吸音構造、吸音構造群及び音響室
【課題】板・膜振動吸音構造(板振動又は膜振動をする吸音構造)において、構成の簡単な変更によってより低い周波数の音を吸音できるようにする。
【解決手段】本発明に係る吸音構造は、筐体と振動体により板・膜振動吸音構造を構成する。また、吸音構造は、筐体と振動体により形成される内部空間に、孔部を有する隔壁を設けたものである。かかる隔壁を設けた場合、これと異なる構成(比較例1〜3の構成)に比べ、共振周波数が低下し、吸音する周波数のピーク値が低下する。
【解決手段】本発明に係る吸音構造は、筐体と振動体により板・膜振動吸音構造を構成する。また、吸音構造は、筐体と振動体により形成される内部空間に、孔部を有する隔壁を設けたものである。かかる隔壁を設けた場合、これと異なる構成(比較例1〜3の構成)に比べ、共振周波数が低下し、吸音する周波数のピーク値が低下する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
板振動又は膜振動をする吸音構造が知られている。かかる吸音構造のことを、以下では「板・膜振動吸音構造」という。また、板・膜振動吸音構造において、振動体に孔部を設けることによってヘルムホルツ型の吸音構造を付加したものがある(例えば、特許文献1参照)。この場合において、ヘルムホルツ型の吸音構造は、板・膜振動吸音構造に比べ、吸音する周波数が高いものである。
【特許文献1】特開2005−134653号公報(図8〜図11)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、板・膜振動吸音構造において、構成の簡単な変更によってより低い周波数の音を吸音できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る吸音構造は、開口部を有し、内部空間を形成する筐体と、前記開口部を塞いで前記内部空間を外部空間と隔てる板状又は膜状の振動体と、前記内部空間を複数の部分空間に分割する隔壁であって、ある部分空間から他の部分空間への気体の流通を許容する孔部を有する隔壁とを備える構成を有する。
【0005】
本発明に係る吸音構造は、前記隔壁が、前記振動体と対向するように設けられていてもよい。
また、本発明に係る吸音構造は、前記隔壁が、前記振動体を第1の部分空間に面する第1の部分と第2の部分空間に面する第2の部分とに分ける位置に設けられていてもよい。
なお、本発明は、かかる吸音構造を複数備える吸音構造群や、吸音構造又は吸音構造群を備える音響室としても特定され得る。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、板・膜振動吸音構造において、構成の簡単な変更によってより低い周波数の音を吸音することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態である吸音構造の外観を示す図である。この吸音構造10は、柱状(直方体状)の形状を有し、筐体11と振動体12とを備える。筐体11は、吸音構造10のうちの5面(側面及び底面)を構成し、振動体12は、吸音構造10のうちの1面(上面)を構成する。なお、ここでいう「上面」は、面の方向を便宜的に表したものであって、この吸音構造10が配置されるときに上方向を向くことを表したものではない。吸音構造10は、その配置に際しては、必要に応じてどのような向きで配置されてもよい。また、本実施形態の吸音構造10は角柱であるとするが、これを円柱としてもよい。
【0008】
筐体11は、振動体12を支持する部材である。筐体11は、例えば、ABS樹脂等の合成樹脂により形成されているが、振動体12を支持可能な強度を有するものであれば、金属など他の材料であってもよい。また、筐体11は、側面、底面及び振動体12により囲まれる領域が空間を形成するように構成されている。この領域のことを、以下では「内部空間」という。筐体11は、振動体12により塞がれる開口部を有し、振動体12により塞がれない場合においては、内部空間が外部の空間と隔てられていない状態となる。
【0009】
振動体12は、筐体11の開口部を塞ぐように設けられる部材である。振動体12は、板状又は膜状の部材であるが、その厚さは特に問わない。振動体12は、例えば、合成樹脂により形成されているが、筐体11に支持されて振動する程度の弾性を有するものであれば、紙、金属、繊維など他の材料であってもよい。振動体12は、接着剤などにより筐体11に取り付けられている。
【0010】
図2は、吸音構造10を図1中の一点鎖線の部分で切断した場合の断面図である。同図に示すように、吸音構造10は、内部空間に隔壁13を有する。隔壁13は、内部空間を上部(上面側)と下部(底面側)とに分割する部材である。隔壁13は、筐体11と一体に成形されていてもよいし、筐体11に取り付けられた独立の部材であってもよい。
なお、以下においては、説明の便宜上、内部空間のうちの上部を「第1空間」といい、内部空間のうちの下部を「第2空間」という。第1空間及び第2空間は、本発明の部分空間の一例である。
【0011】
図3は、隔壁13を上面側から示す図である。隔壁13は、所定の位置に所定の大きさの孔部13aを有する。この孔部13aは、第1空間から第2空間(あるいはその逆)への気体の流通を許容するように設けられている。すなわち、隔壁13は、内部空間を第1空間と第2空間に分割するものであるが、第1空間と第2空間とを気体が相互に流通しない独立の空間にするものではない。
【0012】
吸音構造10の構成は、以上のとおりである。吸音構造10は、この構成のもと、その内部空間に気体が充填される。内部空間に充填される気体は、典型的には空気であり、本実施形態においても空気であるとするが、その他の気体であることを妨げない。この気体は、振動体12に対向する気体層(空気層)を形成する。この気体層は、吸音構造10において、いわゆる気体バネ(空気バネ)として機能する。
【0013】
吸音構造10は、板・膜振動吸音構造として機能する。具体的には、吸音構造10にある音波が入射した場合に、振動体12が振動するとともに、振動体12の振動により気体層にも音波が入射して、気体層内の音響エネルギーが増加する。この音響エネルギーは、振動体12の振動と、気体層の気体バネとしての作用と、振動体12と気体層などの内部抵抗による振動を減衰させる作用とにより減衰し、やがて消散する。すなわち、吸音構造10は、振動体12を質量成分(マス)とし、気体層をバネ成分としたバネマス系を形成する。
【0014】
本実施形態の吸音構造10の各部は、以下の条件により設定される。
一般に、板状又は膜状の振動体と気体層とにより音を吸収する板・膜振動吸音構造において、吸音する周波数は、振動体の質量成分と気体層のバネ成分とによるバネマス系の共振周波数によって設定される。ここで、気体層の気体の密度をρ0(kg/m3)、音速をc0(m/s)、振動体の密度をρ(kg/m3)、振動体の厚さをt(m)、気体層の厚さをL(m)とすると、バネマス系の共振周波数は以下の式(1)で表される。
【数1】
【0015】
また、板・膜振動型吸音構造において、振動体が弾性を有して弾性振動をする場合には、弾性振動による屈曲系の性質が加わる。建築音響の分野においては、長方形である振動体の対向する二辺の長さをa(m)、当該二辺と直交する二辺の長さをb(m)、振動体のヤング率をE(Pa)、振動体のポアソン比をσ、モード次数をp及びq(正の整数)とすると、以下の式(2)で板・膜振動型吸音構造の共振周波数を求め、求めた共振周波数を音響設計に利用することが行われている(周辺支持の場合)。
【数2】
【0016】
本実施形態においては、160〜315Hzバンド(1/3オクターブ中心周波数)を吸音するように、例えば、式(2)に基づいて以下のようにパラメータが設定される。
気体の密度ρ0 :1.225(kg/m3)
音速c0 :340(m/s)
振動体の密度ρ :940(kg/m3)
振動体の厚さt :0.0017(m)
気体層の厚さL :0.03(m)
筐体の長さa :0.1(m)
筐体の長さb :0.1(m)
振動体のヤング率E:1.0(GPa)
ポアソン比σ :0.4
モード次数 :p=q=1
【0017】
