説明

吸引式水質計

【課題】 容器に採取した試料液の極一部を使うだけで測定でき、容器に残った試料液は汚染されないため他の水質測定に使うことが可能となる、小型で簡便に使用できる水質計を提供する。
【解決手段】 独立した概略筒状の本体1を有し、その本体1には、先端の吸引部4に連続して試料液の流路5と、試料液の流路5に設けた比較電極7及びガラス電極8のようなセンサー部とが設けてあり、試料液を吸引部4を通して流路5内に吸引し又は吐出するプランジャ6を備えている。センサー部からの信号の演算処理を行う制御部は本体1に内蔵されるか、又は別体に設置してケーブル2又は無線で本体1と接続する。また、本体1には、測定データを表示する表示部を備えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や湖沼の水質調査、工業用水や工場排水などの水質調査において、pH(水素イオン濃度)及びその他のイオン濃度、電気伝導率などの測定に使用する水質計に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、pHやイオン濃度などを測定する水質計は、センサーと変換器とが別体に設けられ、センサーに付いているケーブルをコネクタで変換器に接続して使用する。そして、センサーをビーカーなどの容器に入れた試料液に浸漬して測定を行う、センサーからの信号を変換器内の制御部で増幅、演算処理して、得られた測定データは変換器の表示部に表示されるようになっている。
【0003】
例えば、通常のpH計の場合、センサーはガラス電極と比較電極の2本の電極で構成され、このガラス電極と比較電極を別体に設けた変換器にケーブルで接続して使用する。測定の際には、センサーであるガラス電極と比較電極を容器に入れた試料液に浸漬することによって測定が行われ、センサーからの信号が変換器で処理され、得られた測定データは変換器に表示され又は印刷される。
【0004】
また、特開2002−005873公報に記載されるように、ガラス電極と比較電極が同一セル内に配設された一体型のpH計も知られているが、このpH計は被測定液をポンプでセル内に供給する大型ないし固定型のものである。一方、特開2000−227428公報には、シリンジ型の滴定装置が記載されているが、滴定による化学分析のため試料液と滴定液を定量的に吸引し撹拌するためシリンジを用いているに過ぎない。
【0005】
【特許文献1】特開2002−005873公報
【特許文献2】特開2000−227428公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常の水質計においては、試料の試料液をビーカーなどの容器に入れ、その試料液にセンサーを浸漬して測定するため、容器に採取する試料液が多量に必要になる。例えば、pH計の場合、少なくとも比較電極の液絡部が容器内の試料液に完全に漬かるだけの液量が必要である。また、試料液の入った容器に直接センサーを入れるため、例えば液絡部からKClが浸出するなど、センサーによっては容器内のサノプル液全体を汚染してしまうことがあり、その試料液を他の測定に使うことができなくなる。
【0007】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、極めて少ない量の試料液で測定することができ、従ってヒーカーなどの容器に採取する試料液の極一部を使うだけでよく、容器に残った試料液は汚染されないため他の水質測定に使うことが可能となり、小型で簡便に使用できる水質計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明が提供する吸引式水質計は、独立した水質計本体を有し、その水質計本体が、先端の吸引部と、吸引部に連続して本体内に設けた試料液の流路と、吸引部を通して試料液を流路内に吸引し又は吐出する吸引吐出機構と、試料液の流路に設けたセンサー部とを備えていることを特徴とするものである。
【0009】
上記本発明の吸引式水質計においては、前記センサー部からの信号の演算処理や増幅処理を行う制御部は、前記水質計本体に内蔵されているか、又は別体として設置され且つケーブル又は無線で本体に接続されている。
【0010】
上記本発明の吸引式水質計は、前記水質計本体が、制御部で得られた測定データを表示する表示部を備えることができる。また、前記水質計本体が、測定データの一時的なメモリへの保存を指示するデータ取込ボタンを備えることもできる。
【0011】
