説明

同軸ケーブルの位相調整機構及び位相調整方法

【課題】別途位相調整器を用意することなく、ケーブル単独で位相調整を行う。
【解決手段】ケーブルの長手方向の2箇所に外導体2の一部を剥離して絶縁体3を露出させる領域(以下、開口部と称する)S1,S2を設ける。開口部S1,S2は、中心同士の間隔がλ/4(λ:伝送される高周波信号の波長)と等しくなるように離間する。開口部S1,S2には、導体、誘電体、磁性体のいずれかを充填して、内部部材を保護する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸ケーブルを通過する高周波信号の位相を調整する同軸ケーブルの位相調整機構及び位相調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波伝送線路において、伝送する高周波の通過位相を任意に調整することが求められることがある。特に同軸ケーブルによる伝送線路では、一般的に同軸ケーブルの線路間に位相調整用の高周波部品(以下、位相調整器)を介在させ、この位相調整器によって伝送線路の電気長を変化させることで位相を調整するようにしている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記のように位相調整器を用いる方法では、その位相調整器を製作または購入しなければならず、さらにはケーブル線路途中に接続するため、開発費等のコストがかかり、接続作業の負担が増えるという問題が生じる。また、位相調整器によっては、ケーブルの径よりも寸法が大きくなるため、ケーブルの配線スペースの問題も発生する。
【特許文献1】特開2005−175792公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように従来の同軸ケーブルでは、単独で位相調整を行うことができず、位相調整器を製作または購入し、ケーブル線路途中に接続するため、開発費等のコストがかかり、接続作業の負担が増えるという問題が生じている。また、位相調整器によっては、ケーブルの径よりも寸法が大きくなるため、ケーブルの配線スペースの問題も発生している。
【0005】
本発明は上記事情によりなされたもので、別途位相調整器を用意することなく、ケーブル単独で位相調整を行うことができ、コストや作業面での問題を解消することのできる同軸ケーブルの位相調整機構及び位相調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明に係る同軸ケーブルの位相調整機構の一態様によれば、中心導体、絶縁体、外導体からなる同軸ケーブルに対し、前記外導体の長手方向の複数箇所を剥離して前記絶縁体部分を露出させるようにしたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る同軸ケーブルの位相調整方法の一態様によれば、中心導体、絶縁体、外導体からなる同軸ケーブルに対し、前記外導体の長手方向の複数箇所を剥離して前記絶縁体部分を露出させ、前記外導体の剥離部分の間隔を伝送信号の1/4波長に相当する距離とすることで、伝送信号の位相を調整するようにしたことを特徴とする。
【0008】
このような手段を講じることにより、同軸ケーブル単独で位相調整が行うことが可能となり、別途位相調整器を用意する必要がなくなった結果、コストや作業面での問題を解消することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、別途位相調整器を用意することなく、ケーブル単独で位相調整を行うことができ、コストや作業面での問題を解消することのできる同軸ケーブルの位相調整機構及び位相調整方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0011】
図1は本発明に係る位相調整機構を採用した同軸ケーブルの一実施形態を示すもので、(a)はケーブル断面図、(b)はケーブル斜視図である。図1に示す同軸ケーブルは、導体を材料とする中心導体1及び外導体2と、これらの間に絶縁体3を挟んだ構造である。本発明の実施形態は、ケーブルの長手方向の2箇所に外導体2の一部を剥離して絶縁体3を露出させる領域(以下、開口部と称する)S1,S2を設ける。開口部S1,S2は、中心同士の間隔Lがλ/4(λ:伝送される高周波信号の波長)と等しくなるように離間する。開口部S1,S2には、導体、誘電体、磁性体のいずれかを充填して、内部部材を保護する。
【0012】
ここで、上記開口部S1,S2は、パラメータΔt(幅)、Δd(深さ)、θ(軸周り角度)で定める。すなわち、Δdが外導体2の厚みより大きければ、剥離作業は絶縁体まで及ぶことになり、またθが360度となる場合は、同軸ケーブルの外周を全て剥離するという意味である。
