説明

含水性廃棄物の処理方法

【課題】従来よりも容易に行うことができる汚れ成分含有水その他の含水性廃棄物の処理方法を提供しようとするもの。
【解決手段】含水性廃棄物に生石灰を及ぼして水分を低減せしめる水分低減工程と、前記工程で生成した消石灰を加熱して生石灰を再生させる再生工程とを有し、前記水分低減工程における生石灰の水和熱又は/及び再生工程における加熱により汚れ成分を熱分解させるようにした。前記水分低減工程で生成した消石灰の水分を蒸発させるマイクロ波加熱工程を有し、その後に再生工程に移るようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、含水性廃棄物の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、現像廃液等の廃液、焼却炉の排ガス処理水、事業場等の排水、埋め立て地浸出排水、埋め立て土壌の洗浄排水等に含まれる芳香族系化合物、有機塩素化合物、農薬、ダイオキシン、PCB、水溶性ポリマー等、硝酸イオン等の難分解性物質の電気化学的酸化分解に関する出願があった(特許文献1)。
この出願は、廃棄物処理後の埋立地からの浸出排水、現像廃液、化学工場の排水を始めとする廃液又は排水中の上記難分解性化合物は従来広く利用されている生物処理法、凝集法では十分に処理することが困難であることに鑑み、高い電流密度で電気分解を行い現像廃液等の廃液などを電気化学的に酸化分解する方法を提供することを目的とするものであって、難分解性物質を含有する廃液又は排水を電解装置内に導入し、高い電流密度で電気分解し、廃液又は排水に次亜ハロゲン酸と活性酸素を生成させ強力な酸化分解作用を与え、電解処理水の中の次亜ハロゲン酸は有機物等に接触して経時的に分解してヒドロキシラジカルなどの活性酸素を生成して難分解性化合物を酸化分解することが出来る、というものである。
しかし、このような電気分解による排水の処理(汚れ成分を低減する)は制御がなかなか難しいという問題があった。
【特許文献1】特開2003−126860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこでこの発明は、従来よりも容易に行うことができる汚れ成分含有水その他の含水性廃棄物の処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するためこの発明では次のような技術的手段を講じている。
(1)この発明の含水性廃棄物の処理方法は、含水性廃棄物に生石灰を及ぼして水分を低減せしめる水分低減工程と、前記工程で生成した消石灰を加熱して生石灰を再生させる再生工程とを有し、前記水分低減工程における生石灰の水和熱又は/及び再生工程における加熱により汚れ成分を熱分解させるようにしたことを特徴とする。
ここで前記含水性廃棄物(「固形分」が主体の場合や「水分」が主体の場合などがある)として、化学工場や液晶製造工場などの工業排水等の汚れ成分含有水、工場所やガソリン・スタンド跡地のA重油・灯油などによる油汚染土壌やその滲出水、梅調味加工廃液(高CODと高食塩濃度を有する)、豚糞・鶏糞その他の家畜糞、家庭の生ごみ、ファースト・フード店その他の飲食店の残飯などを例示することができる。
特に前記汚れ成分含有水の汚れ成分として、溶媒その他の有機化合物(例えば、DMSO、DMAc、DMF、MEA)や、A重油や軽油などの油滴を例示することができる。また前記汚れ成分の表示指標として、COD、TOC、n−ヘキサン抽出物質、アンモニア態窒素、硝酸態窒素などを例示することができる。
【0005】
この含水性廃棄物の処理方法は、含水性廃棄物に生石灰を及ぼして水分を低減せしめる水分低減工程を有するので、生石灰は消石灰に化学変化して自発的に発熱すると共に、含水性廃棄物は前記発熱により水分が蒸発して低減することになる。
具体的には、この水分低減工程では生石灰が水和して消石灰に化学変化<CaO+H2O→Ca(OH)+63kJ/モル>し、この水和熱により含水性廃棄物の水分が蒸発して水分が低減する。すなわち、生石灰が水和して消石灰に変化する際の自発的な発熱反応を、含水性廃棄物の水分の蒸発に利用している。前記含水性廃棄物の水分は概ね殆ど無くなるように低減しておくことが、以下に続く工程における熱効率上好ましい。
そして、前記水分低減工程で生成した消石灰を(例えば空気中などの有酸素雰囲気下で)加熱して生石灰を再生する再生工程を有するので、生石灰→消石灰(水分低減工程)、⇒消石灰→生石灰(再生工程)、⇒生石灰→消石灰(水分低減工程)、⇒消石灰→生石灰(再生工程)・・・、と生石灰を反復して再生・再利用することができ、かかるリサイクルによってランニング・コストを抑えることができる。
【0006】
