説明

回収リンおよびその回収方法

【課題】リン以外の雑多な成分を多く含む水中からも、リンを、工業用途、特にリン酸原料用リン鉱石代替品等にも利用可能な不純物含有率が低いリン化合物として回収する技術を提供する。
【解決手段】以下の工程(1)〜(5):(1)リン含有水溶液中のリンを、金属酸化物系吸着剤に吸着させる吸着工程;(2)前記吸着剤にアルカリ水溶液を接触させて、吸着工程(1)で吸着したリンを脱着させる脱着工程;(3)脱着工程(2)で脱着させたリンを含有するアルカリ水溶液中に、カルシウム化合物をCa/Pモル比が0.6〜1.8になる量添加し、アルカリ水溶液中のリンをリン酸カルシウムとして析出させる析出工程;(4)析出工程(3)で析出させたリンをアルカリ水溶液から分離し回収する分離回収工程;および(5)分離回収工程(4)で回収したリンをpH4.5〜12.5に中和する中和工程を含む、リン含有水溶液からの回収リンの回収方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水、し尿、工場排水等の排水、それら排水の処理水、さらに自然水等に含有されるリンを、工業原料としても利用可能な不純物含有率が低いリン化合物として回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
リンは生物にとって必須の元素であるが、その資源枯渇が世界的に懸念されるようになってきている。一方、リンは下水や工場排水等に含有されて自然界に多量に放出されており、これらのリンは閉鎖性水域の湖沼、港湾等で富栄養化を進行させ、水質汚濁、悪臭、生態系崩壊等の水環境悪化の原因になっている。
【0003】
そこで、下水や工場排水、あるいはその処理水等からリンを除去し、かつ除去したリンを回収してリン資源として有効利用するための技術が求められている。下水や工場排水中に含有されるリンを不純物含有率が低いリン化合物として回収する技術としては、特許文献1および2に開示された技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−18489号公報
【特許文献2】特開2004−49996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、下水や排水等から回収された回収リンの有効利用法としては、肥料や肥料の配合原料といった農業用途で利用する方法が主流になっている。農業用途で利用する場合は、不純物含有に対する制限が比較的緩やかなためである。一方、回収したリンを工業用途、例えばリン酸原料用リン鉱石代替品として利用する場合には、不純物の含有に対する制限が厳しくなり、特に、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、鉄、塩素等の特定の不純物含有率が一定の基準以下であることが求められる。特許文献1および2に開示された技術を利用して得られた回収リンは、特にこのような工業用途で利用するという観点からは、不純物含有率が充分に低減されているとはいえない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、下水、し尿、工場排水等の排水、これら排水の処理水、湖沼水、海水、河川水等の自然水といった、リン以外の雑多な成分を多く含む水中からも、リンを、工業用途、特にリン酸原料用リン鉱石代替品等にも利用可能な不純物含有率が低いリン化合物として回収する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、金属酸化物系吸着剤で水中からリンを吸着除去し、この吸着除去したリンに対して特定量のカルシウム化合物を添加してリンを析出し、析出リンを回収し、特定のpH下中和することで、リンを不純物含有率が低いリン化合物として回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の回収リンの回収方法及び回収リンに関する。
[1]
以下の工程(1)〜(5):
(1)リン含有水溶液中のリンを、金属酸化物系吸着剤に吸着させる吸着工程;
(2)前記吸着剤にアルカリ水溶液を接触させて、吸着工程(1)で吸着したリンを脱着させる脱着工程;
