同一電位の電極を備える相互作用検出部と該検出部を用いるセンサーチップ、並びに相互作用検出装置
【課題】
電気力学的効果が反応領域全域で得られ、かつより構造が簡略な反応領域を備える相互作用検出部などを提供すること。
【解決手段】
物質間の相互作用の場を提供する反応領域2と、該反応領域2に臨設された同一の電位を持つ電極E1(又は電極群)と、を少なくとも備える相互作用検出部1を提供する。また、この相互作用検出部1を備えるDNAチップやタンパクチップなどのセンサーチップや前記検出部1を用いる相互作用検出装置を提供する。
電気力学的効果が反応領域全域で得られ、かつより構造が簡略な反応領域を備える相互作用検出部などを提供すること。
【解決手段】
物質間の相互作用の場を提供する反応領域2と、該反応領域2に臨設された同一の電位を持つ電極E1(又は電極群)と、を少なくとも備える相互作用検出部1を提供する。また、この相互作用検出部1を備えるDNAチップやタンパクチップなどのセンサーチップや前記検出部1を用いる相互作用検出装置を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質間の相互作用を検出する技術に関する。より詳しくは、電気力学的作用を利用して物質間の相互作用を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロアレイ技術によって所定のDNAが微細配列された、いわゆるDNAチップ又はDNAマイクロアレイ(以下、本願では「DNAチップ」と総称。)と呼ばれるバイオアッセイ用の集積基板が、遺伝子の変異解析、SNPs(一塩基多型)分析、遺伝子発現頻度解析等に利用されるようになり、創薬、臨床診断、薬理ジェノミクス、進化の研究、法医学その他の分野において広範囲に活用され始めている。
【0003】
この「DNAチップ」は、ガラス基板やシリコン基板上に多種・多数のDNAオリゴ鎖やcDNA(complementary DNA)等のヌクレオチド鎖が集積されていることから、ハイブリダイゼーションの網羅的解析が可能となる点が特徴とされている。その他、核酸分子以外の生体分子間の相互作用を検出するセンサーチップ(例えば、プロテインチップ)や検出装置が種々開発されている。
【0004】
ここで、所定の反応領域において、物質間の相互作用を進行させてこれを検出するアッセイ系において、電気泳動や誘電泳動などの電気的力学的効果を利用する技術が近年提案され始めている。以下、当該技術を例示する。
【0005】
まず、特許文献1には、鋳型基板上に固定された核酸プローブ鋳型鎖を用い、該鋳型鎖に沿って核酸プローブ鎖を合成し、この合成されたプローブを、電界を利用して別のアレイ基板上に固定することにより、簡易かつ低コストで核酸鎖固定化アレイを製造する技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、互いに着脱可能な本体部とフレームとから構成され、本体部の内側にはマトリックス状に多数のピン電極が突出され、このピン電極には異なる遺伝子配列から成るオリゴヌクレオチドを固定し、このピン電極と接触しないようにフレームの窪みに共通電極が配設し、共通電極とピン電極間に電圧を印加し、電流を検出して前記オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションにより得られた二本鎖DNAを検出する技術が開示されている。
【0007】
特許文献3には、検出用ヌクレオチド鎖と該検出用ヌクレオチド鎖と相補性のある塩基配列を備える標的ヌクレオチド鎖との間のハイブリダイゼーションの場となる反応領域が、前記検出用ヌクレオチド鎖を電界により伸長させながら、誘電泳動の作用によって走査電極の端部に固定できる構成とされたハイブリダイゼーション検出部が開示されている。
【特許文献1】特開2001−330608号公報。
【特許文献2】特開2001−242135号公報。
【特許文献3】特開2004−135512号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上掲した先行技術では、いずれも反応領域に対向配置された電極又は電極群を利用するものである。したがって、電界(電気力線)は、対向電極間で形成されるので、反応領域全体に所望の電気力学的効果を及ぶようにすることが難しいという技術的課題があった。
【0009】
また、DNAチップやプロテインチップなどのセンサーチップにおける反応領域は、一般に狭小であるので、対向配置関係にある電極あるいは電極群を設けると、(1)反応領域の構造がより複雑になる、(2)対向電極を形成するために反応領域の形態的制約が発生する、(3)チップ製造の工程数が増える、(4)電極への給電線の引き廻しも複雑化する、などの技術的課題があった。
【0010】
そこで、本発明は、電気力学的効果が反応領域全域で得られ、かつより構造が簡略な反応領域を備える相互作用検出部などを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、まず、物質間の相互作用の場を提供する反応領域と、該反応領域に臨設された同一の電位を持つ電極又は電極群と、を少なくとも備える相互作用検出部、並びに該相互作用検出部を少なくとも一つ備える構成のセンサーチップを提供する。前記電極又は電極群に印加する電界は、例えば、交流電界を採用することによって、誘電泳動などの所望の電気力学的効果を得る。
【0012】
また、電極や電極群の表面が凹凸形状を備える構成を採用することによって、凹凸形状の特に段差部位近傍に不均一電界を形成することができる。この不均一電界が形成された領域では、誘電泳動の作用を効果的に得ることができる。加えて、電極又は電極群の表面を絶縁層で覆うことによって、反応領域中に貯留される場合があるイオン溶液による電気化学的な反応を防止することができる。
【0013】
反応領域で進行させる前記相互作用は、狭く限定されないが、一例を挙げれば、誘電泳動の作用が、相互作用の効率や精度により良い効果を与えると考えられる核酸鎖間のハイブリダイゼーションを挙げることができる。
【0014】
次に本発明では、物質間の相互作用の場を提供する反応領域と、該反応領域に臨設された同一の電位を持つ電極又は電極群と、該電極又は電極群に対する電界印加手段と、を少なくとも備える相互作用検出装置を提供する。
【0015】
本装置を構成する前記電界印加手段は、例えば、電極又は電極群と接地部との間に交流電界を印加する手段を採用できる。また、この手段では、インピーダンスマッチング回路を介して高周波電界を印加することも可能である。
【0016】
本装置では、電界印加によって、前記反応領域に存在する物質に対して、誘電泳動などの電気力学的作用を加える。
【0017】
ここで、本発明に関連する主たる技術用語について説明する。
【0018】
