説明

含水有機化合物の脱水方法

【課題】動力源を必要とせず、水分を膜透過させる駆動力を高め、ひいては透過量(脱水処理量)を増大させ得る、含水有機化合物の脱水方法を提供する。
【解決手段】膜分離手段により含水有機化合物を脱水し、濃縮された有機化合物を取出す、含水有機化合物の脱水方法において、前記膜分離手段における膜を透過した水分を吸水性物質に吸収させ、吸水性物質による水分吸収を、濃度40〜64質量%、温度15〜50℃、循環比(膜透過量に対する吸水性物質供給量の比)50以上の条件で行うことを特徴とする、含水有機化合物の脱水方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水エタノール等の含水有機化合物の脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、膜を利用した水と有機化合物(例えばエタノール)の分離(脱水)は、多段蒸留法では水と該有機化合物が沸点するため、後者よりエネルギーコスト的に有利とされている。
【0003】
膜による分離においては、図5に示すように、水分を膜透過させる駆動力は、膜の一次側と二次側の水分圧差によるもので、二次側圧力を如何に低くするかが透過量(脱水処理量)を増大させる(もしくは膜面積を小さくすることができる)一つの要素となる。二次側圧力を低下させる方法として、従来、真空ポンプ等を用いる方法などが挙げられる(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−324119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記の方法では、水分を膜透過させる駆動力を得るためには、真空ポンプ等の専用の動力源が必要となり、設備費によるコストアップが避けられない。また膜を透過した水蒸気は、膜から凝縮器や真空ポンプに至る長い配管経路において管内圧力損失が生じてしまい、二次側圧力を下げるには不利となる。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みて、上記のような動力源を必要とせず、水分を膜透過させる駆動力を高め、ひいては透過量(脱水処理量)を増大させ得る、含水有機化合物の脱水方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、膜分離手段により含水有機化合物を脱水し、濃縮された有機化合物を取出す、含水有機化合物の脱水方法において、
前記膜分離手段における膜を透過した水分を吸水性物質に吸収させ、吸水性物質による水分吸収を、濃度40〜64質量%、温度15〜50℃、循環比(膜透過量に対する吸水性物質供給量の比)50以上の条件で行うことを特徴とする、含水有機化合物の脱水方法である。
【0007】
吸着性物質として、LiBr[臭化リチウム]、LiI[ヨウ化リチウム]、LiCl[塩化リチウム]などの親水性塩の水溶液が好ましく用いられる。
【0008】
本発明において、前記含水有機化合物の流れ方向と膜の二次側を流れる前記吸水性物質の流れ方向を対向させることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、膜分離手段により含水有機化合物を脱水し、濃縮された有機化合物を取出す、含水有機化合物の脱水方法において、真空ポンプ等の専用の動力源を用いずに膜分離手段における水分膜透過駆動力を高めることが可能となり、ひいては、透過量(脱水処理量)を増大させることができる。
【0010】
また、膜を介して流れる含水有機化合物と吸水性物質との流れ方向を対向させることで、膜における水分の透過の駆動力となる水分圧差が、膜のどの部分においても均一となることから、透過効率が向上し、少ない膜面積でも同等の透過量(脱水処理量)を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
90%程度の含水エタノールから無水エタノールを得る方法を例に本発明による含水有機化合物の脱水方法を説明する。また膜分離技術としては以下の2種類があるが、ここではVP法に基づいて説明をする(PV法でも同等の効果が期待できる)。