一方、式(2)においては、バネマス系の項(右辺第1項、すなわち式(1)の右辺)と屈曲系の項(右辺第2項)とが加算される。このため、式(2)により得られる共振周波数は、バネマス系の共振周波数より高いものとなり、吸音のピーク周波数を低く設定することが難しい場合がある。このような吸音構造においては、バネマス系による共振周波数と、板又は膜の弾性による弾性振動による屈曲系の共振周波数との関連性は十分に解明されておらず、低音域で高い吸音効果を奏する吸音構造が確立されていないのが実情である。
【0018】
本発明の発明者らは、屈曲系の基本振動周波数の値をfa(式(2)の右辺第2項)、バネマス系の共振周波数の値をfb(式(2)の右辺第1項)とした場合に、以下の式(3)の関係を満足するように上記パラメータを設定すれば、高い吸音効果が得られるという知見を得た。これにより、屈曲系の基本振動が背後の気体層のバネ成分と連成して、バネマス系の共振周波数と屈曲系の基本周波数との間の帯域に振幅の大きな振動が励振され(屈曲系共振周波数fa<ピーク周波数f<バネマス系基本周波数fb)、吸音率が高くなる。
【数3】
【0019】
さらに、上記パラメータを以下の式(4)に設定する場合、ピーク周波数がバネマス系の共振周波数より十分に小さくなる。この場合、低次の弾性振動のモードにより屈曲系の基本周波数がバネマス系の共振周波数より十分に小さく、300(Hz)以下の周波数の音を吸音する吸音構造として適しているという知見が得られた。
【数4】
このように、式(3)、(4)の条件を満足するように各種パラメータを設定することにより、ピーク周波数を低くした吸音構造を構成することができる。
【0020】
また、本発明の発明者らは、筐体11の内部空間に隔壁13を設けると、これを設けない場合に比べて板・膜振動吸音構造としての共振周波数(すなわち吸音周波数)が低下する、という知見を得た。すなわち、本実施形態の吸音構造10によれば、隔壁13を追加するという変更を行うだけで、内部空間の容積や吸音構造10全体としてのサイズを変えないでも共振周波数を低下させることが可能である。
【0021】
図4は、本実施形態の隔壁13の作用を示すために行われた実験の結果を示す図である。同図に示すグラフにおいて、横軸は周波数(Hz)であり、縦軸は吸音率である。ここにおいて、吸音率とは、2マイクロホン法(伝達関数法)により測定した垂直入射吸音率のことをいう。また、2マイクロホン法は、図5に示すスピーカSP、マイクロホンMIC1、MIC2及び音響管ATを用いて、マイクロホンMIC1及びMIC2の伝達関数に基づいて垂直入射吸音率を測定するものである。
【0022】
本実験に用いた吸音構造10は、上面及び底面が80×80mmの正方形であり、側面の高さが20mmのものである。また、隔壁13は、上面と底面の中間、すなわち上面又は底面から10mmの位置に設け、孔部13aの大きさ(直径)を4.5mmとした。筐体11及び隔壁13には、厚さ3mmのABS材を用い、振動体12には、比重940kg/m3、厚さ0.85mmのポリオレフィン系高分子膜を用いた。
【0023】
図4において、曲線C1は、本実施形態の隔壁13を設けた吸音構造10の吸音特性を示すものである。また、曲線C11は、吸音構造10から隔壁13を除いた板・膜振動吸音構造(以下「比較例1」という。)の吸音特性を示し、曲線C12は、吸音構造10の隔壁13に代えて孔部13aがない板を用いた板・膜振動吸音構造(以下「比較例2」という。)の吸音特性を示すものである。さらに、曲線C13は、比較例2の構成から第2空間側を除いた、高さが10mmの板・膜振動吸音構造(以下「比較例3」という。)の吸音特性を示すものである(図6参照)。
【0024】
図4に示すとおり、本実施形態の吸音構造10は、比較例1〜3の構成よりも吸音のピーク周波数が低くなる。吸音構造10は、比較例1の構成、すなわち隔壁13を設けない構成よりもピーク周波数が100Hz以上低くなり、比較例2又は3の構成と比較すると、比較例1の場合よりもさらに大きな割合でピーク周波数を低下させる。したがって、吸音構造10は、単に内部空間を複数の空間に隔てただけでは効果を奏さず、内部空間を隔てる隔壁に孔部を設けてこそ効果を奏する。
【0025】
板・膜振動吸音構造における共振周波数は、気体層の厚さ(振動体12と対向する方向の距離)と相関を有し、気体層が厚くなるほど共振周波数が低下する。したがって、板・膜振動吸音構造によって低い周波数の音を吸音しようとした場合、気体層を厚くするのが一般的な手法の一つである。しかし、吸音構造10によれば、気体層の厚さを変えないでも共振周波数を低下させることが可能である。よって、本実施形態の吸音構造10は、設置するスペース(特に厚さ)が制限される環境において低い周波数の音を吸音しようとする場合などに特に適したものである。
【0026】
また、本実施形態の吸音構造10は、孔部13aの大きさや数を異ならせることによって共振周波数や吸音率を異ならせることも可能である。つまり、この吸音構造10によれば、隔壁13の孔部13aを変更するだけで、内部空間の容積や吸音構造10全体としてのサイズを変えることなく、共振周波数や吸音率を必要に応じて調整することが可能である。
【0027】
図7及び図8は、本実施形態の孔部13aの作用を示すために行われた実験の結果を示す図である。本実験においては、図4に示した実験と同様の吸音構造10を用い、孔部13aの大きさを異ならせてその作用を検証した。だだし、振動体12には比重1210kg/m3、厚さ1.25mmの無機フィラー入りポリオレフィン系高分子膜の中央部に2.9gの集中質量を取り付けたものを用いた。
【0028】
図7において、曲線C21、C22、C23は、それぞれ、孔部13aを直径2.0mm(C21)、3.0mm(C22)、4.5mm(C23)の円形とした吸音構造10の吸音特性を示すものである。また、曲線C24、C25、C26は、それぞれ、上述した比較例1(C24)、比較例2(C25)、比較例3(C26)の吸音特性を示すものである。
【0029】
これらの図に示すように、吸音のピーク周波数には、孔部13aの直径が小さくなるほど低下する傾向が認められた。一方、吸音率には、孔部13aの直径が大きくなるほど上昇する傾向が認められた。したがって、本実施形態の吸音構造10は、孔部13aの大きさを異ならせることにより、種々の共振周波数や吸音率に対応することができるようになる。
【0030】
なお、本実施形態の吸音構造10は、上面のみならず底面をも振動板として作用させるものであってもよい。この場合においては、筐体11の底面を側面とは異なる材料(例えば、振動板12と同じ材料)で構成し、底面を振動しやすくさせてもよい。
【0031】
[第2実施形態]
図9は、本発明の第2の実施形態である吸音構造を示す図であり、本発明に係る吸音構造を孔部を含む切断面で切断した場合を示す断面図である。同図において、吸音構造20は、上述した第1実施形態と同様の筐体11及び振動体12を備える。隔壁23は、孔部23aを有し、内部空間を第1空間A1と第2空間A2とに分割する。本例において、隔壁23は、気体層の厚さ方向に設けられており、上面である振動体12と筐体11の底面とに接している。すなわち、隔壁23は、振動体12を第1空間A1に面する部分と第2空間A2に面する部分とに分けるような位置に設けられている。この場合において、隔壁23の位置は、第1空間A1と第2空間A2とが同一の形状になる位置(両空間が対称性を有する位置)であってもよいし、そうでなくてもよい。
【0032】
吸音構造20の構成は、1つの内部空間を2つに分割したものとみなすこともできるが、もともと2つである内部空間を孔部21aによって連通させたものとみなすこともできる。すなわち、吸音構造20の構成は、2つの板・膜振動吸音構造の1つの側面を共通の部材とし、孔部23aによって互いの内部空間の気体を流通させるようにした吸音構造群であるともいえる。
【0033】
内部空間、すなわち気体層の気体は、筐体及び振動体からなる空間に密閉された場合、その流動性が制限される。このような場合において、気体層の厚さ(上面から底面までの距離)が薄くなると、流動性の制限される度合いが増す。気体層の気体バネのバネ定数は、気体層が薄くなるにつれて大きくなるため、気体層が薄い場合は、気体層の気体バネが硬くなる方向に作用し、共振周波数の低下を妨げたり、振動体の振動の振幅を抑制するなどの悪影響が発生する。かかる作用は、特に、気体層が薄くなるほど顕著となる。
【0034】
