説明

嚥下補助剤、及び嚥下補助剤の分析方法

【課題】食品毎に使い分け可能とするとともに、使い勝手が良く、生成される嚥下食の再現性に優れた嚥下補助剤、及びその分析方法を提供する。
【解決手段】嚥下補助剤を添加された所定温度の嚥下食に対して圧力を所定の周波数で加えながら、嚥下食の粘性及び弾性を測定するとともに、粘性と弾性との比からなる粘弾性バランスを算出し、粘弾性バランスと嚥下食の変形率との関係、粘弾性バランスと周波数との関係、及び粘弾性バランスと嚥下食の温度との関係を求め、該三関係から嚥下補助剤の嚥下特性を分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば咀嚼・嚥下障害者や咀嚼・嚥下困難者による誤嚥等を防止するため、食物に添加される嚥下補助剤、及び該嚥下補助剤の分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、社会の高齢化に伴って、咀嚼または嚥下機能の低下した咀嚼・嚥下障害者や咀嚼・嚥下困難者等(以下、略して嚥下障害者と称す)が増加する傾向にある。また、それに伴い、嚥下障害者による食物の誤嚥事故等も増加している。そこで、そのような嚥下障害者による誤嚥事故を防止するため、食物の粘性等を高めるための嚥下補助剤を食物に添加することがある。このような嚥下補助剤としては、たとえば特許文献1に記載されているようなものが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−265140号公報
【0004】
ここで、特許文献1に記載の嚥下補助剤について説明する。特許文献1の嚥下補助剤は、たとえばジェランガムやカラギナン等の水溶性多糖類を主成分とするとともに、該水溶性多糖類中のカリウムやカルシウム、ナトリウム等の濃度を調節し、より水和性を高めたものである。そして、水溶性多糖類中のカリウム等の適正濃度は、特許文献1の図中にも記載されているように、嚥下補助剤の水和時間と粘度とをパラメータとして決定されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
食品とは、炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルといった五大栄養素からなる混合物である。そして、各食品によってその物性(五大栄養素の割合等)は様々であり、水やお茶等のように脂質の少ない食品(以下、食品ハイドロコロイドと称す)以外に、たとえば牛乳や豆乳などといったようなエマルジョン(乳濁液状のものであって、たとえば水に溶けない微細粒子が水に分散・浮遊したもの等)や、より脂質の多い食品(以下、食品コロイドと称す)等に分類することができる。
【0006】
ここで、たとえばエマルジョンに特許文献1の嚥下補助剤を添加したとしても、特許文献1の嚥下補助剤は水和性のみを向上させたものにすぎないため、微細粒子等の影響により溶解に著しく時間がかかる。その上、溶解させるために食品を加熱する必要性が生じたり、溶解しきれない嚥下補助剤が塊となって残留し、必要な粘弾性を得ることができないといった事態を生じかねない。
【0007】
また、特許文献1では嚥下補助剤の嚥下特性を、溶解時に発現するであろう粘度のみをパラメータとして分析している。しかしながら、嚥下補助剤は、当然高分子化合物であるため非ニュートン粘性を備えている。そこで、たとえば溶媒となる水の温度や脂質の含有率等の測定条件が少しでも異なると、発現する粘度に大きな差が生じる事態がしばしば発生する。したがって、嚥下補助剤を溶解させる際の作業手順の違いにより、発現する粘度が著しく異なってしまう。そのため、嚥下障害者の食事を介護する食事介護者が変わる場合等にトラブルが引き起こりやすいという課題を有している。
【0008】
さらに、食品を安全に嚥下するためには、嚥下時の食品が、適度な粘性は勿論のこと、適度な弾性及び粘弾性のバランス(以下、粘弾性バランスと称す)を備えていることが求められる。したがって、特許文献1の嚥下補助剤のように、粘度のみをパラメータとして分析することは不適当である。また、そのように嚥下特性を分析された嚥下補助剤を利用したところで、たとえば粘度は問題ないものの粘弾性バランスが十分に足りなかったため、咽頭を通過する際に食品が割れたり、咽頭に付着したりする。そのため、食塊(食品)が気管へ入ってしまったり、嘔吐感をもよおす等のトラブルを引き起こす危険が十分に考えられる。