(3)脱着工程(2)で脱着させたリンを含有するアルカリ水溶液中に、カルシウム化合物をCa/Pモル比が0.6〜1.8になる量添加し、アルカリ水溶液中のリンをリン酸カルシウムとして析出させる析出工程;
(4)析出工程(3)で析出させたリンをアルカリ水溶液から分離し回収する分離回収工程;および
(5)分離回収工程(4)で回収したリンをpH4.5〜12.5に中和する中和工程
を含む、リン含有水溶液からの回収リンの回収方法。
[2]
前記吸着工程(1)における金属酸化物系吸着剤が、活性アルミナ、水和酸化鉄、水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタンおよび水和酸化イットリウムからなる群から選ばれる一種以上の酸化物をイオン吸着体として含有する吸着剤である、[1]に記載の回収リンの回収方法。
[3]
前記工程(1)におけるリン含有水溶液が、リン濃度に対してマグネシウム、アルミニウム、珪素および鉄の濃度の和が0.5〜1000倍のリン含有水溶液である、[1]または[2]に記載の回収リンの回収方法。
[4]
前記中和工程(5)が、塩素を含有しない酸を用いて行われる、[1]〜[3]のいずれかに記載の回収リンの回収方法。
[5]
[1]〜[4]のいずれかに記載の回収方法を用いて回収される、リン含有率が12重量%以上であり、かつマグネシウム、アルミニウム、珪素および鉄の含有率の合計が2.0重量%以下である回収リン。
[6]
排水、排水処理水、自然水またはこれらの2種以上の混合水であるリン含有水溶液中から除去したリンを回収して得られるリン酸カルシウムを主成分とする回収リンであって、リン含有率が12重量%以上であり、かつマグネシウム、アルミニウム、珪素および鉄の含有率の合計が2.0重量%以下である回収リン。
[7]
マグネシウム、アルミニウム、珪素および鉄の各含有率がいずれも0.5重量%以下である、[6]に記載の回収リン。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、下水や工場排水等に含まれて自然界に流出し、閉鎖性水域等で富栄養化を進行させ水環境悪化の原因になっているリンを、下水や工業排水等から除去できることに加え、除去したリンを工業用途にも利用可能な不純物含有率が低いリン化合物として回収することができる。したがって閉鎖性水域の水環境悪化を抑制するとともに、リン資源枯渇問題の解決に対して大きな効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について、具体的に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
本実施の形態は、リン含有水溶液からの不純物含有率が低いリンの回収方法および回収された回収リンに関する。ここで、リン含有水溶液は、リンを含有する限り特に限定されず、以下に説明する排水、排水処理水および自然水等が例示される。
【0012】
本実施の形態において、排水とは、下水、し尿、各種工場排水等、人間や動物の活動により発生する汚水である。
【0013】
本実施の形態において、排水処理水とは、排水を公共水域等に放流する前に行う処理の過程で発生するプロセス水および処理後の処理水である。排水処理水について下水の場合の例を挙げれば、下水処理過程の最初の沈殿処理後の水や生物反応処理後の水(二次処理水)、下水汚泥脱水濾液、下水処理後の放流水等である。すなわち、下水処理場で採水可能な水は全て排水処理水に含まれる。また、下水汚泥焼却灰から酸、アルカリを用いてリンを抽出した際の抽出液も排水処理水に含まれる。排水がし尿、各種工場排水の場合の排水処理水についても同様である。
【0014】
本実施の形態において、自然水とは、自然界に存在する水で、河川水、湖沼水、海水、雨水等を例示できる。
【0015】
本実施の形態のリンの回収方法は、特に、リン以外の不純物を高濃度に含むリン含有水溶液からであっても、不純物含有率が低い回収リンを回収することができる。例えば、リン濃度に対するマグネシウム、アルミニウム、珪素および鉄の濃度の和が、0.5倍〜1000倍であるような、不純物を多く含む水からであっても、これら不純物の含有率の和が2重量%以下で、かつリン含有率が12重量%以上の回収リンを回収することができる。
【0016】
