説明

周波数間バイアス推定装置及び周波数間バイアス推定方法

【課題】衛星に起因する周波数間バイアス及び受信機に起因する周波数間バイアスを精度よく推定する。
【解決手段】1以上の受信機24の各々から複数の測位衛星10a、10b、10cの各々に対する擬似距離に基づき衛星信号の通過経路の総電子数を算出する総電子数算出部と、電離層電子密度モデル関数に基づき総電子数モデル値を算出するモデル値算出部と、乱数を発生させる乱数発生部と、総電子数と総電子数モデル値に基づき周波数間バイアスを算出し、乱数に基づき周波数間バイアスが有する受信機依存周波数間バイアスと衛星依存周波数間バイアスとを仮に決定し、予め測量された位置に基づく位置情報と、位置を測位して得られた位置情報との誤差が最も小さい場合に、仮に決定された受信機依存周波数間バイアスと衛星依存周波数間バイアスとを真の値であると推定する周波数間バイアス推定部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星から放送される複数の異なる周波数信号による通過経路の電離層総電子数を推定するための周波数間バイアス推定装置及び周波数間バイアス推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星ナビゲーションシステム「Galileo」やGPSシステム、QZSS(準天頂衛星システム)等の衛星から送信される信号は、地球上の観測点の測位を行うのに利用される。その際、位置のわかっている衛星から観測点までの距離を求めるにあたって、電波の伝搬速度及び要した時間は、重要な要素となる。しかしながら、衛星から地上に向けて送信される電波信号は、電離層を通過する際に伝搬遅延量を生じ、測位誤差に大きな影響を与える。したがって、電離層伝搬遅延量を正確に求めることは、高精度な測位を行うにあたって必要不可欠なものである。
【0003】
従来から、電離層遅延量を正確に求めるために、様々な手法が提案されている。例えば特許文献1には、正確な電離層遅延量を計算するために必要な周波数間バイアスを算出する周波数間バイアス算出装置及び方法が記載されている。周波数間バイアスは、周波数間での電気的な経路差によるものであり、受信機、衛星等のハードウェアごとに異なる。正確な電離層遅延量を計算するためには、周波数間バイアスを除去することが必要である。
【0004】
特許文献1に記載された周波数間バイアス算出装置は、GPS衛星から複数のGPS受信機までの第一の周波数による各第一の擬似距離と第二の周波数による各第二の擬似距離とを、当該複数のGPS受信機から入力するデータ収集部と、このデータ収集部から入力した複数の第一及び第二の擬似距離を所定の演算式に代入して第一及び第二の周波数による周波数間バイアスを算出する周波数間バイアス算出部と、この周波数間バイアス算出部で算出された周波数間バイアスをGPS受信機へ出力するデータ出力部とを備える。この周波数間バイアス算出装置によれば、簡単な構成で周波数間バイアスをユーザに提供することができる。また、大量の演算を周波数間バイアス算出装置側で行うことにより、GPS受信機側すなわちユーザ側の負担を軽減できる。
【0005】
電離層伝搬遅延量は、伝搬する信号の周波数に依存している。そのため、衛星からの複数の周波数信号を受信することにより、信号の通過経路における総電子数(TEC:Total Electron Content)を得ることができる。
【0006】
また、非特許文献1や非特許文献2には、電離層における電子密度モデル関数であるIRI(International Reference Ionosphere)モデルが記載されている。さらに非特許文献3には、やはり電離層電子密度モデル関数の一つであるGallagherのモデルが記載されている。これらのモデル関数を用いて計算によりTECを求めることもできる。
【特許文献1】特開2006−23144号公報
【非特許文献1】Dieter Bilitza,et,al.,:“International Reference Ionosphere 1990”,November,1990.
【非特許文献2】Dieter Bilitza:“International Reference Ionosphere 2000”,Radio.Science,Vol.36,Number2,PP261−275,March/April,2001
