説明

含フッ素液晶化合物、その製造方法および合成中間体、該含フッ素液晶化合物を含有する液晶組成物ならびに液晶電気光学素子

【課題】粘度が低く、かつ他の液晶化合物との相溶性に優れた液晶化合物を提供することを目的とするものである。また、前記化合物の製造方法、合成中間体、前記化合物を用いた液晶組成物および前記組成物を用いた液晶電気光学素子を提供する。
【解決手段】例えば下式の反応で得られる含フッ素液晶化合物、及び当該化合物を用いる液晶素子が例示される。


Cyはシクロヘキシレン基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性を有する含フッ素化合物、その製造方法および合成中間体、該含フッ素液晶化合物を含有する液晶組成物ならびに液晶電気光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶電気光学素子は携帯電話やPDAのような携帯機器、複写機やパソコンモニタのようなOA機器用表示装置、液晶テレビ等の家電製品用表示装置をはじめ、時計、電卓、測定器、自動車用計器、カメラ等の用途に使用されており、広い動作温度範囲、低動作電圧、高速応答性、化学的安定性等の種々の性能が要求されている。
【0003】
このような液晶電気光学素子には液晶相を示す材料が使用されているが、現在のところ、これら全ての性能を単独の化合物で満たすわけではなく、一つまたは二つ以上の性能の優れた複数の液晶化合物や非液晶性化合物を混合して液晶組成物として要求性能を満たしている。
【0004】
液晶電気光学素子の分野において、液晶材料に使用される化合物に要求される種々の性能の中でも、他の液晶化合物または非液晶性化合物との相溶性に優れ、化学的にも安定であり、かつ液晶電気光学素子に用いた場合に、高速応答性に優れ低電圧駆動できる性能を有する化合物を提供することは重要な課題である。
【0005】
近年、より高精細な動画表示を実現するため、特に高速応答性に優れた液晶材料を提供することは特に重要な課題である。応答速度を速めるためには、物性的に粘性を小さくすること、または弾性定数を大きくすることが必要であるが、弾性定数(K)を大きくすると閾値電圧が高くなるので、粘性を低くすることが有効な手段である。
【0006】
また、液晶材料に使用される化合物と他の液晶化合物または非液晶化合物との低温での相溶性が良好であれば、併用される他の液晶材料等の種類の制約が少なく、目的に応じた様々な液晶組成物へ適用できる。さらに、優れた相溶性は低温においても液晶状態を示すことを表し、特に寒冷地で液晶材料を使用する場合には低温安定性の高い、信頼性の高い液晶電気光学素子を提供することができる。
【0007】
また、CF2CF2連結基を有する液晶性化合物について記載された文献としては、例えば、特許文献1および特許文献2が挙げられる。
【0008】
【特許文献1】特開2000−192041号公報
【特許文献2】特開平05−331084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1および特許文献2には、CF2CF2連結基と末端ビニル基を有する液晶化合物については具体例が示されておらず、粘度、相溶性等は考慮されていない。
【0010】
そこで、本発明は、粘性が低く、かつ他の液晶化合物との相溶性に優れた液晶化合物を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記液晶性化合物の製造方法および合成に有用な中間体を提供することを目的とする。
また、本発明は、応答性に優れ、信頼性の高い液晶電気光学素子を得ることができる液晶組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、応答性に優れ、信頼性が高い液晶電気光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記式(1)で表される含フッ素液晶化合物が、粘性が低く、かつ他の液晶化合物との相溶性に優れた液晶材料として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は下記式(1)で表される含フッ素液晶化合物を提供する。
CH=CH−Cy−(Cy)−CFCF−Cy−CH=CH (1)
(ただし、式(1)中の記号は、以下の意味を示す。
Cy:トランス−1,4−シクロヘキシレン基。
n:0または1。)
【0013】
また、前記含フッ素液晶化合物は、前記式(1)中のnが0であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は下記式(2)で表される含フッ素化合物を提供する。
OHC−Cy−(Cy)−CFCF−Cy−CHO (2)
