説明

含気フラワーペースト

【課題】菓子やパン等に適用するのに好ましい保形性に優れダレの少ない、かつ軽く口当たりのよい食感の含気フラワーペーストとそれを用いたベーカリー製品を提供すること。
【解決手段】含有量が0.1〜5.5重量%のオクテニルコハク酸澱粉と、HLB値が8〜16で、構成脂肪酸がパルミチン酸やステアリン酸等の飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤を含有することにより、ダレが少なく、口当たりのよい含気フラワーペーストと当該含気フラワーペーストを用いた洋菓子やパン等のベーカリー製品を提供すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン、菓子用のフィリング等に用いるフラワーペーストに気泡を含有させ、保形性に優れた含気フラワーペーストとそれを用いたベーカリー製品に関する。
【背景技術】
【0002】
フラワーペーストとは、小麦粉、澱粉等を主原料として、これに糖類、乳製品、ココア、チョコレート、油脂、卵類等を加え、加熱混和して、クリーム状に仕上げたもので、フィリング材やトッピング材として、菓子やパン等に充填、塗布して食用に供するものであり、水中油型で乳化している。
特許文献1には、冷却によりフラワーペーストの表面に生じる被膜を抑制するために、加工澱粉及び/又はハイアミロース澱粉と熱処理小麦粉とを配合することが開示されている。
特許文献2には、フラワーペーストの耐熱性を増強するために、WPC(ホエー蛋白濃縮物)や卵白、澱粉などの素材の添加量を増やすのではなく、原料組成中に乳化機能のあるオクテニルコハク酸澱粉を所定の割合で含有させることが開示されている。
特許文献3には、滑らかで口当たりがよく、糊状感がなくて口溶けに優れ、貯蔵安定性に優れた、フラワーペーストのようなペースト状食品とするために、アミロース含量が20〜35質量%の加工穀物澱粉を1〜10質量%含有するようにペースト状食品を製造することが開示されている。
しかし、これらには、含気されたフラワーペーストについては言及されていない。
特許文献4には、凍結保存耐性があって、冷凍保存ができ、冷凍状態で噛み通せるソフトさがあり、冷蔵保存でも保形性があり、美味しく食べられるような澱粉含有クリーム(フラワーペースト)を製造するために未膨潤のα化澱粉と起泡性水中油型乳化物とを含む原料を起泡させる。すなわち、未膨潤のα化澱粉と平行してクリームを起泡させることにより見掛け比重0.7以下の澱粉クリームが得ることができることが開示されている。この方法では、起泡性水中油型乳化物を起泡する時に未膨潤のα化澱粉を混合する必要があり、α化澱粉が膨潤してしまうと起泡力が落ちてしまうため、短時間で処理を行わねばならず、また再使用できない。
【0003】
特許文献5には、ホイップした後、ホイップ済みクリームの固さを長期間冷蔵保存できるようにするために、不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするポリグリセリン脂肪酸エステルと、キサンタンガム、グアーガム、カルボキシメチルセルロースよりなる群から選択される少なくとも1種、メチルセルロース、アラビアガム、λ―カラギーナン、親油性化工澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種を含有してなる起泡性水中油滴型乳化組成物が開示されている。ここで、親油性化工澱粉とは、オクテニルコハク酸エステル化された澱粉も含まれる。しかし、これは、ホイップ済みクリームに関するものであり、フラワーペーストに関するものではない。
【特許文献1】特開2002−209523号公報
【特許文献2】特開2004−105032号公報
【特許文献3】特開2004−173541号公報
【特許文献4】特開平7−8174号公報
【特許文献5】特開平6−225720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から、フラワーペーストは澱粉を使用しているため、粘り気を感じたり、重い食感になりがちである。この食感を改良し、軽い口当たりにするためには、フラワーペーストを含気させることが考えられるが、菓子やパン等に注入した場合に保形性が保てないためダレてしまい、ペーストがはみ出して周りを汚してしまったりする。本発明は、菓子やパン等のベーカリー製品に適用するのに好ましい、保形性に優れダレの少ない、軽く口当たりのよい食感の含気フラワーペーストを開発することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、下記のような含気フラワーペーストを提供することにより、発明を完成した。
すなわち、
(1)オクテニルコハク酸澱粉と乳化剤を含有することに特徴のある含気フラワーペースト。
(2)乳化剤が当該HLB値が8〜16であり、かつ飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルである(1)に記載の含気フラワーペースト
(3)乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルおよび/又はショ糖脂肪酸エステルである(1)または(2)に記載の含気フラワーペースト。
(4)オクテニルコハク酸澱粉の含有量が0.1〜5.5重量%である(1)乃至(3)のいずれかに記載の含気フラワーペースト。
(5)(1)乃至(4)のいずれかに記載の含気フラワーペーストを用いたベーカリー製品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、気泡が抜けてしまっても、再び含気可能であり、ダレの少ない、すなわち、保形性の良好なフラワーペーストを得ることができ、菓子やパン等のフィリング材として使用すると、味が軽く、ソフトで口当たりの良い、フィリングのもたつき感が解消されるベーカリー製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において含気フラワーペーストの製造方法は、以下に示す方法で行う。小麦粉、澱粉等の澱粉質、蔗糖、水飴、ブドウ糖、マルトース、乳糖、異性化糖などの糖類、動植物油脂類、醗酵乳、牛乳、クリーム、脱脂粉乳、濃縮乳などの乳製品、全卵、卵黄、液卵、乾燥卵白などの卵類、ゼラチン、寒天、カラギーナン、キサンタガムなどの増粘多糖類、食塩、安定剤、チョコレート、ココアパウダー、ナッツペーストなどの嗜好品、柑橘類、リンゴ、杏、バナナ、メロンなどの果汁、ピューレおよび破砕物などの果実ペースト、乳化剤、仕込み水などの他、オクテニルコハク酸澱粉および乳化剤、必要に応じて香料を加え、均一になるように加熱混合し、フラワーペーストを得る。得られたフラワーペーストをハンディミキサーやバッチ式のオーバーミキサーでホイップしたり、連続式のポイッピングマシンを使用して、含気させて、含気フラワーペーストを得る。しかし、含気させる方法はこれらの方法に限定されない。
また、乳化剤としては、HLB値(親水親油バランスの値)が8〜16であり、かつ飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルがよく、飽和脂肪酸としては、パルミチン酸やステアリン酸等がある。好ましくは、グリセリン平均重合度が8以上のポリグリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステル等を用いる。例えば、HLB値が10であり、ステアリン酸を構成脂肪酸とし、かつグリセリン平均重合度が10であるデカグリセリン脂肪酸エステルや、HLB値が16であり、ステアリン酸を構成脂肪酸とするショ糖脂肪酸エステル等がある。配合割合は0.1〜2.0重量%が好ましく、2.0重量%を越える場合では風味が劣り、0.1重量%に満たない場合では効果が現れない。
本発明においてオクテニルコハク酸澱粉とは、馬鈴薯澱粉、小麦粉澱粉、タピオカ澱粉、ワキシーコーンスターチ、コーンスターチ等の澱粉をオクテニルコハク酸エステル化処理したものなどが挙げられる。オクテニルコハク酸澱粉の含有量は、好ましくは0.1〜5.5重量%、より好ましくは3.1〜5.5重量%がよい。0.1重量%を下回るとダレが大きくなり、5.5重量%を越えると、フラワーペーストとしての配合バランスが悪くなる。
【0008】
本発明でベーカリー製品とは、例えば、ケーキ、タルトやシュークリーム等の洋菓子類やクリームパンやチョコレートコロネなどのパン類等である。
【実施例】
【0009】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示であって本発明を限定するものではない。
実施例1
小麦粉、コーンスターチ、水飴(Bx.75)、乾燥卵白、カラギーナン、ココアパウダー(油分12%)、オクテニルコハク酸澱粉、ショ糖脂肪酸エステル(商品名:リョートーシュガーエステルS-1670、三菱化学フーズ(株)製)、仕込み水を表1の割合(但し単位は重量%)で加えて、混合しながら95℃まで加熱後、品温を70℃にして、菜種油(20重量%)とチョコレート(19重量%:明治製菓(株)製のブラックチョコレート)を混合、均質化してフラワーペーストを得た。得られたフラワーペーストを、ハンディミキサーを用いて品温10℃にて、3分間ホイップして含気フラワーペーストを得た。
【0010】
【表1】