【非特許文献3】Gallagher,D.L.,P.D.Craven,and R.H.Comfort,Global core plasma model,J.Geophys.Res.105,A8,18,819−18,833,2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、衛星のバイアス及び受信機のバイアスを未知数とする方程式は、1観測地点・観測時刻に対して衛星数と同数存在するのに対して、未知数は、衛星数+1個(各衛星のバイアス及び受信機のバイアス)存在するので、連立方程式により単純に解を求めることはできない。
【0008】
ところが、衛星からの複数の周波数信号を受信して信号の通過経路におけるTECを求める際には、衛星・受信機固有のバイアスが追加されてしまうため、衛星及び受信機のバイアスを求めることは必要不可欠である。
【0009】
また、上述したような電離層電子密度モデル関数は、月平均レベルのものであるため、観測結果との誤差が存在する。
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題点を解決するもので、衛星に起因する周波数間バイアス及び受信機に起因する周波数間バイアスを精度よく推定する周波数間バイアス推定装置及び周波数間バイアス推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る周波数間バイアス推定装置は、上記課題を解決するために、複数の測位衛星から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機を有し、前記衛星信号に含まれる測位情報を用いて位置情報を得る測位システムを利用する周波数間バイアス推定装置であって、前記1以上の受信機の各々から前記複数の測位衛星の各々に対する擬似距離に基づき前記衛星信号の通過経路の総電子数を算出する総電子数算出部と、電離層電子密度モデル関数に基づき総電子数モデル値を算出するモデル値算出部と、乱数を発生させる乱数発生部と、前記総電子数算出部により算出された総電子数と前記モデル値算出部により算出された総電子数モデル値に基づき周波数間バイアスを算出し、前記乱数発生部により発生した乱数に基づき前記周波数間バイアスが有する受信機依存周波数間バイアスと衛星依存周波数間バイアスとを仮に決定し、予め測量された位置に基づく位置情報と、仮に決定された前記受信機依存周波数間バイアスと前記衛星依存周波数間バイアスとに基づき前記位置を測位して得られた位置情報との誤差が最も小さい場合に、仮に決定された前記受信機依存周波数間バイアスと前記衛星依存周波数間バイアスとを真の値であると推定する周波数間バイアス推定部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、衛星に起因する周波数間バイアス及び受信機に起因する周波数間バイアスを精度よく推定するので、電離層総電子数推定精度を向上し、測位精度や電離層モデルの改善に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の周波数間バイアス推定装置の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施例1の周波数間バイアス推定装置32及び測位システムの構成を示すブロック図である。この周波数間バイアス推定装置32は、複数の測位衛星(測位衛星10a、10b、10c)から送信される衛星信号を受信する1以上の衛星信号受信機24を有し且つ衛星信号に含まれる測位情報を用いて位置情報を得る測位システムを利用する。
【0015】
まず、本実施の形態の構成を説明する。本実施例の周波数間バイアス推定装置32及び測位システムは、図1に示すように、測位衛星10a、測位衛星10b、測位衛星10c、衛星信号処理系20、電離層TEC・バイアス推定処理系30、及びインターネットデータ処理系40で構成されている。測位衛星10a、測位衛星10b、測位衛星10c、及び衛星信号処理系20は、本発明の測位システムに対応する。なお、インターネットデータ処理系40も含めて測位システムとすることも可能であるが、インターネットデータ処理系40は、必ずしも必須のものではなく、付加的なものである。また、衛星信号処理系20、電離層TEC・バイアス推定処理系30、及びインターネットデータ処理系40は、お互いに通信回線50で接続されている。