一方、本実施形態の吸音構造20のように孔部23aが設けられると、気体層の気体が第1空間A1と第2空間A2とで密閉されている場合に比べ、気体層の気体の流動性の制限が緩和される。すなわち、吸音構造20によれば、上述した悪影響を少なくすることが可能である。よって、この吸音構造20は、気体層が比較的薄い場合(例えば、20mm以下)において、特に有利な構成であるともいえる。
【0035】
なお、部分空間は、そのすべてが振動体に面している必要はない。例えば、図10に示すように、第2空間A2の上面側に筐体21が面するような構成とし、振動体22が第1空間A1のみに面するようにしてもよい。
また、図9に示す構成において、第1空間A1に面する振動体と第2空間A2に面する振動体とを異なる組成(材質、厚さなど)にしてもよい。
【0036】
[第3実施形態]
図11は、本発明の第3の実施形態である吸音構造の外観を示す図である。本実施形態の吸音構造30は、第2実施形態の吸音構造20をさらに変形したものであり、内部空間を3以上の部分空間に分割するとともに、各々の部分空間に複数の孔部を備えるものである。吸音構造30は、上述した第1実施形態と同様の筐体11及び振動体12を備える。なお、同図の破線は、後述する隔壁33の位置を示している。
【0037】
図12は、吸音構造30から振動体12を除いたものを上面側から示す図である。すなわち、図12は、吸音構造30の内部空間を示す図である。筐体11は、振動体12とともに、吸音構造30の内部空間を外部空間と隔てる部材であり、吸音構造30の側面及び底面を構成する。すなわち、筐体11は、その上面に開口部を有し、この開口部において振動体12を支持する。隔壁33は、内部空間を16等分に区画する部材である。本実施形態の吸音構造30は、隔壁33により区画された16個の領域が、それぞれ板・膜振動吸音構造として機能するものであるともいえる。なお、隔壁33は、筐体11と同様に、振動体12と接してこれを支持している。
【0038】
図13は、吸音構造30を図12中のA−A線で切断した場合の断面図である。隔壁33は、同図に示すように、複数の孔部33aを有する。孔部33aは、隔壁33の各辺に12個ずつ設けられている。すなわち、孔部33aは、隔壁33の全体に72(12×6)個設けられており、各々の部分空間は、6個、9個又は12個の孔部33aにより他の部分空間と連通する。なお、図12においてハッチングで示されている部分には、すべて孔部23aが設けられている。
【0039】
本実施形態の吸音構造30の各部の寸法は、次のとおりである。筐体11は、上面からみたとき、321×321mmの正方形であり、高さは10mmである。筐体11及び隔壁33の厚さは、3mmである。すなわち、筐体11又は隔壁33を辺とする各区画は、76.5mm四方の正方形である。孔部33aは、幅15mm、高さ5mmの長方形であり、10mm間隔で設けられている。なお、振動体12は、筐体11の底面と同様の寸法であり、321×321mmの正方形である。
【0040】
図14は、本実施形態の孔部33aの作用を示すために行われた実験の結果を示す図である。なお、本実験は、第1実施形態の実験と同様の方法で実施したが、音響管の形状は吸音構造30の寸法に合わせて変更している。また、本実験においては、比較例として、吸音構造30からすべての孔部33aを除いたもの(すなわち、隔壁33に代えて孔部がない隔壁を用いたもの)を用いた。ここにおいて、曲線C3は、本実施形態の吸音構造30の吸音特性を示すものであり、曲線C31は、上述した比較例の吸音特性を示すものである。
【0041】
図14に示すように、本実施形態の構成においても、比較例の構成に比べ、吸音するピーク周波数の低下が認められた。また、本実施形態の構成においては、第1実施形態の場合と異なり、ピーク周波数が低下しても吸音率が低下せず、逆に上昇するという結果が得られた。すなわち、本実施形態の吸音構造30は、ピーク周波数の低下と吸音率の向上を両立できるという効果が認められた。
なお、吸音する周波数帯などの具体的な吸音特性は、各部の寸法や孔部33aの数に応じて異なる。
【0042】
[変形例]
本発明は、上述した実施形態と異なる形態での実施が可能である。以下に示す変形例は、本発明に適用可能な変形の一例である。なお、これらの変形例は、必要に応じて、各々を適宜に組み合わせて実施されてもよい。また、以下の説明においては、上述した実施形態と共通する構成に対して同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0043】
(1)変形例1
本発明に係る吸音構造は、孔部の位置及び大きさを問わない。また、孔部の数も、所望する吸音特性に応じて異ならせてよい。さらに、本発明に係る吸音構造は、孔部の数や大きさを変えられる機構を有していると、より望ましい。
【0044】
図15は、孔部を調節する調節機構を示す図である。この調節機構40は、円柱部材41と、リング部材42及び43とを備える。リング部材42及び43は、その内部に空洞を有する。リング部材42の空洞は、円柱部材41を隙間なく嵌め込めるように構成されており、リング部材43の空洞は、リング部材42を隙間なく嵌め込めるように構成されている。また、リング部材43の外径は、所定の孔部の直径と等しく、当該孔部に隙間なく嵌め込まれるように構成されている。
【0045】
図16は、上述した調節機構40の適用例を示す図である。いま、図16(a)に示すように、孔部44aを有する隔壁44があり、この孔部44aは、その直径がリング部材43の外径と等しいものとする。図16(b)に示すように、円柱部材41及びリング部材42が嵌め込まれたリング部材43をこの孔部44aに嵌め込むと、孔部44aが塞がれ、気体の流通が行われないようになる。つまり、図16(b)に示す構成で調節機構40を適用すれば、孔部を減らすことができる。
【0046】
また、図16(b)の状態から円柱部材41を取り外すと、図16(c)に示すように、調節機構40を適用しない場合よりも小さい直径の孔部を形成することができる。さらに、この状態からリング部材42を取り外せば、調節機構40を適用しない場合よりも小さく、かつ、図16(c)に示す場合よりも大きい直径の孔部を形成することができる。
【0047】
なお、本発明に係る調節機構は、図15に示す構成に限らない。例えば、リング部材をより多重に構成し、孔部の直径をより詳細に調整できるようにしてもよい。また、調整機構を取り付ける構成は、嵌め込むものでなくてもよい。
【0048】
(2)変形例2
本発明において、吸音構造の形状は、直方体状に限定されない。吸音構造の形状は、例えば、円柱状であってもよいし、ある一面を振動体としたピラミッド状の四面体(四角錐)や四角錐台であってもよい。また、上述した第2及び第3実施形態のように吸音構造を連結して設けるような場合にあっては、各々の吸音構造を蜂の巣状の六角柱にしてもよい。
【0049】
また、吸音構造を群として複数設ける場合にあっては、目的の吸音特性に応じて、各々の吸音構造の大きさや形状を異ならせ、その内部の部分空間の容積を異ならせてもよい。例えば、直方体状の吸音構造と円柱状の吸音構造を組み合わせてもよいし、大小の相似形の吸音構造を組み合わせてもよい。
【0050】
(3)変形例3
本発明において、孔部は、ヘルムホルツ共鳴器を構成するように変形してもよい。本発明に係る吸音構造をヘルムホルツ共鳴器としても機能させるためには、孔部に筒状の部材を設ければよい。
【0051】
図17は、本変形例に係る隔壁の構成を示す断面図であり、第1実施形態の隔壁13を変形したものである。同図において、隔壁130は、第1実施形態の孔部13aに相当する位置に筒状部材131を備える点が隔壁13と異なる。筒状部材131は、隔壁130がなす平面と交差する方向に延びる筒状の部材であり、孔部13aに嵌め込まれるようにして設けられている。筒状部材131は、所定の長さ及び断面積を有する。長さ及び断面積の値は、この吸音構造による共鳴周波数を決定付ける物理量の一部であり、目的の吸音特性に応じて適宜定められる。筒状部材131は、ヘルムホルツ共鳴器における頚部(ネック部)として機能する。
【0052】
隔壁130を有する吸音構造は、板・膜振動吸音構造であると同時に、ヘルムホルツ共鳴器でもある。よって、かかる吸音構造は、板・膜振動吸音構造のみとして機能する構成や、ヘルムホルツ共鳴器のみとして機能する構成に比べ、吸音効率を向上させることが可能である。また、かかる吸音構造は、気体バネを形成する空間と共鳴をするための空間とを共通にするため、これらを別々に設ける場合や単純に組み合わせる場合に比べ、構成を簡素にし、全体の大型化を抑制することが可能である。
