説明

噴霧装置及び圧電振動子の駆動制御方法

【課題】所定の噴霧量を確保しつつ、圧電振動子に印加する電圧の周波数を個々の圧電振動子の共振周波数に調整する調整工程や再調整を不要とする圧電振動子の駆動制御方法及び噴霧装置を提供する。
【課題手段】
液体を霧状に噴霧するビートプレートと、前記ビートプレートを振動させる圧電振動子と、前記圧電振動子を駆動する駆動手段と、を備え、前記駆動手段は、前記圧電振動子の振動周波数を所定範囲の周波数域内でスイープさせて前記圧電振動子を駆動する。ここで、前記圧電振動子の共振周波数は、前記圧電振動子の振動周波数である前記所定範囲の周波数域内に含まれ、特に、前記圧電振動子の振動周波数である前記中心周波数は、前記圧電振動子の共振周波数に略等しい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば衛生用又は化粧用として使用される薬剤等の原料液を霧状にして空気中に放出する噴霧装置に関し、特に、このような噴霧装置内の噴霧手段を構成するビートプレートを振動駆動する圧電振動子の駆動制御装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛生用又は化粧用としての薬効成分等を含む液体を霧状にして空気中に放出する噴霧装置は、ビートプレート(振動板)に液滴を供給し、このビートプレートに接合された圧電振動子を例えば超音波周波数帯域の周波数で振動駆動することにより液体を噴霧する。
【0003】
このような噴霧装置においては、従来から、圧電振動子に印加する電圧の周波数を圧電振動子の共振周波数と一致されることにより、圧電振動子の振動幅を大きくして噴霧量の増大を図るようにしている。
【0004】
ところで、圧電振動子を駆動する駆動方法としては、自励式駆動方法と他励式駆動方法の2種類の駆動方法が知られている。自励式駆動方法とは、圧電振動子の自己発振特性を利用するものであり、他励式駆動方法とは、圧電振動子の自己発振特性を利用することなく、外部から圧電振動子に所定の周波数の電圧を印加するものである。
【0005】
そして、このような他励式駆動方式として、圧電振動子に印加する電圧の周波数をビートプレートと圧電振動子の複合体の共振振動数に一致させることにより、最大の噴霧量を得るようにした超音波成膜装置も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3527998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、自励式駆動方法においては、圧電振動子をその共振周波数と同一の周波数で駆動しても、圧電振動子の共振周波数がビートプレートの共振周波数と一定以上ずれている場合に、噴霧しないことがあった。また、圧電振動子の共振周波数で振動駆動をし続けることにより圧電振動子やビートプレートを劣化させるので噴霧装置の寿命を長期化させることが困難であった。
【0007】
一方、他励式駆動方法においては、使用する圧電振動子の共振周波数を、圧電振動子毎にひとつひとつ測定した上で、当該圧電振動子に印加する電圧の周波数をその測定結果に合わせる発振回路の駆動周波数を調整する工程を必要としていた。また、ビートプレートの振動周波数の20乃至40分の1の可聴音領域の音が発生することがあった。
【0008】
さらには、圧電素子やビートプレートは、長期間使用するとその共振周波数がずれてくることがあり、この場合、発振回路の駆動周波数を再調整するか、再調整できなければ噴霧能力が著しく低下してしまうことから噴霧装置を廃棄しなければならない事態も生じていた。
【0009】
