説明

含フッ素エラストマーの製造方法および該製造方法により得られる含フッ素エラストマー

【課題】本発明は、特定のCSMの添加時期を制限することで、圧縮永久歪み、耐熱性、応力緩和などの物性が優れる含フッ素エラストマーの製造方法を提供する。さらに、この方法によって製造した含フッ素エラストマーおよび成形品を提供する。
【解決手段】該製造方法は、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和化合物と、一般式(1):
CY=CY (1)
(式中、Y、Yはフッ素原子、水素原子または−CH;Rはエーテル結合性酸素原子を有していてもよく水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐状の含フッ素アルキレン基;Xはヨウ素原子または臭素原子)
で示される化合物とを共重合させる含フッ素エラストマーの製造方法であって、
一般式(1)で示される化合物の添加を、重合開始剤添加後に重合系内に添加する前記エチレン性不飽和化合物の全添加量の0〜10重量%を添加した時期に開始することを特徴とする含フッ素エラストマーの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のキュアサイトモノマー(以下、CSMとする)を用いた含フッ素エラストマーの製造方法に関する。さらに、この方法によって製造した含フッ素エラストマー、および該含フッ素エラストマーを架橋して得られる、耐圧縮永久歪み、耐熱性および応力緩和挙動に優れる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン(VdF−HFP)系やテトラフルオロエチレン(TFE)−パーフルオロビニルエーテル系の含フッ素エラストマーは、それらの卓抜した耐薬品性、耐溶剤性、耐熱性を示すことから、過酷な環境下で使用されるO−リング、ガスケット、ホース、ステムシール、シャフトシール、ダイヤフラムなどとして自動車工業、半導体工業、化学工業などの分野において広く用いられている。
【0003】
こうした用途に用いられる含フッ素エラストマーとしては、分子末端に高活性のヨウ素原子などの架橋部位を有する含フッ素エラストマーがある。この分子末端に架橋部位を有する含フッ素エラストマーは、分子末端の架橋部位により良好な架橋効率が可能であり、架橋性に優れている。また、金属成分をもつ化学物質を添加する必要がないことから、パーオキサイド加硫成形品としても広く用いられている。
【0004】
パーオキサイド加硫系(たとえば、特開昭53−125491号公報参照)は、耐薬品性、および耐スチーム(熱水)性に優れているが、耐圧縮永久歪みは、ポリオール加硫系と比べて劣っていた。この問題は、エラストマー主鎖中に、架橋部位を導入することで解決されている(たとえば、特開昭62−12734号公報参照)。しかし、耐圧縮永久歪みおよび引張破断伸びの両者をバランスよく兼ね備える点でさらなる向上が望まれている。
【0005】
架橋部位を導入する方法としては、通常、架橋部位を有するCSMを共重合させる方法、いわゆるヨウ素移動重合法などの乳化重合法により製造する方法(たとえば、特公昭63−41928号公報参照)が提案されている。しかし、ヨウ素移動重合法においては、高い末端ヨウ素化率を達成するためには重合開始剤の使用量を抑える必要があり(たとえば、建元 正祥 P19、86/6 ミクロシンポジウム、ラジカル重合におけるポリマーの構造規制、高分子学会(1986)参照)、その分、生産性を上げることができないという問題があった。重合開始剤の使用量の制約がない重合系では開始剤量を増やすことで容易に重合速度を大きくすることが可能であるが、ヨウ素移動重合系では開始剤末端濃度が最終製品の物性に大きな影響を与えるため開始剤使用量の増大は望めない。
【0006】
これらを解決するために、ヨウ素移動重合を二段階の乳化重合法で生成することが提案されている(たとえば、国際公開第00/01741号パンフレット参照)。2段階の乳化重合とは、一段目の重合で比較的多量の乳化剤を使用して多数のポリマー粒子を合成し、ついで得られた乳濁液を希釈してポリマー粒子濃度および乳化剤濃度を下げ、この希釈乳濁液を用いて二段目の重合を行なう方法である。この方法では、今までの乳化重合用の設備を大きく変えることなく、均一な粒径でかつ本来の特性を維持したまま、重合速度を2倍以上短縮可能にしたが、依然として生産性が劣っているものであった。
【0007】
また、CSMを用いる場合は、添加量を増加すると、架橋密度が上がるため、耐熱性、圧縮永久歪みが優れるものの、引張破断伸びなどの物性は低下するなどの問題があった。
【0008】
CSMを用いた製造方法である米国特許第6646077号明細書では、重合の際、追加で添加するモノマーの添加量が0〜50%の間で、RIで示される連鎖移動剤を添加し、追加で添加するモノマーの添加量が10〜90%の間で、CSMの添加を開始する含フッ素エラストマーの製造方法が提案されている。しかし、添加開始が追添加モノマーの添加量10%未満で行うと重合がほとんど進まない、もしくは重合が止まってしまうという、生産性の著しい低下が記載されている。またこの方法で得られる含フッ素モノマーは、CSMの添加時期が制約されるため、耐圧縮永久歪みおよび引張破断伸びの両者を兼ね備えた性能の改善が充分ではないという問題が存在していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特定のCSMの添加を開始する時期を制限することで、圧縮永久歪み、引張破断伸び、耐熱性、応力緩和などの諸物性が優れる成形品とすることができる含フッ素エラストマーの製造方法を提供する。さらに、この方法によって製造した含フッ素エラストマー、該含フッ素エラストマーを含む組成物および該組成物を架橋して得られる成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和化合物と、一般式(1):
CY=CY (1)
(式中、Y、Yはフッ素原子、水素原子または−CH;Rはエーテル結合性酸素原子を有していてもよく水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐状の含フッ素アルキレン基;Xはヨウ素原子または臭素原子)
で示される化合物とを共重合させる含フッ素エラストマーの製造方法であって、
一般式(1)で示される化合物の添加を、重合開始剤添加後(重合開始後)に重合系内に添加(追加)する前記エチレン性不飽和化合物の全添加(追加)量の0〜10重量%を添加した時期に開始することを特徴とする含フッ素エラストマーの製造方法に関する。
【0011】
一般式(1)で示される化合物の添加を、重合開始剤添加後(重合開始後)に重合系内に添加(追加)するエチレン性不飽和化合物の全添加(追加)量の0〜20重量%を添加した時期に終了することが好ましい。
【0012】
一般式(1)で示される化合物が、
CF=CFOCFCFCH
であることが好ましい。
【0013】
フルオロオレフィンが、一般式(2):
CX=CX (2)
(X〜Xは、水素原子またはハロゲン原子;Xは、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたエーテル結合性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜9の含フッ素アルキル基、または水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたエーテル結合性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜9の含フッ素アルコキシ基;ただし、X〜Xの少なくとも1つはフッ素原子、含フッ素アルキル基または含フッ素アルコキシ基である)
で示される化合物であることが好ましい。
【0014】
フルオロオレフィンが、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ビニルフルオライド、ヘキサフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類、ポリフルオロジエン類、および一般式(3):
【化1】

(式中Yは、−CHI、−OH、−COOH、−SOF、−SOM(Mは水素原子、NHまたはアルカリ金属原子)、カルボン酸塩、カルボキシエステル基、エポキシ基、シアノ基、ヨウ素原子;XおよびXは同じかまたは異なりいずれも水素原子またはフッ素原子;Rはエーテル結合性酸素原子を含んでもよい炭素数1〜40の2価の含フッ素アルキレン基;nは0または1;ただし、前記一般式(1)と同一のものは除く)
からなる群から選択された化合物を含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明は、前記製造方法により得られる含フッ素エラストマーに関する。
【0016】
さらに、本発明は、前記含フッ素エラストマーを含む架橋性組成物および該架橋性組成物を架橋して得られる成形品に関する。
【0017】
さらにまた本発明は、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和化合物と、一般式(1):
CY=CY (1)
(式中、Y、Yはフッ素原子、水素原子または−CH;Rはエーテル結合性酸素原子を有していてもよく水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐状の含フッ素アルキレン基;Xはヨウ素原子または臭素原子)
