説明

吸収材の再生方法

【課題】吸収材から二酸化炭素を放出させると共に、吸収材上に析出した炭素を除去することが可能な吸収材の再生方法を提供する。
【解決手段】原料ガスおよび水蒸気を導入するためのガス導入部および改質反応ガスの排出部を有する改質器内に改質用触媒とリチウムシリケートを含む二酸化炭素を吸収するための吸収材とを充填し、原料ガスおよび水蒸気を前記ガス導入部を通して改質器内に供給して水蒸気改質反応を行い、水素と同時に副生した二酸化炭素を前記吸収材で吸収し、その吸収材による二酸化炭素の吸収能力が低下した後、前記吸収材から二酸化炭素を放出させて吸収材を再生する方法であって、前記改質器内の温度を625℃以上に設定し、かつ不活性ガスまたは二酸化炭素を5体積%含む不活性ガスを処理ガスとして前記改質器内に前記原料ガスおよび水蒸気の供給方向と向きが反対になるよう前記排出部を通して供給することを特徴とする吸収材の再生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質用触媒とリチウムシリケートを含む吸収材とが充填された水素を生成させる改質器において、吸収材の吸収性能を維持させる吸収材の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に通常燃料として供給される水素(H2)は天然に殆ど存在しないため、改質用触媒の存在下で主にメタンや灯油等の化石燃料を原料として高温の水蒸気(H2O)と反応させる水蒸気改質方法により製造されている。この水蒸気改質反応は、例えば天然ガスや都市ガスの主成分であるメタン(CH4)を原料ガスとして用いる場合、下記式(1)で表される。
【0003】
CH4+2H2O⇔4H2+CO2 …(1)
また、最近では植物から製造される再生可能エネルギーとして注目されるエタノール(C25OH)を原料として水素を製造する検討も行われている(非特許文献1参照)。エタノールを原料とする水蒸気改質反応は、下記式(2)で表される。
【0004】
25OH+3H2O ⇔ 6H2+2CO2 …(2)
これら反応は、副生成物が多く発生し、メタン、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)等の不純物が生成ガスに含有される。特に、水蒸気改質反応直後の生成ガス中には反応条件や原料により異なるものの、数体積%から数10体積%との一酸化炭素が含有される。このため、反応管の下流側に一酸化炭素(CO)変成器を接続するのが一般的である(非特許文献2参照)。CO変成器により処理された生成ガスは、一酸化炭素濃度が約0.5体積%に低下し、その後にガス精製工程に供給される。
【0005】
特許文献1,2には、副生成物としてCO2が生成される水蒸気改質反応において、従来の改質用触媒に加え、無機の吸収材であるリチウム複合酸化物を用いることによって、400℃を超える高温反応場からCO2を除去し、化学平衡を主生成物の生成側にシフトさせて水素を効率的に得る方法が開示されている。リチウム複合酸化物の中でリチウムシリケートは特にCO2吸収速度が速いため化学平衡のシフトに特に適した材料である。リチウムシリケートによるCO2吸収は、下記式(3)で表される。
【0006】
Li4SiO4+CO2 ⇔ Li2CO3+Li2SiO3…(3)
前記式(3)において、右向きの反応が起きればCO2はリチウムシリケートと反応して吸収される。非特許文献3〜5に記載のようにメタン及びエタノールでは高温水蒸気との反応に対する平衡のシフト効果が実験により確認され、水素生成が促進されるとともに副生成物である一酸化炭素濃度が下がることが明らかにされている。
【0007】
しかしながら、本発明者らがエタノールの水蒸気改質反応場にリチウムシリケートからなる吸収材を改質用触媒と共存させる実験を行った場合、吸収材表面に炭素が析出することを確認した。このような炭素は原料ガスに含まれる分子中の炭素数が多いほど生じやすく、炭素が2つ含まれるエタノール、あるいは3つ含まれるプロパンのような化合物で炭素の析出が顕著になる。また、吸収材からCO2を放出させて再生する、繰返し使用に伴って炭素の析出量が増加する。炭素の析出は、吸収材の表面を覆い反応を阻害するため、吸収材の吸収性能を低下させる。したがって、吸収材を再生させるためには、CO2を放出させると同時に析出した炭素を除去する必要がある。
