説明

吸着材の充填方法および充填装置

【課題】液体と吸着材とからなる懸濁液を血液浄化器用容器に充填する前に、懸濁液中の気泡および溶解している空気を除去することにより、懸濁液中の吸着材の凝集体の発生を抑制し、懸濁液を充填する際の配管の目詰まりを防止するとともに、血液浄化器内における吸着材の凝集体量を従来に比べ低減する吸着材の充填方法および充填装置を提供する。
【解決手段】吸着材の充填装置は、吸着材回収槽50から供給される高分子樹脂を主成分とする吸着材100を液体槽70から供給される液体に分散して懸濁液を調製する分散槽60と、分散槽60内を減圧にする減圧装置の一態様である減圧用ポンプ62と、減圧下で脱気された懸濁液を血液浄化器用容器80内に充填する充填手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着材の充填方法および充填装置に関し、特に、血液を直接吸着材に接触させて血液を浄化する血液浄化器の容器への吸着材の充填方法および充填装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、「アフェレシス」と呼ばれる血液浄化技術が進歩しており、中でも特に直接血液灌流療法(DHP:Direct Hemo Perfusion)と呼ばれる、患者の血液を直接吸着材に接触させて血液を浄化する方法が急速に普及している。直接血液灌流療法は、従来のアフェレシス技術である、血漿分離膜を用いて分離した血漿を吸着材に接触させる血漿吸着法(PA:Plasma Adsorption)や、血漿分離膜を用いて血液から血漿を分離し、分離された血漿から二次膜を用いてグロブリンやその他の病因(関連)物質を含む分子量の大きな物質を分離除去し、アルブミンを中心とする病因(関連)物質と同等以下の分子量を有する物質を回収する二重膜濾過血漿交換法(DFPP:Double Filtration Plasmapheresis)等に比べ、簡便に使用することができる。
【0003】
アフェレシス技術による血液からの除去対象物質は、疾患により様々であり、例えば、高コレステロール血症の治療に用いられるLDL吸着器の場合では、LDL(低密度リポ蛋白質)が除去対象物質であり、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)の場合では、白血球や血小板といった炎症性細胞が除去対象物質となる。
【0004】
直接血液灌流療法(DHP)に用いられる吸着材の形態として、ビーズ状、不織布状、織物状と色々考案されているが、中でもビーズ状や短繊維状の吸着材は、不織布や織物等の布帛状の吸着材と比較して、製造が容易であり、また血液浄化器用容器への充填も行いやすく、吸着材が充填された血液浄化器へ血液を通過させたときの圧損が少なく、体外循環血液回路や血液浄化カラム内での血液の凝固のリスクが少ないという特徴を有する。
【0005】
また、通常、これらの吸着材を液体に分散させて懸濁液を調製し、この懸濁液を血液浄化器用容器(例えば、カラム)に充填することにより、血液浄化器を製造している。
【0006】
しかしながら、血液浄化器用容器に懸濁液を充填する際に、懸濁液中に存在する気泡や液中に溶解している空気や、また、懸濁液を血液浄化器用容器内に充填する際に周囲の空気を巻き込み気泡として取り込んだ空気が、吸着材充填済みの血液浄化器中に残存してしまうおそれがある。
【0007】
そこで、特許文献1では、例えば、血液浄化器の一態様である人工臓器内を減圧状態にすることにより、人工臓器内に充填された懸濁液中の気泡および液中に溶解している空気を除去する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭64−40063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、血液浄化器に関する気泡の問題は、血液浄化器内に残留する気泡だけではない。
【0010】
ここで、血液中の標的となる蛋白質や炎症性細胞は、疎水性吸着作用により血液中から除去されることから、血液中の標的となる蛋白質や炎症性細胞を除去するための吸着材の材質は、疎水性であることが好ましい。しかし、疎水性の材質は、それ自体が疎水性相互作用を有する。従って、液体に吸着材を分散させて懸濁液を調製する際に、懸濁液中に気泡が存在すると、その気泡に吸着材が集まり、その結果、懸濁液中に吸着材の凝集体が形成されるおそれがある。
