説明

含気容器の加熱殺菌装置

【課題】専門的な知識がなくとも、含気容器を変形・破損させない圧力制御を可能とする。
【解決手段】気相分を含んだ食品を容器内に密封した含気容器を殺菌槽内に収容し、含気容器に高温水を噴射することで加熱殺菌を行う加熱殺菌装置であって、殺菌槽内の温度を検出する槽内温度検出器、殺菌槽内の圧力を検出する槽内圧力検出器、殺菌槽内の圧力を調節する槽内圧力調節装置を持ち、殺菌槽内の圧力を調節しながら被殺菌物の加熱殺菌を行う加熱殺菌装置において、槽内温度検出器で検出した現在の槽内温度は、所定の遅れ時間経過後の含気容器内温度であるとして予想品温を算出するプログラムを持った運転制御装置を設けておき、算出した予想品温に基づいて殺菌槽内の圧力調節を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は含気形態の密封保存容器を加熱殺菌する含気容器の加熱殺菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
缶詰やレトルト食品は、密封包装後に容器外側から加熱して容器内部の食品を殺菌することで、調理済み食品の常温での長期保存を可能にしている。加熱殺菌を行う場合、殺菌槽内に被殺菌物を収容しておき、殺菌槽内を加圧した状態で被殺菌物に高温水を噴射することで被殺菌物を加熱する。被殺菌物を殺菌温度まで上昇させた状態で所定時間維持することによって被殺菌物の殺菌を行い、その後は冷却を行った後に被殺菌物を殺菌槽から取り出して終了となる。
【0003】
特許3078545号に記載しているように、容器内に気相部を持った含気容器入りの食品を加熱殺菌する場合、容器内圧力と殺菌槽内圧力の間で差が発生し、容器が変形したり破損することがある。そのため、含気容器内の圧力と殺菌槽内の圧力に差が生じないように槽内圧力を調節する必要があり、特許3078545号では、伝熱計算式を用いて槽内温度から含気容器内の水分温度を求め、含気容器内の圧力を算出しておき、含気容器内外の圧力差が大きくならないように殺菌槽内の圧力を制御している。しかし、この方法では、伝熱計算式の設定値を算出するために専門的な知識が必要となったり、設定値を一般的な値とした場合には実際の含気容器内の圧力と異なる圧力となり、含気容器の変形や破損が発生する可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3078545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、専門的な知識がなくとも、含気容器の変形や破損の発生を防止する圧力制御を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、気相分を含んだ食品を容器内に密封した含気容器を殺菌槽内に収容し、含気容器に高温水を噴射することで加熱殺菌を行う加熱殺菌装置であって、殺菌槽内の温度を検出する槽内温度検出器、殺菌槽内の圧力を検出する槽内圧力検出器、殺菌槽内の圧力を調節する槽内圧力調節装置を持ち、殺菌槽内の圧力を調節しながら被殺菌物の加熱殺菌を行う加熱殺菌装置において、槽内温度検出器で検出した現在の槽内温度は、所定の遅れ時間経過後の含気容器内温度であるとして予想品温を算出する予想品温算出プログラムを持った運転制御装置を設けておき、算出した予想品温に基づいて殺菌槽内の圧力調節を行うものであることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記の加熱殺菌装置において、遅れ時間は、複数設定した槽内温度にそれぞれ対応させて設定しており、遅れ時間の設定を行う槽内温度は、低温域では比較的広い間隔で設定し、高温域では比較的狭い間隔で設定しておき、各設定温度の中間の温度では槽内温度と遅れ時間を比例的に算出するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
発明を実施することで、専門的な知識がなくとも、含気容器を変形・破損させない圧力制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例での槽内温度変化と予想品温算出の説明図
【図2】本発明を実施する加熱殺菌装置のフロー図
【図3】槽内温度に対応させて設定した遅れ時間の表
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施例を図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施例での槽内温度変化と予想品温の説明図であり、横軸に時間、縦軸は左に温度、右に圧力をとっている。本実施例での加熱殺菌の工程は、被殺菌物を80℃まで加熱する一次加熱、100℃まで加熱する二次加熱、120℃まで加熱する三次加熱を行った後に、殺菌温度を所定時間維持して殺菌を行い、その後に冷却を行うものとしている。