【0016】
測位衛星10a、測位衛星10b、測位衛星10cは、GPS、Galileo、準天頂衛星(QZSS)等の航法衛星であり、複数の周波数の衛星信号を送信する。
【0017】
衛星信号処理系20は、アンテナ22、衛星信号受信機24、及び衛星信号処理装置26から構成される。衛星信号受信機24は、本発明の受信機に対応し、複数の測位衛星(測位衛星10a、10b、10c)から送信される複数の周波数の衛星信号をアンテナ22を介して受信する。また、衛星信号処理装置26は、衛星信号に含まれる測位情報を用いて位置情報を得る。
【0018】
電離層TEC・バイアス推定処理系30は、周波数間バイアス推定装置32を有し、受信した信号に基づき衛星位置、信号通過経路の電離層総電子数(TEC)、周波数間バイアス等を算出する。受信したデータ・処理結果は、データサーバ系へLAN経由で伝送され保存される。
【0019】
インターネットデータ処理系40は、ルータ42、GEONET収集データ処理装置44、及び外部インターネット網46で構成されている。ルータ42は、スイッチングハブでもよい。インターネットデータ処理系40は、公開されている電離層関連の情報や国土地理院が公開しているGPS観測データ(GEONETデータ)や国際的に観測結果を公開しているIGS(International GPS Service for Geodynamics)データ等をインターネット経由で収集する装置である。インターネットデータ処理系40により収集された結果は、電離層TEC・バイアス推定処理系30で処理される。ルータ42は、セキュリティを考慮して設けられ、ファイアウォールとする。
【0020】
図2は、本発明の実施例1の周波数間バイアス推定装置32の詳細なブロック図である。図2に示すように、周波数間バイアス推定装置32は、総電子数算出部33、モデル値算出部34、周波数間バイアス推定部35、及び乱数発生部36で構成されている。
【0021】
総電子数算出部33は、1以上の受信機の各々から複数の測位衛星の各々に対する擬似距離に基づき衛星信号の通過経路の総電子数を算出する。具体的には、総電子数算出部33は、衛星信号受信機24から測位衛星10a、10b、10cの各々に対する擬似距離に基づき衛星信号の通過経路の総電子数を算出する。また、総電子数算出部33は、外部インターネット網46から得た受信機と衛星との擬似距離に関するデータに基づき衛星信号の通過経路の総電子数を算出することもできる。総電子数の算出方法については、後述する。
【0022】
モデル値算出部34は、上述したようなIRIモデルやGallagherモデル等の電離層電子密度モデル関数に基づき総電子数モデル値を算出する。
【0023】
乱数発生部36は、乱数を発生させる。
【0024】
周波数間バイアス推定部35は、総電子数算出部33により算出された総電子数とモデル値算出部34により算出された総電子数モデル値に基づき周波数間バイアスを算出し、乱数発生部36により発生した乱数に基づき周波数間バイアスが有する受信機依存周波数間バイアスと衛星依存周波数間バイアスとを仮に決定する。さらに、周波数間バイアス推定部36は、予め精密に測量された位置に基づく位置情報と、仮に決定された受信機依存周波数間バイアスと衛星依存周波数間バイアスとに基づき位置を測位して得られた位置情報との誤差が最も小さい場合に、仮に決定された受信機依存周波数間バイアスと衛星依存周波数間バイアスとを真の値であると推定する。
【0025】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。なお、電離層がダイナミックに変化するような時間帯であると推定がより複雑になるため、本実施例において、周波数間バイアス推定装置は、ローカル時間の深夜2時頃に測定したデータを用いるものとする。図3は、本実施例の周波数間バイアス推定装置32の動作を示すフローチャート図である。まず、モデル値算出部34は、電離層電子密度モデル関数に基づき総電子数モデル値を算出する(ステップS101)。ここで、電離層電子密度モデル関数をfとすると、通過経路の総電子数モデル値は、通過経路の電子密度を積分することにより求められる。
【数1】