【0011】
このように、懸濁液中に吸着材の凝集体が形成されたまま、懸濁液が分散槽から配管に流れ込む場合や、配管から血液浄化器用容器に流れ込む場合、吸着材のサイズに対して著しく径の太い配管を用いない限り、吸着材の凝集体によって配管に詰まりが生じ、円滑に吸着材が充填されないという不具合が生じる可能性がある。すなわち、アーチング現象が発生してしまう。ここで、「アーチング現象」とは、一般に、砂状や顆粒状の粉体同士が複雑に組み上がることにより、外力を加えても流動しなくなる現象をいう。
【0012】
また、仮に、配管を通過して血液浄化器用容器内に凝集し、気泡をまとった吸着材が充填された場合、血液浄化器における、充填される吸着材の量が少なくなり、吸着表面積は、理論上の吸着材表面積より著しく低くなるおそれがある。
【0013】
本発明は、以上のような状況を鑑みてなされたものであり、液体と吸着材とからなる懸濁液を血液浄化器用容器に充填する前に、懸濁液中の気泡および溶解している空気を除去することにより、懸濁液中の吸着材の凝集体の発生を抑制し、懸濁液を充填する際の配管の目詰まりを防止するとともに、血液浄化器内における吸着材の充填量を適正化する吸着材の充填方法および充填装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す本発明を完成するに至った。本願発明は、以下の特徴を有する。
【0015】
(I)高分子樹脂を主成分とする吸着材を液体に分散して懸濁液を調製する工程と、懸濁液を脱気する工程と、脱気された懸濁液を血液浄化器用容器に充填する工程と、を有する吸着材の充填方法である。
【0016】
(II)前記懸濁液を脱気する工程は、減圧下で懸濁液を脱気する工程である上記(I)に記載の吸着材の充填方法である。
【0017】
(III)前記懸濁液を脱気する工程は、懸濁液を加温して脱気する工程と、減圧下で懸濁液を脱気する工程とからなり、減圧及び加温され脱気された懸濁液を血液浄化器用容器に充填する上記(I)に記載の吸着材の充填方法である。
【0018】
(IV)前記懸濁液を脱気する工程は、懸濁液を加温して脱気する工程である上記(I)に記載の吸着材の充填方法である。
【0019】
(V)高分子樹脂を主成分とする吸着材を液体に分散して懸濁液を調製する分散槽と、分散槽内の懸濁液を脱気する脱気手段と、脱気された懸濁液を血液浄化器用容器に充填する充填手段と、を有する吸着材の充填装置である。
【0020】
(VI)前記分散槽内の懸濁液を脱気する脱気手段が、分散槽内を減圧にする減圧装置である上記(V)に記載の吸着材の充填装置である。
【0021】
(VII)前記分散槽内の懸濁液を脱気する脱気手段は、懸濁液を加温する加温手段と、分散槽内を減圧にする減圧装置とからなり、減圧及び加温され脱気された懸濁液を血液浄化器用容器に充填する上記(V)に記載の吸着材の充填装置である。
【0022】
(VIII)前記分散槽内の懸濁液を脱気する脱気手段が、懸濁液を加温する加温手段である上記(V)に記載の吸着材の充填装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の吸着材の充填方法および充填装置によれば、液体と吸着材とからなる懸濁液を血液浄化器用容器に充填する前に、懸濁液中の気泡および溶解している空気が除去されるので、懸濁液中の吸着材の凝集体の発生が抑制され、懸濁液を充填する際の配管の目詰まりが防止されるとともに、血液浄化器内における吸着材の凝集体量が従来に比べ低減される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態における充填装置の構成の一例を説明する概略図である。
【図2】本実施の形態における充填装置の他の構成の一例を説明する概略図である。
【図3】本実施の形態における充填方法の一例を説明するフロー図である。
【図4】本実施の形態における充填方法の他の例を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態における吸着材の充填方法および充填装置について、以下に説明する。但し、本発明は、以下に説明する充填方法及び充填装置に限定されるものではない。また、以下、本発明の実施の形態における「吸着材の充填方法」という記載を『充填方法』と略し、同「吸着材の充填装置」という記載を『充填装置』と略す。
