説明

含フッ素ケトアルコール及びその誘導体の製造方法

【課題】含フッ素ケトアルコール類を高収率で製造できる方法を提供する。
【解決手段】一般式[4]で表される含フッ素ケトアルコール


(式中、R及びRは同一又は異なって水素原子、炭素数1〜7のアルキル基、又はアリール基である。)の製造方法であって、ヘキサフルオロアセトンと、一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物


(式中、Rは炭素数1〜7のアルキル基、炭素数1〜7のアルカノイル基等であり、R及びRは前記に同じ。)、及び/又は、エンスルホンアミド化合物とを反応させた後、加溶媒分解することを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次世代フォトレジスト材料に対応するモノマーの原料として有用な含フッ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素ケトアルコール類は、次世代レジスト材料のモノマー用の中間原料として有望な化合物であり、このカルボニル還元体である1,3−ジオール化合物と(メタ)アクリル酸類とのエステルを構成単位とするレジスト材料は、光の透過性や表面吸着性に優れていることが知られている。
【0003】
含フッ素ケトアルコール類の製造方法としては、例えば次のようなものが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、アセトンとヘキサフルオロアセトンを、密閉加圧容器中160℃で加熱して含フッ素ケトアルコール類を製造する方法が記載されている。しかし、反応を160℃に加熱するためには4MPa程度の高い圧力がかかり、この圧力に耐える反応装置が必要となる。一方で、この反応を実用的な圧力で行おうとすると、長時間反応させても反応がほとんど進行しない。
【0005】
また、特許文献2及び非特許文献1には、アセトンと1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロアセトンを、無触媒乃至硫酸、BFエーテラート等の酸触媒の存在下でアルドール反応させて含フッ素ケトアルコールを製造する方法が記載されている。しかし、この製造方法によれば、酸触媒を反応液に投入する必要があり、それに耐え得る反応装置を選択する必要があった。特許文献1と比較すれば比較的低い圧力で製造することが可能であるが、依然として圧力容器を用いて製造を行う必要があった。さらに、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロアセトンに対してアセトンを過剰量用いなければ選択率よく、含フッ素ケトアルコールを製造することかできず、過剰に用いたアセトンを再利用するか、廃棄物として処分する必要があった。また、アセトンを過剰に用いても1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロアセトンがアセトンに2分子付加した副生成物が得られることも問題である。
【特許文献1】米国特許3662071号明細書
【特許文献2】特開2005−239710号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・フルオライン・ケミストリ, 128(2007) 902-909
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記のような問題が生じない工業的規模で適用可能な簡便且つ穏和な条件で含フッ素ケトアルコール類を高収率で製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ヘキサフルオロアセトンに、所定のエノールエーテル化合物及び/又はエンスルホンアミド化合物を、無触媒下で反応させた後、加溶媒分解することにより含フッ素ケトアルコール類が得られることを見いだした。
【0008】
これらの方法は、基本的に無触媒の条件下、反応温度及び反応圧力も穏和な条件下で実施することができ、しかも高収率で含フッ素ケトアルコール類が製造できることから、工業的スケールに適している。かかる知見に基づき更に研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、一般式[3]で示される含フッ素ケトアルコール
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、2つのRあるいはRとRがつながって環を形成していてもよくさらに該環上に置換基を有してもよい。)
の製造方法であって、
式[1]で示されるヘキサフルオロアセトン
【0012】
【化2】

【0013】
と、一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R2は置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルカノイル基、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルコキシカルボニル基、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジルオキシカルボニル基、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジル基、又はトリ炭化水素基置換シリル基であり、RとRはつながって環を形成していてもよい。R及びRは前記に同じ。)、及び/又は、
一般式[10]で示されるエンスルホンアミド化合物
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、Rは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、R及びRは前記に同じ。)
とを反応させた後、酸又は塩基の存在下で加溶媒分解することを特徴とする含フッ素ケトアルコールの製造方法に関する。
【0018】
一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物を用いた場合には、前記Rが水素原子、Rがメチル基であり、前記Rがメチル基又はアセチル基のものが好ましい。前記R、Rが水素原子であり、前記Rが炭素数1〜7のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基)又はアセチル基のものも好ましい。
【0019】
一般式[10]で示されるエンスルホンアミド化合物を用いた場合には、前記Rの一方が水素原子で他の一方がメチル基、Rがアリール基のものが好ましい。前記R及びRがメチル基のものも好ましい。前記Rが水素原子のものも好ましい。前記Rがアリール基のものも好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ヘキサフルオロアセトンとエノールエーテル化合物及び/又はエンスルホンアミド化合物とから、穏和な条件下で目的とする含フッ素ケトアルコールを高収率で製造することができる。このため本発明は、工業的な規模で含フッ素ケトアルコールを製造するための優れた方法である。得られた含フッ素ケトアルコールは効率よく含フッ素1,3−ジオールに変換することができる。また、含フッ素1,3−ジオールは、アクリル酸誘導体と反応させると、容易に含フッ素アクリル酸エステルに誘導できる。含フッ素アクリル酸エステルは、レジスト材料のモノマーとして有効に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
(第I工程)
第I工程では、式[1]で示される1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロアセトンと、一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物及び/又は一般式[10]で示されるエンスルホンアミド化合物を反応させた後、得られた混合物を酸又は塩基の存在下で加溶媒分解する。
【0022】
式[1]で示される1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロアセトンとの反応は、一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物及び一般式[10]で示されるエンスルホンアミド化合物をそれぞれ単独で反応させることもでき、また両者を混合して反応させることもできる。両者を混合して反応させる場合には、一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物におけるR及びRは、一般式[10]で示されるエンスルホンアミド化合物のR及びRと同一又は異なっていてもよい。
【0023】
以下、一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物、及び一般式[10]で示されるエンスルホンアミド化合物のそれぞれの反応について具体的に説明する。
【0024】
エノールエーテル化合物[2]の反応
第I工程では、式[1]で示される1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロアセトンと、一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物を反応させた後、得られた混合物を加溶媒分解する。
【0025】
【化5】