(ただし、式(2)中の記号は、以下の意味を示す。
Cy:トランス−1,4−シクロヘキシレン基。
n:0または1。)
【0015】
また、本発明は、下記式(2)で表される含フッ素化合物を塩基存在下、メチルトリフェニルホスホニウムハライドと反応させて、下記式(1)で表される含フッ素液晶化合物を製造する含フッ素液晶化合物の製造方法を提供する。
CH=CH−Cy−(Cy)−CFCF−Cy−CH=CH (1)
OHC−Cy−(Cy)−CFCF−Cy−CHO (2)
(ただし、式(1)、式(2)中の記号は、以下の意味を示す。
Cy:トランス−1,4−シクロヘキシレン基。
n:0または1。)
【0016】
また、本発明は、前記式(1)で表される含フッ素液晶化合物の1質量%以上と、他の液晶化合物の60質量%以上とを含有する液晶組成物を提供する。
【0017】
前記液晶組成物は、前記含フッ素液晶化合物を1〜30質量%、前記他の液晶化合物を60質量%以上含有することが好ましい。
【0018】
また、本発明は、前記液晶組成物を電極付き基板間に挟持した液晶電気光学素子を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の含フッ素液晶化合物は、高速応答に必要な低い回転粘性(γ1)を有している。更に、他の液晶化合物または非液晶性化合物との相溶性に優れ、化学的にも安定である。また、本発明の含フッ素液晶化合物の製造方法によれば、このような本発明の含フッ素液晶化合物を製造することができる。
また、本発明の含フッ素液晶化合物を合成するための合成中間体である含フッ素化合物は新規化合物であり、本発明の含フッ素液晶化合物をはじめとする様々な含フッ素機能性化合物への合成原料として有用である。
また、本発明の液晶組成物を用いることにより、応答性に優れ、低温での安定性が高く、信頼性の高い液晶電気光学素子を得ることができる。
また、本発明の液晶電気光学素子は、応答性に優れ、信頼性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明について更に詳しく説明する。
本明細書においては、式(1)で表される含フッ素液晶化合物を化合物(1)と記し、他の式で表される化合物も同様に記す。
【0021】
本発明の化合物(1)は、トランス−1,4−シクロヘキシレン基2つをCF2CF2連結基で結合した構造と、両末端にトランス−1,4−シクロヘキシレン基に直結したビニル基を有する液晶性を有する化合物である。
【0022】
CH=CH−Cy−(Cy)−CFCF−Cy−CH=CH (1)
【0023】
前記式(1)において、nは0または1である。nが0であると粘度が低くなるため好ましい。
【0024】
化合物(1)の具体例としては以下の式で表されるものが挙げられる。
CH=CH−Cy−CFCF−Cy−CH=CH
CH=CH−Cy−Cy−CFCF−Cy−CH=CH
【0025】
ただし、前記式中の記号は以下の意味を示す。
Cy:トランス−1,4−シクロヘキシレン基
【0026】
本発明の化合物(2)は、トランス−1,4−シクロヘキシレン基2つをCF2CF2連結基で結合した構造と、両末端にトランス−1,4−シクロヘキシレン基に直結したホルミル基を有する化合物である。
【0027】
OHC−Cy−(Cy)−CFCF−Cy−CHO (2)
【0028】
前記式(2)において、nは0または1である。nが0であると得られる含フッ素液晶化合物の粘度がより低くなるため好ましい。
【0029】
化合物(2)の具体例としては以下の式で表されるものが挙げられる。
OHC−Cy−CFCF−Cy−CHO
OHC−Cy−Cy−CFCF−Cy−CHO
【0030】
ただし、前記式中の記号は以下の意味を示す。
Cy:トランス−1,4−シクロヘキシレン基
【0031】
本発明の化合物(1)は、次の方法によって合成することができる。
【0032】
【化1】

【0033】
すなわち、上記化合物(2)を溶液中、塩基存在下、メチルトリフェニルホスホニウムハライドと反応させる、いわゆるwittig反応によって本発明の化合物(1)を得る。
【0034】
ただし、式(1)、式(2)中の記号は、前記と同じ意味を示す。
【0035】
本発明の化合物(2)は、次の方法によって合成することができる。
【0036】
【化2】

【0037】
すなわち、上記化合物(6)を酸加水分解することより本発明の化合物(2)を得る。
ただし、式中のnは0または1である。
【0038】
前記式(6)の化合物のうち、n=0の化合物(6A)は、下記ルートで合成することができる。すなわち、文献記載の方法により(J.Fluorine Chem.,112,(2001),69−72参照。)、化合物(3A)を化合物(5A)に変換した後、化合物(5A)とメトキシメチルトリフェニルホスホニウムハライドとのwittig反応により、化合物(6A)へと変換することにより、化合物(6A)を得る。