上記本発明による吸引式水質計は、前記センサー部として、前記流路の一部がガラス感応膜で構成されたガラス電極部と、前記流路に液絡部を設けた比較電極部とを備えることにより、pH計として用いることができる。また、前記センサー部として、前記流路に2極あるいは3極以上の電極を備えることで、電気伝導率計として用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、試料液を細い流路内に吸引して測定するため、極めて少ない量の試料液で測定することができ、同時に試料として容器に採取した試料液の極一部を使うだけで測定が可能であるから、容器に残った試料液は汚染されず、他の水質測定に試料として使うことができる。また、水質計本体を少なくとも片手で把持できる程度に小型化でき、手に持って簡便に操作できる吸引式水質計を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の吸引式水質計は、独立した水質計本体を有し、その本体の先端には試料液をビーカー等の容器から吸引し又は吐出するための吸引部を備え、吸引部の後端は試料液の流路に連通している。試料液を本体内の流路に吸引し又は吐出するための吸引吐出機構としては、プランジャが一般的であるが、スポイトやピペットなどの方式を利用することも可能である。また、吸引式水質計における水質計本体の形状については、概略筒状が一般的であるが、概略角状のものや、概略筒状と角状のものが合体したものでもよく、手で掴むことができればどのような形状であってもよい
【0014】
また、水質計本体内には、水質測定を行うセンサー部が試料液の流路の途中に設けてある。流路内に吸引された試料液は、センサー部によってpHや電気伝導率などの測定が行われる。センサー部からの信号は制御部に送られ、演算処理されて測定データが求められる。測定終了後の試料液は、吸引吐出機構により流路内から吸引部を通して外部に吐出される。
【0015】
従って、本発明の吸引式水質計では、試料としてビーカーなどの容器に試料液を採取し、その試料液のうちの少量を容器から細い流路内に吸引するだけで測定が可能である。しかも、センサー部に直接接するのは流路内に吸引された試料液のみであり、容器に残った試料液はセンサー部に直接接することがないので、例えば比較電極の液絡部から浸出するKCl溶液などで汚染されることがなくなり、他の水質測定に試料として用いることが可能である。
【0016】
センサー部からの信号の演算処理や増幅処理などを行う制御部は、通常のごとく水質計本体とは別体にし且つケーブル又は無線で本体と接続してもよいが、水質計本体に内蔵すれば装置全体を一体化でき、一層簡便に使用することができる。また、制御部で得られた測定データを表示する表示部についても、水質計本体と別体にして制御部の近くに設けてもよいし、水質計本体に設けることもできる。更に、測定データを一時的にメモリに保存させる場合もあるが、この操作を指示するデータ取込ボタンを水質計本体に備えることもできる。
【0017】
次に、本発明の吸引式水質計がpH計である場合について、図1〜2を参照して詳しく説明する。このpH計は、独立した概略筒状の本体1を有し、ケーブル2を介して制御部を備えた変換器(図示せず)にコネクタ3で接続されるようになっている。この本体1の先端には針状の吸引部4(吸引チップとも称する)が設けてあり、吸引部4の後端に連続して本体1の内部に試料液の流路5が形成してある。そして、流路5の後端には吸引吐出機構としてプランジャ6が設けてあり、プランジャ6を出し入れすることにより、容器内の試料液を吸引部4を通して流路5内に吸引し又は吐出するようになっている。
【0018】
本体1内の流路5には、pH計のセンサー部として比較電極7とガラス電極8とが設けてあり、更に流路5内の試料液の温度を測定するための温度センサー9が設けてある。比較電極7は、図2(a)に示すように、アクリルなどの樹脂又はガラスで作製された比較電極ボディ10により、流路5の一部と一体的に形成されている。即ち、この比較電極ボディ10には、流路5の一部が貫通して形成されると共に、KCl溶液を収納する液溜室12と、流路5と液溜室12に接する液絡部11と、液溜室12内に設置した内極13とが設けてあり、これらによって比較電極7が構成されている。
【0019】
また、ガラス電極8は、図2(b)に示すように、アクリルなどの樹脂又はガラスで作製されたガラス電極ボディ14に、内部液を収納する液溜室15を形成し、その液溜室15に流路5の一部を構成するパイプ状のガラス感応膜5aを配置することによって形成されている。即ち、液溜室15には内部液と内極16が収納され、この内部液16に流路5の一部をなすパイプ状のガラス感応膜5aが接することによって、ガラス電極8が構成されている。尚、流路5の一部を構成するパイプ状のガラス感応膜5aの両端部と液溜室15の間は、内部液の液漏れを防ぐためのパッキン17でシール封止されている。
【0020】
上記した比較電極ボディ10とガラス電極ボディ14を概略筒状の本体1内に組み込み、パイプ状のガラス感応膜5aを含め両者の流路5の部分を液漏れのないように接合すると共に、流路5を構成するその他の部分及び吸引部4とプランジャ6を取り付けてpH計を構成する。この図1のpH計では本体1と制御部を備えた変換器とが別体であり、コネクタ3を介してケーブル2で接続する場合を図示したが、両者を無線で接続することも、また制御部を本体1に内蔵することも可能である。