本実施の形態の回収リンは、リン含有率が12重量%以上であり、13重量%以上であることが好ましく、13.5重量%以上であることが特に好ましい。12重量%以上であることでリン酸原料用リン鉱石代替品等の工業用途で経済的に利用することができる。リン含有率は回収リンを工業用途で経済的に利用するにあたって重要である。
【0017】
また、本実施の形態の回収リンは、不純物であるマグネシウム、アルミニウム、珪素および鉄の含有率の合計が2.0重量%以下、好ましくは1.5重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以下である。これらの含有率の合計を2.0重量%以下にすることでリン酸原料用リン鉱石代替品等の工業用途で容易に利用することができる。
【0018】
さらに、本実施の形態の回収リンは、マグネシウム、アルミニウム、珪素および鉄の各含有率がいずれも0.5重量%以下であることが好ましい。不純物はその成分毎に悪影響をおよぼす機構が異なる場合があるため、これら不純物の含有率が全て一定値以下であることで、工業用途での利用がより容易になる。
【0019】
また、本実施の形態の回収リンは、塩素含有率が0.08重量%以下であることが好ましく、0.05重量%以下であることがさらに好ましく、0.02重量%以下であることが特に好ましい。塩素含有率を0.08重量%以下にすることで、上述と同様の理由によりリン酸原料用リン鉱石代替品等の工業用途での利用が容易になる。
【0020】
次に、本実施の形態の回収リンの回収方法を説明する。
回収方法は:(1)リン含有水溶液中のリンを、金属酸化物系吸着剤に吸着させる吸着工程;(2)前記吸着剤にアルカリ水溶液を接触させて、吸着工程(1)で吸着したリンを脱着させる脱着工程;(3)脱着工程(2)で脱着させたリンを含有するアルカリ水溶液中に、カルシウム化合物をCa/Pモル比が0.6〜1.8になる量添加し、アルカリ水溶液中のリンをリン酸カルシウムとして析出させる析出工程;(4)析出工程(3)で析出させたリンをアルカリ水溶液から分離し回収する分離回収工程;および(5)分離回収工程(4)で回収したリンをpH4.5〜12.5に中和する中和工程を少なくとも含む。
【0021】
吸着工程(1)では、排水、排水処理水、自然水等のリン含有水溶液と金属酸化物系吸着剤を接触させて、リン含有水溶液中に含有されるリンを吸着剤に吸着させる。吸着工程(1)に供するリン含有水溶液は、浮遊物質(SS)濃度が10mg/L以下であることが好ましい。SS濃度を10mg/Lに低減するために、吸着工程(1)に先立って、砂濾過、膜濾過等の濾過処理を行ってもよい。リン含有水溶液と金属酸化物系吸着剤を接触させる方法については特に制限はなく、吸着剤に水中に含有される成分を吸着させる方法として従来公知の方法を何れも使用することができる。好ましい方法としては、カラム内に充填した吸着剤に対して上向流または下向流でリン含有水溶液を通水する方式を例示できる。この際、吸着剤は、固定床方式にしてもよいし、流動床方式にしてもよい。また、吸着剤を入れた容器内にリン含有水溶液を一定量入れ、容器内の水を攪拌して、接触させてリンを吸着剤に吸着させてもよい。
【0022】
吸着工程(1)で用いる金属酸化物系吸着剤は、水中のリン酸イオンを吸着することができる、金属酸化物や水和金属酸化物(金属水酸化物)をイオン吸着体として含有する吸着剤であれば特に限定されない。活性アルミナ、水和酸化鉄、水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタンおよび水和酸化イットリウムからなる群から選ばれる一種または二種以上の酸化物をイオン吸着体として含有している吸着剤が、リンの吸着性能が高いという点で好ましい。例えば、後述の実施例等に記載の酸化セリウム系吸着剤、特許文献1に記載されるようなジルコニウムフェライト系吸着剤等を使用することができる。
【0023】
脱着工程(2)では、吸着工程(1)でリン酸イオンを吸着した吸着剤にアルカリ水溶液を接触させて、吸着したリン酸イオンを脱着させる。なお、脱着工程(2)に先立って、吸着剤に逆洗処理等を行い、吸着剤に付着しているSSや、吸着剤層内に巻き込まれているSSを除去することが、より不純物含有率の低い回収リンを回収するために好ましい。
【0024】
