説明

吸水性樹脂の製造方法

【課題】反応装置への付着を著しく抑制しながら、安定して収率良く吸水性樹脂を製造する方法、及び該製造方法により得られる平均粒径150〜4000μmの吸水性樹脂を提供する。
【解決手段】リン酸エステル系化合物、αーアミノ酸化合物であってアミノ基が炭素数5〜29のアルキル基、アルケニル基又は2−ヒドロキシアルキル基を有するアシル基で置換されており、かつαー位がカルボキシメチル基又はカルボキシエチル基で置換されており、該アミノ酸化合物の各カルボキシル基はカルボン酸、カルボン酸アルカリ金属塩又はアンモニウム塩の形をとるαーアミノ酸化合物、及び疎水性有機溶媒を用いて、アクリル酸系モノマーを逆相懸濁重合する、吸水性樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸系モノマーの逆相懸濁重合による吸水性樹脂の製造方法及び該製造方法により得られる吸水性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
吸水性樹脂は、衛生用品分野では、幼児用、大人用又は失禁者用の使い捨ておむつや婦人用生理用ナプキン等の吸収性物品;農園芸分野での保水剤等;土木建築分野での汚泥の凝固剤、結露防止剤又は止水剤等として幅広く使用されている。
かかる吸水性樹脂は、アクリル酸系モノマーを用いた水溶液重合法や逆相懸濁重合法により得られる。逆相懸濁重合法は、例えば、分散剤の存在下、アクリル酸系モノマー水溶液を疎水性溶媒(分散媒)に添加して重合を行う方法である。この逆相懸濁重合法で使用する分散剤として種々の化合物が開発されており、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル(特許文献1参照)、モノアルキルリン酸エステル(特許文献2参照)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル又はポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩(特許文献3及び4参照)、アシル化アミノ酸誘導体(特許文献5参照)等が挙げられる。
【0003】
【特許文献1】特公昭54−30710号公報
【特許文献2】特開昭61−209201号公報
【特許文献3】特開平11−5808号公報
【特許文献4】特開2002−179712号公報
【特許文献5】特開平8−319304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法では、得られる吸水性樹脂が球状となるため、吸水性及び通液性等の諸物性に未だ改善の余地がある。特許文献3及び4に記載の方法では、得られる吸水性樹脂は非球状・不定形となる。この様な吸水性樹脂では、吸水性及び通液性等の諸物性が若干改善されているものの、重合反応において、重合体(吸水性樹脂)が反応装置に多量に付着して収率が低下する場合があること、及び該付着物の除去にはかなりの手間を要するという問題があることより、工業的に効率良く実施するにはさらなる改良の余地がある。また、特許文献5には、アシル化アミノ酸誘導体を、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン性界面活性剤と併用することが好ましいと記載されているが、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルとの併用については記載されておらず、併用する理由やその効果についても記載がない。
そこで、本発明は、逆相懸濁重合において、反応装置への付着を顕著に抑制しながら、安定して収率良く不定形の吸水性樹脂を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、リン酸エステル系化合物、下記一般式(1)で表されるアシル化アミノ酸化合物、及び疎水性有機溶媒を用いて、アクリル酸系モノマーを逆相懸濁重合する、吸水性樹脂の製造方法、及び該製造方法により得られる平均粒径150〜4000μmの吸水性樹脂を提供する。
【0006】
【化1】

(式中、R1は、炭素数5〜29の、アルキル基、アルケニル基又は2−ヒドロキシアルキル基を示し、M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム類を示す。また、nは1又は2を示す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明により、逆相懸濁重合法による吸水性樹脂の製造において、反応装置への重合体(吸水性樹脂)の付着を極めて効果的に抑制しながら、不定形の吸水性樹脂を、安定して収率良く製造することができる。こうして得られる吸水性樹脂は、平均粒径150〜4000μmの不定形な粒子であり、吸水性能及び取り扱い性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の吸水性樹脂の製造方法は、リン酸エステル系化合物、一般式(1)で表されるアシル化アミノ酸化合物、及び疎水性有機溶媒を用いて、アクリル酸系モノマーを逆相懸濁重合することを特徴とする。
【0009】
<アクリル酸系モノマー>
アクリル酸系モノマーとしては、アクリル酸もしくはメタアクリル酸又はそれらの塩が挙げられる。塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩等が挙げられる。アクリル酸系モノマーは、単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明では、アクリル酸系モノマーを水溶液としてから逆相懸濁重合に付す。水溶液中のアクリル酸系モノマーの濃度に特に制限は無いが、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは10〜65質量%、さらに好ましくは30〜60質量%である。
【0010】
<その他のモノマー>
本発明においては、上記アクリル酸系モノマー以外に、本発明の目的を阻害しない限り、アクリル酸系モノマーと共重合可能なその他のモノマーを併用することもできる。その他のモノマーとしては水溶性のモノマーが好ましく、例えばオレフィン系不飽和カルボン酸、オレフィン系不飽和カルボン酸エステル、オレフィン系不飽和スルホン酸又はその塩、オレフィン系不飽和リン酸又はその塩、オレフィン系不飽和アミン、オレフィン系不飽和アンモニウム塩及びオレフィン系不飽和アミド等の、重合性不飽和基を有する水溶性ビニルモノマーが挙げられる。
オレフィン系不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸やそれらの塩等が挙げられる。
オレフィン系不飽和カルボン酸エステルとしては、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアリールオキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