「相互作用」とは、物質間の非共有結合、共有結合、水素結合を含む化学的結合あるいは解離を広く意味し、例えば、核酸分子間のハイブリダイゼーション、タンパク質間の相互作用、抗原抗体反応などの物質間の化学的結合あるいは解離を広く含む。なお、「ハイブリダイゼーション」は、相補的な塩基配列構造を備える間の相補鎖(二本鎖)形成反応を意味する。
【0019】
「核酸鎖」とは、プリンまたはピリミジン塩基と糖がグリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステルの重合体(ヌクレオチド鎖)を意味し、プローブDNAを含むオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、プリンヌクレオチドとピリミジンヌクレオチオドが重合したDNA(全長あるいはその断片)、逆転写により得られるcDNA(cプローブDNA)、RNA、ポリアミドヌクレオチド誘導体(PNA)等を広く含む。
【0020】
「反応領域」は、ハイブリダイゼーションなどの相互作用の場を提供できる領域であり、一例を挙げるなら、液相やゲルなどを貯留できるウエル形状を有する反応場である。
【0021】
「誘電泳動」は、電界が一様でない場において、分子が電界の強い方へ駆動する現象である。交流電圧をかけた場合も、かけた電圧の極性の反転につれて分極の極性も反転するので、直流の場合と同様に駆動効果が得られる(監修・林 輝、「マイクロマシンと材料技術(シーエムシー発行)」、P37〜P46・第5章・細胞およびDNAのマニピュレーション参照)。特に、高周波交流電界中においては、時間的平均電場の自乗の勾配に比例して双極子に力が働き、泳動する。
【0022】
例えば、核酸分子は、液相中において電界の作用を受けると伸長又は移動することが知られている。その原理は、骨格をなすリン酸イオン(陰電荷)とその周辺にある水がイオン化した水素原子(陽電荷)とによってイオン曇を作っていると考えられ、これらの陰電荷及び陽電荷により生じる分極ベクトル(双極子)が、高周波高電圧の印加により全体として一方向を向き、その結果として伸長し、加えて、不均一電界が印加された場合、電気力線が集中する部位に向かって移動する(Seiichi Suzuki,Takeshi Yamanashi,Shin-ichi Tazawa,Osamu Kurosawa and Masao Washizu:“Quantitative analysis on electrostatic orientation of DNA in stationary AC electric field using fluorescence anisotropy”,IEEE Transaction on Industrial Applications,Vol.34,No.1,P75-83(1998))。
【0023】
「センサーチップ」は、基板上の所定の反応領域において、物質間の相互作用を進行させ、該相互作用を検出するための基板を意味し、前記物質の種類に関係なく広く包含し、前記相互作用の検出原理は問わない。このセンサーチップには、DNAプローブなどの核酸鎖が固定化されて微細配列された状態とされたDNAチップ(DNAマイクロアレイ)やタンパク質間の相互作用や抗原抗体反応などの検出に適するプロテインチップなどを少なくとも含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、反応領域に対向配置された電極(即ち、対向電極)ではなく、同一の電位を持つ電極又は電極群が設けられた構成であることから、印加電界(電気力線)を電極の周辺全方位へ発散させることができる。即ち、反応領域全域に向かって、広範囲に電界(電気力線)を発散させることができるので、反応領域全体に電気的な勾配、あるいは不均一電界を形成できる。これにより、反応領域中に分散している物質を効率良く、かつ、より数多く、電極側へ電気力学的な泳動作用によって寄せ集めることができる。
【0025】
反応領域内に対向電極を形成する必要がないため、反応領域の形態的な制約も少なく、検出部の構造を簡略化できる。例えば、電界印加手段では、給電用の配線自体を、接地部はあらかじめシステム側に接続しておき、検出部への配線はハイブリダイゼーション反応領域の電極だけに接続すればよいため、検出装置としての構造も簡易化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる物や方法の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0027】
図1は、本発明に係る相互作用検出部(以下、「検出部」と略称。)として好適な第一実施形態の基本構成を説明する要部立体斜視図、図2は、その断面図、図3は、図2中のA-A線断面図である。
【0028】
まず、図1〜図3中に示された符号1は、本発明に係る検出部の好適な第一実施形態を示している。この検出部1には、図示されているように、溶液やゲルなどの媒質を貯留又は保持できるウエル形状(凹部形状)の反応領域2が設けられている。
【0029】
この反応領域2は、ハイブリダイゼーション等の物質間の相互作用の場を提供する領域又は空間として機能する。この反応領域2に貯留又は保持された媒質には、該反応領域2に臨むように形成された電極E1を介して、例えば、交流電界が印加される。
【0030】
ここで、前記電極E1は、アルミニウムや金などの金属、あるいはITO(インジウム−スズ−オキサイド)等の透明な導体で形成されており、本実施形態の例では、前記反応領域2の底面21の中央位置に配置されている。なお、電極E1の形成場所は、前記底面21に限定されず、例えば、上方側の基板5や後述するスペーサ6の位置に、反応領域2に臨むように形成してもよい。
【0031】
この電極E1は、図1〜図3に示されているように、SiO2、SiC、SiN、SiOC、SiOF、TiO2等から選択される材料によって形成された絶縁層3で覆うことが望ましい。反応領域2中に貯留される場合があるイオン溶液による電気化学的な反応を防止するためである。
【0032】
電極E1の表面は、DNAプローブ等の検出用物質Dが固定化される検出表面として機能させることができる。具体的には、予めプローブDNA等の検出用物質Dの末端を固定化できる表面処理を電極E1表面に施しておくことにようにする。
【0033】
検出用物質Dの固定は、電極E1の表面とプローブDNA(検出用物質Dの一例)の末端がカップリング反応等の反応によって行うことができる。例えば、ストレプトアビジンによって表面処理された電極表面の場合には、ビオチン化された検出用物質Dの末端の固定に適している。あるいは、チオール(SH)基によって表面処理された電極表面の場合には、チオール基が末端に修飾されたプローブDNA等の検出用物質Dをジスルフィド結合(−S−S−結合)で固定することに適している。
【0034】
