説明

回分式の内部熱交換型蒸留装置

【課題】省エネルギー化を図り、高能率で蒸留原料の精製を行う。
【解決手段】蒸留原料の蒸留が行われる蒸留塔1と、蒸留原料が貯留される蒸留原料貯留槽22と、蒸留塔1の底部側に供給された蒸留原料を加熱し気相状態にするリボイラー23と、蒸留塔1の中途部から取り出した気相状態の蒸留原料を加圧圧縮して蒸留塔3に還流する圧縮機28と、蒸留塔1の塔頂部6から流出する塔頂蒸気を凝縮して外部に取り出す凝縮器24を備える。圧縮機28により加圧圧縮された気相状態の蒸留原料が供給される蒸留室4を含む上部側の蒸留室4を高圧部20とし、高圧部20の下部側を低圧部21とし、高圧部20と低圧部21との間で熱交換を行い、低圧部21側での蒸留原料の蒸発を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留塔の内部に高圧部と低圧部を構成し、高圧部と低圧部との間で熱交換を行うようにした回分式の内部熱交換型蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸留に用いるエネルギー消費量の低減を図る蒸留塔として、低圧塔と高圧塔を備え、これら低圧塔と高圧塔との間で熱交換を行うように構成した内部熱交換型の蒸留塔が知られている。
【0003】
この種の蒸留塔として、特許第2694425号公報(特許文献1)、特許第3184501号公報(特許文献2)等に記載されるものがある。ここに示される蒸留塔は、複数の管を両端管板によって、塔本体を構成する本体胴と連結することにより、本体胴の内部において、複数の管の管内と管外を隔離した構造とし、管内及び管外のそれぞれに気液の出入口を設け、管内側と管外側の操作圧力に差をつけることにより操作温度を異ならせ、複数管の管壁を伝熱面として、高圧部側と低圧部側との間でに熱交換することにより、高圧部側を濃縮部、低圧部側を回収部として構成したものである。
【0004】
この内部熱交換型の蒸留塔においては、沸点温度にある蒸留原料が低圧部側の塔頂に供給され、高圧部側の塔頂蒸気が製品として外部に取り出される。また、低圧部の塔頂蒸気は、圧縮機を経て高圧部側の塔底側に供給されるとともに、低圧部側の塔底液はその一部が缶出液として外部に排出され、残りは、リボイラーを経て低圧部の塔底に戻されて蒸留処理がされる。
【0005】
このように構成された内部熱交換型の蒸留塔は、低圧部側の塔頂蒸気を、圧縮機により加圧圧縮して高圧部側に供給し、高圧部側の圧力及び温度を上昇させて低圧部側との熱交換を行うので、蒸留原料を加熱するリボイラー負荷を削減可能とし、さらに、蒸留塔1塔で省エネルギー化を達成している。
【0006】
このような内部熱交換型の蒸留塔を回分式の蒸留塔に適応したものとして、再沸蒸気圧縮式回分蒸留塔(Heat-Integrated Batch Distillation Column;HIBaDiC)が提案されている。この蒸留塔を用いた装置は、蒸留塔全体をジャケット(リボイラー)で被い、ジャケットからの蒸気を圧縮して蒸留塔に供給することで、蒸留塔の温度を上昇させ熱交換を行うようにしている。これにより、リボイラー負荷が削減され、さらに、内部還流により分離が促進されることで最小還流比よりも小さな還流比での運転が可能になり、省エネルギー化を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2694425号公報
【特許文献2】特許第3184501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した再沸蒸気圧縮式回分蒸留塔を用いた装置は、ジャケット内の原料仕込み量によって伝熱量が変化し、さらに装置が大規模化するといった課題を有している。このように、内部熱交換技術は、蒸留分離プロセスの省エネルギーのために有用であるが、この技術に適応した実用的な回分式の蒸留装置は未だ提案されていない。
【0009】