オレフィン系不飽和スルホン酸又はその塩としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸等の不飽和スルホン酸又はこれらの塩等が挙げられる。
【0011】
オレフィン系不飽和リン酸エステル又はその塩としては、(メタ)アクリロイル(ポリ)オキシエチレンリン酸エステル等の(メタ)アクリロイル(ポリ)オキシアルキレンリン酸エステル又はその塩等が挙げられる。
オレフィン系不飽和アミンとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
オレフィン系不飽和アンモニウム塩としては、(メタ)アクリロイルオキシエチレントリメチルアンモニウムクロリド等の(メタ)アクリロイルオキシアルキレントリアルキルアンモニウムハライド等が挙げられる。
オレフィン系不飽和アミドとしては、(メタ)アクリルアミド;メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、プロピル(メタ)アクリルアミド等のモノアルキル(メタ)アクリルアミド;ビニルメチルアセトアミド等のアルケニルアルキルアセトアミド等が挙げられる。
上記の塩としては、いずれにおいても、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩等が挙げられる。
【0012】
上記その他のモノマーをアクリル酸系モノマーと併用する場合、その他のモノマーは単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。その他のモノマーの使用量は、アクリル酸系モノマー100質量部に対して50質量部以下とすることが経済的に好ましく、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
さらに本発明においては、上記その他のモノマー以外にも、上記アクリル酸系モノマーと共重合し得る水不溶性モノマーを、上記アクリル酸系モノマー100質量部に対して50質量部以下、好ましくは30質量部以下、より好ましくは10質量部以下の量で使用することもできる。水不溶性モノマーとしては、例えば不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられ、より具体的には、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステル等が挙げられる。不飽和カルボン酸ジアルキルエステルのアルキル基部位は、好ましくは炭素数1〜18である。
【0013】
<リン酸エステル系化合物>
本発明において、リン酸エステル系化合物は、アクリル酸系モノマー(及びその他のモノマー)の分散剤として機能する。該リン酸エステル系化合物としては、逆相懸濁重合法において分散剤として使用し得る公知の化合物を使用でき、例えば、前記特許文献2の第2頁右上欄第17行目〜左下欄第1行目に記載の、炭素数12〜24の直鎖アルキル基を有するモノアルキルリン酸、前記特許文献3の段落[0035]〜[0038]に記載のリン酸エステル系界面活性剤、及び前記特許文献4に記載の懸濁重合用分散剤の内、リン酸エステル系の分散剤等が挙げられる。本発明では、特に下記一般式(2)又は一般式(3)で表されるリン酸エステル系化合物の内、少なくとも1種を使用することが好ましい。また、一般式(2)、(3)で表されるリン酸エステル系化合物において、それぞれの式における複数種を混合して使用することもできる。
【0014】
【化2】

【0015】
一般式(2)において、R2は、炭素数1〜36のアルキル基、炭素数2〜36のアルケニル基、又は無置換もしくは炭素数1〜15のアルキル基が置換したフェニル基を示す。
炭素数1〜36のアルキル基としては、例えば各種ヘキシル基(「各種」は、直鎖及びあらゆる分岐鎖を含むことを示す。以下同様。)、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種イコサニル基、各種ドコサニル基、各種テトラコサニル基等の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられる。これらの中でも、アルキル基の炭素数は8以上が好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましく、一方、24以下が好ましく、18以下がより好ましく、14以下がさらに好ましい。
炭素数2〜36のアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、2−プロぺニル基、1−メチルビニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−メチル−1−プロぺニル基、2−メチル−2−プロぺニル基、1−ペンテニル基、3−ペンテニル基、1,2−ジメチル−1−プロぺニル基、1−エチル−1−プロぺニル基、1,2−ジメチル−2−プロぺニル基、1−エチル−2−プロぺニル基、1−メチル−1−ブテニル基、1−メチル−2−ブテニル基、1−メチル−1−ペンテニル基、2,4−ペンタジエニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、2,4−ヘキサジエニル基、1−デセニル基、1−ウンデセニル基、1−ドデセニル基、1−メチル−1−ドデセニル基、1−トリデセニル基、1−テトラデセニル基、1−ヘキサデセニル基、1−ヘプタデセニル基、1−オクタデセニル基、1−ノナデセニル基、1−イコセニル基、1−ヘンイコセニル基、各種ドコセニル基、各種トリコセニル基、各種テトラコセニル基等の、炭素炭素二重結合を1つ又は2つ以上有する直鎖又は分岐鎖のアルケニル基が挙げられる。これらの中でも、アルケニル基の炭素数は、分散性の観点より、8以上が好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましく、一方、24以下が好ましく、18以下が好ましく、14以下がさらに好ましい。
無置換もしくは炭素数1〜15のアルキル基が置換したフェニル基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、ジノニルフェニル基、ドデシルフェニル基等が挙げられ、これらの中でも、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、ジノニルフェニル基、ドデシルフェニル基が好ましい。
また、R3は、水素原子又はR2(R2は、前記定義の通りである。)を示す。
【0016】
一般式(3)において、R4は、炭素数1〜36のアルキル基、炭素数2〜36のアルケニル基、又は無置換もしくは炭素数1〜15のアルキル基が置換したフェニル基を示す。炭素数1〜36のアルキル基、炭素数2〜36のアルケニル基、無置換もしくは炭素数1〜15のアルキル基が置換したフェニル基、及びそれらの好ましい基としては、それぞれ上記した一般式(2)中のR2の例示と同じものを挙げることができる。