なお、図1等に示された符号Dは、電極E1の表面に末端が固定されたDNAプローブに代表される検出用物質を、符号Tは、検出用物質Dと特異的な相互作用を示す標的物質を、それぞれ模式的に示している。また、図2、図3中に示す符号Wは、前記検出用物質Dと標的物質Tとの間の特異的な相互作用(例えば、ハイブリダイゼーション)によって形成された複合体(例、二本鎖核酸)を示している。
【0035】
図1から図4に示されている符号4、5は基板を示している。基板4は、例えば、光学的に反応領域内の記録情報(本願では相互作用情報)の読み取りが可能とされた光透過性の基板であり、例えば、石英ガラスやシリコン、ポリカーボネート、ポリスチレオレフィンやその他の合成樹脂によって形成されている。一方の符号5で示された基板は、反応領域2を閉塞する蓋として機能し、目的に応じて、基板4と同様の基材で形成してもよいし、光反射機能を有する材料で形成してもよい。
【0036】
図1などに示された符号6は、SiO2や合成樹脂などの絶縁材で形成されたスペーサ部材である。なお、このスペーサ部材6は、基板4や5と別体形成、一体形成のいずれでもよい。スペーサ部材6を基板4あるいは5と一体成形する場合は、公知の光ディスクマスタリング技術によって、ハイブリダイゼーションなどの相互作用の場を提供する役割を果たす反応領域2を形成することができる。
【0037】
続いて、上記電極E1と反応領域2外に設けられた接地部7との間では、スイッチSのオン/オフ操作によって、交流電源等の電源Vで電圧が印加可能な構成となっている(電界印加手段)。
【0038】
このような電界印加手段の構成では、狭小な反応領域2内に電極E1に対応する対向電極を作る必要は無くなるので、前記反応領域2の構造を簡略化できる。さらに、電界印加をする場合、配線自体も接地部はあらかじめシステム側に接続しておき、検出部への配線は反応領域2内の電極E1だけに接続すればよいので、検出(ハイブリダイゼーションおよび信号検出)装置としての構造も簡易化が可能である。
【0039】
スイッチSをオンにすると、電極E1近傍には電界が集中して、不均一電界を形成することができる。この不均一電界を生じさせるための好適な電極構造としては、特に図示しないが、電極E1の表面を、例えば、凹凸形状に粗面加工を施したり、島状になるようにパターニング形成したりすることによって、電界が、該電極E1の表面の凸部位(山状部位)に集中し易くすることが考えられる。
【0040】
このような構成では、凸部の角部、あるいは凹部の屈曲部などに、特に電界を集中させることができるので、電極E1の近傍領域において、誘電泳動の作用や効果をより確実に利用できる。なお、電極表面を粗面加工する方法は、例えば、公知のスパッタリング蒸着技術、エピキタシー蒸着技術やエッチング技術を用いて実施することができるが、特に限定されない。
【0041】
この不均一電界の作用によって、前記反応領域2中にランダムに分散して存在している物質を、誘電泳動などの電気力学的作用によって、電極E1側へ引き寄せることや、電界に沿った方向に伸張させることも可能となる。
【0042】
この印加する電界強度、周波数、印加時間は特に限定されるものではなく、電界印加対象の物質の種類、分子長等により、適正な電界強度、周波数、印加時間を選ぶことが望ましい。波形についても、サイン波に限定するものではなく、例えば、三角波等でもよい。
【0043】
実際に交流電界を印加する場合は、図3に示されているように、電極E1と電源Vの間にインピーダンスマッチング回路8を設けておき、インピーダンスの整合をとることにより、効率的に電力が投入できるようにすることが好ましい。
【0044】
図4には、インピーダンスマッチング回路8の回路構成の一例が簡略に示されている。インピーダンスマッチング回路8は、接地された電源Vと接地された検出部1との間に設けられ、各々接地されている二つの可変コンデンサ(Capacitor)C1,C2と、これらの可変コンデンサC1,C2の間に介在している中和素子であるインダクタンス中和回路(中和コイル)Lnと、を備える。
【0045】
可変コンデンサC1,C2は、電界印加するときに、静電容量を調整する役割を果たし、インダクタンス中和回路Lnは、インダクタンスを調整する役割を果たす。このような構成を用いて、電源(信号発生源)Vから出力される内部インピーダンスと電源の負荷インピーダンスをマッチング(整合)する。
【0046】
さらに、図5には、電界印加手段の好適な実施形態のより詳細な構成がブロック図的に示されている。
【0047】
接地された電源(即ち、信号発生源)Vから出力された信号は、該電源Vに接続されている増幅器(アンプ)81によって増大されて出力信号として取り出される。そして、この出力信号に係わる伝送波Wtは、符号82で示す方向性結合器(Directional Coupler)を介して、信号検出器(センサー)83に入って検出され、測定器84で出力電力が測定される。制御部85は、この測定値を監視する。
【0048】
また、末端の電極E1からの反射波Wrは、方向性結合器82を介して、信号検出器(センサー)86で検出され、測定器87で反射電力が測定される。制御部85は、この測定値を監視する。
【0049】
インピーダンスマッチング回路8は、前記測定値に基づいて制御部85から発せられた制御信号Cに基づいて、電源の内部インピーダンスZvの大きさと対向電極E1の負荷インピーダンスZeの大きさをそれぞれ調整し(図5参照)、これにより、両インピーダンスZv,Zeを整合してZv=Zeとする。具体的には、制御部85で測定された反射電力が最も小さくなるように、マッチング回路8内の容量成分あるいはインダクタンス成分を、例えば、モータ駆動により変化させることでインピーダンス自動調整が行われる。
【0050】
以上のインピーダンスマッチング手段によって、検出部1の反応領域2内に存在する物質、例えば、核酸分子に対する電気力学的作用を加える技術において、電源Gから対向電極E1へ投入される電力の損失低減が図られ、その投入電力が最大となる。
【0051】
また、反応領域2に対する投入電力(供給電力)の一定化(安定化)、さらには、高周波電界、交流電界、特に高周波交流電界を利用する場合に発生するパルス信号の波形乱れの抑制、投入電力の位相遅れなどの問題の原因となる電極E1からの反射波Wrの消去などを、確実に行うことができる。
【0052】
反応領域2中に、標的物質Tである核酸鎖が存在する場合を例に説明すれば、この核酸鎖は、誘電泳動という電気力学的作用を受けて、電界強度のよい強い電極E1の方へ泳動する。その結果、検出用物質Dとして機能するプローブDNAなどの核酸鎖が予め固定されている電極E1表面上に、標的の核酸鎖が集まって、ハイブリダイゼーションが効率よく進行する。
【0053】
即ち、前記誘電泳動により、標的となる核酸鎖を短時間で電極E1表面へ移動させ、その濃度を高めることにより、電極E1表面に固定された核酸鎖とのハイブリダイゼーション時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0054】
