠き部8が、所定の長さ範囲にわたって設けられ、該切欠き部8によって、外壁パネル2の孔4の向こう側の開口周縁部に引っ掛けられる引掛け段部9が形成されている。切欠き部8の長さ寸法は、軸体5が直立状態を保持したまま、軸体5の引掛け段部9が孔4の向こう側の開口周縁部に突出することができるような寸法に設定されている。
【0017】
抜止め材6は、軸体5の引掛け段部9を外壁パネル2の孔4の向こう側の開口周縁部に引っ掛けた状態で、該軸体5が孔4から基端側に抜けてしまうのを阻止するもので、抜止め本体部6aと、該抜止め本体部6aの基端側に連設された操作部としてのハット状ベース部6bとを備えている。
【0018】
抜止め材6は、ハット状ベース部6bに設けられた孔6cに軸体5が貫通状態に通されることで軸体5に保持されており、軸体5の外周部に長さ方向に延びるように溝5aが設けられると共に、抜止め材6のハット状ベース部6bの側孔6dにピン10が差し込まれ、該ピン10の先端部が溝5a内に突出することで、抜止め本体部6aは、軸体5の外周部の切欠き部8の側とは反対側の側面部において、軸体5の長さ方向に移動可能に案内されるようになされている。
【0019】
また、軸体5の外周部には、抜止め材6のハット状ベース部6bよりも基端側に付勢手段としてのコイルバネ12が外装され、該バネ12の付勢力により、抜止め材6は軸体5の先端側に付勢され、ピン10が溝5a内の先端側の段部11に当接することによりストップをかけられて、抜止め本体部6aが軸体5の切欠き部対応領域に保持される一方、ハット状ベース部6bを操作して抜止め材6をバネ12の付勢力に抗して軸体5の基端側に移動させることにより、抜止め本体部6aを切欠き部対応領域から基端側に移動させることができるようになされている。即ち、上記のピン10と溝5aが案内機構を構成し、ピン10と、溝5a内の段部11がストッパー機構を構成している。5bは、軸体5の側に設けられたバネ受けである。
【0020】
そして、抜止め材6の抜止め本体部6aの先端部13は、基端側に向けて外方に傾斜する斜面に形成されている。
【0021】
上記の吊り治具1では、外壁パネル2への取付けは、次のようにして行うことができる。即ち、図3(イ)に示すように、ハット状ベース部6bを手で操作して、抜止め材6をバネ12の付勢力に抗して軸体5の基端側に移動させ、軸体5の先端側を外壁パネル2の孔4に差し込んでいき、図3(ロ)に示すように、引掛け段部9を孔4の向こう側の開口周縁部の側に突出させて引っ掛けた状態にする。しかる後、図3(ハ)に示すように、抜止め材6をバネ12の付勢力により先端側に移動させ、抜止め本体部6aを、外壁パネル2の孔4内において、軸体5の切欠き部対応領域に位置させる。これにより、軸体5は、抜止め本体部6aの存在によって、引掛け段部9が外壁パネル2の孔4の向こう側の開口周縁部から後退するのを阻止され、吊り治具1は上方への抜けをしっかりと阻止された抜出不能の取付け状態になる。
【0022】
なお、外壁パネル2は、図3(ニ)に示すように、こうして取り付けられた吊り治具1のリング状吊り連結部7に、吊り手段としてのワイヤー14を連結すれば、クレーン等により吊り上げることができる。
【0023】
また、外壁パネル2に対する取付けは、次のようにして行うことも可能である。即ち、図4(イ)に示すように、抜止め材6の抜止め本体部6aを軸体5の切欠き部対応領域に位置させたまま、吊り治具1をもって、軸体5を外壁パネル2の孔4に差し込んでいく。すると、図4(ロ)に示すように、抜止め材6の抜止め本体部の先端部の斜面13が孔4の開口周縁部に当接し、抜止め材6は、図4(ハ)に示すように、バネ12の付勢力に抗して軸体5の基端側に相対移動をしていく。そして、図4(ニ)に示すように、軸体5の引掛け段部9が外壁パネル2の孔4の向こう側の開口部を越えると、抜止め材6は、バネ12の付勢力と、抜止め本体部6aの先端斜面13の作用によって、外壁パネル2の孔4内に進出していき、同時に、軸体5は、抜止め本体部6aの進出作用によって外壁パネル2の孔4内を側方に押されて、引掛け段部9が外壁パネル2の孔4の向こう側の開口周縁部の側に進出し、抜止め本体部6aによって戻り阻止の引掛け状態が形成され、吊り治具1は上方への抜けを阻止されたしっかりとした取付け状態になる。
【0024】