【0013】
本発明の基本的な原理は、高周波伝送路におけるスタブ回路に基づく。スタブ回路は、インダクタンスまたはキャパシタンスを回路に直列又は並列に接続することで回路特性を変化させる役割を持つ。図2及び図3に同軸線路の等価回路を示す。図2は一般的な同軸ケーブルの等価回路図であり、同軸ケーブルを図2(a)に示すようにA〜Eに区切ったとすると、各区分において、図2(b)に示すように、抵抗RとインダクタンスLが直列に、キャパシタンスCが並列に接続されていることになる。このとき、本発明に従い、区分B,Dの2箇所に開口部S1,S2を設けると、この部分の線路インピーダンスが変わる。具体的には、図4に示すように、開口部S1,S2の区間B,Dでは、インダクタンスLとキャパシタンスCが変位し、この部分に誘導性、もしくは容量性が発生し、位相が変位する(L′及びC′)。
【0014】
尚、開口部が1箇所の場合は、特性インピーダンスがその開口部で変化するため、線路インピーダンスの不整合が生じてVSWRが悪化し、挿入損失が劣化する。これに対し、本発明では開口部をλ/4あけて2箇所設けることで、反射波を抑制できるため、損失は無視できるほど小さい。
【0015】
図4は本発明が適用された同軸ケーブルを示す外観図で、(a)は加工前、(b)は加工後を示している。図4において、同軸ケーブル11は、中心導体、絶縁体、外導体からなり、その両端部には高周波コネクタ12,13が装着されている。このような同軸ケーブル11において、任意の箇所(図では中央部)に、長手方向に伝送信号のλ/4に相当する間隔をあけて開口部S1,S2を形成する。開口部S1,S2の形成(外導体の剥離)によって絶縁体が露出した部分には、例えば誘電体を充填しておく。
【0016】
上記同軸ケーブルにおいて、開口部S1,S2の加工前と加工後で伝送信号の通過移相量を測定したところ、図5に示すような結果が得られた。このように、開口部S1,S2を設けることにより、位相変位を生じさせることができる。
【0017】
したがって、本発明の位相調整機構によれば、開口部を同軸ケーブルに設けるという、ケーブルへの直接的な加工により、位相調整器を用いることなく、安価で簡易的に位相を変化させることができる。また、実施形態で示したように、パラメータを変化させることにより位相変位量は自由に設定できる。また、開口部を線路方向に多段に設置することで、より大きな位相変位を与えることも可能である。
【0018】
なお、本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。さらに、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る位相調整機構を採用した同軸ケーブルの一実施形態を示す断面図及び斜視図。
【図2】一般的な同軸ケーブルの等価回路図。
【図3】図1に示す実施形態の同軸ケーブルの等価回路図。
【図4】本発明による加工前後の同軸ケーブルを示す外観図。
【図5】図4の同軸ケーブル加工前後の伝送信号の位相変化示す波形図。
【符号の説明】
【0020】
1…中心導体、2…外導体、3…絶縁体、S1,S2…開口部、Δt…開口部の幅、Δd…開口部の深さ、θ…開口部の軸周り角度、11…同軸ケーブル、12,13…高周波コネクタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体、絶縁体、外導体からなる同軸ケーブルに対し、前記外導体の長手方向の複数箇所を剥離して前記絶縁体部分を露出させるようにしたことを特徴とする同軸ケーブルの位相調整機構。
【請求項2】
前記外導体の剥離部分の間隔を伝送信号の1/4波長に相当する距離としたことを特徴とする請求項1記載の同軸ケーブルの位相調整機構。
【請求項3】
前記外導体の剥離部分に導体、誘電体、磁性体のいずれかを充填することを特徴とする請求項1記載の同軸ケーブルの位相調整機構。
【請求項4】
中心導体、絶縁体、外導体からなる同軸ケーブルに対し、前記外導体の長手方向の複数箇所を剥離して前記絶縁体部分を露出させ、前記外導体の剥離部分の間隔を伝送信号の1/4波長に相当する距離とすることで、伝送信号の位相を調整するようにしたことを特徴とする同軸ケーブルの位相調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−224044(P2009−224044A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64236(P2008−64236)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】