説明

吹錬方法

【課題】サブランスへの地金付着を抑制し、生産効率の低下を防止する。
【解決手段】吹錬中の温度・成分を、サブランスを用いて測定しつつ吹錬する方法である。メインランス2の軸心とメインランス2の酸素吹出ノズル孔2aの中心を結んだ線を鉄浴面に投影した線L1と、メインランス2の酸素吹出ノズル孔2aの中心と浸漬位置におけるサブランス3の軸心を結んだ線を鉄浴面に投影した線L2とのなす角度θを10°以上とする。吹錬中、サブランス3により温度・成分測定を行う場合に、メインランス2の酸素流量を低下させない。
【効果】サブランス使用時のメインランスの酸素流量を低下することなくサブランスへの地金付着の減少が可能となり、生産ピッチの低下も抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉型精錬炉(以下、転炉という。)において生産効率を低下させないで吹錬する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転炉吹錬において、吹錬中の温度や成分の情報を得るためにサブランスによる測温・サンプリングを行うことが一般的になっており、高精度に吹錬制御を行うためには欠かせない技術となっている。このサブランスによる測温やサンプリングを、操業を阻害せずに実施することは高い生産効率を追求するためには非常に重要である。
【0003】
サブランス使用時の主な操業阻害要因はサブランスへの地金付着であり、このサブランスへの地金付着を抑制する方法として、特許文献1では転炉排ガス流量とガス分析値から脱炭速度が顕著に変化する脱炭遷移点を予測し、予測した脱炭遷移点以降でサブランスを使用する方法が開示されている。加えて,この方法ではサブランス使用時のメインランス酸素流量や底吹きガス流量を減少させることで更なる地金付着抑制を図っている。
【特許文献1】特開平1−263213号公報
【0004】
また、特許文献2ではレススラグ吹錬におけるサブランス使用時のメインランスの酸素流量と底吹きガス流量の最適な減少方法を開示している。
【特許文献2】特開平4−147913号公報
【0005】
さらに、特許文献3では振動装置による地金除去方法が、また、特許文献4ではスクレ−パによる地金除去方法が開示されている。
【特許文献3】特開平10−265823号公報
【特許文献4】特開2002−146427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1のように、脱炭遷移点以降でサブランスを使用することは、脱炭最盛期ではないためCOガスによるスピッチングが減少し、サブランスへの地金付着抑制に効果的である。
【0007】
しかしながら、この技術は脱炭遷移点前に吹き止める高炭材へは適用することができない。
また、サブランス使用時にメインランスの酸素流量を減少させることは生産効率の低下につながるという問題もある。この点は特許文献2で開示された方法も同じである。
【0008】
また、特許文献3や特許文献4で開示された方法は、どちらの方法も付着した地金を除去するための設備の設置コストが必要となるのに加えて、強固な地金付着に対しては効果が少ない。
【0009】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の技術では、酸素流量減少により生産効率が低下するという点(特許文献1、2)、および設備設置コストが必要で、強固な地金付着に対しては効果が少ないという点(特許文献3、4)である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の吹錬方法は、
非常に安価な方法でサブランスへの地金付着を抑制するために、
吹錬中の温度・成分を、サブランスを用いて測定しつつ吹錬する方法において、
メインランス軸心とメインランス酸素吹出ノズル孔の中心を結んだ線を鉄浴面に投影した線と、メインランス酸素吹出ノズル孔の中心と浸漬位置におけるサブランス軸心を結んだ線を鉄浴面に投影した線とのなす角度を10°以上とすることを最も主要な特徴としている。
【0011】
本発明の吹錬方法において、吹錬中、サブランスにより温度・成分測定を行う場合に、メインランスの酸素流量を低下させないようにすれば、生産効率の低下を防止することもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サブランスにて吹錬中の温度・成分を測定する吹錬方法において、サブランスへの地金付着を減少させることが可能となる。また、この方法を用いることで、サブランス使用時のメインランスの酸素流量を低下することなくサブランスへの地金付着を減少させることが可能となり、生産ピッチの低下も抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の技術的思想の説明とともに、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を用いて詳細に説明する。
サブランス使用時の主な操業阻害は地金付着である。そこで、発明者らは、サブランスへの地金付着を減少させるために、転炉吹錬時の地金飛散はメインランス軸心と酸素吹出ノズル孔の中心を結んだ方向に多いことに着目し、実験を重ねた。
【0014】
図1に転炉1の断面図を示す。図1中の2はメインランス、3はサブランス、4は転炉1の底部から噴出される底吹きガス、5はメインランス2から噴射される酸素ジェットを示す。
【0015】
