説明

周波数可変光源並びに周波数校正システム及び方法

【課題】周波数可変範囲が広く、且つ高い精度で光パルス列の周波数を変化させることができる周波数可変光源、並びに当該周波数可変光源で生成される光パルス列を用いた周波数校正システム及び方法を提供する。
【解決手段】光周波数コム発生装置11は、所定の周波数間隔の複数の光周波数成分を有する光周波数コムを発生する。周波数可変光バンドパスフィルタ12は、光周波数コムにおける光周波数成分の周波数間隔よりも狭い透過帯域を有し、当該透過帯域が可変である。フィルタ掃引回路14は、発振器13から出力される精度が高い一定周波数の基準信号を用いて、周波数可変光バンドパスフィルタ12の透過帯域を連続的に掃引する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数が時間とともに変化する光パルス列を生成する周波数可変光源、並びに当該周波数可変光源から射出される光パルス列を用いた周波数校正システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数可変光源で生成される光パルス列は、例えば周波数多重伝送方式(波長多重伝送方式)による光通信における基準周波数として用いられ、或いは高分解能の周波数分析に利用される。以下、かかる光パルス列を生成する従来の周波数可変光源の一例について説明する。図9は従来の周波数可変光源を示すブロック図であり、図10は従来の周波数可変光源で生成される光パルス列を示す図である。
【0003】
図9に示す通り、従来の周波数可変光源100は、周波数基準光源101、光スイッチ102、光ループ回路103、及びタイミング制御回路104を含んで構成される。周波数基準光源101は単一周波数の連続光を射出し、光スイッチ102は周波数基準光源101からの連続光をパルス化する。光ループ回路103は、光合波分岐器105、光周波数シフタ106、光遅延線107、及び光増幅器108を含んで構成され、光スイッチ102からの光パルスを周回させて個々の光パルスの周波数を変化させる。タイミング制御回路104は、光スイッチ102と光ループ回路103の光周波数シフタ106とを制御して、光パルスの生成タイミング及び周波数を変化させるタイミングを制御する。
【0004】
上記構成において、図10(a)に示す制御信号S101(幅Tw、周期T)がタイミング制御回路104から光スイッチ102に出力されると、光スイッチ102において周波数基準光源101からの連続光が幅Twの光パルスとされ、この光パルスが光ループ回路103に入力される。尚、タイミング制御回路104から制御信号S101が出力されるタイミングと同じタイミングで、図10(b)に示す制御信号S102(幅Ts)がタイミング制御回路104から光周波数シフタ106に出力される。
【0005】
光周波数シフタ106は、タイミング制御回路104からの制御信号S102が入力されている場合には、光の周波数をΔfだけシフトする。よって、光ループ回路103に入力された光パルスは、光ループ回路103を周回する毎に光周波数シフタ106で周波数がΔfだけ変化する。尚、光パルスは光ループ回路103を周回する度に減衰等により強度が低下するが、その強度の低下は光増幅器108により補償される。従って、光合波分岐器105に接続された外部出力端子からは、図10(c),(d)に示す通り、強度が一定であって、各光パルスの時間間隔がTdであり、各光パルス毎に周波数がΔfだけ変化する光パルス列が出力される。尚、従来の周波数可変光源の詳細については、例えば以下の特許文献1を参照されたい。
【特許文献1】特開平10−190629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来の周波数可変光源100において、光ループ回路103を周回する光パルスは光増幅器108によって増幅されるが、光増幅器108によって発生する自然放出光も光ループ回路103を周回して増幅される。このため、光ループ回路103を周回する光パルスは、増幅された自然放出光による雑音の影響を受けてしまい、周回数を増大させることができず、その結果として周波数の可変範囲が波長換算で数nm程度に限定されてしまうという問題があった。仮に、上記の雑音の影響を排除することができたとしても、光ループ回路103内に設けられる光増幅器108の周波数帯域は波長換算で数十nmしかなく、原理的にこれ以上の範囲で周波数を変化させることはできない。
【0007】