で示される化合物とを共重合させて得られる含フッ素エラストマーであって、絶対重量分子量および固有粘度を横軸が絶対重量分子量で縦軸が固有粘度であるマーク−ハウィン(Mark−Houwink)プロットにプロットしたときのマーク−ハウィン勾配aが0.46以下である新規な含フッ素エラストマーにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1、実施例2および比較例1で得られた含フッ素エラストマーのマーク−ハウィンプロットである。マーク−ハウィン勾配aが実施例1および2では0.46以下であり、比較例1では0.46を超えていることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和化合物と、一般式(1):
CY=CY (1)
(式中、Y、Yはフッ素原子、水素原子または−CH;Rはエーテル結合性酸素原子を有していてもよく水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐状の含フッ素アルキレン基;Xはヨウ素原子または臭素原子)
で示される化合物とを共重合させる含フッ素エラストマーの製造方法であって、
一般式(1)で示される化合物の添加を、重合開始剤添加後に重合系内に添加する前記エチレン性不飽和化合物の全添加量、すなわち重合開始剤を添加して重合を開始した後に重合系内に追加導入する前記エチレン性不飽和化合物の全量(以下、「全追加量」という)の0〜10重量%を添加(追加)した時期に開始することを特徴とする含フッ素エラストマーの製造方法に関する。
【0020】
本発明の製造方法は、一般式(1)で示される化合物の添加を、前記エチレン性不飽和化合物の全追加量の0〜10重量%を追加した時期に開始することにより、主鎖と側鎖の分子長さがほぼ同等となり、架橋点間距離の分布が均一となるため、圧縮永久歪み、耐熱性、引張破断伸びに優れる成形品を得ることができる含フッ素エラストマーを製造することができる。
【0021】
本発明においては、一般式(1)で示される化合物の添加を、前記エチレン性不飽和化合物の全追加量の0〜10重量%を追加した時期に開始するものであり、好ましくは0〜8重量%を追加した時期、さらに好ましくは0〜5重量%を追加した時期である。添加開始の時期が、エチレン性不飽和化合物の全追加量の10重量%をこえる時期であると、主鎖分子の成長のみが先行して起こり、主鎖と側鎖の分子長さが不均一となって、架橋点間距離の分布の均一性が低下する傾向がある。ここで、前記エチレン性不飽和化合物の全追加量の0重量%を追加した時期に開始するとは、一般式(1)で示される化合物を重合開始剤の添加の前にあらかじめ、または重合開始剤の添加と同時に、さらには重合開始後で前記エチレン性不飽和化合物の追加時までに重合系に供給しておき、その後前記エチレン性不飽和化合物の追加を開始することをいう。重合開始剤の添加と同時に(全追加量の0重量%の時期)一般式(1)で示される化合物の添加を開始することが特に好ましい。
【0022】
一般式(1)で示される化合物の添加方法としては、特に限定されるものではなく、一括添加、二分割、三分割など数回に分けて添加してもよく、連続的に添加してもよい。
【0023】
一般式(1)で示される化合物の添加の終了時期としては、とくに限定されるものではないが、エチレン性不飽和化合物の全追加量の0〜20重量%を追加した時期であることが好ましく、0〜10重量%を追加した時期であることがより好ましい。20重量%追加した時期より後であると主鎖分子のみの成長が進行しており、架橋点間距離の分布の均一性が低下する傾向がある。ここで、前記エチレン性不飽和化合物の全追加量の0重量%を追加した時期に終了するとは、一般式(1)で示される化合物を重合開始剤の添加の前にあらかじめ、または重合開始剤の添加と同時に、さらには重合開始後で前記エチレン性不飽和化合物の追加時までに重合系に一括供給しておき、その後前記エチレン性不飽和化合物の添加を開始することをいう。
【0024】
ここで本発明の製造方法では、通常、重合系に前記エチレン性不飽和化合物をあらかじめ仕込み、重合開始剤を添加して重合を開始し、前記の時期に前記エチレン性不飽和化合物の追加および一般式(1)で示される化合物の添加を行い重合を継続する方法が採用できる。エチレン性不飽和化合物の追加方法としては、特に限定されるものではなく、一括添加、二分割、三分割など数回に分けて添加してもよく、連続的に添加してもよい。
【0025】
なお、より具体的な重合方法については、ヨウ素移動重合法に代表させて後述する。
【0026】
一般式(1)で示される化合物の添加量としては、含フッ素エラストマー100重量部に対して、0.3〜5.0重量部であることが好ましく、0.5〜1.5重量部であることがより好ましい。
【0027】
本発明で用いる一般式(1):
CY=CY (1)
(式中、Y、Yはフッ素原子、水素原子または−CH;Rはエーテル結合性酸素原子を有していてもよく水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐状の含フッ素アルキレン基;Xはヨウ素原子または臭素原子)
で示される化合物としては、たとえば、一般式(4):
CY=CYCHR−X (4)
(式中、Y、Y、Xは前記同様であり、Rは1個以上のエーテル型酸素原子を有していてもよく水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐鎖状の含フッ素アルキレン基、すなわち水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐鎖状の含フッ素アルキレン基、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐鎖状の含フッ素オキシアルキレン基、または水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐鎖状の含フッ素ポリオキシアルキレン基;Rは水素原子またはメチル基)
で示されるヨウ素含有単量体、臭素含有単量体、一般式(5)〜(22):
CY=CY(CF−X (5)
(式中、Yは水素原子またはフッ素原子、nは1〜8の整数)
CF=CFCF−X (6)
(式中、
【0028】
【化2】

【0029】
であり、nは0〜5の整数)
CF=CFCF(OCF(CF)CF
(OCHCFCFOCHCF−X (7)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数)
CF=CFCF(OCHCFCF
(OCF(CF)CFOCF(CF)−X (8)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数)
CF=CF(OCFCF(CF))O(CF−X (9)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜8の整数)
CF=CF(OCFCF(CF))−X (10)
(式中、mは1〜5の整数)
CF=CFOCF(CF(CF)OCFCF(−X)CF(11)
(式中、nは1〜4の整数)
CF=CFO(CFOCF(CF)−X (12)
(式中、nは2〜5の整数)
CF=CFO(CF−(C)−X (13)
(式中、nは1〜6の整数)
CF=CF(OCFCF(CF))OCFCF(CF)−X (14)
(式中、nは1〜2の整数)
CH=CFCFO(CF(CF)CFO)CF(CF)−X (15)
(式中、nは0〜5の整数)、
CF=CFO(CFCF(CF)O)(CF−X (16)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜3の整数)
CH=CFCFOCF(CF)OCF(CF)−X (17)
CH=CFCFOCHCF−X (18)
CF=CFO(CFCF(CF)O)CFCF(CF)−X (19)
(式中、mは0以上の整数)
CF=CFOCF(CF)CFO(CF−X (20)
(式中、nは1以上の整数)
CF=CFOCFOCFCF(CF)OCF−X (21)
CH=CH−(CF (22)
(式中、nは2〜8の整数)
(一般式(5)〜(22)中、Xは前記と同様)
で表されるヨウ素含有単量体、臭素含有単量体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0030】
一般式(4)で示されるヨウ素含有単量体または臭素含有単量体としては、一般式(23):
【0031】
【化3】

【0032】
(式中、mは1〜5の整数であり、nは0〜3の整数)
で表されるヨウ素含有含フッ素化ビニルエーテルが好ましくあげられ、より具体的には、
【0033】
【化4】

【0034】
などがあげられるが、これらの中でも、ICHCFCFOCF=CFが好ましい。
【0035】
一般式(5)で示されるヨウ素含有単量体または臭素含有単量体としてより具体的には、ICFCFCF=CH、I(CFCFCF=CHが好ましくあげられる。
【0036】
一般式(9)で示されるヨウ素含有単量体または臭素含有単量体としてより具体的には、I(CFCFOCF=CFが好ましくあげられる。
【0037】
一般式(22)で示されるヨウ素含有単量体または臭素含有単量体としてより具体的には、CH=CHCFCFI、I(CFCFCH=CHが好ましくあげられる。
【0038】