【0053】
なお、複数の孔部を有する吸音構造に本変形例を適用する場合には、筒状部材の長さ又は断面積をそれぞれ異ならせたり、あるいは、筒状部材を有する孔部と筒状部材を有しない孔部とを設けたりしてもよい。
【0054】
また、筒状部材は、これを伸縮可能な構成にしてもよい。このようにすれば、ヘルムホルツ共鳴器における頚部の長さが可変となるため、ヘルムホルツ共鳴器による共鳴周波数を必要に応じて異ならせることが可能となる。したがって、この構成によれば、吸音対象である音が状況に応じて変わる場合であっても、吸音構造自体を変えずに吸音特性のみを変えることが可能である。
【0055】
図18は、伸縮可能な筒状部材を例示する断面図である。この筒状部材131は、隔壁13に固定された第1部材1311と、第2部材1312とにより構成される。第2部材1312は、例えば、ねじ山を設けるなどして、第1部材1311に嵌め込まれるように構成されており、図中の矢印が示す方向にその位置を変えることができる。なお、第2部材1312は、第1部材1311の内部においてスライドするように移動する構成であってもよい。この場合においては、第2部材1312の移動に対してある程度の抵抗が生じるようにし、第2部材1312が自然に移動することがないようにすることが望ましい。
【0056】
(集中質量に関する記載)
(4)変形例4
本発明において、振動体は、その全体が一様な構成であってもよいし、その一部が他の部分と異なる質量を有する構成であってもよい。この構成において、当該一部は、他の部分と異なる密度を有するものであってもよいし、他の部分と同じ密度だが厚さが異なるものであってもよい。さらには、当該一部は、質量(集中質量)を付与するために他の部材を接着等により取り付けた構成であってもよい。なお、当該一部は、振動体の中央にあると望ましい。
【0057】
図19は、底面が100mm×100mmの正方形で厚さが10mmの空気層を形成する筐体11に、100mm×100mmの正方形で厚さが0.85mmの振動体12を固着し、振動体12の中央部(大きさ20mm×20mm、厚さ0.85mm)の面密度を変化させた際の吸音構造10の吸音率のシミュレーション結果を示す図である。なお、シミュレーションは、JIS A1405−2(音響管による吸音率及びインピーダンスの測定−第2部:伝達関数法)に従って吸音構造10を配置した音響室の音場を有限要素法により求め、その伝達関数より吸音特性を算出するものである。なお、本シミュレーションにおいては、振動体12の質量成分による作用に注目し、隔壁13の作用を除外することを目的に、隔壁13を設けない構成を用いた。
【0058】
図19に示すシミュレーションに用いた振動体12の構成は、以下のとおりである。なお、面密度及び平均密度の単位は、いずれも「g/m2」である。また、振動体12のうち中央部を除いた部分の面密度は、いずれも799(g/m2)である。
(1)中央部の面密度:399.5、振動体の平均密度:783
(2)中央部の面密度:799、振動体の平均密度:799
(3)中央部の面密度:1199、振動体の平均密度:815
(4)中央部の面密度:1598、振動体の平均密度:831
(5)中央部の面密度:2297、振動体の平均密度:863
【0059】
図19に示すように、吸音率は、300〜500Hzの間と、700Hz付近において高くなっている。700Hz付近の吸音率のピークは、振動体12の質量成分と空気層のバネ成分によって形成されるバネマス系の共振によるものである。本シミュレーションの吸音構造においては、バネマス系の共振周波数での吸音率をピークとして音が吸音されており、中央部の面密度を大きくしても、振動体12全体としての質量は大きく変わらないので、バネマス系の共振周波数も大きくは変わらない。
【0060】
一方、300〜500Hzの間での吸音率のピークは、振動体12の屈曲振動によって形成される屈曲系の共振によるものである。本シミュレーションの吸音構造においては、屈曲系の共振周波数での吸音率が低音域側のピークとして表れており、中央部の面密度を異ならせると、屈曲系の共振周波数がバネマス系の共振周波数よりも大きく変化する。また、屈曲系の共振周波数は、図示のとおり、中央部の面密度が大きくなるほど低くなる。
【0061】
一般に、屈曲系の共振周波数は、振動体12の弾性振動を支配する運動方程式で決定され、振動体12の密度(及び面密度)に反比例する。また、屈曲系の共振周波数は、固有振動の腹(振幅が極大値となる場合)の密度の影響を強く受ける。本シミュレーションにおいては、1×1の固有モードの腹となる領域(すなわち中央部)を異なる面密度で形成したことにより、屈曲系の共振周波数が変化したのである。
【0062】
図19に示すシミュレーション結果は、振動体12の中央部の面密度をその他の部分の面密度より大きくすると、吸音のピークとなる周波数のうち、低音域側の吸音率のピークがさらに低音域側へ移動することを表している。したがって、中央部の面密度を変更すれば、吸音のピークとなる周波数の一部をさらに低音域側又は高音域側に移動(シフト)させることが可能である。
【0063】
以上のことから、本発明に係る吸音構造においては、中央部の面密度を変えることによって、吸音のピーク周波数を変える(シフトさせる)ことができるといえる。すなわち、本発明に係る吸音構造によれば、振動体の中央部の質量を異ならせるだけで、吸音構造全体としての質量を大きく変えることなく、より低い周波数の音を吸音することができるようになる。これにより、本発明に係る吸音構造は、吸音対象の音の周波数が変化する場合においても、振動体の中央部の質量を変化させるだけで、音の変化に対応することが可能となる。
【0064】
(5)変形例5
本発明は、上述した吸音構造又は吸音構造群を1又は複数備える音響室としても実施可能である。かかる音響室は、例えば、スピーカや防音室などの、楽音の聴取の用に供される物品や構造物である。また、船舶、飛行機、車両等の乗り物の壁面や、風呂などの構造物の壁面に本発明を適用し、音響室を構成するようにしてもよい。本発明は、特定の周波数の音が騒音として生じるような場所に適用するに好適なものであるため、かかる物品や構造物に用いると、騒音の抑制に一定の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】吸音構造の外観を示す図
【図2】吸音構造を示す断面図
【図3】隔壁を示す図
【図4】実験結果を示す図
【図5】2マイクロホン法(伝達関数法)による測定方法を示す図
【図6】吸音構造とその比較例を示す図
【図7】実験結果を示す図
【図8】実験結果を示す図
【図9】吸音構造を示す断面図
【図10】吸音構造を示す断面図
【図11】吸音構造の外観を示す図
【図12】隔壁を示す図
【図13】隔壁を示す断面図
【図14】実験結果を示す図
【図15】孔部を調節する調節機構を示す図
【図16】調節機構の適用例を示す図
【図17】筒状部材(ヘルムホルツ共鳴器)を有する隔壁を示す断面図
【図18】伸縮可能な筒状部材を示す断面図
【図19】吸音率のシミュレーション結果を示す図
【符号の説明】
【0066】
10、20、30…吸音構造、11、21、31…筐体、12、22、32…振動体、13、23、33、44…隔壁、40…調節機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
板振動又は膜振動をする吸音構造が知られている。かかる吸音構造のことを、以下では「板・膜振動吸音構造」という。また、板・膜振動吸音構造において、振動体に孔部を設けることによってヘルムホルツ型の吸音構造を付加したものがある(例えば、特許文献1参照)。この場合において、ヘルムホルツ型の吸音構造は、板・膜振動吸音構造に比べ、吸音する周波数が高いものである。
【特許文献1】特開2005−134653号公報(図8〜図11)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、板・膜振動吸音構造において、構成の簡単な変更によってより低い周波数の音を吸音できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る吸音構造は、開口部を有し、内部空間を形成する筐体と、前記開口部を塞いで前記内部空間を外部空間と隔てる板状又は膜状の振動体と、前記内部空間を複数の部分空間に分割する隔壁であって、ある部分空間から他の部分空間への気体の流通を許容する孔部を有する隔壁とを備える構成を有する。
