説明

呈味改善用組成物、これを添加した飲食物、及びこれらの製造方法

【課題】飲食物の呈味を効果的に改善できる呈味改善用組成物、これを添加した飲食物、及びこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る呈味改善用組成物は、5,5−ジメチル−2(5H)−フラノン、γ-ブチロラクトン及びジヒドロ−2−メチル−3(2H)−フラノンのうち少なくとも一つを有効成分として含有する。本発明の一実施形態に係る飲食物には、5,5−ジメチル−2(5H)−フラノン、γ-ブチロラクトン及びジヒドロ−2−メチル−3(2H)−フラノンのうち少なくとも一つが呈味改善の有効成分として添加される。本発明の一実施形態に係る飲食物の製造方法においては、5,5−ジメチル−2(5H)−フラノン、γ-ブチロラクトン及びジヒドロ−2−メチル−3(2H)−フラノンのうち少なくとも一つを呈味改善の有効成分として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呈味改善用組成物、これを添加した飲食物、及びこれらの製造方法に関し、特に、特定の化合物を有効成分として含有する呈味改善用組成物、これを添加した飲食物、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料や食品の呈味を改善するための添加用組成物として、様々なものが提案されている。すなわち、例えば、特許文献1には、麦芽を原料とする低カロリー醸造酒の製造方法において甘味料を添加することが記載されている。
【特許文献1】特開2003−47453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、本発明の発明者らは独自に鋭意検討を重ねた結果、5,5−ジメチル−2(5H)−フラノン、γ-ブチロラクトン、及びジヒドロ−2−メチル−3(2H)−フラノンがそれぞれ飲食物の呈味を効果的に改善できることを見出した。
【0004】
本発明は、このような発明者らによる独自の知見に基づいて為されたものであり、飲食物の呈味を効果的に改善できる呈味改善用組成物、これを添加した飲食物、及びこれらの製造方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る呈味改善用組成物は、5,5−ジメチル−2(5H)−フラノン、γ-ブチロラクトン及びジヒドロ−2−メチル−3(2H)−フラノンのうち少なくとも一つを有効成分として含有することを特徴とする。本発明によれば、飲食物の呈味を効果的に改善できる呈味改善用組成物を提供することができる。
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る飲食物は、5,5−ジメチル−2(5H)−フラノン、γ-ブチロラクトン及びジヒドロ−2−メチル−3(2H)−フラノンのうち少なくとも一つが呈味改善の有効成分として添加されたことを特徴とする。本発明によれば、呈味が効果的に改善された飲食物を提供することができる。
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る飲食物の製造方法は、5,5−ジメチル−2(5H)−フラノン、γ-ブチロラクトン及びジヒドロ−2−メチル−3(2H)−フラノンのうち少なくとも一つを呈味改善の有効成分として使用することを特徴とする。本発明によれば、呈味が効果的に改善された飲食物を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではない。
【0009】
本実施形態に係る第一の呈味改善用組成物(以下、「組成物A」という。)は、5,5−ジメチル−2(5H)−フラノン(以下、「MFN」という。)を有効成分として含有する。MFNは、下記の式(I)で示される化合物である。
【化1】

【0010】
MFNとしては、例えば、公知の合成方法(例えば、”A new, convenjent synthesis of 5,5−dialkyl−2(5H)−furanones”, Synthesis (1979),(8).607−9を参照)に従って化学的に合成されたMFNを用いることができる。すなわち、例えば、下記の式(1)により示される化学反応を利用してMFNを得ることができる。
【化2】

【0011】
また、MFNとしては、例えば、植物から得られた天然のMFNを用いることもできる。すなわち、天然のMFNは、例えば、ホップ等、MFNを含有する植物の抽出物から得ることができる。この場合、クロマトグラフィー等の公知の方法により、抽出物のうちMFNを含有する分画を選択的に分取することにより、MFNを効率よく得ることができる。