【0008】
炭素を除去する方法としては、例えば炭素と反応する水蒸気または空気を流通する方法が考えられる。しかしながら、水蒸気は水を蒸発させるためのエネルギーを必要とし、空気は炭素の酸化時に局所的な高温部が発生して触媒および吸収材を焼結させて性能劣化を生じる。
【0009】
一方、非特許文献6には水素製造装置においては改質用触媒を吸収材と共に充填した反応管を複数準備することにより連続的に水素を製造する方法が開示されている。リチウムシリケートを含む吸収材の場合、窒素雰囲気では650℃、30分間でCO2の放出が完了するため、再生時には改質の原料ガスと同じ向きに窒素を流通させている。また、再生時には反応平衡上、雰囲気中のCO2濃度が低い方が有利になるため、窒素を流通する方法が有効だと考えられている。しかしながら、この非特許文献6は原料ガスがメタンであり、前述した炭素析出は生じ難いことから、その再生条件はCO2放出のみを考慮したものである。
【0010】
非特許文献7には、吸収材と同様の形状をなすセラミック系多孔質体中に析出した炭素を50体積%の二酸化炭素雰囲気下、650℃で加熱する方法により除去することが記載されている。この炭素除去は、以下の反応式(4)によりなされる。
【0011】
C+CO2 ⇔ 2CO …(4)
前記反応は平衡上、雰囲気中のCO2濃度が高い方が炭素の除去に有利に働く。しかしながら、前述した吸収材からのCO2放出を考慮すると、CO2放出条件と反対になる。本発明者らは、リチウムシリケートからなる吸収材を50体積%の二酸化炭素雰囲気下で650℃にて加熱した実験において、CO2が放出されず、再生が困難であることを確認した。
【非特許文献1】F.Frusteri et al., Journal of Power Sources, 132, 139 (2004)
【非特許文献2】工業調査会「水素エネルギー最前線」(2003)36ページ 特開平9−147821号公報
【特許文献1】特開平10−152302号公報
【特許文献2】特開2002−274809
【非特許文献3】M.Kato et al, Journal of Ceramics Society of Japan, 113 (3), 252 (2005)
【非特許文献4】越崎ら,第15回日本エネルギー学会大会講演要旨集(2006)
【非特許文献5】鈴木ら,化学工学会第37回秋季大会研究発表講演要旨集(2005)
【非特許文献6】K.Essaki et al, Proceedings of 16th World Hydrogen Energy Conference(2006)
【非特許文献7】竹中、石油学会新エネルギー部会講演会、p. 58(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、原料ガスおよび水蒸気を改質器内に導入して水蒸気改質反応を行い、水素と同時に副生した二酸化炭素を前記吸収材で吸収し、その吸収材による二酸化炭素の吸収能力が低下した後の再生において、吸収材から二酸化炭素を放出させると共に、吸収材上に析出した炭素を除去することが可能な吸収材の再生方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によると、原料ガスおよび水蒸気を導入するためのガス導入部および改質反応ガスの排出部を有する改質器内に改質用触媒とリチウムシリケートを含む二酸化炭素を吸収するための吸収材とを充填し、原料ガスおよび水蒸気を前記ガス導入部を通して改質器内に供給して水蒸気改質反応を行い、水素と同時に副生した二酸化炭素を前記吸収材で吸収し、その吸収材による二酸化炭素の吸収能力が低下した後、前記吸収材から二酸化炭素を放出させて吸収材を再生する方法であって、
前記改質器内の温度を625℃以上に設定し、かつ不活性ガスまたは二酸化炭素を5体積%含む不活性ガスを処理ガスとして前記改質器内に前記原料ガスおよび水蒸気の供給方向と向きが反対になるよう前記排出部を通して供給することを特徴とする吸収材の再生方法が提供される。
