説明

含水土壌の脱水用袋体、および含水土壌の封じ込め方法

【課題】河川・湖沼などに堆積する高含水量の土壌を効率良く、充填することが可能で、のり面などにおける横滑りのない含水土壌の封じ込め用袋体、およびこの袋体を用いた含水土壌の封じ込め方法を提供すること。
【解決手段】水を含む土壌を脱水してその内部に封じ込めるための袋体であって、該袋体が、合成繊維のマルチフィラメント糸織物からなり、且つ立方体又は直方体形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば河川・湖沼に堆積した、水を含む土壌を脱水減量化するのに好適に使用可能な袋体、および水を含む土壌を脱水減量化して、土壌を袋体の内部に封じ込めることが可能な含水土壌の封じ込め方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、織物や不織布製の袋に汚染土壌を充填し封じ込める工法が提案されており、例えば、化学繊維製の透水性袋体を使用し、汚染土壌を圧入して加圧脱水したり、該袋体を順次積み重ねて下側の袋体を加圧脱水する方法が開示されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、上記方法においては、袋体の積み重ねに際し、汚染土壌を効率的に充填し封じ込めるための袋体の形状については何らの記載も無く、また、上記袋体をのり面など、袋体との馴染みが悪い場所に敷設あるいは配設する場合、滑りが発生する恐れがあるという問題を有していた。
【特許文献1】特開2002−178000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解消し、河川・湖沼などに堆積する高含水量の土壌を効率良く、充填かつ、排水処理が不要なレベルまでろ過することが可能で、のり面などにおける横滑りのない含水土壌の封じ込め用袋体、およびこの袋体を用いた含水土壌の封じ込め方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、含水土壌を充填し封じ込めるための袋体の形状を立方体又は直方体形状とするとき、上記目的が達成できることを究明し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は、水を含む土壌を脱水してその内部に封じ込めるための袋体であって、該袋体が、合成繊維のマルチフィラメント糸織物からなり、且つ立方体又は直方体形状に形成されていることを特徴とする含水土壌の封じ込め用袋体に関する。
【0007】
ここで、上記合成繊維のマルチフィラメント糸としては、ポリエステル、ナイロン、ビニロン、およびポリプロピレンの群から選ばれた少なくとも1種の合成繊維からなるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0008】
また、合成繊維のマルチフィラメント糸としては、特にポリ乳酸繊維からなるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0009】
次に、本発明は、水を含む土壌を、透水性の袋体内に入れた後、該袋体内の土壌に含まれる水分を袋体外に透過させて脱水するとともに、土壌を袋体内に残留させて、袋体内に封じ込めるに際し、該袋体として、上記土壌の封じ込め用袋体を使用することを特徴とする含水土壌の封じ込め方法に関する。
【0010】
ここで、含水土壌を、透水性の袋体内に入れるに際しては、該袋体を該袋体と略同形の型枠内に設置することにより、袋体の型崩れを防止することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、河川・湖沼などに堆積する高含水量の土壌を効率良く、かつ、排水処理が不要なレベルまでろ過することが可能な含水土壌の封じ込めに好適に使用可能な袋体、およびこの袋体を用いた含水土壌の封じ込め方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で使用する合成繊維のマルチフィラメント糸としては、ポリエステル、ナイロン、ビニロン、ポリプロピレンなどのマルチフィラメント糸が例示され、中でもポリエステルマルチフィラメント糸であることが好ましい。特に、ポリエステルマルチフィラメント糸の中でも、良好な物性を示すポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸や、袋体を恒久的に埋設しようとする場合は、生分解性の観点から、ポリ乳酸繊維からなるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0013】