本発明は、上記した従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、所定の噴霧量を確保しつつ、圧電振動子に印加する電圧の周波数を個々の圧電振動子の共振周波数に調整する調整工程や再調整を不要とする圧電振動子の駆動制御方法及び噴霧装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するべく、本発明は、液体を霧状に噴霧するビートプレートと、前記ビートプレートを振動させる圧電振動子と、前記圧電振動子を駆動する駆動手段と、を備え、前記駆動手段は、前記圧電振動子の振動周波数を所定範囲の周波数域内でスイープさせて前記圧電振動子を駆動することを特徴とする噴霧装置を提供するものである。
【0011】
ここで、前記振動周波数は超音波周波数であって、前記スイープさせる周波数域は、所定の中心周波数±5kHzの範囲であることを特徴とする。そして、前記圧電振動子の共振周波数は、前記圧電振動子の振動周波数である前記所定範囲の周波数域内に含まれ、特に、前記圧電振動子の振動周波数である前記中心周波数は、前記圧電振動子の共振周波数に略等しいことを特徴とする。
【0012】
そして、前記駆動手段は、0.5乃至5ミリ秒間隔毎に前記所定範囲の周波数域内に設定された複数段階の周波数を連続的に1段階ずつ順次変化させて前記圧電振動子を駆動するようにする。
【0013】
本発明は、さらに、液体を霧状に噴霧するビートプレートに振動エネルギーを供給する圧電振動子の駆動制御方法であって、前記圧電振動子の振動周波数を、所定範囲の周波数域内でスイープさせて駆動することを特徴とする圧電振動子の駆動制御方法を提供するものである。
【0014】
ここで、本駆動制御方法においては、(a)前記所定範囲の周波数域内に設定された複数段階の周波数の一つで前記圧電振動子を所定時間駆動するステップと、(b)前記複数段階の周波数を順次連続的に1段階高い周波数で前記圧電振動子を所定時間駆動するステップと、(c)前記圧電振動子を前記駆動周波数の最大周波数で所定時間駆動するステップと、(d)前記複数段階の周波数を順次連続的に1段階低い周波数で前記圧電振動子を所定時間駆動するステップと、(e)前記圧電振動子を前記駆動周波数の最小周波数で所定時間駆動するステップとの各スッテプを有し、前記ステップ(b)乃至(e)を繰り返すのである。
【発明の効果】
【0015】
このように、本噴霧装置及び圧電振動子の駆動制御方法においては、圧電振動子の振動周波数を所定範囲の周波数域内でスイープさせて駆動するので、圧電振動子に印加する電圧の周波数を個々の圧電振動子の共振周波数に調整する調整工程を不要とした。
【0016】
一方、圧電振動子の共振周波数は、圧電振動子の振動周波数である前記所定範囲の周波数域内に含まれ、また、前記圧電振動子の振動周波数である前記中心周波数は、前記圧電振動子の共振周波数に略等しいことにより、一定以上の噴霧量を確保したのである。
【0017】
さらに、本噴霧装置においては、圧電振動子やビートプレートをその共振周波数で駆動し続けることがないので、振動駆動に伴って生じる装置のビビリ音や機械的振動の発生を抑制すると共に、装置の耐久性を向上させ、装置の寿命を長期化させることができたのである。
【0018】
そして、本噴霧装置においては圧電振動子に印加する電圧の周波数を個々の圧電振動子の共振周波数に調整する必要がないことから、圧電振動子やビートプレートの噴霧部を含めて本装置のユーザー自身によるメンテナンスを可能にしたのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明に係る噴霧装置及び圧電振動子の駆動制御方法を詳しく説明する。
【0020】
図1は、本発明が適用可能な電解水噴霧装置100の例を示すものであって、本電解水噴霧装置100は、電解水噴霧装置主体102と、前記電解水噴霧装置主体102に取付けられた噴霧部104とからなる。
【0021】
電解水噴霧装置主体102の筐体2の内部には、電解質水溶液タンク4が収納されている。水溶液中の電解質としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等のアルカリ金属塩やアルカリ土類塩、アスコルビン酸等の有機酸が好ましい。電解質濃度としては、0.015〜0.9質量%が好ましい。
【0022】