又、周波数可変光源としては、上述した光ループ回路103を用いた周波数可変光源以外に、外部共振器型の周波数可変光源、又は分布帰還型レーザ光源若しくは分布ブラッグ反射型レーザ光源等の周波数可変光源が実現されている。しかしながら、これらの周波数可変光源では、周波数の変化率の精度が波長換算で波長オーダーでしかできないため、必要となる精度は得られないという問題があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、周波数可変範囲が広く、且つ高い精度で光パルス列の周波数を変化させることができる周波数可変光源、並びに当該周波数可変光源で生成される光パルス列を用いた周波数校正システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の周波数可変光源は、周波数が時間とともに変化する光パルス列を生成する周波数可変光源(10、20、30)において、所定の周波数間隔の複数の光周波数成分を有する光周波数コムを発生する光周波数コム発生装置(11)と、前記光周波数コムにおける前記光周波数成分の周波数間隔よりも狭い透過帯域を有し、当該透過帯域が可変な周波数可変光バンドパスフィルタ(12)と、前記周波数可変光バンドパスフィルタの前記透過帯域を連続的に変化させる掃引装置(13,14)とを備えることを特徴としている。
この発明によると、光周波数コム発生装置で発生した光周波数コムが、その光周波数成分の周波数間隔よりも狭い透過帯域を有する周波数可変光バンドパスフィルタにより、掃引装置の制御の下で掃引される。
又、本発明の周波数可変光源は、前記掃引装置は、一定周波数の基準信号を出力する発振器(13)と、前記発振器から出力される前記基準信号に基づいて、周波数可変光バンドパスフィルタの前記透過帯域を線形的に掃引するフィルタ掃引回路(14)とを備えることを特徴としている。
又、本発明の周波数可変光源は、前記周波数可変光バンドパスフィルタを透過した前記光周波数成分を有する光パルスの一部を受光して受光信号を出力する第1受光器(22)を備え、前記掃引装置は、前記第1受光器から出力される前記受光信号と、前記発振器から出力される前記基準信号との位相差を検出する位相比較器(23)と、前記位相比較器によって検出された位相差を一定とする制御信号を前記フィルタ掃引回路に出力する第1制御回路(24)とを備えることを特徴としている。
又、本発明の周波数可変光源は、前記周波数可変光バンドパスフィルタの前記透過帯域を可変することができる周波数帯域に含まれる周波数を有する基準光を発生する基準光源(32)と、前記周波数可変光バンドパスフィルタを透過した前記光周波数成分を有する光パルスと、前記基準光源からの基準光とを合波する合波器(31)と、前記合波器で合波された光を受光して受光信号を出力する第2受光器(33)と、前記第2受光器から出力される前記受光信号に基づいて、前記周波数可変光バンドパスフィルタを透過した前記光周波数成分を有する光パルスの光周波数が前記基準光源の周波数と一定の値となるように前記光周波数コム発生装置を制御する第2制御回路(34)とを備えることを特徴としている。
更に、本発明の周波数可変光源は、前記基準光源が、周波数が変動しない光を前記基準光として発生することを特徴としている。
上記課題を解決するために、本発明の周波数構成システムは、光を取り扱う光学機器における基準周波数を校正する周波数校正システムにおいて、光ファイバ網(N1〜N6)と、前記光ファイバ網に接続された前記光学機器(40)と、前記光ファイバ網に接続された上記の何れかに記載の周波数可変光源(50)とを備えることを特徴としている。
上記課題を解決するために、本発明の周波数構成方法は、光を取り扱う光学機器(40)における基準周波数を校正する周波数校正方法において、上記の何れかに記載の周波数可変光源(50)から生成される前記光パルス列を光ファイバ網に送信するステップと、前記光ファイバ網を介して送信されてきた前記光パルス列を用いて前記光学機器の基準周波数を校正するステップとを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、周波数可変範囲が広く、且つ高い精度で光パルス列の周波数を変化させることができる周波数可変光源を提供できるという効果がある。
又、本発明によれば、周波数可変光源からの光パルス列の周波数を、基準光の周波数を基準として変化させることができるという効果がある。
更に、本発明によれば、複数の光学機器における基準周波数を容易に構成することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による周波数可変光源並びに周波数校正システム及び方法について詳細に説明する。