【0026】
また、本実施の形態における吸着材の主成分は、高分子樹脂である。ここで、高分子樹脂として疎水性高分子樹脂を主成分として用い製造された吸着材は、例えば、アフェレシス治療における血液からの病因物質の吸着効果が高く好ましい。
【0027】
次に、吸着材製造工程について説明する。以下に、本実施の形態において、吸着材の一形態であるビーズ状吸着材の製造方法について、高分子樹脂として疎水性高分子樹脂を用い、相転換法(「凝固法」ともいう)を用いる場合を例に取り、以下に説明する。
【0028】
(疎水性高分子からなるビーズ状の吸着材の製造方法)
一重のノズル(オリフィス)を有するポリマー原液滴下装置を用い、後述する疎水性高分子樹脂をこの疎水性高分子樹脂に対して溶解性を有する良溶剤となる有機溶媒に溶解させて調製したポリマー原液を、凝固液槽内の疎水性高分子樹脂に対し貧溶媒からなる凝固液中に落下させ、疎水性高分子樹脂からなるビーズ状の吸着材を生成させる。
【0029】
また、本実施の形態における血液浄化器に用いられる吸着材は、疎水性を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアリレート樹脂(PAR)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリスルホン樹脂(PSF)からなる群から選択された少なくとも1種が用いられる。
【0030】
ポリアリレート樹脂は、下記化学式(1)で表わされる繰り返し単位を有する樹脂である。ポリアリレート樹脂の数平均分子量は、20,000〜30,000であることが好ましい。ポリアリレート樹脂の数平均分子量が30,000より大きいと、表面凹凸が大きくなり過ぎるため、適正な表面凹凸を形成することが困難になる。一方、ポリアリレート樹脂の数平均分子量が20,000より小さいと、ビーズ状吸着材の強度が低くなり、ビーズ状吸着材の製造歩留まりが悪くなる。
【0031】
【化1】

【0032】
化学式(1)において、R1およびR2は炭素数が1〜5の低級アルキル基であり、R1およびR2はそれぞれ同一であっても相違していてもよい。R1およびR2としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基などが挙げられる。好ましいR1およびR2は、メチル基である。
【0033】
なお、ポリアリレート樹脂は、化学式(1)で表わされる繰り返し単位を主たる繰り返し単位とする限り特に制限がなく、本発明の目的を阻害しない限り他の繰り返し単位を含有していてもよい。
【0034】
ポリエーテルスルホン樹脂は、下記化学式(2)または化学式(3)で表わされる繰り返し単位を有する樹脂である。ポリエーテルスルホン樹脂の数平均分子量は、15,000〜30,000であることが好ましい。ポリエーテルスルホン樹脂の数平均分子量が30,000より大きいと、表面凹凸が大きくなり過ぎるため、適正な表面凹凸を形成することが困難になる。一方、ポリエーテルスルホン樹脂の数平均分子量が15,000より小さいと、ビーズ状吸着材の強度が低くなり、ビーズ状吸着材の製造歩留まりが悪くなる。
【0035】
【化2】

【0036】
化学式(2)において、R3およびR4は炭素数が1〜5の低級アルキル基であり、R3およびR4はそれぞれ同一であっても相違していてもよい。R3およびR4としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基などが挙げられる。好ましいR1およびR2は、メチル基である。
【0037】
【化3】

【0038】
また、上記疎水性高分子樹脂に対して溶解性を有する良溶剤となる上記有機溶媒としては、疎水性高分子樹脂に対して良溶剤であれば特に制限がなく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。これらの中でもNMPが有機溶媒として好ましい。
【0039】
なお、疎水性高分子樹脂として二種以上の物質を用いる場合、互いに相溶性を有するものを選択する必要がある。ここで、「相溶性」とは、二種またはそれ以上の物質が相互に親和性を有し、溶液または混和物を形成する性質、すなわち物質同士の混ざりやすさをいう。
【0040】