【0026】
(式中、R、R及びRは前記に同じ。)
R及びRで示される置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基の炭素数1〜7のアルキル基は、直鎖、分岐又は環状のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等が挙げられる。
【0027】
炭素数1〜7のアルキル基上の置換基としては、アルコキシ基、アルカノイル基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン原子等が挙げられ、該アルキル基上にこれらのうちの1〜3個が置換されていてもよい。
【0028】
R及びRで示される置換基を有してもよいアリール基のアリール基としては、フェニル基、トルイル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0029】
アリール基上の置換基としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、ニトロ基、アミノ基、ハロゲン原子が挙げられ、該アリール基上にこれらのうちの1〜3個が置換されていてもよい。
【0030】
2つのR同士あるいはRとRがつながって環を形成している場合、該環を形成する炭素−炭素結合は不飽和結合(二重結合等)を含んでいてもよく、該環上の置換基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、アルコキシ基、オキソ基(=O)等があげられる。該環上にはこれらのうちの1〜3個が置換されていてもよい。
【0031】
Rとして好ましくは、水素原子、メチル基であり、Rとして好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、シクロヘキシル基である。
【0032】
で示される置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基は、直鎖、分岐又は環状のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基である。
【0033】
炭素数1〜7のアルキル基上の置換基としては、アルコキシ基、アルカノイル基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン原子等が挙げられ、該アルキル基上にこれらのうちの1〜3個が置換されていてもよい。
【0034】
で示される置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルカノイル基のアルカノイル基は、直鎖、分岐又は環状のいずれであってもよく、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ビバロイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。好ましくは、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基である。
【0035】
で示される置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルコキシカルボニル基は、直鎖、分岐又は環状のいずれであってもよく、例えば、メトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル等が挙げられる。好ましくは、t-ブトキシカルボニル基である。
【0036】
炭素数1〜7のアルカノイル基及びアルコキシカルボニル基上の置換基としては、アルコキシ基、アルカノイル基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン原子等が挙げられ、該アルカノイル基上にこれらのうちの1〜3個が置換されていてもよい。
【0037】
で示されるベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジルオキシカルボニル基又はベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジル基の置換基としては、ニトロ基、メトキシ基等が挙げられる。
【0038】
で示されるトリ炭化水素基置換シリル基は、ケイ素上の3つの炭化水素基は同一又は異なっていてもよく、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル、トリイソプロピルシリル等のトリアルキルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル等が挙げられる。
【0039】
一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物の具体例としては、例えば、2−メトキシプロペン、2−ベンジルオキシプロペン、エチルビニルエーテル、ビニルピバレート、ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソプロペニルアセテート、イソプロペニルクロロホルメート、ビニルプロピオネート、ビニルアセテート、2−メトキシ−1−プロペニルベンゼンが挙げられる。また、2−トリメチルシロキシプロペン、2−トリエチルシロキシプロペンなどのようにケトン類から誘導できるシリルエノールエーテル化合物も挙げることができる。ケトン類としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチルn − プロピルケトン、イソプロピルメチルケトン、メチルn − ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ピナコロン、ジエチルケトン、ジn − プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ブチロフェノン、バレロフェノンなどが挙げられる。
【0040】
2つのR同士あるいはRとRがつながって環を形成している化合物は、環上にはオキソ基や二重結合を含んでいてもよく、このような化合物としては、例えば、2,3−ジヒドロ−5−メチルフラン、1,5−ジメトキシ−1,4−シクロヘキサジエン、1−シクロペンテ−1−ニルアセテート、3−エトキシ−2−シクロヘキセノン、6,7−ジヒドロシクロペンタン−1,3−ジオキシン−5(4H)−オン、1−メトキシ−2−メチル−1,4−シクロヘキサジエン、3−エトキシ−2−シクロペンテン−1−オン、3−メトキシ−2−シクロペンテン−1−オン、1−メトキシ−1,4−シクロヘキサジエン等が挙げられる。
【0041】
また、シリルエノールエーテル化合物に誘導して使用できる環状ケトン類としてはシクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、インダノン等が挙げられる。
【0042】
これらの一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物は公知の方法で合成することができる他、試薬としても容易に入手可能である。
【0043】
このうち、生成物の有用性が顕著なことから、2−メトキシプロペン又はイソプロペニルアセテートが特に好ましい例である(R1=メチル基又はアセチル基、R=水素原子)。一般式[2]で表されるエノールエーテル化合物が2−メトキシプロペン又はイソプロペニルアセテートである場合には、含フッ素ケトアルコールとして1,1−ビス(トリフルオロメチル)−1−ヒドロキシブタン−3−オンが得られる。これを、後述するように、水素化金属化合物を用いての反応又は水素を用いる接触水素化反応で還元して1,1−ビス(トリフルオロメチル)−ブタン-1,3-ジオールを得る。
【0044】
また、2−トリメチルシロキシプロペン、2−ベンジルオキシプロペン、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ビニルアセテート、2−メトキシ−1−プロペニルベンゼンも好ましい。
【0045】
本反応は、例えばバッチ式反応装置において実施することができる。以下においてその反応条件を述べるが、それぞれの反応装置において、当業者が容易に調節しうる程度の反応条件の変更を妨げるものではない。
【0046】
まず、ヘキサフルオロアセトンとエノールエーテル化合物との反応工程について説明する。この工程は、ヘキサフルオロアセトンを、一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物と反応させる。
【0047】
本反応では特に添加剤等は必要なく、ヘキサフルオロアセトンとエノールエーテル化合物を混合するだけで反応は進行する。なお、添加剤として酸等を用いてもよいが、反応の促進効果はほとんどない。酸を用いる場合、例えば、塩化アルミニウム、塩化スズ、塩化鉄、塩化チタン等の金属塩化物、硫酸等の無機酸等が例示される。添加剤を用いる場合、その使用量は、ヘキサフルオロアセトン1モルに対して、1モル以下、好ましくは0.01〜0.2モルである。
【0048】
本反応の反応温度は、通常−20〜140℃であり、−10〜100℃が好ましく、0〜60℃がより好ましい。−20℃未満ではエネルギー効率の観点から経済的に好ましくない。また、140℃を超えると副生成物の生成及びエノールエーテル化合物の分解が見られることから好ましくない。
【0049】
本反応の反応圧力は、一般に−0.1〜0.8MPa(G)であり、−0.1〜0.4MPa(G)が好ましく、−0.1〜0.1MPa(G)がより好ましい。通常、常圧下で反応を行う。また、反応器内を真空状態(760Torr以下)にした状態で反応を行うことができる。このように非常に穏和な条件下で反応が進行し、エノールエーテル化合物の付加反応の際に触媒を添加する必要がないため、反応設備のコストが低減される。
【0050】
エノールエーテル化合物の配合量は、ヘキサフルオロアセトン1モルに対して0.8〜10.0モルであり、0.9〜2.0モルが好ましく、1.0〜1.1モルがより好ましい。ヘキサフルオロアセトン1モルに対してエノールエーテル化合物の量が0.8モル未満では、ヘキサフルオロアセトンが0.2モル以上反応に関与しないため、目的物の収率が低下し、10.0モルを超えると反応に関与しないエノールエーテル化合物が増加し、廃棄の手間から経済的に好ましくない。
【0051】
本反応において特に溶媒を用いる必要はないが、エノールエーテル化合物が固体の場合には、エノールエーテル化合物が可溶な溶媒を使用すると、反応が特に円滑に進行するため好ましい。使用可能な溶媒の種類に特別な制限はないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の炭化水素化合物、ジエチルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等が好ましく、これらは単独で用いても複数の溶媒を併用しても良い。また、第I工程の反応は、水が存在しない条件下で行うのが好ましい。
【0052】
上記反応に要する時間は、反応温度、原料の配合量等に依存する。適宜、ガスクロマトグラフィー、薄相クロマトグラフィーなどの手段で、反応の進行状況を確認しつつ反応を行うことが好ましい。
【0053】
本反応では、エノールエーテル化合物及び必要に応じて溶媒を含む混合物に、ヘキサフルオロアセトンを添加(導入)しながら反応させることが好ましい。これにより反応系の内圧の調整が容易であるとともに、反応の終点の確認が簡便となる。例えば、反応の進行中は、ヘキサフルオロアセトンの消費による内圧の減少を、該化合物の添加により補い所定の内圧となるように反応条件を設定することができ、反応の終了時には、該化合物が消費されなくなるため反応系内の内圧が上昇する。この内圧の上昇により反応の終点を容易に確認することができる。
【0054】
本反応に使用される反応器は、ガラス、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂などを内部にライニングしたもの、グラス容器もしくはステンレスで製作したものが好ましい。
【0055】
なお、上記の反応で得られる化合物は通常混合物となる、例えば、エノールエーテル化合物と反応した場合は、通常、主に下記の一般式[7]、一般式[8]、一般式[9]で示される化合物の混合物となる。なお、Rが置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基であり、Rが置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、芳香環上に置換基を有してもよいベンジル基、トリ炭化水素基置換シリル基の場合には、一般式[7]及び/又は一般式[8]で示される化合物を主生成物として与えることが確認されている。これは、ヘキサフルオロアセトンとエノールエーテル化合物がエン反応することにより得られた化合物と推定される。また、R及びRが水素原子あるいはRが置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルカノイル基、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルコキシカルボニル基の場合には、一般式[9]のオキセタン化合物を主生成物として与えることが確認されている。これは、ヘキサフルオロアセトンとエノールエーテル化合物が[2+2]付加環化反応することにより得られた化合物と推定される。
【0056】
【化6】

【0057】
(式中、R1’は置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキリデン基であり、R1’、R及びRはいずれか2つ以上がつながって環を形成していてもよくさらに該環上に置換基を有してもよい。R、R及びRは前記に同じ。)
引き続いて、上記で得られる混合物を特に精製することなく含フッ素ケトアルコールに変換する。変換するための方法としては、酸又は塩基の存在下に加溶媒分解法(例えば、加水分解法、アルコリシス又はエステル交換法等)を用いることができる。
【0058】
具体的には、加水分解法を採用する場合には、塩酸等の無機酸;メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類;水酸化ナトリウム等の水酸化物塩、炭酸ナトリウム等の炭酸塩等を添加した、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール等)等を使用することができる。
【0059】
アルコリシス又はエステル交換法を採用する場合には、塩酸等の無機酸;メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類等添加した、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール等)を使用することができる。
【0060】
上記混合物中にトリ炭化水素基置換シリル基を含有している場合はフッ化セシウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、テトラブチルアンモニウムフルオライド等を用いてフッ化物イオンを反応系中に存在させることで分解することが可能である。
【0061】
上記の加溶媒分解反応において用いられる酸又は塩基の使用量は、原料のヘキサフルオロアセトン1モルに対して、一般に0.005〜10.0モルであり、0.01〜5.0モルが好ましく、0.1〜2.0モルがより好ましい。使用量が0.005モル未満では反応速度が低下し、10.0モルを超えると反応に関与しない過剰の酸又は塩基の量が増加し廃棄に手間がかかるとともに経済的にも好ましくない。
【0062】
上記の加溶媒分解の反応温度は、通常0〜140℃であり、20〜120℃が好ましく、30〜100℃がより好ましい。0℃未満ではエネルギー効率の観点から経済的に好ましくなく、反応の進行も遅くなる。また、140℃を超えるとエネルギー効率の観点から経済的に好ましくない。
【0063】
反応終了後は、常法に従い目的物である一般式[3]で示される含フッ素ケトアルコールを精製する。精製方法としては、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶、晶析等が挙げられる。なお、必要に応じて精製することなく第II工程に供することもできる。
【0064】
エンスルホンアミド化合物[10]の反応
第I工程における他の方法として、式[1]で示される1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロアセトンと、一般式[10]で示されるエンスルホンアミド合物を反応させた後、得られた混合物を加溶媒分解する。
【0065】
【化7】