【0009】
そこで、本発明は、上述したような問題に鑑みなされたものであって、食品毎に使い分け可能とするとともに、使い勝手が良く、生成される嚥下食の再現性に優れた嚥下補助剤、及びその分析方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために、請求項1に記載された発明は、食物の粘性や弾性を調節するために、食物に添加される嚥下補助剤の嚥下特性を分析する方法であって、嚥下補助剤を添加された所定温度の嚥下食に対して圧力を所定の周波数で加えながら、嚥下食の粘性及び弾性を測定するとともに、粘性と弾性との比からなる粘弾性バランスを算出し、粘弾性バランスと嚥下食の変形率との関係、粘弾性バランスと周波数との関係、及び粘弾性バランスと嚥下食の温度との関係を求め、該三関係から嚥下補助剤の嚥下特性を分析することを特徴とした嚥下補助剤の分析方法である。
請求項2に記載された発明は、食物の粘性や弾性を調節するために食物に添加される嚥下補助剤であって、添加された所定温度の嚥下食に対して、圧力を所定の周波数で加えながら測定される嚥下食の粘性及び弾性の比からなる粘弾性バランスと嚥下食の変形率との関係が第一の所定範囲内の値となるともに、粘弾性バランスと周波数との関係が第二の所定範囲内の値となり、且つ粘弾性バランスと嚥下食の温度との関係が第三の所定範囲内の値となることを特徴とする嚥下補助剤である。
請求項3に記載された発明は、請求項2の嚥下補助剤において、少なくとも、15重量%以上25重量%以下の海藻多糖類、5重量%以上10重量%以下の種子多糖類、及び5重量%以上10重量%以下のカリウム塩を含んでいるとともに、海藻多糖類及び種子多糖類からなる増粘多糖類を全体の20重量%以上含むことを特徴とするものである。
請求項4に記載された発明は、請求項2の嚥下補助剤において、少なくとも、25重量%以上45重量%以下の微生物多糖類、及び10重量%以下の種子多糖類を含んでいるとともに、微生物多糖類及び種子多糖類からなる増粘多糖類を全体の20重量%以上含むことを特徴とするものである。
請求項5に記載された発明は、請求項2の嚥下補助剤において、少なくとも、2重量%以上5重量%以下の微生物多糖類、及び20重量%以上45重量%以下の種子多糖類を含んでいるとともに、微生物多糖類及び種子多糖類からなる増粘多糖類を全体の20重量%以上含むことを特徴とするものである。
請求項6に記載された発明は、請求項2〜5の嚥下補助剤において、粘弾性バランスの値を、0.1以上1以下に、好ましくは0.5以上1以下に調節したことを特徴とするものである。
請求項7に記載された発明は、請求項3〜6の嚥下補助剤において、増粘多糖類とデキストリンとからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の分析方法によれば、添加された嚥下食の粘弾性バランスと嚥下食の変形率との関係、粘弾性バランスと周波数との関係、及び粘弾性バランスと嚥下食の温度との関係とを調べることで、嚥下補助剤の嚥下特性を三次元的に解析するため、嚥下補助剤の適性(どのような種類の食物に添加すれば、より効果的であるのか)を容易に判断することができ、嚥下補助剤の使い分けを可能とする。したがって、嚥下障害者に安全な嚥下食を容易に提供することができる。
また、このような分析にて所定の結果を得た嚥下補助剤によれば、生成される嚥下食の再現性を高めることもできる。すなわち、食事介護者が変わった場合であっても、後任者が前任者と同様の特性を有する嚥下食を容易に生成することができる。
さらに、請求項3の嚥下補助剤を利用することにより、牛乳や豆乳といった食品エマルジョンを分散媒とした嚥下食をより容易に生成することができる。なお、上記分析にて所定結果を得たものであるため、嚥下時の安全性は保証されている上、生成される嚥下食の再現性にも優れている。また、該安全性を保持したまま、常用食と同様の温度の嚥下食を生成することができる。