更に、水分低減工程における生石灰の水和熱や再生工程における加熱により汚れ成分を熱分解させるようにしており、具体的には水分低減工程における生石灰の水和熱を汚れ成分の熱分解に利用し、或いは再生工程における生石灰の再生の際に加熱する熱量を汚れ成分の熱分解に利用しているので、電解法による処理などと比べて比較的に簡易な手法で汚れ成分を分解することができる。
ここで消石灰の融点(分解温度)は580℃であるので、前記再生工程では580℃以上例えば650〜1000℃程度に加熱すると消石灰が分解して酸素と結合し生石灰に再生する。また、この際に含水性廃棄物の汚れ成分、すなわちCOD成分、TOC成分、n−ヘキサン抽出物質、アンモニア態窒素、硝酸態窒素などは分解して低減せしめられると考えられる。この汚れ成分のうち特に有機物は650℃以上に加熱されるとほぼ完全に分解せしめられると考えられる(環境負荷物質が分解できる)。これにより、自然に対する産廃物などの負荷物をできるだけ排出しないゼロ・エミッションを通じて環境保全に寄与することができる。
【0007】
(2) 前記水分低減工程で生成した消石灰の水分を蒸発させるマイクロ波加熱工程を有し、その後に再生工程に移るようにしてもよい。
前記マイクロ波加熱は電子レンジの原理となるものであり、水に例えば2.45 GHz のマイクロ波を照射して吸収させ加熱し蒸発させることができる(マイクロ波乾燥)。これにより再生工程における加熱エネルギーを低減して省コストとすることができる。
【0008】
(3)前記含水性廃棄物に吸収担持体を接触させるようにしてもよい。
前記吸収担持体として活性炭、ベントナイト、植物繊維屑(木屑、おが屑など)を例示することができ、これに例えば油滴などの汚れ成分を吸収・吸着させることができる。すなわち、生石灰の水和熱発生作用により初期水分の蒸発機能を、吸収担持体に汚れ成分の吸着機能を持たせることができる。
【0009】
(4)前記含水性廃棄物に電解水を含有させるようにしてもよい。
このように構成すると、汚れ成分含有水が異臭や悪臭を発するものであったとしても、これら臭気成分を電解水中の次亜塩素酸や・OHラジカルの酸化作用により分解して軽減ないし消去することができる。
すなわち、前記含水性廃棄物に電解水を添加したり或いは含水性廃棄物自体を電気分解すると、次亜塩素酸や・OHラジカルの作用によって汚れ成分が細分化し臭気成分が分解していくこととなり、これから水分低減工程に送ることによって処理中の異臭の発生を抑制乃至防止することができる。
【0010】
(5)前記水分低減工程中又は後に含水性廃棄物の水分を分離し、前記水分中に溶解する無機物を再利用するようにしてもよい。
前記無機物として、例えば食塩を例示することができる。
このように構成すると、含水性廃棄物、例えば汚れ成分含有水、例えば梅調味加工廃液は高COD(例えば10〜20万ppm以上)であって且つ高濃度の食塩濃度(例えば1〜20%以上)を有するが、消石灰及び固形分と水分とを例えば膜で分離することにより、水分中に溶解する無機成分を分離することができ、梅調味加工廃液等に含まれる食塩を高濃度水として抽出することができる。この高濃度食塩水を例えば電気分解することにより次亜塩素酸を含む機能性水(前記電解水としてや他の水処理にも利用可能)を得ることができる。
【0011】
(6)この発明は他に次のような特徴を有する。
(1)ドライ処理
この発明では、水分低減工程で含水性廃棄物に生石灰を及ぼして水分を低減せしめるようにしているので、含水性廃棄物をウエットではなくドライな状態にすることができ、ハンドリングがし易く、含水性廃棄物を減容化することができ、また臭気が発生し難い。
前記水分低減工程では、含水性廃棄物と生石灰の混合比率を調整することにより、無水分ないし無水分に近い状態となるように処理することができる。
【0012】
(2)生石灰と含水性廃棄物の配合割合
生石灰と含水性廃棄物中の水分がモル比で1:1の割合となるように調整すると、酸化カルシウム(生石灰)と水(含水性廃棄物中の水分)の全部とで水酸化カルシウム(消石灰)に化学変化するが、化学変化の際に大きな反応熱(水和熱)が発生することによって水分が蒸発するので、水の割合はモル比で1:1よりも多く設定する方が好ましい。換言すると、生石灰によりモル比で1:1以上の水分を含有する含水性廃棄物を処理することが可能である。
前記生石灰と含水性廃棄物の配合比率は、化学反応時(=水分低減工程における処理時)の発熱量を見越して調整することが好ましい。例えば、生石灰に対する含水性廃棄物の配合量を水分低減工程における発熱度合いが略100℃となるように調整すると、水分の蒸発・低減に対し生石灰の配合量(必要量)がコスト・バランスに優れたものとすることができる。
【0013】