また、凝固液は、水を含んだ有機溶媒であり、ポリマー原液に用いた有機溶媒と水とを予め定められた比率で混合した溶液であることが好ましい。
【0041】
ビーズ生成の際の温度は、5〜15℃程度が好ましい。ビーズ生成温度をこの範囲とすることにより、ポリマー原液の安定性が向上し、ビーズの適正な構造形成の妨げとなる異常な相分離が生じにくくなる。
【0042】
なお、本発明におけるビーズ状(球状)吸着材の製造方法としては、所定の溶媒に高分子樹脂材料を溶解した液を凝固浴に滴下して球状吸着材を得る相転換法に限らず、任意の方法が選択できる。例えば、高分子樹脂製の丸棒を切削、研磨して球状吸着材を得る方法、鋳型に溶解した高分子樹脂材料を流し込んで球状吸着材を得る方法、エマルジョン法などの方法を選択できる。
【0043】
また、本実施の形態における血液浄化器に充填されるビーズ状の吸着材の直径は、0.1mm以上、3.0mm以下である。ここで、粒径が0.1mm未満の場合、粒径が小さすぎて、仮に血液浄化器に充填しても、血液の流れが悪くなるため、治療中の回路内圧上昇等の原因になるおそれがある。一方、ビーズ状吸着材の粒径が3.0mmを超える場合は、血液中の血球成分(特に、白血球、血小板)を除去するための表面積が低下してしまうという問題がある。また、本実施の形態における製造方法の一形態である相転換法での製造を選択した場合、製造方法で使用する溶剤を吸着材から取り除くことが困難になるという問題も生じる。
【0044】
また、吸着材として上述したビーズ状の吸着材の他に、短繊維状の吸着材を吸着材として使用してもよく、短繊維状の吸着材の製造方法の一例として、相転換法(「凝固法」ともいう)を用いる場合について、以下に説明する。
【0045】

(疎水性高分子からなる短繊維状の中空糸からなる吸着材の製造方法)
まず、上述した疎水性高分子樹脂を有機溶媒に溶解させ、ポリマー原液を調製する。有機溶剤としては、疎水性高分子樹脂に対して良溶剤であれば特に制限がなく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。これらの中でもNMPが有機溶媒として好ましい。
【0046】
上述したビーズ状の吸着材の製造方法で使用した一重ノズルの代わりに二重ノズルを用い、二重ノズルからポリマー原液を内部凝固液(水を含んだ有機溶剤)とともに押し出し、外部凝固液(水を含んだ有機溶剤)に落下させ、内部及び外部凝固液中で疎水性高分子樹脂からなるポリマーを凝固させ、連続的に切断し、短繊維状の中空糸からなる吸着材を形成する。血球除去用中空糸を紡糸する際の温度は、5〜15℃程度が好ましく、短繊維状の中空糸からなる吸着材の生成温度をこの範囲とすることにより、ポリマー原液の安定性が向上し、短繊維状の中空糸の適正な構造形成の妨げとなる異常な相分離等が生じにくくなる。糸原液の安定性が向上し、相分離等が生じにくくなる。
【0047】
(疎水性高分子からなる短繊維状の中実糸からなる吸着材の製造方法)
まず、上述した疎水性高分子樹脂を有機溶媒に溶解させ、ポリマー原液を調製する。有機溶剤としては、疎水性高分子樹脂に対して良溶剤であれば特に制限がなく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。これらの中でもNMPが有機溶媒として好ましい。
【0048】
上述したビーズ状の吸着材の製造方法で用いた一重ノズル(オリフィス)からポリマー原液を凝固液(水を含んだ有機溶剤)に落下させ、凝固液内で疎水性高分子樹脂からなるポリマーを凝固させ、連続的に切断し、短繊維状の中実糸からなる吸着材を形成する。短繊維状の中実糸からなる吸着材の生成温度は、5〜15℃程度が好ましく、短繊維状の中実糸からなる吸着材の生成温度をこの範囲とすることにより、ポリマー原液の安定性が向上し、短繊維状の中実糸の適正な構造形成の妨げとなる異常な相分離等が生じにくくなる。
【0049】
また、本実施の形態における短繊維状の中空糸及び中実糸からなる吸着材の外径は、0.2mm以上で0.4mm以下であり、本実施の形態における短繊維状の中空糸及び中実糸からなる吸着材の長さは、1.0mm以上で20.0mm以下である。
【0050】
次に、吸着材製造工程で得られた吸着材が収容されたカゴを、洗浄水が貯留された予備水洗槽内に配置し、ポンプを駆動させて洗浄水を循環させて、吸着材を予備水洗する。