【0011】
図2は本発明を実施する加熱殺菌装置のフロー図であり、加熱殺菌装置は、円筒形の殺菌槽1内に被殺菌物2を収容するようにしている。被殺菌物2は気相部を持っている含気容器であり、殺菌槽1内で被殺菌物2を加熱することで殺菌を行う。殺菌槽1の下部には、蒸気を導入する蒸気導入管3と給水を導入する給水導入管5を接続している。蒸気導入管3には蒸気導入制御弁6、給水導入管5には給水制御弁7を設けており、各制御弁の開閉を制御することで殺菌槽1内への蒸気と給水の導入を制御するようにしている。殺菌槽1の底部には循環配管8を接続しており、循環配管8の他端は殺菌槽内に設けている噴射ノズル9に接続している。循環配管8の途中に循環ポンプ4を設けており、循環ポンプ4を作動すると殺菌槽1底部の水は循環配管8を通して噴射ノズル9へ送られ、噴射ノズル9から殺菌槽1内へ循環水を噴射するようになっている。
殺菌槽1内の圧力調節は、殺菌槽内への圧縮空気の供給と、殺菌槽内からの空気排出を行う槽内圧力調節装置13を設けておき、槽内圧力を上昇させる場合には圧縮空気の供給を行い、槽内圧力を低下させる場合には空気を排出することで行う。
【0012】
殺菌槽1には槽内温度を検出する槽内温度検出器11と、槽内圧力を検出する槽内圧力検出器12を設けておく。蒸気導入制御弁6、給水制御弁7、循環ポンプ4、槽内圧力調節装置13などの作動制御は、運転制御装置10によって行うようにしており、運転制御装置10は、槽内温度検出器11及び槽内圧力検出器12とも接続している。運転制御装置10には、槽内温度検出器11で検出する槽内温度に基づいて含気容器内の温度を算出する予想品温算出プログラムを設定しておく。予想品温算出プログラムは、槽内温度に対応させて「遅れ時間」の設定を行っておき、槽内温度検出器11で殺菌槽内の温度を検出した時から前記「遅れ時間」経過後に被殺菌物の温度である品温がその温度になるものとして予測品温を算出する。
【0013】
遅れ時間は、殺菌槽内に被殺菌物2の実物を入れて加熱殺菌する試験運転を行っておき、その時の槽内温度と被殺菌物の温度を実測することで、槽内温度と品温の関係を調べて設定しておく。槽内温度と品温の関係は、同一の加熱殺菌装置であっても、被殺菌物の大きさや粘度、容器の伝熱性などの要素によって変化するため、試験運転にて実際の槽内温度と品温の関係を調べておく必要がある。
【0014】
遅れ時間の設定は、図3で記したように複数の温度帯で設定しておく。設定する温度は、50℃から90℃は10℃間隔、90℃から135℃は5℃間隔とするように、低温域では比較的広い間隔で設定し、高温域では比較的狭い間隔で設定する。各温度域で、加熱時の遅れ時間と冷却時の遅れ時間をそれぞれ設定しておき、その中間の温度では設定値から比例的に算出する。例えば槽内温度が55℃であった場合、この温度での遅れ時間は設定していないため、前後の値から算出する。50℃での遅れ時間は22秒、60℃での遅れ時間が54秒であるため、50℃と60℃との間では槽内温度1℃の変化で遅れ時間は3.2秒だけ変化していることになり、55℃での遅れ時間は38秒であると考えることができる。
【0015】
遅れ時間を設定する温度は、狭い間隔で多数設定した方が制御の精度は高くなるが、むやみに細かく設定しても手間の増加に見合うほど精度が上昇することは期待できない。そのため、遅れ時間の温度設定は、5℃又は10℃間隔で設定しておき、各設定温度の間は比例で算出するようにしている。高温域で遅れ時間を設定する温度の間隔を狭くするのは、高温域の方が少しの温度変化でも大きな圧力変化が発生するためであり、圧力変動が大きく精度の高い圧力制御が必要である高温域では、遅れ時間を設定する温度の間隔を狭く設定することで、容器を変形・破損させない圧力制御が可能となる。圧力変動が小さく精度の高い圧力制御は必要ない低温域では、遅れ時間を設定する温度の間隔を広く設定しても容器が変形・破損することはなく、設定温度の間隔を広くすることで設定を簡略化することができる。
【0016】
実際の加熱殺菌工程に基づいて説明する。被殺菌物2の加熱殺菌を行う場合、まず被殺菌物2をトレイに並べ、トレイを積み重ねた状態で殺菌槽1内に収容しておく。次に殺菌槽1の底部へ水を導入しておき、底部にためた水に蒸気を吹き込むことで水を加熱して高温水とし、循環ポンプ4を作動することで噴射ノズル9から被殺菌物2へ向けて高温水を噴射する。