【0039】
【化3】

【0040】
前記式(6)の化合物のうち、n=1の化合物(6B)は、下記ルートで合成することができる。すなわち、文献記載の方法により(J.Fluorine Chem.,112,(2001),69−72参照。)、化合物(5A)をケトンの片方を保護した化合物(7B)に変換した後、シクロヘキシルグリニャール試薬またはシクロヘキシルリチウム試薬などのシクロヘキシル金属試薬を付加して化合物(8B)へと変換する。次いで化合物(8B)を脱水工程、水添工程、脱保護工程に処して化合物(5B)へ変換した後、化合物(5B)とメトキシメチルトリフェニルホスホニウムハライドとのwittig反応により、化合物(6B)へと変換することにより、化合物(6B)を得る。
【0041】
【化4】

【0042】
上記反応式中の記号は以下の意味を示す。
X:ハロゲン原子
M:MgCl、MgBr、MgIまたはLi
【0043】
本反応の含フッ素液晶化合物(1)の合成は溶媒中で実施するのが好ましい。溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;石油エーテル類または前記溶媒の適当な混合溶媒等を用いることができる。これらの中でも、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒またはトルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒と脂肪族炭化水素系溶媒の混合溶媒が好ましい。
【0044】
前記溶媒の量は、化合物(2)1モルに対し、0.1〜100倍量使用するのが好ましく、0.5〜20倍量使用するのがより好ましい。例えば、化合物(2)が1mmolであれば、溶媒は0.1〜100ml使用するのが好ましく、0.5〜20ml使用するのがより好ましいということになる。
【0045】
反応温度は−100〜+120℃が好ましく、−30〜+70℃がより好ましい。
【0046】
反応時間は0.5〜48時間が好ましく、0.5〜8時間がより好ましい。
【0047】
塩基としては、例えば、ソジウムブトキシド、ポタシウムブトキシド、ソジウムエトキシド、ソジウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシド類;n−ブチルリチウム、メチルリチウム等のアルキルリチウム類;水素化ナトリウム等のアルカリ金属ハイドライド類等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルカリ金属アルコキシド類、アルキルリチウム類が好ましい。
【0048】
塩基の使用量としては、メチルトリフェニルホスホニウムハライドに対して0.9〜5当量が好ましく、1〜2当量がより好ましい。
【0049】
メチルトリフェニルホスホニウムハライドとしては、例えば、メチルトリフェニルホスホニウムクロリド、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムヨージド等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
メチルトリフェニルホスホニウムハライドの使用量としては化合物(2)の2〜10当量が好ましく、2〜4当量がより好ましい。
【0050】
本反応の含フッ素化合物(2)の合成は溶媒中で実施するのが好ましい。溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;石油エーテル類または前記溶媒の適当な混合溶媒等を用いることができる。これらの中でも、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒またはトルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、エタノール等のアルコール系溶媒、これらの溶媒の混合溶媒が好ましい。
【0051】
前記溶媒の量は、化合物(6)1モルに対し、0.1〜100倍量使用するのが好ましく、0.5〜20倍量使用するのがより好ましい。例えば、化合物(6)が1mmolであれば、溶媒は0.1〜100ml使用するのが好ましく、0.5から20ml使用するのがより好ましいということになる。
【0052】
反応温度は20〜250℃が好ましく、40〜150℃がより好ましい。
【0053】
反応時間としては0.5〜72時間が好ましく、0.5〜8時間がより好ましい。
【0054】