さらには、誘電泳動の作用によって、一本鎖の核酸鎖が伸張すると、ランダムコイル状態に丸まっているときと比較して、ハイブリダイゼーション時の立体障害が減少するので、ハイブリダイゼーションの効率を向上させることができる。
【0055】
なお、ハイブリダイゼーションの信号は、ダブルストランド(二本鎖核酸)に特異的に結合し発光するインターカレートからの光量を測定しても良いし、あらかじめターゲットDNAに結合させた蛍光色素からの発光量をハイブリダイゼーション後に余剰なDNAを除去した後に測定してもよい。あるいは、モレキュラービーコンを利用してハイブリダイゼーション反応に伴う発行量を測定してもよい。
【0056】
ここで、図6は、反応領域2へ電界が印加されている様子を電気力線で模式的に示した断面図(図2と共通の断面図)である。
【0057】
本発明に係る検出部1では、この図6に示されているように、対向電極を持たない電極E1から反応領域2の全域に向かって電界が形成されるため、誘電泳動などの所望の電気力学的作用を反応領域2の全域へ及ぼすことができる。
【0058】
即ち、反応領域2の全域に向かって、広範囲に電界(電気力線)を発散させることができるので、反応領域2の全体に電気的な勾配、あるいは不均一電界を形成できる。これにより、反応領域2中に分散している物質を効率良く、かつ、より数多く、電極E1側へ電気力学的な泳動作用によって寄せ集めることができる。
【0059】
図7は、本発明に係る検出部の第二実施形態を示す図である。この第二実施形態である検出部10は、反応領域2内に同一電位である三つの電極E1,E2,E3を備えている。同一電位の電極の数は、二つや三つ、あるいはそれ以上の数でもよく、複数の電極を基板4の上面などに種々のパターンで配設するのも自由である。
【0060】
ここで、直径100μm、高さ5μmの反応領域内に設けられた直径10μmの電極E1において、接地部を無限遠に想定し、電極E1と接地間に±20V、1MHzの交流電界を印加した場合の鉛直方向、斜め方向、水平方向のそれぞれの電界強度分布を図8、図9、図10に示し、また、鉛直方向、斜め方向、水平方向のそれぞれの電界強度の変化率(電界強度の二乗の傾き)分布を図11、図12、図13に示す。また、図14は、鉛直方向、斜め方向、水平方向のそれぞれの距離(単位:μm)の電界強度データ(右)と電界強度二乗の微分の数値データ(左)を示す図面代用データ表である。なお、図15は、電極周辺の電界強度分布に係わる鉛直(Z)、水平(H)、斜め(R)の各方向の概念を示す図である。
【0061】
これらの図面に表された結果から、反応領域内には電界が形成され、電極(E1)近傍では、その電界強度がより大きく、不均一電界が発生していることがわかる。なお、実際に交流電界を印加する場合は、上記したように、インピーダンスマッチングをとることにより、効率的に電力が投入できるようにすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、電気力学的作用を利用して、物質間の相互作用を効率良く、短時間で、高精度に検出するための技術として利用できる。DNAチップやプロテインチップなどに代表されるセンサーチップ技術や前記相互作用を検出するための装置として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る相互作用検出部(以下、「検出部」と略称。)として好適な第一実施形態の基本構成を説明する要部立体斜視図である。
【図2】同検出部の横方向断面図である。
【図3】図2中のA-A線断面図である。
【図4】インピーダンスマッチング回路(8)の回路構成の一例が簡略に示されている。
【図5】電界印加手段の好適な実施形態のより詳細な構成を示すブロック図である。
【図6】反応領域(2)へ電界が印加されている様子を電気力線で模式的に示した断面図(図2と共通の断面図)である。
【図7】本発明に係る検出部の第二実施形態を示す図である。
【図8】電極E1と接地間に±20V、1MHzの交流電界を印加した場合の鉛直方向の電界強度分布を示す図である。
【図9】同交流電界を印加した場合の斜め方向の電界強度分布を示す図である。
【図10】同交流電界を印加した場合の水平方向の電界強度分布を示す図である。
【図11】鉛直方向の電界強度の変化率(電界強度の二乗の傾き)分布を示す図である。
【図12】斜め方向の電界強度の変化率(電界強度の二乗の傾き)分布を示す図である。
【図13】水平方向の電界強度の変化率(電界強度の二乗の傾き)分布を示す図である。
【図14】鉛直方向、斜め方向、水平方向のそれぞれの距離(単位:μm)の電界強度データ(右)と電界強度二乗の微分の数値データ(左)を示す図面代用データ表である。
【図15】電極周辺の電界強度分布に係わる鉛直(Z)、水平(H)、斜め(R)の各方向の概念を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1,10 相互作用検出部(検出部)
2 反応領域
3 絶縁層
4,5 基板
6 スペーサ部材
7 接地部
8 インピーダンスマッチング回路
E1,E2,E3 電極
S スイッチ
V 電源
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質間の相互作用を検出する技術に関する。より詳しくは、電気力学的作用を利用して物質間の相互作用を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロアレイ技術によって所定のDNAが微細配列された、いわゆるDNAチップ又はDNAマイクロアレイ(以下、本願では「DNAチップ」と総称。)と呼ばれるバイオアッセイ用の集積基板が、遺伝子の変異解析、SNPs(一塩基多型)分析、遺伝子発現頻度解析等に利用されるようになり、創薬、臨床診断、薬理ジェノミクス、進化の研究、法医学その他の分野において広範囲に活用され始めている。
【0003】
この「DNAチップ」は、ガラス基板やシリコン基板上に多種・多数のDNAオリゴ鎖やcDNA(complementary DNA)等のヌクレオチド鎖が集積されていることから、ハイブリダイゼーションの網羅的解析が可能となる点が特徴とされている。その他、核酸分子以外の生体分子間の相互作用を検出するセンサーチップ(例えば、プロテインチップ)や検出装置が種々開発されている。
【0004】
ここで、所定の反応領域において、物質間の相互作用を進行させてこれを検出するアッセイ系において、電気泳動や誘電泳動などの電気的力学的効果を利用する技術が近年提案され始めている。以下、当該技術を例示する。
【0005】