脱着工程(2)で用いるアルカリ水溶液の種類に特に制限はなく、従来公知の水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化アンモニウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液等を使用することができる。2重量%〜10重量%、好ましくは5重量%〜8重量%の範囲の水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液を用いることが、高い脱着率を効率的に達成するためには好ましい。
【0025】
脱着工程(2)で、吸着剤とアルカリ水溶液を接触させる方法についても特に制限はなく、従来公知の方法を何れも使用することができる。
【0026】
吸着剤とアルカリ水溶液の接触時間は、アルカリ水溶液の種類や濃度によって脱着速度が変化するために一概に決定できないが、1〜8時間の範囲であることが効率的に高脱着率を達成する上で好ましい。
【0027】
なお、カラム内に充填した吸着剤に対してアルカリ水溶液を上向流または下降流で通液して脱着する場合の通液速度は、通常SV(Space Velocity、1時間あたりの通液量/吸着剤の体積)が0.5〜15(hr−1)の範囲にすることが効率的に高脱着率を達成する上で好ましい。
【0028】
析出工程(3)では、脱着させたリンを含有しているアルカリ水溶液を吸着剤と分離した後、該アルカリ水溶液中に水酸化カルシウムや塩化カルシウム等のカルシウム化合物を添加して、リンとカルシウムを反応させてリンをリン酸カルシウムとして析出させる。回収リンの塩素含有率を高めないという観点からは、上記カルシウム化合物は塩素を含有しないものであることが好ましい。
【0029】
析出工程(3)におけるカルシウム化合物の添加量は、アルカリ水溶液中のCa/Pモル比が0.6〜1.8になる量であり、好ましくは0.7〜1.6、さらに好ましくは0.8〜1.4、特に好ましくは0.9〜1.3である。添加量を上記の範囲にすることで、カルシウム化合物から持ち込まれる不純物を低減することができ、アルカリ水溶液中のリンを効率的に、不純物含有率の低いリン酸カルシウムとして析出させることが可能になる。Ca/Pモル比が0.6よりも小さい場合には、不純物含有率の低い回収リンは得られるが、リンの析出率が低く、リンの回収率が低くなる。
【0030】
本実施の形態におけるCa/Pモル比の算出方法を以下に示す。
まずカルシウム化合物添加前のアルカリ水溶液のリン濃度を測定する。アルカリ水溶液を0.45μmフィルターで濾過後、硫酸でpH1〜10の範囲に中和し、必要に応じて純水で希釈後、モリブドバナジン酸塩法で測定することで、リン濃度を測定することができる。
得られたリン濃度とアルカリ水溶液の体積からアルカリ水溶液中のリンの合計量を算出し、以下の式(1)を用いてCa/Pモル比を算出する。
【数1】

【0031】
カルシウム化合物の添加方法は、特に制限はなく粉末状のものを添加してもよいし、水分散スラリーや水溶液として添加してもよい。また所定量を一気に添加してもよいし、少量ずつ時間をかけて添加してもよい。
【0032】
析出工程(3)は、リンとカルシウムとの反応速度を高めるという観点から、アルカリ水溶液を攪拌しながら行うことが好ましく、カルシウム化合物添加開始時から析出工程終了時まで継続して攪拌することがさらに好ましい。攪拌方法に特に制限はなく、従来公知のスラリー等の攪拌方法を何れも使用することができる。
【0033】
また、効率的に不純物含有率の低いリン酸カルシウムを析出させるという観点から、カルシウム化合物の添加終了後、攪拌を、好ましくは5〜120分間、より好ましくは10〜60分間継続する。
【0034】
分離回収工程(4)では、析出工程(3)で析出させたリンを、固液分離処理によりアルカリ水溶液から分離してリンを回収する。分離回収方法は、析出させたリンを分離回収できる方法であれば特に限定されないが、ベルトプレス脱水機、遠心分離脱水機、スクリュープレス脱水機、フィルタープレス機等を用いた回収方法を例示できる。
【0035】
中和工程(5)では、強アルカリ性の回収リンを、酸を用いて中和する。中和後の回収リンのpHがpH4.5〜12.5、好ましくはpH5.0〜11.0、さらに好ましくはpH5.0〜10.0、特に好ましくはpH5.0〜9.5の範囲になるように中和することで、回収リンからのリンの溶出を抑制しながら、不純物を溶出させ、不純物含有率を低減することができる。
