説明

四塩化炭素のクロロホルムへの接触気相水素化脱塩素反応方法

クロロホルムを製造するための四塩化炭素の水素化脱塩素方法は、白金及びイリジウムの二成分組成物を有する担持型触媒を使用する。その二成分金属触媒は、少量の第三の金属、例えば錫、チタン、ゲルマニウム、レニウム、珪素、鉛、リン、砒素、アンチモン、ビスマス又はそれらの混合物で増進することもできる。その使用によって副生物の生成は減少し、触媒活性の持続時間は改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロホルム及び付随する副生物を製造するための四塩化炭素の水素化脱塩素化方法に関する。より詳しくは、本発明は、そのような方法に有用な、二成分金属組成物を有する新規な触媒に関する。その触媒はまた、少量の金属、例えば錫、レニウム、ゲルマニウム、チタン、鉛、珪素、リン、砒素、アンチモン又はビスマスで増進させることもできる。メタンなどの望ましくない副生物の生成は、本発明の方法及び触媒によって大いに減少する。
【背景技術】
【0002】
飽和及び不飽和有機化合物を脱ハロゲン化する様々な方法が知られている。例えば、1971年5月18日にMullinらに発行された特許文献1は、白金触媒の存在下における四塩化炭素及び/又はクロロホルムの蒸気相水素化脱塩素化に関する。1992年4月14日にHolbrookらに発行された特許文献2は、塩化物前処理を受け、必要に応じて、錫などの少量の金属で促進した担持型白金触媒を使用した、クロロホルム及びメチレンクロリドを製造するための四塩化炭素の水素化脱塩素化用蒸気相法に関する。アルミナの周辺部に沈着した白金を用いる、水素による四塩化炭素の水素化脱塩素はまた、Weissらにより非特許文献1でも論じられている。しかしながら、Noelke及びRaseにより非特許文献2で論じられているように、そのような方法は、乏しい選択率、急速な触媒活性の低下及び短い反応器稼動サイクルにより特徴付けられた。活性度及び選択率を改善するために様々な処置が探索されてきた。これらには、触媒を硫黄及び水素で前処理することが含まれる。
【0003】
更に最近では、いくつかのグループが、四塩化炭素のクロロホルムへの気相白金触媒型水素化脱塩素を研究してきた。メタン副生物への収量損失が全ての場合に高かった。韓国のポハン大学のグループは、様々な操作パラメータ(温度、圧力、希釈ガス)及び触媒パラメータ{白金化合物、白金粒径}が変化したとき、メタンの選択率が17〜67%(Bae,J.W.らの非特許文献3)であり、また21〜32%(Bae、J.W.らの非特許文献4)であると述べた。Akzo Nobel社のグループは、特許文献2に記載された塩化物処理工程(the chloriding step)を必要としない、アルミナ担持白金触媒を製造する方法について2つの米国特許(特許文献3及び特許文献4)を受けた。この前処理は、明らかに5〜8nmの寸法範囲の白金粒子をもたらす。それらの実施例全体では、メタン副生物への選択率が17〜30%の範囲であることを示したが、特許文献4における1つの実施例はメタン選択率が8〜15%程度に低いことを示した。この研究に対する引用文献(literature references)には、この方法により予備処理された触媒の2000時間の実施試験が、メタンへの選択率20〜25%を与えた旨記載されている(Zhang,Z.C.及びBeard,B.C.の非特許文献5〜7)。アルミナ以外の担体に白金金属を担持する実施効果もまた研究されている。ガラス担持(Prati,L.及びRossi,M.の非特許文献8)及び、MgO又はCeO2担持(DalSanto,V.らの非特許文献9)の白金のメタン選択率は16〜38%で変わるように言及された。メタンへの収率損失がわずか1%である炭化タングステンに基づく高いクロロホルム選択率の触媒が特許を受け(特許文献5)、文献(Delannoy,L.らの非特許文献10)に記載されている。しかしながらこの触媒は急速に失活し、20時間で60%から30%に転化率が低下した。
【0004】