まず、特許文献1には、鋳型基板上に固定された核酸プローブ鋳型鎖を用い、該鋳型鎖に沿って核酸プローブ鎖を合成し、この合成されたプローブを、電界を利用して別のアレイ基板上に固定することにより、簡易かつ低コストで核酸鎖固定化アレイを製造する技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、互いに着脱可能な本体部とフレームとから構成され、本体部の内側にはマトリックス状に多数のピン電極が突出され、このピン電極には異なる遺伝子配列から成るオリゴヌクレオチドを固定し、このピン電極と接触しないようにフレームの窪みに共通電極が配設し、共通電極とピン電極間に電圧を印加し、電流を検出して前記オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションにより得られた二本鎖DNAを検出する技術が開示されている。
【0007】
特許文献3には、検出用ヌクレオチド鎖と該検出用ヌクレオチド鎖と相補性のある塩基配列を備える標的ヌクレオチド鎖との間のハイブリダイゼーションの場となる反応領域が、前記検出用ヌクレオチド鎖を電界により伸長させながら、誘電泳動の作用によって走査電極の端部に固定できる構成とされたハイブリダイゼーション検出部が開示されている。
【特許文献1】特開2001−330608号公報。
【特許文献2】特開2001−242135号公報。
【特許文献3】特開2004−135512号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上掲した先行技術では、いずれも反応領域に対向配置された電極又は電極群を利用するものである。したがって、電界(電気力線)は、対向電極間で形成されるので、反応領域全体に所望の電気力学的効果を及ぶようにすることが難しいという技術的課題があった。
【0009】
また、DNAチップやプロテインチップなどのセンサーチップにおける反応領域は、一般に狭小であるので、対向配置関係にある電極あるいは電極群を設けると、(1)反応領域の構造がより複雑になる、(2)対向電極を形成するために反応領域の形態的制約が発生する、(3)チップ製造の工程数が増える、(4)電極への給電線の引き廻しも複雑化する、などの技術的課題があった。
【0010】
そこで、本発明は、電気力学的効果が反応領域全域で得られ、かつより構造が簡略な反応領域を備える相互作用検出部などを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、まず、物質間の相互作用の場を提供する反応領域と、該反応領域に臨設された同一の電位を持つ電極又は電極群と、を少なくとも備える相互作用検出部、並びに該相互作用検出部を少なくとも一つ備える構成のセンサーチップを提供する。前記電極又は電極群に印加する電界は、例えば、交流電界を採用することによって、誘電泳動などの所望の電気力学的効果を得る。
【0012】
また、電極や電極群の表面が凹凸形状を備える構成を採用することによって、凹凸形状の特に段差部位近傍に不均一電界を形成することができる。この不均一電界が形成された領域では、誘電泳動の作用を効果的に得ることができる。加えて、電極又は電極群の表面を絶縁層で覆うことによって、反応領域中に貯留される場合があるイオン溶液による電気化学的な反応を防止することができる。
【0013】
反応領域で進行させる前記相互作用は、狭く限定されないが、一例を挙げれば、誘電泳動の作用が、相互作用の効率や精度により良い効果を与えると考えられる核酸鎖間のハイブリダイゼーションを挙げることができる。
【0014】
次に本発明では、物質間の相互作用の場を提供する反応領域と、該反応領域に臨設された同一の電位を持つ電極又は電極群と、該電極又は電極群に対する電界印加手段と、を少なくとも備える相互作用検出装置を提供する。
【0015】
本装置を構成する前記電界印加手段は、例えば、電極又は電極群と接地部との間に交流電界を印加する手段を採用できる。また、この手段では、インピーダンスマッチング回路を介して高周波電界を印加することも可能である。
【0016】
本装置では、電界印加によって、前記反応領域に存在する物質に対して、誘電泳動などの電気力学的作用を加える。
【0017】
ここで、本発明に関連する主たる技術用語について説明する。
【0018】
「相互作用」とは、物質間の非共有結合、共有結合、水素結合を含む化学的結合あるいは解離を広く意味し、例えば、核酸分子間のハイブリダイゼーション、タンパク質間の相互作用、抗原抗体反応などの物質間の化学的結合あるいは解離を広く含む。なお、「ハイブリダイゼーション」は、相補的な塩基配列構造を備える間の相補鎖(二本鎖)形成反応を意味する。
【0019】
「核酸鎖」とは、プリンまたはピリミジン塩基と糖がグリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステルの重合体(ヌクレオチド鎖)を意味し、プローブDNAを含むオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、プリンヌクレオチドとピリミジンヌクレオチオドが重合したDNA(全長あるいはその断片)、逆転写により得られるcDNA(cプローブDNA)、RNA、ポリアミドヌクレオチド誘導体(PNA)等を広く含む。
【0020】
「反応領域」は、ハイブリダイゼーションなどの相互作用の場を提供できる領域であり、一例を挙げるなら、液相やゲルなどを貯留できるウエル形状を有する反応場である。
【0021】
「誘電泳動」は、電界が一様でない場において、分子が電界の強い方へ駆動する現象である。交流電圧をかけた場合も、かけた電圧の極性の反転につれて分極の極性も反転するので、直流の場合と同様に駆動効果が得られる(監修・林 輝、「マイクロマシンと材料技術(シーエムシー発行)」、P37〜P46・第5章・細胞およびDNAのマニピュレーション参照)。特に、高周波交流電界中においては、時間的平均電場の自乗の勾配に比例して双極子に力が働き、泳動する。
【0022】
例えば、核酸分子は、液相中において電界の作用を受けると伸長又は移動することが知られている。その原理は、骨格をなすリン酸イオン(陰電荷)とその周辺にある水がイオン化した水素原子(陽電荷)とによってイオン曇を作っていると考えられ、これらの陰電荷及び陽電荷により生じる分極ベクトル(双極子)が、高周波高電圧の印加により全体として一方向を向き、その結果として伸長し、加えて、不均一電界が印加された場合、電気力線が集中する部位に向かって移動する(Seiichi Suzuki,Takeshi Yamanashi,Shin-ichi Tazawa,Osamu Kurosawa and Masao Washizu:“Quantitative analysis on electrostatic orientation of DNA in stationary AC electric field using fluorescence anisotropy”,IEEE Transaction on Industrial Applications,Vol.34,No.1,P75-83(1998))。
【0023】