【0066】
(式中、R、R、R及びRは前記に同じ。)
R及びRは、一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物との反応におけるR及びRと同義である。
【0067】
Rとして好ましくは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基(特にメチル基)であり、より好ましくは2つのRの一方が水素原子で他の一方がメチル基である。Rとして好ましくは、アルコキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよいアリール基(特にフェニル基)、炭素数1〜5のアルキル基であり、より好ましくはフェニル基、メトキシ(特にp-メトキシ)フェニル基、クロロ(特にp-クロロ)フェニル基、エチル基である。
【0068】
及びRで示される置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基の炭素数1〜7のアルキル基は、直鎖、分岐又は環状のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等が挙げられる。
【0069】
炭素数1〜7のアルキル基上の置換基としては、アルコキシ基、アルカノイル基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン原子等が挙げられ、該アルキル基上にこれらのうちの1〜3個が置換されていてもよい。
【0070】
及びRで示される置換基を有してもよいアリール基のアリール基としては、フェニル基、トルイル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0071】
アリール基上の置換基としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、ニトロ基、アミノ基、ハロゲン原子が挙げられ、該アリール基上にこれらのうちの1〜3個が置換されていてもよい。
【0072】
として好ましくはアリール基であり、より好ましくはフェニル基、トルイル基、フェニル基、である。
【0073】
として好ましくは水素原子である。
【0074】
一般式[10]で示されるエンスルホンアミド化合物の具体例としては、例えば、N-(ベンゼンスルホニル)-(E)-1-フェニルプロプ-1-エン-1-アミン、N-(ベンゼンスルホニル)-(Z)-1-フェニルプロプ-1-エン-1-アミン、N-((p-メトキシ)-ベンゼンスルホニル)-(E)-1-フェニルプロプ-1-エン-1-アミン、N-((p-メトキシ)-ベンゼンスルホニル)-(Z)-1-フェニルプロプ-1-エン-1-アミン、N-((p-クロロ)-ベンゼンスルホニル)-(E)-1-フェニルプロプ-1-エン-1-アミン、N-((p-クロロ)-ベンゼンスルホニル)-(Z)-1-フェニルプロプ-1-エン-1-アミンが挙げられる。
【0075】
これらの一般式[10]で示されるエンスルホンアミド化合物は公知の方法で合成することができる(例えば、アンゲバンテ・ケミー・インターナショナル・エディション, 2007, 46, 3047-50)。このうち、生成物の有用性から、N-(ベンゼンスルホニル)-(Z)-1-フェニルプロプ-1-エン-1-アミンが、特に好ましい例である(R1=フェニル基、R=水素原子及びメチル基)。
【0076】
一般式[10]で表されるエンスルホンアミド化合物がN-(ベンゼンスルホニル)-(Z)-1-フェニルプロプ-1-エン-1-アミンである場合には、含フッ素ケトアルコールとして3,3−ビス(トリフルオロメチル)-3-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンが得られる。これを、水素化金属化合物を用いての反応又は水素を用いる接触水素化反応で還元して3,3-ビス(トリフルオロメチル)2-メチル-1-フェニルプロパン-1,3-ジオールを得ることが出来る。
【0077】
本反応は、例えばバッチ式反応装置において実施することができる。以下においてその反応条件を述べるが、それぞれの反応装置において、当業者が容易に調節しうる程度の反応条件の変更を妨げるものではない。
【0078】
ヘキサフルオロアセトンとエンスルホンアミド化合物との反応工程について説明する。この工程は、ヘキサフルオロアセトンを、一般式[10]で示されるエンスルホンアミド化合物と反応させる。
【0079】
本反応では特に添加剤等は必要なく、ヘキサフルオロアセトンとエンスルホンアミド化合物を混合するだけで反応は進行する。なお、添加剤として酸等を用いてもよいが、反応の促進効果はほとんどない。酸を用いる場合、例えば、塩化アルミニウム、塩化スズ、塩化鉄、塩化チタン等の金属塩化物、硫酸等の無機酸等が例示される。添加剤を用いる場合、その使用量は、ヘキサフルオロアセトン1モルに対して、1モル以下、好ましくは0.01〜0.2モルである。
【0080】
本反応の反応温度は、通常−20〜140℃であり、−10〜100℃が好ましく、0〜60℃がより好ましい。−20℃未満ではエネルギー効率の観点から経済的に好ましくない。また、140℃を超えると副生成物の生成及びエンスルホンアミド化合物の分解が見られることから好ましくない。
【0081】
本反応の反応圧力は、一般に−0.1〜0.8MPa(G)であり、−0.1〜0.4MPa(G)が好ましく、−0.1〜0.1MPa(G)がより好ましい。通常、常圧下で反応を行う。また、反応器内を減圧状態(760Torr以下)にした状態で反応を行うこともできる。このように非常に穏和な条件下で反応が進行し、エンスルホンアミド化合物の付加反応の際に触媒を添加する必要がないため、反応設備のコストが低減される。
【0082】
エンスルホンアミド化合物の配合量は、ヘキサフルオロアセトン1モルに対して0.02〜10.0モルであり、0.05〜2.0モルが好ましく、0.05〜1.1モルがより好ましい。
【0083】
本反応においてエンスルホンアミド化合物が固体の場合には、エンスルホンアミド化合物が可溶な溶媒を使用すると、反応が特に円滑に進行するため好ましい。使用可能な溶媒の種類に特別な制限はないが、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系化合物、ジエチルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等が好ましく、これらは単独で用いても複数の溶媒を併用しても良い。また、第I工程の反応は、水が存在しない条件下で行うのが好ましい。
【0084】
上記反応に要する時間は、反応温度、原料の配合量等に依存する。適宜、ガスクロマトグラフィー、薄相クロマトグラフィーなどの手段で、反応の進行状況を確認しつつ反応を行うことが好ましい。
【0085】
本反応では、エンスルホンアミド化合物及び必要に応じて溶媒を含む混合物に、ヘキサフルオロアセトンを添加(導入)しながら反応させることが好ましい。これにより反応系の内圧の調整が容易であるとともに、反応の終点の確認が簡便となる。例えば、反応の進行中は、ヘキサフルオロアセトンの消費による内圧の減少を、該化合物の添加により補い所定の内圧となるように反応条件を設定することができ、反応の終了時には、該化合物が消費されなくなるため反応系内の内圧が上昇する。この内圧の上昇により反応の終点を容易に確認することができる。
【0086】
本反応に使用される反応器は、ガラス、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂などを内部にライニングしたもの、グラス容器もしくはステンレスで製作したものが好ましい。
【0087】
引き続いて、上記で得られる混合物を特に精製することなく含フッ素ケトアルコールに変換する。変換するための方法としては、酸又は塩基の存在下に加溶媒分解法(例えば、加水分解法、アルコリシス法等)を用いることができる。
【0088】
具体的には、加水分解法を採用する場合には、塩酸等の無機酸;メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類;水酸化ナトリウム等の水酸化物塩、炭酸ナトリウム等の炭酸塩等を添加した、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール等)等を使用することができる。
【0089】
アルコリシス又はエステル交換法を採用する場合には、塩酸等の無機酸;メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類等添加した、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール等)を使用することができる。
【0090】
上記の加溶媒分解反応において用いられる酸又は塩基の使用量は、原料のヘキサフルオロアセトン1モルに対して、一般に0.005〜10.0モルであり、0.01〜5.0モルが好ましく、0.1〜2.0モルがより好ましい。使用量が0.005モル未満では反応速度が低下し、10.0モルを超えると反応に関与しない過剰の酸又は塩基の量が増加し廃棄に手間がかかるとともに経済的にも好ましくない。
【0091】
上記の加溶媒分解の反応温度は、通常0〜140℃であり、20〜120℃が好ましく、30〜100℃がより好ましい。0℃未満ではエネルギー効率の観点から経済的に好ましくなく、反応の進行も遅くなる。また、140℃を超えるとエネルギー効率の観点から経済的に好ましくない。
【0092】
反応終了後は、常法に従い目的物である一般式[3]で示される含フッ素ケトアルコールを精製する。精製方法としては、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶、晶析等が挙げられる。
(第II工程)
第II工程では、一般式[3]で表される含フッ素ケトアルコールを還元し、一般式[4]で示される含フッ素1,3−ジオール化合物を得る工程である。一般式[3]の含フッ素ケトアルコールとしては、本発明の第I工程によって製造されたものを用いることができる。
【0093】
【化8】