そこで、本発明は、内部熱交換型の蒸留塔を用いた回分式の蒸留装置において、蒸留原料の高能率での精製を行うことを可能とし、更に、省エネルギー化を実現できる内部熱交換型の蒸留装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述したような技術課題を解決するため、本発明は、蒸留原料の蒸留が行われる蒸留塔と、この蒸留塔の底部側から蒸留塔内に供給される蒸留原料が貯留されるとともに上記蒸留塔の底部に降下された液相の蒸留原料が貯留される蒸留原料貯留槽と、この蒸留原料貯留槽の底部側に供給された蒸留原料を加熱し気化するリボイラーと、上記蒸留塔の中途部から取り出した気相状態の蒸留原料を加圧圧縮して上記蒸留塔に還流する圧縮機と、上記蒸留塔の塔頂部から流出する塔頂蒸気を凝縮して外部に取り出す凝縮器を備え、上記蒸留塔内部の上記圧縮機により加圧圧縮された気相状態の蒸留原料が供給される上部側を高圧部とし、上記蒸留原料が供給される高圧部の下部側を低圧部とし、上記高圧部と上記低圧部との間で熱交換を行うようにしたものである。
【0011】
本発明に用いられる蒸留塔として、例えば、液相の蒸留原料を降下させる液降下部と気相の蒸留原料を透過させる蒸気透過部が設けられた複数の棚段が所定間隔を隔てて配設され、その内部に棚段によって区画された複数の蒸留室が高さ方向に構成され棚段方式を採用したものを用いることができる。
【0012】
本発明は、更に、上記凝縮器で凝縮された塔頂蒸気の一部を蒸留塔の塔頂部に還流させる還流手段を設けるようにしてもよい。
【0013】
また、本発明は、上記高圧部の塔底部側に貯留された蒸留原料を、上記低圧部側の塔頂部側に還流させる還流機構を設けることが望ましい。
【0014】
上記還流機構は、上記蒸留原料を還流させる還流管の中途部に、圧力調節バルブを設け、上記高圧部側から還流される上記蒸留原料の圧力を減圧して上記低圧部側に供給することが望ましい。
【0015】
更に、本発明は、蒸留原料を貯留する更なる蒸留原料貯留槽を備えるとともに、上記蒸留原料貯留槽から供給される更なる蒸留原料を予備加熱して、上記低圧部の塔頂部側に供給する加熱供給器を備えることが望ましい。
【0016】
このとき、更なる蒸留原料貯留槽から供給される更なる蒸留原料は、液相状態若しくは気液混合状態で供給される。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、蒸留塔の中途部から取り出した気相状態の蒸留原料を加圧圧縮して再び蒸留塔に還流することにより、この蒸留塔の上部側を高圧部とし、その下部側を低圧部とし、高圧部と低圧部との間で熱交換を行うことにより、蒸留塔内の蒸留原料を加熱するリボイラーの負荷を削減し、装置全体の省エネルギー化を実現できる。
【0018】
また、本発明は、蒸留塔全体をジャケット(リボイラー)で覆うような構成を採用することなく構成し、蒸留塔とリボイラーを離間して配置できるので、装置全体の小型化を実現できる。
【0019】
更に、本発明は、蒸留塔内に構成された低圧部の塔頂部側から供給される更なる蒸留原料は、高圧部との熱交換が行われるため、リボリラーのエネルギー負荷を抑え、一層の省エネルギー化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る内部熱交換型の蒸留装置に用いられる蒸留塔の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る内部熱交換型の蒸留装置の一実施の形態の概略構成を示す構成図である。
【図3】本発明に係る内部熱交換型の蒸留装置の他の実施の形態の概略構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る内部熱交換型の蒸留装置の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