【0005】
本発明に係る吸音構造は、前記隔壁が、前記振動体と対向するように設けられていてもよい。
また、本発明に係る吸音構造は、前記隔壁が、前記振動体を第1の部分空間に面する第1の部分と第2の部分空間に面する第2の部分とに分ける位置に設けられていてもよい。
なお、本発明は、かかる吸音構造を複数備える吸音構造群や、吸音構造又は吸音構造群を備える音響室としても特定され得る。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、板・膜振動吸音構造において、構成の簡単な変更によってより低い周波数の音を吸音することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態である吸音構造の外観を示す図である。この吸音構造10は、柱状(直方体状)の形状を有し、筐体11と振動体12とを備える。筐体11は、吸音構造10のうちの5面(側面及び底面)を構成し、振動体12は、吸音構造10のうちの1面(上面)を構成する。なお、ここでいう「上面」は、面の方向を便宜的に表したものであって、この吸音構造10が配置されるときに上方向を向くことを表したものではない。吸音構造10は、その配置に際しては、必要に応じてどのような向きで配置されてもよい。また、本実施形態の吸音構造10は角柱であるとするが、これを円柱としてもよい。
【0008】
筐体11は、振動体12を支持する部材である。筐体11は、例えば、ABS樹脂等の合成樹脂により形成されているが、振動体12を支持可能な強度を有するものであれば、金属など他の材料であってもよい。また、筐体11は、側面、底面及び振動体12により囲まれる領域が空間を形成するように構成されている。この領域のことを、以下では「内部空間」という。筐体11は、振動体12により塞がれる開口部を有し、振動体12により塞がれない場合においては、内部空間が外部の空間と隔てられていない状態となる。
【0009】
振動体12は、筐体11の開口部を塞ぐように設けられる部材である。振動体12は、板状又は膜状の部材であるが、その厚さは特に問わない。振動体12は、例えば、合成樹脂により形成されているが、筐体11に支持されて振動する程度の弾性を有するものであれば、紙、金属、繊維など他の材料であってもよい。振動体12は、接着剤などにより筐体11に取り付けられている。
【0010】
図2は、吸音構造10を図1中の一点鎖線の部分で切断した場合の断面図である。同図に示すように、吸音構造10は、内部空間に隔壁13を有する。隔壁13は、内部空間を上部(上面側)と下部(底面側)とに分割する部材である。隔壁13は、筐体11と一体に成形されていてもよいし、筐体11に取り付けられた独立の部材であってもよい。
なお、以下においては、説明の便宜上、内部空間のうちの上部を「第1空間」といい、内部空間のうちの下部を「第2空間」という。第1空間及び第2空間は、本発明の部分空間の一例である。
【0011】
図3は、隔壁13を上面側から示す図である。隔壁13は、所定の位置に所定の大きさの孔部13aを有する。この孔部13aは、第1空間から第2空間(あるいはその逆)への気体の流通を許容するように設けられている。すなわち、隔壁13は、内部空間を第1空間と第2空間に分割するものであるが、第1空間と第2空間とを気体が相互に流通しない独立の空間にするものではない。
【0012】
吸音構造10の構成は、以上のとおりである。吸音構造10は、この構成のもと、その内部空間に気体が充填される。内部空間に充填される気体は、典型的には空気であり、本実施形態においても空気であるとするが、その他の気体であることを妨げない。この気体は、振動体12に対向する気体層(空気層)を形成する。この気体層は、吸音構造10において、いわゆる気体バネ(空気バネ)として機能する。
【0013】
吸音構造10は、板・膜振動吸音構造として機能する。具体的には、吸音構造10にある音波が入射した場合に、振動体12が振動するとともに、振動体12の振動により気体層にも音波が入射して、気体層内の音響エネルギーが増加する。この音響エネルギーは、振動体12の振動と、気体層の気体バネとしての作用と、振動体12と気体層などの内部抵抗による振動を減衰させる作用とにより減衰し、やがて消散する。すなわち、吸音構造10は、振動体12を質量成分(マス)とし、気体層をバネ成分としたバネマス系を形成する。
【0014】
本実施形態の吸音構造10の各部は、以下の条件により設定される。
一般に、板状又は膜状の振動体と気体層とにより音を吸収する板・膜振動吸音構造において、吸音する周波数は、振動体の質量成分と気体層のバネ成分とによるバネマス系の共振周波数によって設定される。ここで、気体層の気体の密度をρ0(kg/m3)、音速をc0(m/s)、振動体の密度をρ(kg/m3)、振動体の厚さをt(m)、気体層の厚さをL(m)とすると、バネマス系の共振周波数は以下の式(1)で表される。
【数1】
【0015】
また、板・膜振動型吸音構造において、振動体が弾性を有して弾性振動をする場合には、弾性振動による屈曲系の性質が加わる。建築音響の分野においては、長方形である振動体の対向する二辺の長さをa(m)、当該二辺と直交する二辺の長さをb(m)、振動体のヤング率をE(Pa)、振動体のポアソン比をσ、モード次数をp及びq(正の整数)とすると、以下の式(2)で板・膜振動型吸音構造の共振周波数を求め、求めた共振周波数を音響設計に利用することが行われている(周辺支持の場合)。
【数2】
【0016】
本実施形態においては、160〜315Hzバンド(1/3オクターブ中心周波数)を吸音するように、例えば、式(2)に基づいて以下のようにパラメータが設定される。
気体の密度ρ0 :1.225(kg/m3)
音速c0 :340(m/s)
振動体の密度ρ :940(kg/m3)
振動体の厚さt :0.0017(m)
気体層の厚さL :0.03(m)
筐体の長さa :0.1(m)
筐体の長さb :0.1(m)
振動体のヤング率E:1.0(GPa)
ポアソン比σ :0.4
モード次数 :p=q=1
【0017】
一方、式(2)においては、バネマス系の項(右辺第1項、すなわち式(1)の右辺)と屈曲系の項(右辺第2項)とが加算される。このため、式(2)により得られる共振周波数は、バネマス系の共振周波数より高いものとなり、吸音のピーク周波数を低く設定することが難しい場合がある。このような吸音構造においては、バネマス系による共振周波数と、板又は膜の弾性による弾性振動による屈曲系の共振周波数との関連性は十分に解明されておらず、低音域で高い吸音効果を奏する吸音構造が確立されていないのが実情である。
【0018】
本発明の発明者らは、屈曲系の基本振動周波数の値をfa(式(2)の右辺第2項)、バネマス系の共振周波数の値をfb(式(2)の右辺第1項)とした場合に、以下の式(3)の関係を満足するように上記パラメータを設定すれば、高い吸音効果が得られるという知見を得た。これにより、屈曲系の基本振動が背後の気体層のバネ成分と連成して、バネマス系の共振周波数と屈曲系の基本周波数との間の帯域に振幅の大きな振動が励振され(屈曲系共振周波数fa<ピーク周波数f<バネマス系基本周波数fb)、吸音率が高くなる。
【数3】
【0019】
さらに、上記パラメータを以下の式(4)に設定する場合、ピーク周波数がバネマス系の共振周波数より十分に小さくなる。この場合、低次の弾性振動のモードにより屈曲系の基本周波数がバネマス系の共振周波数より十分に小さく、300(Hz)以下の周波数の音を吸音する吸音構造として適しているという知見が得られた。
【数4】
このように、式(3)、(4)の条件を満足するように各種パラメータを設定することにより、ピーク周波数を低くした吸音構造を構成することができる。
【0020】
また、本発明の発明者らは、筐体11の内部空間に隔壁13を設けると、これを設けない場合に比べて板・膜振動吸音構造としての共振周波数(すなわち吸音周波数)が低下する、という知見を得た。すなわち、本実施形態の吸音構造10によれば、隔壁13を追加するという変更を行うだけで、内部空間の容積や吸音構造10全体としてのサイズを変えないでも共振周波数を低下させることが可能である。
