説明

含フッ素エラストマー組成物

【課題】押出成形性、押出生産性、耐熱性、耐油性をバランス良く兼ね備え、なおかつ高強度な含フッ素エラストマー組成物を提供すること。
【解決手段】テトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体とエチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体とを混和した含フッ素エラストマー混和物100重量部に対し、ペルオキシエステル系である有機過酸化物0.5〜10重量部が配合されている含フッ素エラストマー組成物。テトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体とエチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体とを95:5〜80:20の範囲で混和した含フッ素エラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エラストマー組成物に関し、更に詳しくは、有機過酸化物によって加硫しうる含フッ素エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、含フッ素エラストマーは、耐熱性、耐油性、耐薬品性に優れた柔軟で弾性を有する重合体として、ガスケット、パッキン、ダイヤフラム、ホース等の種々の用途に用いられることが知られている。含フッ素エラストマーの内でもテトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体は耐熱性と電気特性のバランスに優れ、その特徴を保ったまま押出成形によって電線、チューブといった用途に応用すべく近年種々の検討がなされている。
【0003】
しかしながらテトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体のうち低粘度のものは、押出し加工性が良いものの高充填による初期物性の低下が大きいため、充填剤の使用量、種類が限られていた。一方、粘度の比較的高いものは物性のバランスが良いが、押出成形に際しては組成物の自己発熱が大きく、また押出機の温度条件もエラストマーとしては高温である必要があった。そのため、押出成形中にスコーチをおこしやすく、慎重に作業しなければならないのはもちろんの事、組成物自身にも制限が大きかった。例えば、有機過酸化物としては比較的分解温度の高いものを使わなくてはならず、そのため加熱加硫温度を高くとったり、時間を長くとったり、生産性の面で制約を受けた。また、充填剤を多量に用いると組成物粘度が上昇し、押出し成形ができなくなるため、低粘度の場合と同様、充填剤の使用量、種類が限られてしまった。
【0004】
上述した如く、低粘度のテトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体を用いても、高粘度のものを用いても、各々別の理由で充填剤の種類と量が制限されることであり、このことによる高温での強度改善に有効な補強性充填剤の使用が制限されることである。そのため、使用温度付近の高い温度に於ける強度が低く、実使用上問題となる場合があった。
【0005】
上記問題を解決するため、例えば、特許文献1には、テトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体と、12重量%以上のエチレン性不飽和エステルを含有したエチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体を混和することにより押出性を改良した含フッ素エラストマー組成物が述べられている。
【0006】
又、本発明に関連する当該特許出願人による特許出願として、特許文献2〜4が挙げられる。
【0007】
【特許文献1】特開平2−245047号公報
【特許文献2】特開平2−311548号公報
【特許文献3】特開平4−123788号公報
【特許文献4】特開平10−316821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、例えば、自動車内に配置されるような電線被覆やチューブの材料においては、耐油や高温、優れた機械的強度が要求される。また、その他機器内に配線されるような電線被覆やチューブの材料においても高温や優れた機械的強度が要求される。近年ではそれら要求特性のなかでも機械的強度の要求値が高くなってきており、例えばULの規格では13.7MPa以上要求されている。しかしながら、上記の特許文献1〜4では、ULで要求される引張強度13.7MPa以上をクリアできないといった問題が生じていた。
【0009】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、押出成形性、押出生産性、耐熱性、耐油性をバランス良く兼ね備え、なおかつ高強度な含フッ素エラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するべく、本発明の請求項1による含フッ素エラストマー組成物は、テトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体と、エチレン性不飽和エステルを含有したエチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体に対し、ペルオキシエステル系である有機過酸化物が0.5〜10重量部配合されていることを特徴とするものである。
又、請求項2による含フッ素エラストマー組成物は、請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物において、上記テトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体と、エチレン性不飽和エステルを含有したエチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体とを95:5〜80:20(重量比)の範囲で混和したものであることを特徴とするものである。
又、請求項3による含フッ素エラストマー組成物は、請求項1又は請求項2記載の含フッ素エラストマー組成物において、上記エチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体が、12重量%以上のエチレン性不飽和エステルを含んでいることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明による含フッ素エラストマー組成物は、ペルオキシエステル系である有機過酸化物を0.5〜10重量部配合することにより、押出生産性を低下させることなく優れた機械的強度を得ることができる。