【0051】
次いで、予備水洗された吸着材を収容するカゴを、水洗槽にそれぞれ配置し、温水タンクより温水を供給した後、ポンプを駆動させて温水を循環させて、吸着材を水洗し、洗浄済みの吸着材を得る。
【0052】
吸着材を血液浄化器用容器に充填するための、本発明の実施の形態にける充填方法および充填装置の一例について、図1から図4を用いて、以下に説明する。
【0053】
図1に示すように、カゴ14内の洗浄済みの吸着材100を回収する吸着材回収槽50に回収する。一方、吸着材100を分散させるための液体が、液体槽70に貯留されている。本実施の形態における充填装置の一例は、吸着材回収槽50から供給される疎水性高分子樹脂を主成分とする吸着材100を液体槽70から供給される液体に分散して懸濁液を調製する分散槽60と、分散槽60内を減圧にする減圧装置の一態様である減圧用ポンプ62と、減圧下で脱気された懸濁液を血液浄化器用容器80内に充填する充填手段とを有する。また、分散槽60には、分散槽60内の液体を撹拌するために、分散槽60の液体を、ポンプ66を介して循環させる循環ラインが設けられている。
【0054】
本実施の形態において、吸着材100を分散させるための液体として、例えば、水(例えば、精製水)が用いられているが、これに限るものではなく、吸着材100を溶解することなく分散可能な液体であれば如何なる液体を用いてもよい。
【0055】
また、本実施の形態における他の充填装置の一例では、図1に示すように、さらに分散槽60の外周には、さらに懸濁液を加温する加温手段の一態様として、温水が循環可能なジャケット64が設けられている。
【0056】
ここで、上述した血液浄化器用容器80は、一般にケースとも呼ばれ、ケース本体と、ケース本体の両端開口部にそれぞれ配置される一対のメッシュと、ケース本体の両端開口部をそれぞれ封止するとともに血液の導入路となる入口部と血液浄化後の血液の排出路となる出口部が設けられた一対のヘッダとを有する。
【0057】
次に、本実施の形態における充填方法について説明する。図1に示すように、本実施の形態における充填方法の一例は、疎水性高分子樹脂を主成分とする吸着材100を液体に分散して懸濁液を調製する工程と、得られた懸濁液を減圧または加温または減圧と加温を組み合わせて脱気する工程と、脱気された懸濁液を血液浄化器用容器80に充填する工程とを有する。
【0058】
図2には、本実施の形態における他の充填装置の構成の一例が示されている。図2に示すように、他の充填装置は、分散槽60の他に予備分散槽90が設けられている。予備分散槽90は、分散用の液体を供給するラインが接続され、液体を供給するラインには弁91が設けられ、予備分散槽90には開閉可能な蓋が設けられている。従って、予備分散槽90の蓋を開け、カゴ14から洗浄済みの吸着材100を予備分散槽90内に投入し、弁91を開けて、懸濁液調整用の液体(例えば、水(必要に応じて精製水))の一部を予備分散槽90内に投入することにより、予備分散液が調製される。
【0059】
さらに、図2に示すように、分散槽60と予備分散槽90とは輸液ラインにより接続され、輸液ラインには弁93が設けられている。これにより、吸着材100を含む予備分散液が分散槽60に供給される。
【0060】
また、図2に示す分散槽60には、分散用の液体を供給するラインが接続され、液体を供給するラインには弁95が設けられている。また、分散槽60には、分散槽60内を減圧するための減圧用ポンプ62と、分散槽60の減圧状態を測定する圧力計63とが設けられている。さらに、分散槽60には、その外周に懸濁液を加温するための温水循環可能なジャケット(図示せず)が設けられ、また、その内部の懸濁液の温度を測定する温度計65が設けられている。また、分散槽60内には、懸濁液中の吸着材100がフィルタ68を超えて上部に浮遊しないように、メッシュ状のフィルタ68が設けられ、さらに、分散槽60には、分散槽60内の液体を撹拌するために、フィルタ68より上部からポンプ66により液体を吸引して分散槽60の下部に戻し、液体を循環させる循環ライン61が設けられている。
【0061】