また、前記一般式(4)〜(22)で示される化合物のXをシアノ基(−CN基)、カルボキシル基(−COOH基)またはアルコキシカルボニル基(−COOR基、Rは炭素数1〜10のフッ素原子を含んでいてもよいアルキル基)に変えた単量体を、一般式(1)で示される化合物と共に用いてもよい。
【0039】
本発明の製造方法としては、とくに限定されるものではないが、架橋点間距離の分布を均一に近付けることが比較的容易であるという点から、ヨウ素移動重合法であることが好ましい。
【0040】
以下、ヨウ素移動重合について説明するが、この方法に限定されるものではない。
【0041】
本発明に使用する反応槽は、加圧下に重合を行なう場合は耐圧容器を使用することが好ましく、特に高圧下でない場合は、反応槽は特に限定されず、通常のエラストマー製造時に用いられる反応槽を用いることができる。この反応槽内に乳化重合用の目的とするポリマー(含フッ素エラストマー)と同じ組成のポリマー粒子を含む水性媒体(通常は純水)を入れ、液相部分とする。
【0042】
反応槽はこの液相部分と気相部分とから構成されており、気相部分を窒素などで置換したのち重合性モノマー(エチレン性不飽和化合物)を導入する。ついで反応槽内、とくに液相部分を攪拌して重合性モノマーを気相部分から液相部分に供給する。液相部分に供給されたモノマーはポリマー粒子中に浸透し、ポリマー粒子内の重合性モノマー濃度を上げる。気相部分にモノマーを供給しつづけることにより、ポリマー粒子中のモノマー濃度が飽和状態となる(液相部分へのモノマー供給速度が平衡状態になるとも言える)ので、重合開始剤とヨウ素化合物を投入して重合を開始する。
【0043】
重合を継続していくとモノマーが消費され、生成ポリマー粒子中のモノマー濃度が低下していくため、ポリマー粒子中に常にモノマー(追加モノマー)を供給し続ける。
【0044】
追加モノマーの比率は、追加されるモノマーおよび目的とするポリマーの組成によるが、重合初期の反応槽内モノマー組成を一定に保つ比率であることが好ましい。
【0045】
また、本発明においては、一般式(1)で示される化合物の添加を前記時期に添加するものである。
【0046】
本発明において、重合時の温度および圧力については特に限定されるものではなく、モノマーの種類、一般式(1)で示される化合物の種類などにより適宜選択されるが、重合温度としては、10〜140℃であることが好ましく、30〜100℃であることがより好ましく、重合圧力としては、0.1〜15MPaであることが好ましく、3〜12MPaであることがより好ましい。重合温度が10℃未満であるとポリマー粒子中のモノマー濃度が飽和に達せず重合速度が低下するだけでなく目的のポリマーが得られにくい傾向がある。圧力の上限値は、特に限定はないが、モノマーの取扱いや、反応設備コストなどを考慮すると15MPa以下が好ましく、12MPa以下であることがより好ましい。さらに、攪拌することが好ましい。攪拌することによって、ポリマー粒子中のモノマー濃度を、重合を通して高く維持できるためである。攪拌の手段としては、たとえばアンカー翼、タービン翼、傾斜翼なども使用できるが、モノマーの拡散とポリマーの分散安定性が良好な点からフルゾーンやマックスブレンドと呼ばれる大型翼による攪拌が好ましい。
【0047】
攪拌装置としては、横型攪拌装置でも縦型攪拌装置でもよい。
【0048】
反応系は、実質的にモノマー相部分を有する。ここで、実質的にモノマー相を有するとは、重合容器の体積に対して、水などの媒体が占める体積が90%以下の状態で重合を行うことを示し、好ましくは80%以下である。体積が90%を超えると、モノマーが媒体に供給されにくく、重合速度が低下する、あるいはポリマー物性が悪化する傾向がある。
【0049】
ヨウ素化合物としては、一般式(24):
・I (24)
で示されるヨウ素化合物があげられる。式中、Rは、炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基であり、炭素数4〜8のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。炭素数が16をこえると、反応性が低下する傾向がある。
【0050】
一般式(24)で示されるヨウ素化合物のxは、Rの結合手の数であって、1〜4の整数であり、2〜3の整数であることが好ましい。xが4をこえても使用可能であるが、合成コストの点では好ましくない。
【0051】
このヨウ素化合物の炭素−ヨウ素結合は、比較的弱い結合であって、ラジカル発生源の存在下にラジカルとして開裂する。生じたラジカルの反応性が高いために、モノマーが付加成長反応を起こし、しかる後にヨウ素化合物からヨウ素を引き抜くことにより反応を停止する。このようにして得られた分子末端の炭素にヨウ素が結合している含フッ素エラストマーは、末端ヨウ素が有効な架橋点となり効率的に架橋できる。
【0052】
一般式(24)で示されるヨウ素化合物としては、モノヨードパーフルオロメタン、モノヨードパーフルオロエタン、モノヨードパーフルオロプロパン、モノヨードパーフルオロブタン〔たとえば、2−ヨードパーフルオロブタン、1−ヨードパーフルオロ(1,1−ジメチルエタン)〕、モノヨードパーフルオロペンタン〔たとえば1−ヨードパールフオロ(4−メチルブタン)〕、1−ヨードパーフルオロ−n−オクタン、モノヨードパーフルオロシクロブタン、モノヨードパーフルオロシクロヘキサン、モノヨードトリフルオロシクロブタン、モノヨードジフルオロメタン、モノヨードモノフルオロメタン、2−ヨード−1−ハイドロパーフルオロエタン、3−ヨード−1−ハイドロパーフルオロプロパン、モノヨードモノクロロジフルオロメタン、モノヨードジクロロモノフルオロメタン、2−ヨード−1,2−ジクロロ−1,1,2−トリフルオロエタン、4−ヨード−1,2−ジクロロパーフルオロブタン、6−ヨード−1,2−ジクロロパーフルオロヘキサン、4−ヨード−1,2,4−トリクロロパーフルオロブタン、1−ヨード−2,2−ジハイドロパーフルオロプロパン、1−ヨード−2−ハイドロパーフルオロプロパン、モノヨードトリフルオロエチレン、3−ヨードパーフルオロプロペン−1、4−ヨードパーフルオロペンテン−1、4−ヨード−5−クロロパーフルオロペンテン−1、2−ヨードパーフルオロ(1−シクロブテニルエタン)、1,3−ジヨードパーフルオロプロパン、1,4−ジヨードパーフルオロ−n−ブタン、1,3−ジヨード−2−クロロパーフルオロプロパン、1,5−ジヨード−2,4−ジクロロパーフルオロ−n−ペンタン、1,7−ジヨードパーフルオロ−n−オクタン、1,2−ジ(ヨードジフルオロメチル)パーフルオロシクロブタン、2−ヨード−1,1,1−トリフルオロエタン、1−ヨード−1−ハイドロパーフルオロ(2−メチルエタン)、2−ヨード−2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン、2−ヨード−2−クロロ−1,1,1−トリフルオロエタンなどがあげられる。さらに、Rの炭化水素基には、エーテル結合性酸素原子、チオエーテル結合性硫黄原子、カルボキシル基などの官能基を含んでいてもよく、2−ヨードパーフルオロ(エチルビニルエーテル)、2−ヨードパーフルオロ(エチルイソプロピルエーテル)、3−ヨード−2−クロロパーフルオロ(ブチルメチルチオエーテル)、3−ヨード−4−クロロパーフルオロ酪酸などをあげることができる。
【0053】
これらの中でも、合成の容易さ、反応性、経済性、安定性の点で、1,4−ジヨードパーフルオロ−n−ブタンが好ましい。
【0054】
ヨウ素化合物の添加量は、含フッ素エラストマーに対して、0.05〜2.0重量%であることが好ましい。添加量が、0.05重量%未満であると、架橋が不充分となり、圧縮永久歪み(CS)が悪化する傾向があり、2.0重量%をこえると、架橋密度が上がり過ぎるために、伸びなどのゴムとしての性能を損なう傾向がある。
【0055】
ヨウ素化合物の添加は、重合初期に一括で添加してもよく、また数回に分けて添加してもよい。
【0056】
本発明で用いられるフルオロオレフィンとしては、一般式(2):
CX=CX (2)
(X〜Xは、水素原子またはハロゲン原子;Xは、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたエーテル結合性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜9の含フッ素アルキル基、または水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたエーテル結合性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜9の含フッ素アルコキシ基;ただし、X〜Xの少なくとも1つはフッ素原子、含フッ素アルキル基または含フッ素アルコキシ基である)
で示されるものが好ましい。
【0057】
一般式(2)で示されるフルオロオレフィンとしては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ビニリデンフルオライド(VdF)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ビニルフルオライド、ヘキサフルオロイソブテン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)などがあげられるが、エラストマー組成が得られやすい点から、ビニリデンフルオライド(VdF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、トリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ビニルフルオライド、ヘキサフルオロイソブテンが好ましい。