本発明は、蒸留原料が供給される蒸留塔の内部に高圧部と低圧部とが構成され、高圧部と低圧部との間で熱交換が行われるようにした回分式の内部熱交換型蒸留装置に関するものであって、この蒸留装置は、例えば、図1に示すように構成された蒸留塔1を備える。この蒸留塔1は、円筒状に形成された塔本体2を備える。塔本体2内には、塔本体2の高さ方向に所定の間隔を隔てて複数の棚段3が配設されている。これら棚段3によって区画され領域は、蒸留室4とされる。
【0023】
本実施の形態において、塔本体2内には11の棚段3が配設されることによって高さ方向に10の蒸留室4が構成されている。そして、塔本体2内の最下部に配設された棚段3の下方側部分の塔底部5は、蒸留原料の供給部とされている。また、塔底部5は、塔本体2内で液相状態とされた蒸留原料が貯留される蒸留原料の貯留部となる。さらに、塔本体2内の最上部に配設された棚段3の上方側部分の塔頂部6は、気相状態とされた蒸留原料が溜められる蒸気貯留部とされる。
【0024】
そして、棚段3上には、液相状態とされた蒸留原料液を一定量滞留させるための液溜め部7が設けられるとともに、各蒸留室4内で気相状態とされた蒸留原料の蒸気を順次上方側の蒸留室4へ透過して塔頂部6へ導く蒸気透過部を構成する複数の蒸気上昇管8が設けられている。これら蒸気上昇管8は、図1に示すように、先端部を棚段3の上方側に一定量突出させることにより、棚段3の上面側に液溜め部7を構成している。また、各棚段3には、液溜め部7に滞留された蒸留原料を下方側の蒸留室4に降下させ塔底部5に導く液降下部を構成する1本の液降下管9が設けられる。これら液降下管9は、液溜め部7に溜められた液相の蒸留原料を、下段側の棚段3の外周側に滴下し得るように、棚段3の外周部側に設けられている。これは、蒸留原料液の滴下により、各蒸留室4の蒸留作用を阻害しないようにするためである。
【0025】
そして、塔頂部6には、塔本体2内の気相状態にある蒸留原料を取り出す蒸気取り出し口10が設けられ、塔頂部6の側部には、蒸気取り出し口10から気相状態で取り出された後、冷却凝縮されて液相にされた留出液を還流させるため留出液還流口11が設けられている。
【0026】
また、塔底部5の側部には、気相状態とされた蒸留原料を塔本体2内に供給するための蒸留原料供給口12が設けられ、底部には、塔底部5に貯留される蒸留原料液を塔本体2の外部に排出するための原料液排出口13が設けられている。
【0027】
更に、蒸留塔1には、上下方向の中間部に位置する蒸留室4に気相状態とされている蒸留原料を塔本体2の外部に排出するための蒸気排出口14が設けられている。本実施の形態では、蒸気排出口14は、下から5段目に位置する蒸留室4の側部に設けられている。そして、蒸気排出口14が設けられた5段目に位置する蒸留室4の上部に位置する6段目の蒸留室4の側部には、蒸気排出口14から排出された蒸気を加圧圧縮した圧縮蒸気が供給される圧縮蒸気供給口15が設けられている。
【0028】
更にまた、6段目の蒸留室4には、棚段3上の液溜め部7に滞留されている滞留液を塔本体2の外部に取り出すための滞留液取り出し口16が設けられ、その蒸留室4の下方側に位置する5段目の蒸留室4には、上記滞留液取り出し口16から取り出された滞留液が供給される滞留液供給口17が設けられている。
【0029】
上述のように構成された蒸留塔1の圧縮蒸気が供給される蒸留室4を含む上部側に位置する蒸留室4は、圧縮蒸気が供給される蒸留室4の下部側に位置する蒸留室4より高圧となる。したがって、本実施の形態の蒸留塔1は、図2に示す蒸留装置の概略構成図に示すように、圧縮蒸気が供給される蒸留室4を含む上部側の複数の蒸留室4が高圧部20として構成され、その下部側に位置する複数の蒸留室4が低圧部21とされる。この蒸留塔1は、高圧部20と低圧部21との間で熱交換が行われ、他との熱の授受を必要としない内部熱交換型の蒸留装置を構成する。
【0030】
上述したように構成された蒸留塔1を用いた本発明に係る蒸留装置の一実施の形態を図2に示す概略構成図を参照して説明する。
【0031】
本発明に係る蒸留装置を示す図2において、図1に示すように、熱交換が行われる高圧部20と低圧部21とが内部に構成される蒸留塔1を模式的に示してある。
【0032】