【0012】
1)PV法(浸透気化法)
膜を隔ててフィード側(一次側)が液、透過側(二次側)が蒸気という、透過する際に相変化が伴う分離法
2)VP法(蒸気透過法)
膜のフィード側・透過側とも蒸気(ガス)状態で、透過成分の分圧差を駆動力とする分離法
実施の態様1
図1において、膜分離手段の主体をなす膜モジュールは水選択性を有する膜であり、多数の管状ゼオライト膜で構成されている。膜管外側に原液である含水エタノールを供給し、膜管内側には吸水性物質として、例えば40℃、63質量%のLiBr[臭化リチウム]水溶液を流す。このLiBr水溶液における平衡圧力は500Pa以下となり、この圧力は水蒸気凝縮温度で0℃以下に相当する。つまり従来技術では、真空ポンプでは可能ではあるが、冷水による凝縮では現実には有り得ない低圧レベルが実現できる(図5参照)。また水蒸気は膜透過直後にLiBr水溶液に吸収されるため、圧力損失の影響はほ
とんど受けない。
【0013】
膜管内側に供給されたLiBr水溶液は透過した水蒸気を吸収していくため、水分で希釈され、吸収能力が低下した状態で膜管内から排出される。これを連続的にするためには、希釈されたLiBr水溶液を脱水再生して再びゼオライト膜管内に戻す必要がある。
【0014】
次に、含水有機化合物の脱水方法を連続的に実施できる方法を、図2および図4を参照して説明する。
【0015】
1)膜分離手段において水分を吸収した希LiBr水溶液は、濃縮再生器で加熱され、水分蒸発により濃縮される。
【0016】
2)濃縮再生された濃LiBr水溶液は、冷却器において常温の冷却水で過冷却され、次いで膜分離手段のゼオライト膜管内に供給され、再び透過水蒸気を吸収する。
【0017】
3)上記濃縮再生工程で発生した水分は、凝縮器において常温の冷却水で凝縮され、排水となる。希LiBr水溶液が加熱濃縮されるために必要な熱源として、膜を透過しない製品すなわち無水エタノールの蒸気を凝縮器において凝縮する潜熱を利用することができる。つまり改めて熱源が必要ではなく、熱の出入としてはマクロ的にみれば従来技術と同じことになる。
【0018】
ここで問題となるのは、LiBr水溶液が条件(温度が低く、濃度が高いほど)によって結晶化し流れが遮断されること、及びLiBr水溶液の膜への供給量によっては透過成分を吸収してその吸収熱で水溶液が沸騰状態になることである。このような問題を回避し、かつ通常の冷却塔冷却水及び製品蒸気の凝縮熱が利用できるためには、LiBr水溶液中のLiBr濃度40〜64質量%の範囲、LiBr水溶液の温度15〜50℃の範囲、循環比(膜透過量に対するLiBr水溶液供給量の比)50以上の範囲が必要であり、好ましくは、LiBr濃度55〜63質量%の範囲、LiBr水溶液の温度35〜40℃の範囲、循環比50〜60の範囲である。
【0019】
LiBr水溶液中のLiBr濃度が40質量%未満であると、水分の割合が高くて透過成分を吸収する能力が損なわれ、透過成分を凝縮させる従来の脱水方法と比べ、膜における駆動力がそれ程違わない。LiBr濃度が64質量%を超えると、LiBr水溶液が結晶化する可能性があり、結晶化により同水溶液の流れが阻まれる恐れがあるので避けなければならない。LiBr水溶液の温度が50℃を超えた場合も上記と同様なことが言え、透過成分を吸収する能力が損なわれ、15℃未満のLiBr水溶液は通常の冷却水では得ることが容易でなく、冷凍装置が必要となる(図4参照)。上記循環比については、LiBr水溶液は透過成分を蒸気状態で吸収することから、その凝縮潜熱がLiBr水溶液に取り込まれ、同水溶液が昇温される。該循環比が50未満であると、LiBr水溶液が昇温されて管状ゼオライト膜の出口では沸騰してしまう恐れがあり、沸騰域に入れば透過成分を吸収する能力は当然なくなるので、このような状況は避けなければならない。図4に記載されているのは、LiBr水溶液の温度と濃度と飽和水蒸気圧の関係を示すデューリング線図であるが、一例として水溶液の濃度・温度が各工程において太線のように推移する。当然、膜面積や有機化合物の濃縮度によって、水溶液の温度・濃度の操作範囲には、上記数値範囲内において、自由度があり、最適設計が可能である。
【0020】
実施の態様2