【0026】
(1)式は、衛星Mgから受信観測点Rまでに渡り、電離層電子密度関数fを経路に沿って積分した結果を示す。ここで、sは、位置を示すパラメータである。また、gは、衛星を識別する識別子である。TECtrueは、通過経路における真の総電子数を示す。Δmodelは、電離層密度分布モデルに含まれる誤差を示す。
【0027】
モデル値算出部34は、算出した総電子数モデル値を周波数間バイアス推定部35に出力する。
【0028】
次に、総電子数算出部33は、1以上の受信機の各々から複数の測位衛星の各々に対する擬似距離に基づき衛星信号の通過経路の総電子数を算出する(ステップS103)。ここでは、測位衛星10aと衛星信号受信機24との間の擬似距離について考える。衛星信号通過経路のTECは、測位衛星10aから送信される衛星信号(ここではL1とL2で示す)に基づき求められる。まず、擬似距離(コード距離、シュードレンジ)と位相距離(フェーズ距離)は、以下のように表すことができる。
【数2】

【0029】
ここで、ρは、擬似距離を示す。また、Φは、位相距離を示す。rは、真の距離を示す。cは光速である。また、δtは、受信機時刻誤差を示し、δtは、衛星時刻誤差を示す。なお、本実施例において、右下の添え字は基本的に地上(受信機等)に関連する項を示し、右上の添え字は基本的に上空(衛星等)に関連する項を示す。δtu、L1orL2 biasは、受信機周波数依存ハードウェア依存バイアスを示し、δtL1orL2 biasは、衛星周波数依存ハードウェア依存バイアスを示す。さらに、Iは、電離層伝搬遅延量を示し、Tは、対流圏伝搬遅延量を示す。Nambは、整数不確定値を示し、εは、観測誤差を示す。
【0030】
総電子数算出部33は、2つの周波数の観測値の差をとることにより、TECを求めることができる。
【数3】

【0031】
ここで、fは周波数である。また、λは波長を示す。Δbiasは、周波数間バイアスを示す。また、Δ´biasは、位相についてのバイアスである。
【0032】
(4)式より、TECは、次式のように求められる。
【数4】

【0033】
ここで、TECtrueは、真の総電子数を示す。(6)式に示すTECの推定値は、バイアスに関連した項を含む。このままでは誤差ε´の値が大きいため、総電子数算出部33は、キャリアスムージングを実施して誤差ε´の値を小さくする。キャリアスムージングとは、ノイズを多く含む擬似距離に精密な搬送波差分を適用し、ノイズの低減を図るものである。キャリアスムージング後のTECを<TEC>と表すものとすると、<TEC>は、以下の式により求められる。
【数5】

【0034】
ここで、mは、データ収集の時間順につけた番号である。また、Kは、スムージングの定数であり、適宜変更できるものとする。Kは、サンプリング時間間隔にも依存する。例えば、時定数を180秒にすると、K=180/dtとなる。dtは、サンプリング時間間隔を表す。<Δbias>は、1ヶ月程度の期間一定であると仮定し、データ収集期間中一定であるものとする。したがって、<Δbias>は、添え字mを必要としない。
【0035】
総電子数算出部33は、算出した総電子数を周波数間バイアス推定部35に出力する。
【0036】
次に、周波数間バイアス推定部35は、総電子数算出部33により算出された総電子数とモデル値算出部34により算出された総電子数モデル値に基づき周波数間バイアスを算出する。まず周波数間バイアス推定部35は、衛星観測のデータに基づき(8)式を用いて総電子数算出部33により求められた総電子数と、(1)式を用いてモデル値算出部34により求められた総電子数モデル値との差を求める(ステップS105)。
【数6】

【0037】
(1)式で用いたような既存の電離層電子密度モデルは、月平均では観測値とよい一致を示す。そのため、(9)式のΔg,modelは、1ヶ月間のデータで平均することにより、ゼロに近い値となる。さらに、衛星や受信機の周波数間バイアスは、時間的変動が小さく、時定数を1ヶ月程度と考え、この間に収集したデータについては一定であるとする。1ヶ月間の平均操作を[]で表すとすると、(9)式に示す観測TECとモデルTECとの差は、以下のようになる。
【数7】

【0038】
ここで、dεは、平均後にも残る微小なモデル誤差を示す。本実施例において、dεは、ゼロであるものとする。衛星依存周波数間バイアスと受信機依存周波数間バイアスとの間に相関は無いと考えられる。したがって、観測TECとモデルTECとの差は、(10)式に示すように2つの独立した項にまとめることができる。Bは、衛星gに関するバイアスを示し、Bは、受信機に関するバイアスを示す。受信機依存周波数間バイアスと衛星gのバイアスとが、(10)式により求められる。したがって、受信機のバイアスが決まれば、各衛星のバイアスが決まる。
【0039】
(10)式は、1観測地点・観測時刻に対して、衛星数と同数できる。ここで、衛星数をNsatとすると、未知数は、観測場所受信機のバイアスを含む(Nsat+1)個ある。したがって、単純に連立方程式により解を求めることはできない。
【0040】
そこで、周波数間バイアス推定部35は、(10)式の受信機に関連した項を、乱数発生部36により発生した乱数により仮に決定する(ステップS107)。さらに、周波数間バイアス推定部35は、受信機依存周波数間バイアスを仮に決定したので、(10)式より衛星に関するバイアス成分を決定することができる。
【0041】
次に、決定したバイアス値に基づき測位が行われる(ステップS109)。測位を行う主体は、測位衛星10a、測位衛星10b、測位衛星10c、及び衛星信号処理系20からなる測位システムであり、特に衛星信号処理装置26である。ただし、周波数間バイアス推定装置32が測位を行う構成でもよい。測位場所の真値をXとする。Xは、あらかじめ精密に測量されている。この真値Xに対して、仮に決定したバイアス値に基づいた測位の誤差をΔXとする。衛星と受信機との距離の誤差であるΔRは、以下の式のように表せる。
【数8】