さらにまた、請求項4の嚥下補助剤を利用することにより、たとえばお茶といった食品ハイドロコロイドを分散媒とした嚥下食をより容易に生成することができる。これも、上記分析にて所定結果を得たものであるため、安全性・再現性等に優れた嚥下食を生成可能としている。
またさらに、請求項5の嚥下補助剤を利用することにより、たとえばシチューといった食品コロイドを分散媒とした嚥下食をより容易に生成することができる。これも、上記分析にて所定結果を得たものであるため、安全性・再現性等に優れた嚥下食を生成可能としている。
また、請求項6の発明によれば、生成された嚥下食に、咽頭通過時に十分に変形可能な粘弾性バランスを備えることができるため、安全性の極めて高い嚥下食を生成可能とする上、食感の良い嚥下食を生成可能とする。
加えて、請求項7の発明によれば、増粘多糖類及びデキストリンのみを原料としているため、より健康的な嚥下補助剤となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る嚥下補助剤の分析方法は、主観的評価としての官能試験、及び客観的評価としての物理測定である動的粘弾性測定による分析である。以下、それぞれの評価方法について詳述する。
【0013】
[官能試験]
主観的評価とされる官能試験は、嚥下補助剤を添加された食品(以下、嚥下食と称す)が被験者の咽頭を通過する際、スムーズに通過するか否かを判定するものであって、以下のようにして行う。
まず、一定温度のもと、食品(以下、分散媒と称す)に対して嚥下補助剤を分散させ、平衡状態となるまで所定時間攪拌し、ゲル状態(本発明において、食品が、自重でくずれずに形を保っている状態をゲル状態とする)の嚥下食を生成する。その後、該嚥下食を所定量スプーン等にすくいとり、被験者に、舌の上に一度のせてから呑み込んでもらう。この時、0.5秒以内で完全に呑み込めるものを良と評価する。
【0014】
[動的粘弾性測定]
客観的評価とされる動的粘弾性測定は、嚥下食の粘性・弾性等を測定するとともに、それらの値を基に嚥下食の嚥下特性(すなわち、嚥下食補助剤の嚥下特性)を三次元的に解析するものであって、以下のようにして行う。
まず、官能試験と同様、一定温度のもと、食品(以下、分散媒と称す)に対して嚥下補助剤を分散させ、平衡状態となるまで所定時間攪拌し、ゲル状態の嚥下食を生成する。その際、動的粘弾性測定装置を用いて、一定温度(25℃)のもとで嚥下食の変形率を変化させてゆき、粘弾性バランスが急激に変化する変形率を求める。そして、粘弾性バランスが急激に変化する前の変形率に固定された状態における該嚥下食の粘性(G’’)、弾性(G’)及び粘弾性バランス(tan−δ)を測定する。本発明において、tan−δ=G’’/G’とする。尚、本発明者により、嚥下に望ましいtan−δは0.1以上1.0以下、好ましくは0.5以上1.0以下、より好ましくは0.7以上0.8以下であることが明らかとなった。
【0015】
そして、tan−δと嚥下食の変形率との関係を求める。一般的に、嚥下食が咽頭を通過する際、嚥下食は第変形して一瞬の間に咽頭を通過する。その変形率が60%程度となる状態に固定して測定することで、咽頭通過時の粘弾性バランスや粘性及び弾性の値の正確な知見が得られる。したがって、該tan−δと嚥下食の変形率との関係において、変形率50%〜60%程度まで、tan−δの値が上記範囲内で略一定である(第一の所定範囲内の値である)こと、つまり、咽頭通過時における嚥下食の粘弾性バランスが生成時におけるそれから変化しないことが望まれる。そして、該条件を満たすものを良と評価する。
【0016】
次に、tan−δ及びG’と、G’等の測定時における周波数の関係を求める。該周波数とは、嚥下食生成時に動的粘弾性測定装置において加えられる周波数である。そして、通常の使用時では、周波数の違いは攪拌方法やスピード(以下、嚥下食の生成方法と称す)の違いとして表れる。したがって、周波数の差にかかわらず、tan−δ及びG’の値が略一定であること(第二の所定範囲内の値である)が望まれる。なぜなら、嚥下食を三次元的にとらえることになるため、嚥下食を生成する食事介護者が異なっていたとしても同様の粘弾性バランス等を発現した嚥下食を容易に生成可能(すなわち、嚥下食の再現性の向上)であるということを意味するからである。そして、そのような結果が出た場合に、良と評価する。