本発明に係る蒸留装置は、図2に示すように、塔本体2内に供給される蒸留原料が貯留される蒸留原料貯留槽22を備える。更に、この蒸留装置は、蒸留原料貯留槽22から塔本体2に供給された液相の蒸留原料を加熱して気相状態にするリボイラー23を備える。リボイラー23と蒸留原料貯留槽22との間は、連結管により連結されている。そして、蒸留原料供給口12から塔本体2の最下部に位置する塔底部5に供給された液相の蒸留原料は、リボイラー23により気相状態とされる。気相状態とされた蒸留原料は、塔本体2内を上昇していく。
【0033】
なお、蒸留塔1の内部で液化されて塔底部5に貯留された蒸留原料は、原料液排出口13から外部に排出されて蒸留原料貯留槽22に供給される。原料排出口13と蒸留原料貯留槽22との間には、図示はしないが流量調整バルブが設けられ、塔底部5に貯留された蒸留原料の貯留槽22への排出量が調整されている。
【0034】
そして、本発明に係る蒸留装置は、塔頂部6に設けた蒸気取り出し口10から取り出される蒸留原料の蒸気を凝縮する凝縮器24を備える。この凝縮器24により冷却凝縮された蒸気は留出液とされ、留出液貯留容器25に貯留される。留出液貯留容器25に貯留された留出液は、その一部が製品として装置外部に取り出され、残りが還流液として留出液還流口11を介して塔頂部6に還流される。
【0035】
なお、留出液貯留容器25の留出液抜き出し口側には、留出液を装置外部への抜き出し量を制御する流量制御弁27が設けられている。
【0036】
ところで、本発明に係る蒸留装置は、低圧部21側の最上段に位置する蒸留室4に設けた蒸気排出口14から排出される蒸留原料の蒸気を加圧圧縮する圧縮機28を備えている。この圧縮機28により加圧圧縮された蒸気は、圧縮蒸気供給口15から塔本体2内の高圧部20側の最下部に位置する蒸留室4に供給される。すなわち、低圧部21から排出された蒸気を、圧縮機28により加圧圧縮し高圧部20に供給するようにしている。
【0037】
更に、高圧部20側の最下段に位置する6段目の棚段3上の液溜め部7に滞留されている滞留液は、滞留液取り出し口16から蒸留塔1の外部に取り出され、滞留液供給口17を介して低圧部21側の最上段に位置する蒸留室4に供給される。このとき、滞留液は、滞留液取り出し口16と滞留液供給口17との間を連結する連結管の中途部に設けた絞り弁29により圧力調整されて低圧部21側に供給される。
【0038】
このように、加圧圧縮された蒸気が供給される蒸留室4から上部に位置する複数の蒸留室4は、その下部に位置する蒸留室4より圧力が大きくなる高圧部20となり、その下部側に位置する複数の蒸留室4は低圧部21となる。そして、加圧圧縮された蒸気は高温とされるので、高圧部20側は高温となり、高圧部20と低圧部21との間で熱交換が行われる。
【0039】
上述のように構成された蒸留装置において、蒸留原料を蒸留分離する操作手順を説明する。
【0040】
まず、所定量の蒸留原料を蒸留原料貯留槽22に投入する。次いで、リボイラー23を動作させ、蒸留原料貯留槽22から塔本体2内の塔底部5に供給された蒸留原料を加熱して蒸留原料の蒸気を生成する。なお、蒸留原料貯留槽22から塔本体2内への蒸留原料の供給を継続する。
【0041】
ところで、蒸留塔1内に供給された蒸留原料の蒸気は、蒸気上昇管8を介して下段側の蒸留室4から順次上部の蒸留室4に上昇していく。蒸留塔1内の各段の蒸留室4を上昇していく過程で気相温度以下となり液化された蒸留原料は、棚段3上の液溜め部7に溜められる。液溜め部7に溜められた蒸留原料は、蒸留塔1の下方側から供給される蒸留原料の蒸気により再加熱され気相状態とされ、蒸留塔1内を上昇していく。液溜め部7で蒸気とされることなく液体のままとされた蒸留原料は、液降下管9を介して、順次下方に位置する液溜め部7に降下していく。各棚段3で蒸留原料の再加熱による気相化と液状の蒸留原料の下方への降下が行われ、最下段の棚段3から液状のまま降下され、蒸留塔1内の最下部に構成された塔底部5に貯留される。
【0042】