VIII族金属(Pt,Ir,Pd,Rh,Ru)とIB族金属(Cu,Ag,Au)とからなる二成分金属触媒(bimetallic catalysts)が、Atochem社への特許文献6及びSolvay社への特許文献7で請求されている。しかしながら、これらの触媒もまたメタン副生物への高い選択率、それぞれ16〜39%及び15〜22%をもたらす。ごく最近では、Legawiec−Jarzynaらが、四塩化炭素のクロロホルム反応のための触媒として、VIII族金属、特に白金及びパラジウムの二成分金属混合物を研究した(非特許文献11)。その二成分金属混合物中のPtのパーセントが0から100%に増加するに従って、クロロホルムへの選択率は、約15%(C1〜C4以上の炭化水素への選択率85%)から、約85%(C1〜C2の炭化水素への選択率15%)に単調に変化した。
【0005】
【特許文献1】米国特許第3,579,596号明細書
【特許文献2】米国特許第5,105,032号明細書
【特許文献3】米国特許第5,721,189号明細書
【特許文献4】米国特許第5,962,366号明細書
【特許文献5】米国特許第5,426,252号明細書
【特許文献6】米国特許第5,097,081号明細書
【特許文献7】米国特許第5,146,013号明細書
【非特許文献1】“Journal of Catalysis”、22巻、245〜254頁(1971年)
【非特許文献2】“hid.Eng.Chem.Prod.Res.Dev.”、18巻、325〜328頁(1979年)
【非特許文献3】“Applied Catalysis A”、240巻、129〜141頁(2003年)
【非特許文献4】“Applied Catalysis A”、217巻、79〜89頁(2001年)
【非特許文献5】“Applied Catalysis A”、174巻、33〜39頁(1998年)
【非特許文献6】“Applied Catalysis A”、188巻、229〜240頁(1999年)
【非特許文献7】“Studies in Surface Science and Catalysis”、130巻、725〜730頁(2000年)
【非特許文献8】“Applied Catalysis B”、23巻、135〜142頁(1999年)
【非特許文献9】“Journal of Molecular Catalysis A”、182〜183巻、157〜166頁(2002年)
【非特許文献10】“Applied Catalysis B”、37巻、161〜173頁(2002年)
【非特許文献11】“Applied Catalysis A,General”、271巻(2004年)、61〜68頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それでも、四塩化炭素のクロロホルム(及び関連する副生物)への水素化脱塩素のための方法並びにそれを可能にする触媒であって、副生物生成と触媒活性の減退が最小限でクロロホルムへの高い選択率を有するような触媒に対するニーズはなお存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの側面は、四塩化炭素のクロロホルムへの水素化脱塩素反応に有用な触媒であって、前記触媒が、アルミナ担体と、そこに組み込まれた、触媒の合計重量に基づき0.01〜5.0重量%の白金及び0.01〜15.0重量%のイリジウムを含む金属組成物とを含む触媒である。
【0008】
本発明の別の側面は、塩化水素などの塩化物源に曝される上記の触媒である。
【0009】
本発明の更に別の側面は、白金がアルミナ担体上に表面から約0〜約2mmの深さまでの間に分散され、且つイリジウムが前記担体の表面から約0〜約2mmまでの間に分散されている本発明の触媒である。
【0010】
本発明の更なる側面は、水素化脱塩素反応に有用な触媒であって、前記触媒はアルミナ担体と、そこに組み込まれた、触媒の合計重量に基づいて0.01〜5.0重量%の白金及び触媒の合計重量に基づいて0.01〜15.0重量%のイリジウム、且つ触媒の合計重量に基づいて0〜1重量%の第三の金属を含む金属組成物とを含む触媒である。
【0011】
本発明の最後の側面は、白金及びイリジウムが、アルミナ担体上に、約2.5nm〜約2000nmの間の平均サイズを有する金属粒子として分散されている本発明の触媒である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の触媒によって、メタンなどの副生物の生成が大いに減少し; 四塩化炭素の転化率レベルが比較的一定に保持され;そして触媒失活速度が低いということは驚くべきことである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、アルミナ担持の白金及びイリジウム二成分金属触媒の存在下、クロロホルム及びその他の関連化合物の痕跡量を生成するのに十分な反応条件で、四塩化炭素が水素と接触する蒸気相法に関するものである。