(3)高濃度排水の汚れ成分の処理
含水性廃棄物(「水分」が主体の場合)が汚れ成分(例えば食品産業の調味液や溶媒等の有機成分)を非常に多く含む場合、例えばCODで10〜20万ppm以上の排水(梅調味加工廃液など)は電気分解法による処理では高濃度すぎて処理が相当困難(CODが十分には低下しない)であるが、この発明では水分低減工程で生石灰の水和性(水分を吸収する)及び水和熱(水分を蒸発させる)を利用し水分を低減させ、再生工程で焼成(消石灰の分解温度以上に加熱して物質の性質を変化させる)するようにしているので、汚れ成分の含有比率が高い場合でも処理が可能であると共に、電気分解の場合のような微妙な電気的な制御(電流値制御、電圧値制御、被処理水の流量管理やpH管理など)を要しない比較的にシンプルな手順で処理を行うことができ、さらに再生工程で消石灰の分解温度(融点580℃)以上の高温(例えば700℃以上)に曝すためCOD成分は全て酸化分解されることとなり、汚れ成分のうち有機成分はほぼ完全に酸化分解されて二酸化炭素と水に変化すると考えられる。
このように高濃度の排水でもCOD成分がほぼ完全に処理されることは従来考えられないことであり、水分低減工程で蒸発した水分を液化して再生することと組み合わせると、高濃度の排水を清浄度の高い水に変換することができる。すなわちCODなどの汚れ評価指標が高い高濃度排水・廃液・排液から低濃度排水まで広範囲な対象をシンプルな手順で処理して再生することができる。
【0014】
(4)うどん、そばなどの麺類その他のゆで汁等の処理
うどん、そばなどの麺類その他のゆで汁や飲み残しの出汁には澱粉の粉(有機物)などが含まれCOD値が高いものであり、飲食店が前記廃汁を河川や下水へ放流することによる環境負荷が問題となっているが、このうどんの切れ端などを含む廃汁を含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水されて消石灰と澱粉などが混在した状態となり、これを再生工程で例えば700℃以上に焼成すると河川等放流の必要がなくなって環境負荷を軽減することができる。
【0015】
(5)焼酎等の搾りかすや食塩添加アルコール飲料の処理
焼酎の製造時に多量に排出される搾りかすは埋め立てに利用されていたが、そのぐにゃぐにゃな性状から地盤の流動化問題を引き起こすことがあった。また、販売を中止した廃アルコール飲料や返品アルコール飲料は多量の食塩を添加して飲用できなくすると酒税が還付されるところ、この食塩添加アルコール飲料をどう処理するかが問題になっていた。
そこで、この焼酎の搾りかすや食塩添加アルコール飲料を含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水・脱アルコールされて消石灰と繊維質又は食塩等が混在した状態となり、これを再生工程で例えば700℃以上に焼成することにより埋め立てや河川放流などの必要がなくなって環境負荷を軽減することができる。
【0016】
(6)マヨネーズ、ケチャップ等の廃棄物の処理
ファースト・フード店や飲食店ではマヨネーズ、ケチャップ、アイスクリーム、ソフトクリーム、ドレッシングなどの廃棄分が大量に出るが、これらを含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水されて消石灰と油脂分が混在した状態となり、これを再生工程で例えば700℃以上に焼成すると油脂分が燃焼しこの余熱を廃熱利用することにより燃料として機能させることができる。
【0017】
(7)スクラバーの循環水の処理
スクラバーの循環水には藻類が繁殖して経時的に悪臭が発生してくるのであるが、この廃循環水を含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水されて消石灰と藻類の植物繊維が混在した状態となり、これを例えば700℃以上に再生工程で焼成すると共に、水分低減工程で蒸発した水を捕集・液化して再利用する。
【0018】
(8)「固形分」が主体の場合の処理
豆腐の製造過程で大豆から豆乳を絞った残り滓であるおからは食物繊維、カルシウム、たんぱく質、炭水化物、カリウムに富んだ健康食品であるものの、品質の劣化が早く日持ちがしないため殆どが産業廃棄物として処分されているのが現状である。このおからを含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水されて消石灰と混在した状態となり、これを例えば700℃以上に再生工程で焼成すると繊維成分等が燃焼しこの余熱を廃熱利用することにより燃料として機能させることができる。また、これにより産業廃棄物として処分する必要がなくなるので、ゼロ・エミッションにより環境保全に寄与することができることとなる。
