説明

周期加熱放射測温法熱物性測定装置およびそれを用いた熱物性測定方法

【課題】レンズ機能付光ファイバを用いて装置の低価格を図り、各種の試料に適用することができ、特に試料厚さの変化に対して充分に対応することが出来るようにする。
【解決手段】所定強度の加熱用レーザ光を照射し、レンズ機能付きの光ファイバを備えた照射手段と、加熱用レーザ光の試料の面上の照射軸を一定にしてスポットサイズを任意に調整可能として、前記光ファイバを試料から上下動させ、試料の面を加熱する単位面積当りの加熱量を制御するようにした光ファイバ位置調整手段と、加熱量が制御されたレーザ光の照射によって放射された赤外線を検知する赤外線検出器とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱物性測定装置および熱物性測定方法に関し、特に周期加熱放射測温法を用いた熱物性測定装置およびそれを用いた熱物性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子、バイオマテリアル、半導体材料、セラミック材料、金属材料、ナノ・テクノロジー、IT・エレクトロニクス等新材料、複合物質関連の幅広い分野において、熱物性を測定することが求められている。
【0003】
特許文献1には、交流電源で試料表面の金属薄膜に交流電圧を印加して発熱させ、レーザ照射手段で金属薄膜表面の測定位置にスポット状のレーザ光を照射し、光検出装置でその反射光を検出し、検出結果を測定装置が解析して、金属薄膜の測定位置における温度を測定することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、測定対象励起用パルス光を薄膜試料に照射し、測定パルス光を該薄膜試料に照射して、前記測定対象励起用パルス光による該薄膜試料の温度変化に対応した前記測定パルス光の照射後の変化を測定するものであって、パルス幅を変更設定することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、薄膜に照射した近接場光の反射光強度の時間変化を測定し、測定した反射光強度の時間変化からサーモリフレクタンス法により薄膜の加熱用のレーザ光を照射した面と反対の面における表面温度の時間変化を検出し、検出された表面温度の時間変化と薄膜の膜厚とから薄膜の熱拡散率を算出することが記載されている。
【0006】
特許文献4には、レーザ光源と、このレーザ光源から出るレーザ光をリング状に集光せしめる曲面レンズとよりなるレーザ加熱装置が記載されている。
【0007】
特許文献5には、ファイバ状レーザビーム伝送体を使用して熱物性変化を測定することが記載されている。
【0008】
特許文献6には、光ファイバからのレーザをレンズを介して照射することが記載されている。
【0009】
特許文献7には、試料裏面の過渡的温度上昇の面内分布を測定することにより、積層面の垂直方向に変化する巨視的不均質材料の熱的特性の分布を求めることが記載されている。
【0010】
特許文献8には、情報伝達用光ファイバの端面に、該光ファイバの外径と等しい外径を有し、かつ所定のレンズ作用を呈する長さを有する屈折率分布型光ファイバを、接合もしくは当接したレンズ機能付き光ファイバが記載されている。
【0011】
【特許文献1】特開2002−303597号公報
【特許文献2】特開2006−71424号公報
【特許文献3】特開2005−91119号公報
【特許文献4】特開2006−229075号公報
【特許文献5】特開平3−163341号公報
【特許文献6】特開2005−315762号公報
【特許文献7】特公平7−18827号公報
【特許文献8】特開2002−196181号公報
【特許文献9】特開公平3−189547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来例に示すように、試料の熱拡散率を測定する装置、方法が知られている。特許文献1には、半導体レーザ光源と集光レンズを用いてスポット状に照射することが記載され、特許文献4には曲面レンズを使用することが記載されている。このようなレンズを使用してスポット状に照射するものにあっては装置が高価なものにならざるを得ない。特許文献8に示されるような、レンズ機能付光ファイバを用いることによって装置を低価格なものとすることができる。
【0013】
ところで試料にはいろいろな種類のものがあり、かつ試料厚さについても一定しているわけではない。