【0014】
ここで用いるとき、有機生成物への用語「選択率」は、反応器を出るその生成物を、反応器を出る全有機生成物(未転化有機供給物は考慮せず)の合計モル数で除し、100%を乗じたものとして定義される。用語「転化率」は、反応器に導入された有機供給物のモル数と反応器を出る有機供給物との差に100%を乗じ、その量をその有機供給物のモル数で除したものとして定義される。用語「副生物又は関連化合物」は、そのような方法の、クロロホルム以外の任意の反応生成物を意味し、それらは、限定するものではないが、メタン、メチレンクロリド、パークロロエチレン又はヘキサクロロエタンを含む共生成物である。
【0015】
四塩化炭素と水素は、所望の水素化脱塩素反応が起こる任意の温度及び圧力で、本発明の触媒と接触させる。温度は少なくとも約50℃で、且つ約200℃以下であることが好ましく;温度が少なくとも約60℃で、且つ約150℃以下であることがより好ましく;そしてその温度が少なくとも約70℃で、且つ約130℃以下であることが最も好ましい。圧力は、少なくとも大体大気圧で、且つ約200psig以下であることが好ましく;その圧力が少なくとも約15psigで、且つ約150psig以下であることがより好ましく;その圧力が少なくとも約25psigで、且つ約100psig以下であることが最も好ましい。本発明の実施においては、より高い温度及び圧力でも操作可能であるが、経済的又はその他の理由によって好ましくないであろうことは、当業者の認識するところである。前記方法は回分式で又は連続式で実施することができる。
【0016】
水素と四塩化炭素は、本発明の触媒により反応して、主としてクロロホルムとメタンを生成する。幾つかの好ましい態様においては、塩化水素もまた反応体供給物に含まれうる。クロロホルムの生成を許容できる収率でもたらすような、水素、四塩化炭素及び、必要に応じての塩化水素の、任意の量も本発明の実施においては有用である。好ましくは、反応器供給物における水素:四塩化炭素のモル比は約1:1〜約50:1、より好ましくは約3:1〜約30:1の範囲であり、更に好ましくは約6:1〜約20:1の範囲である。反応体供給物中に塩化水素が存在することは、工程全体の経済性を改善するため、工程の生成物精製部門から未使用水素をその供給物に再循環することの結果として、非常にしばしば生じる。塩化水素:四塩化炭素のモル比は、約0:1〜約0.3:1;より好ましくは約0:1〜約0.1:1の範囲である。反応体供給物中に存在する塩化水素の量の上限は触媒の活性度に関係する。触媒の活性度は、四塩化炭素の転化率で測定するとき、反応体供給物中の塩化水素の量が増加するにつれて低下するように見える。しかしながら、クロロホルムへの選択率は、反応体供給物中の塩化水素の量が増加するに従って上昇する。このように、当業者なら、反応体供給物中に含まれる塩化水素の最適量が、四塩化炭素の転化率とクロロホルムへの選択率をバランスさせるように選択するということを認識するであろう。相当な量の四塩化炭素を再循環させることができる反応経路において、塩化水素の高めの量によって得られるクロロホルムへの選択率は、四塩化炭素の転化率の喪失を上回る。
【0017】
本発明の二成分金属触媒は、アルミナに担持された白金及びイリジウムを含む。触媒は、特定の態様においては、第三の金属成分を含むこともでき、第三の金属には、錫、チタン、ゲルマニウム、レニウム、珪素、鉛、リン、砒素、アンチモン、ビスマス又はそれらの混合物が含まれる。触媒が白金及びイリジウムを含むことが最も好ましい。
【0018】