Aは、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基及びフェニルエチレン基(スチレン基)から選ばれる少なくとも1種を示す。
5は、水酸基又はR4O−(AO)m(R4及びAは、前記定義の通りである。)を示す。
mは1〜30の整数を示す。mは2以上が好ましく、4以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、一方、20以下が好ましい。mが2以上の場合、繰り返し単位(AO)中のAがエチレン基を示す繰り返し単位と、Aがプロピレン基を示す繰り返し単位を少なくとも1つずつ有していることが好ましく、(AO)mが、[(EO)x−(PO)y](式中、EOはエチレンオキシド基、POはプロピレンオキシド基を示す。EO、POは[ ]内においてその順序は問わず、ランダムでもブロックでもよい。また、x及びyは、x+y=m(mは前記定義の通りである。)を満たす整数であり、且つ、x:y=10:1〜1:10であり、好ましくはx:y=5:1〜1:5、より好ましくはx:y=4:1〜1:1である。)であることがより好ましい。
ブロックとしては、ジブロック及びトリブロックが好ましく、ジブロックは、(PO)y−(EO)xが好ましく、トリブロックは、(EO)x1−(PO)y−(EO)x2が好ましい。かかる式中、x及びyは前記定義の通りであり、x1及びx2は、x1+x2=xを満たす整数である。
【0017】
一般式(2)で表されるリン酸エステル系化合物の具体例としては、モノドデシルリン酸エステル、ジドデシルリン酸エステル、モノテトラデシルリン酸エステル、ジテトラデシルリン酸エステル等のアルキルリン酸エステル等が好ましく挙げられる。
また、一般式(3)で表されるリン酸エステル系化合物としては、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシプロピレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)アルキルアリールエーテルリン酸エステル、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)アルキルエーテルリン酸エステル等が好ましく挙げられる。
【0018】
ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルリン酸エステルとしては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンジノニルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテルリン酸エステル等が挙げられる。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルとしては、ポリオキシエチレンオクチルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレン−2−エチルヘキシルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンデシルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンドデシルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテルリン酸エステル等が挙げられる。
【0019】
ポリオキシプロピレンアルキルアリールエーテルリン酸エステルとしては、上記ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルリン酸エステルの例示化合物において、オキシエチレンをオキシプロピレンに置き換えた化合物が挙げられる。
ポリオキシプロピレンアルキルエーテルリン酸エステルとしては、上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルの例示化合物において、オキシエチレンをオキシプロピレンに置き換えた化合物が挙げられる。
ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)アルキルアリールエーテルリン酸エステルとしては、上記ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルリン酸エステルの例示化合物において、オキシエチレンを(オキシエチレン/オキシプロピレン)に置き換えた化合物が挙げられる。
ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)アルキルエーテルリン酸エステルとしては、上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルの例示化合物において、オキシエチレンを(オキシエチレン/オキシプロピレン)に置き換えた化合物が挙げられる。
【0020】
これらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)アルキルエーテルリン酸エステルが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)アルキルエーテルリン酸エステルがより好ましく、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)ドデシルエーテルリン酸エステル、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)テトラデシルエーテルリン酸エステルがさらに好ましい。
なお、リン酸エステル系化合物は、水と混合してから本発明に使用することもできる。
【0021】
(リン酸エステル系化合物の使用量)
リン酸エステル系化合物の使用量は、分散性の観点から、アクリル酸系モノマー100質量部に対して0.01質量部以上が好ましく、0.04質量部以上がより好ましく、0.08質量部以上がさらに好ましい。また、費用の観点から、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、5質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましく、0.5質量部以下が特に好ましい。
【0022】
<アシル化アミノ酸化合物>
本発明では、前記リン酸エステル系化合物と共に下記一般式(1)で表されるアシル化アミノ酸化合物を分散剤として用い、逆相懸濁重合を行う。なお、該アシル化アミノ酸化合物は、アスパラギン酸又はグルタミン酸の誘導体が好ましい。
【0023】
【化3】

【0024】
一般式(1)において、R1は、炭素数5〜29の、アルキル基、アルケニル基又は2−ヒドロキシアルキル基を示す。
炭素数5〜29のアルキル基としては、前記した一般式(2)中のR2が示すアルキル基として例示した基の内、炭素数が5〜29のものを同じく例示でき、炭素数は7以上が好ましく、10以上がより好ましく、一方、23以下が好ましく、20以下がより好ましい。