【0036】
中和方法は特に限定されないが、回収リンを水中に分散させて攪拌しながら酸を添加し、水のpHが上述の範囲内に安定するまで攪拌を継続する方法や、フィルタープレス機で回収した回収リンをその濾室内に充填したままの状態で濾室内に酸でpH調整した水を通水し、濾室からの流出水のpHが上述の範囲内になるまで通水を継続する方法等を例示できる。前者の方法で中和した場合は、再度回収リンを水中から取出すために固液分離が必要になるが、後者の方法で中和した場合は固液分離を省略できる。
【0037】
中和に用いる酸は、回収リンの塩素含有率を高めないという観点から、硫酸等の塩素を含有しない酸を用いることが好ましい。塩酸等の塩素を含有する酸を中和に用いた場合は、中和後に回収リンを水洗することが好ましい。塩素を含有しない硫酸、硝酸等で中和した場合も、必要に応じて中和後に水洗をすることが回収リンのリン含有率を高めるという観点から好ましい。
【0038】
水洗方法は特に限定されないが、回収リンを水中に分散させて一定時間攪拌後、固液分離により回収リンを水中から取出す方法や、フィルタープレスの濾室内に回収リンを充填した状態でその濾室内に水を通水する方法等が例示される。
【実施例】
【0039】
次に、実施例、比較例および製造例(以下、「実施例等」という。)によって本実施の形態をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0040】
なお、実施例等中に示した測定は、以下の方法で行った。
リン含有水溶液のマグネシウム、アルミニウム、珪素または鉄の濃度の測定:0.45μmフィルターで濾過した後、必要に応じて純水で希釈し、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製ICP発光分析装置SPS6100を用いて測定した。
リン含有水溶液の塩素濃度の測定:0.45μmフィルターで濾過後、必要に応じて純水で希釈し、東ソー(株)イオンクロマト装置IC−2001を用いて測定した。
リン含有水溶液のリン濃度の測定:0.45μmフィルターで濾過後、必要に応じて硫酸、水酸化ナトリウムを用いてpH1〜10に調整し、さらに必要に応じて純水で希釈して、モリブドバナジン酸塩法で測定した。
回収リンのマグネシウム、アルミニウム、珪素または鉄の含有率:100℃で乾燥した回収リンを王水で溶解し純水で希釈した後、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製ICP発光分析装置SPS6100を用いて測定した。
回収リンの塩素含有率:肥料分析法(1992年版 農林水産省農業技術研究所編)に記載の硝酸銀による重量法で測定した。
回収リンのリン含有率:回収リンを100℃で乾燥し、王水で溶解し純水で希釈した後、モリブドバナジン酸塩法で測定した。
【0041】
〔製造例〕
ポリビニルピロリドン(PVP、BASFジャパン(株)、Luvitec K30 Powder(商品名))375gを、ジメチルスルホキシド(DMSO、関東化学(株))4125g中に溶解して均一な溶液を得た。該溶液4500gに対し、平均粒径30μmの水和酸化セリウム粉末(包頭華美稀土高科公司)2250gを加えて、直径1mmのジルコニアボールを充填したビーズミル(SC100、三井鉱山(株))を用いて、30分間粉砕・混合処理を行い黄色のスラリーを得た。さらに、このスラリーにエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH、日本合成化学工業(株)、ソアノールE3803(商品名))375gを、溶解槽中にて、60℃に加温して撹拌羽根を用いて撹拌・溶解し、均一なスラリー溶液を得た。
得られたポリマースラリーを40℃に加温し、側面に直径5mmのノズルを開けた円筒状回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力(15G)によりノズルから液滴を形成し、60℃の水からなる凝固浴槽中に吐出させ、ポリマースラリーを凝固させた。さらに、洗浄、分級を行い、平均粒径600μmの球状成形体として吸着剤を得た。
【0042】
〔実施例1〕