【0014】
通常、ビームスプリッタなどを用いたレンズ光学系では、加熱光と検出器を同一面に設置した場合、面内方向に走査することは容易ではなく、測定対象とする試料の種類によっては、加熱光と検出器を同軸にしなければ測定できないものもある。
【0015】
本発明は、かかる点に鑑みてレンズ機能付光ファイバを用いて装置の低価格を図り、各種の試料に適用することができ、特に試料厚さの大小の試料および熱拡散率大小の試料に対して充分に対応して測定することが出来るようにすることを目的とする。
【0016】
更に、本発明はレンズ機能付光ファイバの機能を活用して、放射された光を集光あるいは屈折させる光学手段が試料に対して垂直方向に設けられる場合に、レンズ機能付光ファイバの角度を任意の所定角度に固定して放射測温の検出位置と照射の加熱位置のずれを少なくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、試料台に保持された試料の面に加熱用のレーザ光を周期的に照射し、試料の面から放射される赤外線を検知することで試料の周期的な温度変化から熱拡散率の測定を行う周期加熱放射測温法熱物性測定装置において、
所定強度の加熱用レーザ光を照射し、レンズ機能付きの光ファイバを備えた照射手段と、加熱用レーザ光の試料の面上の照射軸を一定にして加熱スポットサイズを任意に調整可能として、前記光ファイバを試料から上下動させ、試料の面を加熱する加熱スポットサイズの単位面積当りの加熱量を制御するようにした光ファイバ位置調整手段と、前記加熱量が制御されたレーザ光の照射によって試料より放射された赤外線を検知する赤外線検出器とを備えること
を特徴とする周期加熱放射測温法熱物性測定装置を提供する。
【0018】
本発明は、また、前記照射手段を試料の表面側(上)および裏面側(下)の一方または双方に備え、各照射手段について前記位置調整手段をそれぞれ備え、唯一の赤外線検出器によって双方の照射手段によるレーザ光の照射によって放射された赤外線を検知するようにしたことを特徴とする周期加熱放射測温法熱物性測定装置を提供する。
【0019】
本発明は、また、前記光ファイバを、前記赤外線検出器に赤外線を集光して入力させる赤外線集光手段に近接して、試料に対して所定の角度(0度を含まず)に配置し、該光ファイバの試料に対する該所定の角度を維持して、該光ファイバを試料から上下動させ、加熱用のレーザ光の試料の面上のスポットサイズを任意に調整可能にするように前記赤外線検出器側に前記位置調整手段を配設することを特徴とする周期加熱放射測温法熱物性測定装置を提供する。
【0020】
本発明は、また、前記光ファイバを照射ステージに載置し、前記光ファイバの試料に対する所定の角度を維持して、該光ファイバを試料から上下動させるようにした照射ステージによって前記光ファイバ位置調整手段を構成したことを特徴とする周期加熱放射測温法熱物性測定装置を提供する。
【0021】
本発明は、試料台に保持された試料の面に加熱用のレーザ光を周期的に照射し、試料の面から放射される赤外線を検知することで試料の周期的な温度変化から熱拡散率の測定を行う周期加熱放射測温法熱物性測定装置による熱物性測定方法において、
照射手段にレンズ機能付きの光ファイバを備えることによって該光ファイバから加熱用レーザを試料の面に照射する加熱ステップと、
前記光ファイバを試料から上下動させ、加熱用のレーザ光の試料の面上のスポットサイズを任意に調整可能として、試料の厚さに対応して試料の面を加熱する単位面積当りの加熱量を制御するようにした光ファイバ位置調整ステップと、
前記加熱量が制御されたレーザ光の照射によって放射された赤外線を検知する赤外線検出ステップと
を備えることを特徴とする周期加熱放射測温法熱物性測定装置による熱物性測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、所定強度の加熱用レーザ光を照射し、レンズ機能付きの光ファイバを備えた照射手段と、加熱用レーザ光の試料の面上の反射軸を一定にして加熱スポットサイズを任意に調整可能として、前記光ファイバを試料から上下動させ、試料の面を加熱する単位面積当りの加熱量を制御するようにした光ファイバ位置調整手段と、前記加熱量が制御されたレーザ光の照射によって放射された赤外線を検知する赤外線検出器とを備えることによって、レンズ機能付光ファイバを用いて装置の低価格を図り、各種の試料に適用することができ、特に試料厚さの大小の試料および熱拡散率大小の試料に対して充分に対応することが出来る周期加熱検討測温法熱物性測定装置およびこれを用いた熱物性測定方法を提供することができる。