炭素数5〜29のアルケニル基としては、前記した一般式(2)中のR2が示すアルケニル基として例示した基の内、炭素数が5〜29のものを同じく例示でき、炭素数は7以上が好ましく、10以上がより好ましく、一方、23以下が好ましく、20以下がより好ましい。
炭素数5〜29の2−ヒドロキシアルキル基としては、R1が示す炭素数5〜29のアルキル基の2位にヒドロキシル基が置換した基が挙げられる。2−ヒドロキシアルキル基の炭素数は7以上が好ましく、10以上がより好ましく、一方、23以下が好ましく、20以下がより好ましい。
このように、R1の炭素数を5以上とすることで高吸水性樹脂の安定化効果が高くなり、また、29以下とすることで十分な水溶性ないしは水分散性が確保される。
−COR1で表されるアシル基の具体例としては、2−エチルヘキサノイル基、カプロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、イソステアロイル基、イコサノイル基、ヘンイコサノイル基、ドコサノイル基、トリコサノイル基、テトラコサノイル基、ヤシ油脂肪酸由来のアシル基、牛脂脂肪酸由来のアシル基、硬化牛脂脂肪酸由来のアシル基等が挙げられる。
【0025】
一般式(1)において、M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム類を示す。アルカリ金属原子としては、例えばリチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、セシウム原子等が挙げられ、ナトリウム原子、カリウム原子が好ましい。アンモニウム類は、一般式 NHR678で表され、かかる一般式中のR6、R7及びR8は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示すか、R6〜R8の任意の基が一緒になって隣接する窒素原子と共に環を形成していてもよい。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基が挙げられ、炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。R6〜R8の任意の基及び隣接する窒素原子が一緒になった環としては、例えばピロリジン環、ピペリジン環等の脂環式へテロ環;ピリジン環、キノリン環等の芳香族へテロ環等が挙げられる。
また、nは1又は2を示し、2が好ましい。
なお、上記一般式(1)で表されるアシル化アミノ酸化合物は単独でもよいが、高い安定化効果を得るために、R1の異なる2種以上を組み合わせて使用することが好ましい。
【0026】
アシル化アミノ酸化合物としては、例えばN−パルミトイルアスパラギン酸モノナトリウム塩、N−パルミトイルアスパラギン酸ジナトリウム塩、N−パルミトイルアスパラギン酸、N−ミリストイルグルタミン酸モノナトリウム塩、N−ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム塩、N−ステアロイルグルタミン酸モノナトリウム塩、N−ヤシ油脂防酸アシルグルタミン酸モノナトリウム塩、N−硬化牛脂脂肪酸アシルグルタミン酸モノナトリウム塩、N−ステアロイルグルタミン酸、N−ステアロイルグルタミン酸モノカリウム塩等を好ましく挙げられる。アシル化アミノ酸化合物は、単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
アシル化アミノ酸化合物は、水と混合してから使用することもできる。
なお、アシル化アミノ酸化合物は市販されており、例えば、味の素株式会社製のアミソフト(登録商標)シリーズの商品名「HS−11」、「LS−11」、「MS−11」、「GS−11」、「HK−11」、「HS−21」、「GS−21」、「HA」、「CS−11」、「PS−11」、「GS−11P」、及び旭フーズ株式会社製のアミノサーファクト(登録商標)シリーズ等が工業的に容易に入手可能である。
【0027】
本発明では、前記リン酸エステル系化合物と前記アシル化アミノ酸化合物とを併用することが重要であり、これにより、得られる重合体(吸水性樹脂)の反応装置への付着を極めて効率的に抑制することができる。
リン酸エステル系化合物とアシル化アミノ酸化合物との質量比は、吸水性樹脂の反応装置への付着抑制の観点から、100:1〜1:20が好ましく、80:1〜1:10がより好ましく、50:1〜1:5がさらに好ましい。
【0028】
(アシル化アミノ酸化合物の使用量)
アシル化アミノ酸化合物の使用量は、アクリル酸系モノマー100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.02〜2質量部、さらに好ましくは0.04〜1質量部である。0.01質量部以上であれば、安定に重合体粒子を得ることができ、十分な重合物の付着抑制効果が得られ、一方で、10質量部以下とすることが経済的に好ましい。
【0029】
<疎水性有機溶媒>
疎水性有機溶媒は、水に難溶であり、且つ逆相懸濁重合に悪影響を及ぼさない限り特に制限は無く、例えばn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の好ましくは炭素数5〜9(より好ましくは炭素数5〜7、さらに好ましくは炭素数6又は7)の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン等の好ましくは環形成炭素数5〜7(より好ましくは環形成炭素数6)の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン等の好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素;n−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、n−ヘキシルアルコール等の好ましくは炭素数4〜6の脂肪族アルコール;メチルエチルケトン等の好ましくは炭素数3〜10(より好ましくは炭素数3〜6)の脂肪族ケトン;酢酸エチル等の好ましくは炭素数2〜10(より好ましくは炭素数2〜5)脂肪族エステル類等が挙げられる。疎水性有機溶媒は、単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
疎水性有機溶媒は、水と共沸するものが好ましい。その中でも、1気圧(0.1MPa)における水との共沸組成物中において、水の割合が5質量%以上となるものが好ましく、8質量%以上となるものがより好ましく、11質量%以上となるものがさらに好ましい。共沸組成物中の水の割合が多いと、吸水性樹脂の脱水を効率良く行うことができる。また、1気圧(0.1MPa)における水との共沸温度が、95℃以下となるものが好ましく、88℃以下となるものがより好ましく、81℃以下となるものがさらに好ましい。水との共沸温度が低いと、アクリル酸系モノマーの重合速度を制御しやすい。
この観点から、上記疎水性有機溶媒の中でも、脂肪族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素(特に炭素数5〜9の脂肪族炭化水素及び/又は環形成炭素数6の脂環式炭化水素)が好ましく、n−ヘプタン及び/又はシクロヘキサンがより好ましく、n−ヘプタンが特に好ましい。