前記電解質水溶液タンク4の下方には、ポンプ6が取付けられており、前記電解質水溶液タンク4内に収納されている電解質水溶液は電解質水溶液供給管8を通して前記ポンプ6に供給される。前記ポンプ6に供給された電解質水溶液は、次いでポンプ6により圧送されて送出管10を通って電解槽12に供給される。
【0023】
図3は、電解槽12を示す拡大図である。電解槽12は、扁平な電解槽筐体14内に、平行に配設された陽極16、及び陰極18を有する。なお、20は陽極16に接続された陽極端子、22は陰極18に接続された陰極端子で、それぞれ前記電解槽筐体14の下端から外部に引出されている。
【0024】
前記ポンプ6から供給される電解質水溶液は、電解槽12の下部に形成された流入孔24から電解槽12内に供給され、層流状態を保ちながら電解槽12内を上方に移動すると共に、陽極16、陰極18間に印加されている電圧により電気分解され、陽極16の近傍には陽極水(酸性水)が生成し、陰極18近傍には陰極水(アルカリ性水)が生成する。
【0025】
電解槽12内の電解質水溶液は層流状態で流れているので、生成した陽極水は陽極16の表面に沿って矢印Aで示される様に上方に流れ、陽極水のみが電解槽12の上部側に形成された流出管26を通って、後述する噴霧手段28に供給される。
【0026】
一方、電解槽12内で生成した陰極水は、図3に示す矢印Bによって示される様に、陰極18に沿って上方に移動し、電解槽12の上部側に連結された排出管30から前記ポンプ6の上方に取付けられた後述する廃液タンク32に送られ廃液として一時的に蓄えられる。廃液タンク32はポンプ6の上方に略電解槽12及び電解質水溶液タンク4と同等の高さに筐体4内に取付けてある。
【0027】
図1において、前記電解槽12の上部側に形成された流出管26の前方には、噴霧部104が電解水噴霧装置主体102に取付けられている。
【0028】
噴霧部104の取付け方法としては、例えばスライドガイドや、係止突起等を用いる通常の嵌合手段が例示される。
【0029】
図1に示すように、噴霧部104は、内部に前記噴霧手段28を収納した噴霧部本体34と、その上部に取付けた噴霧部開閉カバー36とで構成されている。
【0030】
噴霧部104において液滴を霧状にして放出する噴霧手段28は、ビートプレート28aと圧電振動子28bとから構成される。ビートプレート28aは、通常、孔径18〜24μmの貫通孔が多数形成されており、その端部が前記圧電振動子28bに固定されている。前記圧電振動子28bには超音波領域の周波数の電圧を印加されることにより、圧電振動子28bが振動し、これに伴い振動子28bに固定されたビートプレート28aが振動する。これにより、後述するように流出管26から供給される電解水はビートプレート28aに形成された多数の貫通孔を通して外部に微細液滴として噴霧されることとなる。
【0031】
噴霧部開閉カバー36は、上下方向に摺動自在に前記噴霧部本体34に取付けられて前記噴霧手段28を覆う。前記噴霧部開閉カバー36の電解水噴霧装置主体102側には、カバー36上部から流出管26にかけて、平板からなる吐出口開閉手段38が垂設されており、流出管26の先端の吐出口は前記吐出口開閉手段38に当接している。このため、流出管26の先端は閉塞され、電解水は漏出しない。
【0032】
前記カバー36の上部にはマグネット40が取付けてあり、対応する電解水噴霧装置主体102側に取付けたリードスイッチ42と協働してカバー36の位置を検出できるようになっている。
【0033】
制御部44は、後に詳しく説明するマイクロプロセッサ112を組み込むことにより、ポンプ6、電解槽12、噴霧手段28等を統合的に制御する。また、制御部44にはリードスイッチ42等の信号が入力される。駆動電源46は、制御部44、ポンプ6、電解槽12、噴霧手段28等にそれぞれ必要な電圧値の電力を供給する。駆動電源46としては、一次電池のみならず、充電可能な二次電池の何れも使用できる。また、商用交流電源をAC/DC変換にして電力を供給するようにしてもよい。ここで、配線54は、駆動電源46の電力を制御44部に供給する。また、配線48は、電気分解に適する制御された電力を電解槽12に供給する。そして信号線50は、リードスイッチ42と制御部とを接続し、配線52は、制御部44からポンプ6に制御された電力を供給する。