【0012】
本発明の発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、MFNが、飲食物の呈味を改善する有効成分として有用であることを独自に見出した。すなわち、飲食物にMFNを添加することによって、当該飲食物にコクを付与するとともに、総合的な呈味を向上させることができる。このMFNによる呈味改善効果は、例えば、飲食物の突出した味を緩和することで、全体としての呈味のバランスを整える効果であるということができる。
【0013】
本実施形態に係る第二の呈味改善用組成物(以下、「組成物B」という。)は、γ-ブチロラクトン(以下、「GBL」という。)を有効成分として含有する。GBLは、下記の式(II)で示される化合物である。
【化3】

【0014】
GBLとしては、例えば、公知の合成方法に従って化学的に合成されたGBLを用いることができる。すなわち、例えば、市販されているGBLを用いることができる。
【0015】
本発明の発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、GBLが、飲食物の呈味を改善する有効成分として有用であることを独自に見出した。すなわち、飲食物にGBLを添加することによって、当該飲食物にコクを付与するとともに、総合的な呈味を向上させることができる。
【0016】
本実施形態に係る第三の呈味改善用組成物(以下、「組成物C」という。)は、ジヒドロ−2−メチル−3(2H)−フラノン(以下、「HMF」という。)を有効成分として含有する。HMFは、下記の式(III)で示される化合物である。
【化4】

【0017】
HMFとしては、例えば、公知の合成方法に従って化学的に合成されたHMFを用いることができる。すなわち、例えば、市販されているHMFを用いることができる。
【0018】
本発明の発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、HMFが、飲食物の呈味を改善する有効成分として有用であることを独自に見出した。すなわち、飲食物にHMFを添加することによって、当該飲食物にコクを付与するとともに、総合的な呈味を向上させることができる。
【0019】
以下の説明においては、組成物A、組成物B、組成物Cを特に区別する必要がない場合には、これらを総称して「本組成物」という。また、MFN、GBL、HMFを特に区別する必要がない場合には、これらを総称して「本化合物」という。
【0020】
本組成物に含有される本化合物の濃度は、本化合物がコク付与等の呈味改善の有効成分として機能し得る濃度であれば特に限られないが、本化合物の濃度が所定値以上であることが好ましい。すなわち、本組成物が所定以上の濃度で本化合物を含有する場合には、例えば、飲食物に対する本組成物の添加量を少量に抑えつつ、当該飲食物の呈味改善効果を確実に発揮することができる。
【0021】
具体的に、組成物Aに含有されるMFNの濃度は、例えば、20ppm以上であることが好ましく、100ppm以上であることがより好ましい。なお、1ppmは、1gの組成物中に1×10−6gの本化合物が含有される場合の濃度である。組成物AがMFNを20ppm以上の濃度で含有することにより、当該組成物Aは、飲食物に対するコク付与効果等の呈味改善効果を効果的に発揮することができる。そして、組成物Aに含有されるMFNの濃度をさらに高めることによって、組成物Aは、コク付与効果等の呈味改善効果をより効果的に発揮することができる。
【0022】
また、組成物Bに含有されるGBLの濃度は、例えば、20ppm以上であることが好ましく、100ppm以上であることがより好ましく、500ppm以上であることが特に好ましい。組成物BがGBLを20ppm以上の濃度で含有することにより、当該組成物Bは、飲食物に対するコク付与効果等の呈味改善効果を効果的に発揮することができる。そして、組成物Bに含有されるGBLの濃度をさらに高めることによって、組成物Bは、コク付与効果等の呈味改善効果をより効果的に発揮することができる。
【0023】
また、組成物Cに含有されるHMFの濃度は、例えば、100ppm以上であることが好ましく、500ppm以上であることがより好ましく、1500ppm以上であることが特に好ましい。組成物CがHMFを100ppm以上の濃度で含有することにより、当該組成物Cは、飲食物に対するコク付与効果等の呈味改善効果を効果的に発揮することができる。そして、組成物Cに含有されるHMFの濃度をさらに高めることによって、組成物Cは、コク付与効果等の呈味改善効果をより効果的に発揮することができる。