酸としては、例えば、塩酸、硫酸等の強酸類;トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸等のカルボン酸類;パラトルエンスルホン酸等の有機酸類が上げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
酸の使用量としては、化合物(6)に対し、0.5〜10当量が好ましく、1〜2当量がより好ましい。
【0056】
上述した本発明の含フッ素液晶化合物(1)は、通常それ単独で液晶電気光学素子に使用されることはなく、他の液晶化合物との混合物である液晶組成物とされ、その液晶組成物が液晶電気光学素子等に使用される。液晶組成物の一成分として使用される本発明の含フッ素液晶化合物(1)が低い粘性を有しているため、この含フッ素液晶化合物(1)の配合により液晶組成物の粘性を低下させ、ひいてはその組成物を使用した液晶電気光学素子の応答性を向上させることができる。
更に、本発明の含フッ素液晶化合物(1)は、他の液晶化合物または非液晶性化合物との相溶性に優れ、化学的にも安定であることより、併用される他の液晶化合物等の種類の制約が少なく、目的に応じた様々な液晶組成物へ適用できる。
また、本発明の含フッ素化合物(2)は新規化合物であり、本発明の含フッ素液晶性化合物(1)の合成原料として活用できるなど、様々な含フッ素機能性材料への変換原料として活用できる可能性を有する有用な化合物である。
【0057】
本発明の含フッ素液晶化合物の用途は特に限定されないが、上述した優れた特性を有する点から液晶電気光学素子用の、特に液晶表示素子用の、液晶組成物の一成分として使用される用途に特に有用である。
【0058】
次に、本発明の液晶組成物について説明する。
本発明の液晶組成物は、上述した本発明の含フッ素液晶化合物の1質量%以上と、他の液晶化合物の60質量%以上とを含有する。他の液晶化合物は2種以上含有していてもよい。本発明の液晶組成物における上述した本発明の含フッ素液晶化合物の含有量が上記範囲未満であると本発明の含フッ素液晶化合物の特徴を充分に発揮しがたい。
【0059】
また、本発明の液晶組成物は、これら液晶化合物以外に、非液晶性の化合物を含有していてもよい。
前記非液晶性化合物としては、例えば、カイラル剤、色素、安定剤、その他の液晶組成物に配合される種々の機能性化合物等が挙げられる。カイラル剤や色素等のうちには液晶性を有する化合物もあり、本発明ではこのような液晶性を有する機能性化合物は液晶に分類する。
【0060】
液晶電気光学素子用(特に液晶表示素子用)の液晶組成物は、通常、種々の液晶化合物の混合物からなる。この用途の液晶組成物は5種類以上(特に10種類以上)の液晶化合物を含むことが少なくない。液晶組成物の全液晶化合物に対するある1種の液晶化合物の含有割合が50質量%を超えることは少なく、通常30質量%以下である。したがって、液晶組成物中の各液晶化合物は1〜25質量%の範囲内にあることが多い。液晶組成物に含まれるある種の液晶化合物は1質量%未満(通常は0.1質量%以上)であることもあるが、このような少量であっても液晶組成物に含有されることには技術的意義が存在する。また、この用途の液晶組成物はカイラル剤を含むことが少なくないが、通常その含有量は全液晶化合物に対して10質量%以下、特に5質量%以下である。
なお、本発明における液晶化合物は、単独の化合物として常温で液晶性を示す化合物に限られるものではなく、液晶組成物がある用途に使用された場合にその使用温度下の液晶組成物中において液晶性を示す化合物であればよい。例えば、単独の化合物としては常温で固体であっても、液晶組成物中に溶解されると上記使用温度下で液晶性を示す化合物であってもよい。
【0061】
上記のような状況を考慮すると、本発明の液晶組成物は、上述した本発明の含フッ素液晶化合物の1〜30質量%と他の液晶化合物の60質量%以上とを含有することが好ましく、上述した本発明の含フッ素液晶化合物の1〜25質量%と他の液晶化合物の70質量%以上とを含有することがより好ましい。また、他の液晶化合物の含有量は99質量%以下が好ましい。
また、本発明の含フッ素液晶化合物と他の液晶化合物の合計量は、液晶組成物に対して90質量%以上、特に95質量%以上であることが好ましい。
なお、本発明の液晶組成物が上述した本発明の含フッ素液晶化合物の2種以上を含有する場合は、上述した本発明の含フッ素液晶化合物の割合はそれら2種以上の本発明液晶化合物の合計量を表す。
【0062】
本発明の液晶組成物における他の液晶化合物の種類は限定されるものではない。目的に応じて任意の種類の液晶化合物を選択して本発明の液晶化合物とともに液晶組成物を構成することができる。また必要によりカイラル剤等の機能性化合物を配合できる。また、既存の液晶組成物(例えば、市販されている液晶組成物)に本発明の液晶化合物を配合して本発明の液晶組成物とすることもできる。本発明の液晶組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、上述した各成分を撹拌機等により混合して得ることができる。