【0023】
本発明は、更に赤外線検知器に赤外線を集光して入力させる赤外線集光手段に近接して、試料に対して所定の角度(0度を含まず)に配置し、該光ファイバの試料に対する該所定の角度を維持して、該光ファイバを試料から上下動させるようにしているので、レンズ機能付光ファイバの機能を活用して放射された光を集光あるいは屈折させる光学手段が試料に対して垂直方向に設けられる場合に、レンズ機能付光ファイバの角度を任意の所定角度に固定して、例えば垂直方向に固定して垂直方向の検出軸と加熱軸の照射あるいは検出位置の傾き、すなわちずれを少なくすることのできる周期加熱放射測温法熱物性測定装置およびこれを用いた熱物性測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0025】
図1は、本発明の実施例の概略構成を示す図である。図1において、周期加熱放射測温法熱物性測定装置100は、4種類のステージ、すなわち試料XYZステージ(試料ステージ)11、βZステージ(照射ステージ)12、Zステージ(照射ステージ)13および検出器XYZステージ(検出器ステージ)14を備え、試料XYZステージ11は中央部に空胴部15を有し、この空胴部15に面して試料16が載置される。
【0026】
試料16の垂直上方には反射ミラー17である赤外線集光手段が配設され、その上方に赤外検出器18が検出器XYZステージ14に載置されて配設される。各ステージをXYZステージとして構成してもよい。
【0027】
βZステージ12はレンズ機能付きの光ファイバ21を載置し、Zステージ13はレンズ機能付きの光ファイバ22を載置する。光ファイバ21,22の先端部は、レンズ機能付きの光ファイバ構成としてあり、このレンズ機能付きの光ファイバが試料の表裏にそれぞれ対向配置される。以下、試料との関係で光ファイバと記載した場合にはこのレンズ機能付きの光ファイバを指すものとする。
【0028】
光ファイバ21は試料16に対して傾斜して、すなわち所定の角度をもって配置され、この角度が加熱光による加熱角度(すなわち加熱軸角度,照射軸角度)とされ、光ファイバ22は試料16に対して傾斜することなく垂直方向に配置される。従って、光ファイバ21は、加熱軸が検出軸とは角度を持ったものとなる。
【0029】
光ファイバ21は、赤外検出器18に赤外線を集光して入力させる赤外線集光手段としての反射ミラー17に出来る限り近接して配設される光ファイバ構成であるために従来のレンズ構成のものに比べて反射ミラー17にかなり近接配設が可能とされる。
【0030】
各ステージについてXはX軸方向に駆動され、YはY軸方向に駆動され、ZはZ軸方向に駆動され、βは加熱角度方向に駆動されることを示す。図示していないが、各方向への駆動のための駆動装置が取り付けてある。
【0031】
βZステージ12は、β方向およびZ軸方向に駆動されて移動可能であり、これによって光ファイバ21の光ファイバ位置が調整され、光ファイバ位置調整手段が構成される。この例の場合には、βZステージ12、いわゆる照射ステージが光ファイバ位置調整手段を構成することになる。
【0032】
Zステージ13はZ軸方向に駆動されて移動可能であり、これによって光ファイバ22の光ファイバ位置が調整され、光ファイバ位置調整手段が構成される。この例の場合には、Zステージ13、いわゆる照射ステージが光ファイバ位置調整手段を構成することになる。
【0033】
コンピュータ(制御手段および演算処理手段)31は、交流変調器32を交流変調制御し、半導体レーザ33からの加熱用レーザ光を周期的に光ファイバ22に出力させる。
図示していないが光ファイバ21についても同様である。
【0034】
また、コンピュータ31はステージコントローラ34を制御して所定のステップに従ったプログラムを起動して試料ステージ11、βZステージ12、Zステージ13および検出器XYZステージ14の駆動制御を行う。
【0035】
赤外検出器18で検出された赤外線の赤外線データは交流変流器32の出力に同期して、ロックイン増幅器35を経由してコンピュータ31に入力される。
【0036】
試料16として各種の試料が選択されて試料XYステージ11に載置される。試料としては次のようなものが選択される。