又、テトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体と、エチレン性不飽和エステルを含有したエチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体とを95:5〜80:20(重量比)の範囲で混和することで、耐熱性を低下させることなく押出成形性を向上させることができる。
又、エチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体を、12重量%以上のエチレン性不飽和エステルとすることで、機械的強度を更に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の含フッ素エラストマー組成物を構成する各成分について説明する。
【0013】
(a)テトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体
いわゆる含フッ素エラストマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン3元共重合体、フルオロシリコーン系ゴムなどが挙げられるが、本発明においては、これらの中でも、テトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体が使用される。特に、α−オレフィンとしてプロピレンを共重合させた、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体であれば、耐薬品性に優れ、耐熱性と耐油性のバランスに優れるため好ましい。更にその他の成分として、アクリル酸エステル類、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、ブテン−1、グリシジル(メタ)アクリレート等を共重合させたものを用いても良い。
【0014】
(b)エチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体
本発明で使用されるエチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体は、エチレンとエチレン性不飽和エステルとを公知の方法により共重合させたものである。エチレン性不飽和エステルとしては、例えば、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどが挙げられるが、好ましくは酢酸ビニル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチルが挙げられ、更に好ましくはアクリル酸エチルが挙げられる。また、エチレン性不飽和エステルの含有量が12重量%以上のものを用いることにより、フィラーとの親和性が増し、更なる機械的強度の向上が見込まれる。
【0015】
またテトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体と、エチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体とを95:5〜80:20(重量比)の範囲で混和したものであることしたものであることが好ましい。テトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体の混和量がこの範囲より少ない場合は、耐油性や耐溶剤性,耐熱性の低下を招く可能性がある。また、テトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体の混和量がこの範囲より多い場合は、押出成形性が悪化することもある。
【0016】
(c)有機過酸化物
本発明においては、機械的強度、押出生産性を向上させるためペルオキシエステル系の有機過酸化物を使用する。具体的には、例えば、t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシラウレート、2,5ジメチル2,5ジ(ペルオキシ2−エチルヘキサノイル)ヘキサンなどが挙げられ、好ましくはt−ブチルペルオキシベンゾエートが挙げられる。その他の有機過酸化物を使用した場合は、機械的強度の向上や押出生産性の向上が充分になされない。
【0017】
(d)金属炭酸塩粉末、金属ケイ酸塩粉末
本発明においては、押出成形性を向上させることを目的として、金属炭酸塩粉末及び/又は金属ケイ酸塩粉末を配合することが好ましい。金属炭酸塩粉末としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、などが挙げられる。金属ケイ酸塩粉末としては、例えば、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸アルミニウムなどが上げられる。これらの中でも炭酸カルシウムが好適に使用される。これらは単独で用いても複数を混合して用いても構わない。金属炭酸塩粉末や金属ケイ酸塩粉末を配合する場合、これらの粒径は、0.1〜2μmのものを使用することが好ましい。0.1〜2μmの範囲外であると機械的強度や耐熱性が低下する傾向にある。
【0018】
上記した金属炭酸塩粉末及び/又は金属ケイ酸塩粉末は、含フッ素エラストマー混和物に対し、1〜70重量部配合することが好ましい。金属炭酸塩粉末及び/又は金属ケイ酸塩粉末の配合量が1重量部未満では、押出成形性を向上させる効果が不十分であり、又、70重量部を超えると、機械的強度や耐熱性が低下してしまうことがある。
【0019】
また、機械的強度を向上させるためシリカ粉末を配合してもよい。シリカ粉末は平均比表面積が200m/g以上のであると充分な補強効果を得ることができるため好ましい。このシリカ粉末は、含フッ素エラストマー混和物に対し3〜20重量部配合することが好ましい。シリカ粉末の配合量が3重量部未満では、機械的強度を向上させる効果が不十分であり、又、20重量部を超えると、押出成形性が低下して成形が困難となってしまうとともに、耐熱性が低下してしまうことがある。
【0020】
これらの金属炭酸塩粉末、金属ケイ酸塩粉末、シリカ粉末は、例えば、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸、又はこれらのアルミニウム、マグネシウム、カルシウム塩などの高級脂肪酸金属塩、シランカップリング剤やチタネート系表面処理剤などの表面処理剤によって表面処理することができる。これら表面処理剤は含フッ素エラストマーとの親和性及び分散性を向上させ、機械的強度などを向上させるために好ましく使用される。これらの表面処理剤は、1種単独でも、2種以上を併用して使用しても良い。又、表面処理をする場合は、予め表面処理されたものを使用しても良いし、未処理若しくは表面処理済のものとともに表面処理剤を配合し、表面処理を行っても良い。
【0021】
本発明においては、上記の成分以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲内で、従来、含フッ素エラストマー組成物において一般的に使用されている各種の添加剤を配合しても良い。このような添加剤としては、例えば、補強剤、難燃剤、老化防止剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、軟化剤、分散剤、着色剤などが挙げられる。