【0012】
〔周波数可変光源〕
〈第1実施形態〉
図1は、本発明の第1実施形態による周波数可変光源の概略構成を示すブロック図である。図1に示す通り、本実施形態の周波数可変光源10は、光周波数コム発生装置11、周波数可変光バンドパスフィルタ12、発振器13、及びフィルタ掃引回路14を含んで構成される。尚、発振器13及びフィルタ掃引回路14は、本発明にいう掃引装置に対応する。
【0013】
光周波数コム発生装置11は、所定の周波数間隔で櫛状に並んだ複数の光周波数成分を有する光周波数コムを発生する。ここで、光周波数コム発生装置11の内部構成について説明する。図2は、光周波数コム発生装置11の構成の一例を示すブロック図である。図2に示す通り、光周波数コム発生装置11は、モード同期レーザ16、光増幅器17、及び高光学非線形性光ファイバ18を含んで構成される。
【0014】
モード同期レーザ16は、周波数間隔がf(例えば、数KHz)である複数の光周波数成分からなるレーザ光を射出する。この周波数間隔fは、モード同期レーザ16の縦モードの間隔である。尚、モード同期レーザ16から射出されるレーザ光の周波数帯域は、光周波数コム発生装置11で発生される光周波数コムの周波数帯域よりも遥かに狭い。光増幅器17は、例えばエルビウムドープ光ファイバ増幅器(EDFA)であり、モード同期レーザ16から射出されるレーザ光を所定の増幅率で増幅する。ここで、光増幅器17で増幅可能な周波数帯域は、例えばモード同期レーザ16から射出されるレーザ光の周波数帯域程度あれば良い。
【0015】
高光学非線形性光ファイバ18は、高い非線形性を有する光ファイバであり、非線形光学効果によって光増幅器17で増幅されたレーザ光からスーパーコンティニウム光を生成する。このスーパーコンティニウム光は、モード同期レーザ16から射出されるレーザ光の周波数間隔fと同じ周波数間隔を有する複数の光周波数成分からなり、モード同期レーザ16から射出されるレーザ光の周波数帯域の数百倍(例えば、波長換算で数百nm)程度の周波数帯域を有する。このスーパーコンティニウム光の光周波数成分の周波数間隔fは、前述の通り、モード同期レーザ16の縦モード間隔であるため、モード同期レーザ16を駆動している発振器(図示省略)の周波数安定度のレベルまで極めて高い精度で制御することができる。高光学非線形性光ファイバ18は、このスーパーコンティニウム光を上記の光周波数コムとして出力する。
【0016】
図1に戻り、周波数可変光バンドパスフィルタ12は、所定幅の透過帯域(周波数の透過帯域)を有し、光周波数コム発生装置11からの光周波数コムの一部を透過させる。具体的に、この周波数可変光バンドパスフィルタ12は、光周波数コム発生装置11で発生する光周波数コムにおける光周波数成分の周波数間隔fよりも狭い透過帯域を有しており、この透過帯域の光周波数成分のみを透過させる。又、周波数可変光バンドパスフィルタ12は、透過帯域の幅を変えることなく、周波数領域において透過帯域を高速に可変(掃引)することが可能である。この周波数可変光バンドパスフィルタ12としては、例えば光ファイバファブリペローエタロンに代表されるエタロン型フィルタ、音響光学効果型チューナブルフィルタ、誘電体多層膜フィルタ、又はグレーティングフィルタ等を使用することができる。
【0017】
発振器13は、精度が高い一定周波数の基準信号を発生する。尚、この基準信号の周波数(周期)は、周波数可変光源10から出力されるレーザ光の周波数を変化させる周期に応じて設定されている。例えば、周波数可変光源10から出力されるレーザ光の周波数を周期Tで変化させる場合には、基準信号の周期もTに設定される。フィルタ掃引回路14は、発振器13からの基準信号に基づいて、周波数可変光バンドパスフィルタ12の透過帯域を連続的に変化させる(掃引する)。具体的には、例えば周波数可変光バンドパスフィルタ12の透過帯域の中心周波数が単位時間当たり一定の周波数だけ連続的に変化するように、周波数可変光バンドパスフィルタ12の透過帯域を線形的に掃引する。
【0018】
次に、上記構成における周波数可変光源10の動作について説明する。図3は、本発明の第1実施形態による周波数可変光源の動作を説明するための図である。図2に示すモード同期レーザ16からレーザ光が射出されると、このレーザ光は光増幅器17で増幅された後に高光学非線形性光ファイバ18に入射し、これによりスーパーコンティニウム光が生成され、光周波数コムとして光周波数コム発生装置11から出力される。この光周波数コムは、図3(a)に示す通り、周波数間隔fを有する複数の光周波数成分からなる。