製造例で作製した酸化セリウム系吸着剤を10L充填したカラム内に、標準活性汚泥法で処理した下水二次処理水15m(マグネシウム濃度6.7mg/L、アルミニウム濃度0.02mg/L、ケイ素濃度23mg/L、鉄濃度0.03mg/L、塩素濃度48mg/L、リン濃度0.31mg/L)を通水速度SV20(h−1)の下向流で通水して、処理水中のリンを吸着剤に吸着させた。
次に5重量%NaOH水溶液120Lを通液速度SV3(h−1)の下向流でカラムに通液し、続いて10Lの水を通水速度SV3(h−1)の下向流で通水して、吸着剤に吸着したリンを脱着させた。
カラムから流失したアルカリ水溶液中のリン濃度をモリブデン黄法で測定し、その濃度とアルカリ水溶液の液量からアルカリ水溶液中に含有されるリンの合計量を算出したところ16.2gであった。
このアルカリ水溶液をスリーワンモーター式攪拌機で攪拌しながら、水溶液中のCa/Pモル比が1.1になる量の水酸化カルシウムをスラリーで添加し、スラリー添加が終了後20分間攪拌を継続してアルカリ水溶液中にリンをリン酸カルシウムとして析出させた。
次に、フィルタープレス機を用いて、アルカリ水溶液から析出したリンを回収した。回収したリンをフィルタープレス機の濾室内に充填したまま、濾室内にpH5.0の硫酸酸性水を、濾室からの流出水のpHが9.0になるまで通水した。その後、1Lの水を濾室内に通水して、回収リンを水洗した。
濾室から取出した回収リンの分析結果を表1に示した。
【0043】
〔実施例2〕
回収したリンをフィルタープレス機の濾室内に充填したまま、濾室内にpH4.0の塩酸酸性水を、濾室からの流出水のpHが5.5になるまで通水したこと以外は、実施例1と同様の方法で回収リンを得た。
得られた回収リンの分析結果を表1に示した。
【0044】
〔実施例3〕
下水汚泥脱水濾液をMF膜濾過し、SS(浮遊物質)を除去した。
このSS除去後の濾液10m(マグネシウム濃度12mg/L、アルミニウム濃度0.02mg/L、ケイ素濃度18mg/L、鉄濃度0.10mg/L、塩素濃度56mg/L、リン濃度19mg/L)を、製造例で作製した酸化セリウム系吸着剤を10L充填したカラム内に通水速度SV15(h−1)の下向流で通水して、水中のリンを吸着剤に吸着させた。
次に8重量%NaOH水溶液120Lを通液速度SV3(h−1)の下向流でカラムに通液し、続いて10Lの水を通水速度SV3(h−1)の下向流で通水して、吸着剤に吸着したリンを脱着させた。
カラムから流失したアルカリ水溶液中のリン濃度をモリブデン黄法で測定し、その濃度とアルカリ水溶液の液量からアルカリ水溶液中に含有されるリンの合計量を算出したところ18.0gだった。
このアルカリ水溶液をスリーワンモーター式攪拌機で攪拌しながら、水溶液中のCa/Pモル比が1.0になる量の水酸化カルシウムをスラリーで添加し、スラリー添加が終了後30分間攪拌を継続してアルカリ水溶液中にリンをリン酸カルシウムとして析出させた。
次に、フィルタープレス機を用いて、アルカリ水溶液から析出したリンを回収した。回収したリンをフィルタープレス機の濾室内に充填したまま、濾室内にpH4.0の硫酸酸性水を、濾室からの流出水のpHが8.5になるまで通水した。その後、1Lの水を濾室内に通水して、回収リンを水洗した。
濾室から取出した回収リンの分析結果を表1に示した。
【0045】
〔実施例4〕
1重量%硫酸中に下水汚泥焼却灰をいれ、3時間攪拌して焼却灰からリンを抽出した。抽出後、濾過により抽出液を焼却灰と分離した。得られた抽出液のpHは2.2であった。
この抽出液2m(マグネシウム濃度720mg/L、アルミニウム濃度2400mg/L、ケイ素濃度100mg/L未満、鉄濃度500mg/L、塩素濃度100mg/L未満、リン濃度4700mg/L)を、製造例で作製した酸化セリウム系吸着剤を10L充填したカラム内に通水速度SV10(h−1)の下向流で通水して、水中のリンを吸着剤に吸着させた。
次に5重量%NaOH水溶液120Lを通液速度SV3(h−1)の下向流でカラムに通液し、続いて10Lの水を通水速度SV3(h−1)の下向流で通水して、吸着剤に吸着したリンを脱着させた。
カラムから流失したアルカリ水溶液中のリン濃度をモリブデン黄法で測定し、その濃度とアルカリ水溶液の液量からアルカリ水溶液中に含有されるリンの合計量を算出したところ26.4gだった。