なお、水との共沸組成及び共沸温度については、例えばAmerican Chemical Society出版の、Azeotropic Data−III(Advances in Chemistry Series 116)等の公知の文献を参照することができる。
【0031】
(疎水性有機溶媒の使用量)
疎水性有機溶媒の使用量は、前記アクリル酸系モノマー水溶液に対して、好ましくは50〜500質量%、より好ましくは60〜300質量%、さらに好ましくは70〜150質量%の範囲である。
【0032】
(両親媒性有機溶媒の併用)
また、本発明においては、上記疎水性有機溶媒以外に、上記疎水性有機溶媒の使用量を超えない範囲で両親媒性有機溶媒を使用してもよい。該両親媒性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等の両親媒性アルコール;アセトン等の両親媒性ケトン;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の両親媒性環状エーテル等が挙げられる。なお、疎水性有機溶媒と共に両親媒性有機溶媒を使用する場合、両親媒性有機溶媒の使用量は、逆相懸濁重合を阻害しない範囲とする。
【0033】
<重合開始剤>
前記の逆相懸濁重合に際しては、重合開始剤を使用することが好ましい。重合開始剤としては特に制限は無く、公知の重合開始剤を使用でき、例えばジアルキルケトンパーオキシド、ジアルキルパーオキシド、アルキルパーエステル、アルキルハイドロパーオキシド類、過硫酸塩、過塩素酸類、ハロゲン酸塩、アゾ化合物等が挙げられる。
【0034】
ジアルキルケトンパーオキシドとしては、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド等が挙げられる。ジアルキルパーオキシドとしては、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド等が挙げられる。アルキルパーエステルとしては、t−ブチルパーアセテート、t−ブチルパーイソブチレート、t−ブチルピバレート等が挙げられる。アルキルハイドロパーオキシド類としては、t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等が挙げられる。過硫酸塩としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0035】
過塩素酸類としては、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム等が挙げられる。
ハロゲン酸塩としては、塩素酸カリウム、臭素酸カリウム等が挙げられる。
アゾ化合物としては、2−(カルバモイルアゾ)−イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシド)、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、(1−フェニルエチル)アゾジフェニルメタン、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル等が挙げられる。
【0036】
重合開始剤は、単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよく、過硫酸塩とアゾ化合物を組み合わせて使用することが好ましい。
以上の重合開始剤の中でも、過硫酸ナトリウム、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩が好ましく、これらを組み合わせて使用することがより好ましい。
また、上記重合開始剤を、亜硫酸塩、L−アスコルビン酸、第一鉄塩等の還元剤と組合せ、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。
(重合開始剤の使用量)
重合開始剤を使用する場合、その使用量は、アクリル酸系モノマーに対して、通常0.002〜10質量%、好ましくは0.008〜5質量%、より好ましくは0.01〜2質量%である。
【0037】
<架橋剤・改質剤>
本発明においては、逆相懸濁重合前、重合中、重合後に、架橋剤を添加することができる。架橋剤に特に制限は無く、公知の架橋剤を使用でき、例えばポリアリル化合物、ポリビニル化合物、ポリグリシジルエーテル、ハロエポキシ化合物、ポリアルデヒド、ポリオール、ポリアミン、ヒドロキシビニル化合物、多価イオンを生じる無機塩又は有機金属塩等が挙げられる。
ポリアリル化合物としては、N,N−ジアリルアクリルアミド、ジアリルアミン、ジアリルメタクリルアミド、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルテレフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルフォスフェート等が挙げられる。
ポリビニル化合物としては、ジビニルベンゼン、N,N−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメタノールプロパントリアクリレート、グリセリントリメタクリレート等が挙げられる。
ポリグリシジルエーテルとしては、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールジグリシジルエーテル;ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル;ポリエチレングリコールポリグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールポリグリシジルエーテル;ポリグリセリンポリグリシジルエーテル等が挙げられる。いずれにおいても、アルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5である。
ハロエポキシ化合物としては、エピクロルヒドリン、α−メチルクロルヒドリン等が挙げられる。ポリアルデヒドとしては、1,5−ペンタンジアール、グリオキザール等が挙げられる。ポリオールとしては、グリセリン等が挙げられる。ポリアミンとしては、エチレンジアミン等が挙げられる。ヒドロキシビニル化合物としては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等が挙げられる。多価イオンを生じる無機塩又は有機金属塩としては、カルシウム、マグネシウム、亜鉛及びアルミニウム等の多価イオンを生じる無機塩又は有機金属塩である。
これらの中でも、ポリグリシジルエーテルが好ましく、アルキレングリコールジグリシジルエーテルがより好ましく、エチレングリコールジグリシジルエーテルがさらに好ましい。
また、本発明においては、改質剤としてフェノールポリオキシエチレングリコールエーテル等のモノグリシジル化合物を使用することもできる。