「センサーチップ」は、基板上の所定の反応領域において、物質間の相互作用を進行させ、該相互作用を検出するための基板を意味し、前記物質の種類に関係なく広く包含し、前記相互作用の検出原理は問わない。このセンサーチップには、DNAプローブなどの核酸鎖が固定化されて微細配列された状態とされたDNAチップ(DNAマイクロアレイ)やタンパク質間の相互作用や抗原抗体反応などの検出に適するプロテインチップなどを少なくとも含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、反応領域に対向配置された電極(即ち、対向電極)ではなく、同一の電位を持つ電極又は電極群が設けられた構成であることから、印加電界(電気力線)を電極の周辺全方位へ発散させることができる。即ち、反応領域全域に向かって、広範囲に電界(電気力線)を発散させることができるので、反応領域全体に電気的な勾配、あるいは不均一電界を形成できる。これにより、反応領域中に分散している物質を効率良く、かつ、より数多く、電極側へ電気力学的な泳動作用によって寄せ集めることができる。
【0025】
反応領域内に対向電極を形成する必要がないため、反応領域の形態的な制約も少なく、検出部の構造を簡略化できる。例えば、電界印加手段では、給電用の配線自体を、接地部はあらかじめシステム側に接続しておき、検出部への配線はハイブリダイゼーション反応領域の電極だけに接続すればよいため、検出装置としての構造も簡易化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる物や方法の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0027】
図1は、本発明に係る相互作用検出部(以下、「検出部」と略称。)として好適な第一実施形態の基本構成を説明する要部立体斜視図、図2は、その断面図、図3は、図2中のA-A線断面図である。
【0028】
まず、図1〜図3中に示された符号1は、本発明に係る検出部の好適な第一実施形態を示している。この検出部1には、図示されているように、溶液やゲルなどの媒質を貯留又は保持できるウエル形状(凹部形状)の反応領域2が設けられている。
【0029】
この反応領域2は、ハイブリダイゼーション等の物質間の相互作用の場を提供する領域又は空間として機能する。この反応領域2に貯留又は保持された媒質には、該反応領域2に臨むように形成された電極E1を介して、例えば、交流電界が印加される。
【0030】
ここで、前記電極E1は、アルミニウムや金などの金属、あるいはITO(インジウム−スズ−オキサイド)等の透明な導体で形成されており、本実施形態の例では、前記反応領域2の底面21の中央位置に配置されている。なお、電極E1の形成場所は、前記底面21に限定されず、例えば、上方側の基板5や後述するスペーサ6の位置に、反応領域2に臨むように形成してもよい。
【0031】
この電極E1は、図1〜図3に示されているように、SiO2、SiC、SiN、SiOC、SiOF、TiO2等から選択される材料によって形成された絶縁層3で覆うことが望ましい。反応領域2中に貯留される場合があるイオン溶液による電気化学的な反応を防止するためである。
【0032】
電極E1の表面は、DNAプローブ等の検出用物質Dが固定化される検出表面として機能させることができる。具体的には、予めプローブDNA等の検出用物質Dの末端を固定化できる表面処理を電極E1表面に施しておくことにようにする。
【0033】
検出用物質Dの固定は、電極E1の表面とプローブDNA(検出用物質Dの一例)の末端がカップリング反応等の反応によって行うことができる。例えば、ストレプトアビジンによって表面処理された電極表面の場合には、ビオチン化された検出用物質Dの末端の固定に適している。あるいは、チオール(SH)基によって表面処理された電極表面の場合には、チオール基が末端に修飾されたプローブDNA等の検出用物質Dをジスルフィド結合(−S−S−結合)で固定することに適している。
【0034】
なお、図1等に示された符号Dは、電極E1の表面に末端が固定されたDNAプローブに代表される検出用物質を、符号Tは、検出用物質Dと特異的な相互作用を示す標的物質を、それぞれ模式的に示している。また、図2、図3中に示す符号Wは、前記検出用物質Dと標的物質Tとの間の特異的な相互作用(例えば、ハイブリダイゼーション)によって形成された複合体(例、二本鎖核酸)を示している。
【0035】
図1から図4に示されている符号4、5は基板を示している。基板4は、例えば、光学的に反応領域内の記録情報(本願では相互作用情報)の読み取りが可能とされた光透過性の基板であり、例えば、石英ガラスやシリコン、ポリカーボネート、ポリスチレオレフィンやその他の合成樹脂によって形成されている。一方の符号5で示された基板は、反応領域2を閉塞する蓋として機能し、目的に応じて、基板4と同様の基材で形成してもよいし、光反射機能を有する材料で形成してもよい。
【0036】
図1などに示された符号6は、SiO2や合成樹脂などの絶縁材で形成されたスペーサ部材である。なお、このスペーサ部材6は、基板4や5と別体形成、一体形成のいずれでもよい。スペーサ部材6を基板4あるいは5と一体成形する場合は、公知の光ディスクマスタリング技術によって、ハイブリダイゼーションなどの相互作用の場を提供する役割を果たす反応領域2を形成することができる。
【0037】
続いて、上記電極E1と反応領域2外に設けられた接地部7との間では、スイッチSのオン/オフ操作によって、交流電源等の電源Vで電圧が印加可能な構成となっている(電界印加手段)。
【0038】
このような電界印加手段の構成では、狭小な反応領域2内に電極E1に対応する対向電極を作る必要は無くなるので、前記反応領域2の構造を簡略化できる。さらに、電界印加をする場合、配線自体も接地部はあらかじめシステム側に接続しておき、検出部への配線は反応領域2内の電極E1だけに接続すればよいので、検出(ハイブリダイゼーションおよび信号検出)装置としての構造も簡易化が可能である。
【0039】
スイッチSをオンにすると、電極E1近傍には電界が集中して、不均一電界を形成することができる。この不均一電界を生じさせるための好適な電極構造としては、特に図示しないが、電極E1の表面を、例えば、凹凸形状に粗面加工を施したり、島状になるようにパターニング形成したりすることによって、電界が、該電極E1の表面の凸部位(山状部位)に集中し易くすることが考えられる。
【0040】
このような構成では、凸部の角部、あるいは凹部の屈曲部などに、特に電界を集中させることができるので、電極E1の近傍領域において、誘電泳動の作用や効果をより確実に利用できる。なお、電極表面を粗面加工する方法は、例えば、公知のスパッタリング蒸着技術、エピキタシー蒸着技術やエッチング技術を用いて実施することができるが、特に限定されない。
【0041】