そして、蒸気の状態で蒸留塔1の塔頂部6まで上昇された蒸留原料は、塔頂部6に設けた蒸気取り出し口10から取り出され凝縮器24に供給される。この凝縮器24により冷却凝縮された蒸気は、留出液として装置外部に留出される。
【0043】
蒸留操作の初期の過程では、凝縮器24から流出される留出液の全量を塔頂部6に還流する全還流運転を行い、塔本体2内での蒸留原料の気相化の状態が一定となる定常状態にする。
【0044】
塔本体2内が定常状態となったところで、低圧部21側の最上部に位置する蒸留室4に設けた蒸気排出口14から蒸留原料の蒸気を排出して圧縮機28に供給する。この蒸気が供給された圧縮機28は、蒸気を加圧圧縮して、蒸留供給口15から高圧部20側の最下部に位置する蒸留室4に供給する。圧縮機28は、高圧部20の各蒸留室4が規定の圧力になるまで蒸気を加圧圧縮して供給する。そして、加圧圧縮された蒸気が供給される高圧部20側は高温となり、低圧部21側と温度差が生じ、高圧部20と低圧部21との間で熱交換が行われる。この熱交換が行われることにより、低温部21側が加熱され、低温部側の蒸留室4にある蒸留原料の加熱が行われ蒸発が促進される。
【0045】
更に、高圧部20側に滞留された滞留液が圧力調整されて低圧部21側の最上部の蒸留室4に供給される。そのため、高圧部20と低圧部21との間で熱交換が一層促進される。そして、低圧部21側の液溜め部7に溜められている滞留液の加熱が行われ気相化が促進され、低圧部21側での蒸気の発生が促進される。
【0046】
次いで、塔頂部6における蒸気流量が規定の流量になるようにリボイラー23の負荷を操作し、凝縮器24に取り出され冷却凝縮された留出液の全量を塔頂部6に還流する全還流運転を行う。その後、塔頂部6における蒸気流量が規定の流量を維持するように、圧縮機28とリボイラー23の動作を制御しながら、塔頂部6から取り出される留出液を所定の還流比で抜き出し、蒸留精製した製品を得る。
【0047】
上述したように、本実施の形態の蒸留装置は、低圧部21側で発生した蒸気を加圧圧縮して高圧部20側に供給することにより高圧部20側と低圧部21側との温度差が一層大きくなり高圧部20側と低圧部21側との間での熱交換が促進され、高圧部20側の熱を利用して低圧部21側を加熱することができる。高圧部20側から低圧部21側への熱の伝達が行われることにより、低圧部21側の棚段3上の液溜め部7に溜められている蒸留原料の加熱が行われ気相化が促進される。
【0048】
このように、高圧部20側の熱を利用して低圧部21側の蒸留原料を加熱するようにしたことにより、蒸留原料貯留槽22から供給される蒸留原料を加熱して蒸発させるリボイラー23の省エネルギー化を実現できる。
【0049】
次に、本発明に係る蒸留装置の他の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る蒸留装置は、図2に示す蒸留装置において、図3に示すように、蒸留塔1に供給される蒸留原料が貯留される更なる蒸留原料貯留槽である中間部貯留槽31と、この中間貯留槽31に貯留された蒸留原料を加熱する予備加熱器32とを備える。そして、中間貯留槽31に貯留された蒸留原料は、予備加熱器32により一定温度に予備加熱されて、蒸留塔1の低圧部21側の最上部に位置する蒸留室4に供給される。
【0050】
図3に示すように構成された蒸留装置を用いて蒸留原料を蒸留分離する操作手順を説明する。
【0051】
まず、蒸留原料貯留槽22と中間部貯留槽31に蒸留原料を投入する。このとき、蒸留原料は、ほぼ3:2の割合で蒸留原料貯留槽22と中間部貯留槽31に投入する。次いで、リボイラー23を動作させ、蒸留原料貯留槽22から塔本体2の塔底部5に供給された蒸留原料を加熱して蒸気を生成する。この蒸留原料の蒸気は、塔本体2内を上昇していく。
【0052】
次いで、全還流運転が定常状態となった後に、中間部貯留槽31に貯留した蒸留原料の蒸留塔1内への供給を行う。中間部貯留槽31から供給される蒸留原料は、予備加熱器32により一定温度に加熱されて蒸留塔1内に構成された低圧部21側の最上部に位置する蒸留室4に供給される。
