説明

同期制御装置と同期制御方法

【課題】
複数の駆動系を同期制御する汎用性のある手法を提供する。
【構成】
複数の駆動系を目標指令に従って動作させるため、第1の駆動系に対し第1の操作量を発生させ、第2の駆動系に対し第2の操作量を発生させる。第1の駆動系での目標指令からの誤差と、第2の駆動系での目標指令からの誤差との偏差に比例する同期制御用の操作量を発生させ、第1の操作量に同期制御用の操作量を加算し、第1の駆動系を制御する。また第2の操作量に同期制御用の操作量を加算し、第2の駆動系を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は複数の駆動系に対する同期制御に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の駆動系を同期制御することがある。例えば複数の駆動系により、対象物を姿勢を保ちながら移動させる、あるいは対象物を所定の軌跡に従って移動させる場合、駆動系への同期制御が必要である。2個のモータに対する同期制御について、特許文献1は、モータ間での回転位置の偏差を一方のモータ、例えばモータM2へフィードバックし、モータM2での目標位置からの誤差に対するゲインを小さくすることを記載している。そして2個のモータM1,M2が同じ対象物に取り付けられている場合、対象物の剛性等により、結果的にモータM1,M2が同期する。また特許文献2は、遅れている側のモータに合わせるように、進んでいる側のモータを制御することを記載している。
【0003】
特許文献1,2の同期制御は、2個のモータを同期させるための一般的な解決手法というよりは、特定の状況でのみ有効な個別的な解決手法というべきものである。発明者は複数個の駆動系を同期制御するための汎用性の有る手法を検討し、この発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】JP4323542B
【特許文献2】JP2002-362709A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、駆動系の特性等により制限されることなく、複数の駆動系間の制御誤差の偏差を小さくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、複数の駆動系を同期制御する同期制御装置において、
第1の駆動系を目標指令に従って動作させるための第1の操作量を発生させる第1の制御器と、
第2の駆動系を目標指令に従って動作させるための第2の操作量を発生させる第2の制御器と、
少なくとも、第1の駆動系での目標指令からの誤差と、第2の駆動系での目標指令からの誤差との偏差に比例する操作量を発生させる同期制御器と、
第1の操作量と同期制御器からの操作量とに基づき、第1の駆動系を制御する第1の制御手段と、
第2の操作量と同期制御器からの操作量とに基づき、第2の駆動系を制御する第2の制御手段とを備えていることを特徴とする。
【0007】
またこの発明は、複数の駆動系を同期制御する同期制御方法において、
第1の駆動系を目標指令に従って動作させるための第1の操作量を第1の制御器により発生させるステップと、
第2の駆動系を目標指令に従って動作させるための第2の操作量を第2の制御器により発生させるステップと、
第1の駆動系での目標指令からの誤差と、第2の駆動系での目標指令からの誤差との偏差に比例する操作量を、同期制御器により発生させるステップと、
第1の操作量と同期制御器からの操作量とに基づき、第1の駆動系を制御するステップと、
第2の操作量と同期制御器からの操作量とに基づき、第2の駆動系を制御するステップとを行うことを特徴とする。
【0008】
この発明では、駆動系等の種類を選ばない汎用の同期制御として、複数の駆動系間の制御誤差の偏差を小さくすることができる。また第1及び第2の操作量と、同期制御器からの操作量との割合により、個々の駆動系を目標値通りに制御することを優先するか、複数の駆動系間の同期を優先するかを調整できる。なおこの明細書において、同期制御装置に関する記載はそのまま同期制御方法にも当てはまり、逆に同期制御方法に関する記載はそのまま同期制御装置にも当てはまる。また「第1の操作量と同期制御器からの操作量とに基づき」等の記載は、例えばこれらの操作量の和を用いることを意味するが、これに限るものではない。駆動系は例えば電機モータであるが、これに限るものではない。
【0009】
好ましくは、前記同期制御装置は、前記偏差に比例する操作量と、偏差の時間微分値に比例する操作量とを、個別にもしくはこれらの和として、第1及び第2の制御手段側へ出力する。このようにすると、偏差に比例する操作量により偏差を解消し、偏差の時間微分値に比例する操作量により偏差の時間微分値を解消し、全体として偏差の絶対値を小さく保つことができる。