上記脱水方法における、膜モジュールにおいて、原液は流れ方向に移動するに従い脱水濃縮されていくため、水分圧が徐々に小さくなっていく。一方、LiBr水溶液は流れ方向に移動するに従い吸水希釈されていくため、水分圧が徐々に大きくなっていく。このことから、原液とLiBr水溶液の各々の流れ方向を対向流にすれば、水分を膜透過させる駆動力となる水分圧差がどの地点でも同レベルになり、膜面積をより小さくすることができる。原液とLiBr水溶液の各々の流れ方向を対向流にする場合と、並行流にする場合について、上記水分圧差を図3に示す。
【0021】
また、対向流の方が原液出口における原液の水分濃度を下げる、すなわちエタノールの濃縮度を引き上げることができる。
【0022】
なお、上記の膜モジュールが損傷した場合、濃縮されたエタノールも透過して、LiBr水溶液に吸収されることになるが、加熱・濃縮の過程でその透過してきたエタノールも蒸発することになり、結果として凝縮して排水に含まれることになる。ここで、エタノールが混入した分だけ凝縮する時の圧力が上昇するため、この圧力上昇を観測することにより、膜モジュールの破損を検知することが可能となる。もちろん、この排水のエタノール濃度を観測していても検知は可能である。
【0023】
上記実施の形態では90%の含水エタノールを無水化する場合で説明しているが、例えばバイオマスを発酵させて得られたエタノールであれば10%未満のエタノール濃度であり、膜分離の前に蒸留設備を置くのが常である。このような蒸留+膜分離における場合でも、当然実施が可能である。
【0024】
また、吸着性物質として、LiBr水溶液を用いたが、これに限定されず、例えばLiI[ヨウ化リチウム]や、LiCl[塩化リチウム]などの親水性塩類水溶液でも、同様の効果が得られる。
【0025】
<操作例>
含水エタノール90mol%を99mol%まで無水化させる場合(製品1kg当り)
<従来技術(5℃チラー)>
加熱量 953kJ/kg
必要動力 38W/(kg/h)
必要膜面積 0.0176m/(kg/h)
最大濃縮度 99.84mol%
ただし蒸気圧力損失分は考慮していないため、実際には膜面積がもう少し大きく、かつ最大濃縮度はもう少し小さくなる。
【0026】
<本発明>
加熱量 953 kJ/kg
必要動力 0.3W/(kg/h)
必要膜面積 0.0178m/(kg/h)
最大濃縮度 99.91mol%
必要動力は従来の場合でチラー、本発明ではLiBr水溶液の循環ポンプを対象(冷却水系統はどちらも共通に必要)としたが、動力にして約1/100の省エネルギーになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の態様1の脱水方法を示すフローシートである。
【図2】実施の態様2の脱水方法を示すフローシートである。
【図3】原液とLiBr水溶液の各々の流れ方向を対向流にする場合と、並行流にする場合について、水分圧差を示す概念図である。
【図4】LiBr水溶液の状態を示すグラフである。
【図5】従来の脱水方法を示すフローシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜分離手段により含水有機化合物を脱水し、濃縮された有機化合物を取出す、含水有機化合物の脱水方法において、
前記膜分離手段における膜を透過した水分を吸水性物質に吸収させ、吸水性物質による水分吸収を、濃度40〜64質量%、温度15〜50℃、循環比(膜透過量に対する吸水性物質供給量の比)50以上の条件で行うことを特徴とする、含水有機化合物の脱水方法。
【請求項2】
膜を介して流れる前記含水有機化合物と前記吸水性物質の流れ方向を対向させることを特徴とする、請求項1記載の含水有機化合物の脱水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−28646(P2009−28646A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195276(P2007−195276)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】