・バルク物質(均質、等方性)
SUS、銅、ガラス状炭素、シリコン
・異方性物質(均質、異方性)
黒鉛、グラファイトシート
・欠陥試験片(欠陥内包、不均質、複合材)
スリット/穴あけ加工金属、クラック導入試験片
これ以外の物質であってもよい。
【0037】
各種の試料に対応して、βZステージ12は駆動され、光ファイバ21の位置が調整される。この場合に、β方向の調整によっては加熱軸方向は変更されず、加熱用レーザに試料の面上の点はその軸上において一定である。加熱用レーザ光は面上において10μm〜1000μmの任意のスポットサイズに調整可能とされる。
【0038】
本実施例は、光ファイバ光学系の加熱用レーザ光を試料16の表面側(上)と裏面側(下)とに装備することを1つの特徴としている。表面側(上)とは、赤外検出器18の配設された側である。
【0039】
本実施例は、照射手段(加熱手段)を試料の表面側(上)および裏面側(下)の双方に備え、各照射手段について位置調整手段をそれぞれ備え、唯一の赤外検出器18によって双方の照射手段によるレーザ光の照射によって放射された赤外線を検知するようにしたことを他の特徴としている。照射手段は、所定強度の加熱用レーザ光を照射し、レンズ機能付きの光ファイバを備える。
【0040】
本実施例は、加熱用レーザ光の試料の面上の照射軸を一定にして加熱スポットサイズを任意に調整可能として、光ファイバ21,22を試料から上下動させ、試料16の面を加熱する単位面積当りの加熱量を制御するようにした光ファイバ位置調整手段と、加熱量が制御されたレーザ光の照射によって放射された赤外線を検知する赤外検出器18とを備えることを他の特徴とする。
【0041】
本実施例は、光ファイバを、赤外検知器18に赤外線を集光して入力させる赤外線集光手段に近接して、試料に対して所定の角度(0度を含まず)に配置し、該光ファイバの試料に対する該所定の角度を維持して、該光ファイバを試料から上下動させ、加熱用のレーザ光の試料の面上の加熱スポットサイズを任意に調整可能にするように赤外線検出器側に位置調整手段を配設することを他の特徴とする。この場合に、加熱スポットサイズは、例えば10μm〜1000μmに調整される。
【0042】
光ファイバ21から周期的に加熱用レーザが試料の面(一面)である上面に加熱軸と検出軸に角度を持った状態で照射されると試料の同一面から放射された赤外線は反射ミラー17で集光され、赤外検出器18で検知される。
【0043】
同様に光ファイバ22から周期的に加熱用レーザが試料の下面に加熱軸と検出軸を同軸にして照射されると試料の他面から放射された赤外線は反射ミラー17で集光され、赤外検出器18で検知される。この場合に、赤外検出器18あるいは試料16を水平方向(横方向)に走査することができる。
【0044】
図2は、距離変化法による面内方向の熱拡散率測定法を示す。
図2に示すように、加熱の変調周波数をfとすると、
熱拡散λ=(D/πf)0.5
波数K=1/λ
で表わされる。
以上の装置構成によれば、次のような測定が可能となる。
【0045】
光ファイバ光学系を使っての試料裏面からの加熱と、赤外検出器18による試料表面側からの検出を、同軸にすることで、試料の厚み方向の熱拡散率の測定ができる。
【0046】
測定する試料16が厚み方向に熱を通しにくい場合、光ファイバ光学系を使っての試料表面側からの加熱と、赤外検出器18による試料表面側からの検出を、検出器XYZステージ14を使って赤外検出器18を任意方向に走査させ、加熱軸と検出軸をずらすことで、試料の面内方向の熱拡散率の測定ができる。
【0047】
測定する試料が二層構造である場合、光ファイバ光学系を使っての試料表面側からの加熱と、赤外検出器18による試料表面側からの検出を、検出器XYZステージ14を使って、赤外検出器18を任意方向に走査させ、加熱軸と検出軸をずらすことで、試料表層の面内方向熱拡散率の測定ができる。
【0048】
光ファイバ光学系を使っての試料表面側からの加熱と、赤外検出器18による試料表面側からの検出を、加熱軸と検出軸を同軸にしたまま、試料XYステージ11を使って、試料のみを任意方向に走査させることで、表面側の加熱レーザスポットと同じサイズの分解能で、試料の熱特性分布の測定ができる。
【0049】
図2では試料16の両側に加熱レーザおよび放射赤外線が図示してあるが、図1に示すように加熱レーザおよび放射赤外線が同一側(上側)に図示される場合もある。
【0050】