【0094】
(式中、R及びRは前記に同じ。)
本工程は、一般的な還元の手段によればよいが、通常、水素化金属化合物を用いて還元又は水素を用いて接触水素化により還元する方法が採用される。また、グリニア試薬などを用いることで増炭しつつ含フッ素1,3−ジオール化合物とすることも可能である。好ましい方法、条件等につき、以下に述べる。
【0095】
まず、水素化金属化合物を用いて一般式[3]で表される含フッ素ケトアルコールを還元して、一般式[4]で示される含フッ素1,3−ジオール化合物を得る方法について説明する。使用される水素化金属化合物は、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化トリ(sec-ブチル)ホウ素リチウム、水素化トリ(sec-ブチル)ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素亜鉛、アセトキシ水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、ジボラン等が挙げられる。
【0096】
このうち、水素化ホウ素化合物は安定性も高く取扱いが容易であり、水を溶媒とできるため好ましい。さらに水素化ホウ素ナトリウムは商業的に容易に入手でき、活性も高いことから好ましい。なお、これらの水素化金属化合物の複数種類を共存させて行うこともできる。
【0097】
本反応に用いる水素化金属化合物の量は、一般式[3]で表される含フッ素ケトアルコール1モルに対して、通常0.25モル〜1.00モルであり、0.40モル〜0.90モルが好ましい。水素化金属化合物が上記下限値よりも少ないと反応が完結せず、上限値よりも多いと経済的に好ましくないことに加えて、反応を終了する際に水素の発生が多く好ましくない。
【0098】
本反応において、反応を円滑に進行させるために溶媒を使用することが好ましい。使用可能な溶媒の種類に特別な制限はないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族化合物;ジエチルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、tert-ブチルアルコール、トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系溶媒;水等が好ましく、これらは単独で用いても、複数の溶媒を併用しても良い。
【0099】
本反応に使用する溶媒の使用量は、一般式[3]で表される含フッ素ケトアルコール1gに対して、通常0.005〜10gであり、0.01〜6gが好ましく、0.1〜4gがより好ましい。100gを超えると生産性の観点から経済的に好ましくない。
【0100】
本反応の反応温度は通常、−10〜110℃であり、0〜80℃が好ましく、10℃〜50℃がより好ましい。−10℃未満では反応速度が遅く実用的製造法とはならない。また、110℃を超える温度に加熱すると、エネルギー効率の観点からも経済的に好ましくない。
【0101】
水素化金属を用いて還元を行う反応器は、ガラス、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂などを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作したものが好ましい。
【0102】
水素化金属を用いて還元を行う際に要する時間は、反応温度、水素化金属化合物の種類、配合量に依存する。適宜、ガスクロマトグラフィー、薄相クロマトグラフィーなどの手段で、反応の進行状況を確認しつつ反応を行うことが好ましい。
【0103】
次に、一般式[3]で表される含フッ素ケトアルコールを、触媒の存在下、水素により還元し、一般式[4]で示される含フッ素1,3−ジオール化合物を得る方法について説明する。
【0104】
使用される触媒は、ルテニウム触媒、ロジウム触媒等を用いることができる。
【0105】
ルテニウム触媒としては、例えば、ルテニウム金属、ルテニウムを担体(活性炭、アルミナ、シリカ、クレー等)に担持したものの他、ルテニウム塩(例えば、RuCl3,RuBr3、Ru(NO33など)、ルテニウム錯体(例えばRu(CO)5,Ru(NO)5,K4[Ru(CN)6]、Ru(phen)3Cl3(なおphenはフェナントロリンを表す))、酸化ルテニウム等が挙げられる。
【0106】
ロジウム触媒としては、例えば、ロジウム金属、又はロジウムを担体(活性炭、アルミナ、シリカ、クレー等)に担持させたものの他、ロジウム塩、ロジウム錯体などが挙げられる。
【0107】
なお、特許文献2ではルテニウム触媒が好ましいとの記載があるが、ロジウム触媒を用いても良好に還元反応が進行する。
【0108】
このうち、ルテニウムあるいはロジウムを担体に担持させた固相触媒が、高い活性を示しかつ安定性も高く、取扱いが容易であるため好ましい。
【0109】
また、Ru/C(ルテニウムカーボン触媒)、ルテニウム−アルミナ触媒、ルテニウム−シリカ触媒、Rh/C(ロジウムカーボン触媒)、ロジウム−アルミナ触媒、ロジウム−シリカ触媒、Pd/C(パラジウムカーボン触媒)は商業的に容易に入手できることから好ましい。これらは含水品(例えば、触媒全重量中、50重量%の水を含む製品)を使用すると特に取扱いやすい。またこれらの触媒の固体成分(水以外の成分)中の金属の含量には特別な制限はないが、2重量〜10重量%程度(例えば5重量%)のものが、入手も容易で、安定性も高く、取扱いやすいため、好ましく用いられる。
【0110】
なお、これらの金属触媒の複数種類を共存させて本還元反応を行うこともできる。しかし、通常、複数の種類の金属触媒を共存させても特別のメリットはない。
【0111】
用いる金属触媒の量は、一般式[3]で表される含フッ素ケトアルコール1モルあたり、金属原子換算で通常0.0002モル〜0.04モルであり、0.0004モル〜0.02モルが好ましく、0.001モル〜0.01モルがさらに好ましい。金属触媒が上記下限値よりも少ないと、反応速度が低下し、上限値よりも多いと経済的に好ましくない。
【0112】
水素は、常圧(0.1MPa)〜5MPaで供給することができるが、水素圧を加圧で供給すると、反応速度が上がり、操作も簡便であるため好ましい。具体的には0.15〜2MPaが好ましく、0.3〜1.5MPaで行うとさらに好ましい。なお、常圧未満であっても反応を行うことはできるが、反応が遅くなることがあり、設備的にも煩雑になるため特にメリットはない。
【0113】
使用する金属触媒は、安定性は高く空気中でも用いることができるが、より高い活性を維持するために、反応基内を水素ガスで置換し、空気(酸素)を排除した上で反応を行うことが特に効果的である。
【0114】
本反応においては、反応が円滑に進行するために溶媒を使用することが好ましい。使用可能な溶媒の種類に特別な制限はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族化合物;ジエチルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、tert-ブチルアルコール、トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系溶媒等が好ましく、これらは単独で用いても、複数の溶媒を併用しても良い。
【0115】
使用する溶媒の量は、一般式[3]で表される含フッ素ケトアルコール1gに対して0.005〜100gであり、0.01〜20gが好ましく、0.1〜5gがより好ましい。100gを超えると生産性の観点から経済的に好ましくない。
【0116】
反応温度は通常、0〜150℃であり、30〜120℃が好ましく、50℃〜110℃がより好ましい。0℃未満では反応速度が極めて遅く実用的製造法とはならない。また、150℃を超える温度に加熱しても反応速度に著しい変化はなく、エネルギー効率の観点から経済的に好ましくない。
【0117】
接触水素化を行う反応器は、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作したものが好ましい。
【0118】
接触水素化反応に要する時間は、反応温度、触媒の種類、配合量等に依存する。反応基内の圧力等からH2の消費状況を随時観察し、H2の消費が事実上完了した段階で反応を行うことが好ましい。
【0119】
反応終了後は、常法に従い目的物である一般式[4]で示される含フッ素ジオールを精製する。精製方法としては、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶、晶析等が挙げられる。なお、必要に応じて精製することなく第III工程に供することもできる。
(第III工程)
次に第III工程について説明する。第III工程は、第II工程で得られた一般式[4]で表される含フッ素1,3−ジオール化合物を、一般式[5]で表されるアクリル酸誘導体と反応させ、一般式[6]で表される含フッ素アクリル酸エステル類を製造する工程である。
【0120】
【化9】

【0121】
(式中、Rは水素原子、C2m+1、又はC2n+1であり、m及びnは1〜4の整数である。Xは、F、Cl、水酸基又は一般式[5a]:
【0122】
【化10】