【0010】
特に好ましくは、前記第1の駆動系と前記第2の駆動系は同じ性能で、かつ対象物に対して対称に配置され、前記同期制御器から、第1の制御手段及び第2の制御手段に対して、正負の符号を逆転した操作量が入力される。正負の符号を逆転した操作量が入力されるとは、同期制御器で符号を逆転することの他に、第1の制御手段または第2の制御手段で符号を逆転することを含んでいる。第1の駆動系と第2の駆動系が同じ性能で、対象物に対して対称に配置されている場合、偏差を解消するための操作量を、第1の制御手段と第2の制御手段とで符号を逆にすればよい。言い換えると、1つの操作量を第1の制御手段でも第2の制御手段でも符号を変えて共通に用いるので、偏差を解消するための操作量の発生が簡単になる。

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例のブロック図
【図2】実施例の同期制御器のブロック図
【図3】実施例での同期制御を行列で表す図
【図4】複数の同期制御器を用いる変形例のブロック図
【図5】3個のモータを同期制御する変形例のブロック図
【図6】実施例の同期制御方法を示すフローチャート
【図7】実験でのモータの目標位置を示す図
【図8】図7の目標位置で、2番目のモータ側に外乱を与えた際の制御結果を示し、1)は2個のモータを同期制御した際の各モータの目標位置からの偏差を、2)は同期制御しなかった際の各モータの目標位置からの偏差を、3)はモータ間の偏差を示す。
【図9】2番目のモータに周期的な外乱を与えた際の制御結果を示し、2個のモータを同期制御した際の各モータの目標位置からの誤差と、同期制御しなかった際の各モータの目標位置からの誤差、及び同期制御した際としなかった際のモータ間の偏差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。この発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき、明細書の記載とこの分野での周知技術とを参酌し、当業者の理解に従って定められるべきである。
【実施例】
【0013】
図1〜図9に実施例とその変形とを示す。図1は、実施例の同期制御装置の構成を示し、M1,M2は制御対象のサーボ制御形のモータで、2は目標位置発生装置で、例えば時間の関数として2つの目標位置xr,yrを発生する。なおx,y,z等の記号は直交座標系等での座標を表すのではなく、モータM1側の位置をx、モータM2側の位置をyとして表している。また添字rは目標値であることを表している。ここでは目標位置xr,yrに従ってモータM1,M2が動作するように制御するが、目標位置ではなく目標速度又は目標トルクに従ってモータM1,M2が動作するように制御しても良い。加減算器20で目標位置xrと実際の位置xとの誤差exを求め、PID制御器4に入力して操作量としての出力uxを得る。同様に、加減算器21で目標位置yrと実際の位置yとの誤差eyを求め、PID制御器5に入力して操作量としての出力uyを得る。PID制御器4,5は良く知られたものであり、PD制御器等でも良く、制御の手法は任意である。また制御対象はモータに限らず、空気圧機器、油圧機器、内燃エンジン等でも良い。
【0014】
誤差ex、eyの偏差α(α=ex−ey)を加減算器30で求め、同期制御器10に入力して出力βを求め、加減算器40で出力uxと出力βを加算した操作量vxによりモータM1を制御する。同様に加減算器41で出力uxから出力βを減算した操作量vyによりモータM2を制御する。なお45はモータM1を制御する電流増幅器、46はモータM2を制御する電流増幅器である。また位置x,yはモータM1,M2のエンコーダ等により求めても、レーザ距離計等の位置センサ又はリニアスケールにより求めても良い。
【0015】
図2に同期制御器10の構造を示し、積分器32は偏差αを積分し、微分器33は偏差αを微分する。増幅器34で偏差αの積分値に比例する操作量を発生させ、増幅器35で偏差αに比例する操作量を発生させ、増幅器36で偏差αの微分値に比例する操作量を発生させる。加減算器37でこれらの出力を加算し、同期制御器10の出力βとする。また反転増幅器38でβの符号を逆転し、−βを出力する。なお実施例ではアナログ回路等で制御器10を実現するように説明しているが、これは説明を簡単にするためで、マイクロコンピュータ、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)等により、制御器10と加減算器20,21等を実現しても良い。また後述のように、積分器32と増幅器34は設けなくても良い。
【0016】