【0019】
光周波数コム発生装置11から射出された光周波数コムは、周波数可変光バンドパスフィルタ12に入射し、その一部が周波数可変光バンドパスフィルタ12を透過して周波数可変光源10の外部に出力される。ここで、図3(a)において、符号Trを付して示す矩形領域は、周波数可変光バンドパスフィルタ12が入射した光周波数を透過する透過帯域を示している。図示の通り、透過帯域Trは、光周波数コム発生装置11で発生する光周波数コムにおける光周波数成分の周波数間隔fよりも狭く設定されており、これにより周波数可変光バンドパスフィルタ12は光周波数コムに含まれる光周波数成分の1つのみを一時に透過する。つまり、光周波数コムの複数の光周波数成分が一時に周波数光バンドパスフィルタ12を透過することはない。
【0020】
又、例えばモード同期レーザ16からのレーザ光の射出と同時に、発振器13からフィルタ掃引回路14に対して、精度が高い一定周波数の基準信号が出力される。この基準信号は、例えば図3(b)に示す通り正弦波状の信号であり、その周期Tは周波数可変光源10から出力されるレーザ光の周波数を変化させる周期に設定されている。発振器13から出力された基準信号は、フィルタ掃引回路14に出力される。フィルタ掃引回路14は、発振器13からの基準信号に基づいて、周波数可変光バンドパスフィルタ12の透過帯域を連続的に変化させる(掃引する)。
【0021】
具体的に、フィルタ掃引回路14は、図3(c)に示す通り、例えば周波数可変光バンドパスフィルタ12の透過帯域Trの中心周波数が単位時間当たり一定の周波数だけ連続的に変化するように、周波数可変光バンドパスフィルタ12の透過帯域Trを線形的に掃引する。そして、基準信号の周期T毎に、透過帯域Trの中心周波数を掃引開始の周波数に変化させ、以後同様に鋸波状に周波数可変光バンドパスフィルタ12の透過帯域Trの中心周波数を掃引する。尚、フィルタ掃引回路14は、例えば波長換算で数十〜数百nmの範囲で透過帯域Trの中心周波数を掃引する。
【0022】
フィルタ掃引回路14によって周波数可変光バンドパスフィルタ12が掃引されることにより、周波数可変光源10からは、図3(d),(e)に示す通り、強度が一定であって、各光パルスの時間間隔がTdであり、各光パルス毎に周波数がΔf(=f)だけ変化する光パルス列が出力される。
【0023】
以上の通り、本発明の第1実施形態による周波数可変光源10によれば、所定の周波数間隔fで櫛状に並んだ複数の光周波数成分を有し、その光周波数成分が占める周波数帯域が数百nmと広い光周波数コムを光周波数コム発生装置11から発生させて、この光周波数コムを、透過帯域が光周波数コムの光周波数成分の周波数間隔fよりも狭く設定された周波数光バンドパスフィルタ12を用いて掃引しているため、光パルスの周波数の可変範囲を広げることができる。又、光周波数コムの光周波数成分は、高い精度をもって周波数間隔fで並んでいるため、パルス毎に高精度で周波数が変化する光パルス列を生成することができる。
【0024】
〈第2実施形態〉
図4は、本発明の第2実施形態による周波数可変光源の概略構成を示すブロック図である。尚、図4においては、図1に示した構成と同様の構成については同一の符号を付してある。図4に示す通り、本実施形態の周波数可変光源20は、光周波数コム発生装置11、周波数可変光バンドパスフィルタ12、発振器13、及びフィルタ掃引回路14に加えて、光分岐器21、受光器22、位相比較器23、及び演算増幅回路24を含んで構成される。尚、受光器22は本発明にいう第1受光器に対応し、演算増幅回路24は本発明にいう第1制御回路に対応する。
【0025】
光分岐器21は、周波数光バンドパスフィルタ12を透過した光の一部を分岐する。この光分岐器21で分岐されなかった残りは、周波数可変光源20の外部に出力される。尚、光分岐器21の分岐率(光分岐器21で分岐する光の強度)は任意でよいが、周波数可変光源20の外部に出力される光(光パルス列)の強度低下を防止するため、光分岐器21の分岐率は極力小さいことが好ましい。受光器22は、光分岐器21で分岐された光を受光して受光信号を出力する。
【0026】
位相比較器23は、受光器22から出力される受光信号と、発振器13から出力される基準信号との位相差を検出し、その検出結果を出力する。演算増幅回路24は、位相比較器23の検出結果に基づいて、受光器22から出力される受光信号と発振器13から出力される基準信号との位相差を一定とする制御信号をフィルタ掃引回路14に出力する。
