説明

含フッ素重合体粉末物質の製造方法

粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法において、改質剤として炭化ケイ素(SiC)粒子を用いて水性液状担体中に含フッ素重合体固体粒子の懸濁物を形成し、水性の前記懸濁物を冷凍させ、そして、その後前記冷凍された水性の懸濁物を昇華させることによりSiC改質剤により改質された粉末状の含フッ素重合体乾燥粒子を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体粉末物質を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素重合体は、一部又は全ての水素原子がフッ素に置き換えられた、エチレンの線形状の繰り返し単位を主とする長鎖高分子である。このような含フッ素重合体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロメチルビニルエーテル(MFA)、フルオロエチレンプロピレン(FEP),パーフルオロアルコキシ(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニルが挙げられる。これらの含フッ素重合体は、重合体のなかでも最も化学的に無害であり且つ酸、塩基、溶剤に対して飛びぬけた耐性があるという特徴を有している。また、これらの含フッ素重合体は、飛びぬけた低摩擦性を有し、さらに極度の高温及び低温にも耐え得る。したがって、これらの含フッ素重合体は、極端な環境に対する耐性が要求される様々な応用に利用されている。現在では、これらの含フッ素重合体は、化学プラント、半導体装置、自動車部品の管材又は包装材の形成、及び構造物の金属被覆材の形成において応用されている。
【0003】
含フッ素重合体は、多くの応用において粉末状であることが要求されている。含フッ素重合体は、粉末を静電スプレーで噴霧することで表面に塗布される。これらの用途には、家庭用調理器具にコーティングしてこびり付きにくさや耐摩耗性を高めること、自動車部品にコーティングして耐候性を高めることなどが挙げられる。
【0004】
現在、粉末状の含フッ素重合体の製造には通常二種類の方法が用いられている。噴霧乾燥法においては、通常乾燥チャンバの先端部に配置される散布装置内へ含フッ素重合体の水分散液をポンプで送り込む。含フッ素重合体の水分散液は、霧状化され熱せられた気流となり、その水分散液においては、水分が蒸発して含フッ素重合体の乾燥粉末が生成される。この方法には様々な制限がある。まず、散布装置の中に前記水分散液をポンプで送り込まなければならないので用いられる物質はポンプで送りこむことのできる物質に限定され、また、スプレーで乾燥した塊は互いに固く結合しているのでばらばらにすることが難しい。さらにこの方法においては、フィブリル化しない(non-fibrillatable)物質しか処理することができない。もし、フィブリル化する含フッ素重合体を処理すると、含フッ素重合体は霧状化されることでフィブリル化して、加工が難しい非常に扱いにくい「マシュマロのような」物質となる。
【0005】
もうひとつの方法は水分散液中における粒子の凝固を伴う。この方法によれば、粒子の凝固は、強力な機械的せん断の使用、及び、酸又はゲル化剤の添加及び後続の非混和性の有機液体を用いる処理によりなされる。凝固粒子はフィルターを介して残りの液体から分離され、続いて、通常はトレー又はベルト又は気流乾燥機を用いて乾燥される。通常、凝固粒子は扱いやすいように表面硬化される。しかしながら、この方法においては、塊を形成するので、従来の粉末スプレー技法に用いるには、粒子サイズが大きすぎることとなる。また、粒子サイズ分布を調整するために粉砕加工を施すと粒子がフィブリル化して加工し難く扱いが難しい物質が生成されてしまう。さらに、表面硬化することでばらばらにしにくい堅固な塊が生成されてしまう。
【0006】
上記2つの方法においては、含フッ素重合体の摩耗特性を向上させる改質剤を組み込むことは難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、本発明の目的は、摩耗特性の向上した、改質された含フッ素重合体粉末物質を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法が提供される。この方法は、改質剤として炭化ケイ素(SiC)粒子を用いて水性液状担体中に含フッ素重合体固体粒子の懸濁物を形成し、その水性懸濁物を冷凍させ、そして、その後その冷凍された水性懸濁物を昇華させることによりSiC改質剤により改質された粉末状の含フッ素重合体乾燥粒子を生成することよりなる。