【0024】
本組成物は、本化合物に加えて、そのコク付与効果等の呈味改善効果が損なわれない限度で、他の成分や溶媒を含有することができる。すなわち、本組成物は、例えば、本化合物によるコク付与効果等の呈味改善効果が損なわれない限度で、pH調整剤、酸化防止剤、着色料、香料等を含有することができる。
【0025】
本組成物は、目的に応じて様々な形態の製品とすることができる。すなわち、本組成物は、例えば、溶液、ペースト、粉末、タブレットやカプセル等の錠剤とすることができる。
【0026】
次に、本実施形態に係る飲食物(以下、「本飲食物」という。)について説明する。本飲食物は、本化合物が呈味改善の有効成分として添加された経口摂取可能なものであれば特に限られず、例えば、飲料、食品又は調味料である。すなわち、飲料、食品又は調味料の製造過程において本化合物を呈味改善の有効成分として添加することにより、本飲食物を得ることができる。また、製造された飲料、食品又は調味料に対して本化合物を呈味改善の有効成分として添加することによっても、本飲食物を得ることができる。
【0027】
本飲食物は、例えば、本化合物が呈味改善の有効成分として添加された飲料(以下、「本飲料」という。)とすることができる。本飲料は、飲用に供されるものであれば特に限られず、アルコール飲料や非アルコール飲料等、任意の種類の飲料とすることができる。
【0028】
すなわち、本飲料は、例えば、発泡性アルコール飲料とすることができる。具体的に、例えば、本飲料は、その原料中に占める麦芽の割合が50重量%以上である発泡性アルコール飲料(いわゆるビール)、その原料中に占める麦芽の割合が50重量%未満である発泡性アルコール飲料又は原料の一部として麦芽を用いることなく製造される発泡性アルコール飲料(例えば、いわゆる発泡酒等)とすることができる。
【0029】
また、本飲料は、非発泡性飲料とすることができる。すなわち、この場合、本飲料は、例えば、緑茶、コーヒー、果汁飲料等の非発泡性の非アルコール飲料とすることができる。また、本飲料は、非発泡性のアルコール飲料とすることができる。すなわち、本飲料は、ワイン、焼酎、ブランデー等の炭酸ガスを含有しないアルコール飲料とすることができる。また、本飲料は、スパークリングワイン等、炭酸ガスを含有するアルコール飲料であって、発泡性アルコール飲料が有するほどの高い泡立ち特性や泡もち特性を有しないアルコール飲料とすることができる。
【0030】
また、本飲料は、本化合物が呈味改善の有効成分として添加された低糖飲料とすることができる。ここで、低糖飲料とは、含有される糖質の濃度が2.5g/100mL以下の飲料をいい、いわゆる無糖の飲料もこれに含まれる。なお、飲料に含有される糖質の量は、当該飲料に含まれる水分を除去して得られる固形分の総重量から、当該固形分に含まれる灰分、タンパク質、脂質、及び食物繊維の重量の合計を減じた重量として算出することができる。
【0031】
すなわち、本飲料は、例えば、低糖発泡性アルコール飲料等の低糖アルコール飲料とすることができる。また、本飲料は、例えば、低糖コーヒー、低糖茶等の低糖非アルコール飲料とすることができる。これらの場合、本飲料は、低糖でありながら、本化合物に由来するコクが効果的に付与された飲料とすることができる。
【0032】
ここで、低糖発泡性アルコール飲料は、例えば、その製造の発酵工程において、発酵液中の糖質濃度が十分に低下するまで酵母によるアルコール発酵を進行させることにより得ることができる。このため、従来、低糖発泡性アルコール飲料は、コクに乏しく、呈味のバランスが必ずしも良好でないものとならざるを得なかった。
【0033】
これに対し、本化合物が添加された低糖発泡性アルコール飲料は、低糖でありながら、十分なコクを備え、呈味のバランスにも優れたものとすることができる。なお、本化合物を添加することにより、低糖発泡性アルコール飲料以外の低糖飲料についても、同様の効果が得られる。
【0034】
また、本飲食物は、例えば、本化合物が呈味改善の有効成分として添加された食品(以下、「本食品」という。)とすることができる。本食品は、食用に供されるものであれば特に限られず、任意の種類の食品とすることができる。
【0035】
すなわち、本食品は、例えば、ゼラチンや寒天を用いて製造されるゼリーとすることができる。具体的に、例えば、本食品は、上述したような発泡性アルコール飲料をゼラチンや寒天で固形化したゼリーとすることができる。この場合、発泡性アルコール飲料に特有の香味を有することに加え、本化合物に由来する特有のコクが際立ったゼリーとすることができる。