【0014】
ここで、吸収材による二酸化炭素の吸収能力が低下したとは、その吸収材による二酸化炭素の吸収が20〜100%に達したときを意味する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吸収材から二酸化炭素を放出させると共に、吸収材上に析出した炭素を除去することを可能にし、二酸化炭素の吸収性能を長期間に亘って維持することが可能な吸収材の再生方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る吸収材の再生方法を詳細に説明する。
【0017】
図1は、実施形態に係る水蒸気改質反応装置を示す断面図である。改質器1は、両端にフランジ2a,2bを有する円筒状の反応管3と、この反応管3の一端(上端)のフランジ2aに当接され、原料ガスおよび水蒸気を導入するためのガス導入管4を有する上部円板状蓋体5と、前記反応管3の他端(下端)のフランジ2bに当接され、生成ガスを排出するための排出管6を有する下部円板状蓋体7とを備えている。前記反応管3のフランジ2a,2bには、複数のボルト挿通穴(図示せず)が開口され、前記各円板状蓋体5、7にもこれら挿通穴に対応してボルト挿通穴(図示せず)が開口され、円筒状本体3上端のフランジ2aと上部円板状蓋体5の合致したボルト挿通穴、および円筒状本体3下端のフランジ2bと下部円板状蓋体7の合致したボルト挿通穴にボルトをそれぞれ挿入し、ナットで締め付けることによって、各円板状蓋体5、7が反応管3に固定される。
前記上部円板状蓋体5におけるガス導入管4の開口部および前記下部円板状蓋体7における生成ガス排出管6の開口部には、メッシュ8,9がそれぞれ取り付けられている。改質用触媒10およびリチウムシリケートを含む二酸化炭素を吸収するための吸収材11は、反応管3内に充填されている。
【0018】
なお、前記反応管3を含むガス導入管4の一部および排出管6の一部の外周面には例えば所定の温度に加熱された燃焼ガスが流通する加熱部材(図示せず)が設けられている。
【0019】
次に、図1に示す改質反応装置を用いて実施形態に係る吸収材の再生方法を説明する。
【0020】
例えばエタノール水溶液を予め蒸気化したエタノール水溶液の蒸気をガス導入管4を通して円筒状の反応管3内にダウンフローで流通させ、ここに充填された改質用触媒10と吸収材11と接触させる。このとき、加熱部材(図示せず)に燃焼ガスを流通させることにより反応管3内を所望の温度に加熱する。このようなエタノール水溶液の蒸気の反応管3内への導入および加熱によって、改質用触媒10の存在下でエタノールが前述した式(2)に従って水蒸気改質反応がなされて主に水素と二酸化炭素(CO2)が生成され、同時にCO2が改質用触媒10と共存された吸収材(例えばリチウムシリケート)11と前述した式(3)に従って反応して吸収、除去される。その結果、前述した式(2)の反応が促進される。生成した水素は、排出管6を通して回収される。
【0021】
このようにエタノール水溶液の蒸気を改質器1で改質反応させ、吸収材で副生されるCO2を吸収させる過程で、この吸収材によるCO2の吸収能力が低下すると、エタノール水溶液の蒸気の供給を停止する。つづいて、加熱部材(図示せず)に燃焼ガスを流通させることにより反応管3内の温度を625℃以上にして、ここに充填された吸収材11を加熱する。この加熱温度を保持しながら、処理ガスである不活性ガス(例えば窒素ガス)を排出管6を通して下から上に向けて、つまりエタノール水溶液の蒸気の供給方向(ダウンフロー)と逆のアップフローで、反応管3内を流通させる。このとき、前述の式(3)の反応に示したようにCO2とリチウムシリケートとの反応が可逆反応であるため、窒素の流通下、625℃以上の温度で吸収材からCO2を放出させて再生される。同時に、水蒸気改質においてダウンフローで反応管3を流通させるエチルアルコール水溶液の蒸気はガス導入管4側の反応管3上部で原料ガスであるエチルアルコール蒸気の分解が進み、この部分で吸収材への炭素析出が生じ易くなる。処理ガス(例えば窒素ガス)をアップフローで反応管3内を流通させることによって、反応管3下部から導入された処理ガス中のCO2濃度は反応管3の上部に向けて上昇する。このため、析出した炭素が最も多い反応管3の上部で処理ガスのCO2濃度が高まることになるため、625℃以上の温度にて吸収材表面に析出した炭素を効率良く除去することが可能になる。その結果、再生された吸収材は炭素析出に伴うCO2との反応、吸収性能の阻害化を回避できる。