本発明の最終的な触媒に存在する白金及びイリジウムの望ましい量は、二種の金属のモル比によって、また合計の金属負荷量、即ち各金属の負荷量の重量%の合計によって定義される。それらの金属の比は、その触媒中の各金属のモル数の比として定義される。従って、例えば白金:イリジウムのモル比25:75は、その触媒がイリジウム75原子毎に白金25原子を含むことを意味することになる。合計の金属負荷量1重量%は、白金:イリジウムモル比25:75では、二種の金属の分子量の違いを考慮すると、各金属の負荷量が白金0.253重量%及びイリジウム0.747重量%であると解釈する。従って、触媒組成は、以下に更に説明するように、白金とイリジウムの比及び合計の負荷量によって完全に規定される。
【0019】
本発明による白金及びイリジウムの比率は、所定の限度内で最良に保持される。白金:イリジウムの比で白金が非常に多くなったときは、得られる触媒の挙動はあまり利点のない純白金触媒に近いものになる。詳しくは、白金:イリジウムの比が75:25より多い白金含有量を有するとき、その触媒の挙動は、所望の生成物に対する選択率及び触媒失活性に関して、純白金触媒に非常に近似する。従って、例えば85:15又は95:5の比率では、純白金触媒に比較して何らの利益も観察されない。注目すべきは白金:イリジウム75:25の触媒の活性度が、純白金又は純イリジウムのいずれよりも相当に高いということである。
【0020】
しかしながら、全ての白金又は白金/イリジウム触媒の活性度は非常に高いので、更なる増大はそれほどの経済的な優位性を与えない。
【0021】
実施上の配慮点から、白金:イリジウムの所望の比率はまた、その組合せ範囲の他方の端、即ち非常に低い白金:イリジウムの比率で抑制される。四塩化炭素からのクロロホルムへの選択率は、白金:イリジウムの比率0:100、即ち純イリジウム触媒でも改善される。しかしながら、純イリジウム触媒は非常に早く失活する。従って、許容できる失活速度が白金:イリジウムの下端を規定する。触媒中に少量の白金の存在であっても、観察された失活速度を大いに低減しうることが見出された。白金:イリジウムの最も好ましい下端は2.5:97.5である。従って、好ましい白金:イリジウムの比率は、2.5:97.5から75:25までさまざまである。即ち、その比率の白金の部分は、白金とイリジウムのパーセントが合計100%となるように対応するイリジウムを変化させて、2.5%から75%まで変動させることができる。触媒での合計の金属負荷量の決定においては、考慮すべきその他の要因が存在する。
【0022】
商業的に可能な最も低い負荷量は、所定の反応器中での許容可能な最低の転化割合によって規定される。本発明の白金/イリジウム触媒は、四塩化炭素のクロロホルムへの転化に対して非常に活性である。従って、その触媒を商業的に使用可能とするためには、比較的少量の白金/イリジウムだけが反応器中に存在することしか必要としない。合計の金属負荷量の下限値は、反応器中の触媒の合計量に基づいて、約0.01重量%であると推定される。
【0023】
合計の金属負荷量の上限値は、白金/イリジウム触媒のコストと、得られる触媒の、所定の反応器中での所望の活性度とのバランスにより規定される。当業者なら、それほどの実験なしに、その反応器についての適当なバランスを規定することができるはずであると考えられる。
【0024】
触媒中に存在する白金の量は、触媒の合計重量に基づいて、好ましくは、少なくとも約0.01重量%で、且つ約5重量%以下である。好ましい範囲は約0.05〜約1重量%である。
【0025】
触媒中に存在するイリジウムの量は、触媒の合計重量に基づいて、好ましくは、少なくとも約0.01重量%で、且つ約15重量%以下である。好ましい範囲は約0.25〜約5重量%である。
【0026】
本発明で有用な触媒は、好ましくは担持型である。担体は、多孔質で、吸着性で、約25〜約500m2/gの表面積を有する大表面積の担体であることが好ましい。適当な担体のそれらに限定することのない例には、活性炭、コークス又は木炭;シリカ又はシリカゲル、炭化珪素、クレー、並びに、合成により製造されたもの及び天然物を含む珪酸塩であって、酸処理されたもの又はされていないもの、例えばアタパルガスクレー、珪藻土、酸性白土(fuller’s earth)、カオリン、キーゼルグール等;無機酸化物、例えばアルミナ、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化クロム、酸化亜鉛、マグネシア、トリア、ボリア、シリカ−アルミナ、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア、クロミア−アルミナ等;結晶ゼオライト系アルミノ珪酸塩;並びにこれらの群の1種もしくはそれ以上からの1種又はそれ以上の成分の組合せが含まれる。本発明の触媒には、アルミナ担体を用いることが好ましい。