【0058】
また、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類は、耐寒性、耐薬品性の点でも好ましい。
【0059】
パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)などがあげられる。
【0060】
また、一般式(2)で示されるフルオロオレフィン以外のフルオロオレフィンとしては、
【0061】
【化5】

【0062】
で示されるフルオロオレフィンや、一般式(3):
【0063】
【化6】

(式中Yは、−CHI、−OH、−COOH、−SOF、−SOM(Mは水素原子、NHまたはアルカリ金属原子)、カルボン酸塩、カルボキシエステル基、エポキシ基、シアノ基、ヨウ素原子;XおよびXは同じかまたは異なりいずれも水素原子またはフッ素原子;Rはエーテル結合性酸素原子を含んでもよい炭素数1〜40の2価の含フッ素アルキレン基;nは0または1;ただし、前記一般式(1)と同一のものは除く)で示される官能基含有フルオロオレフィンやポリフルオロジエン類などがあげられる。
【0064】
官能基含有フルオロオレフィンは、表面改質、架橋密度アップなどの機能性モノマーとして好ましく、ポリフルオロジエン類は、架橋効率の点で好ましい。
【0065】
一般式(3)で示される官能基含有フルオロオレフィンとしては、
【0066】
【化7】

【0067】
【化8】

【0068】
などがあげられる。
【0069】
ポリフルオロジエン類としては、CF=CFCF=CF、CF=CFCFOCF=CFなどがあげられる。
【0070】
フルオロオレフィン以外のエチレン性不飽和化合物としては、特に限定されないが、エチレン(ET)、プロピレン、ブテン、ペンテンなどの炭素数2〜10のα−オレフィンモノマー、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどの炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキルビニルエーテルなどがあげられる。これらは、低コスト、耐アミン性の点で好ましい。
【0071】
本発明の含フッ素エラストマーを形成するモノマーの組み合わせとしては、上記一般式(2)で示されるフルオロオレフィンを1種以上、一般式(2)以外のフルオロオレフィンを1種以上、一般式(2)で示されるフルオロオレフィンを1種以上と一般式(2)以外のフルオロオレフィンを1種以上含む組合わせがあり、かつそれぞれの組み合わせの共重合モノマーとして、フルオロオレフィン以外のエチレン性不飽和化合物を含んでいてもよい。
【0072】
上記一般式(2)で示されるフルオロオレフィン、および一般式(2)で示されるフルオロオレフィン以外のエチレン性不飽和化合物の中でも、低コストで良好な架橋性を有する含フッ素エラストマーを形成する目的では、ビニリデンフルオライド(VdF)と共重合可能なエチレン性不飽和化合物からなることが好ましい。
【0073】
本発明の製造方法は、VdFとその他の単量体からなるVdF系エラストマーの製造に好適である。
【0074】
具体的には、上記VdF系エラストマーは、VdF繰り返し単位が、VdF繰り返し単位と上記VdF系エラストマーにおけるその他の共単量体に由来する繰り返し単位との合計モル数の20モル%以上、90モル%以下が好ましく、40モル%以上、85モル%以下であることがより好ましい。さらに好ましい下限は45モル%、特に好ましい下限は50モル%であり、さらに好ましい上限は80モル%である。
【0075】
そして、上記VdF系エラストマーにおけるその他の単量体としてはVdFと共重合可能であれば特に限定されず、たとえば、TFE、HFP、PAVE、CTFE、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、フッ化ビニル、ヨウ素含有フッ素化ビニルエーテル等のフッ素含有単量体;エチレン(Et)、プロピレン(Pr)、アルキルビニルエーテル等のフッ素非含有単量体等があげられ、これらのフッ素含有単量体およびフッ素非含有単量体のなかから1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。前記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましく、特にパーフルオロ(メチルビニルエーテル)が好ましい。
【0076】
上記VdF系エラストマーとしては、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体、VdF/TFE/Pr共重合体、または、VdF/Et/HFP共重合体が好ましいが、その他の単量体として、TFE、HFP、および/または、PAVEを有するものであることがより好ましく、特には、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、または、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体が好ましい。
【0077】
VdF/HFP共重合体は、VdF/HFPの組成が、(45〜85)/(55〜15)(モル%)であることが好ましく、より好ましくは、(50〜80)/(50〜20)(モル%)であり、さらに好ましくは、(60〜80)/(40〜80)(モル%)である。
【0078】
VdF/HFP/TFE共重合体は、VdF/HFP/TFEの組成が、(40〜80)/(10〜35)/(10〜25)(モル%)のものが好ましい。
【0079】
VdF/PAVE共重合体としては、VdF/PAVEの組成が、(65〜90)/(10〜35)(モル%)のものが好ましい。
【0080】
VdF/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/TFE/PAVEの組成が、(40〜80)/(3〜40)/(15〜35)(モル%)のものが好ましい。
【0081】
VdF/HFP/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/PAVEの組成が、(65〜90)/(3〜25)/(3〜25)(モル%)のものが好ましい。
【0082】
VdF/HFP/TFE/PAVE共重合としては、VdF/HFP/TFE/PAVEの組成が、(40〜90)/(0〜25)/(0〜40)/(3〜35)(モル%)のものが好ましく、(40〜80)/(3〜25)/(3〜40)/(3〜25)(モル%)のものがより好ましい。
【0083】
また、本発明の製造方法により製造された含フッ素エラストマーは、エラストマー中に0.01〜10重量%のヨウ素原子を含むことが好ましく、0.05〜2重量%含むことがより好ましい。ヨウ素原子含有量が、0.01重量%未満であると架橋が不充分となり、圧縮永久歪みが悪化する傾向があり、10重量%をこえると架橋密度が高すぎ、伸びが小さすぎるなど、ゴムとしての性能が悪化する傾向がある。
【0084】
さらに、エラストマーの数平均分子量が1,000〜300,000であることが好ましく、10,000〜200,000であることがより好ましい。分子量が、1,000未満であると、粘度が低すぎて取り扱い性が悪化する傾向があり、300,000をこえると同様に粘度が上昇しすぎて取り扱い性が悪化する傾向がある。
【0085】
分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、1.3以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。また、分子量分布の上限は特に限定されないが、8以下であることが好ましい。分子量分布が、1.3未満であると、物性面で問題はないものの、ロール加工性が悪化する傾向があり、8をこえると、ロール加工時の発熱やロールへの粘着がおこる傾向がある。
【0086】
本発明の製造方法により製造された含フッ素エラストマーのムーニー粘度は、成形法に応じて最適粘度を選択するため、特に限定されない。例えば射出成形の場合、100℃ムーニー粘度が10〜120、好ましくは20〜80であり、高すぎると流動性不良による成形不良、低すぎると泡が混入し易いなどの不具合を起こす傾向がある。
【0087】
本発明の製造方法において、重合開始剤として油溶性ラジカル重合開始剤、または水溶性ラジカル開始剤を使用できる。
【0088】