【0019】
(9)ペンキの残廃液の処理
ペンキの残廃液などのように固形分の多い排液を含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水されて消石灰と有機成分等が混在した状態となり、これを例えば700℃以上に再生工程で焼成すると有機成分等が燃焼することにより助燃剤として利用することができる。
【0020】
(10)家畜糞・動物糞の処理
含水性廃棄物が、豚糞、鶏糞、牛糞などの家畜糞や、動物園の動物糞などのように含水性が元から低い場合(「固形分」が主体の場合)、水分低減工程で吸水乃至蒸発させてさらにドライな状態(臭気が殆ど発生しなくなる)とすることができ、続く再生工程で消石灰の分解温度(融点580℃)以上の高温(例えば700℃以上)になるように加熱することにより、糞を焼成して灰に近い状態とすると共に消石灰を生石灰に再生することができる。
【0021】
(11)菌類やウイルス類の繁殖の抑制
この発明では水分低減工程において含水性廃棄物を脱水できるので、廃棄物中の各種菌類などの繁殖が抑えられ脱臭・除菌することができる。
【0022】
(12)動物の死体の処理
動物の死体に水を添加してミキサーと裁断し、これを含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水されて消石灰と混在した状態となり、これを再生工程で例えば700℃以上に焼成する。水分低減工程において含水性廃棄物を脱水できるので、廃棄物中の腐敗菌類の繁殖が抑えられこととなり、臭気に煩わされることなく処理することができる。
【0023】
(13)低減した水分の再利用
(既述のように)水分低減工程において蒸発させた水を捕集し、冷却して液化することにより再利用することができる。特に工場排水のように処理量が大量な場合は、大気中に放出せずこのように液化して工業用水として再利用することが好ましい。
具体的には、液晶製造工場の工場排水(DMSOなどの有機溶媒を含む)を水分低減工程で処理し、ここで捕集して液化した水の水質を分析すると蒸留水と同等程度に清浄度が高いものであった。この水をさらに逆浸透膜等で処理することにより、超純水として再生することができる。
【0024】
(14)再生工程における有機物の汚れ成分
再生工程において、生石灰を再生させるための消石灰の分解温度(融点580℃)以上の高温(例えば700℃以上)への加熱時、消石灰や容器に付着している汚れ成分由来の有機成分が酸化して熱量を放出することにより、加熱エネルギーを節約することができると共に、汚れ成分はほぼ完全に酸化分解される。ここで、水分低減工程で発生する熱や再生工程における熱を利用して他のものを加熱することもできる。
【0025】
(15)汚染土壌の処理と生石灰の分離
油等の汚染土壌に電解水を及ぼし、次亜塩素酸や・OHラジカルの作用によって汚れ成分を細分化乃至分解せしめ、この含水した汚染土壌(含水性廃棄物)を水分低減工程に送り、次いで再生工程で例えば700℃以上に処理した後の最終生成物について次のようにして生石灰と土壌の土成分とを分離することができる。
すなわち、土の嵩比重は1.8であるのに対し生石灰の嵩比重は1.06であるので、この比重差を利用し風を及ぼすことにより双方の流動性の差を利用して土と生石灰を分離する。そして、土は土壌に埋め戻し生石灰は次の処理に再利用する。さらに、前記土中に生石灰が混在していたとしても土壌改良剤として活用できる。
【0026】
(16)水分低減工程後の消石灰と無機成分の分離
水分低減工程後に、以下のようにして消石灰と汚れ成分中の無機成分とを分離することができる。すなわち、消石灰の比重(みかけ比重0.40〜0.55)と他の無機成分例えば食塩の密度(2.16 g/cm3)の差を利用し、微細粉末化して風を及ぼすことにより双方の流動性の差を利用してこれらを分離することができ、消石灰から分離した食塩は電気分解などに再利用することができる。
【0027】
(17)貝殻等の焼成
含水性廃棄物が貝殻(牡蠣、アサリ、蛤その他)などのように炭酸カルシウムを含む場合、再生工程で900℃以上に加熱すると炭酸カルシウム(融点825℃)が酸化カルシウム(=生石灰)に化学変化するので、生石灰を当初の量から増量することができる。また、含水性廃棄物に貝殻等のように炭酸カルシウムを含有する物質を意図的に混ぜて処理することもできる。
【発明の効果】
【0028】
この発明は上述のような構成であり、次の効果を有する。
電解法による処理などと比べて比較的に簡易な手法で汚れ成分を分解することができるので、従来よりも容易に行うことができる含水性廃棄物の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、この発明の実施の形態を説明する。