【0027】
好ましい担体は、約50〜約350m2/g、より好ましくは約80〜約250m2/gの範囲の表面積を有するのがよい。好ましい担体の平均孔径は約25〜約2000Å、より好ましくは約50〜約1250Åの範囲である。触媒の平均径は、約0.159〜約1.27cm(約1/16〜約1/2inch)である。
【0028】
白金、イリジウム及び第三の金属は、触媒担体中に、任意の適当な方法で組み込むことができる。適当な技法の例には、沈殿、イオン交換又は含浸が含まれる。それらの金属は同時にその担体中に組み込まれてもよく、または別々に組み込まれてもよい。好ましい態様においては、本発明の触媒用の全ての金属は同時に組み込まれる。
【0029】
担体中に組み込む方法は、その担体上の金属の分散に影響する1つの変数である。本発明の触媒において、各金属(白金、イリジウム及び第三の金属)は、その触媒担体の表面上に分散させることができ、またその担体の上又は内部に分散させることができる。担体上又はその内部に金属が分散することは、金属が浸透した担体の表面からの距離をmm単位で測定したもので意味付けられる。白金族金属は、表面から0mmと約2mm以下との間に分散させるのが好ましく、表面から約1mm以下に分散させるのがより好ましい。
【0030】
白金及びイリジウムと同様に、第三の金属もその担体の表面上に位置することができ、またその担体の上又は内部で分散させることができる。第三の金属は、表面から0mmと約2mm以下との間で分散させるのが好ましい。第三の金属は、表面から約1mm以下に分散させるのが最も好ましい。
【0031】
白金、イリジウム又は第三の金属の浸透の深さは、本発明では臨界的なものではないが、この方法の経済性を最適なものとするために作用する。担体内部深く存在する活性金属は、反応速度がそれら活性部位への反応体の分散速度によって限定されうるので、あまりその反応に効果的な触媒作用を施さない。
【0032】
白金、イリジウム及び第三の金属に加えて、その触媒はその他の成分、例えばアルカリ金属(alkali metal)、アルカリ土類金属(alkalino metal)、ハロゲン、硫黄、及びその他公知の触媒変性物を含んでいてもよい。通常、担体の表面に貴金属を非常に細かく分散させることによってその利用を最大限のものとすることが、貴金属を担体上に含浸させるときの目的である。従って、触媒表面では非常に細かい金属粒子だけが望まれる。もし金属粒子が大きければ、幾らかの貴金属がそれらの粒子の内部に存在し、そのような貴金属は所望の化学作用に影響することができず非効率となる。しかしながら、この触媒中に貴金属を非常に高度に分散させることにより、高レベルの副生物の生成及び急速な触媒失活に導かれうることを見出した。白金族金属は、2.5nmと約200nm以下との間の平均寸法を有する金属粒子として、触媒の表面上に分散していることが好ましい。その金属粒子は3.0nmと約20nmとの間のサイズで分散していることがより好ましい。それらの粒子は4.0nmと約8.0nmとの間のサイズで分散していることが最も好ましい。当業者なら、触媒の表面に沈積する金属粒子サイズを制御する様々な方法を承知している。これらには、多量の合計金属負荷の利用、水、水素もしくはその2種の組合せの存在下に触媒を加熱すること、又はZhang(特許文献4)に記載されたように様々な処理によるものが含まれる。金属の近似平均粒径は、電子顕微鏡を用いて、又は水素もしくは一酸化炭素の化学吸着によって測定することができる。
【0033】
水素化脱塩素工程での使用に先立って、本発明の触媒は、好ましくは塩化物源による処理を含む前処理を受けるのがよい。1つの好ましい態様において、触媒は、その触媒を乾燥し、還元し、そしてその触媒に塩化物源を用いた少なくとも2回の処理を施すことを含む多段階前処理を受けるが、その塩化物源による後の方の処理は、その前の処理で用いられるよりも低い温度で実施される。
【0034】
例えば、1つの好ましい態様において、触媒は次の工程を含む前処理を受ける。
(1)触媒を希釈気体の下で、高温で乾燥し:
(2)その触媒を、高温で、塩化水素及び塩素を含む群から選ばれる塩化物源を用いて処理し:そして