このように、試料の一方側に設けた光ファイバについては加熱軸に検出軸とが平行(例えば、試料に対して直角)になるように配設し、試料の他方側に設けた光ファイバについては加熱軸が検出軸に対して所定の角度を持つように配設して角度方向に移動可能にしてレーザ光のスポットサイズを調整できるものとし、一つの位置調整装置を使用して赤外検出器18を試料方向に走査できるものとし、一つの位置調整装置を使用して試料を試料方向に走査させることができる構成とすることによって試料の厚み方向の熱拡散率、面内方向の熱拡散率、熱特性分布が測定できる。厚み方向の熱拡散率あるいは面内方向の熱拡散率が測定されることによって既知の体積熱容量から、あるいはその他の測定法(DSC等)により測定した体積熱容量から熱伝導率、その他の熱特性が計算で算出し得ることになる。なお、試料方向と言った場合に試料の載置方向を指すものとする。上述したことから明らかなように周期加熱放射測温法とは、周期的に強弱加熱する加熱エネルギーを付与し、試料から放射される赤外線によって試料の熱的特性を測定する方法を指す。このように、本実施例は、レンズ機能付光ファイバ21、22を用いて装置の低価格を達成し、試料厚さの大小の試料あるいは/および熱拡散率大小の試料が測定対象となった場合にも充分に対応できるものとしている。
【0051】
図3は、周期加熱放射測温法熱物性装置100の構成を示す正面図であり、図4はその側面図である。
これらの図において、周期加熱放射測温法熱物性装置100は、台枠50と試料台51と4種類のステージ、すなわち2軸ステージとして構成した試料XYステージ(試料ステージ,図1の場合、試料XYZステージ)11、2軸ステージとして構成したβZステージ(照射ステージ,表面加熱用ステージ)12、1軸ステージとして構成したZステージ(照射ステージ,裏面加熱用ステージ)13および3軸ステージとして構成した検出器XYZステージ(検出器ステージ)14を備える。なお、14Aは検出器XYZステージ14の一部を構成し、赤外検出部18の取り付け部を示す。
【0052】
試料XYステージ11によってXY方向に移動される試料台51には試料16が載置される。
【0053】
試料16に対して傾斜した角度の光ファイバ21が設けられ、光ファイバ21は表面加熱用レーザ53を発する。光ファイバはβZステージ12上に載置される。
【0054】
試料16の垂直上方には反射ミラー17が配設され、その上方に赤外検出器18が配設される。
【0055】
台枠51上には検出器XYZステージ14が配置され、これによって赤外検出器18はXYZ方向に移動される。台枠51上には、またβZステージ12が配置され、βZステージ12は表面加熱用レーザ53を発する光ファイバ21を載置する。台枠51の内部にはZステージ13が配置され、Zステージ13は裏面加熱用レーザ54を発する光ファイバ22を載置する。
【0056】
上述のように、光ファイバ21は試料16に対して傾斜して配置され、光ファイバ22は試料16に対して傾斜することなく垂直方向に配置される。
【0057】
図5は、光ファイバ21、光ファイバ22および反射ミラー17の配置関係を示す詳細図である。反射ミラー17は赤外検出器18に反射ミラー取付台55を介して一体に取り付けられ、試料16から放射される赤外線58を受けて集光し、赤外検出器18に伝達する。
【0058】
図5に示すように、βZステージ12には光ファイバ21が取り付具56を介して取り付けてあり、光ファイバ21から照射される表面加熱用レーザ53は加熱光となって試料16の表面を照射、加熱する。試料16から放射され、図5に示すように表面側から広がった赤外線58は反射ミラー17によって集光される。この場合に、検出軸は垂直方向に設定される。
【0059】
前述したようにβZステージ12はβ方向およびZ方向に移動可能とされており、この移動に伴なって光ファイバ21もβ方向およびZ方向に移動し、これによって試料16上の加熱スポットサイズ6の調整がなされる。
【0060】
試料YステージのX軸方向あるいはY軸方向への移動によって加熱軸と検出軸とはずれることになる。
【0061】
図5に示す実施例の特徴の1つは、光ファイバ21はレンズ機能付きの光ファイバ21として構成してあるために小型化されて、反射ミラー17に近接し、赤外線58、更には反射ミラー17に近接して配置されることである。この構成によって光ファイバ21は垂直に近い角度による配置とされ、加熱スポットはほぼ円形状とすることができ、加熱光と検出軸を同一面に設置してある場合に、面内方向の走査が容易になる。