【0027】
次に、上記構成における周波数可変光源20の動作について説明する。図2に示すモード同期レーザ16からレーザ光が射出されると、第1実施形態と同様に、このレーザ光は光増幅器17で増幅された後に高光学非線形性光ファイバ18に入射し、これによりスーパーコンティニウム光が生成され、光周波数コムとして光周波数コム発生装置11から出力される。
【0028】
光周波数コム発生装置11から射出された光周波数コムは、周波数可変光バンドパスフィルタ12に入射し、その一部が周波数可変光バンドパスフィルタ12を透過する。周波数可変光バンドパスフィルタ12を透過した光は、光分岐器21に入射して一部が分岐され、残りが周波数可変光源20の外部に出力される。分岐器21で分岐された光は受光器22で受光されて、受光器22からは分岐器21で分岐された光に応じた受光信号が出力される。
【0029】
受光器22からの受光信号が入力されると、位相比較器13はこの受光信号と発振器13からの基準信号との位相差を検出し、その検出結果を出力する。この検出結果は演算増幅回路24に入力される。演算増幅回路24は、位相比較器23の検出結果に基づいて、受光器22から出力される受光信号と発振器13から出力される基準信号との位相差を一定とする制御信号をフィルタ掃引回路14に出力する。フィルタ掃引回路14は、発振器13からの基準信号に基づいて、周波数可変光バンドパスフィルタ12の透過帯域を連続的に変化させる(掃引する)。
【0030】
図5は、本発明の第2実施形態による周波数可変光源の動作を説明するための図である。周波数光バンドパスフィルタ12は、フィルタ掃引回路14によって制御されるが、図5(a)に示す通り、その透過帯域の中心周波数がフィルタ掃引回路14の制御信号のレベルに対して線形に変化しないことがある。つまり、フィルタ掃引回路14が周波数光バンドパスフィルタ12の透過帯域の中心周波数を線形的に変化させようとしても、周波数光バンドパスフィルタ12の特性から、実際にはフィルタ掃引回路14の制御信号のレベルに対して透過帯域の中心周波数がずれることが考えられる。
【0031】
このときには、光周波数コム発生装置11から出力される光周波数コムの周波数成分が、周波数光バンドパスフィルタ12により一定の時間間隔で掃引されなくなる。このため、図5(b)に示す通り、周波数可変光源20から出力される光パルス列をなす各光パルスの時間間隔が一定ではなくなるとともに、図5(c)に示す通り、周波数の時間変化も非線形的になる。
【0032】
図4に示す本発明の第2実施形態による周波数可変光源20は、かかる不具合を解消するために、図4に示す構成としている。即ち、周波数光バンドパスフィルタ12を透過した光の一部を受光器22で受光し、これにより得られた受光信号と発振器13から出力される基準信号との位相差を位相比較器23で比較し、その位相差を一定とするための制御信号を演算増幅回路24がフィルタ掃引回路14に出力している。これにより、周波数光バンドパスフィルタ12の特性にずれがあっても、フィルタ掃引回路14の制御信号のレベルに対して周波数光バンドパスフィルタ12の透過帯域の中心周波数を線形的に変化させることができ、高い精度で周波数が変化する光パルス列を生成することができる。
【0033】
〈第3実施形態〉
図6は、本発明の第3実施形態による周波数可変光源の概略構成を示すブロック図である。尚、図6においては、図1に示した構成と同様の構成については同一の符号を付してある。図6に示す通り、本実施形態の周波数可変光源30は、光周波数コム発生装置11、周波数可変光バンドパスフィルタ12、発振器13、及びフィルタ掃引回路14に加えて、光合分岐器31、絶対光周波数安定化光源32、受光回路33、及び演算増幅回路34を含んで構成される。尚、絶対光周波数安定化光源32は本発明にいう基準光源に対応し、受光回路33は本発明にいう第2受光器に対応し、演算増幅回路34は本発明にいう第2制御回路に対応する。
【0034】
光合分岐器31は、周波数光バンドパスフィルタ12を透過した光の一部を分岐するとともに、分岐した光の一方と絶対光周波数安定化光源32から射出される基準光とを合波する。この光合分岐器31で分岐されなかった周波数光バンドパスフィルタ12を透過した光の残りは、周波数可変光源30の外部に出力される。尚、光合分岐器31の分岐率(光合分岐器31で分岐する光の強度)は任意でよいが、周波数可変光源30の外部に出力される光(光パルス列)の強度低下を防止するため、光合分岐器31の分岐率は極力小さいことが好ましい。
【0035】