(3)その触媒を還元し:そして
(4)その触媒を、工程(2)で用いる温度より低い温度で、塩化水素及び塩素を含む群から選ばれる塩化物源を用いて、二度目の処理を行うこと。
【0035】
乾燥工程では、希釈気体は窒素であることが好ましい。その温度は、好ましくは、約100℃〜約500℃の範囲である。乾燥工程で必要な時間は、一般に、約0.5時間(one half hour)〜約48時間の範囲である。
【0036】
第一の塩化物処理において、触媒が処理される塩化物源は、好ましくは塩化水素である。この前処理工程の温度は、好ましくは約150℃〜約300℃の範囲である。この工程に要する時間は、一般に、約1時間〜約48時間である。
【0037】
還元工程では、触媒は慣用の還元剤を用いて還元される。適当な還元剤の例としては、水素、ヒドラジン及びホルムアルデヒドが含まれる。還元剤は、好ましくは水素である。前処理のこの工程の温度は、好ましくは約150℃〜約500℃の範囲である。この工程に要する時間は、一般に、約2時間〜約24時間の範囲である。当業者が認識しているように、好ましい温度と時間は関連しており、高い温度あればあるほど短い時間しか必要なく、低い温度あればあるほど長い時間が必要になる。この工程の後、触媒は、好ましくは約80℃〜約150℃の範囲の温度に冷却される。
【0038】
第二の塩化物処理において、触媒が処理される塩化物源は、好ましくは塩化水素である。この前処理工程の温度は、好ましくは約80℃〜約150℃の範囲である。この工程に要する時間は、好ましくは約15分〜約2時間である。第二の塩化物処理工程は、所望の水素及び四塩化炭素の反応器への流れが確立されるまで継続されるべきである。
【0039】
前処理の様々な部分の順序は変えることができ、ある場合には諸工程は重複するということは当業者の認識するところである。例えば触媒は、希釈気体と塩化物源を用いて、高温で同時に処理してもよく、また希釈気体と塩化物源を用いる処理はいくらかの時間の間重複してもよい。
【実施例】
【0040】
以下の実施例は本発明を詳説するために提供されるもので、決してそれを限定するものとして解釈されるべきではない。別段の記載がない限り、全ての部及び%は重量による。
【0041】
触媒の製造
本発明に有用な触媒は購入することができ又はここに記載された一般的な手法を用いて製造することができる。活性な白金及びイリジウムのサンプルは、塩化水素酸、H2PtCl6及びH2IrCl6中の金属塩化物の濃厚溶液として販売元から購入した。これらの溶液の正確な量を計算して、所望の所定の金属負荷量に、各溶液中の金属濃度及び製造する触媒の合計量を加えた。これらの量を、適量の高純度の水と混合して、所望の得られる溶液の合計容量を得た。アルミナペレットの外側の比較的均一な被覆は、アルミナ20g毎に1mLの溶液を用いて得ることができることを見出した。その金属の溶液はゆっくりとシリンジから投与し、フラスコ中で窒素を吹き付けることにより霧状にし、そしてアルミナにより吸収させた。そのアルミナペレットは、規則的に混合して均一にエッジロードされた(edge-loaded)触媒を得た。この触媒は、空気中120℃で一夜乾燥した。それらは次いで純水素の下で1時間、450℃、650℃又は800℃で還元した。
【0042】
触媒性能試験
種々の触媒のサンプルの性能が、それぞれ“Brooks5850E”気体質量流量調整器と、“Gilson305”ポンプの供給システムを備えた、2つの独立した反応器からなる反応器システム中でテストした。四塩化炭素は予熱炉に注入し、そこでその液体を蒸発させて予熱された気体供給物と混合した。蒸発した四塩化炭素−気体混合物は、ガラスウールの詰め物の間の場所に保持した触媒が充填されている、1.27cmの“Inconel”管(壁厚0.0889cm)製の管状反応器を含む第二の炉に送った。圧力は、反応器の下流にある制御バルブを用いて、固定された拘束物を通る窒素流を変えることにより、制御し、創生し、維持した。加熱移送配管により、反応器の排出物は、分析用の60m“DB5”キャピラリーカラムを用いた専用の“Hewlet Packard5890A”ガスクロマトグラフに配送した。“Camile(登録商標)”(Camile Products,LLCの登録商標)コンピューターシステムが、全工程を制御して安全な無人24時間運転を可能にした。