【0022】
なお、再生時の処理ガスの流れを改質反応時の原料ガスと水蒸気の供給と同じ向き、例えばいずれもダウンフロー、で行った場合は、改質反応時に原料ガスの分解に伴って炭素析出し易くその量が最も多い反応管3上部側から処理ガスが供給されるため、吸収材から放出されるCO2濃度を炭素量の多い反応管3上部側で十分に高めることが困難になる。また、原料ガスの分解に伴って炭素量が最も多い反応管3上部側から処理ガスを供給すると、吸収材からのCO2放出が吸熱反応により原料ガスの分解に伴って炭素量が最も多い個所で温度が少し低下する。これらの理由により、吸収材に析出した炭素を効率よく除去することが困難になる。
【0023】
再生後には、再びエタノール水溶液の蒸気を改質器1の反応管3に供給して改質反応を行う。
【0024】
前記原料ガスは、エタノール蒸気の他に、メタン、灯油のような化石燃料ガスを用いることができる。特に、実施形態に係る吸収材の再生において吸収材表面への炭素の析出が多くなる炭素数の多いエタノール蒸気のような原料ガスを用いた場合に有効である。
【0025】
前記改質用触媒は、例えば担体に触媒金属微粒子を担持した構造のものが用いられる。前記担体としては、例えばアルミナ、マグネシア、セリア、酸化ランタン、ジルコニア、シリカ、チタニア等を挙げることができる。前記触媒金属としては、例えばニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、コバルト等を挙げることができ、特にニッケル、ロジウムが好ましい。
【0026】
前記吸収材としては、リチウムシリケート単独またはこのリチウムシリケートと炭酸カリウムもしくは炭酸ナトリウムのようなアルカリ炭酸塩またはアルカリ酸化物等のアルカリ化合物との混合物が挙げられる。リチウムシリケートは、例えばLixSiyz(ただしx+4y−2z=0)で示されるものを用いることができる。このような式で示されるリチウムシリケートとしては、例えばリチウムオルトシリケート(Li4SiO4)、リチウムメタシリケート(Li2SiO3)、Li6Si27、Li8SiO6等を用いることができる。
【0027】
前記改質用触媒と吸収材の混合比は、各材料の種類、形状によるが、重量比で1:1〜1:8にすることが好ましい。
【0028】
前記改質用触媒および吸収材は、粒、ペレットの形状を有することが好ましく、その大きさ(特に径)は2〜10mmであることが望ましい。それらの大きさを2mm未満にすると、原料ガスおよび水蒸気の流通による圧力損失が大きくなり水素の生成効率が低下する虞がある。一方、それらの大きさが10mmを超えると、特に吸収材内での各種ガスの拡散が律速となり反応を完結させるのが困難となる。
【0029】
前記吸収材は、2〜50μmの一次粒子から構成される多孔体であることが好ましい。このような多孔質体からなる吸収材は、CO2との高い反応性を示す。
【0030】
前記処理ガスとして用いる不活性ガスは、窒素ガスの他に、アルゴンガス、ヘリウムガス等を挙げることができる。処理ガスは、二酸化炭素(CO2)を5体積%以下含む不活性ガスを用いることができる。処理ガス中の二酸化炭素量が5体積%を超えると、吸収材の再生時にCO2を十分に放出させることが困難になる。
【0031】
前記再生時の反応管内の加熱温度を625℃未満にすると、再生時間内に吸収材表面に析出した炭素を除去することが困難である。加熱温度の上限は、720℃にすることが好ましい。加熱温度が720℃を超えると、前記式(3)により生成した炭酸リチウム(Li2CO3)が液化し、吸収材を構成する一次粒子の焼結を促進し、繰返し使用での吸収性能を低下させる虞がある。
【0032】
前述した改質反応および再生の連続的な操作は、以下の図2および図3に示すように2塔の反応管を並設することにより可能になる。図2および図3は、改質・再生システムを示すフロー図である。なお、図2、図3はいずれも同じ改質・再生システムを示し、2つの反応管による水蒸気改質反応と吸収材の再生が反転している。