本発明の液晶組成物を構成する他の液晶化合物は、液晶化合物として公知ないし周知である下記液晶化合物から選択することが好ましい。ただし、本発明の液晶組成物における他の液晶化合物はこれらに限られるものではない。
【0063】
−A−A−R
−A−C≡C−A−R
−A−COO−A−R
−A−CHCH−A−R
−A−CH=CH−A−R
−A−CF=CF−A−R
−A−CFO−A−R
−A−CFCF−A−R
−A−A−A−R
−A−A−C≡C−A−R
−A−A−COO−A−R
−A−A−CHCH−A−R
−A−A−CH=CH−A−R
−A−A−CF=CF−A−R
−A−A−CFO−A−R
−A−A−CFCF−A−R
−A−A−A−A−R
−A−A−C≡C−A−A−R
−A−CHCH−A−C≡C−A−R
−A−CHCH−A−C≡C−A−A−R
−A−COO−A−A−R
−A−COO−A−COO−A−R
【0064】
前記式中、RおよびRは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子またはシアノ基を表す。また、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。A、A、AおよびAは、相互に独立して、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、または基中の1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい1,4−フェニレン基を示す。
【0065】
これらの化合物は例示であり、前記化合物中の環構造または末端基に存在する水素原子が、ハロゲン原子、シアノ基、メチル基等に置換されたものでもよい。また、環基A〜Aが、ピリミジン環やジオキサン環等に置換されたものでもよい。また、環基と環基との間の連結基が、−CHO−、−CH=CH−、−N=N−、−CH=N−、−COOCH−、−OCOCH−または−COCH−等に変更されているものでもよい。これらは所望の性能に合わせて選択することができる。
【0066】
次に、本発明の液晶電気光学素子について説明する。
本発明は、液晶相の構成材として好適に用いられる液晶電気光学素子を提供する。
本発明の液晶電気光学素子は、上述した本発明の液晶組成物を電極付き基板間に挟持した液晶電気光学素子である。
本発明の液晶電気光学素子は、本発明の液晶組成物を用いること以外は特に限定されず、通常の液晶電気光学素子の構成を採用することができる。
本発明の液晶電気光学素子としては、例えば、本発明の液晶組成物を液晶セル内に注入する等して形成される液晶相を電極を備える2枚の基板間に挟持して構成される電気光学素子部を有する液晶電気光学素子が挙げられる。この液晶電気光学素子は、ツイストネマチック方式、ゲストホスト方式、動的散乱方式、フェーズチェンジ方式、DAP方式、二周波駆動方式、強誘電性液晶表示方式等種々のモードで駆動されるものが挙げられる。
【0067】
代表的な液晶電気光学素子としては、ツイストネマチック(TN)型液晶表示素子が挙げられる。このツイストネマチック(TN)型液晶表示素子は、まず、プラスチック、ガラス等の基板上に、必要に応じてSiO、Al等のアンダーコート層やカラーフィルター層を形成し、In−SnO(ITO)、SnO等からなる被膜を成膜し、フォトリソフラフィ等により所要のパターンの電極を形成する。次に、必要に応じて、ポリイミド、ポリアミド、SiO、Al等のオーバーコート層を形成し、配向処理する。これにシール材を印刷し、電極面が相対向するように配して周辺をシールし、シール材を硬化して空セルを形成する。
【0068】
更に、空セルに、本発明の液晶組成物を注入し、注入口を封止剤で封止して液晶セルを構成する。この液晶セルに、必要に応じて、偏光板、カラー偏光板、光源、カラーフィルター、半透過反射板、反射板、導光板、紫外線カットフィルター等を積層、文字、図形等を印刷、ノングレア加工等をして液晶電気光学素子を得ることができる。
【0069】
前記の説明は、液晶電気光学素子の基本的な構成および製法を説明したものであり、他の構成も採用できる。例えば、2層電極を用いた基板、2層の液晶層を形成した2層液晶セル、反射電極を用いた基板、TFT、MIM等の能動素子を形成したアクティブマトリクス基板を用いたアクティブマトリクス素子等、種々の構成のものが採用できる。
【0070】