【0034】
また、パッキン55、56は、筐体2内壁と電解槽12との間に介装されたゴム等の弾性体からなり、これらにより防水構造を構成している。この防水構造により、陽極水が電解水噴霧装置主体102内部に侵入することを防いでいる。
【0035】
次に、上記電解水噴霧装置を用いて電解水を噴霧する場合につき説明する。
【0036】
図2に示すように、先ずカバー36を上方に引上げる。これにより、吐出口開閉手段38も上方に移動し、流出管26の吐出口は閉塞状態から、開口状態になる。
【0037】
一方、カバー36に取付けられたマグネット40も上方に移動され、リードスイッチ42から離れる。この状態を検知した制御部44は駆動電源46の電力をポンプ6、電解槽12、噴霧手段28に供給し、これによりポンプ6が作動し、電解質水溶液タンク4内の電解質水溶液は電解質水溶液供給管8、ポンプ6、送出管10を通って電解槽12に送られ、ここで電気分解される。
【0038】
電解槽12内の陽極側で生成した陽極水は流出管26を通り、その先端の吐出口から液滴58になって振動しているビートプレート28aに供給され、更にビートプレート28aに形成された微細貫通孔を通ってビートプレート28aの前方に噴霧される。一方、陰極水は排出管30を通って廃液タンク32に送られ、ここで一時的に貯留された後、適宜外部に排出される。
【0039】
ところで、上に述べた噴霧装置の例では、電解質水溶液をポンプ6によって得られる水圧によってビートプレート28a側に供給するようにしているが、ポンプを使用せずに、多孔性のスポンジュやフィルタが有する毛細管現象を利用して、電解質水溶液をビートプレート28a側に供給するようにしてもよい。また、本噴霧装置においては、ビートプレート28aの多くは、従来から白金又はニッケルの素材を使用してきたが、本装置においては、それらの素材に加えて、パラジウムを使用しても良い。
【0040】
電解水の噴霧が終り、噴霧を停止する際には、カバー36を下方に押下げる。すると、マグネットがリードスイッチ42に近づき信号線50を通して信号が制御部に送られる。これにより電解槽12及びポンプ6に供給される電力が切断され、電解水の噴霧が停止される。
【0041】
上記例においては、リードスイッチ42が電解水噴霧動作のスイッチの役割を果しているが、これに限られず、電源スイッチを別途設け、カバー36をあけた後電源スイッチを入れることにより電解水の噴霧が始まるように構成しても良い。この場合は、リードスイッチ42と電源スイッチのアンド条件で電解水の噴霧が始まるようにすることにより、カバー36を上に引上げていないときに、電源スイッチを入れても電解水は噴霧されず、誤操作による誤噴霧を確実に防止できる。なお、長期間本発明電解水噴霧装置を使用している内に、電解水の噴霧不良を生じる場合がある。電解水の噴霧不良は、噴霧手段に電解水が付着したまま乾燥して析出する電解質によりビートプレート28aの貫通孔が目詰りする等の原因により起きる。
【0042】
噴霧不良を生じた場合は、噴霧部104を電解水噴霧装置主体102から取外し、正常に噴霧する噴霧部104と交換する等により噴霧不良を解決できる。
【0043】
次に、本発明の圧電振動子28b(図1)を駆動する駆動手段について説明する。
【0044】
上記したように、噴霧部104(図1)において液滴を霧状にして放出する噴霧手段28は、ビートプレート28aと圧電振動子28bとから構成される。そして、この圧電振動子28b(図1)は、駆動手段110によって振動駆動されるのである。
【0045】