【0009】
SiC改質剤を水性担体中の含フッ素重合体に添加することで、改質剤粒子を含フッ素重合体粒子間に効果的に分散させて一度適用され膜状に硬化した使用済み粉末物質の摩耗特性を向上させることができる。フリーズドライ加工された改質含フッ素重合体物質を、その後、粉砕加工又は照射処理することでも、粉末コーティング材料としての適性を向上させることができる。
【0010】
好ましくは、含フッ素重合体の粒径は30nm〜350nmの範囲内であり、好ましくは200nm〜250nm、例えば約230nmである。好ましくは、SiC改質剤の粒径は40nm〜50nmの範囲内であり、好ましくは1μm〜20μm、例えば約10μmであり、そして、SiC改質剤は、乾燥した状態での重量でMFAとSiCの混合物に対して2重量パーセント以下、好ましくは0.1〜1重量パーセント、例えば0.5重量パーセント存在する。
【0011】
本願発明の方法は、パーフルオロメチルビニルエーテル(MFA)、フルオロエチレンプロピレン(FEP)、及びパーフルオロアルコキシ(PFA)を処理するのに特に適する。
【0012】
好ましくは、改質された含フッ素重合体粉末物質の粒径は、従来の粉末スプレー技法が適用できるよう十分に小さい。生成される塊(塊の初期の粒径は約0.2μm)の直径の平均値は、1〜100μmであり、より好ましくは20〜30μmである。
【0013】
好ましくは、液体担体中の含フッ素重合体固体粒子の懸濁物は、冷凍庫の中で、0℃以下で冷凍される。より好ましくは、前記懸濁物は−60℃〜−20℃の範囲内の温度で冷凍される。通常、冷凍は6時間〜24時間で完了する。
【0014】
好ましくは、液体担体中の含フッ素重合体固体粒子の懸濁物は、冷凍前に注がれ又はすくわれ又はその他の方法でトレーに移される。好ましくは、含フッ素重合体固体粒子の懸濁物が入っているトレーはその後冷凍庫におかれてトレーと共に冷凍される。
【0015】
好ましくは、水性担体は界面活性剤を含む又は含まない、及び、つなぎ溶剤(追加樹脂の分散や溶媒和を助けるための有機溶剤)を含む又は含まない水である。つなぎ溶剤を用いる場合、つなぎ溶剤の濃度は十分低くすべきであり、かつ冷凍を抑制しないようつなぎ溶剤は十分高い融点を有しているべきである。
【0016】
好ましくは、大気圧より低い圧力下で又は真空を用いて昇華が行われる。低い圧力を用いることで、担体が冷凍状態から直接気体状態へ昇華(sublimation)し、固体から液体そして液体から気体への遷移を回避することができる。好ましくは真空ポンプを用いて低い圧力を作ることができる。好ましくは低い圧力は0.01atm〜0.99atmの範囲内であり、より好ましくは0.04atm〜0.08atmである。通常、昇華は12時間〜48時間で完了する。
【0017】
好ましくは、本発明の方法は実際には含フッ素重合体のガラス転移温度以下の温度で実行される。重合体のガラス転移温度Tgは重合体がガラス状態からゴム状態へと変化する温度である。Tgの測定値は重合体の分子量、熱履歴、年齢、及び、加熱率や冷却率に依存する。通常値はMFAが約75℃、PFAが約75℃、FEPが約−208℃、PVDFが約−45℃である。
【0018】
昇華プロセスを助ける及び担体液が融解するのを回避するために温度が調整される。さらにこのような温度調整により、上記の物質の一部に関して温度をTg値以下に維持できる。従って、本発明の方法は環境温度(ambient temperature)において実行できる。あるいは本発明の方法は、プロセスを完了させるまでの時間を短縮するために前記環境温度よりも高い温度において実行できる。
【0019】
改質含フッ素重合体粒子の処理は、昇華後又は本発明のプロセス中における何れのタイミングにおいても可能である。そのような改質には含フッ素重合体の粉砕加工又は照射処理が含まれる。含フッ素重合体の照射処理は、通常、粉砕加工により粒径の調整がされた後に行われる。粉砕加工によって改質含フッ素重合体の粒径分布が調整され、例えばより微細な粉末を製造するために平均粒径が小さくされる。通常粉砕加工は従来どおりピン又はジェットミル内で行われる。
【0020】
本発明の方法がさらに改質された含フッ素重合体粒子の照射処理(irradiation)を含む場合、該方法は通常粉末に対して実施されるか、あるいは懸濁物に対して実施される。照射処理により改質含フッ素重合体の融解特性が調整されて、例えば融解温度/ガラス転移温度が低下されるとともにメルトフローレートが増加される。
【0021】