絶対光周波数安定化光源32は、周波数が変化しないか又は周波数の変動が極めて小さく、周波数可変光バンドパスフィルタ12の掃引範囲内に含まれる周波数を有する基準光を射出する。この絶対光周波数安定化光源32は、例えばアセチレンガスやシアン化水素ガス等を備えており、これらのガスの分子吸収線に周波数が固定された基準光を射出する。受光回路33は、光合分岐器31で合波された光を受光して受光信号を出力する。この、受光回路33は、周波数可変光源30から出力される光パルス列の周波数変化率(図3(e)に示すΔf(=f))と同等かそれ以下の周波数帯を検出可能に構成されている。ここで、周波数可変光バンドパスフィルタ12を透過した光の周波数が、絶対光周波数安定化光源32から射出される基準光の周波数に近い場合には、上記の受光信号としてビート信号が出力される。
【0036】
演算増幅回路34は、受光回路33から出力される受光信号に基づいて、光周波数コム発生装置11を制御する。具体的には、受光回路33から受光信号としてビート信号が出力された場合には、そのビート信号が一定値となるように、光周波数コム発生装置11から出力される光周波数コムを周波数領域においてシフトさせる。これにより、周波数可変光バンドパスフィルタ12を透過する光パルスの所定の周波数成分を、絶対光周波数安定化光源32から射出される基準光の周波数と一定の差を持った安定した既知の周波数にすることができる。尚、演算増幅回路34からの制御信号は図2に示すモード同期レーザ16に入力されており、このモード同期レーザ16の発振周波数が制御されるよう構成されている。
【0037】
次に、上記構成における周波数可変光源30の動作について説明する。図7は、本発明の第3実施形態による周波数可変光源の動作を説明するための図である。図2に示すモード同期レーザ16からレーザ光が射出されると、第1実施形態と同様に、このレーザ光は光増幅器17で増幅された後に高光学非線形性光ファイバ18に入射し、これによりスーパーコンティニウム光が生成され、光周波数コムとして光周波数コム発生装置11から出力される。光周波数コム発生装置11から射出された光周波数コムは、周波数可変光バンドパスフィルタ12に入射し、その一部が周波数可変光バンドパスフィルタ12を透過する。周波数可変光バンドパスフィルタ12を透過した光は、光合分岐器31に入射して一部が分岐され、残りが周波数可変光源30の外部に出力される。
【0038】
又、第1実施形態と同様に、例えばモード同期レーザ16からのレーザ光の射出と同時に、発振器13からフィルタ掃引回路14に対して、精度が高い一定周波数の基準信号が出力される。そして、この基準信号に基づいて、フィルタ掃引回路14は周波数可変光バンドパスフィルタ12の透過帯域を連続的に変化させる(掃引する)。これにより、周波数可変光源30からは、図7(a),(b)に示す通り、強度が一定であって、各光パルスの時間間隔がTdであり、各光パルス毎に周波数がΔf(=f)だけ変化する光パルス列が出力される。
【0039】
ここで、本実施形態では、光合分波器31で分岐された光(周波数可変光バンドパスフィルタ12を透過した光)は絶対光周波数安定化光源32から射出される基準光と合波されて受光回路33で受光される。光合分波器31で分岐された光と絶対光周波数安定化光源32からの基準光との周波数の差が、図7(b)に示すΔf(=f)よりも大きい場合には、受光回路33からは受光信号が出力されない。これは、前述した通り、受光回路33が、周波数可変光源30から出力される光パルス列の周波数変化率(Δf)と同等かそれ以下の周波数帯を検出可能に構成されているからである。
【0040】
いま、図7(b)に示す通り、絶対光周波数安定化光源32から射出される基準光の周波数をf0とすると、光合分波器31で分岐された光の周波数が基準光の周波数f0に近い場合(これらの周波数の差がΔf以下の場合)に、受光回路33からは受光信号としてビート信号が出力される。図7(b)に示す例では、時刻t1,t2における光パルスが生成されるときに、図7(c)に示すビート信号が出力される。尚、図7(d)は、ビート信号の一部を拡大した図である。
【0041】
受光回路33から受光信号としてのビート信号が出力されると、演算増幅回路34は、光周波数コム発生装置11に対して制御信号を出力し、受光回路33からのビート信号が一定値となるように、光周波数コム発生装置11から出力される光周波数コムを周波数領域においてシフトさせる。具体的には、図2に示すモード同期レーザ16を制御して、モード同期レーザ16の発振周波数を制御する。かかる制御により、周波数可変光バンドパスフィルタ12を透過する所定の周波数成分(図7(b)に示す時刻t1,t2における光パルスの周波数成分)を、絶対光周波数安定化光源32から射出される基準光の周波数と一定値シフトした周波数に固定させることができる。