【0021】
更に、本発明の吸引式水質計が電気伝導率計である場合について、図3を参照して詳しく説明する。この電気伝導率計は、センサー部を除いて上記図1〜2に示したpH計と同一の構成であるから、図3には主にセンサー部のみを図示すると共に、その他の共通の部分については図1〜2と同一の符号を付してある。
【0022】
即ち、この電気伝導率計のセンサー部は、図3に示すように、樹脂又はガラスで作製され且つ内部に流路の5の一部を形成した3個のセルブロック18a、18b、18cと、これらのセルブロック18a、18b、18cの間に挟持されて流路5の一部を構成する2極の白金電極19a、19bとからなる。このように流路5に設けた2極の白金電極19a、19bが、流路5内の試料液に接触することにより、試料液の電気伝導率を測定することができる。尚、電極の数は、前記2極に限定されることはなく、3極以上の多極の電極を用いてもよい。また、電極の材質としては、前記白金のほか、ステンレス、チタンなどの金属を用いることもできる。
【0023】
上記した図1〜3の吸引式水質計(pH計、電気伝導率計)においては、図4に示すように、その本体1に、制御部で得られた測定データを表示する表示部20を備えることができ、また、測定データ(校正データを含む)を一時的にメモリに保存させるためのデータ取込ボタン21を備えることもできる。尚、この図4では、センサー部からの信号の演算処理などを行う制御部が本体1に内蔵されている例を図示したが、制御部を別体の変換器に設置してケーブル又は無線で本体1と接続することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による吸引式水質計の一具体例(pH計)の本体を示す概略の断面図である。
【図2】図1のpH計のセンサー部を示す概略の断面図であり、(a)は比較電極及び(b)はガラス電極である。
【図3】本発明による吸引式水質計の他の具体例(電気伝導率計)の本体を示す概略の断面図である。
【図4】本発明による吸引式水質計の表示部を備えた本体を示す概略の断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 本体
2 ケーブル
3 コネクタ
4 吸引部
5 流路
5a パイプ状のガラス感応膜
6 プランジャ
7 比較電極
8 ガラス電極
9 温度センサー
10 比較電極ボディ
11 液絡部
12、15 液溜室
13、16 内極
14 ガラス電極ボディ
18a、18b、18c セルブロック
19a、19b 白金電極
20 表示部
21 データ取込ボタン



【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立した水質計本体を有し、その水質計本体が、先端の吸引部と、吸引部に連続して本体内に設けた試料液の流路と、吸引部を通して試料液を流路内に吸引し又は吐出する吸引吐出機構と、試料液の流路に設けたセンサー部とを備えていることを特徴とする吸引式水質計。
【請求項2】
前記センサー部からの信号の演算処理や増幅処理を行う制御部が、前記水質計本体に内蔵されているか、又は別体として設置され且つケーブル又は無線で本体に接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の吸引式水質計。
【請求項3】
前記水質計本体が、制御部で得られた測定データを表示する表示部を備えていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の吸引式水質計。
【請求項4】
前記水質計本体が、測定データの一時的なメモリへの保存を指示するデータ取込ボタンを備えていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の吸引式水質計。
【請求項5】
前記センサー部として、前記流路の一部がガラス感応膜で構成されたガラス電極部と、前記流路に液絡部を設けた比較電極部とを備え、pH計として用いることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の吸引式水質計。
【請求項6】
前記センサー部として、前記流路に2極あるいは3極以上の電極を備え、電気伝導率計として用いることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の吸引式水質計。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−118907(P2006−118907A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305181(P2004−305181)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】