本発明の方法により、粒子の堅固な塊が生成されることなく、代わりに、押し出し成型や従来の粉末スプレーを用いた技法における使用に適した、又は、水性媒体又は有機媒体中での再分散に適した微細な粉末が生成される。もろい粉末は容易に分解することができ粒径の改質が可能となる。
【0022】
スプレー乾燥や凝固を伴う周知の方法と比較すると、周知の方法においは100℃を優に超える温度が要求されるのに対し、本発明の方法は含フッ素重合体のガラス転移温度以下の温度で実行可能である。環境温度を用いることでエネルギー効率を大きくすることができ、さらに、環境温度よりも高い温度、但しガラス転移温度よりも低い温度、を用いることで昇華の進行速度を速めることができる。また、環境温度よりも高い温度を用いて二次的な乾燥を補助することで残っている液体担体の痕跡をなくすことができる。
【0023】
本発明の方法は、含フッ素重合体がフィブリル化する傾向にあっても又はフィブリル化しない傾向にあっても、改質含フッ素重合体を製造するために用いることができる。フィブリル化した重合体とは、せん断力が加えられた時に繊維を形成するものである。スプレー乾燥及び凝固を伴う周知の方法においては、含フッ素重合体固体粒子にせん断力が加えられるので加工しにくい物質が生成される。本発明の方法は、何れの段階においてもせん断力を加えることはないので、フィブリル化する可能性のある含フッ素重合体の使用に適している。
【0024】
本発明の方法は、ポンプで送ることが可能な液体担体中の含フッ素重合体固体粒子の懸濁物又はポンプで送ることが可能でない懸濁物から、改質された含フッ素重合体を製造するために用いることができる。懸濁物は粘性が高い又はせん断力に対する感度が高いとポンプで送ることができない。本発明の方法は懸濁物をポンプで送る段階を伴わない。代わりに、懸濁物をトレーに注いで又はすくって冷凍し、そして、冷凍された固体の塊が真空チャンバ内に移される。
【0025】
本願発明は様々な様式で実際に実行可能であり、実施形態を以下の例の中で記載する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
例1
改質剤としてナノSiCをMFA粉末に添加する実験。
粒径が40nmの、Lake Chemicals and Minerals Ltd製ベータナノ炭化ケイ素(Beta Nano Silicon Carbide)を、MFAの水分散液6202−1中にゆっくり混ぜながらゆっくりと添加し、乾燥した重量でSiCが0.2%含有されるようにする。この混合物をトレーの中に注いで、冷凍乾燥の前に冷凍する。グリット吹き付けアルミニウムパネルに下塗剤Xylan4018/F9727Blackを下塗りする。冷凍乾燥した粉末を、90ミクロンふるいを用いてふるいにかけて大きな粒径の粒子を除去する。この粉末を、静電粉末スプレー銃を用いて湿った状態の下塗剤の上に適用する。パネルを150℃で5分間フラッシュオフさせ、そして400℃で20分間硬化させる。25〜30ミクロン粉末の連続した滑らかな膜が形成された。
【0027】
MFA分散液Hyflon6202−1を冷凍乾燥させて、90ミクロンふるいを用いてふるいにかける。この粉末を、静電粉末スプレー銃を用いてグリット吹き付けアルミニウムパネル上の湿った状態のXylan4018/F9727Blackの上に適用する。パネルを150℃で5分間フラッシュオフさせ、そして400℃で20分間硬化させる。
【0028】
これらのパネルを、3kgの重りと研磨パッド3Mスコッチブライト(Scotchbrite)7447とを有する往復摩耗試験装置を用いて評価した。研磨パッドは1000サイクル毎に取り換えられた。
【0029】
乾燥膜の総厚が35〜46ミクロンの改質されていないMFA6202−1パネルでは、8000サイクル後に基板が初めて露出し、そして10000サイクル後に基板の5%が露出した。
【0030】
乾燥膜の総厚が35〜44ミクロンの0.2%SiC改質MFA6202−1パネルでは、12000サイクル後に基板が初めて露出し、そして16000サイクル後に基板の5%が露出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法において、
改質剤として炭化ケイ素(SiC)粒子を用いて水性液状担体中に含フッ素重合体固体粒子の懸濁物を形成し、
水性の前記懸濁物を冷凍させ、そして、
その後前記冷凍された水性の懸濁物を昇華させることによりSiC改質剤により改質された粉末状の含フッ素重合体乾燥粒子を生成する
ことを特徴とする粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。