【0123】
で示される基である。R及びRは前記に同じ。)
で示されるC2m+1のうちmが1〜2の整数が好ましく、C2n+1のうちnが1あるいは4の整数が好ましい。特に、水素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基が生成物の有用性から特に好ましい。
【0124】
本工程は、一般的なエステル化の手段によればよいが、好ましい方法、条件等につき、以下に述べる。
【0125】
一般式[5]で示されるアクリル酸誘導体がα−置換アクリル酸ハロゲン化物の場合、塩基の共存下に行うことが好ましい。塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、2,6-ジメチルピリジン、ジメチルアミノピリジン、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のものが、好適に用いられる。これらのうちピリジン、2,6-ジメチルピリジンが特に好ましい。
【0126】
使用する塩基の量は、一般式[4]で示される含フッ素1,3−ジオール化合物1モルに対して通常0.2〜2.0モルあり、0.5〜1.5が好ましく、0.9〜1.2モルがより好ましい。基質の含フッ素1,3−ジオール化合物1モルに対して塩基の量が0.2モル未満では反応の選択率、目的物の収率共に低下し、2.0モルを超えると反応に関与しない塩基の量が増加するため経済的に好ましくない。
【0127】
使用するα−置換アクリル酸ハロゲン化物の量は、含フッ素1,3−ジオール化合物1モルに対して0.2〜2.0モルであり、0.5〜1.5モルが好ましく、0.9〜1.2モルがより好ましい。含フッ素1,3−ジオール化合物1モルに対してα−置換アクリル酸ハロゲン化物の量が0.2モル未満では反応の選択率、目的物の収率共に低下し、2.0モルを超えると反応に関与しないα−置換アクリル酸ハロゲン化物が増加し、廃棄の手間から経済的に好ましくない。
【0128】
本反応においては副生成物として塩基のハロゲン化水素酸塩(フッ化水素酸塩、塩酸塩等)が析出する。操作性を改善するため溶媒を使用する必要がある。使用可能な溶媒の種類に特別な制限はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族化合物;ジエチルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒等が好ましく、これらは単独で用いても、複数の溶媒を併用しても良い。
【0129】
使用する溶媒の量は、含フッ素1,3−ジオール化合物1gに対して0.5〜100gであり、1.0〜20gが好ましく、2.0〜10gがより好ましい。溶媒量が含フッ素1,3−ジオール化合物1gに対して0.5g未満では、反応中に析出する塩基の塩酸塩のスラリー濃度が高過ぎるため操作性が低下する。100gを超えると生産性の観点から経済的に好ましくない。
【0130】
反応温度は-50〜200℃であり、-20〜150℃が好ましく、0℃〜120℃がより好ましい。-50℃未満では反応速度が極めて遅く実用的製造法とはならない。また、200℃を超えると原料のα−置換アクリル酸ハロゲン化物もしくは生成物の一般式[6]で示される含フッ素アクリル酸エステル類が重合することから好ましくない。
【0131】
本反応において原料のα−置換アクリル酸ハロゲン化物もしくは生成物の含フッ素エステル化合物が重合することを防止することを目的として重合禁止剤を共存させて行なっても良い。使用する重合禁止剤は2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、2,5-ビステトラメチルブチルヒドロキノン、ロイコキニザリン、ノンフレックスF、ノンフレックスH、ノンフレックスDCD、ノンフレックスMBP、オゾノン35、フェノチアジン、テトラエチルチウラム ジスルフィド、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジン、Q-1300、Q-1301から選ばれる少なくとも一種の化合物である。上記の重合禁止剤は市販品であり容易に入手可能である。
【0132】
使用する重合禁止剤の量は、原料の含フッ素1,3−ジオール化合物1モルに対して0〜0.1モルであり、0.00001〜0.05モルが好ましく、0.0001〜0.01モルがより好ましい。重合禁止剤の量が原料の含フッ素1,3−ジオール化合物1モルに対して0.1モルを超えても重合を防止する能力に大きな差異はなく、そのため経済的に好ましくない。
【0133】
本発明の反応を行う反応器は、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作したものが好ましい。
【0134】
次に一般式[4]で表されるアクリル酸誘導体がα−置換アクリル酸の場合について説明する。使用するα−置換アクリル酸の量は、一般式[4]で表される含フッ素1,3−ジオール化合物1.0モルに対して、通常0.5〜5.0モルであり、0.7〜3.0モルが好ましく、1.0〜2.0モルがより好ましい。含フッ素1,3−ジオール化合物1.0モルに対してα−置換アクリル酸の量が0.5モル未満では反応の転化率、目的物の収率が共に十分でなく、5.0モルを超えると反応に関与しないα−置換アクリル酸が増加し、廃棄の手間から経済的に好ましくない。
【0135】
反応を促進するために添加剤を添加することができる。使用される添加剤としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等有機スルホン酸類、ルイス酸類、硫酸等の無機酸の群から選ばれる少なくとも一種の酸が好適に用いられる。本反応に使用する添加剤の量は基質の含フッ素1,3−ジオール化合物1.0モルに対して、0.01〜2.0モルあり、0.02〜1.8が好ましく、0.05〜1.5モルがより好ましい。基質の含フッ素1,3−ジオール化合物1.0モルに対して添加剤の量が0.01モル未満では反応の転化率、目的物の収率共に低下し、2.0モルを超えると反応に関与しない添加剤の量が増加するため経済的に好ましくない。
【0136】
反応温度は添加剤を添加しない場合は通常80〜200℃、好ましくは100〜180℃、さらに好ましくは120〜160℃で実施することができる。この場合80℃未満では反応速度が極めて遅く、200℃を超えると原料のα−置換アクリル酸もしくは生成物の一般式[6]で表される含フッ素アクリル酸エステル類が重合することがあるから好ましくない。添加剤を添加する場合は0〜160℃、好ましくは30〜140℃、さらに好ましくは50〜120℃で実施する。この場合0℃未満では反応速度が遅く実用的製造法とはならない。また、160℃を超えると副反応が進行し易くなり、目的物の含フッ素エステル化合物の選択率が低下することがあるから好ましくない。本発明においては、添加剤を加えた方が低い温度で十分な反応性が得られ、選択率が向上するので好ましい。すなわち、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等有機スルホン酸類、ルイス酸類、硫酸等の無機酸等の添加剤を系内に共存させ、50〜120℃の温度範囲で、反応を実施することは、本工程の特に好ましい態様である。
【0137】
本反応は、無溶媒でも進行するが反応の均一性、生成する水の留去を考慮すると溶媒を使用するのが望ましい。使用可能な溶媒の種類に特別な制限はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族化合物;ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒;シクロヘキサン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒等が好ましく、これらは単独で用いても、複数の溶媒を併用しても良い。
【0138】
使用する溶媒の量は、含フッ素1,3−ジオール化合物1gに対して通常0.1〜100gであり、0.5〜50gが好ましく、1.0〜20gがより好ましい。溶媒量が含フッ素1,3−ジオール化合物1gに対して0.1g未満では溶媒を使用するメリットを十分に引き出せない。100gを超えると生産性の観点から経済的に好ましくない。
【0139】
この反応においてα−置換アクリル酸もしくは生成物(含フッ素アクリル酸エステル類)が重合することを防止することを目的として、重合禁止剤の共存させることが望ましい。使用する重合禁止剤は、例えば、ヒドロキノン、メトキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、2,5−ビステトラメチルブチルヒドロキノン、ロイコキニザリン、ノンフレックスF(N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン)、ノンフレックスH(N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン)、ノンフレックスDCD(4,4’−ジクミル−ジフェニルアミン)、ノンフレックスMBP(2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール))、オゾノン35(N−(1−メチルヘプチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)、フェノチアジン、テトラエチルチウラム ジスルフィド、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジン、Q−1300(N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン)、Q−1301(N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン アルミニウム塩)から選ばれる少なくとも一種の化合物である。上記の重合禁止剤は市販品であり容易に入手可能である。
【0140】
使用する重合禁止剤の量は、原料の含フッ素1,3−ジオール化合物1.0モルに対して、通常0.0001〜0.1モルであり、0.0001〜0.05モルが好ましく、0.001〜0.01モルがより好ましい。重合禁止剤の量が原料の含フッ素1,3−ジオール化合物1.0モルに対して、0.1モルを超えても重合を防止する能力に大きな差異はなく、そのため経済的に好ましくない。
【0141】
この反応に使用される反応器は、四フッ化エチレン樹脂、クロロ−トリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作したものが好ましい。
【0142】
次に一般式[5]で表されるアクリル酸誘導体がα−置換アクリル酸無水物の場合、即ちXが一般式[5a]で示される基である化合物の場合における、本発明の第III工程を説明する。
【0143】
使用するα−置換アクリル酸無水物の量は、一般式[4]で表される含フッ素1,3−ジオール化合物1.0モルに対して通常0.5〜5.0モルであり、0.7〜3.0モルが好ましく、1.0〜2.0モルがより好ましい。含フッ素1,3−ジオール化合物1.0モルに対してα−置換アクリル酸無水物の量が0.5モル未満では反応の転化率、目的物の収率が共に十分でなく、5.0モルを超えると反応に関与しないα−置換アクリル酸無水物が増加し、廃棄の手間から経済的に好ましくない。
【0144】
反応を促進するために添加剤を添加することができる。使用される添加剤としてはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等有機スルホン酸類、ルイス酸類、硫酸等の無機酸の群から選ばれる少なくとも一種の酸が、好適に用いられる。本反応に使用する添加剤の量は基質の含フッ素1,3−ジオール化合物1.0モルに対して0.01〜2.0モルあり、0.02〜1.8が好ましく、0.05〜1.5モルがより好ましい。基質の含フッ素1,3−ジオール化合物1.0モルに対して添加剤の量が0.01モル未満では反応の転化率、目的物の収率共に低下し、2.0モルを超えると反応に関与しない添加剤の量が増加するため経済的に好ましくない。
【0145】
本反応を実施する際の反応温度は添加剤を添加しない場合は通常80〜200℃、好ましくは100〜180℃、さらに好ましくは120〜160℃で実施する。この場合80℃未満では反応速度が極めて遅く、200℃を超えると原料のα−置換アクリル酸無水物もしくは生成物の一般式[6]で表される含フッ素エステル化合物が重合することがあるから好ましくない。添加剤を添加する場合は0〜80℃、好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは20〜60℃で実施する。この場合0℃未満では反応速度が遅く実用的製造法とはならない。また、80℃を超えると副反応が進行し易くなり、目的物の含フッ素エステル化合物の選択率が低下することがあるから好ましくない。本発明においては、添加剤を加えた方が低い温度で十分な反応性が得られ、選択率が向上するので好ましい。すなわち、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の添加剤、硫酸等の無機酸を系内に共存させ、20〜60℃の温度範囲で、反応を実施することは、本工程の特に好ましい態様である。
【0146】
本反応は、無溶媒でも進行するが反応の均一性、反応後の操作性を考慮すると溶媒を使用するのが望ましい。使用可能な溶媒の種類に特別な制限はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族化合物、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒が好ましく、これらは単独で用いても、複数の溶媒を併用しても良い。
【0147】
本反応に使用する溶媒の量は、含フッ素1,3−ジオール化合物1gに対して通常0.1〜100gであり、0.5〜50gが好ましく、1.0〜20gがより好ましい。溶媒量が含フッ素1,3−ジオール化合物1gに対して0.1g未満では溶媒を使用するメリットを十分に引き出せない。100gを超えると生産性の観点から経済的に好ましくない。
【0148】
この反応においてα−置換アクリル酸無水物もしくは生成物(含フッ素エステル化合物)が重合することを防止することを目的として重合禁止剤を共存させて行っても良く、通常は上記した重合禁止剤を使用することができる。
【0149】
本発明に使用する重合禁止剤の量は原料の含フッ素1,3−ジオール化合物1.0モルに対して通常0.00001〜0.1モルであり、0.0001〜0.05モルが好ましく、0.001〜0.01モルがより好ましい。重合禁止剤の量が原料の含フッ素1,3−ジオール化合物1.0モルに対して0.1モルを超えても重合を防止する能力に大きな差異はなく、そのため、経済的に好ましくない。
【0150】
この反応に使用される反応器は、四フッ化エチレン樹脂、クロロ−トリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作したものが好ましい。
【0151】
反応終了後は、常法に従い目的物である一般式[6]で示される含フッ素エステル化合物を精製する。精製方法としては、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶、晶析等が挙げられる。
【0152】
上記第I〜第III工程により得られる含フッ素エステル化合物は、次世代フォトレジスト材料に対応するモノマーとして有用である。特に、一般式[6]においてRが水素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、Rが水素原子、Rが水素原子あるいはメチル基である含フッ素エステル化合物が好ましい。
【実施例】
【0153】
以下に実施例を示し、本発明の特徴を明確にする。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0154】
以下の実施例において含有率などの物性の評価に使用したNMR及び測定条件は以下のとおりである。
【0155】
NMR:BRUKER社製
1H−NMR測定条件:300MHz(テトラメチルシラン=0ppm)
19F−NMR測定条件:282MHz(トリクロロフルオロメタン=0ppm)
ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物の一部を採取するか、必要に応じて有機成分をジエチルエーテル等により抽出し、これをガスクロマトグラフィーによって測定して得られた、溶媒成分を除く成分の「面積%」を表す。
【0156】
また、GC/MSはPerkinElmer社Clarus500GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)を用いて測定した。
[実施例1]
1,1−ビス(トリフルオロメチル)−1−ヒドロキシブタン−3−オンの製造
(1)ヘキサフルオロアセトンと2−メトキシプロペンとの反応
攪拌機、圧力計、温度計及びガス導入管を備えたガラス製500mL反応器に2−メトキシプロペンを100.0g(1.39モル)入れ、撹拌しながら0℃〜20℃の範囲でヘキサフルオロアセトン217.9g(1.31モル)を1時間かけて導入した。ヘキサフルオロアセトンの導入終了後、0〜10℃で1時間撹拌し、反応を終了とした。反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、過剰の2−メトキシプロペンを除くと1,1,1−トリフルオロ−4−メトキシ−2−トリフルオロメチルペンテ−4−エン−2−オールの存在量は89.9%、1,1,1−トリフルオロ−4−メトキシ−2−トリフルオロメチルペンテ−3−エン−2−オールと考えられるピークの存在量は6.2%、2−メトキシ−2−メチル−4,4−ビス(トリフルオロメチル)オキセタンと考えられるピークの存在量は3.9%であった。
【0157】
1,1,1−トリフルオロ−4−メトキシ−2−トリフルオロメチルペンテ−4−エン−2−オールのスペクトルデータ:
H−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:TMS);δ4.92(s, 1H), 4.22−4.18(m, 2H), 3.26(s, 3H) , 2.77(s, 2H)、19F−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:CClF);δ−77.7(s, 6F)
1,1,1−トリフルオロ−4−メトキシ−2−トリフルオロメチルペンテ−3−エン−2−オール及び2−メトキシ−2−メチル−4,4−ビス(トリフルオロメチル)オキセタンはGC/MSスペクトルの測定結果からその存在が示唆された。
(2)ヘキサフルオロアセトンと2−メトキシプロペンとの反応混合物の加水分解
ヘキサフルオロアセトンと2−メトキシプロペンとの反応で得られた反応混合物317.9gに2N塩酸165gを加え、2時間室温で加水分解した。反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、副生したアセトン及びメタノールを除くと1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−(トリフルオロメチル)ペンタン−4−オンの存在量は97.4%であった。
【0158】
この反応液を分液して298.6gを得た。さらに、ジイソプロピルエーテル40gを用いて水層を再抽出し、ジイソプロピルエーテル溶液層を41.3g得た。
【0159】
ここで得られた有機層339.9gを減圧蒸留して、67℃〜68℃/4.8kPa(1.0kPa=7.5Torr)の留分を集めたところ、目的とする1,1−ビス(トリフルオロメチル)−1−ヒドロキシブタン−3−オンが99.7%の純度で262.1g得られた。収率は88.0%であった。
H−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:TMS);δ6.74(bs, 1H), 2.95(s, 2H), 2.34(s, 3H)、19F−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:CClF);δ−78.9(s, 6F)
[実施例2]
1,1−ビス(トリフルオロメチル)−1−ヒドロキシブタン−3−オンの製造
(1)ヘキサフルオロアセトンとイソプロペニルアセテートとの反応
攪拌機、圧力計、温度計及びガス導入管を備えたSUS316製100mL耐圧反応器にイソプロペニルアセテートを10.0g(0.10モル)入れ、撹拌しながら50℃〜60℃の範囲でヘキサフルオロアセトン15.7g(0.095モル)を1時間かけて導入した。ヘキサフルオロアセトンの導入終了後、50〜60℃で2時間撹拌し、反応を終了とした。反応終了時、反応器内の圧力は0.02MPaであった。反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、過剰のイソプロペニルアセテートを除くと酢酸 2−メチル−4,4−ビストリフルオロメチルオキセタ−2−ニルエステルの存在量は83.9%、酢酸 4,4,4,−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチレン−3−トリフルオロメチルブチルエステルの存在量は16.1%であった。