本発明で用いる油溶性ラジカル重合開始剤としては、通常周知の油溶性の過酸化物が用いられ、たとえばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシカーボネート類、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシピバレートなどのパーオキシエステル類、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類などが、また、ジ(ω−ハイドロ−ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω−ハイドロ−テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ω−ハイドロ−ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロバレリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(ω−クロロ−ヘキサフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(ω−クロロ−デカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω−クロロ−テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ω−ハイドロ−ドデカフルオロヘプタノイル−ω−ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル−パーオキサイド、ω−クロロ−ヘキサフルオロブチリル−ω−クロロ−デカフルオロヘキサノイル−パーオキサイド、ω−ハイドロドデカフルオロヘプタノイル−パーフルオロブチリル−パーオキサイド、ジ(ジクロロペンタフルオロブタノイル)パーオキサイド、ジ(トリクロロオクタフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(テトラクロロウンデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ペンタクロロテトラデカフルオロデカノイル)パーオキサイド、ジ(ウンデカクロロドトリアコンタフルオロドコサノイル)パーオキサイドなどのジ[パーフルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類などが代表的なものとしてあげられる。
【0089】
しかし、代表的な油溶性開始剤である、ジ−イソプロピルパーオキシカーボネイト(IPP)やジ−n−プロピルパーオキシカーボネイト(NPP)などのパーオキシカーボネイト類は爆発の危険性がある上、高価であり、しかも重合反応中に重合槽の壁面などのスケールの付着が生じやすいという問題があるので、水溶性ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0090】
水溶性ラジカル重合性開始剤としては、通常周知の水溶性の過酸化物が用いられ、たとえば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸などのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、t−ブチルパーマレエート、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどがあげられる。
【0091】
水溶性ラジカル重合性開始剤の添加量は、特に限定はないが、重合速度が著しく低下しない程度の量(たとえば、数ppm対水濃度)以上を重合の初期に一括して、または逐次的に、または連続して添加すればよい。上限は、装置面から重合反応熱を除熱できる範囲である。
【0092】
本発明の製造方法において、さらに乳化剤、分子量調整剤、pH調整剤などを添加してもよい。分子量調整剤は、初期に一括して添加してもよいし、連続的または分割して添加してもよい。
【0093】
乳化剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などが使用でき、とくにアニオン系界面活性剤の例として、パーフルオロオクタン酸(CF(CFCOOH、1,1,2,2−テトラハイドロパーフルオロヘキサンスルフォン酸(CF(CFCHCHSOH)、1,1,2,2−テトラハイドロパーフルオロオクタンスルフォン酸(CF(CFCHCHSOH)または、そのアンモニウム塩、あるいはアルカリ金属塩などが好ましい。
【0094】
分子量調整剤としては、たとえばマロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、コハク酸ジメチルなどのエステル類のほか、イソペンタン、イソプロパノール、アセトン、各種メルカプタン、四塩化炭素、シクロヘキサン、モノヨードメタン、1−ヨードエタン、1−ヨード−n−プロパン、ヨウ化イソプロピル、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン、1,3−ジヨード−n−プロパンなどがあげられる。
【0095】
そのほか緩衝剤などを適宜添加してもよいが、その量は本発明の効果を損なわない範囲とする。
【0096】
かかる本発明の製造方法により得られる含フッ素エラストマーのうち、少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和化合物と、一般式(1):
CY=CY (1)
(式中、Y、Yはフッ素原子、水素原子または−CH;Rはエーテル結合性酸素原子を有していてもよく水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐状の含フッ素アルキレン基;Xはヨウ素原子または臭素原子)
で示される化合物とを共重合させて得られる含フッ素エラストマーであって、絶対重量分子量および固有粘度を横軸が絶対重量分子量で縦軸が固有粘度であるマーク−ハウィン(Mark−Houwink)プロットにプロットしたときのマーク−ハウィン勾配aが0.46以下である含フッ素エラストマーは新規な含フッ素エラストマーである。
【0097】
一般に、重量平均分子量の測定は、示差屈折計(RI)を用いたGPC分析が用いられ、ポリスチレンなどの標準ポリマーとの比較により間接的に求められる換算値であるのに対し、絶対重量分子量とは直接的に求められるものであり、たとえばGPC光散乱により求められる。
【0098】
固有粘度は分子の大きさと形に関する指標であり、その測定方法については後述する。
【0099】
マーク−ハウィン(Mark−Houwink)プロットとは、ポリマーの長鎖分岐の状態をみるために作成するものであり、横軸を絶対重量分子量とし縦軸を固有粘度とするグラフである。このマーク−ハウィンプロットからは、ポリマーの長鎖分岐の状態を知ることができ、特に絶対重量分子量および固有粘度をプロットして算出されるマーク−ハウィン勾配aは、含フッ素エラストマーのポリマーの長鎖分岐の度合いを特定することができ、物質を特定する(区分けする)パラメータとして使用できる。
【0100】
従来知られている少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和化合物と、一般式(1)で示される化合物とを共重合させて得られる含フッ素エラストマーのマーク−ハウィン勾配aは0.46を超えるものであり、マーク−ハウィン勾配aが0.46以下の含フッ素エラストマーは新規なポリマーである。
【0101】
マーク−ハウィン勾配aが0.46以下である分子末端に架橋部位を有する含フッ素エラストマーを架橋して得られる成形品は、耐圧縮永久歪み、耐熱性および応力緩和挙動という特性が向上する。マーク−ハウィン勾配aは、好ましくは0.40以下、さらに好ましくは0.35以下、特に好ましくは0.33以下である。下限は、0である。
【0102】
本発明の新規含フッ素エラストマーの非制限的な例としては、たとえばVdF/TFE/HFP(=47〜53/17〜23/27〜33モル%)共重合体であってマーク−ハウィン勾配aが0.27〜0.45であるもの、VdF/HFP(=75〜81/19〜25モル%)共重合体であってマーク−ハウィン勾配aが0.30〜0.45であるものなどがあげられる。
【0103】
本発明の含フッ素エラストマーを含む架橋性組成物は、こうした含フッ素エラストマーと架橋剤からなり、必要に応じて架橋助剤を含んでもよい。
【0104】
本発明で使用可能な架橋剤としては、採用する架橋系によって適宜選定すればよい。架橋系としてはポリアミン架橋系、ポリオール架橋系、パーオキサイド架橋系のいずれも採用できるが、とくにパーオキサイド架橋系で架橋したときに本発明の効果が顕著に発揮できる。
【0105】
架橋剤としては、ポリオール架橋系ではたとえば、ビスフェノールAF、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ジアミノビスフェノールAFなどのポリヒドロキシ化合物が、パーオキサイド架橋系ではたとえばα,α′−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が、ポリアミン架橋系ではたとえばヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N′−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミンなどのポリアミン化合物があげられる。しかしこれらに限られるものではない。
【0106】
これらの中でも、架橋性、取り扱い性の点から、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0107】
架橋剤の配合量はエラストマー100重量部に対して0.01〜10重量部であることが好ましく、0.1〜5重量部であることがより好ましい。架橋剤が、0.01重量部より少ないと、架橋度が不足するため、含フッ素成形品の性能が損なわれる傾向があり、10重量部をこえると、架橋密度が高くなりすぎるため架橋時間が長くなることに加え、経済的にも好ましくない傾向がある。
【0108】
