説明

回動蓋のヒンジ構造及びそれを備えた電子機器

【課題】過大な力が作用した場合にシャフト部から外れるようにしてある回動蓋のヒンジ構造において、頑丈さの向上を図ることを目的とする。
【解決手段】蓋本体31の裏面に突き出ているヒンジ部20−1は、腕部21と、この腕部21の先端の略C字形状の軸受部22とよりなる。腕部21のZ方向の縦幅寸法Aは、軸受部22の外径d2と同じである。腕部21は、その中心に、軸受部22より腕部21の根元の方向に向かって蓋本体31の直ぐ近くの部位Pまで延在しているスリット24を有し、且つ、スリット24の両側に、所謂肉盗み部としての溝部25,26を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回動蓋のヒンジ構造に係り、特に電子機器のパネルに設けられ、回動して開閉する回動蓋のヒンジ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は従来のヒンジ部1を拡大して示す。ヒンジ部1は、回動蓋2の蓋本体3の裏面に突き出て形成してある。回動蓋1は、合成樹脂製の成形部品であり、蓋本体2とヒンジ部1とよりなる。回動蓋1は、図7に示すように、ヒンジ部1の先端の軸受部6を電子機器の正面パネル10のシャフト部11に嵌合させて取り付けてあり、回動可能である。図7は回動蓋2が最大に開いた状態を示す。
【0003】
なお、使用者が不注意で回動蓋1を通常に開く位置を越えて強く開く操作をした場合に、ヒンジ部3がシャフト部11から抜け出て外れるようにするために、軸受部6は略C字形状となっている。ヒンジ部3がシャフト部11から抜け出て外れることによって、回動蓋1が壊れることが防止されている。
【0004】
回動蓋1が外れた場合には、使用者は、図8に示すように、軸受部6の切り欠け部7をシャフト部11に向け、当てて、矢印で示すように、強く押し付ける。この操作によって、軸受部6がその切り欠け部7が一時的に少し拡がるように弾性変形して、シャフト部11と嵌合して、回動蓋1が再度取り付けられる。
【0005】
ヒンジ部1は、図6に拡大して示すように、蓋本体3の裏面に突き出ている腕部5と、この腕部5の先端の軸受部6とよりなる。軸受部6は、略C字形状であり、略1/4円周に亘る大きさの切り欠け部7を有する。腕部5の根元には成形時のひけ防止用の凹部8が形成してあり、また、軸受部6がその切り欠け部7が少し拡がるような弾性変形をし易くするためのスリット9が軸受部6から腕部5の根元の方向に向かって形成してある。
【特許文献1】実開平6−41606号公報
【特許文献2】実開平6−39746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のヒンジ部1にあっては、スリット9が形成可能な範囲がひけ防止用の凹部8によって制限され、スリット9の長さa1は約2mm程度に制限されていた。このため、略C字形状部6がその切り欠け部7を拡げるように弾性変形させた場合に、腕部5のうちスリット9の終端に対応する箇所に発生する応力集中の程度が比較的大きく、回動蓋1が外れる動作及び外れた回動蓋1を取り付ける作業が何回か繰り返されると、場合によっては、腕部5のうちスリット9の終端に対応する箇所5aにクラックが発生し、軸受部6がシャフト部11をつかむ力が弱まり、回動蓋1が安定に支持されなくなってしまう虞れがあった。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決した回動蓋のヒンジ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂成形部品であり、板状の蓋本体(31)と、該蓋本体の裏面に突き出ているヒンジ部(20−1)とよりなる回動蓋(30)を有し、
前記ヒンジ部は、前記蓋本体の裏面に突き出ている腕部(21)と、該腕部の先端の略C字形状の軸受部(22)と、前記軸受部の内側より開始して前記腕部内を前記蓋本体の方向に延在するスリットとよりなる形状であり、
前記軸受部が機器側のシャフト部に嵌合されて、前記回動蓋が前記シャフト部を中心に回動可能に支持してある構成の回動蓋のヒンジ構造において、
前記ヒンジ部を、前記スリットが前記蓋本体の近くの位置(P1)まで延在した構成としたことを特徴とする。
【0009】