図4は、圧電振動子28bを振動駆動させるための駆動手段110の全体構成の例を示す。図4に示すように、駆動手段110は、極めて安定した発振周波数の信号を出力する水晶振動子を含む発振回路112と、発振回路112から出力される所定の周波数の発振信号を入力するマイクロプロセッサ113と、マイクロプロセッサ113から出力される駆動信号によって圧電振動子28bを駆動する駆動回路114とから構成される。ここで、マイクロプロセッサ113は、後述するように、圧電振動子28bの振動周波数を所定範囲の周波数域内でスイープさせて駆動するための駆動信号を作成してこれを駆動回路113側に出力するのである。
【0046】
図4に示した本発明の駆動手段110の構成において注目すべきは、従来装置における圧電振動子の駆動手段の如く、発振回路111の発振周波数を圧電振動子28bの共振周波数に合わせるための調整回路を一切必要としないことである。これにより、本発明では、圧電振動子に印加する電圧の周波数を個々の圧電振動子28bの共振周波数に調整する調整回路及びこの調整回路による圧電振動子28bの共振周波数に調整する調整工程を不要としているのである。
【0047】
図5は、図4に示した駆動回路113の具体例を示す。図5に示すように、駆動回路113は、マイクロプロセッサ113(図4)から出力される駆動信号を受けてこれを増幅する増幅器AMPと、増幅器AMPによって駆動するトランジスタTと、その1次巻線の一方が所定の直流電圧Vに接続されてその他方がトランジスタTに接続されたトランスTrと、トランスTrの2次巻線の一方に接続されたインダクタンスLとから構成される。
そして、インダクタンスLは、圧電振動子28bの電極に接続されるのである。これにより、圧電振動子28bは、マイクロプロセッサ113(図4)から出力される駆動信号の周波数により発振駆動することとなる。
【0048】
ところで、圧電振動子28bに印加される駆動電圧の波形は、インダクタンスLを通過することにより、矩形波駆動波ではなく、例えば図10に示すようなサイン波形になる。これによって、本噴霧装置は、低騒音且つ低振動の薬剤の噴射を可能としている。
【0049】
図6は、マイクロプロセッサ113(図4)から出力される駆動信号の波形の例を示す。図6に示すように、圧電振動子28b又は圧電振動子とビートプレート28aの複合体の共振周波数が例えば130KHz近辺にあったとした場合、マイクロプロセッサ113(図4)から出力される駆動信号は、その共振周波数である130KHzを含む所定範囲の周波数域内でスイープさせて圧電振動子28bを駆動するのである。
【0050】
ここで、「スイープ」とは、所定時間間隔毎に前記した所定範囲の周波数域内に設定された複数段階の周波数を連続的に1段階ずつ順次変化させて圧電振動子28bを駆動することを意味する。図6に示した駆動信号の例では、1ミリ秒(msec)間隔毎に、130KHz近辺を中心に125乃至135KHzの範囲内に設定された複数段階(図6の例では7段階)の周波数を連続的に1段階ずつ順次変化させて圧電振動子28bを駆動している。そして、本発明の駆動方式においては、使用する圧電振動子28bの共振周波数が、125乃至135KHzの範囲の周波数域内に含まれるようにするのである。望ましくは、一定値以上の噴霧量を確保するために、前記所定範囲の中心周波数は、圧電振動子28bの共振周波数に略等しいことが望ましい。
【0051】
ところで、図6に示した駆動信号の例では、1ミリ秒毎に前記した複数段階の周波数を連続的に1段階ずつ順次変化させるようにしているが、0.5乃至5ミリ秒間隔内の任意の時間間隔に設定するとよい。
【0052】
図7は、マイクロプロセッサ113(図4)内において、発振回路112(図4)から入力される発振信号(原発振)の周波数と、この原発振信号を分周して作成する駆動信号の周波数(駆動周波数)の対応関係を記載したものである。そして、この図7の例では、使用する圧電振動子28bの共振周波数が130KHzである場合を前提としている。
【0053】