なお、上記マルチフィラメント糸の総繊度は、通常、75〜2000dtex、好ましくは150〜1500dtexであり、また、総フィラメント数は、通常、75〜2000フィラメント、好ましくは150〜1500フィラメントである。
【0014】
上記の合成繊維のマルチフィラメント糸は、常法により織成されて織物とされ、該織物を用いて袋体が形成される。この際、織物の組織や密度には特に制限はないが、本発明においては、該袋体が立方体又は直方体形状に形成されていることが必要である。
【0015】
該袋体が、立方体又は直方体形状でない場合は、該袋体を順次積み重ねて下側の袋体を加圧脱水する際、含水土壌を効率的に充填し封じ込めることができなくなる。また、該袋体をのり面など、袋体との馴染みが悪い場所に敷設あるいは配設する場合、滑りが発生する。
【0016】
袋体を立方体又は直方体形状に形成させる方法には特に制限はなく、従来公知の方法が任意に採用できるが、例えば、5枚の立方体又は直方体形状の織物の端部を縫製により接合させる方法などが例示される。
【0017】
尚、上記織物の、下記式(1)で表されるカバーファクター(CF)は、1900〜2700であることが好ましい。
【0018】
【数1】

上記カバーファクター(CF)は、式(1)から明らかなように織物を構成する経糸,緯糸の繊度や密度により、適宜調整することができる。
【0019】
また、上記織物の通気度は、10cc/cm/sec以下であることが好ましい。該通気度が10cc/cm/secを超える場合は、含水土壌を袋体内に残留させることが困難になる場合がある。この理由については明確ではないが、通気度で表される流体の通過傾向が、懸濁物質のろ過傾向と密接な関連があるためではないかと考えられる。上記通気度の好ましい範囲は、0.01〜8cc/cm/secである。
【0020】
織物の通気度は、織物を収縮させる際の収縮率や、カレンダー加工、樹脂加工或いは多孔質フィルムをラミネートする方法などにより、調整することができる。
【0021】
本発明においては、含水土壌を、上記袋体内に入れた後、該袋体内の含水土壌に含まれる水分を袋体外に透過させて脱水するとともに、土壌を袋体内に残留させることにより、袋体内に封じ込めることができるが、含水土壌を、透水性の袋体内に入れるに際しては、該袋体を該袋体と略同形の型枠内に設置することが好ましい。袋体をこのような型枠に設置することにより、袋体の型崩れが防止でき、含水土壌をさらに効率的に充填し封じ込めることができる。
【0022】
また、本発明においては、含水土壌として、有害物質を含む汚染土壌を使用すれば、汚染土壌に付着した有害物質を袋体内に残留させて、該袋体内に封じ込めることもできる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例中、%は特に断らない限り、重量基準である。
また、実施例中の各特性は、以下の方法に従って評価した。
【0024】
(1)織物のカバーファクター
織物を構成する経糸の繊度(dtex)および経糸密度(本/インチ)、ならびに織物を構成する緯糸の繊度(dtex)および織物の緯糸密度(本/インチ)から、上記式(1)により算出した。
【0025】
(2)通気度
JIS L 1096のA法に規定される、フラジール形法に準拠して測定した。
【0026】
(3)湿潤時伸度
上記式(2)で算出される張力(Y)下における織物の湿潤時伸度は、JIS L 1096に準じて測定した。
【0027】
(4)有害物質の封じ込め率
袋内に封じ込められた底質に含有されるダイオキシン類量(pg−TEQ/g)を、袋に充填した底質に含有されるダイオキシン類量(pg−TEQ/g)に対する百分率で表した。
【0028】
(5)汚染物質の濃度
JIS K0312に規定される、「工業用水・工場排水中のダイオキシン類及びコプラナーPCBの測定方法」に準じて測定した。
【0029】
[実施例1]
ジメチルテレフタレートとエチレングリコールとをエステル交換反応させた後、重縮合反応させ、固有粘度0.64dl/gのポリエチレンテレフタレートポリマーを得た。このポリマーを減圧下で220℃に加熱して固相重合を行い、固有粘度0.98dl/gのポリマーとした。