【0042】
ここで、(13)式の<ρ>は、(8)式のように、キャリアスムージングを行った後の擬似距離を示す。(11)式において、rephは、精密に測量された場所Xと衛星の位置から計算された幾何学的距離を示す。この衛星の位置は、IGSより提供されるGPS位置データや衛星放送エフェメリスデータから計算されるGPS位置データである。また、Testは、対流圏遅延量推定値を示す。この対流圏遅延量を推定するに際し、対流圏遅延量モデルが使用されている。<IL1,est>は、電離層遅延量推定値を示す。また、ΔtR,clockは、受信機のクロックオフセットを示す。衛星のクロックオフセット(Δts,clock)は、衛星放送エフェメリスデータにより補正されている。この電離層遅延量推定値<IL1,est>は、バイアスを含む。受信機で生じるバイアスは、各衛星共通であるため、受信機のクロックオフセットと同じ影響を持ち、測位位置誤差に影響を与えない。
【0043】
(11)式に示す距離誤差ΔRと測位誤差ΔXとの関係は、以下のように示される。
【数9】

【0044】
ここで、Aは、精密に測量された場所Xから衛星までの方向ベクトルを要素とする行列である。(l,m,n)が方向ベクトルを示す。添え字は、衛星番号を示す。したがって、(17)式(18)式において、衛星は、N個存在する。測位位置に関して、ΔXは、最小二乗法等により求められる。(19)式は、最小二乗法を用いた計算例である。ΔXの4番目の項は、受信機クロックオフセットに関連した項である。この項は、(11)式の2番目の括弧内の項に関係するため、(11)式の2番目の括弧内の項が反映されたものとなっていて、測位位置に影響しない。(11)式の1番目の項は、測位位置誤差に影響を与える。衛星依存周波数間バイアスの推定値が正しければ、ΔXの位置に関する1〜3番目の項の大きさ(誤差)は、小さくなる。
【0045】
(10)式の受信機に関連した項を、乱数により決定することで、衛星依存周波数間バイアス値が仮に決定される。ここで、乱数により決定した受信機依存周波数間バイアスをBR,randとすると、仮に決定した衛星依存周波数間バイアス値Bcandは、以下の式により求められる。
【数10】

【0046】
したがって、BR,randと、(20)式により求められたBcandとを(11)式に代入することで、擬似距離誤差ΔRは、以下のようになる。
【数11】

【0047】
ここで、(21)式の1番目の括弧内にある衛星バイアス分が真の値に近い場合に、ΔXの位置誤差に関する大きさは、最小になる。ΔXの位置誤差Perrは、例えば位置誤差のデカルト座標成分から以下のように表すことができる。
【数12】

【0048】
周波数間バイアス推定部35は、乱数発生部36により発生した乱数に基づき仮の受信機依存周波数間バイアスBR,randを決定する。このBR,randが変わる度に(22)式の位置誤差Perrは、変化する。Perrが最小の値をとる場合に、周波数間バイアス推定部35は、その際の受信機依存周波数間バイアスBR,randを真の値であると推定する(ステップS111)。さらに、真の値であると推定されたBR,randに基づき、衛星依存周波数間バイアスBestは、(20)式を用いて算出される(ステップS113)。
【0049】
乱数で推定値を最後まで求めることは、効率が悪い。そこで、周波数間バイアス推定部35は、予め測量された位置に基づく位置情報と、仮に決定された受信機依存周波数間バイアスと衛星依存周波数間バイアスとに基づき位置を測位して得られた位置情報との誤差の変化率に基づき受信機依存周波数間バイアスと衛星依存周波数間バイアスとを推定する。具体的には、乱数発生部36により発生した乱数に基づき、周波数間バイアス推定部35は、受信機依存周波数間バイアスをk回生成(BR,1,・・・,BR,k)し、測位位置誤差(Perr,・・・,Perr)を求める。さらに、周波数間バイアス推定部35は、受信機に関連した項の変化率に対する測位位置誤差Perrの変化率を計算する。
【数13】