【0033】
第1、第2の反応管211、212には、それぞれ改質用触媒およびリチウムシリケートを含む吸収材が充填されている。これらの反応管211、212の外周には、図示しない筒状加熱ヒータが配置されている。
【0034】
原料供給ラインL1は、途中で2つの原料分岐ラインL2,L3に分岐され、一方の原料分岐ラインL2は第1反応管211の上部に接続され、他方の原料分岐ラインL3は第2反応管212の上部に接続されている。原料分岐ラインL2,L3には、開閉バルブV1,V2がそれぞれ介装されている。2つの生成ガス排出ラインL4,L5は、一端が第1、第2の反応管211、212の下部にそれぞれ接続され、他端(下端)が1つの生成ガスメイン排出ラインL6に接続されている。生成ガス排出ラインL4,L5には、開閉バルブV3,V4がそれぞれ介装されている。
【0035】
処理ガスポート22には、不活性ガス導入ラインL7および二酸化炭素(CO2)導入ラインL8がそれぞれ接続されている。処理ガス供給ラインL9は、一端がポート22に接続され、他端が2つの処理ガス分岐ラインL10,L11に分岐され、一方の処理ガス分岐ラインL10は第1反応管211の下部に接続され、他方の処理ガス分岐ラインL11は第2反応管212の下部に接続されている。処理ガス供給ラインL9には、ブロアー23が介装されている。2つの処理ガス分岐ラインL10,L11には開閉バルブV5,V6がそれぞれ介装されている。2つの処理ガス排出ラインL12,L13は、一端が第1、第2の反応管211、212の上部にそれぞれ接続され、他端(上端)が1つの処理ガス統合排出ラインL14に接続されている。処理ガス排出ラインL12,L13には、開閉バルブV7,V8がそれぞれ介装されている。
【0036】
このような2つの反応管を有する改質・再生システムによる改質・再生方法を以下に説明する。
【0037】
まず、他方の原料分岐ラインL3、生成ガス排出ラインL5、処理ガス分岐ラインL10および処理ガス排出ラインL12にそれぞれ介装した開閉バルブV2,V4,V5,V7を閉じる。これらのバルブ以外の開閉バルブV1,V3,V6,V8をそれぞれ開く。なお、図2において閉鎖した開閉バルブを黒で塗りつぶし、開放された開閉バルブを白抜きとして表示する。
【0038】
例えばエタノールおよび水の溶液を予め蒸気化したエタノール水溶液の蒸気を原料供給ラインL1および原料分岐ラインL2を通して第1反応管211内にダウンフローで供給し、ここに充填された改質用触媒とリチウムシリケートを含む吸収材を流通、接触させる。このとき、図示しない筒状加熱ヒータにより第1反応管211内を所望の温度に加熱する。このようなエタノール水溶液の蒸気の第1反応管211内への供給および加熱によって、改質用触媒の存在下でエタノールが前述した式(2)に従って水蒸気改質反応がなされて水素と二酸化炭素が生成され、同時にCO2が改質用触媒と共存された吸収材(リチウムシリケート)と前述した式(3)に従って反応して吸収、除去される。その結果、前述した式(2)の反応が促進される。生成した水素は、生成ガス排出ラインL4および生成ガスメイン排出ラインL6を通して回収される。
【0039】
このように第1反応管211内で水蒸気改質反応による水素製造を行っている間、既にCO2を吸収し、その吸収能力が低下した吸収材を充填(改質用触媒も共存して充填)した第2反応管212においてその再生を行う。すなわち、図示しない筒状加熱ヒータにより第2反応管212内を625℃以上に加熱する。処理ガスである不活性ガス、例えば窒素ガスを不活性ガス導入ラインL7を通して処理ガスポート22の導入し、ブロアー23を作動させることにより窒素ガスを処理ガス供給ラインL9および処理ガス分岐ラインL10を通して第2反応管212の下部から供給し、その第2反応管212内を流通させる。つまり、窒素ガスは前記第1反応管211の上部から下部に向かう前記エタノール水溶液の蒸気の流れ(ダウンフロー)と反対の下部から上部に向かうアップフローで第2反応管212内を流通させる。このとき、前述の式(3)の反応に示したようにCO2とリチウムシリケートとの反応が可逆反応であるため、吸収材からCO2を放出する。同時に、前述したように吸収材表面に析出した炭素を効率よく除去して吸収材の再生がなされる。CO2を含む窒素ガスは、処理ガス排出ラインL13および処理ガスメイン排出ラインL14を通して系外に排出される。