【0017】
さらに、tan−δの温度依存性を調べるべく、tan−δと嚥下食の温度との関係を求める。従来では、約10℃あたりが医学的に嚥下反射によいとされ、嚥下食の温度を10℃あたりに設定し、低温摂取させていた。しかしながら、嚥下障害者にとって低温摂取は不快感を有するものであり、近年、常用食と同じような暖かい状態(約20℃〜50℃程度)での摂取が望まれている。そこで、tan−δと嚥下食の温度との関係を求め、tan−δの値が、後述する食品ハイドロコロイド用及び食品コロイド用では約50℃程度まで、エマルジョン用では約30℃程度まで上記範囲内で略一定となる(第三の所定範囲内の値である)ものを良と評価する。
以上のように、動的粘弾性測定は、嚥下食すなわち嚥下補助剤の嚥下特性を三次元的に解析するように行われる。そして、このように嚥下補助剤の嚥下特性を三次元的に解析することで、嚥下障害者に極めて安全な嚥下食を提供することができる。また、このように分析された嚥下補助剤を用いれば、生成する嚥下食の再現性を高めることもできる。すなわち、食事介護者が変わった場合であっても、後任者が前任者と同様の特性を有する嚥下食を容易に生成することができる。
【0018】
一方、本発明に係る嚥下補助剤は、分散媒の物性により、牛乳や豆乳等といったエマルジョン用、お茶等の食品ハイドロコロイド用、及びシチュー等といった食品コロイド用の三種類に分類して生成した。以下、各嚥下補助剤の一実施例について、それぞれ説明する。
【0019】
[エマルジョン用嚥下補助剤]
エマルジョン用嚥下補助剤は、15重量%以上25重量%以下のアルギン酸等に代表される海藻多糖類(増粘多糖類)、5重量%以上10重量%以下のタマリンドガム等に代表される種子多糖類(増粘多糖類)、5重量%以上10%重量%以下のクエン酸カリウム(カリウム塩)、及び55重量%以上75重量%以下のデキストリンからなる。
【0020】
海藻多糖類及び種子多糖類を含有させる第一の目的は、分散媒内において両者がとる三次元網目構造を、分散媒との相互作用により補強させることにある。一般的に、増粘多糖類は、分散媒に溶解された際、増粘多糖類分子のからみあった三次元網目構造をとる。そして、この網目構造の粗密(すなわち、嚥下補助剤における増粘多糖類の種類・濃度)によって、嚥下補助剤の大まかな粘性、弾性、及び粘弾性バランスが決定される。尚、発明者によって、嚥下補助剤において増粘多糖類の重量%が約20%を越えないと均質な三次元網目構造をとることができず、分散媒への溶解後、平衡状態に到達するまでの時間が急激にかかるようになることが明らかとなった。
また、海藻多糖類及び種子多糖類を含有させる第二の目的は、保水力を高め、離水を防止することにある。
【0021】
一方、クエン酸カリウムを含有させる目的は、増粘多糖類が形成する三次元網目構造に対する陽イオン補強作用、及び陰イオン阻害作用にある。これら陽イオン及び陰イオンの含有量やイオンの大きさは、嚥下食の食感(たとえば、滑らかさ)等に影響を与える。
【0022】
上記エマルジョン用嚥下補助剤は、約30℃〜約60℃のエマルジョンに溶解することができる。尚、エマルジョンを75℃以上に加熱した場合、エマルジョン表面に皮膜が形成されるため、たとえ嚥下補助剤が溶解・分散したとしても適当な粘弾性バランス等を得ることはできない。そして、該エマルジョン用嚥下補助剤に対して上述の如き動的粘弾性測定を行ったところ、図1(a)〜(c)に表されているような結果を得た。また、上述の如き官能試験を行った結果、良との評価を得た。
【0023】
図1(a)は、tan−δと嚥下食の変形率との関係を表したものである。図1(a)から明らかなように、嚥下食の変形率約60%まで、tan−δの値は上記所望される範囲内で略一定となっており、良との評価を得た。つまり、嚥下食の変形率が60%となるまで、嚥下食の粘弾性バランスが変化しないため、生成時の粘弾性バランスのまま咽頭を通過させることができる。したがって、生成時は望ましい粘弾性バランスを備えていたものの、咽頭通過時に変形した際、粘弾性バランスが崩れ、急に嚥下食が分裂する原因となったり、嘔吐感等をもよおさせてしまうといった事態を解消することができる。