図2では、偏差αに対する積分と微分とを行っているが、最小限、増幅器35で偏差αに比例する出力を求め、好ましくは偏差αに比例する出力と偏差αの微分値に比例する出力とを加算する。最も好ましくは、偏差αに比例する出力と、微分値に比例する出力と、積分値に比例する出力とを加算する。また図1および図2で、PID制御器4、5の制御ゲインを大きくして同期制御器10のゲイン(すなわち増幅器34〜36のゲイン)を小さくすると、モータM1,M2の同期よりも、モータM1,M2が各々の目標位置xr,yrに忠実に動作することを重視する制御となる。逆に、PID制御器4、5の制御ゲインを小さくして同期制御器10のゲイン(すなわち増幅器34〜36のゲイン)を大きくすると同期を重視する制御となる。さらに増幅器34のゲインを大きくすると、モータM1,M2の出力間のオフセットを小さくでき、増幅器35のゲインを大きくすると、偏差αを解消するための比例制御が強くなる。また増幅器36のゲインを大きくすると、偏差αの変化率に基づく同期制御が強くなる。
【0017】
図3は実施例での制御を行列により表し、sはラプラス変換でのパラメータである。各行列での非対角項は、モータM1,M2の同期制御、即ち誤差ex,ey間の偏差αを小さくするための制御ゲインを表す。対角項は、モータM1,M2間の同期ではなく、誤差ex,ey自体を小さくするための制御ゲインを表す。またモータM1,M2が同じで、モータM1とモータM2とが対象物に対し対称に配置されている場合、各行列は対称行列として、Kpxy=Kpyx,
Kdxy=Kdyx とし、さらに Kixy=Kiyx=0 とすることが好ましい。Kixy=Kiyx=0とするのは、同じモータM1,M2が対象物に対し対称に配置されているので、両者間に何らかの定常的な外力が働かない限り、定常的な偏差(オフセット)は元々小さいからである。
【0018】
例えば、対象物の左右両側にそれぞれ第1、第2の部材が設けられ、モータM1が第1の部材を、モータM2が第2の部材を駆動し、対象物が所定の軌跡に沿って移動することが重要な場合がある。この場合、軌跡からの偏差に前記の偏差αが対応する。このような場合への変形例を図4に示す。なおこの場合、モータM1,M2は一般に同じモータではない。またモータM1,M2が対象物から受ける抗力、対象物の慣性等も共通ではないので、別個の同期制御器10,10'を設ける。さらに誤差ex,eyの大きさを適当に正規化するため、例えば増幅器24で誤差eyを増幅する。図4の変形例を図3行列により考えると、各行列は非対称行列で、各行列の4個の成分は全て異なる。他の点では、図4の変形例は図1,図2の実施例と同等である。
【0019】
図5は3個のモータM1,M2,M3を同期制御する変形例を示し、4個以上のモータを制御する場合も同様である。モータM1,M2は図1と同様に制御し、モータM3に対し、加減算器22で目標位置zrと実際の位置zとの偏差を求め、PID制御器6等の制御器により誤差ezを解消するように出力uzを発生させる。αxy=ex−ey,αyz=ey−ez,αzx=ez−exの3種類の偏差を解消するための出力βxy,βyz,βzxを同期制御器10,11,12で発生させる。出力βxy,βyz,βzxを加減算器40',41',42'で出力ux.uy,uzと加減算した操作量vx,vy,vzにより、電流増幅器45〜47を介してモータM1,M2,M3を制御する。なお同期制御器11,12の構造は同期制御器10と同様である。またモータM1,M2,M3が同じではない場合等は、図4で2個の同期制御器10,10'を設けているように、各同期制御器10,11,12に代えて各々2個の同期制御器を設け、かつ誤差ex,ey,ezの大きさを適当に正規化して偏差を求めると良い。
【0020】
図6に、図1,図2の実施例での同期制御方法を示す。ステップ1で、目標位置発生器から目標位置xr,yr等を出力する(ステップ1)。目標位置xr,yrは、動作の開始時から終了時までのデータを予め作成し、1制御周期毎にxr,yrを各1データずつ出力しても良い。あるいは各制御周期毎に、その都度、目標位置xr,yrを発生させても良い。また目標位置の代わりに目標速度又は目標トルクを出力しても良い。
【0021】
ステップ2で、目標位置xr,yrと実際の位置x,yとの誤差ex,eyに基づき、PID制御等により、操作量ux,uyを発生させる。そしてステップ3で、偏差α(α=ex-ey)に基づき、PD制御あるいは比例制御等により操作量βを発生させる。ux+βによりモータM1を、uy−βによりモータM2を制御する(ステップ4)。以上のステップを動作が終了するまで繰り返す(ステップ5)。
【0022】