【0040】
前述した第1反応管211内での水蒸気改質反応による水素製造において、充填された吸収材がCO2を吸収し、その吸収能力が低下したときに、図3に示すように他方の原料ガス分岐ラインL3、生成ガス排出ラインL5、処理ガス分岐ラインL10および処理ガス排出ラインL12にそれぞれ介装した開閉バルブV2,V4,V5,V7を開き、これらのバルブ以外の開閉バルブV1,V3,V6,V8をそれぞれ閉じる。なお、図3において閉鎖した開閉バルブを黒で塗りつぶし、開放された開閉バルブを白抜きとして表示する。このような開閉バルブの開閉操作でエタノール水溶液の蒸気の供給を第2反応管212側に、処理ガスの供給を第1反応管211側に切り替え、第1反応管211内を625℃以上に加熱することによって、エタノールの水蒸気改質による水素製造と吸収材の再生を行う。
【0041】
したがって、第1、第2の反応管211,212のいずれか一方の反応管で水素の生成を行い、他方の反応管で吸収材を再生する操作を交互に行うことによって、水素生成をほぼ連続的に行なうことが可能になる。
【0042】
なお、図2および図3に示す吸収材の再生方法において、二酸化炭素導入ラインL8からCO2を処理ガスポート22に導入し、ここで不活性ガス導入ラインL7から導入された不活性ガス(例えば窒素ガス)と混合した5体積%以下のCO2を含む窒素ガスを処理ガスとして用いてもよい。
【0043】
また、前述した改質反応時の原料ガスと水蒸気の供給と再生時の処理ガスの供給は、改質器(例えば反応管)内で相互に反対方向に流れるようにすればよく、例えば前者がダウンフローであれば、後者をアップフローとし、前者がアップフローであれば、後者をダウンフローにすればよい。
【0044】
以上説明したように、実施形態に係る再生方法によれば原料ガスおよび水蒸気を改質器内に導入して水蒸気改質反応を行い、水素と同時に副生したCO2を前記吸収材で吸収し、その吸収材による二酸化炭素の吸収能力が低下した後の再生において、吸収材から二酸化炭素を放出させると共に、吸収材上に析出した炭素を除去することを可能にし、水蒸気改質反応時に副生したCO2の吸収材による吸収性能を長期間に亘って維持することが可能になるため、水素の生産効率を向上させることができる。
【0045】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0046】
(実施例1)
前述した図1に示す改質器1の反応管3(内径0.02m、高さは0.9m)内に改質用触媒10gおよび吸収材60gを混合して高さが0.3mとなるように充填した。改質用触媒としては、ニッケルを約20重量%担持した平均粒径3mmのアルミナ粒子を用いた。吸収材としては、リチウムシリケート粉末を加圧成形することにより直径5mm、長さ5mmとした圧粉体(多孔質体)を用いた。
【0047】
エタノールと水をモル比で1:6に混合した組成のエタノール水溶液の蒸気をガス導入管4を通して前記反応管3に0.25L/分(気体の標準状態換算)の量で上から下に向けるダウンフローで供給した。反応管3内の温度を600℃、内圧を500kPaと一定にして30分間改質を行った。
【0048】
その後、前記反応管3内に窒素ガス(処理ガス)を排出管6を通して2.5L/分(標準状態換算)の量で下から上に向けるアップフローで供給し、吸収材の再生を行った。反応管3内の温度は650℃、内圧は101kPaとして30分間保持した。このような改質および再生を100回繰返した。
【0049】
(実施例2)
再生工程の反応管内の温度を700℃にした以外、実施例1と同様な方法で改質および再生を100回繰返した。
【0050】
(実施例3)
再生工程での処理ガスとして二酸化炭素を5体積%含む窒素ガスを用い、反応管内の温度を650℃にした以外、実施例1と同様な方法で改質および再生を100回繰返した。
【0051】
(比較例1)