(架橋剤・改質剤の使用量)
架橋剤及び/又は改質剤を使用する場合、これらの使用量は、得られる重合体(吸水性樹脂)の所望の性状に従い任意の量とすることができるが、通常、アクリル酸系モノマーに対して好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.01〜5質量%、さらに好ましくは0.02〜2質量%である。
【0038】
<逆相懸濁重合の温度>
逆相懸濁重合の温度は、通常、良好な重合速度となり、且つ架橋度の急激な増加を予防して、重合体(吸水性樹脂)の吸水能の低下を抑制する観点から、好ましくは20〜120℃、より好ましくは40〜100℃、さらに好ましくは60〜100℃の範囲である。
【0039】
<逆相懸濁重合の実施方法>
逆相懸濁重合の実施方法としては特に制限はない。反応器としては、攪拌機を備えた反応器を好ましく使用できる。かかる攪拌機としては、公知の攪拌機を任意に選択して使用できるが、例えばアンカー翼、マックスブレンド翼、ヘリカル翼、パドル翼、タービン翼、マリンプロペラ翼、リボン翼等(好ましくはアンカー翼)を有する攪拌機が好ましい。
【0040】
アクリル酸系モノマーと疎水性有機溶媒の反応器への仕込み方法としては、例えば、下記(a)〜(d)に示す方法等を好ましく挙げることができる。
(a)アクリル酸系モノマーを含む水溶液と疎水性有機溶媒とを一括して反応器へ供給してから重合させる方法(一括重合法)。
(b)アクリル酸系モノマーを含む水溶液を、反応器中の疎水性有機溶媒へ添加(好ましくは滴下)しながら逐次重合させる方法(逐次重合法)。
(c)アクリル酸系モノマーを含む水溶液を予め一部の疎水性有機溶媒と混合・分散して得られる混合溶液を、反応器中の疎水性有機溶媒へ添加(好ましくは滴下)しながら重合させる方法(前分散法)。
(d)上記(a)〜(b)の方法を任意の組み合わせで併用する方法。
これらの中でも、(b)の方法が好ましい。
【0041】
また、リン酸エステル系化合物とアシル化アミノ酸化合物の反応器への仕込み方法としては、それぞれ、下記(1)〜(4)に示す方法等を挙げることができる。
(1)重合開始前に、反応器中の疎水性有機溶媒に溶解又は分散させる方法。
(2)重合開始前に、アクリル酸系モノマーを含む水溶液に溶解又は分散させる方法。
(3)重合を行いながら、徐々に添加(好ましくは滴下)する方法。
(4)前記(1)〜(3)の方法を併用する方法。
リン酸エステル系化合物については、安定して逆相懸濁重合を実施するために、(1)の方法を利用し、適宜60〜120℃(好ましくは70〜100℃)に加熱して攪拌しておくことが好ましい。アシル化アミノ酸化合物については、(2)又は(3)の方法、あるいは(2)及び(3)の方法を組み合わせて利用することが好ましい。
【0042】
なお、重合開始剤の添加方法に特に制限はないが、重合開始前に、アクリル酸系モノマーを含む水溶液に添加することが好ましい。
上記方法等に従った逆相懸濁重合終了後、得られる重合体粒子に表面処理を施してもよい。該表面処理には、例えばポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリアリルアミン等の、官能基を有する高分子化合物を利用することができる。
【0043】
(好ましい重合方法)
本発明の吸水性樹脂の製造方法では、アクリル酸系モノマー及びアシル化アミノ酸化合物を、リン酸エステル系化合物及び疎水性有機溶媒の混合液へ逐次供給することが好ましい。より詳細には、まず、リン酸エステル系化合物又はその水溶液を疎水性有機溶媒へ添加し、攪拌しながら60〜120℃に加熱することで溶解・分散させる。こうして得られる混合液へ、アクリル酸系モノマー(及びその他のモノマー)の水溶液、アシル化アミノ酸化合物もしくはその水溶液及び重合開始剤もしくはその水溶液を、同時に(好ましくは、混合してから一緒に)滴下(逐次供給)し、所定温度で重合する方法が好ましい。
【0044】
<重合後の処理>
以上の様にして得た重合体(吸水性樹脂)は、逆相懸濁重合の後、疎水性有機溶媒及び必要に応じて使用した両親媒性有機溶媒を蒸留、デカンテーション又は遠心分離等により除去し、次いで減圧乾燥機、流動乾燥機等を用いて乾燥し、必要に応じて、粉砕、造粒処理を施す等して、不定形の重合体粒子として得ることができる。
【0045】
<吸水性樹脂の物性>
本発明の逆相懸濁重合で得られる吸水性樹脂は、空隙率の高い不定形な粒子である。
また、本発明により得られる吸水性樹脂は、通常、平均粒径150〜4000μmの粒子である。この範囲であれば、粉塵災害等の心配がなく、取り扱いやすいため、産業上の有用性が高い。好ましいものでは平均粒径200μm以上、より好ましいものでは平均粒径250μm以上となる。また、平均粒径1200μm以下の粒子も好ましく得られ、平均粒径800μm以下の粒子もより好ましく得られる。
【実施例】
【0046】
実施例及び比較例で利用した各種分析方法の条件を以下に示す。
【0047】
<分析方法>
(1)平均粒径の算出方法
試験用ふるい(JIS−Z8801−1参照)を、上から目開き4760μm、2830μm、1400μm、1000μm、850μm、600μm、500μm、355μm、受け皿、の順に組み合わせ、最上のふるいに吸水性樹脂を約50g入れ、ロータップ式自動ふるい振とう器にて10分間振とうした。
各ふるいに残留した吸水性樹脂の重さを測定してから、各ふるいに残留した吸水性樹脂の全体に対する質量比(残留百分率)Rを片対数グラフ(横軸:粒径(対数目盛)、縦軸:残留百分率)にプロットし、R=50%に相当する粒径を求めて平均粒径とした。
【0048】
(2)反応装置への付着率の算出方法
重合終了後に、反応器中の内容物を、吸引濾過の漏斗に移送する。反応器及び攪拌機に付着せずに漏斗に移すことができた重合体を、吸引濾過によって粒子表面及び間隙の重合溶媒を除去した後秤量し、付着していない樹脂粒子の質量W1とした。
樹脂の付着した反応器及び撹拌機は、それぞれ重さの変化速度が0.1g/10分以下となるまでドラフト室に放置することで、疎水性有機溶媒を除去した。重合前の反応器及び撹拌機それぞれからの重さの増加分を、反応器付着量W2、撹拌機付着量W3とし、付着率(%)を下記式によって算出した。
付着率=(W2+W3)/(W1+W2+W3)×100
【0049】
また、以下の反応装置を準備し、以下の調製例によりリン酸エステル系化合物液、アシル化アミノ酸化合物液、アクリル酸系モノマー水溶液、重合開始剤水溶液、架橋剤水溶液を調製し、実施例及び比較例で使用した。
【0050】
<反応装置>
容量5LのSUS304製反応器(筒型丸底、内径16cm、高さ25cm)とガラス製セパラブル・カバーを組み合わせて使用した。そして、図1に示すアンカー翼(SUS304製)を、反応器の中央に、アンカー翼の最下端が反応器の底から5mmの間隙を設けた状態で設置した。
【0051】
調製例1(リン酸エステル系化合物(A−1)液の調製)