【0062】
試料16の裏面側には光ファイバ22が取り付け具57を介してZステージ13(図4)に取り付けてある。この場合に、光ファイバ22は試料16に対して垂直配置としてあり、光ファイバ22からの裏面加熱用レーザ54は試料16の裏面を照射し、加熱する。この加熱によって試料16の表面側から放射される赤外線58は反射ミラー17によって集光される。この場合に、赤外線58の中央を検出軸とした時に、検出軸は垂直方向に設定される。従って、加熱軸と検出軸とは平行とされる。
【0063】
本実施例は、照射手段である光ファイバ21、光ファイバ22を試料16の表面側(上)および裏面側(下)の双方に備え、各照射手段について位置調整を可能とし、唯一の赤外検出器18によって双方の照射手段によるレーザ光の照射によって放射される赤外線58を検知するようにしている。光ファイバ21は反射ミラー17に近接配置され、それぞれのステージはX.Y.Zあるいはβ方向に移動され、各種の走査移動がなされる特徴を備える。
【0064】
図6に厚み1000μmのモリブデンの測定周波数fをパラメータとして、測定した結果を示す。加熱軸と検出軸を同軸のまま、測定周波数を変化させることで、位相遅れと測定周波数の相関が得られる。得られた位相の直線的に変化する傾きKを用いて、厚み方向の熱拡散率を導くことができる。
【0065】
光ファイバ光学系を使っての試料裏面側からの加熱と、赤外検出器18による試料表面側からの検出を、検出器XYZステージ14を使って、赤外検出器18を任意方向(試料方向)に走査させ、加熱軸と検出軸をずらすことで、試料の面内方向の熱拡散率の測定ができる。
【0066】
図7に厚み50μmのモリブデンの測定周波数fを5〜205Hzの範囲のパラメータとして、測定した結果を示す。加熱軸と検出軸が一致している位置が0である。図7は加熱軸を固定とし、検出軸をX方向に走査し得られた位相遅れと検出距離の相関図である。各測定周波数で直線的な傾きが異なり、この傾きが距離変化法での波数Kである。よって、この傾きKを用いて熱拡散率Dを導くことができる。
【0067】
図8は導かれた熱拡散率Dと測定周波数の平方根の逆数に対してプロットした結果である。同様にして測定したMo以外の試料(タンタル、アルミニウム、銅、銀、HOPG、多結晶ダイヤモンド)についても併せてプロットしてある。このようにして求めた熱拡散率と、文献値で規定されている熱拡散率を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
モリブデン、タンタル、アルミニウム、銅、銀の測定結果より、5%以内の精度で測定できることが分かる。
【0070】
光ファイバ光学系を使っての試料裏面側からの加熱と、赤外検出器18による試料表面側からの検出を、加熱軸と検出軸を同軸にしたまま、試料XYステージ11を使って、試料16のみを任意方向に走査させることで、試料の熱特性分布の測定ができる。
【0071】
図9は、銅と真鍮を接合して作成した異種接合試験片を示し、加熱軸と検出軸を同軸のまま、試料XYステージ11測定を使って、試験片をX方向(またはY方向)に走査することで、図10のように、信号強度または位相の変化による熱特性の違いを検出することで、異なる金属の接合部分の違いを確認することができる。
面内に熱伝導率、比熱、光吸収係数、熱抵抗、厚み分布がある場合、得られる位相に変化があるため、熱伝導率、比熱、光吸収係数、熱抵抗、厚み分布を測定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施例を示すブロック図。
【図2】距離変化法による面内方向の熱拡散率測定法を示す図。
【図3】本発明の実施例の構成を示す正面図。
【図4】図3の側面図。
【図5】図3および図4に示す構成の一部詳細図。
【図6】周波数変化法による測定例を示す図。
【図7】距離変化法による測定例を示す図。
【図8】距離変化法による測定例を示す図。
【図9】銅-真鍮異種接合試験片図。
【図10】熱特性分布測定例を示す図。
【符号の説明】
【0073】