更に、本発明の液晶組成物は、前記TN型以外のモード、即ち、高ツイスト角のスーパーツイストネマチック(STN)型液晶電気光学素子や、多色性色素を用いたゲスト−ホスト(GH)型液晶電気光学素子、横方向の電界で液晶分子を基板に対して平行に駆動させるインプレーンスイッチング(IPS)型液晶電気光学素子、液晶分子を基板に対して垂直配向させるVA型液晶電気光学素子、強誘電性液晶電気光学素子等、種々の方式で使用することができる。また、電気的に書き込みをする方式ではなく、熱により書き込みをする方式に用いることもできる。
【0071】
上述した本発明の液晶電気光学素子は、応答性に優れ、信頼性が高い。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。ただし、以下に示す実施例は本発明の例示を目的とするものであり、本発明はこれに限定されない。
なお、ベース液晶としてメルク社製液晶組成物「ZLI−1565」を使用した。「ZLI−1565」は標準液晶として広く知られている液晶組成物であり、前記化学式で表した公知ないし周知の液晶化合物等を6種類含む液晶組成物と推定される。文献によれば、「ZLI−1565」の物性は以下の通りである。
C→N<−40℃
N→I=85℃
Δχ=6.3×10−8cm−1
22=6.9×10−7dyn
【0073】
(参考例1)
ビス−(4−メトキシメチレンシクロヘキシル)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(6A)の合成
【0074】
メトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロライド42gをテトラヒドロフラン(以下、THFと記す)125mlに分散し、−10℃に冷却した。内温を保ちながらカリウム−t−ブトキシド14gを加えた。内温を保ちながら1時間攪拌した後、ビス−(シクロヘキシル−4−オン)−1、1、2、2−テトラフルオロエタン(5A)13gのTHF(118ml)溶液を滴下した。内温を徐々に室温まで上昇させながら2時間攪拌した後、水を加えて反応を停止させた。メチルターシャリーブチルエーテル(以下、MTBEと記す)で抽出し溶媒を減圧留去した後、ヘキサンを加えて氷冷下で激しく攪拌し、ろ過した。ろ液を減圧留去させ、カラムクロマトグラフィーにて精製して微黄色の液体として化合物(6A)を15g得た。
【0075】
得られた化合物(6A)の19F−NMRおよびGC−MSデータを示す。
19F−NMR(CDCl、CFCl):δ −116.1(m、4F)
GC−MS M+ 350、335、318、173、123、93、67、45
【0076】
(実施例1)
ビス−(トランス−4−ホルミルシクロヘキシル)−1、1、2、2−テトラフルオトエタン(2A)の合成
【0077】
参考例1で得られた化合物(6A)15gのTHF(60ml)溶液に10%塩酸29ml加え2時間加熱還流した。反応液を冷却した後、有機層を分離し、水層をトルエンで抽出し、合わせた有機層を水で洗浄した。溶媒を減圧留去し、微黄色の固体15gの化合物(2A)を得た。得られた固体をメタノール59mlに溶解し、−10℃にて10%水酸化ナトリウム水溶液15mlを滴下して加え、27時間攪拌した。水とMTBEを加え、分液後にMTBEで抽出し溶媒を減圧留去して白色の固体として化合物(2A)を14g得た。
【0078】
得られた化合物(2A)の19F−NMRおよびGC−MSデータを示す。
19F−NMR(CDCl、CFCl):δ −116.5(m、4F)
GC−MS M+ 322、294、278、261、219、205、143、111、93、70、67、55
【0079】
(実施例2)
ビス−(トランス−4−エテニルシクロヘキシル)−1、1、2、2−テトラフルオロエタン(1A)の合成
【0080】
メチルトリフェニルホスホニウムブロマイド36gをTHF107mlに分散し、−10℃に冷却した。内温を保ちながらカリウム−t−ブトキシド11gを加えた。内温を保ちながら1時間攪拌した後、実施例1で得られた化合物(2A)14gのTHF(96ml)溶液を滴下した。温度を保ったまま2.5時間攪拌した後、水を加えて反応を停止させた。MTBEで抽出し溶媒を減圧留去した後、ヘキサンを加えて氷冷下で激しく攪拌し、ろ過した。ろ液を減圧留去させ、カラムクロマトグラフィー、再結晶にて精製して無色の固体として化合物(1A)を2.3g得た。
【0081】
得られた化合物(1A)の19F−NMRおよびGC−MSデータを示す。
19F−NMR(CDCl、CFCl):δ −116.8(m、4F)
GC−MS M+ 318、289、247、219、205、157、139、117、109、91、79、67、55
【0082】
【化5】

【0083】
上記式中、化合物(5A)は上述した化合物(5)の合成方法と同様に合成した(J.Fluorine Chem.,112,(2001),69−72参照。)。