(実施形態1)
この実施形態の含水性廃棄物の処理方法は、含水性廃棄物に生石灰を及ぼして水分を低減せしめる水分低減工程と、前記工程で生成した消石灰を加熱して生石灰を再生させる再生工程とを有する。そして、前記水分低減工程における生石灰の水和熱や再生工程における加熱により汚れ成分を熱分解させるようにしている。
前記含水性廃棄物は「固形分」が主体の場合や「水分」が主体の場合などがあり、化学工場や液晶製造工場などの工業排水等の汚れ成分含有水、工場所やガソリン・スタンド跡地のA重油・灯油などによる油汚染土壌やその滲出水、梅調味加工廃液(高CODと高食塩濃度を有する)、豚糞・鶏糞その他の家畜糞、家庭の生ごみ、ファースト・フード店その他の飲食店の残飯などを処理することができる。前記汚れ成分含有水の汚れ成分として、溶媒その他の有機化合物(例えば、DMSO、DMAc、DMF、MEA)や、A重油や軽油などの油滴を処理することができる。また前記汚れ成分の表示指標として、COD、TOC、n−ヘキサン抽出物質、アンモニア態窒素、硝酸態窒素などを例示することができる。
【0030】
この含水性廃棄物の処理方法は、含水性廃棄物に生石灰を及ぼして水分を低減せしめる水分低減工程を有するので、生石灰は消石灰に化学変化して自発的に発熱すると共に、含水性廃棄物は前記発熱により水分が蒸発して低減することになる。
具体的には、この水分低減工程では生石灰が水和して消石灰に化学変化<CaO+H2O→Ca(OH)+63kJ/モル>し、この水和熱により含水性廃棄物の水分が蒸発して水分が低減する。すなわち、生石灰が水和して消石灰に変化する際の自発的な発熱反応を、含水性廃棄物の水分の蒸発に利用している。前記含水性廃棄物の水分は概ね殆ど無くなるように低減しておくことが、以下に続く工程における熱効率上好ましい。
そして、前記水分低減工程で生成した消石灰を(例えば空気中などの有酸素雰囲気下で)加熱して生石灰を再生する再生工程を有するので、生石灰→消石灰(水分低減工程)、⇒消石灰→生石灰(再生工程)、⇒生石灰→消石灰(水分低減工程)、⇒消石灰→生石灰(再生工程)・・・、と生石灰を反復して再生・再利用することができ、かかるリサイクルによってランニング・コストを抑えることができる。
【0031】
更に、水分低減工程における生石灰の水和熱や再生工程における加熱により汚れ成分を熱分解させるようにしており、具体的には水分低減工程における生石灰の水和熱を汚れ成分の熱分解に利用し、或いは再生工程における生石灰の再生の際に加熱する熱量を汚れ成分の熱分解に利用しているので、電解法による処理などと比べて比較的に簡易な手法で汚れ成分を分解することができ、従来よりも容易に行うことができるという利点がある。
ここで消石灰の融点(分解温度)は580℃であるので、前記再生工程では580℃以上例えば650〜1000℃程度に加熱すると消石灰が分解して酸素と結合し生石灰に再生する。また、この際に含水性廃棄物の汚れ成分、すなわちCOD成分、TOC成分、n−ヘキサン抽出物質、アンモニア態窒素、硝酸態窒素などは分解して低減せしめられると考えられる。この汚れ成分のうち特に有機物は650℃以上に加熱されるとほぼ完全に分解せしめられると考えられる(環境負荷物質が分解できる)。これにより、自然に対する産廃物などの負荷物をできるだけ排出しないゼロ・エミッションを通じて環境保全に寄与することができる。
【0032】
(実施形態2)
この実施形態では、前記水分低減工程で生成した消石灰の水分を蒸発させるマイクロ波加熱工程を有し、その後に再生工程に移るようにしている。前記マイクロ波加熱は電子レンジの原理となるものであり、水に例えば2.45 GHz のマイクロ波を照射して吸収させ加熱し蒸発させることができる(マイクロ波乾燥)。これにより再生工程における加熱エネルギーを低減して省コストとすることができるという利点がある。
【0033】
(実施形態3)
この実施形態では、前記含水性廃棄物に吸収担持体を接触させるようにしている。前記吸収担持体として活性炭、ベントナイト、植物繊維屑(木屑、おが屑など)を使用することができ、これに油滴などの汚れ成分を吸収・吸着させることができる。このようにすると、水和熱発生作用を有する生石灰に初期水分の蒸発機能を担わせ、前記活性炭・ベントナイト(生石灰よりも吸水量が多く、無機イオン等の吸着能が高い)等の吸収担持体に汚れ成分の吸着機能を持たせることができ、再生工程ではこれらを一緒に例えば700℃以上に焼成することとなる。
【0034】
(実施形態4)
この実施形態では、前記含水性廃棄物に電解水を含有させるようにしており、汚れ成分含有水が異臭や悪臭を発するものであったとしても、これら臭気成分を電解水中の次亜塩素酸や・OHラジカルの酸化作用により分解して軽減ないし消去することができるという利点がある。