【0042】
以上の通り、本実施形態では、周波数光バンドパスフィルタ12を透過した光の一部と絶対光周波数安定化光源32から射出される基準光とを合波し、それらの周波数の差をビート信号により検出し、ビート信号が一定値となるように、光周波数コム発生装置11を制御している。これにより、光周波数コム発生装置11から出力される光周波数コムの周波数成分の1つを基準光の周波数に一致させることができ、これにより光周波数コムの各々の周波数成分を、基準光を基準とした周波数に固定することができる。或いは、一定周波数シフトした周波数に固定することができる。よって、光パルス列の周波数を基準光の周波数を基準として変化させることができる。
【0043】
〈第4実施形態〉
本発明の第4実施形態による周波数可変光源は、図4に示す第2実施形態による周波数可変光源20が備える構成と、図6に示す第3実施形態による周波数可変光源30が備える構成とを共に備える。つまり、光周波数コム発生装置11、周波数可変光バンドパスフィルタ12、発振器13、及びフィルタ掃引回路14に加えて、光分岐器21、受光器22、位相比較器23、及び演算増幅回路24と、光合分岐器31、絶対光周波数安定化光源32、受光回路33、及び演算増幅回路34とを組み合わせた構成である。
【0044】
かかる構成により、第2実施形態のように、周波数光バンドパスフィルタ12の特性にずれがあっても、周波数光バンドパスフィルタ12の透過帯域の中心周波数をフィルタ掃引回路14の制御信号のレベルに対して線形に変化させることができるとともに、第3実施形態のように、光パルス列の周波数を絶対光周波数安定化光源32から射出される基準光の周波数を基準として変化させることができる。
【0045】
〔周波数校正システム及び方法〕
図8は、本発明の一実施形態による周波数校正システムの概略構成を示すブロック図である。図8に示す通り、本実施形態の周波数校正システムは、相互に接続された光ファイバ網N1〜N6と、光ファイバ網N1〜N6に接続された光測定器40と、光ファイバ網N1に接続された周波数可変光源50とを含んで構成される。
【0046】
光測定器40は、光を取り扱う光学機器の一種であり、例えば、光スペクトラムアナライザ、波長計等である。尚、ここでは、光を取り扱う光学機器として光測定器40を例に挙げるが、光を取り扱う光学機器としては、光測定器40以外に波長可変光源(周波数可変光源)等であっても良い。周波数可変光源50は、前述した本発明の第1〜第3実施形態による周波数可変光源10,20,30の何れかである。
【0047】
上記構成において、各光パルスの時間間隔が一定であり、各光パルス毎に周波数が所定量だけ変化する光パルス列が周波数可変光源50から射出されると、この光パルス列は、光ファイバ網N1〜N6の各々に送信される。そして、光ファイバ網N1〜N6を介して送信されてきた光パルス列を用いて各光測定器40の基準周波数を校正することにより、全ての光測定器40の基準周波数を、周波数可変光源50の周波数に一致させることができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態による周波数可変光源並びに周波数校正システム及び方法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限される訳ではなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、スーパーコンティニウム光を生成する光源として、図2に示す構成の光周波数コム発生装置11を用いていたが、かかる光源に限定される訳ではない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1実施形態による周波数可変光源の概略構成を示すブロック図である。
【図2】光周波数コム発生装置11の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態による周波数可変光源の動作を説明するための図である。
【図4】本発明の第2実施形態による周波数可変光源の概略構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2実施形態による周波数可変光源の動作を説明するための図である。