図7に示すように、発振回路112から20MHzの発振信号が供給された場合、マイクロプロセッサ113(図4)内において、これを158分周すると126.58KHzの駆動信号が得られる。同様に、157分周/127.39Kz、156分周/128.21Kz、155分周/129.03Kz、154分周/129.87Kz、153分周/130.72Kz、152分周/131.58Kz、151分周/132.45Kz、150分周/133.33Kz及び149分周/134.23Kzの合計10段階の駆動信号を得ることができる。
【0054】
マイクロプロセッサ113(図4)内において、20MHzの原信号からこのような複数段階の周波数の駆動信号を得るには、種々の方法が知られており当業者にとって自明であることから、ここでは詳細な説明を省くが、マイクロプロセッサ113として、例えば「RENESAS、RJJ09B0040−0210Z」を使用した場合、そこに備えられている「アウトプットコンペア」の機能を使うと容易に、例えば図7に示したような原信号(20MHz)の分周により得られる駆動信号の作成は容易である。当然のことながら、マイクロプロセッサ113とは別個に設けた分周回路から図7に示したような複数段階の駆動信号を作成してもよい。
【0055】
図8は、本発明に係る圧電振動子の駆動制御方法の第1の例を説明するフローチャートを示す。
【0056】
図8において、本噴霧装置の電源スイッチがオンされて(S10)、電圧が立ち上がると、先ず、使用する圧電振動子28bの共振周波数を含む所定範囲の周波数域内に設定された(図7に示したような)複数段階の周波数の一つで圧電振動子28bを所定時間駆動する(S11)。
【0057】
次に、前記複数段階の周波数を順次連続的に1段階高い周波数で前記圧電振動子を所定時間駆動する(S12)。これを継続して、圧電振動子28bを前記駆動周波数の最大周波数で所定時間駆動する(S13)のである。図7の例では、最大周波数は、134.23KHzである。
【0058】
次に、前記複数段階の周波数を順次連続的に1段階低い周波数で圧電振動子28bを所定時間駆動して(S14)、これを継続して、圧電振動子28bを前記駆動周波数の最小周波数で所定時間駆動する(S15)。図7の例では、最小周波数は、126.58KHzである。
【0059】
そして、このようなスイープ駆動は、電源スイッチがオフされるまで噴霧動作中繰り返されるのである(S16)。
【0060】
図9は、本発明に係る圧電振動子の駆動制御方法の第2の例を説明するフローチャートを示す。
【0061】
図9において、本噴霧装置の電源スイッチがオンされて(S20)、電圧が立ち上がると、先ず、使用する圧電振動子28bの共振周波数を含む所定範囲の周波数域内に設定された(図7に示したような)複数段階の周波数の一つで圧電振動子28bを所定時間駆動する(S21)。
【0062】
次に、前記複数段階の周波数を順次連続的に1段階低い周波数で圧電振動子を所定時間駆動する(S22)。これを継続して、圧電振動子28bを前記駆動周波数の最小周波数で所定時間駆動する(S23)のである。図7の例では、最小周波数は、126.58KHzである。
【0063】
次に、前記複数段階の周波数を順次連続的に1段階高い周波数で圧電振動子28bを所定時間駆動して(S24)、これを継続して、圧電振動子28bを前記駆動周波数の最大周波数で所定時間駆動する(S25)。図7の例では、最大周波数は、134.22KHzである。そして、このようなスイープ駆動は、電源スイッチがオフされるまで噴霧動作中繰り返されるのである(S26)。
【0064】
ここで、前記した各段階の周波数の駆動期間は、多くの場合0.5乃至5ミリ秒間に設定される。そして、駆動信号の最大周波数は中心周波数の+5kHzであり、最小周波数は中心周波数の−5kHzとする。ところで、圧電振動子28bの共振周波数は、前記した最大周波数と最小周波数の間に含まれるようにする。そして、この中心周波数は、圧電振動子28bの共振周波数に略等しいことが望ましい。これによって、本噴霧装置において、所定以上の噴霧量を確保することができるのである。
【0065】