さらに、分散槽60の下部と血液浄化器用容器80とは、充填用の配管67によって接続され、配管67には弁97が設けられている。この充填用の配管67の内径は、ビーズ状の吸着材の外径の6倍未満の場合、吸着材が配管内で詰まりやすいので、6倍以上が好ましい。なお、血液浄化器用容器80の両端のそれぞれ入口部と出口部には輸液用ラインが接続され、輸液用ラインにはそれぞれ弁81,83が設けられ、吸着材100を血液浄化器用容器80に充填した後、血液浄化器用容器80内の液体(例えば、水(必要に応じて精製水))を吸着材保存用の液体に置換することができる。
【0062】
次に、図2に示す装置を用いた充填方法の一例について、図2及び図3を用いて以下に説明する。まず、減圧用ポンプ62を駆動させ、分散槽60内を減圧させる。圧力計63により所定減圧状態になった時点で、弁93を開け、予備分散槽90から吸着材100を含む予備分散液が分散槽60内に移送される。移送後、減圧用ポンプ62の駆動を停止させ、分散槽60内を常圧に戻す。次に、弁95を開けて、懸濁液の調製に必要な量の液体(例えば、水(必要に応じて精製水))を分散槽60に供給する。次に、ポンプ66を駆動させ、フィルタ68より上部から液体を吸引し分散槽60の下部に戻して、循環ライン61を用いて液体を循環させ、分散槽60内の撹拌を行い、吸着材100が液体に分散した懸濁液を調製する(図3のS200)。次に、温度計65で温度制御しながら、分散槽60の外周に設けられたジャケット(図示せず)に温水を循環させ、懸濁液を加温して脱気する(図3のS202)。次いで、減圧用ポンプ62を駆動させ、分散槽60内を減圧にして、減圧下で懸濁液を脱気する(図3のS204)。脱気後、図示しない加圧装置を用いて、分散槽60を常圧以上に加圧する。次いで、配管67の弁97を開けて、脱気された懸濁液を血液浄化器用容器80に所定の流速で充填する(図3のS206)。
【0063】
なお、これに限るものではなく、図3に示すように、懸濁液を調製し(S200)、懸濁液を加温せずに、減圧下で懸濁液を脱気した後(S204)、脱気された懸濁液を血液浄化器用容器80に充填してもよい(S206)。
【0064】
また、図4に示すように、懸濁液を調製し(S200)、懸濁液を加温して脱気した後(S202)、減圧下での脱気を行わずに、脱気された懸濁液を血液浄化器用容器80に充填してもよい(S206)。
【0065】
懸濁液の脱気処理のための分散槽60内の減圧条件は、−30kPaから−90kPaで1分間以上減圧される。この減圧条件により、分散槽60内の懸濁液は脱気され、懸濁液中の吸着材100の凝集が抑制される。
【0066】
懸濁液の加温条件は、60℃以上、80℃以下で10分間以上加温される。この加温条件により、分散槽60内の懸濁液は脱気され、懸濁液中の吸着材100の凝集が抑制される。
【0067】
血液浄化器用容器に充填する際の懸濁液の流速は、吸着材100の径の6倍程度の配管径を有する配管を介して充填される場合、300mL/分以上、700mL/分以下である。この範囲の流速であれば、配管内に詰まることなく、吸着材100を有する懸濁液を効率的に血液浄化器用容器80に充填することができる。なお、上記実施形態において、高分子樹脂として、疎水性高分子樹脂を主成分として用いて製造された吸着材を例に説明を行ったが、これに限るものではなく、例えば、親水性高分子を含むものでも良いが、疎水性高分子樹脂を主成分とする吸着材の方が本発明の効果がより良い。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
[ビーズ状吸着材の製造方法]
ポリアリレート樹脂(以下「PAR」ともいう、数平均分子量;25,000、ユニチカ株式会社製、商品名「Uポリマー」、ガラス転移温度;193℃)13質量部と、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン87質量部とを加熱溶解、撹拌、混合してポリマー原液を調製した。また、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」ともいう)を含有し水に対してNMPを55容量%の割合で含有する凝固液とした。次いで、前記ポリマー溶液を内径0.25mmの一重のノズル(オリフィス)より凝固液槽の液面から約10cmの高さより滴下した。凝固液内で十分に凝固を行った後、蒸留水で洗浄し、直径1.0mmのビーズ状吸着材を得た。
【0070】
[短繊維状の中空糸からなる吸着材の製造方法]