【0160】
酢酸 2−メチル−4,4−ビストリフルオロメチルオキセタ−2−ニルエステルのスペクトルデータ:
H−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:TMS);δ3.52(s, 2H), 2.20(s, 3H), 2.19(s, 3H)、19F−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:CClF);δ−74.7(s, 6F)
酢酸 4,4,4,−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチレン−3−トリフルオロメチルブチルエステルのスペクトルデータ:
H−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:TMS);δ5.07(dd, 1H), 4.67−4.65(m, 1H), 2.86(s, 2H), 2.14(s, 3H)、19F−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:CClF);δ−77.5(s, 6F)
(2)ヘキサフルオロアセトンとイソプロペニルアセテートとの反応混合物のエステル交換反応
ヘキサフルオロアセトンとイソプロペニルアセテートとの反応で得られた反応混合物2gにメタノール12g(0.38モル)、濃硫酸を0.03g(0.0003モル)を加え、8時間加熱還流した。反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、副生した酢酸メチル及びメタノールを除くと1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−(トリフルオロメチル)ペンタン−4−オンの存在量は98.6%であった。
[実施例3]
1,1−ビス(トリフルオロメチル)−1−ヒドロキシブタン−3−オンの製造
(1)ヘキサフルオロアセトンと2−トリメチルシロキシプロペンとの反応
攪拌機、圧力計、温度計及びガス導入管を備えたガラス製100mL反応器に2−トリメチルシロキシプロペンを10.0g(0.077モル)入れ、撹拌しながら0℃〜20℃の範囲でヘキサフルオロアセトン14.5g(0.087モル)を0.5時間かけて導入した。ヘキサフルオロアセトンの導入終了後、10〜20℃で0.5時間撹拌し、反応を終了とした。反応終了時、反応液をサンプリングして組成をGC/MSにより測定したところ、3種類の2−トリメチルシロキシプロペンにヘキサフルオロアセトンが付加したと考えられる化合物が観測された。各々の化合物を同定することはできなかったが、1,1,1−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−4−トリメチルシラニルオキシペンテ−4−エン−2−オール、トリメチル−(2−メチル−4,4−ビストリフルオロメチルオキセタ−2−ニルオキシ)シラン、1,1,1−トリフルオ−2−トリフルオロメチル−4−トリメチルシロキペン−3−エン−2−オールが存在しているものと考えられる。
(2)ヘキサフルオロアセトンと2−トリメチルシロキシプロペンとの反応混合物の加水分解
ヘキサフルオロアセトンと2−トリメチルシロキシプロペンとの反応でえられた反応混合物0.5gに2N塩酸0.5gを加え、2.5時間室温で加水分解した。反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、副生したアセトン及びトリメチルシラノール、ヘキサメチルシロキサンを除くと1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−(トリフルオロメチル)ペンタン−4−オンの存在量は59.9%であった。
(3)ヘキサフルオロアセトンと2−トリメチルシロキシプロペンとの反応混合物のフッ化物イオン源を用いた分解反応
ヘキサフルオロアセトンと2−トリメチルシロキシプロペンとの反応でえられた反応混合物0.5gに25%フッ化カリウム水溶液0.5gを加え、3時間50℃で分解した。反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、副生したアセトン及びフルオロトリメチルシラン、トリメチルシラノール、ヘキサメチルシロキサンを除くと1,1−ビス(トリフルオロメチル)−1−ヒドロキシブタン−3−オンの存在量は88.3%であった。
(4)ヘキサフルオロアセトンと2−トリメチルシロキシプロペンとの反応混合物の加水分解反応
ヘキサフルオロアセトンと2−トリメチルシロキシプロペンとの反応で得られた反応混合物0.5gに水0.5gを加え、3時間50℃で加水分解した。反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、副生したアセトン及びトリメチルシラノール、ヘキサメチルシロキサンを除くと1,1−ビス(トリフルオロメチル)−1−ヒドロキシブタン−3−オンの存在量は45.4%であった。
[実施例4]
4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−トリフルオロメチルブチルアルデヒドの製造
(1)ヘキサフルオロアセトンとn−ブチルビニルエーテルとの反応
攪拌機、圧力計、温度計及びガス導入管を備えたガラス製100mL反応器にn−ブチルビニルエーテルを10.0g(0.10モル)入れ、撹拌しながら0℃〜20℃の範囲でヘキサフルオロアセトン15.5g(0.093モル)を1.0時間かけて導入した。ヘキサフルオロアセトンの導入終了後、20〜30℃で2時間撹拌し、反応を終了とした。反応終了時、反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、過剰のn−ブチルビニルエーテルを除くと4−ブトキシ−2,2−ビストリフルオロメチルオキセタンの存在量は93.0%であった。
【0161】
4−ブトキシ−2,2−ビストリフルオロメチルオキセタンのスペクトルデータ:H−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:TMS);δ5.56(t, J=5.5Hz,1H), 3.80〜3.69(m, 1H), 3.57〜3.49(m, 1H),3.07〜3.00(m,1H),2.88〜2.81(m,1H),1.64〜1.56(m,2H),1.44〜1.31(m,2H),0.92(t,J=8.1Hz,3H)、19F−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:CClF);δ−79.4〜−79.5 (m, 6F)
(2)ヘキサフルオロアセトンとn−ブチルビニルエーテルとの反応混合物の加水分解
ヘキサフルオロアセトンとn−ブチルビニルエーテルとの反応で得られた反応混合物24.5gに2N塩酸25.0g、ジイソプロピルエーテル25.0gを加え、6時間室温で加水分解した。反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、溶媒で使用したジイソプロピルエーテル、副生したブタノールを除くと4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−トリフルオロメチルブチルアルデヒドの存在量は47%であった。
【0162】
4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−3−トリフルオロメチルブチルアルデヒドのスペクトルデータ:H−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:TMS);δ9.85(s,1H), 5.93(bs, 1H)、19F−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:CClF);δ−78.5 (s, 6F)、GC/MS(M=210)
[実施例5]
1,1−ビス(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールの製造
ジイソプロピルエーテル(48.5g)とIPA(9.8g)の混合液に水素化ホウ素ナトリウム(1.75g、0.046モル)を入れた。1,1−ビス(トリフルオロメチル)−1−ヒドロキシブタン−3−オン(19.5g、0.087モル)をジイソプロピルエーテル(10.0g)に溶解して約10分で滴下した。GCにて反応追跡し、原料がなくなった5時間後に2N塩酸(70.4g)でクエンチした。
【0163】
次に、有機層と水層を分離し、水層にジイソプロピルエーテル(24.0g)を加えて、再抽出した。この再抽出したジイソプロピルエーテルの溶液と先に分液した有機層を混合し、硫酸マグネシウム(4.5g)で乾燥、ろ過後に溶媒留去した。その結果、22.4gの粗体を得た。
【0164】
ここで得られた粗体を減圧下(20mmHg)で蒸留することで19F-NMRの純度で94%(GCでは99GC%)、15.4g(収率:78%)で1,1−ビス(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールを得た。
H−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:TMS); δ 6.62(s,1H) , 4.48−4.42(m,1H) ,2.79(d,J= 3.9Hz,1H), 2.06−2.03(m, 2H),1.31(d,J= 6.0Hz,3H)
19F−NMR( 溶媒:CDCl, 基準物質:CClF) ;δ −76.2 ( q, J=9.9Hz,3F ), −80.0(q, J=10.2Hz, 3F )
[実施例6]
1,1−ビストリフルオロメチルブタン−1,3−ジオールの製造
水(750g)に水素化ホウ素ナトリウム(25.8g、0.68モル)を入れた。1,1−ビス(トリフルオロメチル)−1−ヒドロキシブタン−3−オン(250g、1.12モル)を約30分で滴下した。GCにて反応追跡し、原料がなくなった3時間後に濃塩酸(165.4g)でクエンチした。
【0165】
次に、有機層と水層を分離し、水層にジイソプロピルエーテル(85g)を加えて、再抽出した。この再抽出したジイソプロピルエーテルの溶液と先に分液した有機層を混合し、減圧下(20mmHg)で蒸留することで19F-NMRの純度で96%(GCでは99.9GC%)、191.1g(収率:75%)で1,1−ビストリフルオロメチルブタン−1,3−ジオールを得た。
[実施例7]
1,1−ビストリフルオロメチルブタン−1,3−ジオールの製造
圧力計、温度計及び攪拌機を備えたSUS316製1L耐圧反応器にジイソプロピルエーテルを150mL、1,1−ビス(トリフルオロメチル)−1−ヒドロキシブタン−3−オンを300g(1.34モル)、5%Rh/C(50%含水品、エヌ・イーケムキャット製)を30.0g入れ、反応器内を水素で置換した後、水素圧を1.2MPaとした。オイルバスにより加熱し、内温を110℃とした。6時間後、室温まで冷却し反応を終了とした。反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、溶媒として使用したジイソプロピルエーテルを除くと目的とする1,1−ビストリフルオロメチルブタン−1,3−ジオールの存在量は95.1%であった。触媒の5%Rh/Cを濾別し、これを減圧蒸留して、58℃〜60℃/0.65kPa(1.0kPa=7.5Torr)の留分を集めたところ、目的とする1,1−ビストリフルオロメチルブタン−1,3−ジオールが99.0%の純度で272g得られた。収率は89.0%であった。
[実施例8]
1,1−ビストリフルオロメチルブタン−1,3−ジオールの製造
圧力計、温度計及び攪拌機を備えたSUS316製1L耐圧反応器にジイソプロピルエーテルを150mL、1,1−ビス(トリフルオロメチル)−1−ヒドロキシブタン−3−オンを300g(1.34モル)、5%Ru/C(50%含水品、エヌ・イーケムキャット製)を30.0g入れ、反応器内を水素で置換した後、水素圧を0.6MPaとした。オイルバスにより加熱し、内温を80℃とした。9時間後、室温まで冷却し反応を終了とした。反応液をサンプリングして組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、溶媒として使用したジイソプロピルエーテルを除くと目的とする1,1−ビストリフルオロメチルブタン−1,3−ジオールの存在量は98.8%であった。触媒の5%Ru/Cを濾別し、これを減圧蒸留して、58℃〜60℃/0.65kPa(1.0kPa=7.5Torr)の留分を集めたところ、目的とする1,1−ビストリフルオロメチルブタン−1,3−ジオールが99.2%の純度で264g得られた。収率は86.3%であった。
[実施例9]
4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−3−(トリフルオロメチル)ブチル 2−メチルアクリレートの製造
温度計及び還流冷却器を備えた1000mLの四口フラスコに四フッ化エチレン樹脂で被覆された撹拌子及び1,1−ビス(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオール191.1g(0.85モル)、トルエン613g、2,6−ジメチルピリジン111.5g(0.91モル)、メタクリル酸クロリド131.1g(1.25モル)及びヒドロキノン0.5gを入れ、かくはん機で撹拌しながら、オイルバスにより内温90〜100℃に加熱した。6時間後、組成をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−3−(トリフルオロメチル)ブチル 2−メチルアクリレートが87.5%、原料の1,1−ビス(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールが2.9%、その他が9.6%であった。
【0166】
反応液を冷却後、濾過により2,6−ジメチルピリジン塩酸塩を除去し、濾液を10%塩酸水溶液100gで洗浄した。水層をジイソプロピルエーテル150gで抽出し、これを有機層と合わせて10%食塩水150gで2回洗浄した。得られた有機層に重合禁止剤としてヒドロキノンを0.7g添加し、溶媒留去をした後、減圧蒸留(10Torr=1.33kPa)を行い、85〜88℃の留分を集めたところ、80.0gの4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−3−(トリフルオロメチル)ブチル 2−メチルアクリレ−トが得られた。
【0167】
ガスクロマトグラフィーにより組成を調べたところ、目的物である4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−3−(トリフルオロメチル)ブチル 2−メチルアクリレートが98.0%、原料の1,1−ビス(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールが0.8%、その他が1.0%であった。収率は60.9%であった。
H−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:TMS);δ 6.17−6.15(m, 1H), 5.96(s, 1H), 5.68−5.65(m, 1H), 5.20−5.12(m, 1H), 2.30−2.28(m, 2H), 1.95−1.92(m,3H), 1.43(d, J=6.3Hz, 3H)、19F−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質CClF);δ−77.0 (q, J=9.9Hz, 3F), −79.4(q, J=9.6Hz, 3F)。
[実施例10]
4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−3−(トリフルオロメチル)ブチル 2−メチルアクリレ−トの製造
温度計、水分定量受器及び還流冷却器を備えた1000mLの四口フラスコに四フッ化エチレン樹脂で被覆された撹拌子及び1,1−ビス(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオール191.1g(0.85モル)、メタクリル酸87.2g(1.01モル)、p−トルエンスルフォン酸160.8g(0.85モル)、トルエン613g、及びヒドロキノン0.5gを入れ、かくはん機で撹拌しながらオイルバスにより120℃で加熱還流した。7時間後、水分定量受器に反応により生成した水約30mLが分離された。反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートが91.0%、原料の1,1−ビス(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールが4.0%、その他が5.0%であった。
【0168】
反応液を水516gで2回洗浄した後、分液し得られた有機層に重合禁止剤としてヒドロキノンを0.78g添加し、溶媒留去をした後、減圧蒸留(8Torr=1.07kPa)を行い、80〜82℃の留分を集めたところ、127.6gの4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−3−(トリフルオロメチル)ブチル 2−メチルアクリレート、1,1−ビス(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールと4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−3−(トリフルオロメチル)ブチル 2−メチルアクリレートの混合物が80.9g得られた。
【0169】
ガスクロマトグラフィーにより組成を調べたところ、目的物である4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−3−(トリフルオロメチル)ブチル 2−メチルアクリレートが98.6%、原料の1,1−ビス(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールが1.4%であった。収率は50.5%であった。
[実施例11]
4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−3−(トリフルオロメチル)ブチル 2−メチルアクリレ−トの製造
温度計、水分定量受器及び還流冷却器を備えた1000mLの四口フラスコに四フッ化エチレン樹脂で被覆された撹拌子及び1,1−ビス(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオール191.1g(0.85モル)、メタクリル酸87.2g(1.01モル)、濃硫酸15.5g(0.16モル)、シクロヘキサン613g、及びヒドロキノン0.5gを入れ、かくはん機で撹拌しながらオイルバスにより100℃で加熱還流した。9時間後、水分定量受器に反応により生成した水約20mLが分離された。反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的とする4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−3−(トリフルオロメチル)ブチル メタクリレートが88.6%、その他が11.4%であった。
【0170】
反応液を水191gで3回洗浄した後、分液し得られた有機層に重合禁止剤としてヒドロキノンを0.8g添加し、溶媒留去をした後、減圧蒸留(8Torr=1.07kPa)を行い、80〜82℃の留分を集めたところ、200.4gの4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−3−(トリフルオロメチル)ブチル 2−メチルアクリレートが得られた。
【0171】
ガスクロマトグラフィーにより組成を調べたところ、目的物である4,4,4−トリフルオロ−3−ヒドロキシ−1−メチル−3−(トリフルオロメチル)ブチル 2−メチルアクリレートが98.9%、原料の1,1−ビス(トリフルオロメチル)ブタン−1,3−ジオールが1.1%であった。収率は79.7%であった。
[実施例12]
4,4,4-トリフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-3-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルブタン-1-オンの製造
【0172】
【化11】