以上詳しく説明したように、本噴霧装置においては、液体を霧状に噴霧するビートプレートと、ビートプレート28aを振動させる圧電振動子28bと、この圧電振動子28bを駆動する駆動手段と、を備え、駆動手段は、圧電振動子28bの振動周波数を所定範囲の周波数域内でスイープさせて駆動するようにしている。これによって、従来技術において必要とされた、圧電振動子28bに印加する電圧の周波数を個々の圧電振動子28bの共振周波数に調整する調整工程を不要とすると共に、圧電振動子28bの共振周波数は、圧電振動子28bの振動周波数である前記した所定範囲の周波数域内に含まれ、望ましくは、圧電振動子28bの振動周波数である中心周波数は、圧電振動子28bの共振周波数に略等しいことにより、一定以上の噴霧量を確保し得たのである。
【0066】
また、本噴霧装置においては、圧電振動子やビートプレートをその共振周波数で駆動し続けることがないので、振動駆動に伴って生じる装置のビビリ音や機械的振動の発生を抑制すると共に、装置の耐久性を向上させ、装置の寿命を長期化させることを実現したのである。
【0067】
ところで、本発明の圧電振動子の駆動方法が適用される例として噴霧装置について記載したが、本駆動装置は、超音波モータの駆動、超音波振動子を用いる医療用装置、計測器又はセンサ装置等に応用することができ、本発明の範囲は、当業者が容易に実施又は理解できる範囲においてこれ等の装置等に及ぶものである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、衛生用又は化粧用として使用される薬剤等の原料液を霧状にして空気中に放出する噴霧装置に関し、特に、このような噴霧装置内の噴霧手段を構成するビートプレートを振動駆動する圧電振動子の駆動制御装置及び方法に関するものであり、産業上の利用可能性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の噴霧装置の例(電解水噴霧装置)を示す概略構成図である。
【図2】図1に示した電解水噴霧装置の噴霧状態を示す説明図である。
【図3】図1に示した電解水噴霧装置の電解槽を示す拡大構成図である。
【図4】圧電振動子28bを振動駆動させるための駆動手段110の全体構成の例を示す。
【図5】図4に示した駆動回路113の具体例を示す。
【図6】マイクロプロセッサ113(図4)から出力される駆動信号の波形の例を示す。
【図7】マイクロプロセッサ113(図4)内において、発振回路112(図4)から入力される発振信号(原発振)の周波数と、この原発振信号を分周して作成する駆動信号の周波数(駆動周波数)の対応関係を記載した表である。
【図8】本発明に係る圧電振動子の駆動制御方法の第1の例を説明するフローチャートを示す。
【図9】本発明に係る圧電振動子の駆動制御方法の第2の例を説明するフローチャートを示す。
【図10】本発明の駆動回路において圧電振動子28bに印加される駆動電圧の波形を示す。
【符号の説明】
【0070】
2 筐体(ケーシング)
4 電解質水溶液タンク
6 ポンプ
8 電解質水溶液供給管
10 送出管
12 電解槽
14 電解槽筐体
16 陽極
18 陰極
20 陽極端子
22 陰極端子
24 流入孔
26 流出管
28 噴霧手段
28a ビートプレート
28b 圧電振動子
30 排出管
32 廃液タンク
34 噴霧部本体
36 噴霧部開閉カバー
38 吐出口開閉手段
40 マグネット
42 リードスイッチ
44 制御部
46 駆動電源
48、52、54 配線
50 信号線
55、56 パッキング
58 液滴
100 電解水噴霧装置
102 電解水噴霧装置主体
104 噴霧部
110 駆動手段
112 発振回路(水晶振動を含む)
113 制御装置を構成するマイクロプロセッサ
114 駆動回路
500 噴霧装置(電解質噴霧装置)
502 電解質水溶液タンク
504 電解質水溶液
506 ポンプ
508 電解槽
510 噴霧部
512 排出管