図8に、図1の実施例による制御結果を示し、同じモータM1,M2により別々ではあるが同等の負荷を駆動した。図7の位置指令に従ってモータM1.M2を動作させ、モータM2にのみ外乱を加えた。同期制御器10を設けない際の制御結果を非同期制御とし、実施例での制御を同期制御とする。同期制御でも非同期制御でも、Kpxx=Kpyy=3.76,Kixx=Kipyy=5,Kdxx=Kdyy=0.135とした。同期制御では非対角項として、Kpxy=Kpyx=-1.23,Kdxy=Kdyx=-0.12,Kixy=Kiyx=0 とし、非同期制御では非対角項の値は全て0である。同期制御では偏差αの絶対値の最大値が非同期制御の場合の約2/3に減少し、モータM2側の誤差の絶対値の最大値も、非同期制御よりも小さくなった。
【0023】
図9の実験では、図8の実験に用いたのと同じ系で、モータM2のみに周期的な外乱(時刻1秒目〜8秒目)を加えた。制御ゲインは図8の場合と同一である。同期制御では、モータM1がモータM2に同期するように、言い換えるとモータM2と同じ誤差を持つように動作し、偏差は非同期制御よりも小さくなっている。
【0024】
実施例には以下の特徴がある。
1) 複数個のモータを同期制御できる。Kpxy,Kdxy等の同期制御用のゲインをチューニングすることにより、個々のモータを指令に忠実に動作させるか、複数個のモータ間の偏差を小さくするかを調整できる。
2) 制御の手法に汎用性があり、任意の対象に適用できる。
3) 3個以上のモータの同期制御にも容易に拡張できる。
4) 油圧、空気圧、内燃エンジン等のモータ以外の駆動系にも適用できる。
5) 同じ特性の2個のモータを対象物に対し対称に配置する場合、積分ゲインでの非対角項は0にでき、比例ゲインと微分ゲインでの非対角項は Kpxy=Kpyx,Kdxy=Kdyx と単純化できる。
6) PID制御器4,5,6等はPD制御器その他任意の制御器に変更でき、ベースとなる非同期制御の部分は制御方式を選ばない。

【符号の説明】
【0025】
2 目標位置発生器
4〜6 PID制御器
10〜12 同期制御器
20〜22 加減算器
24 増幅器
30,37 加減算器
32 積分器
33 微分器
34〜36 増幅器
38 反転増幅器
40,41 加減算器
40,41 加減算器
45〜47 電流増幅器

M1〜M3 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の駆動系を同期制御する同期制御装置において、
第1の駆動系を目標指令に従って動作させるための第1の操作量を発生させる第1の制御器と、
第2の駆動系を目標指令に従って動作させるための第2の操作量を発生させる第2の制御器と、
少なくとも、第1の駆動系での目標指令からの誤差と、第2の駆動系での目標指令からの誤差との偏差に比例する操作量を発生させる同期制御器と、
第1の操作量と同期制御器からの操作量とに基づき、第1の駆動系を制御する第1の制御手段と、
第2の操作量と同期制御器からの操作量とに基づき、第2の駆動系を制御する第2の制御手段とを備えていることを特徴とする、同期制御装置。
【請求項2】
前記同期制御器は、前記偏差に比例する操作量と、偏差の時間微分値に比例する操作量とを、個別にもしくはこれらの和として、第1及び第2の制御手段側へ出力することを特徴とする、請求項1の同期制御装置。
【請求項3】
前記第1の駆動系と前記第2の駆動系は同じ性能で、かつ対象物に対して対称に配置され、
前記同期制御器から、第1の制御手段及び第2の制御手段に対して、正負の符号を逆転した操作量が入力されることを特徴とする、請求項1または2の同期制御装置。
【請求項4】
複数の駆動系を同期制御する同期制御方法において、
第1の駆動系を目標指令に従って動作させるための第1の操作量を第1の制御器により発生させるステップと、
第2の駆動系を目標指令に従って動作させるための第2の操作量を第2の制御器により発生させるステップと、
第1の駆動系での目標指令からの誤差と、第2の駆動系での目標指令からの誤差との偏差に比例する操作量を、同期制御器により発生させるステップと、
第1の操作量と同期制御器からの操作量とに基づき、第1の駆動系を制御するステップと、
第2の操作量と同期制御器からの操作量とに基づき、第2の駆動系を制御するステップとを行うことを特徴とする、同期制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−175875(P2012−175875A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37939(P2011−37939)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(592199593)大同アミスター株式会社 (14)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】