【0043】
転化反応
実験室反応器には触媒5.0cc−用いられているアルミナについて約4.5g−が充填した。
【0044】
充填された反応器は、流動窒素下に、20psigで120℃に加熱し、そこで約30分保持し、次いで窒素:HClの80:20混合物下で、20psigで200℃に1時間加熱して触媒を乾燥した。触媒の還元は、水素:HClの80:20混合物を触媒に200℃、20psigで1時間流すことにより達成した。反応器は、次いで80℃に冷却し、そしてHClの流れを減らして水素:HClのモル比を10:1とした。反応器の圧力は、この時間の間に所望のレベル(典型的には80psig)に上昇した。四塩化炭素の流れは、水素:四塩化炭素の供給モル比12:1で、その触媒量に対して計算通り見かけの(superficial)滞留時間5秒となるように開始した。四塩化炭素の流れが十分に安定した後、HClの流れは停止した。製造される生成物の有効%がメタンであるような実験では、実際の触媒床温度は、メタンの生成に伴う反応の非常な発熱性によって、炉の温度より幾らか高くなっていたものと思われる。
【0045】
前記の手順を用い、(白金+イリジウム)の合計負荷量が0.5重量%となるように、一連の白金:イリジウム触媒を製造したが、白金:イリジウムの比率は純白金から純イリジウムまでさまざまであった。各触媒は、性能の概略を示すことを可能にするため、80℃で少なくとも50時間運転した。次に温度は、転化率を変えるため、他のパラメータを一定に保ちながら変化させた。副生物メタンへの選択率に対する転化率のプロットは、前記のように図1に示す。
【0046】
実施例1
アルミナ上にイリジウム0.5%を有し、そこに白金を全く有しない触媒を製造した。水素の化学吸着により測定した平均金属粒径は2.3nmであった。温度を変化させることにより、転化率は約20%から約95%までにわたって変化した。四塩化炭素の転化率に対するクロロホルム選択率のプロットを、図1に一番下の選択率曲線として示す。
【0047】
実施例2
アルミナ上に白金0.05%及びイリジウム0.45%を有する触媒を製造した。水素の化学吸着により測定された平均金属粒径は2.7nmであった。温度を変化させることにより、転化率は約30%から約95%までにわたって変化した。四塩化炭素の転化率に対するクロロホルム選択率のプロットを、図1に下から二番目の選択率曲線として示す。
【0048】
実施例3
アルミナ上に白金0.125%及びイリジウム0.375%を有する触媒を製造した。水素の化学吸着により測定された平均金属粒径は2.9nmであった。温度を変化させることにより、転化率は約20%から約90%までにわたって変化した。四塩化炭素の転化率に対する5つのクロロホルム選択率のプロットを、図1に下から三番目の選択率曲線として示す。
【0049】
実施例4
アルミナ上に白金0.25%及びイリジウム0.25%を有する触媒を製造した。水素の化学吸着により測定された平均金属粒径は3.5nmであった。温度を変化させることにより、転化率は約30%から約90%までにわたって変化した。四塩化炭素の転化率に対するクロロホルム選択率のプロットを、図1に下から四番目の選択率曲線として示す。
【0050】
実施例5
アルミナ上に白金0.375%及びイリジウム0.125%を有する触媒を製造した。水素の化学吸着により測定された平均金属粒径は4.4nmであった。温度を変化させることにより、転化率は約20%から約65%までにわたって変化した。四塩化炭素の転化率に対する15のクロロホルム選択率のプロットを、図1に一番上の選択率曲線として示す。
【0051】
実施例6
アルミナ上に白金0.5%を有し、その上にイリジウムを全く有しない触媒が製造した。水素の化学吸着により測定した平均金属粒径は5.5nmであった。温度を変化させることにより、転化率は約20%から約65%までにわたって変化した。四塩化炭素の転化率に対するクロロホルム選択率の20のプロットを、図1に一番上の選択率曲線として示す。
【0052】
実施例7