また、図2はメインランス2の軸心2aとメインランス2の酸素吹出ノズル孔2bの中心2baを結んだ線を鉄浴面6へ投影した線L1と、メインランス2の酸素吹出ノズル孔2bの中心2baと浸漬位置におけるサブランス3の軸心3aを結んだ線を鉄浴面6へ投影した線L2とのなす角度θについて説明する図である。
【0016】
図3は、発明者らが前記角度θとサブランスの地金付着頻度指数の関係について実験した結果を示した図である。図3より明らかなように、サブランスへの地金付着頻度は、前記角度θが10°以上の場合に著しく減少している。
【0017】
これは、転炉吹錬時の地金飛散はメインランスの軸心と酸素吹出ノズル孔の中心を結んだ方向に多いからである。従って、前記角度θを10°以上とすることにより、非常に安価な方法でサブランスに付着する地金を減少させることが可能であることが分かる。但し、酸素吹出ノズル孔が複数あるメインランスの場合は、全てのノズル孔とサブランス浸漬位置について、前記角度θを10°以上とする必要がある。
【0018】
本発明の吹錬方法は、発明者らの前記実験結果に基づく知見に基づいてなされたものであり、
吹錬中の温度・成分を、サブランスを用いて測定しつつ吹錬する方法において、
メインランス軸心とメインランス酸素吹出ノズル孔の中心を結んだ線を鉄浴面に投影した線と、メインランス酸素吹出ノズル孔の中心と浸漬位置におけるサブランス軸心を結んだ線を鉄浴面に投影した線とのなす角度を10°以上とするものである。
【0019】
ところで、サブランス使用時にメインランスの酸素流量を低下させることでサブランスへの地金付着を抑制する従来方法では、酸素流量を低下させるために生産ピッチが低下するという問題点もあった。
【0020】
しかしながら、前記の本発明の吹錬方法の場合、サブランス使用時のメインランス酸素流量を低下させることなく吹錬を行うと、サブランスへの地金付着が減少するだけではなく、酸素流量低下による生産ピッチの低下を抑制することが可能であることも判明した。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の吹錬方法の効果を確認するために行った実施結果について説明する。
精錬炉として上底吹き設備を有する転炉を用い、210tonの溶鋼を吹錬した。上吹きは酸素ガスを、底吹きは不活性ガスを使用した。メインランスは酸素吹出ノズル孔が4〜6個のものを用いた。また、サブランスは吹錬末期(吹錬全体の85〜90%)のタイミングで使用した。
【0022】
下記表1に、メインランスの軸心と酸素吹出ノズル孔の中心を結んだ線を鉄浴面に投影した線と、メインランス酸素吹出ノズル孔の中心と浸漬位置におけるサブランス軸心を結んだ線を鉄浴面に投影した線とのなす角度θと、メインランスの酸素流量と、サブランスへの地金付着までのヒート数を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
発明例1〜3は請求項2に対応する例で、前記角度θを10°以上とすることにより、著しくサブランスへの地金付着が減少した。また、サブランス使用時の酸素流量を低下させていないので、生産ピッチも低下しなかった。
【0025】
また、発明例4は請求項1に対応する例で、前記角度θを10°以上とし、サブランス使用時の酸素流量を低下させた例である。この発明例4では、サブランスへの地金付着は減少したが、サブランス使用時の酸素流量を低下させた分だけ生産ピッチが低下した。
【0026】
一方、比較例1は、前記角度θは0°で、サブランス使用時の酸素流量を低下させない場合の例である。この比較例1では、生産ピッチは低下しないがサブランスへの地金付着が非常に多くなった。
【0027】
また、比較例2は、前記角度θは0°で、サブランス使用時の酸素流量を低下させる場合の例である。この比較例2では、比較例1程ではないがサブランスへの地金付着も多く、生産ピッチも低下した。
【0028】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範囲内で、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】転炉の断面図で、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA−A断面図を示す。
【図2】メインランス軸心とメインランス酸素吹出ノズル孔の中心を結んだ線を鉄浴面へ投影した線と、メインランス酸素吹出ノズル孔の中心と浸漬位置におけるサブランス軸心を結んだ線を鉄浴面へ投影した線とのなす角度θについて説明する図である。
【図3】発明者らが前記角度θとサブランスの地金付着頻度指数の関係について調査した結果を示した図である。
【符号の説明】
【0030】
1 転炉
2 メインランス
2a 軸心
2b 酸素吹出ノズル孔
2ba 中心
3 サブランス
3a 軸心


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吹錬中の温度・成分を、サブランスを用いて測定しつつ吹錬する方法において、
メインランス軸心とメインランス酸素吹出ノズル孔の中心を結んだ線を鉄浴面に投影した線と、
メインランス酸素吹出ノズル孔の中心と浸漬位置におけるサブランス軸心を結んだ線を鉄浴面に投影した線とのなす角度を10°以上とすることを特徴とする吹錬方法。
【請求項2】
吹錬中、サブランスにより温度・成分測定を行う場合に、メインランスの酸素流量を低下させないことを特徴とする請求項1に記載の吹錬方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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