この不均一電界の作用によって、前記反応領域2中にランダムに分散して存在している物質を、誘電泳動などの電気力学的作用によって、電極E1側へ引き寄せることや、電界に沿った方向に伸張させることも可能となる。
【0042】
この印加する電界強度、周波数、印加時間は特に限定されるものではなく、電界印加対象の物質の種類、分子長等により、適正な電界強度、周波数、印加時間を選ぶことが望ましい。波形についても、サイン波に限定するものではなく、例えば、三角波等でもよい。
【0043】
実際に交流電界を印加する場合は、図3に示されているように、電極E1と電源Vの間にインピーダンスマッチング回路8を設けておき、インピーダンスの整合をとることにより、効率的に電力が投入できるようにすることが好ましい。
【0044】
図4には、インピーダンスマッチング回路8の回路構成の一例が簡略に示されている。インピーダンスマッチング回路8は、接地された電源Vと接地された検出部1との間に設けられ、各々接地されている二つの可変コンデンサ(Capacitor)C1,C2と、これらの可変コンデンサC1,C2の間に介在している中和素子であるインダクタンス中和回路(中和コイル)Lnと、を備える。
【0045】
可変コンデンサC1,C2は、電界印加するときに、静電容量を調整する役割を果たし、インダクタンス中和回路Lnは、インダクタンスを調整する役割を果たす。このような構成を用いて、電源(信号発生源)Vから出力される内部インピーダンスと電源の負荷インピーダンスをマッチング(整合)する。
【0046】
さらに、図5には、電界印加手段の好適な実施形態のより詳細な構成がブロック図的に示されている。
【0047】
接地された電源(即ち、信号発生源)Vから出力された信号は、該電源Vに接続されている増幅器(アンプ)81によって増大されて出力信号として取り出される。そして、この出力信号に係わる伝送波Wtは、符号82で示す方向性結合器(Directional Coupler)を介して、信号検出器(センサー)83に入って検出され、測定器84で出力電力が測定される。制御部85は、この測定値を監視する。
【0048】
また、末端の電極E1からの反射波Wrは、方向性結合器82を介して、信号検出器(センサー)86で検出され、測定器87で反射電力が測定される。制御部85は、この測定値を監視する。
【0049】
インピーダンスマッチング回路8は、前記測定値に基づいて制御部85から発せられた制御信号Cに基づいて、電源の内部インピーダンスZvの大きさと対向電極E1の負荷インピーダンスZeの大きさをそれぞれ調整し(図5参照)、これにより、両インピーダンスZv,Zeを整合してZv=Zeとする。具体的には、制御部85で測定された反射電力が最も小さくなるように、マッチング回路8内の容量成分あるいはインダクタンス成分を、例えば、モータ駆動により変化させることでインピーダンス自動調整が行われる。
【0050】
以上のインピーダンスマッチング手段によって、検出部1の反応領域2内に存在する物質、例えば、核酸分子に対する電気力学的作用を加える技術において、電源Gから対向電極E1へ投入される電力の損失低減が図られ、その投入電力が最大となる。
【0051】
また、反応領域2に対する投入電力(供給電力)の一定化(安定化)、さらには、高周波電界、交流電界、特に高周波交流電界を利用する場合に発生するパルス信号の波形乱れの抑制、投入電力の位相遅れなどの問題の原因となる電極E1からの反射波Wrの消去などを、確実に行うことができる。
【0052】
反応領域2中に、標的物質Tである核酸鎖が存在する場合を例に説明すれば、この核酸鎖は、誘電泳動という電気力学的作用を受けて、電界強度のよい強い電極E1の方へ泳動する。その結果、検出用物質Dとして機能するプローブDNAなどの核酸鎖が予め固定されている電極E1表面上に、標的の核酸鎖が集まって、ハイブリダイゼーションが効率よく進行する。
【0053】
即ち、前記誘電泳動により、標的となる核酸鎖を短時間で電極E1表面へ移動させ、その濃度を高めることにより、電極E1表面に固定された核酸鎖とのハイブリダイゼーション時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0054】
さらには、誘電泳動の作用によって、一本鎖の核酸鎖が伸張すると、ランダムコイル状態に丸まっているときと比較して、ハイブリダイゼーション時の立体障害が減少するので、ハイブリダイゼーションの効率を向上させることができる。
【0055】
なお、ハイブリダイゼーションの信号は、ダブルストランド(二本鎖核酸)に特異的に結合し発光するインターカレートからの光量を測定しても良いし、あらかじめターゲットDNAに結合させた蛍光色素からの発光量をハイブリダイゼーション後に余剰なDNAを除去した後に測定してもよい。あるいは、モレキュラービーコンを利用してハイブリダイゼーション反応に伴う発行量を測定してもよい。
【0056】
ここで、図6は、反応領域2へ電界が印加されている様子を電気力線で模式的に示した断面図(図2と共通の断面図)である。
【0057】
本発明に係る検出部1では、この図6に示されているように、対向電極を持たない電極E1から反応領域2の全域に向かって電界が形成されるため、誘電泳動などの所望の電気力学的作用を反応領域2の全域へ及ぼすことができる。
【0058】
即ち、反応領域2の全域に向かって、広範囲に電界(電気力線)を発散させることができるので、反応領域2の全体に電気的な勾配、あるいは不均一電界を形成できる。これにより、反応領域2中に分散している物質を効率良く、かつ、より数多く、電極E1側へ電気力学的な泳動作用によって寄せ集めることができる。
【0059】
図7は、本発明に係る検出部の第二実施形態を示す図である。この第二実施形態である検出部10は、反応領域2内に同一電位である三つの電極E1,E2,E3を備えている。同一電位の電極の数は、二つや三つ、あるいはそれ以上の数でもよく、複数の電極を基板4の上面などに種々のパターンで配設するのも自由である。
【0060】
ここで、直径100μm、高さ5μmの反応領域内に設けられた直径10μmの電極E1において、接地部を無限遠に想定し、電極E1と接地間に±20V、1MHzの交流電界を印加した場合の鉛直方向、斜め方向、水平方向のそれぞれの電界強度分布を図8、図9、図10に示し、また、鉛直方向、斜め方向、水平方向のそれぞれの電界強度の変化率(電界強度の二乗の傾き)分布を図11、図12、図13に示す。また、図14は、鉛直方向、斜め方向、水平方向のそれぞれの距離(単位:μm)の電界強度データ(右)と電界強度二乗の微分の数値データ(左)を示す図面代用データ表である。なお、図15は、電極周辺の電界強度分布に係わる鉛直(Z)、水平(H)、斜め(R)の各方向の概念を示す図である。
【0061】