【0173】
マグネティックスターラー、温度計及びガス導入管を備えたSUS製オートクレーブ(50mL)に、N-(ベンゼンスルホニル)-(Z)-1-フェニルプロプ-1-エン-1-アミン(Angewandte Chemie International Edition, 2007, 46, 3047-3050に製造方法が開示されている)0.5g(1.83mmol)とクロロホルム3mlを加え、ドライアイス-アセトンで冷却してから減圧にした。
【0174】
次いで撹拌しながら0℃〜20℃の範囲でヘキサフルオロアセトン5g(30mmol)を導入した。ヘキサフルオロアセトンの導入終了後、室温で3日間撹拌した。反応液に2N塩酸20g(40mmol)を加え、2時間室温で加水分解した。反応液の下層(クロロホルム層)TLC(ヘキサン-酢酸エチル=4:1(v/v))を測定したところ、原料のエンスルホンアミド体は消失していた。
【0175】
この反応液をクロロホルムで抽出して、飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、さらに濾過後の濾液を減圧濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー精製(ヘキサン-酢酸エチル=4:1(v/v))し、目的とする4,4,4-トリフルオロ-3-(トリフルオロメチル)-3-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルブタン-1-オンを得た。収量0.37g(収率67.4%)
H−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:TMS);δ7.2-7.8(5H, m, Ph), 3.43(1H, q, J=7.0Hz, CH), 1.47(3H, d, J=7.0Hz, CH3);
19F−NMR(溶媒:CDCl, 基準物質:CClF);δ−74.8(6F, s, 2×CF3)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[3]で示される含フッ素ケトアルコール
【化1】