アルミナ上に白金0.05%及びイリジウム0.45%を有する触媒を製造した。水素の化学吸着により測定した平均金属粒径は3.2nmであった。この触媒の約450gを、非焼成アルミナで希釈して、長さ10ft、直径1.5inchの反応器中に充填した。触媒は調整され、上記のように実施した。95℃、150psigで、四塩化炭素の転化率は約60%、メタノール選択率は3.5%、そしてクロロホルム選択率が96%であった。この性能は、330時間稼動後に終了した全運転を通して安定であった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】副生物メタンへの選択率に対する触媒の白金:イリジウムの比率、及び四塩化炭素の転化率の影響を図1に示す。メタン以外の副生物への選択率は、通常、合計で1%より少ないので、図1に示した実施例に関するクロロホルムへの選択率は、(100%−メタンへの選択率)として計算できる。図1の各曲線は個々の触媒の結果を示す。所定の転化率で、メタンへの最も低い選択率(クロロホルムへの最も高い転化率)を与える触媒は、Ir0.5重量%を含んでいた。メタンへのそれより高い選択率を与える触媒組成物は、順に、0.05%Pt:0.45%Ir、0.125Pt:0.375%Ir、0.25Pt:0.25%Ir、0.375Pt:0.125%Ir及び0.5%Ptであった。上記のように、最後の2つの触媒は本質的に同じレベルのメタン選択率を与え、図1では最も高いメタン選択率曲線で表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ担体と、そこに組み込まれた、触媒の合計重量に基づき0.01〜5.0重量%の白金及び触媒の合計重量に基づき0.01〜15.0重量%のイリジウムを含む金属組成物とを含んでなる四塩化炭素のクロロホルムへの気相水素化脱塩素反応に有用な触媒。
【請求項2】
前記金属組成物が、触媒の合計重量に基づいて0.03〜1.0重量%の白金及び触媒の合計重量に基づいて0.10〜3.0重量%のイリジウムを含む請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記金属組成物が、触媒の合計重量に基づいて0.05重量%の白金及び触媒の合計重量に基づいて0.45重量%のイリジウムを含む請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
前記触媒が、四塩化炭素のクロロホルムへの前記水素化脱塩素反応における前記触媒の使用に先立ち、塩化物源に曝される請求項1〜3に記載の触媒。
【請求項5】
前記塩化物源が塩化水素である請求項4に記載の触媒。
【請求項6】
白金がアルミナ担体上に表面から約0〜約2mmまでの間に分散され、且つイリジウムが前記担体の表面から約0〜2mmまでの間に分散されている請求項5に記載の触媒。
【請求項7】
白金がアルミナ担体上に表面から約0〜1mmまでの間に分散され、且つイリジウムが前記担体の表面から約0〜1mmまでの間に分散されている請求項5に記載の触媒。
【請求項8】
前記金属組成物が、触媒の合計重量に基づいて0.01〜5重量%の白金及び触媒の合計重量に基づいて0.01〜15重量%のイリジウム並びに触媒の合計重量に基づいて0〜1重量%の、錫、チタン、ゲルマニウム、レニウム、珪素、鉛、リン、砒素、アンチモン、ビスマス又はそれらの混合物よりなる群から選ばれる第三の金属を含む請求項1に記載の触媒。
【請求項9】
白金が、2.5nmと約200nm以下との間の平均寸法を有する金属粒子として触媒の表面に分散されている請求項5に記載の触媒。
【請求項10】
白金が、4nmと約8nm以下との間の平均寸法を有する金属粒子として触媒の表面に分散されている請求項5に記載の触媒。
【請求項11】
反応器供給物における水素:四塩化炭素のモル比が約6:1〜約20:1の範囲である請求項1の触媒を用いる方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2007−537039(P2007−537039A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513226(P2007−513226)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/015815
【国際公開番号】WO2005/113137
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】