【0022】
上記の各構成材料を適宜に配合したものを、ロール、ニーダー、バンバリー、一軸混練機、二軸混練機などの公知の混練機を使用して充分に混練りすることによって本発明の含フッ素エラストマー組成物を得ることができる。
【0023】
このようにして得られた本発明の含フッ素エラストマー組成物を公知の方法によって押出成形し、その後、適宜に架橋を施すことにより電線、チューブ等の製品を得ることができる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を比較例と併せて説明する。この実施例で使用した各配合材料の詳細は表4に示す通りである。
【0025】
表3に示した配合材料を表1〜3に示した配合部数により2軸混練機で十分に混練し、得られた含フッ素エラストマー組成物を180℃×10分、60kgf/cmの条件にてプレス加硫し、厚さ約1mmのシート状サンプルを作製した。
【0026】
ここで、この様にして得られた合計16種類のシート状サンプルについて、機械的強度(引張破断強度、引張破断伸び)、耐熱性、耐油性、押出成形性、押出生産性について、それぞれ評価を行った。結果は各配合材料の配合部数と共に表1〜3に併せて示した。
【0027】
評価方法は以下の通りである。
(機械的強度)
JIS3005に準拠して、引張破断強度と引張破断伸びを測定した。合否の基準としては、引張破断強度が13.7MPa以上、引張破断伸びが200%以上のものを合格と判定した。
(耐熱性)
JIS3005に準拠して、232℃×7日加熱後の強度残率と伸び残率を測定した。合否の基準としては、強度及び伸びの残率が70%以上を合格と判定した。
(耐油性)
ASTM NO.3オイルに150℃×3日浸漬後、強度残率、伸び残率を測定した。合否の基準としては、強度及び伸びの残率が70%以上を合格とした。
(押出成形性)
架橋前の配合物について、スイングダイレオメーターにて60℃、3.5kgf/cm、1.66Hzにおけるトルクを測定した。この状態でのトルクが大きくなると押出成型が困難となるため、合否の基準としては、2N・m以上を不合格とした。
(押出生産性)
架橋前の配合物について、キュラストメーター7型にて180℃におけるキュラスト時間を測定した。合否の基準としては、t90測定値が2分以上を不合格とした。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
本実施例による電線は、何れも機械的強度(引張破断強度、引張破断伸び)、耐熱性、耐油性及び押出性について合格する値を示しており、機械的強度、耐熱性、耐油性及び押出性に優れたものであることが確認された。
【0033】
実施例1〜3と比較例1を比較すると、有機過酸化物が本発明の範囲(1〜10重量部)に満たない量で配合されている比較例1は、実施例1〜3と比べて押出生産性が劣ることが確認された。また、有機過酸化物が本発明の範囲(1〜10重量部)を超えた量で配合されている比較例2は、実施例1〜3と比べて耐熱性及び耐油性が劣ることが確認された。
【0034】
実施例1と比較例3,4を比較すると、有機過酸化物が本発明のペルオキシエステル系でないものを配合している比較例3,4は機械的強度が劣り、比較例4は更に押出生産性にも劣ることが確認された。
【0035】
含フッ素エラストマーとして、エチレン−エチレン性不飽和エステル共を含んでいない比較例5は、実施例1と比べて押出成形性が劣り成型が非常に困難であることが確認された。
【0036】
また、実施例1と実施例8を比較すると、エチレン性不飽和エステル12重量未満の実施例8は、実使用上問題のない程度だが、実施例1と比べて機械的強度に劣ることが確認された。
【0037】
実施例1,6,7と実施例9を比較すると、含フッ素エラストマーとエチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体が本発明の範囲(95:5〜80:20重量部)を超えた量で配合されている実施例9は、実使用上問題ない程度だが、実施例1,6,7と比べて耐熱性及び耐油性が劣ることが確認された。
【0038】
実施例1,4,5と実施例10を比較すると、金属炭酸塩粉末が本発明の範囲(1〜70重量部)に満たない量で配合されている実施例10は、実使用上問題ない程度だが、実施例1,4,5と比べて押出性形成に劣ることが確認された。また、実施例1,4,5と実施例11を比較すると、金属炭酸塩粉末が本発明の範囲(1〜70重量部)を超えた量で配合されている実施例11は、実使用上問題ない程度だが、実施例1,4,5と比べて機械的強度、耐熱性に劣ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上詳述したように本発明によれば、機械的強度、耐熱性、耐油性、押出成形性及び押出生産性をバランス良く兼ね備えた含フッ素エラストマー組成物を得ることができる。その為、この含フッ素エラストマー組成物は、例えば、電気機器内配線や自動車用ハーネスの絶縁体などとして好適である。使用用途としてはこれらに限定されることはなく、例えば、コード状ヒータの絶縁被覆材料、チューブの構成材料などとしても使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体とエチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体とを混和した含フッ素エラストマー混和物100重量部に対し、ペルオキシエステル系である有機過酸化物0.5〜10重量部が配合されている含フッ素エラストマー組成物。
【請求項2】
上記含フッ素エラストマー混和物が、テトラフルオロエチレン−α−オレフィン共重合体とエチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体とを95:5〜80:20の範囲で混和したものであることを特徴とする請求項1記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項3】
上記エチレン−エチレン性不飽和エステル共重合体が、12重量%以上のエチレン性不飽和エステルを含んでいることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の含フッ素エラストマー組成物。


【公開番号】特開2009−132761(P2009−132761A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308222(P2007−308222)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000129529)株式会社クラベ (125)
【Fターム(参考)】