このアルカリ水溶液をスリーワンモーター式攪拌機で攪拌しながら、水溶液中のCa/Pモル比が1.2になる量の水酸化カルシウムをスラリーで添加し、スラリー添加が終了後15分間攪拌を継続してアルカリ水溶液中にリンを析出させた。
次に、フィルタープレス機を用いて、アルカリ水溶液から析出したリンを回収した。回収したリンをフィルタープレス機の濾室内に充填したまま、濾室内にpH5.5の硫酸酸性水を、濾室からの流出水のpHが9.5になるまで通水した。その後、1Lの水を濾室内に通水して、回収リンを水洗した。
濾室から取出した回収リンの分析結果を表1に示した。
【0046】
〔比較例1〕
水酸化カルシウム添加量がCa/Pモル比2.0であること以外は実施例1と同様の方法で回収リンを得た。
得られた回収リンの分析結果を表1に示した。
【0047】
〔比較例2〕
フィルタープレス機の濾室からの流出水のpHが13.0になるまで濾室内にpH5.0の硫酸酸性水を通水したこと以外は、実施例1と同様の方法で回収リンを得た。
得られた回収リンの分析結果を表1に示した。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、下水や工場排水等に含まれて自然界に流出し、閉鎖性水域等で富栄養化を進行させ水環境悪化の原因になっているリンを、下水や工業排水等から除去できることに加え、除去したリンを工業用途にも利用可能な不純物含有率の低いリン化合物として回収することができる。したがって閉鎖性水域の水環境の悪化を抑制するとともに、リン資源枯渇問題の解決に寄与するという産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)〜(5):
(1)リン含有水溶液中のリンを、金属酸化物系吸着剤に吸着させる吸着工程;
(2)前記吸着剤にアルカリ水溶液を接触させて、吸着工程(1)で吸着したリンを脱着させる脱着工程;
(3)脱着工程(2)で脱着させたリンを含有するアルカリ水溶液中に、カルシウム化合物をCa/Pモル比が0.6〜1.8になる量添加し、アルカリ水溶液中のリンをリン酸カルシウムとして析出させる析出工程;
(4)析出工程(3)で析出させたリンをアルカリ水溶液から分離し回収する分離回収工程;および
(5)分離回収工程(4)で回収したリンをpH4.5〜12.5に中和する中和工程
を含む、リン含有水溶液からの回収リンの回収方法。
【請求項2】
前記吸着工程(1)における金属酸化物系吸着剤が、活性アルミナ、水和酸化鉄、水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタンおよび水和酸化イットリウムからなる群から選ばれる一種以上の酸化物をイオン吸着体として含有する吸着剤である、請求項1に記載の回収リンの回収方法。
【請求項3】
前記工程(1)におけるリン含有水溶液が、リン濃度に対してマグネシウム、アルミニウム、珪素および鉄の濃度の和が0.5〜1000倍のリン含有水溶液である、請求項1または2に記載の回収リンの回収方法。
【請求項4】
前記中和工程(5)が、塩素を含有しない酸を用いて行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の回収リンの回収方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の回収方法を用いて回収される、リン含有率が12重量%以上であり、かつマグネシウム、アルミニウム、珪素および鉄の含有率の合計が2.0重量%以下である回収リン。
【請求項6】
排水、排水処理水、自然水またはこれらの2種以上の混合水であるリン含有水溶液中から除去したリンを回収して得られるリン酸カルシウムを主成分とする回収リンであって、リン含有率が12重量%以上であり、かつマグネシウム、アルミニウム、珪素および鉄の含有率の合計が2.0重量%以下である回収リン。
【請求項7】
マグネシウム、アルミニウム、珪素および鉄の各含有率がいずれも0.5重量%以下である、請求項6に記載の回収リン。

【公開番号】特開2011−255341(P2011−255341A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133806(P2010−133806)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】