【0021】
図4は、本実施形態の隔壁13の作用を示すために行われた実験の結果を示す図である。同図に示すグラフにおいて、横軸は周波数(Hz)であり、縦軸は吸音率である。ここにおいて、吸音率とは、2マイクロホン法(伝達関数法)により測定した垂直入射吸音率のことをいう。また、2マイクロホン法は、図5に示すスピーカSP、マイクロホンMIC1、MIC2及び音響管ATを用いて、マイクロホンMIC1及びMIC2の伝達関数に基づいて垂直入射吸音率を測定するものである。
【0022】
本実験に用いた吸音構造10は、上面及び底面が80×80mmの正方形であり、側面の高さが20mmのものである。また、隔壁13は、上面と底面の中間、すなわち上面又は底面から10mmの位置に設け、孔部13aの大きさ(直径)を4.5mmとした。筐体11及び隔壁13には、厚さ3mmのABS材を用い、振動体12には、比重940kg/m3、厚さ0.85mmのポリオレフィン系高分子膜を用いた。
【0023】
図4において、曲線C1は、本実施形態の隔壁13を設けた吸音構造10の吸音特性を示すものである。また、曲線C11は、吸音構造10から隔壁13を除いた板・膜振動吸音構造(以下「比較例1」という。)の吸音特性を示し、曲線C12は、吸音構造10の隔壁13に代えて孔部13aがない板を用いた板・膜振動吸音構造(以下「比較例2」という。)の吸音特性を示すものである。さらに、曲線C13は、比較例2の構成から第2空間側を除いた、高さが10mmの板・膜振動吸音構造(以下「比較例3」という。)の吸音特性を示すものである(図6参照)。
【0024】
図4に示すとおり、本実施形態の吸音構造10は、比較例1〜3の構成よりも吸音のピーク周波数が低くなる。吸音構造10は、比較例1の構成、すなわち隔壁13を設けない構成よりもピーク周波数が100Hz以上低くなり、比較例2又は3の構成と比較すると、比較例1の場合よりもさらに大きな割合でピーク周波数を低下させる。したがって、吸音構造10は、単に内部空間を複数の空間に隔てただけでは効果を奏さず、内部空間を隔てる隔壁に孔部を設けてこそ効果を奏する。
【0025】
板・膜振動吸音構造における共振周波数は、気体層の厚さ(振動体12と対向する方向の距離)と相関を有し、気体層が厚くなるほど共振周波数が低下する。したがって、板・膜振動吸音構造によって低い周波数の音を吸音しようとした場合、気体層を厚くするのが一般的な手法の一つである。しかし、吸音構造10によれば、気体層の厚さを変えないでも共振周波数を低下させることが可能である。よって、本実施形態の吸音構造10は、設置するスペース(特に厚さ)が制限される環境において低い周波数の音を吸音しようとする場合などに特に適したものである。
【0026】
また、本実施形態の吸音構造10は、孔部13aの大きさや数を異ならせることによって共振周波数や吸音率を異ならせることも可能である。つまり、この吸音構造10によれば、隔壁13の孔部13aを変更するだけで、内部空間の容積や吸音構造10全体としてのサイズを変えることなく、共振周波数や吸音率を必要に応じて調整することが可能である。
【0027】
図7及び図8は、本実施形態の孔部13aの作用を示すために行われた実験の結果を示す図である。本実験においては、図4に示した実験と同様の吸音構造10を用い、孔部13aの大きさを異ならせてその作用を検証した。だだし、振動体12には比重1210kg/m3、厚さ1.25mmの無機フィラー入りポリオレフィン系高分子膜の中央部に2.9gの集中質量を取り付けたものを用いた。
【0028】
図7において、曲線C21、C22、C23は、それぞれ、孔部13aを直径2.0mm(C21)、3.0mm(C22)、4.5mm(C23)の円形とした吸音構造10の吸音特性を示すものである。また、曲線C24、C25、C26は、それぞれ、上述した比較例1(C24)、比較例2(C25)、比較例3(C26)の吸音特性を示すものである。
【0029】
これらの図に示すように、吸音のピーク周波数には、孔部13aの直径が小さくなるほど低下する傾向が認められた。一方、吸音率には、孔部13aの直径が大きくなるほど上昇する傾向が認められた。したがって、本実施形態の吸音構造10は、孔部13aの大きさを異ならせることにより、種々の共振周波数や吸音率に対応することができるようになる。
【0030】
なお、本実施形態の吸音構造10は、上面のみならず底面をも振動板として作用させるものであってもよい。この場合においては、筐体11の底面を側面とは異なる材料(例えば、振動板12と同じ材料)で構成し、底面を振動しやすくさせてもよい。
【0031】
[第2実施形態]
図9は、本発明の第2の実施形態である吸音構造を示す図であり、本発明に係る吸音構造を孔部を含む切断面で切断した場合を示す断面図である。同図において、吸音構造20は、上述した第1実施形態と同様の筐体11及び振動体12を備える。隔壁23は、孔部23aを有し、内部空間を第1空間A1と第2空間A2とに分割する。本例において、隔壁23は、気体層の厚さ方向に設けられており、上面である振動体12と筐体11の底面とに接している。すなわち、隔壁23は、振動体12を第1空間A1に面する部分と第2空間A2に面する部分とに分けるような位置に設けられている。この場合において、隔壁23の位置は、第1空間A1と第2空間A2とが同一の形状になる位置(両空間が対称性を有する位置)であってもよいし、そうでなくてもよい。
【0032】
吸音構造20の構成は、1つの内部空間を2つに分割したものとみなすこともできるが、もともと2つである内部空間を孔部21aによって連通させたものとみなすこともできる。すなわち、吸音構造20の構成は、2つの板・膜振動吸音構造の1つの側面を共通の部材とし、孔部23aによって互いの内部空間の気体を流通させるようにした吸音構造群であるともいえる。
【0033】
内部空間、すなわち気体層の気体は、筐体及び振動体からなる空間に密閉された場合、その流動性が制限される。このような場合において、気体層の厚さ(上面から底面までの距離)が薄くなると、流動性の制限される度合いが増す。気体層の気体バネのバネ定数は、気体層が薄くなるにつれて大きくなるため、気体層が薄い場合は、気体層の気体バネが硬くなる方向に作用し、共振周波数の低下を妨げたり、振動体の振動の振幅を抑制するなどの悪影響が発生する。かかる作用は、特に、気体層が薄くなるほど顕著となる。
【0034】
一方、本実施形態の吸音構造20のように孔部23aが設けられると、気体層の気体が第1空間A1と第2空間A2とで密閉されている場合に比べ、気体層の気体の流動性の制限が緩和される。すなわち、吸音構造20によれば、上述した悪影響を少なくすることが可能である。よって、この吸音構造20は、気体層が比較的薄い場合(例えば、20mm以下)において、特に有利な構成であるともいえる。
【0035】
なお、部分空間は、そのすべてが振動体に面している必要はない。例えば、図10に示すように、第2空間A2の上面側に筐体21が面するような構成とし、振動体22が第1空間A1のみに面するようにしてもよい。
また、図9に示す構成において、第1空間A1に面する振動体と第2空間A2に面する振動体とを異なる組成(材質、厚さなど)にしてもよい。
【0036】
[第3実施形態]
図11は、本発明の第3の実施形態である吸音構造の外観を示す図である。本実施形態の吸音構造30は、第2実施形態の吸音構造20をさらに変形したものであり、内部空間を3以上の部分空間に分割するとともに、各々の部分空間に複数の孔部を備えるものである。吸音構造30は、上述した第1実施形態と同様の筐体11及び振動体12を備える。なお、同図の破線は、後述する隔壁33の位置を示している。
【0037】
図12は、吸音構造30から振動体12を除いたものを上面側から示す図である。すなわち、図12は、吸音構造30の内部空間を示す図である。筐体11は、振動体12とともに、吸音構造30の内部空間を外部空間と隔てる部材であり、吸音構造30の側面及び底面を構成する。すなわち、筐体11は、その上面に開口部を有し、この開口部において振動体12を支持する。隔壁33は、内部空間を16等分に区画する部材である。本実施形態の吸音構造30は、隔壁33により区画された16個の領域が、それぞれ板・膜振動吸音構造として機能するものであるともいえる。なお、隔壁33は、筐体11と同様に、振動体12と接してこれを支持している。