【0024】
図1(b)は、tan−δ及びG’と、嚥下食生成時の周波数との関係を表したものである。図1(b)から明らかなように、周波数が異なっていたとしてもtan−δ及びG’は略一定となっており、良との評価を得た。したがって、食事介護者による嚥下食の生成方法が異なっていても、常に一定の品質・特性を備えた嚥下食を提供することができ、非常に使い勝手が良い。
【0025】
図1(c)は、tan−δと嚥下食の温度との関係を表したものである。図1(c)から明らかなように、嚥下食を約60℃程度まで加熱したところで、粘弾性バランスは略一定値となり、良との評価を得た。そのため、たとえ嚥下食を常用食程度の温度まで加熱したとしても、加熱により嚥下食の弾性が失われ、気管へ飛び込みやすくなったり、咽頭に付着しやすくなったりするといった事態も生じない。したがって、嚥下障害者に、安全且つ不快感のもよおさない食事を提供することができる。
【0026】
[食品ハイドロコロイド用嚥下補助剤]
食品ハイドロコロイド用嚥下補助剤は、25重量%以上45重量%以下のキサンタンガム等に代表される微生物多糖類(増粘多糖類)、0重量%以上10重量%以下のタマリンドガム等に代表される種子多糖類、及び55重量%以上75重量%以下のデキストリンからなる。
そして、該食品ハイドロコロイド用嚥下補助剤に対して上述の如き動的粘弾性測定を行ったところ、図2(a)〜(c)に表されているように、上述したエマルジョン用嚥下補助剤と近似する結果を得た。また、上述の如き官能試験を行った結果、良との評価を得た。
【0027】
[食品コロイド用嚥下補助剤]
食品コロイド用嚥下補助剤は、2重量%以上5重量%以下のキサンタンガム等に代表される微生物多糖類、20重量%以上45重量%以下のタマリンドシードガム等に代表される種子多糖類、及び55重量%以上75重量%以下のデキストリンからなる。
そして、該食品コロイド用嚥下補助剤に対して上述の如き動的粘弾性測定を行ったところ、図3(a)〜(c)に表されているように、上述したエマルジョン用嚥下補助剤と近似する結果を得た。また、上述の如き官能試験を行った結果、良との評価を得た。
【0028】
以上、上述の如く生成される各嚥下補助剤は、それぞれ対応する分散媒において、非常に良好な粘弾性バランスを発現するとともに、該粘弾性バランスと嚥下食の変形率との関係、粘弾性バランス等と周波数との関係、及び粘弾性バランスと嚥下食の温度との関係において上述したような非常に好ましい結果を得ることができる。
【0029】
つまり、嚥下食の変形率との関係から明らかであるように、咽頭通過時の変形に耐えうることができるため、非常にスムーズで安全な嚥下を可能とする。また、粘弾性バランス等と周波数との関係から明らかなであるように、嚥下食をどのような周波数にて生成したところで略一定の粘弾性バランス及び弾性を発現し得る。したがって、望ましい嚥下食の再現性が高い上、非常に容易に望ましい嚥下食を生成することができる。さらに、粘弾性バランスと嚥下食の温度との関係から明らかであるように、嚥下食を常温食程度まで加熱したところで略一定の粘弾性バランスを発現し得る。したがって、嚥下障害者に不快感をもよおさせることのない上、嚥下容易で安全な嚥下食を提供することができる。
【0030】
また、嚥下補助剤の嚥下特性を、上述の如く三次元的に解析するため、その特性を一定に保ちやすい。また、嚥下補助剤の適性(すなわち、どの分散媒に対してより有効であるか)を判断することも可能とするため、各分散媒に対してより適切な嚥下補助剤を添加することができ、ひいては嚥下時のトラブルの防止等にもつながる。
【0031】
本発明に係る嚥下補助剤の構成は、上記実施の形態の態様に何ら限定されるものではなく、海藻多糖類、種子多糖類、微生物多糖類、及びカリウム塩等の種類を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0032】