【0084】
(実施例3および比較例1)相溶性の観察
メルク社製液晶組成物「ZLI−1565」に実施例2で得られた本発明の化合物(1A)を下記表に示す量添加し、溶解した後、0℃で保存した。72時間後、組成物の状態を目視で観察した。
同様の操作を下記化合物(C1)についても実施した。
固体の析出が無かったものを「○」、固体の析出が見られたものを「×」とした。結果を下記表に示す。
【0085】
−Cy−CFCF−Cy−C (C1)
【0086】
化合物(C1)は下記合成ルートで合成した(J.Am.Chem.Soc.,123,(2001),5414−5417参照)。
【0087】
【化6】

【0088】
【表1】

【0089】
前記表1に示す結果から明らかなように、本発明の化合物(1A)は化合物(C1)と比べて優れた相溶性を示し、低温での安定性が良好であることがわかった。
【0090】
(実施例4〜5および比較例2〜3)
バルク粘度および、回転粘性(以下「γ1」とも記す。)を下記の方法で測定した。
【0091】
バルク粘度の測定
実施例4として、メルク社製液晶組成物「ZLI−1565」80質量%、前記本発明の化合物(1A)20質量%からなる液晶組成物を調整し、比較例2として、メルク社製液晶組成物「ZLI−1565」90質量%、前記化合物(C1)10質量%からなる液晶組成物を調整し、E型粘度計を用いて0℃にて測定後、外挿によって算出した。
【0092】
回転粘性(γ1)の測定
測定はMolecular Crystals and Liquid Crystals and Liquid Crystals, Vol.259, 37 (1995)に記載された今井らの方法に従った。
具体的には、実施例5として、メルク社製液晶組成物「ZLI−1565」80モル%、前記本発明の化合物(1A)20モル%からなる液晶組成物を調整し、比較例3として、メルク社製液晶組成物「ZLI−1565」92.5モル%、前記化合物(C1)7.5モル%からなる液晶組成物を調整し、それぞれをセルギャップ8μmのTNセルに入れ、20℃でのγ1を測定後、外挿によって算出した。
【0093】
実施例4および比較例2の液晶組成物のバルク粘度測定、ならびに実施例5および比較例3の液晶組成物の回転粘性の測定結果を下記表2に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
前記表2に示す結果から明らかなように、本発明の化合物(1A)を配合した液晶組成物(実施例4〜5)は、低いバルク粘度、および低い回転粘性(γ1)を有することがわかった。
【0096】
以上のように、本発明の含フッ素液晶化合物は、良好な相溶性を有し、低いバルク粘度と低い回転粘性(γ1)とを併せ持つ組成物の調製ができることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される含フッ素液晶化合物。
CH=CH−Cy−(Cy)−CFCF−Cy−CH=CH (1)
(ただし、式(1)中の記号は、以下の意味を示す。
Cy:トランス−1,4−シクロヘキシレン基。
n:0または1。)
【請求項2】
前記式(1)中のnが0である請求項1に記載の含フッ素液晶化合物。
【請求項3】
下記式(2)で表される含フッ素化合物。
OHC−Cy−(Cy)−CFCF−Cy−CHO (2)
(ただし、式(2)中の記号は、以下の意味を示す。
Cy:トランス−1,4−シクロヘキシレン基。
n:0または1。)
【請求項4】
下記式(2)で表される含フッ素化合物を塩基存在下、メチルトリフェニルホスホニウムハライドと反応させて、下記式(1)で表される含フッ素液晶化合物を製造する含フッ素液晶化合物の製造方法。
CH=CH−Cy−(Cy)−CFCF−Cy−CH=CH (1)
OHC−Cy−(Cy)−CFCF−Cy−CHO (2)
(ただし、式(1)、式(2)中の記号は、以下の意味を示す。
Cy:トランス−1,4−シクロヘキシレン基。
n:0または1。)
【請求項5】
請求項1または2に記載の含フッ素液晶化合物の1質量%以上と、他の液晶化合物の60質量%以上とを含有する液晶組成物。
【請求項6】
前記含フッ素液晶化合物を1〜30質量%、前記他の液晶化合物を60質量%以上含有する請求項5に記載の液晶組成物。
【請求項7】
請求項5または6に記載の液晶組成物を電極付き基板間に挟持した液晶電気光学素子。

【公開番号】特開2009−263238(P2009−263238A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111035(P2008−111035)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】