一方、吊り治具1の取外しは、次のようにして行えばよい。即ち、図5(イ)(ロ)に示すように、抜止め材6のハット状ベース部6bを手で操作してバネ12の付勢力に抗して引き上げ、抜止め本体部6aを、軸体5の切欠き部対応領域から基端側に移動させた状態にし、しかる後、図5(ハ)に示すように、軸体5を側方に傾けるようにして引掛け段部9を外壁パネル2の孔4の向こう側の開口周縁部から開口部側に移動させて引掛け状態を解除し、そして、図5(ニ)に示すよう、吊り治具1を外壁パネル2の孔4から抜き取ればよい。
【0025】
このように、上記の吊り治具1によれば、外壁パネル2に対する吊り治具の脱着をワンサイドアクセスにより極めて容易に行うことができる。特に、抜止め本体部6aの先端を斜面13に形成しているので、図4に示すように、抜止め材6に対する操作を省略し、軸体5を外壁パネル2の孔4に差し込んでいくだけの極めて簡単な操作を行うだけで抜止め状態に取り付けることができる。
【0026】
以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、吊り対象物が外壁パネルである場合を示したが、これに限らず、孔が備えられた各種の吊り対象物であってよいし、孔の形態もナットのネジ孔に限らず、軸体の引掛け段部を引掛け可能で抜止め材で抜止め状態にすることができる各種形態の孔であってよい。また、軸体や、吊り連結部、切欠き部、抜止め材等の具体的形態に制限はなく、各種形態をしていてよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態の吊り治具を示すもので、図(イ)は正面図、図(ロ)は部分断面図、図(ハ)は分解正面図、図(ニ)は図(イ)のI−I線断面図である。
【図2】図(イ)及び図(ロ)はそれぞれ、同吊り治具の斜視図である。
【図3】図(イ)〜図(ニ)は外壁パネルへの取付け方法の一つを順次に示す一部断面正面図である。
【図4】図(イ)〜図(ニ)は外壁パネルへの他の取付け方法を順次に示す一部断面正面図である。
【図5】図(イ)〜図(ニ)は外壁パネルからの取付け方法の一つを順次に示す一部断面正面図である。
【符号の説明】
【0028】
1…吊り治具
2…外壁パネル(吊り対象物)
4…孔
5…軸体
6…抜止め材
6b…ハット状ベース部(操作部)
7…吊り連結部
8…切欠き部
9…引掛け段部
12…コイルバネ(付勢手段)
13…斜面
14…吊りワイヤー(吊り手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り対象物に備えられた孔を利用して該吊り対象物を吊るのに用いられる吊り治具であって、
前記孔に差し込み可能で、基端側に、吊り手段に連結される吊り連結部が設けられた軸体が備えられ、
該軸体の長さ方向の中間部の一側に、切欠き部が、所定の長さ範囲にわたって設けられると共に、該切欠き部によって、吊り対象物の孔の向こう側の開口周縁部に引っ掛けられる引掛け段部が形成され、
該開口周縁部に引掛け段部を引っ掛けた軸体が孔から抜けるのを阻止する抜止め材が備えられ、
該抜止め材は、軸体の外周部の切欠き部側とは反対の側において軸体の長さ方向に移動可能で、切欠き部対応領域から軸体の基端側に後退することにより吊り対象物の孔への軸体の進出が許容され、該基端側から切欠き部対応領域側に進出することにより吊り対象物の孔からの軸体の抜けが阻止されるようになされていることを特徴とする吊り治具。
【請求項2】
前記抜止め材は、軸体に保持され、軸体の外周部の切欠き部の側とは反対の側で軸体の長さ方向に移動可能に案内されており、
抜止め材を切欠き部対応領域側に進出させる付勢手段と、
抜止め材が切欠き部対応領域側に進出した状態でそれ以上の進出を阻止するストッパー機構と、
抜止め材に備えられ、抜止め材を切欠き部対応領域側から基端側に後退操作する操作部と
が備えられている請求項1に記載の吊り治具。
【請求項3】
前記抜止め材の先端部が、基端側に向けて外方に傾斜する斜面に形成されている請求項2に記載の吊り治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−238219(P2007−238219A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60324(P2006−60324)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【出願人】(504082025)株式会社イング (29)
【Fターム(参考)】