ポリオール架橋系の架橋助剤としては、各種の4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、環状アミン、1官能性アミン化合物など、通常エラストマーの架橋に使用される有機塩基が使用できる。具体例としては、たとえばテトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの4級アンモニウム塩;ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、トリブチルアリルホスホニウムクロリド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロリド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリドなどの4級ホスホニウム塩;ベンジルメチルアミン、ベンジルエタノールアミンなどの一官能性アミン;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−ウンデク−7−エンなどの環状アミンなどがあげられる。
【0109】
パーオキサイド架橋系の架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリス(ジアリルアミン−s−トリアジン)、トリアリルホスファイト、N,N−ジアリルアクリルアミド、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N′,N′−テトラアリルテトラフタラミド、N,N,N′,N′−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレートなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0110】
架橋助剤の配合量は、エラストマー100重量部に対して0.01〜10重量部であることが好ましく、0.1〜5.0重量部であることがより好ましい。架橋助剤が、0.01重量部より少ないと、架橋時間が実用に耐えないほど長くなる傾向があり、10重量部をこえると、架橋時間が極端に短くなることに加え、成形品の圧縮永久歪も低下する傾向がある。
【0111】
さらに通常の添加剤である充填材、加工助剤、カーボンブラック、無機充填剤や、酸化マグネシウムのような金属酸化物、水酸化カルシウムのような金属水酸化物などを本発明の目的を損なわない限り使用してもよい。
【0112】
本発明の組成物の調製法および架橋法はとくに制限はなく、たとえば、圧縮成形、押出し成形、トランスファー成形、射出成形など、従来公知の方法が採用できる。
【0113】
本発明の成形品の引張破断伸び(Eb)が180〜550%であることが好ましい。引張破断伸びが180%未満であると、いわゆる「ゴムらしさ」がなくなる傾向がある。また逆に550%をこえると、架橋密度が下がり過ぎ、圧縮永久歪み(CS)が悪化する傾向がある。
【0114】
また、本発明の成形品の200℃、72時間での圧縮永久歪み(CS)は、小さい方が好ましく、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましい。
【0115】
一般には、圧縮永久歪みが小さくなると、成形品の引張破断伸びも小さくなってしまう傾向があるため、圧縮永久歪みが小さく、かつ成形品の引張破断伸びが大きい「ゴムらしさ」のこれら両者を兼ね備えることは非常に困難であるが、本発明においては、特定のCSMの添加時期を制限することで、これらの物性を兼ね備えることが可能になったものである。
【0116】
特に、本発明の製法により得られる含フッ素エラストマーによれば、従来では提供できなかった引張破断伸び(Eb)と72時間での圧縮永久歪み(CS)とのバランスが優れた成形品を提供することもできるようになる。具体的には、Ebが170〜200%かつCSが10以下の成形品、Ebが200〜230%かつCSが13以下の成形品、Ebが230〜260%かつCSが14以下の成形品、Ebが260〜290%かつCSが18以下の成形品、Ebが290〜320%かつCSが20以下の成形品を提供することも可能となる。
【0117】
ここで、上記成形品の引張破断伸び(Eb)や200℃、72時間での圧縮永久歪み(CS)の値は、後述する標準配合、標準架橋条件により架橋することにより得られる成形品での値をいう。
【0118】
本発明の成形品は、半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体関連分野、自動車分野、航空機分野、ロケット分野、船舶分野、プラント等の化学品分野、医薬品等の薬品分野、現像機等の写真分野、印刷機械等の印刷分野、塗装設備等の塗装分野、食品プラント機器分野、原子力プラント機器分野、鉄板加工設備等の鉄鋼分野、一般工業分野、燃料電池分野、電子部品分野などの分野で好適に用いることができる。
【実施例】
【0119】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0120】
<重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)>
装置:HLC−8000(東ソー(株)製)
カラム:TSK gel GMHXL−H 2本
TSK gel G3000HXL 1本
TSK gel G2000HXL 1本
検出器:示差屈折率計
展開溶媒:テトラヒドロフラン
温度:35℃
試料濃度:0.2重量%
標準試料:単分散ポリスチレン各種((Mw/Mn)=1.14(Max))、TSK standard POLYSTYRENE(東ソー(株)製)
【0121】
<ムーニー粘度>
ASTM−D1646およびJIS K6300に準拠して測定する。
【0122】
測定機器:(株)上島製作所製の自動ムーニー粘度計
ローター回転数:2rpm
測定温度:100℃
【0123】
<絶対重量分子量、固有粘度>
装置: GPCmax−TDA302システム(Viscotech社)
検出器:RI(示差屈折計),VISC(粘度計),LALLS(低角度光散乱検出器),RALLS(直角光散乱検出器)
解析ソフトウェアー:Viscotech Omin SEC
カラム:TSKgelGMHRH 2本
展開溶媒:HCFC−225/HFIP(10%)
温度:30℃
試料濃度:0.4質量%
標準試料:PMMA
【0124】
<マーク−ハウィン勾配a>
具体的には、GPC−光散乱−粘度計システムを用いてGPCを測定し、RI検出器でピークが検出された分子量範囲において、各点における接線の傾きの平均値として算出する。
【0125】
<圧縮永久歪み>
下記標準配合物を下記標準加硫条件で1次プレス加硫および2次オーブン加硫してO−リング(P−24)を作製し、JIS−K6301に準じて、1次プレス加硫後の圧縮永久歪みおよび2次オーブン加硫後の圧縮永久歪み(CS)を測定する(25%加圧圧縮下に200℃で72時間保持したのち25℃の恒温室内に30分間放置した試料を測定)。
【0126】
(標準配合:1)
含フッ素エラストマー 100重量部
トリアリルイソシアヌレート(TAIC) 4重量部
パーヘキサ25B 1.5重量部
カーボンブラックMT−C 20重量部
【0127】
(標準配合:2)
含フッ素エラストマー 100重量部
トリアリルイソシアヌレート(TAIC) 3重量部
パーヘキサ25B 1.5重量部
カーボンブラックMT−C 20重量部
【0128】
(標準加硫条件)
混練方法 :ロール練り
プレス加硫 :160℃で10分
オーブン加硫:180℃で4時間
【0129】
<100%モジュラス(M100)>
前記標準配合物を前記標準加硫条件で1次プレス加硫および2次オーブン加硫して厚さ2mmのシートとし、JIS−K6251に準じて測定する。
【0130】
<引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)>
前記標準配合物を前記標準加硫条件で1次プレス加硫および2次オーブン加硫して厚さ2mmのシートとし、JIS−K6251に準じて測定する。
【0131】
<硬度(Hs)>
前記標準配合物を前記標準加硫条件で1次プレス加硫および2次オーブン加硫して厚さ2mmのシートとし、JIS−K6253に準じて測定する。
【0132】
<加硫特性>
前記1次プレス加硫時にJSR型キュラストメータII型、およびV型を用いて170℃における加硫曲線を求め、最低粘度(ML)、加硫度(MH)、誘導時間(T10)および最適加硫時間(T90)を求める。
【0133】
<ポリマーの平均粒子径測定>
マイクロトラック9340UPA(HONEYWELL社製)にて粒子径を測定する。
【0134】
<粒子数計算>
上記ポリマーの平均粒子径の測定結果を用いて、下記式より粒子数を算出する。
【0135】
【数1】

【0136】
<組成分析>
19F−NMR(Bruker社製AC300P型)を用いて測定した。ただし、含TFEポリマーは、19F−NMR(日本電子(株)製FX100型)を用いて測定する。
【0137】
<元素分析>
横河ヒューレットパッカード社G2350A型を用いて測定した。
【0138】
参考例1
(シードポリマー粒子の製造)
攪拌装置として、電磁誘導攪拌装置を有する内容積1.8リットルの重合槽に、純水809g、10重量%のパーフルオロオクタン酸アンモニウム水溶液200gを仕込み、系内を窒素ガスで充分置換したのち減圧にした。この操作を3回繰り返し、減圧状態でイソペンタン0.5mL仕込み、80℃での重合槽内組成がVdF/TFE/HFP=29.0/13.0/58.0モル%、重合槽内圧を1.4MPaになるように各モノマーを仕込んだ。昇温終了後、純水20gに溶解した過硫酸アンモニウム塩(APS)0.67gを窒素ガスにて圧入して重合を開始した。重合圧力を1.4MPaとし、重合時の圧力低下を補うため、VdF/TFE/HFP混合モノマー(50/20/30(モル%))を連続的に供給し、攪拌下に重合を行なった。重合終了までに、320gの混合モノマーを重合槽内に供給した。