(式中、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、2つのRあるいはRとRがつながって環を形成していてもよくさらに該環上に置換基を有してもよい。)
の製造方法であって、
式[1]で示されるヘキサフルオロアセトン
【化2】

と、一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物
【化3】

(式中、R2は置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルカノイル基、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルコキシカルボニル基、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジルオキシカルボニル基、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジル基、又はトリ炭化水素基置換シリル基であり、RとRはつながって環を形成していてもよい。R及びRは前記に同じ。)、及び/又は、
一般式[10]で示されるエンスルホンアミド化合物
【化4】

(式中、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、Rは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、R及びRは前記に同じ。)
とを反応させた後、酸又は塩基の存在下で加溶媒分解することを特徴とする含フッ素ケトアルコールの製造方法。
【請求項2】
一般式[3]で示される含フッ素ケトアルコール
【化5】

(式中、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、2つのRあるいはRとRがつながって環を形成していてもよくさらに該環上に置換基を有してもよい。)
の製造方法であって、
式[1]で示されるヘキサフルオロアセトン
【化6】

と、一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物
【化7】

(式中、R2は置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルカノイル基、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルコキシカルボニル基、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジルオキシカルボニル基、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジル基又はトリ炭化水素基置換シリル基であり、RとRはつながって環を形成していてもよい。R及びRは前記に同じ。)
とを反応させた後、酸又は塩基の存在下で加溶媒分解することを特徴とする含フッ素ケトアルコールの製造方法。
【請求項3】
前記Rが水素原子、Rがメチル基である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記R及びRが水素原子である請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記R2がメチル基又はアセチル基である請求項2〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
一般式[4]で示される含フッ素1,3−ジオール化合物
【化8】

(式中、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、2つのRあるいはRとRがつながって環を形成していてもよくさらに該環上に置換基を有してもよい。)
の製造方法であって、
(I)式[1]で示されるヘキサフルオロアセトン
【化9】

と、一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物
【化10】

(式中、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルカノイル基、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルコキシカルボニル基、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジルオキシカルボニル基、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジル基又はトリ炭化水素基置換シリル基であり、RとRはつながって環を形成していてもよい。R及びRは前記に同じ。)
とを反応させた後、酸又は塩基の存在下で加溶媒分解して、一般式[3]で示される含フッ素ケトアルコール
【化11】

(式中、R及びRは前記に同じ。)
を製造する工程、及び
(II)前記一般式[3]で示される含フッ素ケトアルコールを還元する工程、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項7】
一般式[6]で示される含フッ素エステル化合物
【化12】

(式中、Rは水素原子、C2m+1、又はC2n+1であり、m及びnは1〜4の整数である。R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、2つのRあるいはRとRはがつながって環を形成していてもよくさらに該環上に置換基を有してもよい。)
の製造方法であって、
(I)式[1]で示されるヘキサフルオロアセトン
【化13】

と、一般式[2]で示されるエノールエーテル化合物
【化14】

(式中、R2は置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルカノイル基、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルコキシカルボニル基、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジルオキシカルボニル基、ベンゼン環上に置換基を有してもよいベンジル基又はトリ炭化水素基置換シリル基であり、RとRはつながって環を形成していてもよい。R及びRは前記に同じ。)
とを反応させた後、酸又は塩基の存在下で加溶媒分解して、一般式[3]で表される含フッ素ケトアルコール
【化15】

(式中、R及びRは前記に同じ。)
を製造する工程、
(II)前記一般式[3]で示される含フッ素ケトアルコールを還元して、一般式[4]で示される含フッ素1,3−ジオール化合物
【化16】

(式中、R及びRは前記に同じ。)
を製造する工程、及び
(III)前記一般式[4]で示される含フッ素1,3−ジオール化合物を、一般式[5]で示されるアクリル酸誘導体
【化17】

(式中、Xは、F、Cl、水酸基又は一般式[5a]:
【化18】

で示される基であり、Rは前記に同じ。)
と反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項8】
一般式[3]で示される含フッ素ケトアルコール
【化19】

(式中、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、2つのRあるいはRとRがつながって環を形成していてもよくさらに該環上に置換基を有してもよい。)
の製造方法であって、
式[1]で示されるヘキサフルオロアセトン
【化20】

と、一般式[10]で示されるエンスルホンアミド化合物
【化21】

(式中、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、Rは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、R及びRは前記に同じ。)
とを反応させた後、酸又は塩基の存在下で加溶媒分解することを特徴とする含フッ素ケトアルコールの製造方法。
【請求項9】
前記Rの一方が水素原子で他の一方がメチル基、Rがアリール基である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記R及びRがメチル基である請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記Rが水素原子である請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
前記Rがアリール基である請求項8〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
一般式[4]で示される含フッ素1,3−ジオール化合物
【化22】

(式中、R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、2つのRあるいはRとRがつながって環を形成していてもよくさらに該環上に置換基を有してもよい。)
の製造方法であって、
(I)式[1]で示されるヘキサフルオロアセトン
【化23】

と、一般式[10]で示されるエンスルホンアミド化合物
【化24】

(式中、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、Rは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、R及びRは前記に同じ。)
とを反応させた後、酸又は塩基の存在下で加溶媒分解して、一般式[3]で示される含フッ素ケトアルコール
【化25】

(式中、R及びRは前記に同じ。)
を製造する工程、及び
(II)前記一般式[3]で示される含フッ素ケトアルコールを還元する工程、を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項14】
一般式[6]で示される含フッ素エステル化合物
【化26】

(式中、Rは水素原子、C2m+1、又はC2n+1であり、m及びnは1〜4の整数である。R及びRは同一又は異なって水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、2つのRあるいはRとRはがつながって環を形成していてもよくさらに該環上に置換基を有してもよい。)
の製造方法であって、
(I)式[1]で示されるヘキサフルオロアセトン
【化27】

と、一般式[10]で示されるエンスルホンアミド化合物
【化28】

(式中、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、Rは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜7のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、R及びRは前記に同じ。)
とを反応させた後、酸又は塩基の存在下で加溶媒分解して、一般式[3]で表される含フッ素ケトアルコール
【化29】

(式中、R及びRは前記に同じ。)
を製造する工程、
(II)前記一般式[3]で示される含フッ素ケトアルコールを還元して、一般式[4]で示される含フッ素1,3−ジオール化合物
【化30】

(式中、R及びRは前記に同じ。)
を製造する工程、及び
(III)前記一般式[4]で示される含フッ素1,3−ジオール化合物を、一般式[5]で示されるアクリル酸誘導体
【化31】

(式中、Xは、F、Cl、水酸基又は一般式[5a]:
【化32】

で示される基であり、Rは前記に同じ。)
と反応させることを特徴とする製造方法。

【公開番号】特開2009−51805(P2009−51805A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296574(P2007−296574)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】