【請求項2】
前記含フッ素重合体がパーフルオロメチルビニルエーテル(MFA)であることを特徴とする請求項1に記載の粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。
【請求項3】
前記含フッ素重合体の粒径が30〜350nmの範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。
【請求項4】
前記SiC改質剤の粒径が50μm以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。
【請求項5】
乾燥した状態での重量において、前記MFAと前記SiCの混合物に対して前記SiCを2重量パーセント以下存在させることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項記載の粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。
【請求項6】
前記昇華を、大気圧よりも低い圧力下で行うことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項記載の粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。
【請求項7】
前記低い圧力を、0.01〜0.99atmの範囲内とすることを特徴とする請求項6記載の粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。
【請求項8】
前記昇華を、前記含フッ素重合体のガラス転移温度よりも低い温度で行うことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項記載の粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。
【請求項9】
前記昇華を、環境温度において行うことを特徴とする請求項8記載の粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。
【請求項10】
前記昇華を、前記環境温度と前記含フッ素重合体のガラス転移温度との間の温度で行うことを特徴とする請求項9記載の粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。
【請求項11】
前記水性液状担体中における前記固体粒子の懸濁物を、−60℃〜−20℃の範囲内の温度で冷凍させることを特徴とする請求項1〜10の何れか一項記載の粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。
【請求項12】
前記水性液状担体中における前記固体粒子の懸濁物を、トレーの中で冷凍させることを特徴とする請求項1〜11の何れか一項記載の粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。
【請求項13】
前記改質含フッ素重合体粒子を、粉砕加工及び/又は照射処理することを特徴とする請求項1〜12の何れか一項記載の粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。
【請求項14】
前記含フッ素重合体が、フィブリル化するもの及び/又はポンプで送りこむことができないものであることを特徴とする請求項1〜13の何れか一項記載の粉末状の改質された含フッ素重合体物質を製造する方法。

【公表番号】特表2010−533762(P2010−533762A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516565(P2010−516565)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002414
【国際公開番号】WO2009/010739
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(504235986)ホイットフォード プラスチックス リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】WHITFORD PLASTICS LIMITED
【住所又は居所原語表記】10 Christleton Court, Manor Park, Runcorn, Cheshire WA7 1ST, United Kingdom
【Fターム(参考)】