【0036】
また、本飲食物は、例えば、本化合物が呈味改善の有効成分として添加された調味料(以下、「本調味料」という。)とすることができる。本調味料は、飲料又は食品の呈味を調整するために使用されるものであれば特に限られない。具体的に、例えば、本調味料は、本化合物が呈味改善の有効成分として添加された醤油又は味噌とすることができる。
【0037】
本飲食物に添加される本化合物の濃度は特に限られず、添加の対象とする飲料が予め備える特性に応じて、本飲食物が所望の呈味を備えることのできる任意の濃度とすることができる。すなわち、本化合物の添加濃度は、例えば、本飲食物が好ましいコクを備えることのできる濃度とすることができる。なお、「添加濃度」は、添加の対象とする飲食物の量に対する、添加される本化合物の量の割合である。
【0038】
具体的に、MFNの添加濃度は、例えば、10ppb以上、100ppb以下であることが好ましく、10ppb以上、80ppb以下であることがより好ましく、10ppb以上、60ppb以下であることが特に好ましい。なお、1ppbは、1gの組成物中に1×10−9gの本化合物が含有される場合の濃度である。添加濃度を10ppb以上、100ppb以下とすることにより、MFNは、飲食物に対するコク付与効果を確実に発揮できるとともに、飲食物の呈味のバランスを好ましく改善することができる。また、MFNの添加濃度は、20ppb以上であることがより好ましく、40ppb以上であることが特に好ましい。上述の範囲内でMFNの添加濃度をさらに高めることによって、MFNは、コク付与効果等の呈味改善効果をより確実に発揮することができる。
【0039】
また、GBLの添加濃度は、例えば、10ppb以上、200ppb以下であることが好ましく、50ppb以上、200ppb以下であることがより好ましい。GBLの添加濃度を10ppb以上、200ppb以下とすることにより、GBLは、本飲食物に対するコク付与効果を確実に発揮できるとともに、飲食物の呈味のバランスを好ましく改善することができる。また、上述の範囲内でGBLの添加濃度を高めることによって、GBLは、コク付与効果等の呈味改善効果をより確実に発揮することができる。
【0040】
また、HMFの添加濃度は、例えば、10ppb以上、200ppb以下であることが好ましく、50ppb以上、200ppb以下であることがより好ましく、150ppb以上、200ppb以下であることが特に好ましい。添加濃度を10ppb以上、200ppb以下とすることにより、HMFは、本飲食物を確実に発揮できるとともに、飲食物の呈味のバランスを好ましく改善することができる。また、上述の範囲内でHMFの添加濃度を高めることによって、HMFは、コク付与効果等の呈味改善効果をより確実に発揮することができる。
【0041】
本飲食物に添加される本化合物の濃度が高いほど、本化合物のコク付与効果は増大する。一方、本飲食物に添加される本化合物の濃度が高すぎると、本化合物の呈味改善効果がかえって低下する場合がある。この場合、本化合物の添加濃度は、例えば、添加の対象となる飲食物の種類に応じて、本化合物が所望の呈味改善効果を奏することのできる所定の範囲内とすることが好ましい。
【0042】
次に、本飲食物の製造方法について説明する。本飲食物の製造方法においては、本化合物を呈味改善の有効成分として使用する。すなわち、本飲食物の製造方法においては、製造工程の途中の原料に対して、本化合物を呈味改善の有効成分として添加する。本化合物を添加するタイミングや、本化合物の添加量は、製造する本飲食物の特性等、製造条件に応じて、最終的に製造される飲食物が所望のコク等、所望の呈味を備えることができるように適宜決定することができる。
【0043】
次に、本化合物を有効成分として含有する本組成物、本組成物が添加された本飲料、本組成物及び本飲料の製造方法について、具体的な例を示す。
【0044】
[実施例1]
上記の式(1)により示される化学反応を利用して、MFNを化学的に合成した。すなわち、式(1)に示す化合物(IV)にメタノール(CHOH)を添加して45℃で16時間反応させることにより、式(1)に示す化合物(V)を得た。次いで、この化合物(V)に臭化メチルマグネシウム/テトラヒドロフラン溶液(CHMgBr/THF)を添加するとともに、塩酸(HCl)でpHを2に調整し、0〜5℃で反応させることにより式(1)に示す化合物(VI)を得た。そして、この化合物(VI)を150℃に加熱することにより、式(1)に示す化合物(I)(すなわち、MFN)を得た。こうして、化学的に合成されたMFNの結晶を得た。この結晶20mgをエタノール20mL中に溶解し、MFNを1000ppmの濃度で含有するMFN溶液を得た。このMFN溶液をそのまま組成物Aとして用いた。