【図6】本発明の第3実施形態による周波数可変光源の概略構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第3実施形態による周波数可変光源の動作を説明するための図である。
【図8】本発明の一実施形態による周波数校正システムの概略構成を示すブロック図である。
【図9】従来の周波数可変光源を示すブロック図である。
【図10】従来の周波数可変光源で生成される光パルス列を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10 周波数可変光源
11 光周波数コム発生装置
12 周波数可変光バンドパスフィルタ
13 発振器
14 フィルタ掃引回路
20 周波数可変光源
22 受光器
23 位相比較器
24 演算増幅回路
30 周波数可変光源
31 光合分岐器
32 絶対光周波数安定化光源
33 受光回路
34 演算増幅回路
40 光測定器
50 周波数可変光源
N1〜N6 光ファイバ網

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が時間とともに変化する光パルス列を生成する周波数可変光源において、
所定の周波数間隔の複数の光周波数成分を有する光周波数コムを発生する光周波数コム発生装置と、
前記光周波数コムにおける前記光周波数成分の周波数間隔よりも狭い透過帯域を有し、当該透過帯域が可変な周波数可変光バンドパスフィルタと、
前記周波数可変光バンドパスフィルタの前記透過帯域を連続的に変化させる掃引装置と
を備えることを特徴とする周波数可変光源。
【請求項2】
前記掃引装置は、一定周波数の基準信号を出力する発振器と、
前記発振器から出力される前記基準信号に基づいて、周波数可変光バンドパスフィルタの前記透過帯域を線形的に掃引するフィルタ掃引回路と
を備えることを特徴とする請求項1記載の周波数可変光源。
【請求項3】
前記周波数可変光バンドパスフィルタを透過した前記光周波数成分を有する光パルスの一部を受光して受光信号を出力する第1受光器を備え、
前記掃引装置は、前記第1受光器から出力される前記受光信号と、前記発振器から出力される前記基準信号との位相差を検出する位相比較器と、
前記位相比較器によって検出された位相差を一定とする制御信号を前記フィルタ掃引回路に出力する第1制御回路と
を備えることを特徴とする請求項2記載の周波数可変光源。
【請求項4】
前記周波数可変光バンドパスフィルタの前記透過帯域を可変することができる周波数帯域に含まれる周波数を有する基準光を発生する基準光源と、
前記周波数可変光バンドパスフィルタを透過した前記光周波数成分を有する光パルスと、前記基準光源からの基準光とを合波する合波器と、
前記合波器で合波された光を受光して受光信号を出力する第2受光器と、
前記第2受光器から出力される前記受光信号に基づいて、前記周波数可変光バンドパスフィルタを透過した前記光周波数成分を有する光パルスの光周波数が前記基準光源の周波数と一定の値となるように前記光周波数コム発生装置を制御する第2制御回路と
を備えることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の周波数可変光源。
【請求項5】
前記基準光源は、周波数が変動しない光を前記基準光として発生することを特徴とする請求項4記載の周波数可変光源。
【請求項6】
光を取り扱う光学機器における基準周波数を校正する周波数校正システムにおいて、
光ファイバ網と、
前記光ファイバ網に接続された前記光学機器と、
前記光ファイバ網に接続された請求項1から請求項5の何れか一項に記載の周波数可変光源と
を備えることを特徴とする周波数校正システム。
【請求項7】
光を取り扱う光学機器における基準周波数を校正する周波数校正方法において、
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の周波数可変光源から生成される前記光パルス列を光ファイバ網に送信するステップと、
前記光ファイバ網を介して送信されてきた前記光パルス列を用いて前記光学機器の基準周波数を校正するステップと
を含むことを特徴とする周波数校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−266654(P2007−266654A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84871(P2006−84871)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】