撹拌機、還流冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を付設した容量500mLの四つ口丸底フラスコに、ドデシルアルコール200gを仕込んだ。次いで、50mL/minで窒素ガスを導入しながら、50rpmで撹拌を行い、昇温を開始した。オイルバスの温度が設定値の40℃(内温:35〜38℃)に到達し、内容物が溶解してから40分間、200rpmで撹拌しながら、窒素置換を行った。ここに無水リン酸50.63gを、内温が60℃を超えないようにしながら、添加した。添加終了後、内温を60℃まで昇温して、1時間撹拌した。さらに内温を80℃まで昇温して、15時間撹拌した。得られた混合液にイオン交換水7.52gを添加し、さらに4時間撹拌を行うことにより、リン酸エステル系化合物(A−1)液[リン酸エステル系化合物(A−1)の使用量は、後述のアクリル酸系モノマー(C)に対して0.25質量%である。]を調製した。
【0052】
調製例2(リン酸エステル系化合物(A−2)液の調製)
「プライサーフA212C」(商品名、成分;ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、第一工業製薬株式会社製)を準備し、リン酸エステル系化合物(A−2)液[リン酸エステル系化合物(A−2)の使用量は、後述のアクリル酸系モノマー(C)に対して0.29質量%である。]とした。
【0053】
調製例3(リン酸エステル系化合物(A−3)液の調製)
撹拌機、還流冷却器、温度計および窒素ガス導入管を付設した容量500mLの四つ口丸底フラスコに、「ポリオキシアルキレン(EO/PO/EO=5/4/5のトリブロック型)アルキル[炭素数12/炭素数14=7/3(原料アルコールの質量比換算)]エーテル(水酸基価:63.8mgKOH/g)」を300g仕込んだ。次いで、50mL/minで窒素ガスを導入しながら、200rpmで撹拌を行い、昇温を開始した。オイルバスの温度が設定値の40℃(内温は35〜38℃)に到達してから40分間、窒素置換を行った。ここに無水リン酸17.75gを、内温が60℃を超えないようにしながら、添加した。添加終了後、内温を60℃まで昇温して、1時間撹拌した。さらに内温を80℃まで昇温して、15時間撹拌した。ここにイオン交換水9.53gを添加し、さらに4時間撹拌を行うことにより、リン酸エステル系化合物(A−3)液[リン酸エステル系化合物(A−3)の使用量は、後述のアクリル酸系モノマー(C)に対して0.10質量%である。]を調製した。
【0054】
調製例5(アシル化アミノ酸化合物(B−1)液の調製)
N−アシル化グルタミン酸ナトリウム(商品名「アミソフト(登録商標)CS−11」、味の素株式会社製;一般式(1)におけるR1は、主としてヤシ油脂肪酸からカルボキシル基を除いた基である。)0.245gにイオン交換水4.4gを添加し、70℃の温浴中で混合し、アシル化アミノ酸化合物(B−1)液[アシル化アミノ酸化合物(B−1)の使用量は、後述のアクリル酸系モノマー(C)に対して0.05質量%である。]を調製した。
【0055】
調製例6〜8(アシル化アミノ酸化合物(B−2)〜(B−4)液の調製)
調製例5において、商品名「アミソフト(登録商標)CS−11」0.245gの代わりに、商品名「アミソフト(登録商標)PS−11」(一般式(1)におけるR1は、主としてC9〜C17のアルキル基である。)0.245g、商品名「アミソフト(登録商標)GS−11P」(一般式(1)におけるR1は、主としてC11〜C17のアルキル基である。)0.326g又は商品名「アミソフト(登録商標)LS−11」(一般式(1)におけるR1は、主としてC11のアルキル基である。)0.245gを使用したこと以外は調製例5と同様にして実験を行ない、アシル化アミノ酸化合物(B−2)液、(B−3)液及び(B−4)液[アシル化アミノ酸化合物(B−2)〜(B−4)の使用量は、後述のアクリル酸系モノマー(C)に対して、それぞれ0.05質量%、0.07質量%、0.05質量%である。]を調製した。
【0056】
調製例9(アクリル酸系モノマー(C)水溶液の調製)
80.6質量%アクリル酸水溶液506.2gを212.8gのイオン交換水で希釈した。ここに、30℃以下の温度を保てるよう冷却しながら、49.3質量%水酸化ナトリウム水溶液330.8gを滴下した後、攪拌することにより72%中和させ、47.4質量%のアクリル酸系モノマー(C)水溶液を調製した。
【0057】
調製例10(重合開始剤(D−1)水溶液の調製)
2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬工業株式会社製、商品名「V−50」)0.061gをイオン交換水3.0gに溶解させ、重合開始剤(D−1)水溶液[重合開始剤(D−1)の使用量は、前記アクリル酸系モノマー(C)に対して0.012質量%である。]を調製した。
【0058】
調製例11(重合開始剤(D−2)水溶液の調製)
2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬工業株式会社製、商品名「V−50」)0.163gをイオン交換水3.0gに溶解させ、重合開始剤(D−2)水溶液[重合開始剤(D−2)の使用量は、前記アクリル酸系モノマー(C)に対して0.033質量%である。]を調製した。
【0059】
調製例12(重合開始剤(D−3)水溶液の調製)
過硫酸ナトリウム0.571gをイオン交換水10gに溶解させ、重合開始剤(D−3)水溶液[重合開始剤(D−3)の使用量は、前記アクリル酸系モノマー(C)に対して0.11質量%である。]を調製した。
【0060】
調製例13(架橋剤(E)水溶液の調製)
エチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名「デナコール(登録商標)EX−810」、ナガセケムテックス株式会社製)0.245gをイオン交換水10gに溶解させ、架橋剤(E)水溶液[架橋剤(E)の使用量は、前記アクリル酸系モノマー(C)に対して0.05質量%である。]を調製した。
【0061】
実施例1
反応器に、調製例1で得られたリン酸エステル系化合物(A−1)液1.26gと、n−ヘプタン1600mL(1094g)を加えた。これに100mL/minで窒素ガスを導入しながら、300rpmで撹拌を行い、昇温を開始した。バス温が90℃(内温は86〜88℃)に到達してから40分間、n−ヘプタンを還流させた。
得られた混合液へ、調製例9で得られたアクリル酸系モノマー(C)水溶液の半量、調製例10で得られた重合開始剤(D−1)水溶液及び調製例5で得られたアシル化アミノ酸化合物(B−1)液の半量を混合したモノマー溶液を、30分間かけて等速で滴下した。引き続き、残り半量のアクリル酸系モノマー(C)水溶液、残り半量のアシル化アミノ酸化合物(B−1)液及び調製例12で得られた重合開始剤(D−3)水溶液を混合したモノマー溶液を、30分間かけて等速で滴下した。
滴下完了後、オイルバスの温度90℃にて5分間保持した。その後、さらにオイルバスの温度を93℃まで昇温し、n−ヘプタンと共沸させながら、275gの脱水を行った。得られた重合体に、調製例13で得られた架橋剤(E)水溶液を滴下し、再び125gの脱水を行うことにより、非球状・不定形の吸水性樹脂を得た。