【0045】
一方、MFNを添加する飲料として発泡酒を製造した。すなわち、まず、麦芽及び温水を含有する原料液を調製し、当該原料液の煮沸時にホップペレットを添加して発酵前液を得た。この発酵前液に下面発酵ビール酵母を添加して前発酵及び貯酒を行い、発泡酒を得た。
【0046】
次いで、この発泡酒の互いに異なる一部に対して、MFNの添加濃度が10ppb、20ppb、40ppb、60ppb、80ppb、又は100ppbのいずれかの濃度となるように、組成物Aを添加した。こうして、MFNが互いに異なる濃度で添加された6種類の発泡酒を調製した。また、MFNが添加されていない発泡酒を対照として用いた。
【0047】
そして、これら7種類の発泡酒の各々について、熟練した8人のパネリストによる官能検査を行った。官能検査においては、「コク」について、各パネリストが0点、1点、2点、3点のいずれか(3点が最も好ましい。)の点数を付け、点数と当該点数を付けたパネリストの人数との積の合計を合計点数として算出し、評価する検査(以下、「コク検査」という。)を行った。また、官能検査においては、呈味の「総合評価」について、各パネリストが0点、1点、2点のいずれか(2点が最も好ましい。)の点数を付け、点数と当該点数を付けたパネリストの人数との積の合計を合計点数として算出し、評価する検査(以下、「総合評価」という。)を行った。なお、官能検査におけるコク検査及び総合評価は、以下に示す他の実施例においても同様に行った。
【0048】
図1には、コク検査の結果を示し、図2には、総合評価の結果を示す。図1及び図2において、横軸はMFNの添加濃度(ppb)を示し、縦軸は合計点数を示す。図1に示すように、コク検査においては、発泡酒にMFNを添加することにより、コクが増加するとの評価が得られた。また、MFNの添加濃度が高くなるにつれて、コクも増加するとの評価が得られた。また、図2に示すように、総合評価においては、発泡酒にMFNを添加することにより、呈味のバランスが向上するとの評価が得られた。また、MFNの添加濃度が80ppb以下の場合には、添加濃度が高くなるにつれて、呈味のバランスも向上するとの評価が得られた。一方、MFNの添加濃度が100ppbの場合には、添加濃度が60ppb及び80ppbの場合に比べて呈味改善効果が低いとの評価が得られた。
【0049】
[実施例2]
MFNの添加濃度が10ppb、20ppb、40ppb、60ppb、80ppb、又は100ppbのいずれかの濃度となるように、上述の実施例1で調製された組成物Aを水に添加し、6種類のMFN水溶液を調製した。また、MFNが添加されていない水を対照として用いた。そして、これら7種類の水溶液の各々について、熟練した5人のパネリストによるコク検査及び総合評価を行った。
【0050】
図3には、コク検査の結果を示し、図4には、総合評価の結果を示す。図3及び図4において、横軸はMFNの添加濃度(ppb)を示し、縦軸は合計点数を示す。図3に示すように、コク検査においては、水にMFNを添加することにより、コクが増加するとの評価が得られた。また、MFNの添加濃度が高くなるにつれて、コクも増加するとの評価が得られた。また、図4に示すように、総合評価においては、水にMFNを添加することにより、呈味のバランスが向上するとの評価が得られた。この呈味改善効果は、いずれの添加濃度についてもほぼ同等であった。
【0051】
[実施例3]
MFNの添加濃度が10ppb、20ppb、40ppb、60ppb、80ppb、又は100ppbのいずれかの濃度となるように、上述の実施例1で調製された組成物Aを無糖の緑茶に添加し、6種類の緑茶を調製した。また、MFNが添加されていない無糖の緑茶を対照として用いた。そして、これら7種類の緑茶の各々について、熟練した5人のパネリストによるコク検査及び総合評価を行った。
【0052】
図5には、コク検査の結果を示し、図6には、総合評価の結果を示す。図5及び図6において、横軸はMFNの添加濃度(ppb)を示し、縦軸は合計点数を示す。図5に示すように、コク検査においては、緑茶にMFNを添加することにより、コクが増加するとの評価が得られた。また、MFNの添加濃度が高くなるにつれて、コクも増加するとの評価が得られた。また、図6に示すように、総合評価においては、緑茶にMFNを添加することにより、呈味のバランスが向上するとの評価が得られた。この呈味改善効果は、MFNの添加濃度が60ppb以下の場合には、いずれの添加濃度についてもほぼ同等であった。一方、MFNの添加濃度が80ppb以上の場合には、添加濃度が60ppb以下の場合に比べて呈味改善効果が低いとの評価が得られた。