【0038】
図13は、吸音構造30を図12中のA−A線で切断した場合の断面図である。隔壁33は、同図に示すように、複数の孔部33aを有する。孔部33aは、隔壁33の各辺に12個ずつ設けられている。すなわち、孔部33aは、隔壁33の全体に72(12×6)個設けられており、各々の部分空間は、6個、9個又は12個の孔部33aにより他の部分空間と連通する。なお、図12においてハッチングで示されている部分には、すべて孔部23aが設けられている。
【0039】
本実施形態の吸音構造30の各部の寸法は、次のとおりである。筐体11は、上面からみたとき、321×321mmの正方形であり、高さは10mmである。筐体11及び隔壁33の厚さは、3mmである。すなわち、筐体11又は隔壁33を辺とする各区画は、76.5mm四方の正方形である。孔部33aは、幅15mm、高さ5mmの長方形であり、10mm間隔で設けられている。なお、振動体12は、筐体11の底面と同様の寸法であり、321×321mmの正方形である。
【0040】
図14は、本実施形態の孔部33aの作用を示すために行われた実験の結果を示す図である。なお、本実験は、第1実施形態の実験と同様の方法で実施したが、音響管の形状は吸音構造30の寸法に合わせて変更している。また、本実験においては、比較例として、吸音構造30からすべての孔部33aを除いたもの(すなわち、隔壁33に代えて孔部がない隔壁を用いたもの)を用いた。ここにおいて、曲線C3は、本実施形態の吸音構造30の吸音特性を示すものであり、曲線C31は、上述した比較例の吸音特性を示すものである。
【0041】
図14に示すように、本実施形態の構成においても、比較例の構成に比べ、吸音するピーク周波数の低下が認められた。また、本実施形態の構成においては、第1実施形態の場合と異なり、ピーク周波数が低下しても吸音率が低下せず、逆に上昇するという結果が得られた。すなわち、本実施形態の吸音構造30は、ピーク周波数の低下と吸音率の向上を両立できるという効果が認められた。
なお、吸音する周波数帯などの具体的な吸音特性は、各部の寸法や孔部33aの数に応じて異なる。
【0042】
[変形例]
本発明は、上述した実施形態と異なる形態での実施が可能である。以下に示す変形例は、本発明に適用可能な変形の一例である。なお、これらの変形例は、必要に応じて、各々を適宜に組み合わせて実施されてもよい。また、以下の説明においては、上述した実施形態と共通する構成に対して同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0043】
(1)変形例1
本発明に係る吸音構造は、孔部の位置及び大きさを問わない。また、孔部の数も、所望する吸音特性に応じて異ならせてよい。さらに、本発明に係る吸音構造は、孔部の数や大きさを変えられる機構を有していると、より望ましい。
【0044】
図15は、孔部を調節する調節機構を示す図である。この調節機構40は、円柱部材41と、リング部材42及び43とを備える。リング部材42及び43は、その内部に空洞を有する。リング部材42の空洞は、円柱部材41を隙間なく嵌め込めるように構成されており、リング部材43の空洞は、リング部材42を隙間なく嵌め込めるように構成されている。また、リング部材43の外径は、所定の孔部の直径と等しく、当該孔部に隙間なく嵌め込まれるように構成されている。
【0045】
図16は、上述した調節機構40の適用例を示す図である。いま、図16(a)に示すように、孔部44aを有する隔壁44があり、この孔部44aは、その直径がリング部材43の外径と等しいものとする。図16(b)に示すように、円柱部材41及びリング部材42が嵌め込まれたリング部材43をこの孔部44aに嵌め込むと、孔部44aが塞がれ、気体の流通が行われないようになる。つまり、図16(b)に示す構成で調節機構40を適用すれば、孔部を減らすことができる。
【0046】
また、図16(b)の状態から円柱部材41を取り外すと、図16(c)に示すように、調節機構40を適用しない場合よりも小さい直径の孔部を形成することができる。さらに、この状態からリング部材42を取り外せば、調節機構40を適用しない場合よりも小さく、かつ、図16(c)に示す場合よりも大きい直径の孔部を形成することができる。
【0047】
なお、本発明に係る調節機構は、図15に示す構成に限らない。例えば、リング部材をより多重に構成し、孔部の直径をより詳細に調整できるようにしてもよい。また、調整機構を取り付ける構成は、嵌め込むものでなくてもよい。
【0048】
(2)変形例2
本発明において、吸音構造の形状は、直方体状に限定されない。吸音構造の形状は、例えば、円柱状であってもよいし、ある一面を振動体としたピラミッド状の四面体(四角錐)や四角錐台であってもよい。また、上述した第2及び第3実施形態のように吸音構造を連結して設けるような場合にあっては、各々の吸音構造を蜂の巣状の六角柱にしてもよい。
【0049】
また、吸音構造を群として複数設ける場合にあっては、目的の吸音特性に応じて、各々の吸音構造の大きさや形状を異ならせ、その内部の部分空間の容積を異ならせてもよい。例えば、直方体状の吸音構造と円柱状の吸音構造を組み合わせてもよいし、大小の相似形の吸音構造を組み合わせてもよい。
【0050】
(3)変形例3
本発明において、孔部は、ヘルムホルツ共鳴器を構成するように変形してもよい。本発明に係る吸音構造をヘルムホルツ共鳴器としても機能させるためには、孔部に筒状の部材を設ければよい。
【0051】
図17は、本変形例に係る隔壁の構成を示す断面図であり、第1実施形態の隔壁13を変形したものである。同図において、隔壁130は、第1実施形態の孔部13aに相当する位置に筒状部材131を備える点が隔壁13と異なる。筒状部材131は、隔壁130がなす平面と交差する方向に延びる筒状の部材であり、孔部13aに嵌め込まれるようにして設けられている。筒状部材131は、所定の長さ及び断面積を有する。長さ及び断面積の値は、この吸音構造による共鳴周波数を決定付ける物理量の一部であり、目的の吸音特性に応じて適宜定められる。筒状部材131は、ヘルムホルツ共鳴器における頚部(ネック部)として機能する。
【0052】
隔壁130を有する吸音構造は、板・膜振動吸音構造であると同時に、ヘルムホルツ共鳴器でもある。よって、かかる吸音構造は、板・膜振動吸音構造のみとして機能する構成や、ヘルムホルツ共鳴器のみとして機能する構成に比べ、吸音効率を向上させることが可能である。また、かかる吸音構造は、気体バネを形成する空間と共鳴をするための空間とを共通にするため、これらを別々に設ける場合や単純に組み合わせる場合に比べ、構成を簡素にし、全体の大型化を抑制することが可能である。
【0053】
なお、複数の孔部を有する吸音構造に本変形例を適用する場合には、筒状部材の長さ又は断面積をそれぞれ異ならせたり、あるいは、筒状部材を有する孔部と筒状部材を有しない孔部とを設けたりしてもよい。
【0054】
また、筒状部材は、これを伸縮可能な構成にしてもよい。このようにすれば、ヘルムホルツ共鳴器における頚部の長さが可変となるため、ヘルムホルツ共鳴器による共鳴周波数を必要に応じて異ならせることが可能となる。したがって、この構成によれば、吸音対象である音が状況に応じて変わる場合であっても、吸音構造自体を変えずに吸音特性のみを変えることが可能である。
【0055】
図18は、伸縮可能な筒状部材を例示する断面図である。この筒状部材131は、隔壁13に固定された第1部材1311と、第2部材1312とにより構成される。第2部材1312は、例えば、ねじ山を設けるなどして、第1部材1311に嵌め込まれるように構成されており、図中の矢印が示す方向にその位置を変えることができる。なお、第2部材1312は、第1部材1311の内部においてスライドするように移動する構成であってもよい。この場合においては、第2部材1312の移動に対してある程度の抵抗が生じるようにし、第2部材1312が自然に移動することがないようにすることが望ましい。
【0056】
(集中質量に関する記載)
(4)変形例4
本発明において、振動体は、その全体が一様な構成であってもよいし、その一部が他の部分と異なる質量を有する構成であってもよい。この構成において、当該一部は、他の部分と異なる密度を有するものであってもよいし、他の部分と同じ密度だが厚さが異なるものであってもよい。さらには、当該一部は、質量(集中質量)を付与するために他の部材を接着等により取り付けた構成であってもよい。なお、当該一部は、振動体の中央にあると望ましい。