ポリアリレート樹脂(以下PAR、数平均分子量25,000、ユニチカ製、商品名:Uポリマー)とポリエーテルスルホン樹脂(以下PES、グレード4800P、数平均分子量21,000、住友化学工業製、商品名:スミカエクセルPES)と、N−メチルピロリドン(NMP)とを用いてポリマー原液を調整した。PARとPESとNMPとの重量混合比は7.5:7.5:85.0とした。N−メチルピロリドン水溶液(水にNMPを60%混合したもの)を外部凝固液および内部凝固液(芯液)とした。前述したポリマー原液を、二重管紡糸口金を用いて芯液と共に凝固液中へ吐出して中空糸状の吸着材を作製、連続的に切断し、外径300μm、内径200μm、長さ12mmの短繊維状の中空糸からなる吸着材を得た。
【0071】
上記製造方法により得られたビーズ状吸着材、短繊維状の中空糸からなる吸着材を精製水に分散させて懸濁液を調製し、表1に示す条件にて懸濁液の脱気処理を行い、脱気後の懸濁液を血液浄化器用容器に充填した。充填状況及び吸着材の凝集の発生の有無について目視にて観察した。ここで、吸着材100部に対して精製水を100部添加して懸濁液を調製した。ここで、「部」は「かさ容量部」である。
【0072】
また、一般に、懸濁液を血液浄化器用容器に充填する際に閉塞を起こさない条件として、充填時の輸送用配管の径は、吸着材の径の少なくとも6倍以上必要であることが提唱されている。そこで、表1に示すように、実施例1を除く実施例2〜6及び比較例1〜5では、ビーズ状吸着材の径に対して6倍の径を有する輸送用配管を用いて充填を行った。なお、実施例1では、実施例2〜6の条件より過酷な条件下での充填処理を行った。また、実施例1,6では、減圧処理後に加温処理を行っている。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、血液浄化用途に好適である。
【符号の説明】
【0075】
14 カゴ、50 吸着材回収槽、60 分散槽、61 循環ライン、62 減圧用ポンプ、63 圧力計、64 ジャケット、65 温度計、66 ポンプ、67 配管、68 フィルタ、70 液体槽、80 血液浄化器用容器、81,83,91,93,95,97 弁、90 予備分散槽、100 吸着材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子樹脂を主成分とする吸着材を液体に分散して懸濁液を調製する工程と、
懸濁液を脱気する工程と、
脱気された懸濁液を血液浄化器用容器に充填する工程と、
を有することを特徴とする吸着材の充填方法。
【請求項2】
前記懸濁液を脱気する工程は、減圧下で懸濁液を脱気する工程であることを特徴とする請求項1に記載の吸着材の充填方法。
【請求項3】
前記懸濁液を脱気する工程は、懸濁液を加温して脱気する工程と、減圧下で懸濁液を脱気する工程と、からなり、
減圧及び加温され脱気された懸濁液を血液浄化器用容器に充填することを特徴とする請求項1に記載の吸着材の充填方法。
【請求項4】
前記懸濁液を脱気する工程は、懸濁液を加温して脱気する工程であることを特徴とする請求項1に記載の吸着材の充填方法。
【請求項5】
高分子樹脂を主成分とする吸着材を液体に分散して懸濁液を調製する分散槽と、
分散槽内の懸濁液を脱気する脱気手段と、
脱気された懸濁液を血液浄化器用容器に充填する充填手段と、
を有することを特徴とする吸着材の充填装置。
【請求項6】
前記分散槽内の懸濁液を脱気する脱気手段が、分散槽内を減圧にする減圧装置であるとことを特徴とする請求項5に記載の吸着材の充填装置。
【請求項7】
前記分散槽内の懸濁液を脱気する脱気手段は、懸濁液を加温する加温手段と、分散槽内を減圧にする減圧装置とからなり、
減圧及び加温され脱気された懸濁液を血液浄化器用容器に充填することを特徴とする請求項5に記載の吸着材の充填装置。
【請求項8】
前記分散槽内の懸濁液を脱気する脱気手段が、懸濁液を加温する加温手段であることを特徴とする請求項5に記載の吸着材の充填装置。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−24121(P2012−24121A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162571(P2010−162571)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】