吸水性樹脂の反応装置への付着率、及び得られた吸水性樹脂の平均粒径を分析した。結果を表1に示す。
【0062】
比較例1
実施例1において、アシル化アミノ酸化合物(B−1)液を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様に実験及び分析を行なった。結果を表1に示す。
【0063】
実施例2
実施例1において、リン酸エステル系化合物(A−1)液1.26gの代わりに調製例2で得られたリン酸エステル系化合物(A−2)液1.47gを用い、且つ、アシル化アミノ酸化合物(B−1)液の代わりに調製例6で得られたアシル化アミノ酸化合物(B−2)液を用いたこと以外は、実施例1と同様に実験及び分析を行なった。結果を表1に示す。
【0064】
比較例2
実施例2において、アシル化アミノ酸化合物(B−2)液を使用しなかったこと以外は、実施例2と同様に実験及び分析を行なった。結果を表1に示す。
【0065】
実施例3
実施例1において、リン酸エステル系化合物(A−1)液1.26gの代わりに調製例3で得られたリン酸エステル系化合物(A−3)液0.51gを用い、且つ、アシル化アミノ酸化合物(B−1)液の代わりに調製例7で得られたアシル化アミノ酸化合物(B−3)液を用いたこと以外は、実施例1と同様に実験及び分析を行なった。結果を表1に示す。
【0066】
比較例3
実施例3において、アシル化アミノ酸化合物(B−3)液を使用しなかったこと以外は、実施例3と同様に実験及び分析を行なった。結果を表1に示す。
【0067】
実施例4
実施例1において、n−ヘプタンの代わりにシクロヘキサン、リン酸エステル系化合物(A−1)液1.26gの代わりに調製例3で得られたリン酸エステル系化合物(A−3)液0.51g、重合開始剤(D−1)水溶液の代わりに調製例11で得られた重合開始剤(D−2)水溶液、且つ、アシル化アミノ酸化合物(B−1)液の代わりに調製例8で得られたアシル化アミノ酸化合物(B−4)液を用いたこと以外は、実施例1と同様に実験及び分析を行なった。結果を表1に示す。
【0068】
比較例4
実施例4において、アシル化アミノ酸化合物(B−4)液を使用しなかったこと以外は、実施例4と同様に実験及び分析を行なった。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1において、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4の結果をそれぞれ比較することにより、本発明の方法によれば、反応装置への吸水性樹脂の付着率を大幅に減らせることがわかる。また、実施例1〜4では、平均粒径が150〜4000μmの範囲の吸水性樹脂が得られており、取り扱い性に優れていた。
また、実施例3及び実施例4と比較例3及び比較例4の結果より、疎水性有機溶媒としてn−ヘプタン(炭素数5〜9の脂肪族炭化水素)を使用した場合は、シクロヘキサン(環形成炭素数5〜7の脂環式炭化水素)を使用した場合よりも、反応装置への吸水性樹脂の付着率を低下させる効果がさらに大きいことがわかる。
なお、実施例1〜4で得られた吸水性樹脂は、吸水性能に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により得られる吸水性樹脂は、衛生用品分野では幼児用、大人用又は失禁者用の使い捨ておむつや婦人用生理用ナプキン等の吸収性物品;農園芸分野での保水剤等;土木建築分野での汚泥の凝固剤、結露防止剤、止水剤等として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、実施例で使用したアンカー翼を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸エステル系化合物、下記一般式(1)で表されるアシル化アミノ酸化合物、及び疎水性有機溶媒を用いて、アクリル酸系モノマーを逆相懸濁重合する、吸水性樹脂の製造方法。
【化1】

(式中、R1は、炭素数5〜29の、アルキル基、アルケニル基又は2−ヒドロキシアルキル基を示し、M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム類を示す。また、nは1又は2を示す。)
【請求項2】
リン酸エステル系化合物が、下記一般式(2)又は(3)で表されるリン酸エステル系化合物である、請求項1に記載の吸水性樹脂の製造方法。
【化2】

(式中、R2は、炭素数1〜36のアルキル基、炭素数2〜36のアルケニル基、又は無置換もしくは炭素数1〜15のアルキル基が置換したフェニル基を示し、R3は、水素原子又はR2(R2は、前記定義の通りである。)を示す。)
【化3】

(式中、R4は、炭素数1〜36のアルキル基、炭素数2〜36のアルケニル基、又は無置換もしくは炭素数1〜15のアルキル基が置換したフェニル基を示し、Aは、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基及びフェニルエチレン基から選ばれる少なくとも1種を示し、R5は、水酸基又はR4O−(AO)m(R4及びAは、前記定義の通りである。)を示す。また、mは1〜30の整数を示す。mが2以上の場合、繰り返し単位(AO)中のAは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記一般式(3)において、(AO)mが、[(EO)x−(PO)y]
(式中、EOはエチレンオキシド基、POはプロピレンオキシド基を示す。EO、POは[ ]内においてその順序は問わず、ランダムでもブロックでもよい。また、x及びyは、x+y=m(mは前記定義の通りである。)を満たす整数であり、且つ、x:y=10:1〜1:10である。)
である、請求項2に記載の吸水性樹脂の製造方法。
【請求項4】
疎水性有機溶媒が、炭素数5〜9の脂肪族炭化水素又は環形成炭素数6の脂環式炭化水素である、請求項1〜3のいずれかに記載の吸水性樹脂の製造方法。
【請求項5】
アシル化アミノ酸化合物の使用量が、アクリル酸系モノマー100質量部に対して0.01〜10質量部である、請求項1〜4のいずれかに記載の吸水性樹脂の製造方法。
【請求項6】
アクリル酸系モノマー及びアシル化アミノ酸化合物を、リン酸エステル系化合物及び疎水性有機溶媒の混合液へ逐次供給する、請求項1〜5のいずれかに記載の吸水性樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により得られた、平均粒径150〜4000μmの吸水性樹脂。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−24360(P2010−24360A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187811(P2008−187811)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】