【0053】
[実施例4]
MFNの添加濃度が10ppb、20ppb、40ppb、60ppb、80ppb、又は100ppbのいずれかの濃度となるように、上述の実施例1で調製された組成物Aを無糖のコーヒーに添加し、6種類のコーヒーを調製した。また、MFNが添加されていない無糖のコーヒーを対照として用いた。そして、これら7種類のコーヒーの各々について、熟練した5人のパネリストによるコク検査及び総合評価を行った。
【0054】
図7には、コク検査の結果を示し、図8には、総合評価の結果を示す。図7及び図8において、横軸はMFNの添加濃度(ppb)を示し、縦軸は合計点数を示す。図7に示すように、コク検査においては、コーヒーにMFNを添加することにより、コクが増加するとの評価が得られた。また、MFNの添加濃度が高くなるにつれて、コクも増加するとの評価が得られた。また、図8に示すように、総合評価においては、コーヒーにMFNを添加することにより、呈味のバランスが向上するとの評価が得られた。この呈味改善効果は、MFNの添加濃度が60ppb以下の場合には、いずれの添加濃度についてもほぼ同等であった。一方、MFNの添加濃度が80ppb以上の場合には、添加濃度が60ppb以下の場合に比べて呈味改善効果が低いとの評価が得られた。
【0055】
[実施例5]
MFNの添加濃度が100ppbとなるように、上述の実施例1で調製された組成物Aを芋焼酎(芋を原料として製造された焼酎)に添加した。また、MFNが添加されていない芋焼酎を対照として用いた。そして、これら2種類の芋焼酎の各々について、熟練した8人のパネリストによるコク検査及び総合評価を行った。
【0056】
図9には、コク検査の結果を示し、図10には、総合評価の結果を示す。図9及び図10において、横軸はMFNの添加濃度(ppb)を示し、縦軸は合計点数を示す。図9に示すように、コク検査においては、芋焼酎にMFNを添加することにより、コクが増加するとの評価が得られた。また、図10に示すように、総合評価においては、芋焼酎にMFNを添加することにより、呈味のバランスが向上するとの評価が得られた。すなわち、例えば、芋焼酎にMFNを添加することによって、芋の使用に由来する特定の味が緩和されるといった評価が得られた。
【0057】
[実施例6]
MFNの添加濃度が100ppbとなるように、上述の実施例1で調製された組成物Aをワインに添加した。また、MFNが添加されていないワインを対照として用いた。そして、これら2種類のワインの各々について、熟練した8人のパネリストによるコク検査及び総合評価を行った。
【0058】
図11には、コク検査の結果を示し、図12には、総合評価の結果を示す。図11及び図12において、横軸はMFNの添加濃度(ppb)を示し、縦軸は合計点数を示す。図11に示すように、コク検査においては、ワインにMFNを添加することにより、コクが増加するとの評価が得られた。また、図12に示すように、総合評価においては、ワインにMFNを添加することにより、呈味のバランスが向上するとの評価が得られた。
【0059】
[実施例7]
市販のGBL(γ−ブチロラクトン、東京化成工業株式会社)を用いて組成物Bを調製した。すなわち、化学的に合成されたGBL20mgをエタノール20mLに溶解し、1000ppmのGBL溶液を得た。このGBL溶液を組成物Bとして用いた。
【0060】
そして、上述の実施例1の場合と同様にして製造された発泡酒の互いに異なる一部に対して、GBLの添加濃度が50ppb、100ppb又は200ppbのいずれかの濃度となるように、組成物Bを添加した。こうして、GBLが互いに異なる濃度で添加された3種類の発泡酒を調製した。また、GBLが添加されていない発泡酒を対照として用いた。そして、これら4種類の発泡酒の各々について、熟練した6人のパネリストによるコク検査を行った。
【0061】
図13には、コク検査の結果を示す。図13において、横軸はGBLの添加濃度(ppb)を示し、縦軸は合計点数を示す。図13に示すように、コク検査においては、発泡酒にGBLを添加することにより、コクが増加するとの評価が得られた。また、GBLの添加濃度が高くなるにつれて、コクも増加するとの評価が得られた。
【0062】
[実施例8]
市販のHMF(2−メチルテトラヒドロフラン−3−オン、東京化成工業株式会社)を用いて組成物Cを調製した。すなわち、化学的に合成されたHMF20mgをエタノール20mLに溶解し、1000ppmのGBL溶液を得た。このHMF溶液を組成物Cとして用いた。