【0050】
(23)式により、Bに対する測位位置誤差Perrの変化率ηが求められる。このηに基づき、受信機依存周波数間バイアスBR,estは、以下のように求められる。
【0051】
まず、ηの符号が、(BR,1,・・・,BR,k)の範囲で全てプラス又はマイナスである場合、BR,estは、以下のようになる。
【数14】

【0052】
周波数間バイアス推定部35は、(24)式により求められたBR,estを真の受信機依存周波数間バイアスとして推定する。さらに詳細に受信機のバイアス値を求める場合には、周波数間バイアス推定部35は、(24)式により求められたBR,estの値の近辺で、再度乱数で受信機に関連した項(BR,1,・・・,BR,k)を求め、(23)式を計算する。
【0053】
次に、ηの符号が、(BR,1,・・・,BR,k)の範囲内でマイナスからプラスに変化する場合、位置誤差Perrの最小値は、符号が変わった近辺に存在する。そこで、符号がかわる 前後のBR,kを、BR,k−、BR,k+とすると、求める受信機依存周波数間バイアスの推定値BR,estは、以下のように求められる。
【数15】

【0054】
ここで、ηk+、ηk−は、それぞれ、プラス符号を持つBR,k+における変化率とマイナス符号を持つBR,k−の変化率を示す。
【0055】
また、単純に中間値を推定値とする方法もある。その場合、受信機依存周波数間バイアスの推定値BR,estは、以下のように求められる。
【数16】

【0056】
上述したような方法により、受信機依存周波数間バイアスの推定値BR,estが求められると、(10)式の関係により、各衛星の衛星依存周波数間バイアスBR,estは、以下のようにして求められる。
【数17】

【0057】
以上のように求められた周波数間バイアスは、特定の受信機Rにおいて計算した受信機依存周波数間バイアスの推定値BR,estと各衛星の衛星依存周波数間バイアスBR,estである。したがって、この推定結果は、観測地点の地形によるマルチパスの影響などの影響を含む可能性がある。
【0058】
そこで、その影響を小さくするため、周波数間バイアス推定部35は、測位システムが受信機(図1における衛星信号処理系20)を複数有する場合に、複数の受信機の各々で得られた位置情報に基づき1つの測位衛星に対して得られた複数の衛星依存周波数間バイアスを平均化することにより衛星依存周波数間バイアスを推定する。具体的には、衛星依存周波数間バイアスの平均値Bestは、以下の式により求められる。
【数18】