【0139】
得られた乳濁液の重量は1285g、ポリマー濃度が24.8重量%であり、ポリマー粒子の数が1.0×1015個/水1gの乳化液を得た。360分後に攪拌を止め、未反応モノマーを放出して重合を停止した。
【0140】
実施例1
参考例1同様の電磁誘導攪拌装置を有する内容積1.8リットルの重合槽に、純水970gと参考例1で製造したポリマー粒子の水性分散液27gを仕込み、系内を充分に窒素置換したのち減圧にした。この操作を3回繰返し、減圧状態でVdF18g、TFE22g、HFP537gを仕込み、攪拌下に80℃まで昇温した。ついで、オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン2.8gと純水15gに溶解したAPS0.05gを窒素ガスにて圧入して重合を開始し、(a)、(b)、(c)、(d)および(e)の条件で重合を継続し、3.9時間後に攪拌を止め、未反応モノマーを放出して重合を停止した。
【0141】
(a)重合槽内組成VdF/TFE/HFP=6.5/5.0/88.5(モル%)に対するPeng−Robinson式による臨界温度・臨界圧力計算をAspen Plus Ver.11.1を用いて行ったところ、Tc=87.7℃、Pc=3.05MPaであった。さらに換算温度TR0.95、換算圧力PR0.80による変換を行なうと、T=69.7℃、P=2.44MPaとなり、実施例1の重合条件(80℃、4.5MPa)は、換算温度以上かつ換算圧力以上である。
【0142】
(b)VdF/TFE/HFP(65.5/25.3/9.2(モル%))モノマー混合物を連続的に供給し、気相部分の圧力を3.5MPaに維持した。また、重合終了までに、282gのモノマー混合物を槽内に供給した。
【0143】
(c)攪拌速度を560rpmで維持した。
【0144】
(d)(b)記載のモノマー混合物を14g(全追加モノマー混合物供給量の5重量%)供給した時に、IMモノマー(CF=CFOCFCFCHI)2.38g(目的とする含フッ素エラストマー100重量部に対して0.53重量部)とDS101(CF(CFCOONH)0.15gを純水15gに溶解させたものを窒素ガスにて圧入した。
【0145】
(e)IMモノマーの添加を、(b)記載のモノマー混合物を14g(全追加モノマー混合物供給量の5重量%)添加した時期に終了した。すなわち、IMモノマーの添加は(d)の1回のみである。
【0146】
得られた乳濁液の重量は1514g、ポリマー濃度が29.4重量%であった。また、含フッ素エラストマーとしては445gであり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは20.6万、数平均分子量Mnは11.5万、Mw/Mnは1.79であった。また、19F−NMRで測定した重合体の組成はVdF/TFE/HFP=50.2/19.9/29.9(モル%)であった。
【0147】
この含フッ素エラストマーのマーク−ハウィンプロットにプロットしてマーク−ハウィン勾配aを算出したところ、0.32であった(図1参照)。
【0148】
得られたゴム状重合体を前記評価法にしたがい評価した。結果を表1に示す。
【0149】
実施例2
参考例1同様の電磁誘導攪拌装置を有する内容積1.8リットルの重合槽に、純水970gと参考例1で製造したポリマー粒子の水性分散液27gを仕込み、系内を充分に窒素置換したのち減圧にした。この操作を3回繰返し、減圧状態でVdF18g、TFE22g、HFP537gを仕込み、攪拌下に80℃まで昇温した。ついで、オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン2.8gと純水15gに溶解したAPS0.05gを窒素ガスにて圧入して重合を開始し、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)の条件で重合を継続し、5.3時間後に攪拌を止め、未反応モノマーを放出して重合を停止した。
【0150】
(a)重合槽内組成VdF/TFE/HFP=6.5/5.0/88.5(モル%)に対するPeng−Robinson式による臨界温度・臨界圧力計算をAspen Plus Ver.11.1を用いて行ったところ、T=87.7℃、P=3.05MPaであった。さらに換算温度T0.95、換算圧力P0.80による変換を行なうと、T=69.7℃、P=2.44MPaとなり、本実施例の重合条件(80℃、4.5MPa)は、換算温度以上かつ換算圧力以上である。
【0151】
(b)VdF/TFE/HFP(65.5/25.3/9.2(モル%))モノマー混合物を連続的に供給し、気相部分の圧力を3.5MPaに維持した。また、重合終了までに、282gのモノマー混合物を槽内に供給した。
【0152】
(c)攪拌速度を560rpmで維持した。
【0153】
(d)(b)記載のモノマー混合物を28g(全追加モノマー混合物供給量の10重量%)供給した時に、IMモノマー(CF=CFOCFCFCHI)1.19g(目的とする含フッ素エラストマー100重量部に対して0.3重量部)とDS101 0.075gを純水15gに溶解させたものを窒素ガスにて圧入した。
【0154】
(e)(b)記載のモノマー混合物を56g(全追加モノマー混合物供給量の20重量%)供給した時に、IMモノマー 1.19gとDS101 0.075gを純水15gに溶解させたものを窒素ガスにて圧入した。
【0155】
(f)IMモノマーの添加を、(b)記載のモノマー混合物を56g(全追加モノマー混合物供給量の20重量%)添加した時期に終了した。すなわち、IMモノマーの添加を(d)と(e)の2回行った。
【0156】
得られた乳濁液の重量は1450g、ポリマー濃度が31.6重量%であった。また、含フッ素エラストマーとしては458gであり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは13.7万、数平均分子量Mnは9.4万、Mw/Mnは1.46であった。また、19F−NMRで測定した重合体の組成はVdF/TFE/HFP=48.9/19.8/31.3(モル%)であった。
【0157】
この含フッ素エラストマーマーク−ハウィンプロットにプロットしてマーク−ハウィン勾配aを算出したところ、0.45であった(図1参照)。
【0158】
得られたゴム状重合体を前記評価法にしたがい評価した。結果を表1に示す。
【0159】
比較例1
参考例1同様の電磁誘導攪拌装置を有する内容積1.8リットルの重合槽に、純水970gと参考例1で製造したポリマー粒子の水性分散液27gを仕込み、系内を充分に窒素置換したのち減圧にした。この操作を3回繰返し、減圧状態でVdF18g、TFE22g、HFP537gを仕込み、攪拌下に80℃まで昇温した。ついで、オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン2.8gと純水15gに溶解したAPS0.05gを窒素ガスにて圧入して重合を開始し、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)の条件で重合を継続し、4.3時間後に攪拌を止め、未反応モノマーを放出して重合を停止した。
【0160】
(a)重合槽内組成VdF/TFE/HFP=6.5/5.0/88.5(モル%)に対するPeng−Robinson式による臨界温度・臨界圧力計算をAspen Plus Ver.11.1を用いて行ったところ、T=87.7℃、P=3.05MPaであった。さらに換算温度T0.95、換算圧力P0.80による変換を行なうと、T=69.7℃、P=2.44MPaとなり、本実施例の重合条件(80℃、4.5MPa)は、換算温度以上かつ換算圧力以上である。
【0161】
(b)VdF/TFE/HFP(65.5/25.3/9.2(モル%))モノマー混合物を連続的に供給し、気相部分の圧力を3.5MPaに維持した。また、重合終了までに、282gのモノマー混合物を槽内に供給した。
【0162】
(c)攪拌速度を560rpmで維持した。
【0163】
(d)(b)記載のモノマー混合物を113g(全追加モノマー混合物供給量の40重量%)供給した時に、IMモノマー(CF=CFOCFCFCHI)1.19g(目的とする含フッ素エラストマー100重量部に対して0.3重量部)とDS101 0.075gを純水15gに溶解させたものを窒素ガスにて圧入した。
【0164】
(e)(b)記載のモノマー混合物を141g(全追加モノマー混合物供給量の50重量%)供給した時に、IMモノマー 1.19gとDS101 0.075gを純水15gに溶解させたものを窒素ガスにて圧入した。
【0165】
(f)IMモノマーの添加を、(b)記載のモノマー混合物を141g(全追加モノマー混合物供給量の50重量%)添加した時期に終了した。すなわち、IMモノマーの添加は(d)の1回のみである。
【0166】
得られた乳濁液の重量は1523g、ポリマー濃度が29.9重量%であった。また、含フッ素エラストマーとしては455gであり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは18.1万、数平均分子量Mnは11.2万、Mw/Mnは1.62であった。また、19F−NMRで測定した重合体の組成はVdF/TFE/HFP=49.8/20.1/30.1(モル%)であった。