これらの図面に表された結果から、反応領域内には電界が形成され、電極(E1)近傍では、その電界強度がより大きく、不均一電界が発生していることがわかる。なお、実際に交流電界を印加する場合は、上記したように、インピーダンスマッチングをとることにより、効率的に電力が投入できるようにすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、電気力学的作用を利用して、物質間の相互作用を効率良く、短時間で、高精度に検出するための技術として利用できる。DNAチップやプロテインチップなどに代表されるセンサーチップ技術や前記相互作用を検出するための装置として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る相互作用検出部(以下、「検出部」と略称。)として好適な第一実施形態の基本構成を説明する要部立体斜視図である。
【図2】同検出部の横方向断面図である。
【図3】図2中のA-A線断面図である。
【図4】インピーダンスマッチング回路(8)の回路構成の一例が簡略に示されている。
【図5】電界印加手段の好適な実施形態のより詳細な構成を示すブロック図である。
【図6】反応領域(2)へ電界が印加されている様子を電気力線で模式的に示した断面図(図2と共通の断面図)である。
【図7】本発明に係る検出部の第二実施形態を示す図である。
【図8】電極E1と接地間に±20V、1MHzの交流電界を印加した場合の鉛直方向の電界強度分布を示す図である。
【図9】同交流電界を印加した場合の斜め方向の電界強度分布を示す図である。
【図10】同交流電界を印加した場合の水平方向の電界強度分布を示す図である。
【図11】鉛直方向の電界強度の変化率(電界強度の二乗の傾き)分布を示す図である。
【図12】斜め方向の電界強度の変化率(電界強度の二乗の傾き)分布を示す図である。
【図13】水平方向の電界強度の変化率(電界強度の二乗の傾き)分布を示す図である。
【図14】鉛直方向、斜め方向、水平方向のそれぞれの距離(単位:μm)の電界強度データ(右)と電界強度二乗の微分の数値データ(左)を示す図面代用データ表である。
【図15】電極周辺の電界強度分布に係わる鉛直(Z)、水平(H)、斜め(R)の各方向の概念を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1,10 相互作用検出部(検出部)
2 反応領域
3 絶縁層
4,5 基板
6 スペーサ部材
7 接地部
8 インピーダンスマッチング回路
E1,E2,E3 電極
S スイッチ
V 電源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質間の相互作用の場を提供する反応領域と、該反応領域に臨設された同一の電位を持つ電極又は電極群と、を少なくとも備える相互作用検出部。
【請求項2】
前記電極又は電極群に交流電界が印加されることを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項3】
前記電極又は電極群の表面は凹凸形状を備えることを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項4】
前記電極又は電極群の表面は、絶縁層で覆われていることを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項5】
前記相互作用は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションであることを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項6】
請求項1記載の相互作用検出部が少なくとも一つ備えることを特徴とするセンサーチップ。
【請求項7】
物質間の相互作用の場を提供する反応領域と、
該反応領域に臨設された同一の電位を持つ電極又は電極群と、
該電極又は電極群に対する電界印加手段と、
を少なくとも備える相互作用検出装置。
【請求項8】
前記電界印加手段は、電極又は電極群と接地部との間に交流電界を印加する手段であることを特徴とする請求項7記載の相互作用検出装置。
【請求項9】
前記電界印加手段は、インピーダンスマッチング回路を介して高周波電界を印加することを特徴とする請求項7記載の相互作用検出部。
【請求項10】
電界印加により、前記反応領域に存在する物質に電気力学的作用を加えることを特徴とする請求項7記載の相互作用検出装置。
【請求項11】
前記電気力学的作用は、電気泳動及び/又は誘電泳動であることを特徴とする請求項9記載の相互作用検出装置。
【請求項1】
物質間の相互作用の場を提供する反応領域と、該反応領域に臨設された同一の電位を持つ電極又は電極群と、を少なくとも備える相互作用検出部。
【請求項2】
前記電極又は電極群に交流電界が印加されることを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項3】
前記電極又は電極群の表面は凹凸形状を備えることを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項4】
前記電極又は電極群の表面は、絶縁層で覆われていることを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項5】
前記相互作用は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションであることを特徴とする請求項1記載の相互作用検出部。
【請求項6】
請求項1記載の相互作用検出部が少なくとも一つ備えることを特徴とするセンサーチップ。
【請求項7】
物質間の相互作用の場を提供する反応領域と、
該反応領域に臨設された同一の電位を持つ電極又は電極群と、
該電極又は電極群に対する電界印加手段と、
を少なくとも備える相互作用検出装置。
【請求項8】
前記電界印加手段は、電極又は電極群と接地部との間に交流電界を印加する手段であることを特徴とする請求項7記載の相互作用検出装置。
【請求項9】
前記電界印加手段は、インピーダンスマッチング回路を介して高周波電界を印加することを特徴とする請求項7記載の相互作用検出部。
【請求項10】
電界印加により、前記反応領域に存在する物質に電気力学的作用を加えることを特徴とする請求項7記載の相互作用検出装置。
【請求項11】
前記電気力学的作用は、電気泳動及び/又は誘電泳動であることを特徴とする請求項9記載の相互作用検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−337273(P2006−337273A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164591(P2005−164591)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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