【0053】
この蒸留装置においても、図2に示す蒸留装置と同様に、蒸留塔1内の各棚段3で蒸留原料の再加熱による気相化と液状の蒸留原料の下方への降下が行われ、最下段の棚段3から液状のまま降下され、蒸留塔1内の最下部に構成された塔底部5に貯留される。
【0054】
そして、蒸留原料貯留槽22と中間部貯留槽31にそれぞれ貯留された蒸留原料の蒸留塔1内への供給が続けられる。なお、中間部貯留槽31に貯留された蒸留原料は、予備加熱器32により加熱されながら蒸留塔1内に供給される。
【0055】
この蒸留装置においても、蒸留操作の初期の過程では、蒸気の状態で蒸留塔1の塔頂部6まで上昇され、塔頂部6の蒸気取り出し口10から取り出され凝縮器24により凝縮された留出液の全量を塔頂部6に還流する全還流運転を行い、塔本体2内での蒸留原料の気相化の状態が一定となる定常状態にする。
【0056】
塔本体2内が定常状態となったところで、低圧部21側の最上部に位置する蒸留室4に設けた蒸気排出口14から蒸留原料の蒸気を排出して圧縮機28に供給する。この蒸気が供給された圧縮機28は、蒸気を加圧圧縮して、蒸留供給口15から高圧部20側の最下部に位置する蒸留室4に供給する。圧縮機28は、高圧部20の各蒸留室4が規定の圧力になるまで蒸気を加圧圧縮して供給する。そして、加圧圧縮された蒸気が供給される高圧部20側は高温となり、低圧部21側と温度差が生じ、高圧部20と低圧部21との間で熱交換が行われる。この熱交換が行われることにより、低温部21側が加熱され、低温部側の蒸留室4にある蒸留原料の加熱が行われ蒸発が促進される。
【0057】
更に、本実施の形態の蒸留装置は、高圧部20側に滞留された滞留液が減圧されて低圧部21側の最上部の蒸留室4に供給されるとともに、予備加熱器32により予備加熱されて蒸留原料が中間部貯留槽31から供給される。中間部貯留槽31から供給される蒸留原料は、高圧部20側と一定の温度差を有するように加熱される。このように高圧部側の滞留液と中間部貯留槽31から蒸留原料が供給されることにより、高圧部20と低圧部21と温度差が大きくなり、高圧部20と低圧部21間の熱交換が一層促進される。そして、低圧部21側の液溜め部7に溜められている滞留液の加熱が行われ気相化が促進され、低圧部21側での蒸気の発生が促進される。
【0058】
次いで、塔頂部6における蒸気流量が規定の流量になるようにリボイラー23の負荷を操作し、凝縮器24に取り出され冷却凝縮された留出液の全量を塔頂部6に還流する全還流運転を行う。その後、塔頂部6における蒸気流量が規定の流量を維持するように、圧縮機28とリボイラー23の動作を制御しながら、塔頂部6から取り出される留出液を所定の還流比で抜き出し、蒸留精製した製品を得る。
【0059】
上述したように、本実施の形態の蒸留装置も、前述した実施の形態の蒸留装置と同様に、低圧部21側で発生した蒸気を加圧圧縮して高圧部20側に供給することにより高圧部20側と低圧部21側との温度差が一層大きくなり高圧部20側と低圧部21側との間での熱交換が促進され、高圧部20側の熱を利用して低圧部21側を加熱することができる。高圧部20側から低圧部21側への熱の伝達が行われることにより、低圧部21側の棚段3上の液溜め部7に溜められている蒸留原料の加熱が行われ気相化が促進される。
【0060】
ところで、本実施の形態の蒸留装置は、蒸留原料の一部が中間部貯留槽31から低圧部21側の最上部に位置する蒸留室4に供給される。この蒸留原料は、高圧部20と低圧部21との間の熱交換される熱により加熱されて蒸気とされる。そのため、蒸留塔1に供給される蒸留原料を加熱して蒸発させるリボイラー23の熱源の有効利用を図ることができ一層の省エネルギー化を実現できる。
【0061】
更に、蒸留原料の一部を中間部貯留槽31から蒸留塔1内に供給し、蒸留塔1内の熱を利用して蒸留を行うことができるので、蒸留時間の短縮を図ることができる。
【0062】
上述したように、本発明に係る蒸留装置を用いることにより、蒸留装置全体としての省エネルギー化を実現し、高能率で蒸留原料の精製を行うことができる。