【0167】
この含フッ素エラストマーマーク−ハウィンプロットにプロットしてマーク−ハウィン勾配aを算出したところ、0.51であった(図1参照)。
【0168】
得られたゴム状重合体を前記評価法にしたがい評価した。結果を表1に示す。
【0169】
【表1】

【0170】
実施例3
攪拌装置を有する内容積3リットルのオートクレーブに、純水0.96リットル、乳化剤としてC15COONH 2gを仕込み、系内をチッ素ガスで充分置換した。そののち、600rpmでの攪拌下に80℃まで昇温し、VdF/TFE/PMVE(=64/8/28モル%)を内圧が1.52MPaになるように圧入した。ついで、過硫酸アンモニウム(APS)9.5mg/ml水溶液3mlをチッ素ガスにて圧入して重合を開始した。重合反応の進行に伴って圧力が低下するので、1.42MPaまで低下した時点で、VdF/TFE/PMVE(=70/12/18モル%)に調整したモノマー混合物を圧入して追加し、1.52MPaまで再加圧した。このとき、ジヨウ素化合物I(CFI 0.8gを圧入した。モノマー混合物を間歇的に追加して昇圧、降圧を繰り返しつつ、3時間ごとに前記APS1.5mlをチッ素ガスで圧入して、重合反応を継続した。モノマー混合物を25g(モノマー混合物の全追加量の7重量%)追加した時点で、IMモノマー(CF=CFOCFCFCHI)1.62g(目的とする含フッ素エラストマー100重量部に対して0.45重量部)とDS101 0.1gを純水5gに溶解させたものを窒素ガスにて圧入した。IMモノマーの添加は、この1回(モノマー混合物の全追加量の7重量%の時点)だけであった。その後モノマー混合物を間歇的に追加して昇圧、降圧を繰り返しつつ、モノマー混合物を360g追加した時点で、未反応モノマーを放出、オートクレーブを冷却して、固形分濃度26.4重量%のディスパージョンを得た。このディスパージョンに4重量%の硫酸アルミ水溶液を添加して凝析を行った。得られた凝析物を水洗、乾燥して、含フッ素エラストマー361gを得た。19F−MNRで測定した含フッ素エラストマーの組成はVdF/TFE/PMVE(=68/12/20モル%)であった。また、前記含フッ素エラストマーに含まれるヨウ素は、0.25重量%であった。
【0171】
この含フッ素エラストマーをマーク−ハウィンプロットにプロットしてマーク−ハウィン勾配aを算出したところ、0.30であった。
【0172】
得られたゴム状重合体を前記評価法にしたがい評価した。結果を表2に示す。
【0173】
比較例2
攪拌装置を有する内容積3リットルのオートクレーブに、純水0.96リットル、乳化剤としてC15COONH 2gを仕込み、系内をチッ素ガスで充分置換した。そののち、600rpmでの攪拌下に80℃まで昇温し、VdF/TFE/PMVE(=64/8/28モル%)を内圧が1.52MPaになるように圧入した。ついで、過硫酸アンモニウム(APS)9.5mg/ml水溶液3mlをチッ素ガスにて圧入して重合を開始した。重合反応の進行に伴って圧力が低下するので、1.42MPaまで低下した時点で、VdF/TFE/PMVE(=70/12/18モル%)に調整したモノマー混合物を圧入して追加し、1.52MPaまで再加圧した。このとき、ジヨウ素化合物I(CFI 0.8gを圧入した。モノマー混合物を間歇的に追加して昇圧、降圧を繰り返しつつ、3時間ごとに前記APS1.5mlをチッ素ガスで圧入して、重合反応を継続した。モノマー混合物を180g(モノマー混合物の全追加量の50重量%)追加した時点で、IMモノマー(CF=CFOCFCFCHI)1.62g(目的とする含フッ素エラストマー100重量部に対して0.45重量部)とDS101 0.1gを純水5gに溶解させたものを窒素ガスにて圧入した。IMモノマーの添加は、この1回(モノマー混合物の全追加量の50重量%の時点)だけであった。その後モノマー混合物を間歇的に追加して昇圧、降圧を繰り返しつつ、モノマー混合物を360g追加した時点で、未反応モノマーを放出、オートクレーブを冷却して、固形分濃度26.4重量%のディスパージョンを得た。このディスパージョンに4重量%の硫酸アルミ水溶液を添加して凝析を行った。得られた凝析物を水洗、乾燥して、含フッ素エラストマー360gを得た。19F−MNRで測定した含フッ素エラストマーの組成はVdF/TFE/PMVE=68/12/20(モル%)であった。また、前記含フッ素エラストマーに含まれるヨウ素は、0.24重量%であった。
【0174】
この含フッ素エラストマーをマーク−ハウィンプロットにプロットしてマーク−ハウィン勾配aを算出したところ、0.51であった。
【0175】
得られたゴム状重合体を前記評価法にしたがい評価した。結果を表2に示す。
【0176】
【表2】

【0177】
実施例4
参考例1同様の電磁誘導攪拌装置を有する内容積3リットルの重合槽に、純水1730gとC11CHOO0.0173gと2,3,3,3−テトラフルオロ−2−[1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−(1,1,2−トリフルオロアリルオキシ)プロポキシ]プロピオン酸アンモニウム塩0.173gを仕込み、系内を充分に窒素置換したのち減圧にした。この操作を3回繰返し、減圧状態でVdF131g、HFP568gを仕込み、攪拌下に80℃まで昇温した。ついで純水10gに溶解させたAPS0.0865gを窒素ガスにて圧入して重合を開始し、(a)、(b)、(c)、(d)および(e)の条件で重合を継続し、2時間後に攪拌を止め、未反応モノマーを放出して重合を停止した。
【0178】
(a)重合槽内組成VdF/HFP=36/64(モル%)に対するPeng−Robinson式による臨界温度・臨界圧力計算をAspen Plus Ver.11.1を用いて行ったところ、T=87.7℃、P=3.05MPaであった。さらに換算温度TR0.95、換算圧力PR0.80による変換を行なうと、T=69.7℃、P=2.44MPaとなり、本実施例の重合条件(80℃、6.0MPa)は、換算温度以上かつ換算圧力以上である。
(b)VdF/HFP(95/5(モル%))モノマー混合物を連続的に供給し、気相部分の圧力を6.0MPaに維持した。また、重合終了までに、470gのモノマー混合物を槽内に供給した。
(c)攪拌速度を560rpmで維持した。
(d)(b)記載のモノマー混合物を0.9g(全追加モノマー混合物供給量の2重量%)供給した時に、オクタフルオロ−1,4−ジヨードブタン2.14g(目的とする含フッ素エラストマー100重量部に対して0.32重量部)、さらに32.9g(全追加モノマー混合物供給量の7重量%)供給した時に、IMモノマー(CF=CFOCFCFCHI)3.53gを窒素ガスにて圧入した。
(e)(d)記載のIMモノマーの添加を、(b)記載のモノマー混合物を32.9g(全追加モノマー混合物供給量の7重量%)添加した時期に終了した。すなわち、IMモノマーの添加は(d)の1回のみである。
【0179】
得られた乳濁液の重量は2371g、ポリマー濃度が28.05重量%であった。また、含フッ素エラストマーとしては665gであり、GPCで測定した重量平均分子量Mwは12万、数平均分子量Mnは8万、Mw/Mnは1.5であった。また、19F−NMRで測定した重合体の組成はVdF/HFP=79/21(モル%)であった。100℃におけるムーニー粘度は113であった。
【0180】
この含フッ素エラストマーをマーク−ハウィンプロットにプロットしてマーク−ハウィン勾配aを算出したところ、0.32であった。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明の製造方法は、特定のCSMの添加を開始する時期を、エチレン性不飽和化合物の全添加量の0〜10重量%を添加した時期にすることで、圧縮永久歪み、耐熱性、引張破断伸びなどの諸物性が優れる成形品とすることができる含フッ素エラストマーを得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のフルオロオレフィンを含むエチレン性不飽和化合物と、一般式(1):
CY=CY (1)
(式中、Y、Yはフッ素原子、水素原子または−CH;Rはエーテル結合性酸素原子を有していてもよく水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された直鎖状または分岐状の含フッ素アルキレン基;Xはヨウ素原子または臭素原子)
で示される化合物とを共重合させて得られる含フッ素エラストマーであって、絶対重量分子量および固有粘度を横軸が絶対重量分子量で縦軸が固有粘度であるマーク−ハウィンプロットにプロットしたときのマーク−ハウィン勾配aが0.46以下である含フッ素エラストマー。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−246498(P2012−246498A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−202624(P2012−202624)
【出願日】平成24年9月14日(2012.9.14)
【分割の表示】特願2008−551114(P2008−551114)の分割
【原出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】