すなわち、前記含水性廃棄物に電解水を添加したり或いは含水性廃棄物自体を電気分解すると、次亜塩素酸や・OHラジカルの作用によって汚れ成分が細分化し臭気成分が分解していくこととなり、これから水分低減工程に送ることによって処理中の異臭の発生を抑制乃至防止することができる。
【0035】
(実施形態5)
この実施形態では、前記水分低減工程中又は後に含水性廃棄物の水分を分離し、前記水分中に溶解する無機物を再利用するようにしており、前記無機物として、食塩を例示することができる。
このようにすると、含水性廃棄物、例えば汚れ成分含有水、例えば梅調味加工廃液は高COD(例えば10〜20万ppm以上)であって且つ高濃度の食塩濃度(例えば1〜20%以上)を有するが、消石灰及び固形分と水分とを例えば膜で分離することにより、水分中に溶解する無機成分を分離することができ、梅調味加工廃液等に含まれる食塩を高濃度水として抽出することができる。この高濃度食塩水を例えば電気分解することにより次亜塩素酸を含む機能性水(前記電解水としてや他の水処理に利用可能)を得ることができる。
【0036】
(実施形態6)
他にも次のような特徴を有する。
(1)ドライ処理
この実施形態では、水分低減工程で含水性廃棄物に生石灰を及ぼして水分を低減せしめるようにしているので、含水性廃棄物をウエットではなくドライな状態にすることができ、ハンドリングがし易いと共に、含水性廃棄物を減容化することができ、また臭気が発生し難いものとなっている。
この水分低減工程では、含水性廃棄物と生石灰の混合比率を調整することにより、無水分ないし無水分に近い状態となるように処理することができる。
【0037】
(2)生石灰と含水性廃棄物の配合割合
生石灰と含水性廃棄物中の水分がモル比で1:1の割合となるように調整すると、酸化カルシウム(生石灰)と水(含水性廃棄物中の水分)の全部とで水酸化カルシウム(消石灰)に化学変化するが、化学変化の際に大きな反応熱(水和熱)が発生することによって水分が蒸発するので、水の割合はモル比で1:1よりも多く設定する方が好ましい。換言すると、生石灰によりモル比で1:1以上の水分を含有する含水性廃棄物を処理することが可能である。
前記生石灰と含水性廃棄物の配合比率は、化学反応時(=水分低減工程における処理時)の発熱量を見越して調整することが好ましい。例えば、生石灰に対する含水性廃棄物の配合量を水分低減工程における発熱度合いが略100℃となるように調整すると、水分の蒸発・低減に対し生石灰の配合量(必要量)がコスト・バランスに優れたものとすることができる。
【0038】
(3)高濃度排水(液体が主体の含水性廃棄物)の汚れ成分の処理
含水性廃棄物が汚れ成分(例えば食品産業の調味液や溶媒等の有機成分)を多く含む場合、例えばCODで10〜20万ppm以上の排水(梅調味加工廃液など)は電気分解法による処理では高濃度すぎて処理が相当困難(CODが十分には低下しない)であるが、この実施形態では水分低減工程で生石灰の水和性(水分を吸収する)及び水和熱(水分を蒸発させる)を利用し水分を低減させ、再生工程で焼成(消石灰の分解温度<融点580℃>以上に加熱して物質の性質を変化させる)するようにしているので、汚れ成分の含有比率が高い場合でも処理が可能であると共に、電気分解の場合のような微妙な電気的な制御(電流値制御、電圧値制御、被処理水の流量管理やpH管理など)を要しない比較的にシンプルな手順で処理を行うことができ、さらに再生工程で消石灰の分解温度以上の高温(例えば700℃以上)に曝すためCOD成分は全て酸化分解されることとなり、汚れ成分のうち有機成分はほぼ完全に酸化分解されて二酸化炭素と水に変化すると考えられる。
このように高濃度の排水でもCOD成分がほぼ完全に処理されることは従来考えられないことであり、水分低減工程で蒸発した水分を液化して再生することと組み合わせると、高濃度の排水を清浄度の高い水に変換することができる。すなわちCODなどの汚れ評価指標が高い高濃度排水・廃液・排液から低濃度排水まで広範囲な対象をシンプルな手順で処理して再生することができるという利点がある。
【0039】
(4)うどん、そばなどの麺類その他のゆで汁等の処理
うどん、そばなどの麺類その他のゆで汁や飲み残しの出汁には澱粉の粉(有機物)などが含まれCOD値が高いものであり、飲食店が前記廃汁を河川や下水へ放流することによる環境負荷が問題となっているが、このうどんの切れ端などを含む廃汁を含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水されて消石灰と澱粉などが混在した状態となり、これを再生工程で例えば700℃以上に焼成すると河川等放流の必要がなくなって環境負荷を軽減することができる。