【0057】
図19は、底面が100mm×100mmの正方形で厚さが10mmの空気層を形成する筐体11に、100mm×100mmの正方形で厚さが0.85mmの振動体12を固着し、振動体12の中央部(大きさ20mm×20mm、厚さ0.85mm)の面密度を変化させた際の吸音構造10の吸音率のシミュレーション結果を示す図である。なお、シミュレーションは、JIS A1405−2(音響管による吸音率及びインピーダンスの測定−第2部:伝達関数法)に従って吸音構造10を配置した音響室の音場を有限要素法により求め、その伝達関数より吸音特性を算出するものである。なお、本シミュレーションにおいては、振動体12の質量成分による作用に注目し、隔壁13の作用を除外することを目的に、隔壁13を設けない構成を用いた。
【0058】
図19に示すシミュレーションに用いた振動体12の構成は、以下のとおりである。なお、面密度及び平均密度の単位は、いずれも「g/m2」である。また、振動体12のうち中央部を除いた部分の面密度は、いずれも799(g/m2)である。
(1)中央部の面密度:399.5、振動体の平均密度:783
(2)中央部の面密度:799、振動体の平均密度:799
(3)中央部の面密度:1199、振動体の平均密度:815
(4)中央部の面密度:1598、振動体の平均密度:831
(5)中央部の面密度:2297、振動体の平均密度:863
【0059】
図19に示すように、吸音率は、300〜500Hzの間と、700Hz付近において高くなっている。700Hz付近の吸音率のピークは、振動体12の質量成分と空気層のバネ成分によって形成されるバネマス系の共振によるものである。本シミュレーションの吸音構造においては、バネマス系の共振周波数での吸音率をピークとして音が吸音されており、中央部の面密度を大きくしても、振動体12全体としての質量は大きく変わらないので、バネマス系の共振周波数も大きくは変わらない。
【0060】
一方、300〜500Hzの間での吸音率のピークは、振動体12の屈曲振動によって形成される屈曲系の共振によるものである。本シミュレーションの吸音構造においては、屈曲系の共振周波数での吸音率が低音域側のピークとして表れており、中央部の面密度を異ならせると、屈曲系の共振周波数がバネマス系の共振周波数よりも大きく変化する。また、屈曲系の共振周波数は、図示のとおり、中央部の面密度が大きくなるほど低くなる。
【0061】
一般に、屈曲系の共振周波数は、振動体12の弾性振動を支配する運動方程式で決定され、振動体12の密度(及び面密度)に反比例する。また、屈曲系の共振周波数は、固有振動の腹(振幅が極大値となる場合)の密度の影響を強く受ける。本シミュレーションにおいては、1×1の固有モードの腹となる領域(すなわち中央部)を異なる面密度で形成したことにより、屈曲系の共振周波数が変化したのである。
【0062】
図19に示すシミュレーション結果は、振動体12の中央部の面密度をその他の部分の面密度より大きくすると、吸音のピークとなる周波数のうち、低音域側の吸音率のピークがさらに低音域側へ移動することを表している。したがって、中央部の面密度を変更すれば、吸音のピークとなる周波数の一部をさらに低音域側又は高音域側に移動(シフト)させることが可能である。
【0063】
以上のことから、本発明に係る吸音構造においては、中央部の面密度を変えることによって、吸音のピーク周波数を変える(シフトさせる)ことができるといえる。すなわち、本発明に係る吸音構造によれば、振動体の中央部の質量を異ならせるだけで、吸音構造全体としての質量を大きく変えることなく、より低い周波数の音を吸音することができるようになる。これにより、本発明に係る吸音構造は、吸音対象の音の周波数が変化する場合においても、振動体の中央部の質量を変化させるだけで、音の変化に対応することが可能となる。
【0064】
(5)変形例5
本発明は、上述した吸音構造又は吸音構造群を1又は複数備える音響室としても実施可能である。かかる音響室は、例えば、スピーカや防音室などの、楽音の聴取の用に供される物品や構造物である。また、船舶、飛行機、車両等の乗り物の壁面や、風呂などの構造物の壁面に本発明を適用し、音響室を構成するようにしてもよい。本発明は、特定の周波数の音が騒音として生じるような場所に適用するに好適なものであるため、かかる物品や構造物に用いると、騒音の抑制に一定の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】吸音構造の外観を示す図
【図2】吸音構造を示す断面図
【図3】隔壁を示す図
【図4】実験結果を示す図
【図5】2マイクロホン法(伝達関数法)による測定方法を示す図
【図6】吸音構造とその比較例を示す図
【図7】実験結果を示す図
【図8】実験結果を示す図
【図9】吸音構造を示す断面図
【図10】吸音構造を示す断面図
【図11】吸音構造の外観を示す図
【図12】隔壁を示す図
【図13】隔壁を示す断面図
【図14】実験結果を示す図
【図15】孔部を調節する調節機構を示す図
【図16】調節機構の適用例を示す図
【図17】筒状部材(ヘルムホルツ共鳴器)を有する隔壁を示す断面図
【図18】伸縮可能な筒状部材を示す断面図
【図19】吸音率のシミュレーション結果を示す図
【符号の説明】
【0066】
10、20、30…吸音構造、11、21、31…筐体、12、22、32…振動体、13、23、33、44…隔壁、40…調節機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有し、内部空間を形成する筐体と、
前記開口部を塞いで前記内部空間を外部空間と隔てる板状又は膜状の振動体と、
前記内部空間を複数の部分空間に分割する隔壁であって、ある部分空間から他の部分空間への気体の流通を許容する孔部を有する隔壁と
を備えることを特徴とする吸音構造。
【請求項2】
前記隔壁が、前記振動体と対向するように設けられることを特徴とする請求項1に記載の吸音構造。
【請求項3】
前記隔壁が、前記振動体を第1の部分空間に面する第1の部分と第2の部分空間に面する第2の部分とに分ける位置に設けられることを特徴とする請求項1に記載の吸音構造。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の吸音構造を複数備えることを特徴とする吸音構造群。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の吸音構造又は請求項4に記載の吸音構造群を備えることを特徴とする音響室。
【請求項1】
開口部を有し、内部空間を形成する筐体と、
前記開口部を塞いで前記内部空間を外部空間と隔てる板状又は膜状の振動体と、
前記内部空間を複数の部分空間に分割する隔壁であって、ある部分空間から他の部分空間への気体の流通を許容する孔部を有する隔壁と
を備えることを特徴とする吸音構造。
【請求項2】
前記隔壁が、前記振動体と対向するように設けられることを特徴とする請求項1に記載の吸音構造。
【請求項3】
前記隔壁が、前記振動体を第1の部分空間に面する第1の部分と第2の部分空間に面する第2の部分とに分ける位置に設けられることを特徴とする請求項1に記載の吸音構造。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の吸音構造を複数備えることを特徴とする吸音構造群。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の吸音構造又は請求項4に記載の吸音構造群を備えることを特徴とする音響室。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−97145(P2010−97145A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270323(P2008−270323)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
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