【0011】
実施例2
オクテニルコハク酸澱粉と仕込み水の配合割合は異なるが、表1の割合になるようにして、実施例1と同様な方法で、含気フラワーペーストを得た。
【0012】
実施例3
ショ糖脂肪酸エステルの代わりに、ポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:リョートーポリグリエステルS-28D、三菱化学フーズ(株)製)を加えて、表1の割合になるように配合して、実施例1と同様な方法で含気フラワーペーストを得た。なお、オクテニルコハク酸澱粉を増量したため、小麦粉およびコーンスターチは添加しなかった。
【0013】
比較例1
表1の配合割合で原料を加えて、実施例1と、同様な方法で含気フラワーペーストを得た。なお、オクテニルコハク酸澱粉は抜いて、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルを添加した。
【0014】
比較例2
表1の配合割合で原料を加えて、実施例1と、同様な方法で含気フラワーペーストを得た。なお、オクテニルコハク酸澱粉および乳化剤は抜いた。
【0015】
試験例1
上記実施例1〜3と比較例1〜2で得られた含気フラワーペーストを直径23mm、長さ25mmの円筒に入れ、0℃で冷却成型した。その後、成型したフラワーペーストを円筒から取り出し、25℃、2時間静置した後、広がったフラワーペーストの長径を測定した。その長径の長さから円筒の直径(23mm)を差し引いた値をmmの単位で表示し、ダレの大きさとした。また、含気前と含気後のフラワーペーストの容積を測定し、含気後の容積を含気前の容積で除して百分率で示したものを含気率として表した。表2の結果から、実施例1〜3の含気率は、従来品である比較例1〜2より、増大し、ダレの大きさは従来のものに対し、1/3〜1/7に有意に減少した。すなわち、本発明により保形性が増大した。
【0016】
【表2】

【0017】
実施例4
実施例1で得られた含気フラワーペーストを60℃にて攪拌して脱気し、含気率104%とした。これを再びハンディミキサーを用いて品温10℃にて、3分間ホイップしたところ、含気される前のフラワーペーストに対する含気率が142%となり、再使用できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明により、容積が増加し、軽く、口当たりのよい、かつ保形性に優れた含気フラワーペーストを得ることができ、それを菓子やパン等に充填、塗布して使用したベーカリー製品を得ることができる。











【特許請求の範囲】
【請求項1】
オクテニルコハク酸澱粉と乳化剤を含有することに特徴のある含気フラワーペースト。
【請求項2】
乳化剤が当該HLB値が8〜16であり、かつ飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルである請求項1記載の含気フラワーペースト。
【請求項3】
乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルおよび/又はショ糖脂肪酸エステルである請求項1または2に記載の含気フラワーペースト。
【請求項4】
オクテニルコハク酸澱粉の含有量が0.1〜5.5重量%である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の含気フラワーペースト。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の含気フラワーペーストを用いたベーカリー製品。



































【公開番号】特開2006−129759(P2006−129759A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321369(P2004−321369)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】