【0040】
(5)焼酎等の搾りかすや食塩添加アルコール飲料の処理
焼酎の製造時に多量に排出される搾りかすは埋め立てに利用されていたが(海洋投棄されることもあった)、そのぐにゃぐにゃな性状から地盤の流動化問題を引き起こすことがあった。また、販売を中止した廃アルコール飲料や返品アルコール飲料は多量の食塩を添加して飲用できなくすると酒税が還付されるところ、この食塩添加アルコール飲料をどう処理するかが問題になっていた。
そこで、この焼酎の搾りかすや食塩添加アルコール飲料を含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水・脱アルコールされて消石灰と繊維質又は食塩等が混在した状態となり、これを再生工程で例えば700℃以上に焼成することにより埋め立てや河川放流などの必要がなくなって環境負荷を軽減することができる。
【0041】
(6)マヨネーズ、ケチャップ等の廃棄物の処理
ファースト・フード店や飲食店ではマヨネーズ、ケチャップ、アイスクリーム、ソフトクリーム、ドレッシングなどの廃棄分が大量に出るが、これらを含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水されて消石灰と油脂分が混在した状態となり、これを再生工程で例えば700℃以上に焼成すると油脂分が燃焼しこの余熱を廃熱利用することにより燃料として機能させることができる。
【0042】
(7)スクラバーの循環水の処理
スクラバーの循環水には藻類が繁殖して経時的に悪臭が発生してくるのであるが、この廃循環水を含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水されて消石灰と藻類の植物繊維が混在した状態となり、これを例えば700℃以上に再生工程で焼成すると共に、水分低減工程で蒸発した水を捕集・液化して再利用する。
【0043】
(8)「固形分」が主体の場合の処理
豆腐の製造過程で大豆から豆乳を絞った残り滓であるおからは食物繊維、カルシウム、たんぱく質、炭水化物、カリウムに富んだ健康食品であるものの、品質の劣化が早く日持ちがしないため殆どが産業廃棄物として処分されているのが現状である。このおからを含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水されて消石灰と混在した状態となり、これを例えば700℃以上に再生工程で焼成すると繊維成分等が燃焼しこの余熱を廃熱利用することにより燃料として機能させることができる。また、これにより産業廃棄物として処分する必要がなくなるので、ゼロ・エミッションにより環境保全に寄与することができることとなる。
【0044】
(9)ペンキの残廃液の処理
ペンキの残廃液などのように固形分の多い排液を含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水されて消石灰と有機成分等が混在した状態となり、これを例えば700℃以上に再生工程で焼成すると有機成分等が燃焼することにより助燃剤として利用することができる。
【0045】
(10)家畜糞・動物糞の処理
含水性廃棄物が、豚糞、鶏糞、牛糞などの家畜糞や、動物園の動物糞などのように含水性が元から低い場合(「固形分」が主体の場合)、水分低減工程で吸水乃至蒸発させてさらにドライな状態(臭気が殆ど発生しなくなる)とすることができ、続く再生工程で消石灰の分解温度(融点580℃)以上の高温(例えば700℃以上)になるように加熱することにより、糞を焼成して灰に近い状態とすると共に消石灰を生石灰に再生することができる。
【0046】
(11)菌類やウイルス類の繁殖の抑制
この実施形態では水分低減工程において含水性廃棄物を脱水できるので、廃棄物中の各種菌類などの繁殖が抑えられ脱臭・除菌することができる。
【0047】
(12)動物の死体の処理
動物の死体に水を添加してミキサーと裁断し、これを含水性廃棄物として処理すると、水分低減工程後に脱水されて消石灰と混在した状態となり、これを再生工程で例えば700℃以上に焼成する。水分低減工程において含水性廃棄物を脱水できるので、廃棄物中の腐敗菌類の繁殖が抑えられこととなり、臭気に煩わされることなく処理することができる。
【0048】
(13)低減した水分の再利用
(既述のように)水分低減工程において蒸発させた水を捕集し、冷却して液化することにより再利用することができる。特に工場排水のように処理量が大量な場合は、大気中に放出せずこのように液化して工業用水として再利用することが好ましい。