【0017】
運転制御装置10には、運転開始からの経過時間とその時の槽内温度の目標値を設定しておき、槽内温度検出器11で検出している槽内温度が目標温度になるように、蒸気導入制御弁6の開閉を制御することで温度調節を行う。殺菌槽1への蒸気供給を行うと殺菌槽内底部の水温が上昇し、噴射ノズル9から噴射する噴射水温度が上昇するため、殺菌槽1内の温度が上昇する。逆に殺菌槽1への蒸気供給を停止すると殺菌槽内底部の水温が低下し、噴射ノズル9から噴射する噴射水温度が低下するため、殺菌槽1内の温度が低下する。一次加熱工程では80℃まで加熱、二次加熱工程では100℃まで加熱、三次加熱では120℃まで加熱を行い、殺菌温度である120℃で所定時間維持することで加熱殺菌を行う。その後は殺菌槽1内に冷却水を導入し、冷却水を循環させて噴射することで被殺菌物2を冷却する冷却工程を行い、冷却終了後に殺菌槽1内から被殺菌物2を取り出す。
【0018】
このとき運転制御装置10では、槽内温度検出器11で検出している殺菌槽内の温度を運転制御装置10内に設けている予想品温用バッファに記録していく。運転制御装置10では、検出した槽内温度と、槽内温度から定まる加熱遅れ時間から、予想品温を算出する。予想品温は、槽内温度検出から加熱遅れ時間経過後の品温を予測するものであり、遅れ時間経過後の品温は、先に計測した槽内温度に等しくなるとして予測品温の算出を行う。予想品温を算出することで、その時の含気容器内圧力を算出し、その品温に対応する圧力となるように槽内圧力の調節を行う。
【0019】
例えばある時刻Aにおける槽内温度が60℃であった場合、運転制御装置10では時刻Aでの温度を予想品温用バッファに記録する。槽内温度60℃における加熱遅れ時間は、図3にあるように54秒であり、加熱遅れ時間の値として54秒を算出する。運転制御装置10では、時刻Aから54秒後である時刻Bの時点で、被殺菌物2の品温は60℃になるとの予測を行う。時刻Bでの品温が求まれば、時刻Bにおける容器内の圧力は計算で算出することができる。容器の変形などは、容器内の圧力と殺菌槽内の圧力に差が生じることで発生するため、時刻Bでの槽内圧力は、容器内圧力が60℃に対応する圧力になるように槽内圧力調節装置13で調節する。
【0020】
同様に例えば槽内温度が100℃となった時刻Cでは、100℃の加熱遅れ時間は166秒であるため、時刻Cから166秒後である時刻Dで品温は100℃になるとの予想を行い、時刻Dでの槽内圧力を調節する。予想品温の算出は冷却工程でも行い、冷却時には冷却遅れ時間を用いて予想品温の算出を行う。また、冷却工程時でも同様に予想品温の算出を行うが、冷却工程時には冷却遅れ時間に基づいて予想品温を算出する。
【0021】
このように遅れ時間に基づいて予想品温を算出し、殺菌槽内の圧力制御を行うようにすれば、被殺菌物が含気容器入りであっても含気容器を変形・破損させない圧力制御が可能となる。
【符号の説明】
【0022】
1 殺菌槽
2 被殺菌物
3 蒸気導入管
4 循環ポンプ
5 給水導入管
6 蒸気導入制御弁
7 給水制御弁
8 循環配管
9 噴射ノズル
10 運転制御装置
11 槽内温度検出器
12 槽内圧力検出器
13 槽内圧力調節装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相分を含んだ食品を容器内に密封した含気容器を殺菌槽内に収容し、含気容器に高温水を噴射することで加熱殺菌を行う加熱殺菌装置であって、殺菌槽内の温度を検出する槽内温度検出器、殺菌槽内の圧力を検出する槽内圧力検出器、殺菌槽内の圧力を調節する槽内圧力調節装置を持ち、殺菌槽内の圧力を調節しながら被殺菌物の加熱殺菌を行う加熱殺菌装置において、槽内温度検出器で検出した現在の槽内温度は、所定の遅れ時間経過後の含気容器内温度であるとして予想品温を算出する予想品温算出プログラムを持った運転制御装置を設けておき、算出した予想品温に基づいて殺菌槽内の圧力調節を行うものであることを特徴とする含気容器の加熱殺菌装置。
【請求項2】
請求項1に記載の含気容器の加熱殺菌装置において、遅れ時間は、複数設定した槽内温度にそれぞれ対応させて設定しており、遅れ時間の設定を行う槽内温度は、低温域では比較的広い間隔で設定し、高温域では比較的狭い間隔で設定しておき、各設定温度の中間の温度では槽内温度と遅れ時間を比例的に算出するようにしたことを特徴とする含気容器の加熱殺菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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