再生工程での窒素ガスの供給をエタノール水溶液の蒸気と同じ、上から下に向けるダウンフローで行った以外、実施例1と同様な方法で改質および再生を100回繰返した。
【0052】
(比較例2)
再生工程の反応管内の温度を600℃にした以外、実施例1と同様な方法で改質および再生を100回繰返した。
【0053】
実施例1,2,3および比較例1,2で得られた吸収材について吸収性能を測定した。測定には、空気90体積%、二酸化炭素10体積%の混合ガスを101kPa、0.2L/分(標準状態換算)の条件で流通させる熱重量分析装置(TG)を用いた。測定方法は、予め不活性ガスである窒素ガスを101kPa、0.2L/分の条件で流通させたまま、室温から600℃まで30℃/分の速度で昇温して600℃で20分間保持した後、流通ガスを窒素ガスから前記混合ガスに切り替え、そのままで30分間保持した。このような試験により各例の吸収材での二酸化炭素の吸収に伴う重量の増加率を調べた。
【0054】
また、改質および再生を100回繰返した後の吸収材の色を目視で観察した。
【0055】
これらの結果を下記表1に示す。なお、下記表1には各吸収材は改質および再生を繰り返す前の二酸化炭素の吸収に伴う重量の増加率(初期重量増加率)と色を併記した。
【表1】

【0056】
前記表1から明らかなように実施例1〜3の吸収材の再生方法は、初期重量増加率(17重量%)に近似した重量増加率を示し、高い二酸化炭素の吸収性能を維持できることがわかる。また、改質および再生を繰返した後の吸収材は初期と同様に白色を維持していた。
【0057】
これに対し、比較例1,2の吸収材の再生方法は、初期重量増加率(17重量%)に比べて重量増加率が大幅に下がり、吸収性能の低下が著しいことがわかる。しかも、改質および再生を繰返した後の比較例1および比較例2の吸収材はそれぞれ炭素付着に起因して灰色、黒色に変化した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施形態に係る水蒸気改質反応装置を示す概略図。
【図2】実施形態に係る改質・再生システム、ただし第1反応管でエタノールの水蒸気改質、第2反応管で再生を行っている状態、を示すフロー図。
【図3】図2と同じ改質・再生システム、ただし第1反応管で再生、第2反応管でエタノールの水蒸気改質を行っている状態、を示すフロー図。
【符号の説明】
【0059】
1…改質器、3、211、212…反応管、4…ガス導入管、6…生成ガスの排出管、10…改質用触媒、11…吸収材、22…処理ガスポート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスおよび水蒸気を導入するためのガス導入部および改質反応ガスの排出部を有する改質器内に改質用触媒とリチウムシリケートを含む二酸化炭素を吸収するための吸収材とを充填し、原料ガスおよび水蒸気を前記ガス導入部を通して改質器内に供給して水蒸気改質反応を行い、水素と同時に副生した二酸化炭素を前記吸収材で吸収し、その吸収材による二酸化炭素の吸収能力が低下した後、前記吸収材から二酸化炭素を放出させて吸収材を再生する方法であって、
前記改質器内の温度を625℃以上に設定し、かつ不活性ガスまたは二酸化炭素を5体積%含む不活性ガスを処理ガスとして前記改質器内に前記原料ガスおよび水蒸気の供給方向と向きが反対になるよう前記排出部を通して供給することを特徴とする吸収材の再生方法。
【請求項2】
前記原料ガスがエタノールを主成分とすることを特徴とする請求項1記載の吸収材の再生方法。
【請求項3】
前記改質器内の温度の上限が720℃であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載の吸収材の再生方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−221082(P2008−221082A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60661(P2007−60661)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】