尚、上記参照符号は、あくまでも参考であり、これによって、本願発明が図示の態様に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、腕部内のスリットが蓋本体の近くの位置まで延在してあるため、軸受部をシャフト部に嵌合させるときに軸受部が一時的に広げられる動作が、腕部に発生する応力集中を従来に比較して抑えることが出来、ヒンジ部を従来に比較して頑丈に出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0012】
図1及び図2(A),(B)は本発明の実施例1になるヒンジ部20−1を拡大して示す。図3(A),(B)はヒンジ部20−1、20−2を有する回動蓋30を電子機器40と対向させて示す。図4(A),(B)は回動蓋30が開いている状態を示し、図5(A),(B)は回動蓋30が閉じている状態を示す。Xは電子機器の幅方向、Yは奥行き方向、Zは高さ方向である。
【0013】
図3(A)に示すように、回動蓋30は、合成樹脂製の成形部品であり、矩形の板状の蓋本体31と、この蓋本体31の裏面に突き出ている一対のヒンジ部20−1、20−2とよりなる構成である。電子機器40は、正面パネル41に、シャフト部42−1,42−2を有する。回動蓋30は、そのヒンジ部20−1、20−2を夫々シャフト部42−1,42−2に嵌合されて、図4に示す開いた位置と、図5に示す閉じた位置との間で回動される。
【0014】
図1及び図2(A),(B)は、回動蓋30が閉じているときの姿勢で、一つのヒンジ部20−1を示す。図1及び図2(A),(B)に示すように、ヒンジ部20−1は、蓋本体31の裏面に突き出ている腕部21と、この腕部21の先端の軸受部22とよりなる。軸受部22は、略C字形状であり、略1/4円周に亘る大きさの切り欠け部23を有する。d1は軸受部22の内径、d2は軸受部22の外径である。
【0015】
Aは腕部21のZ方向の縦幅寸法、Bは腕部21のX方向の横幅寸法である。縦幅寸法Aは、軸受部22の外径d2と同じくしてあり、従来よりも広い。
【0016】
24はスリットであり、腕部21をX方向に貫通しており、腕部21の中心に、軸受部22より腕部21の根元の方向に向かって、腕部21の長手方向(Y方向)に、蓋本体31の直ぐ近くの部位Pまで延在しており、その長さa2は約4mmであり、従来の約2倍である。
【0017】
25,26は所謂肉盗み部としての溝部であり、腕部21にX方向に凹状に堀り込んで形成してあり、夫々腕部21のうちZ1方向寄りの箇所及びZ2方向寄りの箇所に、腕部21の長手方向に、軸受部22の箇所と蓋本体31の裏面との間に形成してある。
【0018】
この溝部25,26は、回動蓋30を樹脂成形したときに、蓋本体31の表面のうちヒンジ部20−1に対応する箇所に「ひけ」が現れないようにするためのものであり、その深さCは、溝部の底部の厚さDが、蓋本体31の厚さTの0.6以下となるように定めてある。即ち、D<(T×0.6)を満たすように定めてある。
【0019】
上記のヒンジ部20−1は、以下の考え方によって設計したものである。先ず、軸受部22を拡げた場合に応力の集中が起きにくくするためにスリット24を出来るだけ長くし、しかし、スリット24を長くすると軸受部22がシャフト部を掴む力が弱くなるため、これを補うために、腕部21のZ方向の縦幅寸法を従来よりも広くし、このようにすると「ひけ」が発生しやすくなるため、「ひけ」対策として、溝部25,26を腕部21のZ1側とZ2側とに設ける。なお、溝部25,26を形成しても、腕部21には溝部25,26の底の部分の肉厚部分が存在するため、腕部21の強度はそれほど低下はしない。
【0020】
これによって、ヒンジ部20−1は、応力の集中が起きにくく、軸受部22がシャフト部を掴む力が適当であり、しかも、「ひけ」を発生させないものとなる。なお、蓋本体31の直ぐ近くの部位Pまで延在しているスリット24も、「ひけ」の発生を抑制する働きらを有する。
【0021】
別のヒンジ部20−2も、上記のヒンジ部20−1と同じ構造である。
【0022】
本発明者は、上記のヒンジ部20−1の構造解析を行った結果、所定の荷重をかけて軸受部22をその切り欠け部23を広げるように変位させた場合に、応力の集中が起きやすいスリット24の奥部において従来に比較して応力の減少が著しく、且つ、従来に比較してヒンジ部20−1は全体的に応力が低く、且つ、軸受部22の先端部が切り欠け部23が拡がる方向に0.40mm(従来は0.35mm)まで変位可能であることが分かった。