1…試料XYZステージ(試料ステージ)、12…βZステージ(照射ステージ)、13…Zステージ(照射ステージ)、14…検出器(XYZステージ)、16…試料、17…反射ミラー(赤外線集光手段)、18…赤外検出器、21,22…光ファイバ、31…コンピュータ、32…交流変調器、33…半導体レーザ、34…ステージコントローラ、35…ロックイン増幅器、100…周期加熱放射測温法熱物性測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料台に保持された試料の面に加熱用のレーザ光を周期的に照射し、試料の面から放射される赤外線を検知することで試料の周期的な温度変化から熱拡散率の測定を行う周期加熱放射測温法熱物性測定装置において、
所定強度の加熱用レーザ光を照射し、レンズ機能付きの光ファイバを備えた照射手段と、加熱用レーザ光の試料の面上の照射軸を一定にして加熱スポットサイズを任意に調整可能として、前記光ファイバを試料から上下動させ、試料の面を加熱する単位面積当りの加熱量を制御するようにした光ファイバ位置調整手段と、前記加熱量が制御されたレーザ光の照射によって試料より放射された赤外線を検知する赤外線検出器とを備えること
を特徴とする周期加熱放射測温法熱物性測定装置。
【請求項2】
請求項1において、前記照射手段を試料の表面側(上)および裏面側(下)の一方または双方に備え、各照射手段について前記位置調整手段をそれぞれ備え、唯一の赤外線検出器によって各照射手段によるレーザ光の照射によって放射された赤外線を検知するようにしたことを特徴とする周期加熱放射測温法熱物性測定装置。
【請求項3】
請求項2において、前記2つの光ファイバの内の一方の光ファイバを、前記赤外線検出器に赤外線を集光して入力させる赤外線集光手段に近接して、試料に対して所定の角度(0度を含まず)に配置し、該光ファイバの試料に対する該所定の角度を維持して、該光ファイバを試料から上下動させ、加熱用のレーザ光の試料の面上のスポットサイズを任意に調整可能にするように前記赤外線検出器側に前記位置調整手段を配設することを特徴とする周期加熱放射測温法熱物性測定装置。
【請求項4】
請求項3において、前記一方の光ファイバを照射ステージに載置し、該照射ステージを前記一方の光ファイバの試料に対する所定の角度を維持して、該光ファイバを試料から上下動させるようにして前記光ファイバ位置調整手段を構成したことを特徴とする周期加熱放射測温法熱物性測定装置。
【請求項5】
請求項4において、他方の光ファイバを他の照射ステージに載置し、該照射ステージを前記他方の光ファイバの試料に対する角度を直角に維持して、該光ファイバを試料から上下動させるようにして他の光ファイバ調整手段を構成し、試料を試料ステージに載置する構成とし、前記二つの照射ステージを各光ファイバ調整方向、前記試料ステージおよび赤外線検出器ステージを試料の任意の方向に走査するようにしたことを特徴とする周期加熱放射測温法熱物性装置。
【請求項6】
試料台に保持された試料の面に加熱用のレーザ光を周期的に照射し、試料の面から放射される赤外線の周期的な強度変化を検知して試料の熱拡散率の測定を行う周期加熱放射測温法熱物性測定装置による熱物性測定方法において、
照射手段にレンズ機能付きの光ファイバを備えることによって該光ファイバから加熱用レーザを試料の面に照射する加熱ステップと、
前記光ファイバを試料から上下動させ、加熱用のレーザ光の試料の面上の加熱スポットサイズを任意に調整可能として、試料の厚さに対応して試料の面を加熱する加熱スポットサイズの単位面積当りの加熱量を制御するようにした光ファイバ位置調整ステップと、
前記加熱量が制御されたレーザ光の照射によって放射された赤外線を検知する赤外線検出ステップとを備えることを特徴とする周期加熱放射測温法熱物性測定装置による熱物性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−139163(P2009−139163A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314221(P2007−314221)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)【国等の委託研究の成果に係る記載事項】 平成19年度、経済産業省地域新生コンソーシアム研究開発事業(波長可変温度波伝搬法を用いる材料評価技術と計測分析装置の開発)産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(000136941)株式会社ベテル (10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】