【0059】
ここで、Wは処理を行った受信機の数を示している。以上のようにして、周波数間バイアス推定装置32は、周波数間バイアス(受信機依存周波数間バイアス及び衛星依存周波数間バイアス)を求めることができる。また、以上述べた動作は、周波数間バイアス推定方法に適用可能である。
【0060】
上述のとおり、本発明の実施例1の形態に係る周波数間バイアス推定装置によれば、乱数に基づき受信機依存周波数間バイアス及び衛星依存周波数間バイアスを決定するので、単純に連立方程式により求めることのできない周波数間バイアスを推定することができる。
【0061】
また、予め精密に測量された位置に基づく位置情報と、仮に決定された受信機依存周波数間バイアスと衛星依存周波数間バイアスとに基づき位置を測位して得られた位置情報との誤差が最も小さい場合に、仮に決定された受信機依存周波数間バイアスと衛星依存周波数間バイアスとを真の値であると推定するので、衛星に起因する周波数間バイアス及び受信機に起因する周波数間バイアスを精度よく推定することができる。
【0062】
さらに、精度良く推定された受信機依存周波数間バイアスと衛星依存周波数間バイアスとに基づき、電離層総電子数推定精度を向上し、GPS等の測位システムにおける測位精度や電離層モデルの改善に寄与することができる。また、HF帯等の周波数の伝搬経路を算出する際に使用する電離層モデルの精度を向上させることができ、より有効な通信を可能にすることができる。また、衛星を使った航法の向上が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る周波数間バイアス推定装置は、測位衛星から送信される衛星信号を利用して測位を行うGPS等の測位システムに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施例1の形態の周波数間バイアス推定装置及び測位システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1の形態の周波数間バイアス推定装置の詳細なブロック図である。
【図3】本発明の実施例1の形態の周波数間バイアス推定装置の動作を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0065】
10a、10b、10c 測位衛星
20 衛星信号処理系
22 アンテナ
24 衛星信号受信機
26 衛星信号処理装置
30 電離層TEC・バイアス推定処理系
32 周波数間バイアス推定装置
33 総電子数算出部
34 モデル値算出部
35 周波数間バイアス推定部
36 乱数発生部
40 インターネットデータ処理系
42 ルータ
44 GEONET収集データ処理装置
46 外部インターネット網
50 通信回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の測位衛星から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機を有し、前記衛星信号に含まれる測位情報を用いて位置情報を得る測位システムを利用する周波数間バイアス推定装置であって、
前記1以上の受信機の各々から前記複数の測位衛星の各々に対する擬似距離に基づき前記衛星信号の通過経路の総電子数を算出する総電子数算出部と、
電離層電子密度モデル関数に基づき総電子数モデル値を算出するモデル値算出部と、
乱数を発生させる乱数発生部と、
前記総電子数算出部により算出された総電子数と前記モデル値算出部により算出された総電子数モデル値に基づき周波数間バイアスを算出し、前記乱数発生部により発生した乱数に基づき前記周波数間バイアスが有する受信機依存周波数間バイアスと衛星依存周波数間バイアスとを仮に決定し、予め測量された位置に基づく位置情報と、仮に決定された前記受信機依存周波数間バイアスと前記衛星依存周波数間バイアスとに基づき前記位置を測位して得られた位置情報との誤差が最も小さい場合に、仮に決定された前記受信機依存周波数間バイアスと前記衛星依存周波数間バイアスとを真の値であると推定する周波数間バイアス推定部と、
を備えることを特徴とする周波数間バイアス推定装置。
【請求項2】
前記周波数間バイアス推定部は、予め測量された位置に基づく位置情報と、仮に決定された前記受信機依存周波数間バイアスと前記衛星依存周波数間バイアスとに基づき前記位置を測位して得られた位置情報との誤差の変化率に基づき前記受信機依存周波数間バイアスと前記衛星依存周波数間バイアスとを推定することを特徴とする請求項1記載の周波数間バイアス推定装置。
【請求項3】
前記周波数間バイアス推定部は、前記測位システムが前記受信機を複数有する場合に、複数の前記受信機の各々で得られた位置情報に基づき1つの前記測位衛星に対して得られた複数の前記衛星依存周波数間バイアスを平均化することにより前記衛星依存周波数間バイアスを推定することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の周波数間バイアス推定装置。
【請求項4】
複数の測位衛星から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機を有し、前記衛星信号に含まれる測位情報を用いて位置情報を得る測位システムを利用する周波数間バイアス推定方法であって、
前記1以上の受信機の各々から前記複数の測位衛星の各々に対する擬似距離に基づき前記衛星信号の通過経路の総電子数を算出する総電子数算出ステップと、
電離層電子密度モデル関数に基づき総電子数モデル値を算出するモデル値算出ステップと、
乱数を発生させる乱数発生ステップと、
前記総電子数算出ステップにより算出された総電子数と前記モデル値算出ステップにより算出された総電子数モデル値に基づき周波数間バイアスを算出し、前記乱数発生ステップにより発生した乱数に基づき前記周波数間バイアスが有する受信機依存周波数間バイアスと衛星依存周波数間バイアスとを仮に決定し、予め測量された位置に基づく位置情報と、仮に決定された前記受信機依存周波数間バイアスと前記衛星依存周波数間バイアスとに基づき前記位置を測位して得られた位置情報との誤差が最も小さい場合に、仮に決定された前記受信機依存周波数間バイアスと前記衛星依存周波数間バイアスとを真の値であると推定する周波数間バイアス推定ステップと、
を備えることを特徴とする周波数間バイアス推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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