【0023】
回動蓋30は、そのヒンジ部20−1、20−2の軸受部22を夫々シャフト部42−1,42−2に嵌合されて、電子機器40の正面パネル41に取り付けてあり、図4に示す開いた位置と、図5に示す閉じた位置との間で回動される。
【0024】
上記構成のヒンジ部20−1、20−2を備えているため、強く操作してしまって回動蓋30がシャフト部42−1,42−2から外れてしまう動作及び切り欠け部23を一時的に押し拡げて回動蓋30を取り付ける作業が何回か繰り返された場合でも、腕部21に、特に腕部21のうちクラックが発生し易い部位Pの付近にも、クラックは発生しない。しかも、ヒンジ部20−1、20−2がシャフト部42−1,42−2を掴んでいる強度は適当であり、回動蓋30はシャフト部42−1,42−2から外れにくい状態にある。
【0025】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1になるヒンジ部を拡大して示す斜視図である。
【図2】図1のヒンジ部を示す図である。
【図3】図1及び図2のヒンジ部を有する回動蓋を電子機器と対向させて示す図である。
【図4】回動蓋が開いている状態を示す図である。
【図5】回動蓋が閉じている状態を示す図である。
【図6】従来のヒンジ部を拡大して示す図である。
【図7】図6のヒンジ部を有する回動蓋が電子機器に取り付けてある状態を示す図である。
【図8】回動蓋を電子機器に取り付けるときの状態を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
20−1、20−2 ヒンジ部
21 腕部
22 軸受部
24 スリット
25,26 溝部
30 回動蓋
31 蓋本体
40 電子機器
41 正面パネル
42−1,42−2 シャフト部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形部品であり、板状の蓋本体と、該蓋本体の裏面に突き出ているヒンジ部とよりなる回動蓋を有し、
前記ヒンジ部は、前記蓋本体の裏面に突き出ている腕部と、該腕部の先端の略C字形状の軸受部と、前記軸受部の内側より開始して前記腕部内を前記蓋本体の方向に延在するスリットとよりなる形状であり、
前記軸受部が機器側のシャフト部に嵌合されて、前記回動蓋が前記シャフト部を中心に回動可能に支持してある構成の回動蓋のヒンジ構造において、
前記ヒンジ部を、前記スリットが前記蓋本体の近くの位置まで延在した構成としたことを特徴とする回動蓋のヒンジ構造。
【請求項2】
請求項1に記載の回動蓋のヒンジ構造において、
前記ヒンジ部は、その腕部が、前記軸受部の外径と等しい縦幅寸法を有し、且つ、前記スリットの両側に前記スリットと平行に、前記蓋本体の裏面にまで到るひけ防止用の溝部を有する構成としたことを特徴とする回動蓋のヒンジ構造。
【請求項3】
請求項2に記載の回動蓋のヒンジ構造において、
前記ひけ防止用の溝部は、前記腕部のうち前記ひけ防止用の溝部の底に対応する部分に、前記蓋本体の厚さの0.6倍の相当する寸法の厚み部分が残るように、その深さが決めてある構成としたことを特徴とする回動蓋のヒンジ構造。
【請求項4】
腕部と、該腕部の先端の略C字形状の軸受部と、前記軸受部の内側より開始しているスリットとよりなるヒンジ部において、
前記スリットが前記腕部の根元にまで到っており、
前記腕部は、前記軸受部の外径と等しい縦幅寸法を有し、
且つ、前記スリットの両側に前記スリットと平行に、前記蓋本体の裏面にまで到るひけ防止用の溝部を有する構成としたことを特徴とするヒンジ部。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のうち何れか一項に記載の回動蓋のヒンジ構造を備えた構成としたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−82442(P2008−82442A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263146(P2006−263146)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000006220)ミツミ電機株式会社 (1,651)
【Fターム(参考)】