【0063】
上述した実施の形態では、棚段方式の蒸留塔1を用いた例を挙げて説明したが、本発明は、上述した例に限られるものではなく、塔本体内に充填物を詰め、充填物の表面で気液の接触を行うようにした充填塔を用いたものであってもよい。この充填搭を採用した場合においても、蒸留塔内部の圧縮機により加圧圧縮された気相状態の蒸留原料が供給される上部側を高圧部とし、蒸留原料が供給される高圧部の下部側を低圧部とし、高圧部と低圧部との間で熱交換を行うように構成される。
【符号の説明】
【0064】
1 蒸留塔、2 塔本体、3 棚段、4 蒸留室、7 液溜め部、8 蒸気上昇管、9 液降下管、22 蒸留原料貯留槽、23 リボイラー、24 凝縮器、28 圧縮機、31 中間部貯留槽、32 予備加熱器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留原料の蒸留が行われる蒸留塔と、
上記蒸留塔の底部側から上記蒸留塔内に供給される蒸留原料が貯留されるとともに上記蒸留塔の底部に降下された液相の蒸留原料が貯留される蒸留原料貯留槽と、
上記蒸留原料貯留槽の底部側に供給された蒸留原料を加熱し気化するリボイラーと、
上記蒸留塔の中途部から取り出した気相状態の蒸留原料を加圧圧縮して上記蒸留塔に還流する圧縮機と、
上記蒸留塔の塔頂部から流出する塔頂蒸気を凝縮して外部に取り出す凝縮器を備え、
上記蒸留塔内部の上記圧縮機により加圧圧縮された気相状態の蒸留原料が供給される上部側を高圧部とし、上記蒸留原料が供給される高圧部の下部側を低圧部とし、上記高圧部と上記低圧部との間で熱交換を行うようにしたことを特徴とする回分式の内部熱交換型蒸留装置。
【請求項2】
上記蒸留塔は、液相の蒸留原料を降下させる液降下部と気相の蒸留原料を透過させる蒸気透過部が設けられた複数の棚段が所定間隔を隔てて配設され、その内部に上記棚段によって区画された複数の蒸留室が高さ方向に構成されてなり、
上記蒸留塔内部の上記圧縮機により加圧圧縮された気相状態の蒸留原料が供給される蒸留室を含む上部側に位置する蒸留室を高圧部とし、上記蒸留原料が供給される蒸留室の下部側に位置する蒸留室を低圧部とし、上記高圧部と上記低圧部との間で熱交換を行うようにしたことを特徴とする請求項1記載の回分式の内部熱交換型蒸留装置。
【請求項3】
上記凝縮器で凝縮された塔頂蒸気の一部を上記蒸留塔の塔頂部に還流させる還流手段を備えることを特徴とする請求項1記載の回分式の内部熱交換型蒸留装置。
【請求項4】
上記高圧部の塔底部側に貯留された蒸留原料を、上記低圧部の塔頂部側に還流させる還流機構を備えることを特徴とする請求項1記載の回分式の内部熱交換型蒸留装置。
【請求項5】
上記還流機構は、上記蒸留原料を還流させる還流管の中途部に、圧力調節バルブが設けられ、上記高圧部側から還流される上記蒸留原料の圧力を減圧して上記低圧部側に供給することを特徴とする請求項4記載の回分式の内部熱交換型蒸留装置。
【請求項6】
蒸留原料を貯留する更なる蒸留原料貯留槽を備えるとともに、上記蒸留原料貯留槽から供給される更なる蒸留原料を予備加熱して、上記低圧部の塔頂部側に供給する加熱供給器を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の回分式の内部熱交換型の蒸留装置。
【請求項7】
上記更なる蒸留原料貯留槽から供給される蒸留原料は、液相状態若しくは気液混合状態で上記低圧部の塔頂部側に供給されることを特徴とする請求項6記載の回分式の内部熱交換型蒸留装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−232244(P2012−232244A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101354(P2011−101354)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(596053264)三丸化学株式会社 (3)
【Fターム(参考)】