【0063】
そして、上述の実施例1の場合と同様にして製造された発泡酒の互いに異なる一部に対して、HMFの添加濃度が50ppb、100ppb又は200ppbのいずれかの濃度となるように、組成物Cを添加した。こうして、HMFが互いに異なる濃度で添加された3種類の発泡酒を調製した。また、HMFが添加されていない発泡酒を対照として用いた。そして、これら4種類の発泡酒の各々について、熟練した6人のパネリストによるコク検査を行った。
【0064】
図14には、コク検査の結果を示す。図14において、横軸はHMFの添加濃度(ppb)を示し、縦軸は合計点数を示す。図14に示すように、コク検査においては、発泡酒にHMFを添加することにより、コクが増加するとの評価が得られた。また、GBLの添加濃度が200ppbの場合には、添加濃度が50ppb及び100ppbの場合に比べてコクが顕著に増加するとの評価が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態において発泡酒にMFNを添加した場合のコクに関する官能検査結果の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態において発泡酒にMFNを添加した場合の呈味の総合評価に関する官能検査結果の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態において水にMFNを添加した場合のコクに関する官能検査結果の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態において水にMFNを添加した場合の呈味の総合評価に関する官能検査結果の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態において緑茶にMFNを添加した場合のコクに関する官能検査結果の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態において緑茶にMFNを添加した場合の呈味の総合評価に関する官能検査結果の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態においてコーヒーにMFNを添加した場合のコクに関する官能検査結果の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態においてコーヒーにMFNを添加した場合の呈味の総合評価に関する官能検査結果の一例を示す説明図である。
【図9】本発明の一実施形態において焼酎にMFNを添加した場合のコクに関する官能検査結果の一例を示す説明図である。
【図10】本発明の一実施形態において焼酎にMFNを添加した場合の呈味の総合評価に関する官能検査結果の一例を示す説明図である。
【図11】本発明の一実施形態においてワインにMFNを添加した場合のコクに関する官能検査結果の一例を示す説明図である。
【図12】本発明の一実施形態においてワインにMFNを添加した場合の呈味の総合評価に関する官能検査結果の一例を示す説明図である。
【図13】本発明の一実施形態において発泡酒にGBLを添加した場合のコクに関する官能検査結果の一例を示す説明図である。
【図14】本発明の一実施形態において発泡酒にHMFを添加した場合のコクに関する官能検査結果の一例を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5,5−ジメチル−2(5H)−フラノン、γ-ブチロラクトン及びジヒドロ−2−メチル−3(2H)−フラノンのうち少なくとも一つを有効成分として含有する
ことを特徴とする呈味改善用組成物。
【請求項2】
5,5−ジメチル−2(5H)−フラノン、γ-ブチロラクトン及びジヒドロ−2−メチル−3(2H)−フラノンのうち少なくとも一つが呈味改善の有効成分として添加された
ことを特徴とする飲食物。
【請求項3】
5,5−ジメチル−2(5H)−フラノン、γ-ブチロラクトン及びジヒドロ−2−メチル−3(2H)−フラノンのうち少なくとも一つを呈味改善の有効成分として使用する
ことを特徴とする飲食物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−201460(P2009−201460A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49381(P2008−49381)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】