たとえば、上記実施の形態では、カリウム塩としてクエン酸カリウムを用いているが、炭酸カリウムやリン酸カリウムを用いても何ら問題はない。また、海藻多糖類や種子多糖類、微生物多糖類として、上記代表例以外のものを使用することも当然可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】エマルジョン用嚥下補助剤の動的粘弾性測定の結果を示した図である。尚、(a)は、粘弾性バランスと嚥下食の変形率との関係を示した図であり、(b)は、粘弾性バランス及び弾性と測定時の周波数との関係を示した図であり、(c)は、粘弾性バランスと嚥下食の温度との関係を示した図である。
【図2】食品ハイドロコロイド用嚥下補助剤の動的粘弾性測定の結果を示した図である。尚、(a)は、粘弾性バランスと嚥下食の変形率との関係を示した図であり、(b)は、粘弾性バランス及び弾性と測定時の周波数との関係を示した図であり、(c)は、粘弾性バランスと嚥下食の温度との関係を示した図である。
【図3】食品コロイド用嚥下補助剤の動的粘弾性測定の結果を示した図である。尚、(a)は、粘弾性バランスと嚥下食の変形率との関係を示した図であり、(b)は、粘弾性バランス及び弾性と測定時の周波数との関係を示した図であり、(c)は、粘弾性バランスと嚥下食の温度との関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物の粘性や弾性を調節するために、食物に添加される嚥下補助剤の嚥下特性を分析する方法であって、
嚥下補助剤を添加された所定温度の嚥下食に対して圧力を所定の周波数で加えながら、嚥下食の粘性及び弾性を測定するとともに、粘性と弾性との比からなる粘弾性バランスを算出し、粘弾性バランスと嚥下食の変形率との関係、粘弾性バランスと周波数との関係、及び粘弾性バランスと嚥下食の温度との関係を求め、該三関係から嚥下補助剤の嚥下特性を分析することを特徴とした嚥下補助剤の分析方法。
【請求項2】
食物の粘性や弾性を調節するために食物に添加される嚥下補助剤であって、
添加された所定温度の嚥下食に対して、圧力を所定の周波数で加えながら測定される嚥下食の粘性及び弾性の比からなる粘弾性バランスと嚥下食の変形率との関係が第一の所定範囲内の値となるともに、粘弾性バランスと周波数との関係が第二の所定範囲内の値となり、且つ粘弾性バランスと嚥下食の温度との関係が第三の所定範囲内の値となることを特徴とする嚥下補助剤。
【請求項3】
少なくとも、15重量%以上25重量%以下の海藻多糖類、5重量%以上10重量%以下の種子多糖類、及び5重量%以上10重量%以下のカリウム塩を含んでいるとともに、海藻多糖類及び種子多糖類からなる増粘多糖類を全体の20重量%以上含んでなる請求項2に記載の嚥下補助剤。
【請求項4】
少なくとも、25重量%以上45重量%以下の微生物多糖類、及び10重量%以下の種子多糖類を含んでいるとともに、微生物多糖類及び種子多糖類からなる増粘多糖類を全体の20重量%以上含んでなる請求項2に記載の嚥下補助剤。
【請求項5】
少なくとも、2重量%以上5重量%以下の微生物多糖類、及び20重量%以上45重量%以下の種子多糖類を含んでいるとともに、微生物多糖類及び種子多糖類からなる増粘多糖類を全体の20重量%以上含んでなる請求項2に記載の嚥下補助剤。
【請求項6】
粘弾性バランスの値を、0.1以上1以下に、好ましくは0.5以上1以下に調節したことを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の嚥下補助剤。
【請求項7】
増粘多糖類とデキストリンとからなる請求項3〜6のいずれかに記載の嚥下補助剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−234444(P2006−234444A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46163(P2005−46163)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(595036390)株式会社ニッシ (3)
【Fターム(参考)】