具体的には、液晶製造工場の工場排水(DMSOなどの有機溶媒を含む)を水分低減工程で処理し、ここで捕集して液化した水の水質を分析すると蒸留水と同等程度に清浄度が高いものであった。この水をさらに逆浸透膜等で処理することにより、超純水として再生することができる。
【0049】
(14)再生工程における有機物の汚れ成分
再生工程において、生石灰を再生させるための消石灰の分解温度(融点580℃)以上の高温(例えば700℃以上)への加熱時、消石灰や容器に付着している汚れ成分由来の有機成分が酸化して熱量を放出することにより、加熱エネルギーを節約することができると共に、汚れ成分はほぼ完全に酸化分解される。ここで、水分低減工程で発生する熱や再生工程における熱を利用して他のものを加熱することもできる。
【0050】
(15)汚染土壌の処理と生石灰の分離
油等の汚染土壌に電解水を及ぼし、次亜塩素酸や・OHラジカルの作用によって汚れ成分を細分化乃至分解せしめ、この含水した汚染土壌(含水性廃棄物)を水分低減工程に送り、次いで再生工程で例えば700℃以上に処理した後の最終生成物について次のようにして生石灰と土壌の土成分とを分離することができる。
すなわち、土の嵩比重は1.8であるのに対し生石灰の嵩比重は1.06であるので、この比重差を利用し風を及ぼすことにより双方の流動性の差を利用して土と生石灰を分離する。そして、土は土壌に埋め戻し生石灰は次の処理に再利用する。さらに、前記土中に生石灰が混在していたとしても土壌改良剤として活用できる。
【0051】
(16)水分低減工程後の消石灰と無機成分の分離
水分低減工程後に、以下のようにして消石灰と汚れ成分中の無機成分とを分離することができる。すなわち、消石灰の比重(みかけ比重0.40〜0.55)と他の無機成分例えば食塩の密度(2.16 g/cm3)の差を利用し、微細粉末化して風を及ぼすことにより双方の流動性の差を利用してこれらを分離することができ、消石灰から分離した食塩は電気分解などに再利用することができる。
【0052】
(17)貝殻等の焼成
含水性廃棄物が貝殻(牡蠣、アサリ、蛤その他)などのように炭酸カルシウムを含む場合、再生工程で900℃以上に加熱すると炭酸カルシウム(融点825℃)が酸化カルシウム(=生石灰)に化学変化するので、生石灰を当初の量から増量することができる。また、含水性廃棄物に貝殻等のように炭酸カルシウムを含有する物質を意図的に混ぜて処理することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
電解法による処理などと比べて比較的に簡易な手法で汚れ成分を分解することができ、従来よりも容易に行うことができることによって種々の含水性廃棄物の処理の用途に適用することができる。
また、病院の感染性廃棄物(血液や手術により切除された臓器)や感染性医療器具(シリンジ、カテーテルその他治療や手術に供する使い捨てのプラスチック製の器具など)、動物の血(屠殺場で大量に排出され衛生上の問題が懸念される)、魚介類のあらなど生体起因関連の各種物質も含水性廃棄物として滅菌・殺菌し安全性が高い状態で処理することができる。
さらに、造り酒屋の米のとぎ汁、家庭の生ごみなども好適に処理することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水性廃棄物に生石灰を及ぼして水分を低減せしめる水分低減工程と、前記工程で生成した消石灰を加熱して生石灰を再生させる再生工程とを有し、前記水分低減工程における生石灰の水和熱又は/及び再生工程における加熱により汚れ成分を熱分解させるようにしたことを特徴とする含水性廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記水分低減工程で生成した消石灰の水分を蒸発させるマイクロ波加熱工程を有し、その後に再生工程に移るようにした請求項1記載の含水性廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記含水性廃棄物に吸収担持体を接触させるようにした請求項1又は2記載の含水性廃棄物の処理方法。
【請求項4】
前記含水性廃棄物に電解水を含有させるようにした請求項1乃至3のいずれかに記載の含水性廃棄物の処理方法。
【請求項5】
前記水分低減工程中又は後に含水性廃棄物の水分を分離し、前記水分中に溶解する無機物を再利用するようにした含水性廃棄物の処理方法。

【公開番号】特開2011−147903(P2011−147903A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12333(P2010−12333)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(399049981)株式会社オメガ (70)
【Fターム(参考)】