【0030】
該ポリマーを305℃で溶融させた後、250ホールの丸孔を有する紡糸口金より吐出させ、加熱雰囲気中を通過させた後、74℃のローラーで予熱を行いながら1.08倍の延伸を行い、560dtex/250フィラメントのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸を得た。
【0031】
得られたマルチフィラメント糸を製織した後、沸騰水処理を行ない、織物を収縮させて、カバーファクターが2,314、通気度が1.0cc/cm/sec、湿潤時伸度が経9%、緯7%の織物を得た。
【0032】
次いで、上記織物から、長さ1m、幅0.6mの織物片を2枚、長さ2m、幅0.6mの織物片を2枚、さらに長さ2m、幅1mの織物片を1枚裁断した後、それぞれの織物片の端部を縫製により接合し、長さ2m、幅1m、高さ0.6mの直方体形状袋体を成形した。
【0033】
次いで、得られた袋体を、該袋体と略同形の型枠内に設置し、電動ポンプを用いて有害物質を含有する土壌(含水比600%)を充填した後、同様の操作を繰り返して、土壌が充填された6つの袋体を得た。
【0034】
上記6つの袋体を積み重ねて下側の袋体を加圧脱水した結果、有害物質を99.98%以上封じ込めることが可能であり、かつ、その汚染物質の初期排水中の平均濃度は5.5pg−TEQ/lであった。
【0035】
さらに、上記の袋体をのり面に敷設したところ、滑りは全く発生しなかった。
【0036】
なお、この際用いた土壌は、密度2.596、含水比27.05%、液性限界48.9%、ダイオキシン含有量790pg−TEQ/gであり、これを含水比600%に調整して用いた。
【0037】
[比較例1]
実施例1において、織物から、長さ2.76m、幅2mの織物片を1枚裁断した後、該織物片の端部を縫製により接合し、長さ2m、直径0.88mの略円筒形状の袋体を成形し、型枠を使用しなかった以外は実施例1と同様に実施して有害物質を含有する土壌(含水比600%)を充填した。
【0038】
得られた袋体は、滑りが発生するために4つ以上積み重ねることは不可能であった。また、上記の袋体を実施例1と同形状ののり面に敷設しようとしたところ、滑りが発生して、敷設できない部分が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、汚染土壌の封じ込めに好適に使用可能な袋体、およびこの袋体を用いた汚染土壌の封じ込め方法が提供されるので、河川・湖沼などに堆積する高含水量の汚染土壌を効率良く、かつ、排水処理が不要なレベルまでろ過することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含む土壌を脱水してその内部に封じ込めるための袋体であって、該袋体が、合成繊維のマルチフィラメント糸織物からなり、且つ立方体又は直方体形状に形成されていることを特徴とする含水土壌の封じ込め用袋体。
【請求項2】
合成繊維のマルチフィラメント糸が、ポリエステル、ナイロン、ビニロン、およびポリプロピレンの群から選ばれた少なくとも1種の合成繊維からなるマルチフィラメント糸である請求項1記載の含水土壌の封じ込め用袋体。
【請求項3】
合成繊維のマルチフィラメント糸が、ポリ乳酸繊維からなるマルチフィラメント糸である請求項1または2記載の含水土壌の封じ込め用袋体。
【請求項4】
水を含む土壌を、透水性の袋体内に入れた後、該袋体内の土壌に含まれる水分を袋体外に透過させて脱水するとともに、土壌を袋体内に残留させて、袋体内に封じ込めるに際し、該袋体として、請求項1〜3のいずれか1項に記載の含水土壌の脱水用袋体を使用することを特徴とする含水土壌の封じ込め方法。
【請求項5】
含水土壌を、透水性の袋体内に入れるに際し、該袋体を該袋体と略同形の型枠内に設置することにより、袋体の型崩れを防止する請求項4記載の含水土壌の封じ込め方法。

【公開番号】特開2006−16773(P2006−16773A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193093(P2004−193093)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】