514 廃液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を霧状に噴霧するビートプレートと、
前記ビートプレートを振動させる圧電振動子と、
前記圧電振動子を駆動する駆動手段と、を備え、
前記駆動手段は、前記圧電振動子の振動周波数を所定範囲の周波数域内でスイープさせて前記圧電振動子を駆動することを特徴とする噴霧装置。
【請求項2】
前記振動周波数は超音波周波数であって、前記スイープさせる周波数域は、所定の中心周波数±5kHzの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の噴霧装置。
【請求項3】
前記圧電振動子の共振周波数は、前記圧電振動子の振動周波数である前記所定範囲の周波数域内に含まれることを特徴とする請求項2に記載の噴霧装置。
【請求項4】
前記圧電振動子の振動周波数である前記中心周波数は、前記圧電振動子の共振周波数に略等しいことを特徴とする請求項3に記載の噴霧装置。
【請求項5】
前記駆動手段は、0.5乃至5ミリ秒間隔毎に前記所定範囲の周波数域内に設定された複数段階の周波数を連続的に1段階ずつ順次変化させて前記圧電振動子を駆動することを特徴とする請求項1に記載の噴霧装置。
【請求項6】
液体を霧状に噴霧するビートプレートに振動エネルギーを供給する圧電振動子の駆動制御方法であって、
前記圧電振動子の振動周波数を、所定範囲の周波数域内でスイープさせて駆動することを特徴とする圧電振動子の駆動制御方法。
【請求項7】
(a)前記所定範囲の周波数域内に設定された複数段階の周波数の一つで前記圧電振動子を所定時間駆動するステップと、
(b)前記複数段階の周波数を順次連続的に1段階高い周波数で前記圧電振動子を所定時間駆動するステップと、
(c)前記圧電振動子を前記駆動周波数の最大周波数で所定時間駆動するステップと、
(d)前記複数段階の周波数を順次連続的に1段階低い周波数で前記圧電振動子を所定時間駆動するステップと、
(e)前記圧電振動子を前記駆動周波数の最小周波数で所定時間駆動するステップと、
(f)前記ステップ(b)乃至(e)を繰り返すステップと、
の各ステップを有することを特徴とする請求項6に記載の駆動制御方法。
【請求項8】
(a)前記所定範囲の周波数域内に設定された複数段階の周波数の一つで前記圧電振動子を所定時間駆動するステップと、
(b)前記複数段階の周波数を順次連続的に1段階低い周波数で前記圧電振動子を所定時間駆動するステップと、
(c)前記圧電振動子を前記駆動周波数の最小周波数で所定時間駆動するステップと、
(d)前記複数段階の周波数を順次連続的に1段階高い周波数で前記圧電振動子を所定時間駆動するステップと、
(e)前記圧電振動子を前記駆動周波数の最大周波数で所定時間駆動するステップと、
(f)前記ステップ(b)乃至(e)を繰り返すステップと、
の各ステップを有することを特徴とする請求項6に記載の駆動制御方法。
【請求項9】
前記所定時間は、0.5乃至5ミリ秒間に設定されることを特徴とする請求項7又は8に記載の駆動制御方法。
【請求項10】
前記最大周波数は中心周波数の+5kHzであり、前記最小周波数は中心周波数の−5kHzであることを特徴とする請求項9に記載の駆動制御方法。
【請求項11】
前記圧電振動子の共振周波数は、前記最大周波数と前記最小周波数の間に含まれることを特徴とする請求項10に記載の駆動制御方法。
【請求項12】
前記中心周波数は、前記圧電振動子の共振周波数に略等しいことを特徴とする請求項10に記載の駆動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−36450(P2008−36450A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338500(P2004−338500)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000177612)株式会社ミクニ (332)
【Fターム(参考)】